特開2015-7199(P2015-7199A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-7199(P2015-7199A)
(43)【公開日】2015年1月15日
(54)【発明の名称】自動昇降機用制御ボタン
(51)【国際特許分類】
   C08L 69/00 20060101AFI20141212BHJP
   C08L 33/06 20060101ALI20141212BHJP
   C08K 3/40 20060101ALI20141212BHJP
   C08K 5/15 20060101ALI20141212BHJP
   H01H 11/00 20060101ALN20141212BHJP
【FI】
   C08L69/00
   C08L33/06
   C08K3/40
   C08K5/15
   H01H11/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-133297(P2013-133297)
(22)【出願日】2013年6月26日
(71)【出願人】
【識別番号】396001175
【氏名又は名称】住化スタイロンポリカーボネート株式会社
(72)【発明者】
【氏名】温井 紳二
【テーマコード(参考)】
4J002
5G023
【Fターム(参考)】
4J002BG03X
4J002CG01W
4J002DL006
4J002EL057
4J002FD186
4J002GM00
5G023AA12
5G023CA41
(57)【要約】      (修正有)
【課題】透明性を維持し、かつ耐熱性等のポリカーボネート樹脂が有する特性を保持しつつ、高い表面硬度、抗菌性、耐溶剤性を有する自動昇降機用制御ボタンの提供。
【解決手段】ポリカーボネート樹脂(A)35〜75重量%および表面硬度向上剤(B)25〜65重量%からなる樹脂成分100重量部あたり、銀イオンを溶出することを必須成分とする特定の抗菌剤(C)0.05〜1.5重量部および特定化学構造を有するアルキルケテンダイマー(D)0.01〜20重量部からなることを特徴とするポリカーボネート樹脂を成形し、そして、その表面硬度向上剤(B)が芳香族(メタ)アクリレート単位5〜80重量%およびメチルメタクリレート単位20〜95重量%からなる共重合体であり、かつその共重合体の重量平均分子量が5000〜30000であることを特徴とする、自動昇降機用制御ボタン。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂(A)35〜75重量%および表面硬度向上剤(B)25〜65重量%からなる樹脂成分100重量部あたり、銀イオンを溶出するガラスを必須成分とする抗菌剤(C)0.05〜1.5重量部および下記一般式1に示すアルキルケテンダイマー(D)0.01〜20重量部からなることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる自動昇降機用制御ボタンであって、該表面硬度向上剤(B)が芳香族(メタ)アクリレート単位5〜80重量%およびメチルメタクリレート単位20〜95重量%からなる共重合体であり、かつ該共重合体の重量平均分子量が5000〜30000であることを特徴とする、自動昇降機用制御ボタン。
一般式1:
【化1】
(一般式1において、R1およびR2は、同一でも異なっても良いが、炭素数6〜33のアルキル基を表す。)
【請求項2】
前記樹脂成分が、ポリカーボネート樹脂(A)45〜65重量%および表面硬度向上剤(B)35〜55重量%からなることを特徴とする、請求項1に記載の自動昇降機用制御ボタン。
【請求項3】
前記抗菌剤(C)に含まれる銀イオンを溶出するガラスの形状が、多面体であることを特徴とする、請求項1に記載の自動昇降機用制御ボタン。
【請求項4】
前記抗菌剤(C)の配合量が、前記樹脂成分100重量部あたり、0.05〜1.5重量部であることを特徴とする、請求項1に記載の自動昇降機用制御ボタン。
【請求項5】
前記アルキルケテンダイマー(D)の配合量が、前記樹脂成分100重量部あたり、0.03〜5重量部であることを特徴とする、請求項1に記載の自動昇降機用制御ボタン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート樹脂が有する優れた特性を保持し、特に、表面硬度、色相、抗菌性および耐溶剤性に優れたポリカーボネート樹脂製の自動昇降機用制御ボタンに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、透明性、耐衝撃性、耐熱性、熱安定性等に優れた熱可塑性樹脂であり、電気、電子、ITE、機械、自動車などの分野で広く用いられている。しかし、ポリカーボネート樹脂は、射出成形・押出成形などにより得られる成形体の表面硬度が低く、傷つきやすいという欠点がありその用途は制限されているところである。
