【課題】透明なニュートラルグレイの鮮明な青味の色彩を得ることが可能であるとともに、近赤外部の吸収が極大化され、近赤外部の吸収特性に優れた遮熱顔料組成物を提供する。
【解決手段】銅、マンガン、及び鉄を含む主成分金属の酸化物からなる複合酸化物ブラック顔料(A)と、熱線遮蔽性能を有する金属化合物粒子(B)とを含有する着色用の遮熱顔料組成物である。複合酸化物ブラック顔料(A)は、マンガン/鉄のモル比が3/1〜30/1であるとともに、銅/(マンガン+鉄)のモル比が1/2〜1.2/2であり、複合酸化物ブラック顔料(A)及び金属化合物粒子(B)は、いずれも、400〜1400nmの波長域において、透過率が極大となる極大波長を400〜700nmの波長域に有し、ニュートラルグレイの色調を与えるものである。
銅、マンガン、及び鉄を含む主成分金属の酸化物からなる複合酸化物ブラック顔料(A)と、熱線遮蔽性能を有する金属化合物粒子(B)とを含有する着色用の遮熱顔料組成物であって、
前記複合酸化物ブラック顔料(A)は、マンガン/鉄のモル比が3/1〜30/1であるとともに、銅/(マンガン+鉄)のモル比が1/2〜1.2/2であり、
前記複合酸化物ブラック顔料(A)及び前記金属化合物粒子(B)は、いずれも、400〜1400nmの波長域において、透過率が極大となる極大波長を400〜700nmの波長域に有し、ニュートラルグレイの色調を与える遮熱顔料組成物。
前記複合酸化物ブラック顔料(A)が、カルシウム及びマグネシウムの少なくともいずれかの2価の金属が、前記銅に対する割合で2〜10モル%導入されたものである請求項1〜3のいずれか一項に記載の遮熱顔料組成物。
透明基材と、前記透明基材の表面上と内部の少なくともいずれかに分散状態で配置される請求項1〜4のいずれか一項に記載の遮熱顔料組成物とを備える、透明な青味のニュートラルグレイな色彩を有する物品。
スズドープ酸化インジウム、アンチモンドープ酸化スズ、アルミニウムドープ酸化亜鉛、インジウムドープ酸化亜鉛、錫ドープ酸化亜鉛、及び珪素ドープ酸化亜鉛からなる群より選択される少なくとも一種の赤外線遮蔽材料をさらに含有する請求項7に記載の赤外線遮蔽用組成物。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境の保護及びエネルギー節減の観点から、赤外線を反射又は遮蔽可能な素材(赤外線カット素材)の研究が盛んに行われている。家屋、ビル、及び車両などの窓には赤外線カット素材の適用が検討されており、入射光のうちの赤外線領域の光を遮蔽することで、室内や車内の温度上昇を抑制しようとする試みがなされている。
【0003】
赤外線カット素材のうち、無色透明なものとしては、スズドープ酸化インジウム(ITO)やアンチモンドープ酸化スズ(ATO)などが知られている。これらの素材は可視光領域の光を吸収せずに透明であるが、赤外線領域の光を吸収する。しかしながら、これらの素材は、添加量、塗布量、又は膜厚を増大させなければ赤外線領域の吸収性が不十分であるという課題を有している。また、近赤外線領域の光の吸収はそれほど強くないという問題もある。
【0004】
また、可視光の波長域に吸収性を有しながら、透明性をも有する酸化タングステンや六ホウ化ランタン等の金属化合物が知られている。これらの金属化合物は、赤外線領域に有効な吸収性能を有する。ただし、酸化タングステンは青味の色彩を有し、六ホウ化ランタンは黄味の色彩を有するものであるため、これらの金属化合物を単独で色彩の調製に用いる点では課題がある。これらの金属化合物を他の色材と単純に組み合わせた場合、赤外吸収性能が低下してしまう可能性もある。
【0005】
ところで、窓ガラスや車両の窓等への着色を考えると、温度上昇を抑制する観点からは黒色で着色することが一般的であり、通常はカーボンブラックが使用される。カーボンブラックは濃色では黒であるが、薄膜状にすると黄味くすみ、茶系の色相を呈する。このため、この色相を調整するために、カーボンブラックには改めて青味づけ等がなされて使用されている。また、有機ブラック顔料としては、ペリレンブラックやアゾメチンアゾ系ブラックなどがある。しかしながら、これらの有機ブラック顔料は、赤外線領域の光を吸収せずに透過させてしまう。また、無機顔料に比べると耐光性が劣ることが知られている。
【0006】
なお、微粒子顔料の特徴の一つである透明性を生かし、微粒子顔料をガラスやフィルムに直接塗布する、あるいは微粒子顔料で着色した接着層をガラスやフィルムに貼り付ける方法などによって、家屋やビルの窓ガラスや車両の窓を着色することが知られている。特に、液晶ディスプレイ(LCD)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、及び有機ELパネルなどを着色するには、濃色によるブラックや青味とは異なる、透明なニュートラルグレイの鮮明な青味の色彩が好ましい。
【0007】
しかしながら、最も使用頻度の高いカーボンブラックは、前述の通り、薄膜状にすると黄味くすんで茶系の色相を呈する。このため、透明なニュートラルグレイの鮮明な青味の色彩を呈するものであるとはいえない。また、ペリレンブラックは、薄膜状にすると赤味の紫の色相を呈するので、透明なニュートラルグレイの鮮明な青味の色彩を呈するものであるとはいえない。そして、アゾメチンアゾ系ブラックは好ましい色相を有しているが、赤外線領域の光を吸収しない。また、無機顔料でも、光透過性に優れるとともに、透明なニュートラルグレイの鮮明な青味の色彩を呈し、かつ、赤外線の吸収性能に優れる素材はほとんど見当たらないのが現状である。
【0008】
以上のように利用される顔料には、耐光性が要求される。このため、有機顔料に比して耐光性に優れた無機顔料に対する期待が高まっている。例えば、湿式法により調製される、高着色力であるとともに青みの色相を有する銅(Cu)−マンガン(Mn)−鉄(Fe)系複合酸化物ブラック顔料が知られている(特許文献1〜3)。また、黒色を呈し、可視光領域から赤外線領域に至る波長域に吸収性を有する複合酸化物が知られている(特許文献4〜6)。さらに、ニュートラルグレイの色調を目的としたディスプレイ用光学フィルムにカーボンブラックを利用することが知られている(特許文献7及び8)。また、タングステンを構成元素とする赤外線遮蔽材料微粒子を媒体中に分散させた分散体が知られている(特許文献9)。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、好ましい実施の形態を例に挙げ、本発明の着色用遮熱顔料組成物の詳細について説明する。本発明の遮熱顔料組成物は、銅、マンガン、及び鉄を含む主成分金属の酸化物からなる複合酸化物ブラック顔料(A)と、熱線遮蔽性能を有する金属化合物粒子(B)とを含有する着色用の顔料組成物であり、可視光線及び近赤外線を吸収する特性を有する。そして、複合酸化物ブラック顔料及び金属化合物粒子は、いずれも、可視光線から赤外線に至る波長域の透過率を測定した場合、400〜1400nmの波長域において、透過率が極大となる極大波長を400〜700nmの波長域に有する。なお、複合酸化物ブラック顔料は、好ましくは、400〜1400nmの波長域において、透過率が極大となる極大波長を400〜500nmの波長域に有する。また、複合酸化物ブラック顔料は、好ましくは、400〜1400nmの波長域において、透過率が極小となる極小波長を600〜800nmの波長域に有する。