【0003】
従来から、この傷付きやすさを改良するために、紫外線硬化型樹脂をポリカーボネート樹脂表面にコーティングする方法が提案されているが、この方法ではポリカーボネート樹脂由来の柔軟性から、ディスプレイ用途などで要求される鉛筆硬度の要求を満たすことができないという問題があった。
また、表面硬度と透明性に優れた成形体を得るために、ポリカーボネート樹脂とアクリル系の表面硬度向上剤との樹脂組成物が提案されているが、この樹脂組成物は表面硬度は高いが色相(透明性)が劣るという問題を抱えており、さらなる改善が求められている(特許文献1および特許文献2)。
【0004】
他方、近年、ポリカーボネート樹脂の用途へのニーズも多様化し、ポリカーボネート樹脂から得られた屋内設置タイプや屋外設置タイプなどの自動昇降機(いわゆる、エレベーター)用製制御ボタンにハンドクリーム、洗剤等の各種薬品や溶剤が付着する事で割れ等の不具合が発生する場合があり、かかる不具合が発生しないように耐溶剤性(耐薬品性)に優れたポリカーボネート樹脂製の制御ボタンが要望されている。加えて、この用途においては、耐溶剤性と同時に快適・清潔・安全につながる性能として抗菌性の要望も高くなってきている。
【0005】
これまで、ポリカーボネート樹脂の耐溶剤性を改良する目的でポリカーボネート樹脂にポリエステル樹脂を配合した樹脂組成物が提案された。しかし、この技術では、ポリエステル樹脂を配合することで、耐溶剤性は若干改良されるものの、アタック性の強いアルカリ洗剤や機械油が付着した場合に得られる成形品に割れ等が発生したり、ポリカーボネート樹脂の長所である透明性が大きく損なわれる場合があり、この用途の課題の解決には不十分であった。
また、ポリカーボネート樹脂に快適・清潔・安全の性能(抗菌性)を付与する手法としては、これまでポリカーボネート樹脂に有機または無機系の抗菌剤を配合する手法が試みられてきており、その中でもとりわけ、抗菌性とともに熱安定性等が優れることから無機系の抗菌剤が有望視されている。
例えば、細菌に対して強い抗菌作用を示す銀や亜鉛などの金属イオンを担持させたゼオライト(特許文献3)や当該金属イオンを含有する溶解性ガラス(特許文献4および特許文献5)からなる抗菌剤が挙げられる。
【0006】
その他、非透湿構造の合成樹脂や高吸水性樹脂中に銀イオンを放出する溶解性ガラスを含む抗菌性を有する合成樹脂成形体や、高吸水性樹脂体を記載する文献もある(特許文献6および特許文献7)。
【0007】
しかしながら、これらの技術においても、次のような問題、すなわち、ポリカーボネート樹脂が他の樹脂と比べ成形加工温度が400℃近くの高温になる場合があり、成形加工時に溶解性ガラスとポリカーボネート樹脂とが所望でない反応を生じ、これにより得られる成形体の透明性低下(初期着色)や熱安定性の低下をもたらすという問題があり、更なる改良が求められていた。
【0008】
【特許文献1】特開2009−280713号公報
【特許文献2】特開2010−116501号公報
【特許文献3】特許3293639号公報
【特許文献4】特許2135769号公報
【特許文献5】特開平7−25635号公報
【特許文献6】特開平1−313531号公報
【特許文献7】特開平1−153748号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前述の諸問題を解決する、すなわち、表面硬度、色相、抗菌性および耐溶剤性(耐薬剤性)に優れるポリカーボネート樹脂製の自動昇降機用制御ボタンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、ポリカーボネート樹脂に特定の表面硬度向上剤、特定の抗菌剤、及び特定のアルキルケテンダイマーを併用添加することにより、ポリカーボネート樹脂の諸特性を損なうことなく、特に、表面硬度、色相(透明性)、抗菌性、耐溶剤性に優れたポリカーボネート樹脂製自動昇降機用制御ボタンが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明は、ポリカーボネート樹脂(A)35〜75重量%および表面硬度向上剤(B)25〜65重量%からなる樹脂成分100重量部あたり、銀イオンを溶出するガラスを必須成分とする抗菌剤(C)0.05〜1.5重量部および下記一般式1に示すアルキルケテンダイマー(D)0.01〜20重量部からなることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物であって、該表面硬度向上剤(B)が芳香族(メタ)アクリレート単位5〜80重量%およびメチルメタクリレート単位20〜95重量%からなる共重合体であり、かつ当該共重合体の重量平均分子量が5000〜30000であることを特徴とする、ポリカーボネート樹脂製自動昇降機用制御ボタンを提供するものである。
一般式1:
【0012】
【化1】