【0019】
本発明の遮熱顔料組成物は上記のような光学特性を有するので、透明なニュートラルグレイの鮮明な青味の色彩と同時に、優れた熱線遮蔽性能を有する。また、複合酸化物ブラック顔料は、極めて微細な微粒子であるにも関わらず、ソフトで分散性に優れている。さらに、クロム(Cr)などの元素を含有しなくとも、目的とする透明なニュートラルグレイの鮮明な青味の色彩を得ることができるので、安全性に優れていて利用価値も高い。
【0020】
なお、本発明の遮熱顔料組成物、それに用いる複合酸化物ブラック顔料及び金属化合物粒子の所定の波長域における透過率は、例えば、分光光度計(商品名「U−4100」、日立製作所社製)を使用して、300〜2500nmの波長領域の透過率を測定することによって確認することができる。ブラック顔料として汎用されるカーボンブラックと比較すると、本発明の遮熱顔料組成物に用いる複合酸化物ブラック顔料は、可視光線から赤外線に至る500〜1400nmの波長領域における透過率が低く、この波長領域においてより強い吸収性を示すものである。また、本発明の遮熱顔料組成物に用いる金属化合物粒子は、可視光線から赤外線に至る500〜1400nmの波長領域における透過率や反射率に特徴を有する。このような複合酸化物ブラック顔料と金属化合物粒子を混合することによって、赤外線をより強く吸収する特性だけでなく、赤外線を反射する特性をも備えた本発明の遮熱顔料組成物を提供することができる。
【0021】
さらに、本発明者らは、複合酸化物のなかでも、銅、マンガン、及び鉄を含む主成分金属の酸化物からなるスピネル構造を有するブラック顔料が有用であることを見出した。特に、Cu(Mn、Fe)
2O
4の組成で表されるスピネル構造を有するCu−Mn−Fe系の複合酸化物ブラック顔料において、そのマンガン(Mn)/鉄(Fe)の組成(モル比)を調整することにより、近赤外線領域での吸収特性を顕著に向上させることが可能であることを見出した。例えば、マンガン/鉄のモル比が大きい(マンガンが多く、鉄が少ない)組成にすると、近赤外線領域の吸収性が増大する。ただし、マンガン/鉄のモル比が大きすぎる組成では、近赤外線領域の吸収性が増大しないだけでなく、着色力が低下する傾向にある。このため、着色力を維持しながら効率的な赤外線の遮蔽を達成するためには、マンガン/鉄のモル比を3/1〜30/1とする、好ましくは4/1〜10/1とする。マンガン/鉄のモル比を上記の範囲にすることで、近赤外線領域(800〜1400nm)における透過率を低減することができるとともに、より鮮明な青味の色彩とすることができる。
【0022】
マンガン/鉄のモル比が3/1未満である(鉄の割合が多くなる)と、色相は黄味となり、カーボンブラックに近似した透過率曲線を示すことになる。このため、熱線遮蔽性能を有する金属化合物粒子と混合した場合に、近赤外線領域における高い吸収性が得られなくなる。一方、マンガン/鉄のモル比が30/1を超える(鉄の割合が少なくなる)と、色相の青味が強くならないだけでなく、着色力が低下する。色相が黄味であると、熱線遮蔽性能を有する金属化合物粒子と混合した場合において、近赤外線領域の光を吸収しにくくなる傾向にある。一方、色相の青味が増大するにしたがって、近赤外線領域の吸収性が増大する傾向にある。すなわち、本発明の着色用遮熱顔料組成物は、混合する複合酸化物ブラック顔料の特性によって、鮮明なニュートラルグレイの色相を示すとともに、近赤外線領域の光の吸収性にも優れているといった二重の効果を示す。
【0023】
また、銅の含有量の増減により、複合酸化物ブラック顔料の着色力や粒子径が変動する。このため、銅の含有量を適切に制御することが好ましい。具体的には、複合酸化物ブラック顔料は、Cu(Mn、Fe)
2O
4の組成で表されるスピネル構造を有することが好ましい。また、銅/(マンガン+鉄)のモル比が1/2〜1.2/2であり、好ましくは1/2〜1.1/2である。銅/(マンガン+鉄)のモル比が1/2未満である(銅の割合が少なくなる)と、色相がくすみ着色力が低下する。一方、銅/(マンガン+鉄)のモル比が1.2/2を超える(銅の割合が多くなる)と、顔料の粒子径が大きくなる傾向にあるので、BET比表面積の小さな顔料となってしまう。
【0024】
さらに、銅、マンガン、及び鉄に加え、カルシウム(Ca)とマグネシウム(Mg)の少なくともいずれかの2価の金属を導入することが、色調及び着色力を調整するのに極めて有効である。上記2価の金属を導入することによって、これまで以上に鮮明でニュートラルグレイな青味のブラック顔料とすることができる。ただし、2価の金属の導入量が少なすぎると、鮮明性が不十分となる傾向にある。一方、2価の金属の導入量が過剰であると、色相に大きな変化がみられず、それ以上の効果が期待できなくなる傾向にある。このため、2価の金属の導入量は、銅に対する割合で2〜10モル%とすることが好ましく、4〜8モル%とすることがさらに好ましい。なお、これらの2価の金属は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
複合酸化物ブラック顔料のBET比表面積は、30m
2/g以上であることが好ましく、40m
2/g以上であることがさらに好ましい。BET比表面積が30m
2/g以上であると、ヘイズを10%以下と低くすることができる。さらに40m
2/g以上のものは、特にヘイズを3%以下とすることが可能となり、より優れた透明性の高いものが得られる。なお、複合酸化物ブラック顔料のBET比表面積は、BET比表面積測定装置(商品名「NOVA−2000」、Quantachrome社製)を使用し、日本工業規格JIS Z8830−1990に準拠した窒素吸着法により測定することができる。
【0026】
本発明の遮熱顔料組成物は、複合酸化物ブラック顔料と、熱線遮蔽性能を有する金属化合物粒子とを含有することで、ニュートラルグレイの色調を与える着色性能を有するとともに、優れた熱線遮蔽性能をも有する。金属化合物粒子は、前述の通り、可視光線から近赤外線に至る波長域の透過率を測定した場合、400〜1400nmの波長域において、透過率が極大となる極大波長を400〜700nmの波長域に有する。そして、金属化合物粒子は、好ましくは、800〜1400nmの波長域において透過率が低下するものである。このような光学特性を有する金属化合物粒子を用いることで、複合酸化物ブラック顔料の赤外吸収能と遮熱性能をより活かすことができる。
【0027】
金属化合物粒子としては、タングステン酸化物やタングステン複合酸化物等の酸化タングステンの粒子;六ホウ化ランタンの粒子等を好適に用いることができる。これらの金属化合物粒子は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。また、セシウム・タングステン複合酸化物や、耐候性向上等のために金属表面を水熱処理又は酸化物被覆処理等したものを使用することもできる。
【0028】
金属化合物粒子としては、400〜1400nmの波長域において透過性又は吸収性に特徴を有するものを用いることが好ましい。例えば、400〜700nmの波長域におけるタングステン酸化物の極大波長は、複合酸化物ブラック顔料の極大波長に比して長波長側に存在する。また、400〜700nmの波長域における六ホウ化ランタンの極大波長は、タングステン酸化物の極大波長に比してさらに長波長側に存在する。すなわち、タングステン酸化物は緑味の青色の色相を有し、六ホウ化ランタンは黄味の緑色の色相を有する。なかでも、熱線遮蔽金属として公知の六ホウ化ランタンは、800〜1400nmの波長域に透過率が極小となる極小波長を有し、タングステン酸化物は、800〜1400nmの波長域に持続した低透過率を示す。本発明の遮熱顔料組成物は、金属化合物粒子単独では達成し得ない青味のニュートラルグレイな色彩を物品等に付与することができる。さらに、近赤外領域における反射・吸収特性をも兼ね備える。更に、日射波長領域において、JIS R 3106に準じて規定された重価係数(熱への寄与度)が大きく関与する波長領域が、800nm〜1400nmの波長領域であり、この波長領域の日射の透過量を低下させる効果は、産業上の高い利用可能性を示すものである。
【0029】
複合酸化物ブラック顔料及び金属化合物粒子は、いずれも可視光領域に極大吸収波長を有するため、透明性を保持しながら物品を着色することができる。なお、複合酸化物ブラック顔料及び金属化合物粒子の粒子径は、目的に応じて適宜調整することが好ましい。例えば、粒子径が500nm超であると、透明性は低下するが、着色性及び熱線遮蔽性が向上する傾向にある。また、粒子径が10nm未満であると、透明性は向上するが、着色性及び熱線遮蔽性は低下する傾向にある。粒子径の影響は添加量によっても変動するが、複合酸化物ブラック顔料及び金属化合物粒子の数平均粒子径は、200nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがさらに好ましく、50〜10nmであることが特に好ましい。
【0030】
本発明の遮熱性顔料組成物に含有される複合酸化物ブラック顔料(A)と金属化合物粒子(B)の質量比は、(A):(B)=3:1〜100:1であることが好ましく、(A):(B)=6:1〜20:1であることがさらに好ましい。複合酸化物ブラック顔料の含有量が過剰になると、赤外線の遮蔽効果が不十分になる傾向にある。一方、金属化合物粒子の含有量が過剰になると、赤外線の遮蔽効果は向上するが、色味がニュートラルグレイの鮮明な青味から外れる傾向にある。
【0031】
基材の透明性を損なうことなく基材に添加して着色する場合、本発明の遮熱顔料組成物の添加量は、基材に対して0.001〜10質量%とすることが好ましく、0.004〜6質量%とすることがさらに好ましい。一方、基材の透明性を保持する必要がない場合には、着色性及び熱線遮蔽性が向上する範囲で添加することができる。具体的には、遮熱顔料組成物の添加量を、基材に対して6〜20質量%とすることが好ましい。本発明の遮熱顔料組成物は、ガラス板及びフィルム、ガラス代替樹脂、薄膜シート、コート剤、接着剤、又は粘着剤に使用することが好ましい。
【0032】
本発明の遮熱顔料組成物を用いれば、青味のニュートラルグレイな色彩を有する物品を製造することができる。このような物品は、従来公知の手法にしたがって、透明基材の表面上又は内部に遮熱顔料組成物を分散状態で配置することで容易に得ることができる。透明基材の具体例としては、ガラス、アクリル、PET、ポリビニールブチラール、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリイミド、アクリルシリコン、又はフッ素樹脂等からなる板、ボトル、及びフィルム等を挙げることができる。さらに、本発明の効果を損なわない程度に、従来公知の透明素材と組み合わせて使用することも好ましい。例えば、透明赤外線カット素材として、無色透明なITO(スズドープ酸化インジウム)やATO(アンチモンドープ酸化スズ)では得られない効果を補うために、本発明の遮熱顔料組成物を混合して使用することも好ましい。
【0033】
色調を表す方法として、国際照明委員会(CIE)が策定した、目で見える色を色空間として表現するCIE L
*a
*b
*表色系(色空間)がある。このCIE L
*a
*b
*表色系においては色を3つの座標で表現し、明度が「L
*」、赤(マゼンタ)〜緑が「a
*」(正がマゼンタ、負が緑味)、黄〜青を「b
*」(正が黄味、負が青味)にそれぞれ対応する。そして、ニュートラルグレイの色調は、a値とb値がいずれも0に近いものが理想として表示される。本発明の遮熱顔料組成物を用いれば、例えばa値が−4〜0、好ましくは−2〜0であるとともに、b値が−8〜0、好ましくは−8〜−3である物品を製造することができる。本発明の遮熱顔料組成物によって上記の色調を有する物品を提供することができるので、品質の安定性、製造・材料コスト面等において利点が多く、有効に利用される可能性が高いものである。このように、本発明の遮熱顔料組成物は、ニーズの多様化から求められる遮熱性と色彩(ニュートラルグレイ)の二つの効果を兼ね備えたものである。同時に、それぞれの特性に鑑みれば、触媒的作用を有するとされる複合酸化物ブラック顔料と金属化合物粒子との組み合わせは、有機物の分解やその原因物質が引き起こすVOC対応組成物(すなわち、環境対応製品)としての可能性をも示唆する材料である。
【0034】
本発明の遮熱顔料組成物は、微粒子であるにもかかわらず、分散性に優れている。このため、本発明の遮熱顔料組成物は、樹脂着色用の材料(樹脂着色剤)として有用である。着色させる樹脂の種類は特に限定されないが、例えば、塩化ビニル、ポリカーボネート、フッ素系樹脂、シリコン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニールブチラール樹脂、ポリイミド系樹脂、ロジンエステル系樹脂、アクリル系樹脂、及びセルロース系樹脂等を挙げることができる。これらの樹脂100質量部に対して、遮熱顔料組成物を、例えば約0.2質量部添加した後、ロールを使用して混練し、次いでシート状等の各種形状に成形する。これにより、顔料が偏った粒がほとんどなく、均一に着色した着色樹脂成形品を得ることができる。
【0035】
本発明の遮熱顔料組成物を用いれば、赤外線遮蔽用組成物を得ることができる。すなわち、本発明の赤外線遮蔽用組成物は、樹脂材料と、前述の着色用遮熱顔料組成物とを含有する。上述の通り、本発明の遮熱顔料組成物は、透明なニュートラルグレイの鮮明な青味の色彩を得ることが可能であるとともに、近赤外部の吸収特性に優れている。このため、この遮熱顔料組成物を含有する本発明の赤外線遮蔽用組成物をコーティング剤又は接着剤として用いれば、透明なニュートラルグレイの鮮明な青味の色彩が付与されているとともに、近赤外部の吸収特性に優れ、温度上昇抑制効果が付与された塗工膜や接着膜等、及びこのような塗工膜や接着膜等を有する物品を製造することができる。
【0036】
樹脂材料としては、ポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、シリコン系樹脂、フッ素系樹脂、アルキッド系樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル系共重合体、アルコキシシラン系樹脂、フェノール樹脂、ポリビニールブチラール樹脂、ポリイミド系樹脂、ロジンエステル系樹脂、及びセルロース系樹脂等を挙げることができる。これらの樹脂材料は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。赤外線遮蔽用組成物には、例えば、水、水溶性有機溶媒、及び非水溶性有機溶媒等の各種溶媒が含有されていてもよい。なお、赤外線遮蔽用組成物は、水系組成物と溶剤系組成物のいずれであってもよい。
【0037】
また、赤外線遮蔽用組成物は、赤外線遮断材料をさらに含有することが好ましい。赤外線遮断材料と、前述の遮熱顔料組成物を組み合わせて含有させることで、温度上昇抑制効果がより一層向上した塗工膜や接着膜等、及びこのような塗工膜や接着膜等を有する物品を製造することができる。赤外線遮断材料としては、従来公知のものを使用することができる。なかでも、白色度が高く、透明性に優れた赤外線遮断材料を用いることで、遮熱顔料組成物の透明なニュートラルグレイの鮮明な青味の色彩を損なうことなく、温度上昇抑制効果をより一層向上させることができる。このような赤外線遮断材料の具体例としては、スズドープ酸化インジウム(ITO)、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛、インジウムドープ酸化亜鉛、錫ドープ酸化亜鉛、及び珪素ドープ酸化亜鉛等を挙げることができる。これらの赤外線遮断材料は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0038】
ITO、ATO、アルミニウムドープ酸化亜鉛、インジウムドープ酸化亜鉛、錫ドープ酸化亜鉛、及び珪素ドープ酸化亜鉛等の赤外線遮断材料は、ほぼ無色ではあるが若干黄味に着色している。なお、ディスプレイでは、R(レッド)、G(グリーン)、及びB(ブルー)のバランスを損ねることのないように、ニュートラルグレイの色相が要求される。黒色の有機顔料は赤外線領域に吸収を有しない。また、カーボンブラック(CB)は色相が若干黄味となってしまう。このため、黒色の有機顔料やCBは、ディスプレイ用の黒の着色顔料としては好ましいとは言えない。なお、CBには青味を帯びたものもある。しかしながら、このような青みを帯びたCBの粒径は比較的大きいとともに、ニュートラルグレイの色相を有さず、透明性にも劣るものである。これに対して、本発明の遮熱顔料組成物は、赤外線領域の吸収を阻害することなく、好ましい色相を得ることができるとともに、近赤外線領域の吸収をより大きくすることが可能である。
【0039】
無色の赤外線遮蔽材料は、可視光線を吸収せず、赤外線を吸収する性質を有するが、1500nm付近までの近赤外線領域の光についてはさほど吸収しない。また、赤外線領域に吸収を有する有機顔料はほぼ見当たらない。さらに、透明性に優れているとともに、赤外線領域に吸収を有する無機顔料もほぼ見当たらない。これに対して、本発明の遮熱顔料組成物は近赤外線領域の吸収・反射の調製が可能である。このため、本発明の遮熱顔料組成物と、近赤外線領域の光をさほど吸収しない無色の赤外線遮断材料とを組み合わせることによって、両者の吸収波長域を補完し合い、より広範な赤外線領域の光を吸収・反射することができる。
【0040】
上記の赤外線遮蔽用組成物を使用すれば、合成皮革を製造することができる。すなわち、本発明の合成皮革は、前述の赤外線遮蔽用組成物からなる表皮層を備える。本発明の合成皮革は、遮熱顔料組成物を含有する赤外線遮蔽用組成物をコーティング剤として使用し、このコーティング剤によって形成された表皮層を有する。このため、本発明の合成皮革は、透明なニュートラルグレイの鮮明な青味の色彩を示すとともに、近赤外部の吸収特性に優れ、温度上昇抑制効果が付与されている。したがって、本発明の合成皮革は、例えば、車両用の内装材等として有用である。以下、本発明の合成皮革について、その製造方法の一例を挙げつつ説明する。
【0041】
図2は、本発明の合成皮革の一実施形態を示す模式図である。本実施形態の合成皮革20を得るには、先ず、上述のコーティング剤としての赤外線遮蔽用組成物を離型紙11の表面上に、適当な膜厚となるように塗工して塗工膜を形成する。コーティング剤に含有させる樹脂材料の種類は特に限定されないが、例えば、ポリカーボネート系無黄変型ポリウレタン樹脂等を好適に用いることができる。形成された塗工膜を必要に応じて加熱しながら乾燥させることで、離型紙11の一方の面上に表皮層12を形成することができる。
【0042】
表皮層12の表面上に接着剤を適当な膜厚となるように塗工した後、必要に応じて加熱しながら乾燥させることで、表皮層12の面上に接着層13を形成することができる。接着剤には、通常、樹脂の他、トルエン、メチルエチルケトン、及びジメチルホルムアミド等の溶剤や、架橋剤等の成分が含有される。接着剤に用いる樹脂の種類は特に限定されないが、例えば、コーティング剤に含有させる樹脂材料と同一種類のものが好ましい。形成した接着層13を織物等の基材の表面上に配置して積層物とした後、必要に応じて加圧及び加熱し、次いで、離型紙11を剥離すれば、本実施形態の合成皮革20を得ることができる。
【0043】
なお、白色顔料を配合した接着剤を用いることにより、光反射性が付与された白色の接着層13を形成することもできる。すなわち、近赤外部の吸収特性に優れ、温度上昇抑制効果を示す表皮層と、光反射性を示す接着層とを備えた二重構造を有する合成皮革を製造することもできる。このような二重構造を有する合成皮革は、自動車等の車両用の内装材として特に有用である。
【0044】
本発明の遮熱顔料組成物は、複合酸化物ブラック顔料と金属化合物粒子を、必要に応じて配合されるその他の成分等とともに、常法にしたがって混合することで調製することができる。金属化合物粒子は市販のものを使用することができる。なお、金属化合物粒子は、出発原料を不活性ガス又は還元性ガス雰囲気中で加熱処理することによって調製することもできる。
【0045】
次に、複合酸化物ブラック顔料の製造方法について説明する。本発明者らは、Cu−Mn−Fe酸化物系の複合酸化物ブラック顔料を湿式沈殿法で合成する場合において、焼成時に固相反応によりスピネル構造を生成する際に、スピネル構造の4配位の位置(以下、「Aサイト」と記す)に3価のイオンが侵入するのを防止することによって、一層際立った青味の複合酸化物ブラック顔料が得られると考え、さらなる検討を行った。その結果、Cu−Mn−Fe酸化物系のブラック顔料の、主成分金属の中の銅を化学量論組成か、又は僅かに過剰にした上で、スピネル構造のAサイトへ選択的に配位する2価の金属を添加することで、スピネル構造のAサイトへの3価のイオンの侵入を抑制し、透明なニュートラルグレイの鮮明な青味の色相を有する複合酸化物ブラック顔料が得られることを見出した。さらに、本発明者らは、複合酸化物ブラック顔料を構成する主成分金属(銅、マンガン、及び鉄)の塩、及び必要に応じて用いられる2価の金属(Ca及び/又はMg)の塩を、アルカリ剤によって、それらの金属の水酸化物として混合析出させ、その析出物を析出と同時又は析出後に液相中で酸化処理することで、その後の焼成温度を極めて低くすることが可能になることを見出した。
【0046】
複合酸化物ブラック顔料の製造方法は、主成分金属を含む金属塩の混合水溶液にアルカリ剤を添加して共沈物を析出させるとともに、共沈物の析出と同時又は析出後に酸化剤により酸化して顔料前駆体を生成させる工程(1)と、生成した顔料前駆体を焼成した後に粉砕処理する工程(2)とを有する。以下、複合酸化物ブラック顔料の製造方法の詳細について説明する。
【0047】
工程(1)では、主成分金属を含む金属塩を溶かして混合水溶液を調製する。金属塩としては、硫酸塩、硝酸塩、塩化物、酢酸塩等の従来の複合酸化物ブラック顔料の製造に使用されている塩類を用いることができる。混合水溶液中の金属塩の濃度は約5〜50質量%とすることが適当である。この混合水溶液は、例えば、沈殿剤である苛性ソーダ等のアルカリ水溶液とともに、予め用意した沈殿媒体中に同時に滴下される。金属塩換算の反応濃度は、沈殿生成物(共沈殿物)に対して特に悪い影響を及ぼす程度ではなければよいが、作業性及びその後の工程を考慮すると0.05〜0.2モル/リットルとすることが好ましい。0.05モル/リットル未満であると、乾燥物が非常に硬くなるとともに収量も少なくなる傾向にある。一方、0.2モル/リットルを超えると、合成物が不均一になる場合がある。
【0048】
共沈物を析出させる温度(合成温度)は、湿式法における通常の温度とすればよい。具体的には、0〜100℃で共沈物を析出させる(合成する)ことが好ましい。しかしながら、合成温度が高くなると生成する粒子の成長が早く、粒子径が大きくなる傾向にある。このため、得られる複合酸化物ブラック顔料の着色力が損なわれる傾向があるとともに、凝集も強くなって、分散性に悪影響を及ぼす場合がある。したがって、合成温度は30℃以下とすることが好ましい。
【0049】
金属塩の混合水溶液に沈殿剤であるアルカリ剤の水溶液を過剰に加えて共沈物を析出させる際には、得られる複合酸化物ブラック顔料の透明性を生かした用途への応用を考慮し、一般的なブラック顔料を合成する場合に比べて、共沈物が析出する際のpHを高めにすることが好ましい。具体的には、共沈物が析出する際のpHを11〜13.5の範囲とすることが好ましい。共沈物が析出する際のpHが高い方が、粒子径のより小さな顔料を得やすくなるが、pHが13.5を超えると、乾燥物が非常に硬くなるとともに強く凝結しやすくなるので、分散性の劣る顔料となってしまう場合がある。一方、共沈物が析出する際のpHが11未満であると、得られる複合酸化物ブラック顔料の粒子が大きくなる傾向にある。
【0050】
過剰のアルカリ剤は、共沈物の析出後に添加することが好ましい。アルカリ剤の過剰量は、共沈(沈殿)に必要なアルカリ剤のモル数に対して1.1〜1.5倍とすることが好ましく、1.1倍前後とすることがさらに好ましい。このようにして30分〜1時間かけて撹拌しながら共沈物を析出させた後、5〜20分程度熟成して共沈(沈殿)反応を完了させる。
【0051】
析出した共沈物を酸化剤で酸化処理し、2価の金属イオンを3価の金属イオンにする。酸化処理は、共沈系中で共沈物の析出と同時に行ってもよく、共沈反応終了後に共沈系中で又は他の液相中で行ってもよい。いずれの場合であっても、酸化処理後に共沈物を熟成させることが、共沈物の均一性が向上し、純度が上がるために好ましい。共沈物を熟成させないと、吸蔵された不純物により発色性が損なわれる場合がある。共沈物を熟成させることで、より発色性に優れるとともに、さらに微細で分散性に優れた複合酸化物ブラック顔料を得ることができる。
【0052】
酸化剤の具体例としては、過酸化水素、塩素酸ソーダ、亜硫酸アンモニウム、空気(酸素)などの公知の酸化剤を挙げることができる。ただし、高pHの条件下で共沈物を析出させる場合には、塩素酸ソーダなどの酸化剤を用いると、共沈物の凝結が強くなってしまい、得られる複合酸化物ブラック顔料の分散性が低下する場合がある。このため、過酸化水素や空気(酸素)を酸化剤として用いることが、よりソフトで分散性の良好な複合酸化物ブラック顔料が得られるために好ましい。なお、酸化剤の使用量は、2価の金属が3価の金属イオンに酸化されるのに必要な量であればよい。共沈物を熟成させる際の温度は特に限定されないが、50〜90℃であればよい。1時間前後熟成させた後、ろ過及び水洗し、次いで、100〜150℃の温度で乾燥すれば共沈物の乾燥物である顔料前駆体を得ることができる。
【0053】
工程(2)では、得られた顔料前駆体を焼成した後に粉砕処理する。これにより、目的とする複合酸化物ブラック顔料を得ることができる。焼成温度は、通常500〜700℃、好ましくは550〜600℃とすればよく、酸化雰囲気下で焼成することが好ましい。また、焼成時間は30分〜1時間とすればよい。焼成後に粉砕することで、所望とするBET比表面積の複合酸化物ブラック顔料とすることができる。粉砕処理は、従来公知の手法に準じて実施すればよく、乾式、湿式、又は乾式と湿式の組み合わせであってもよい。粉砕処理に際しては、例えば、アトライター、ボールミル、振動ミル、ジェットミル、ビーズミル、スプレードライヤーなどを使用することができる。
【0054】
上記のようにして得られる複合酸化物ブラック顔料を、例えば粉末X線回折により分析することで、スピネル構造を有する異相のない単一化合物であることを確認することができる。また、蛍光X線分析によって、複合酸化物ブラック顔料中に2価の金属が導入されていることも確認することができる。
【実施例】
【0055】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明する。なお、以下の文中、「部」及び「%」は特に断らない限り質量基準である。
【0056】
[実施例1]
硫酸銅120部、硫酸マンガン130部、及び硫酸鉄53.4部に水を加えて完全に溶解させ、混合塩水溶液1000部を調製した。また、苛性ソーダ120部に水を加えて完全に溶解させ、苛性ソーダ水溶液1000部を調製した。沈殿媒体としての水1600部に、調製した混合塩水溶液と苛性ソーダ水溶液を同時に滴下し、1時間かけて沈殿反応を完了させた。なお、反応液のpHは12.0〜13.0の範囲に調整した。また、混合塩水溶液の滴下が終了した後、過剰の苛性ソーダ水溶液をそのまま滴下した。滴下終了後、過酸化水素水(過酸化水素濃度:35%)60部を水120部に希釈した溶液を滴下して酸化処理した。
【0057】
酸化処理終了後、液温を80℃に上昇させて1時間熟成を行った。十分に水洗して残塩を洗い流した後、濾過して得られた生成物を100〜140℃で乾燥して乾燥物を得た。得られた乾燥物を580℃で1時間焼成して焼成物を得た。得られた焼成物を粉砕して、BET比表面積51.2m
2/gの複合酸化物ブラック顔料1(数平均粒子径50nm)を得た。得られた複合酸化物ブラック顔料1について粉末X線回折分析を行い、スピネル構造を有する、異相のない単一化合物であることを確認した。得られた複合酸化物ブラック顔料1を構成する金属の組成(モル比)を表1に示す。なお、分光光度計(商品名「U−4100」、日立製作所社製)を使用して得られた複合酸化物ブラック顔料1の400〜1400nmの波長域における透過率を測定し、透過率が極大となる極大波長が400〜700nmの波長域に存在することを確認した。
【0058】
得られた複合酸化物ブラック顔料1と数平均粒子径50nmのタングステン酸化物を6:1(質量比)で均一に混合して顔料を調製した。なお、分光光度計を使用してタングステン酸化物の400〜1400nmの波長域における透過率を測定し、透過率が極大となる極大波長が400〜700nmの波長域に存在すること、及び800〜1400nmの波長域に持続した低透過率の領域が存在することを確認した。調製した顔料と、メラミンアルキッド樹脂を、顔料分3PHR(PHR=(顔料(g)/樹脂(g))×100)としてペイントシェーカー(レッドデビル社製)に入れ、十分に分散させて塗料化し、塗料を得た。得られた塗料を#6のバーコーターにてPETフィルム上に塗布した。乾燥後、120℃、20分の条件で焼き付けして測定用試料を得た。得られた測定用試料に形成された塗膜の膜厚は3〜4μmであった。
【0059】
分光光度計(商品名「U−4100」、日立製作所社製)を使用し、300〜2500nmの波長範囲における測定用試料の透過率を測定した。その結果、400〜1000nmの波長域において、400〜500nmの波長域に透過率が極大となる極大波長を有することを確認した。さらに、複合酸化物ブラック顔料1の単独に比べて、赤外波長域において透過率が低下することを確認した。この測定用試料は約40〜50%の透過率を可視部に有するとともに、CIE LAB(L
*a
*b
*)表色系において、a値が−4〜0であり、b値が−8〜0であった。また、透過光がニュートラルグレイの色相を有するものであることを確認した。さらに、可視光領域においては、700〜800nmの波長付近の極小波長における透過率が一番小さく、長波長側に向かうにしたがって徐々に透過率が上昇し、近赤外部における吸収が大きいものであった。
【0060】
[実施例2]
硫酸銅120部、硫酸マンガン130部、及び硫酸鉄53.4部を用いたこと、並びに塩化カルシウム3.6部を沈殿媒体(水)に溶解したこと以外は実施例1と同様にして、BET比表面積54.8m
2/gの複合酸化物ブラック顔料2(数平均粒子径50nm)を得た。得られた複合酸化物ブラック顔料2について粉末X線回折分析を行い、スピネル構造を有する、異相のない単一化合物であることを確認した。得られた複合酸化物ブラック顔料2を構成する金属の組成(モル比)を表1に示す。なお、分光光度計を使用して得られた複合酸化物ブラック顔料2の400〜1400nmの波長域における透過率を測定し、透過率が極大となる極大波長が400〜700nmの波長域に存在することを確認した。
【0061】
得られた複合酸化物ブラック顔料2と数平均粒子径50nmのタングステン酸化物を8:1(質量比)で均一に混合して顔料を調製した。なお、分光光度計を使用してタングステン酸化物の400〜1400nmの波長域における透過率を測定し、透過率が極大となる極大波長が400〜700nmの波長域に存在すること、及び800〜1400nmの波長域に持続した低透過率の領域が存在することを確認した。調製した顔料と、メラミンアルキッド樹脂を、顔料分3PHR(PHR=(顔料(g)/樹脂(g))×100)としてペイントシェーカー(レッドデビル社製)に入れ、十分に分散させて塗料化し、塗料を得た。得られた塗料を6ミルのアプリケーターを用いて白色のアート紙上に塗布した。乾燥後、120℃、20分の条件で焼き付けして測定用試料を得た。得られた測定用試料に形成された塗膜の膜厚は23μmであった。
【0062】
実施例1と同様にして得られた測定用試料の透過率を測定した。その結果、400〜1000nmの波長域において、400〜500nmの波長域に透過率が極大となる極大波長を有することを確認した。さらに、複合酸化物ブラック顔料2の単独に比べて、赤外波長域において透過率が低下することを確認した。この測定用試料は約40〜50%の透過率を可視部に有するとともに、CIE LAB(L
*a
*b
*)表色系において、a値が−4〜0であり、b値が−8〜0であった。また、透過光がニュートラルグレイの色相を有するものであることを確認した。
【0063】
[実施例3]
硫酸銅120部、硫酸マンガン152.1部、及び硫酸鉄16.7部を用いたこと以外は実施例2と同様にして、BET比表面積43.3m
2/gの複合酸化物ブラック顔料3(数平均粒子径60nm)を得た。得られた複合酸化物ブラック顔料3について粉末X線回折分析を行い、スピネル構造を有する、異相のない単一化合物であることを確認した。得られた複合酸化物ブラック顔料3を構成する金属の組成(モル比)を表1に示す。なお、分光光度計を使用して得られた複合酸化物ブラック顔料3の400〜1400nmの波長域における透過率を測定し、透過率が極大となる極大波長が400〜700nmの波長域に存在することを確認した。
【0064】
得られた複合酸化物ブラック顔料3と数平均粒子径50nmの六ホウ化ランタンを10:1(質量比)で均一に混合して顔料を調製した。なお、分光光度計を使用して六ホウ化ランタンの400〜1400nmの波長域における透過率を測定し、透過率が極大となる極大波長が400〜700nmの波長域に存在すること、及び極小となる極小波長が800〜1400nmの波長域に存在することを確認した。調製した顔料と、メラミンアルキッド樹脂を、顔料分3PHR(PHR=(顔料(g)/樹脂(g))×100)としてペイントシェーカー(レッドデビル社製)に入れ、十分に分散させて塗料化し、塗料を得た。得られた塗料を#6のバーコーターにてPETフィルム上に塗布した。乾燥後、120℃、20分の条件で焼き付けして測定用試料を得た。得られた測定用試料に形成された塗膜の膜厚は3〜4μmであった。
【0065】
実施例1と同様にして得られた測定用試料の透過率を測定した。その結果、400〜1000nmの波長域において、400〜500nmの波長域に透過率が極大となる極大波長を有するとともに、800〜1400nmの波長域に透過率が極小となる極小波長を有することを確認した。この測定用試料は約40〜50%の透過率を可視部に有するとともに、CIE LAB(L
*a
*b
*)表色系において、a値が−4〜0であり、b値が−8〜0であった。また、透過光がニュートラルグレイの色相を有するものであることを確認した。この測定用試料は、実施例2で得た測定用試料よりもさらに青みが強く、近赤外部の透過率も低下していた。
【0066】
[実施例4]
硫酸銅120部、硫酸マンガン144.4部、及び硫酸鉄29.7部を用いたこと、並びに塩化カルシウムとともに塩化マグネシウム5.0部を沈殿媒体(水)に溶解したこと以外は実施例2と同様にして、BET比表面積49.2m
2/gの複合酸化物ブラック顔料4(数平均粒子径60nm)を得た。得られた複合酸化物ブラック顔料4について粉末X線回折分析を行い、スピネル構造を有する、異相のない単一化合物であることを確認した。得られた複合酸化物ブラック顔料4を構成する金属の組成(モル比)を表1に示す。なお、分光光度計を使用して得られた複合酸化物ブラック顔料4の400〜1400nmの波長域における透過率を測定し、透過率が極大となる極大波長が400〜700nmの波長域に存在することを確認した。
【0067】
得られた複合酸化物ブラック顔料4と、数平均粒子径50nmの六ホウ化ランタンと、数平均粒子径100nmのタングステン酸化物とを8:0.5:0.5(質量比)で均一に混合して顔料を調製した。なお、分光光度計を使用して六ホウ化ランタンとタングステン酸化物の400〜1400nmの波長域における透過率をそれぞれ測定し、いずれも透過率が極大となる極大波長が400〜700nmの波長域に存在すること、及び800〜1400nmの波長域に持続した低透過率の領域が存在することを確認した。調製した顔料と、メラミンアルキッド樹脂を、顔料分3PHR(PHR=(顔料(g)/樹脂(g))×100)としてペイントシェーカー(レッドデビル社製)に入れ、十分に分散させて塗料化し、塗料を得た。得られた塗料を#6のバーコーターにてPETフィルム上に塗布した。乾燥後、120℃、20分の条件で焼き付けして測定用試料を得た。得られた測定用試料に形成された塗膜の膜厚は3〜4μmであった。
【0068】
実施例1と同様にして得られた測定用試料の透過率を測定した。その結果、400〜1000nmの波長域において、400〜500nmの波長域に透過率が極大となる極大波長を有するとともに、800〜1400nmの波長域に透過率が極小となる極小波長を有することを確認した。さらに、複合酸化物ブラック顔料4の単独に比べて、赤外波長域において透過率が低下することを確認した。この測定用試料は約40〜50%の透過率を可視部に有するとともに、CIE LAB(L
*a
*b
*)表色系において、a値が−4〜0であり、b値が−8〜0であった。また、透過光がニュートラルグレイの色相を有するものであることを確認した。
【0069】
[実施例5]
硫酸銅120部、硫酸マンガン157部、及び硫酸鉄8.6部を用いたこと以外は実施例2と同様にして、BET比表面積40.6m
2/gの複合酸化物ブラック顔料5を得た。得られた複合酸化物ブラック顔料5(数平均粒子径70nm)について粉末X線回折分析を行い、スピネル構造を有する、異相のない単一化合物であることを確認した。得られた複合酸化物ブラック顔料5を構成する金属の組成(モル比)を表1に示す。なお、分光光度計を使用して得られた複合酸化物ブラック顔料5の400〜1400nmの波長域における透過率を測定し、透過率が極大となる極大波長が400〜700nmの波長域に存在することを確認した。
【0070】
得られた複合酸化物ブラック顔料4と、数平均粒子径50nmの六ホウ化ランタンと、数平均粒子径100nmのタングステン酸化物とを8:0.5:0.5(質量比)で均一に混合して顔料を調製した。なお、分光光度計を使用して六ホウ化ランタンとタングステン酸化物の400〜1400nmの波長域における透過率をそれぞれ測定し、いずれも透過率が極大となる極大波長が400〜700nmの波長域に存在すること、及び800〜1400nmの波長域に持続した低透過率の領域が存在することを確認した。調製した顔料と、メラミンアルキッド樹脂を、顔料分3PHR(PHR=(顔料(g)/樹脂(g))×100)としてペイントシェーカー(レッドデビル社製)に入れ、十分に分散させて塗料化し、塗料を得た。得られた塗料を#6のバーコーターにてPETフィルム上に塗布した。乾燥後、120℃、20分の条件で焼き付けして測定用試料を得た。得られた測定用試料に形成された塗膜の膜厚は3〜4μmであった。
【0071】
実施例1と同様にして得られた測定用試料の透過率を測定した。その結果、400〜1000nmの波長域において、400〜500nmの波長域に透過率が極大となる極大波長を有するとともに、800〜1400nmの波長域に透過率が極小となる極小波長を有することを確認した。さらに、複合酸化物ブラック顔料5の単独に比べて、赤外波長域において透過率が低下することを確認した。この測定用試料は約40〜50%の透過率を可視部に有するとともに、CIE LAB(L
*a
*b
*)表色系において、a値が−4〜0であり、b値が−8〜0であった。また、透過光がニュートラルグレイの色相を有するものであることを確認した。
【0072】
[比較例1]
硫酸銅120部、硫酸マンガン144.4部、及び硫酸鉄29.7部を用いたこと以外は実施例2と同様にして、BET比表面積47.5m
2/gの複合酸化物ブラック顔料6(数平均粒子径60nm)を得た。得られた複合酸化物ブラック顔料6について粉末X線回折分析を行い、スピネル構造を有する、異相のない単一化合物であることを確認した。得られた複合酸化物ブラック顔料6を構成する金属の組成(モル比)を表1に示す。なお、分光光度計を使用して得られた複合酸化物ブラック顔料6の400〜1400nmの波長域における透過率を測定し、透過率が極大となる極大波長が400〜700nmの波長域に存在することを確認した。
【0073】
得られた複合酸化物ブラック顔料6と、メラミンアルキッド樹脂を、顔料分3PHR(PHR=(顔料(g)/樹脂(g))×100)としてペイントシェーカー(レッドデビル社製)に入れ、十分に分散させて塗料化し、塗料を得た。得られた塗料を#6のバーコーターにてPETフィルム上に塗布した。乾燥後、120℃、20分の条件で焼き付けして測定用試料を得た。得られた測定用試料に形成された塗膜の膜厚は3〜4μmであった。
【0074】
実施例1と同様にして得られた測定用試料の透過率を測定した。その結果、400〜1000nmの波長域において、400〜500nmの波長域に透過率が極大となる極大波長を有することを確認した。この測定用試料は約40〜50%の透過率を可視部に有するとともに、CIE LAB(L
*a
*b
*)表色系において、a値が−4〜0であり、b値が−8〜0であった。また、透過光がニュートラルグレイの色相を有するものであることを確認した。この測定用試料は、各実施例で得たどれにも比して、近赤外部の透過率が高いものであった。
【0075】
[比較例2]
硫酸銅120部、硫酸マンガン121.7部、及び硫酸鉄66.7部を用いたこと以外は実施例2と同様にして、BET比表面積47.3m
2/gの複合酸化物ブラック顔料7(数平均粒子径60nm)を得た。得られた複合酸化物ブラック顔料7について粉末X線回折分析を行い、スピネル構造を有する、異相のない単一化合物であることを確認した。得られた複合酸化物ブラック顔料7を構成する金属の組成(モル比)を表1に示す。なお、分光光度計を使用して得られた複合酸化物ブラック顔料7の400〜1400nmの波長域における透過率を測定し、透過率が極大となる極大波長が400〜700nmの波長域に存在することを確認した。
【0076】
得られた複合酸化物ブラック顔料7と数平均粒子径50nmの六ホウ化ランタンを10:1(質量比)で均一に混合して顔料を調製した。なお、分光光度計を使用して六ホウ化ランタンの400〜1400nmの波長域における透過率を測定し、透過率が極大となる極大波長が400〜700nmの波長域に存在すること、及び極小となる極小波長が800〜1400nmの波長域に存在することを確認した。調製した顔料と、メラミンアルキッド樹脂を、顔料分3PHR(PHR=(顔料(g)/樹脂(g))×100)としてペイントシェーカー(レッドデビル社製)に入れ、十分に分散させて塗料化し、塗料を得た。得られた塗料を#6のバーコーターにてPETフィルム上に塗布した。乾燥後、120℃、20分の条件で焼き付けして測定用試料を得た。得られた測定用試料に形成された塗膜の膜厚は3〜4μmであった。
【0077】
実施例1と同様にして得られた測定用試料の透過率を測定した。その結果、800〜1400nmの波長域に透過率が極小となる極小波長を有することを確認した。この測定用試料は、CIE LAB(L
*a
*b
*)表色系において、a値が−4〜0であり、b値が−8〜0であった。また、この測定用試料の色相は黄くすみであり、透過光はニュートラルグレイの色相を有しないものであった。ただし、近赤外部の透過率は、上記の実施例で得た測定用試料と同等の低いものであった。
【0078】
【0079】
実施例及び比較例における複合酸化物ブラック顔料と金属化合物粒子の配合量を表2に示す。
【0080】
【0081】
[温度上昇抑制効果の確認試験]
図1に示す装置を使用して温度上昇抑制効果の確認試験を行った。
図1に示す装置は、その内壁面に黒色紙7を貼り付けた発泡スチロール製の容器4と、容器の下部に形成された孔から差し込まれた熱電対6と、容器4の開口部に配置され容器4内への外気の流入を防ぐガラスプレート3と、ガラスプレート3の上方に配置された標準光源ランプ1と、標準光源ランプ1から照射される光が熱電対6に直接あたらないようにするための庇5とを備える。ガラスプレート3上に測定用試料2を載置し、標準光源ランプ1を、測定用試料2から30cmの高さにセットした。標準光源ランプ1から光を照射して、容器4内の温度を経時的に測定して温度上昇曲線を作成した。なお、測定用試料2としては、参照用として何も塗布していないPETフィルム(Ref)、並びに実施例及び比較例で得た測定用試料を使用した。
【0082】
上記の設定で温度上昇抑制効果の確認試験を行った。PETフィルム(Ref)を用いた場合、容器内温度は上昇し、20分経過後、55℃に達していた。また、各実施例及び比較例で得た測定用試料を用いて20分後の容器内温度を測定した。比較例1では、20分後の容器内温度が48℃となり、温度抑制効果が約7℃であることが判明した。これに対して、実施例1〜5及び比較例2で得た測定用試料を用いた場合は、PETフィルム(Ref)を用いた場合との比較で、20分後の温度抑制効果が約13℃であることが判明した。このことから、実施例1〜5及び比較例2の遮熱顔料組成物は、比較例1の顔料よりも高い熱線遮蔽性を有することが分かる。なお、比較例2で得た測定用試料は、青味のニュートラルグレイの色相を有するものではなかった。以上より、本実施形態の遮熱顔料組成物は、ニュートラルグレイの色相を有するとともに、優れた温度上昇抑制効果をも有することが分かる。