(一般式1において、R1およびR2は、同一でも異なっても良いが、炭素数6〜33のアルキル基をあらわす。)
【発明の効果】
【0013】
本発明のポリカーボネート樹脂製自動昇降機用制御ボタンは、透明性を維持し、かつ耐熱性等のポリカーボネート樹脂が有する特性を保持しつつ、高い表面硬度、抗菌性、耐溶剤性(耐薬剤性や耐薬品性も含む)を有する。また、成形加工温度が400℃近くの高温となるポリカーボネート樹脂の初期着色が少なく、自動昇降機の屋外設置によるボタンへの色相への悪影響や劣化などの発生を抑えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0015】
本発明に使用されるポリカーボネート樹脂(A)とは、種々のジヒドロキシジアリール化合物とホスゲンとを反応させるホスゲン法、またはジヒドロキシジアリール化合物とジフェニルカーボネートなどの炭酸エステルとを反応させるエステル交換法によって得られる重合体であり、代表的なものとしては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)から製造されたポリカーボネート樹脂が挙げられる。
【0016】
上記ジヒドロキシジアリール化合物としては、ビスフェノールAの他に、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−第三ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−ブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3、5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)プロパンのようなビス(ヒドロキシアリール)アルカン類、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンのようなビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルエーテルのようなジヒドロキシジアリールエーテル類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルフィドのようなジヒドロキシジアリールスルフィド類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルスルホキシドのようなジヒドロキシジアリールスルホキシド類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルスルホンのようなジヒドロキシジアリールスルホン類等が挙げられる。
【0017】
これらは、単独または2種類以上混合して使用することができる。これらの他に、ピペラジン、ジピペリジルハイドロキノン、レゾルシン、4,4′−ジヒドロキシジフェニル等を混合して使用してもよい。
【0018】
さらに、上記のジヒドロキシアリール化合物と以下に示すような3価以上のフェノール化合物を混合使用してもよい。3価以上のフェノールとしてはフロログルシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ヘプテン、2,4,6−ジメチル−2,4,6−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ヘプタン、1,3,5−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ベンゾール、1,1,1−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−エタンおよび2,2−ビス−[4,4−(4,4′−ジヒドロキシジフェニル)−シクロヘキシル]−プロパンなどが挙げられる。
【0019】
ポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量は、通常10000〜100000、好ましくは15000〜35000、さらに好ましくは17000〜28000である。かかるポリカーボネート樹脂を製造するに際し、分子量調節剤、触媒等を必要に応じて使用することができる。
【0020】
本発明にて使用される表面硬度向上剤(B)とは、芳香族(メタ)アクリレート単位5〜80重量%およびメチルメタクリレート単位20〜95重量%からなる共重合体であり、かつ当該共重合体の重量平均分子量が5000〜30000であることを特徴とする。尚、本明細書においては(メタ)アクリレートはアクリレート又はメタクリレートを意味する。
【0021】
芳香族(メタ)アクリレートとしては、例えば、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートを挙げることができる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、好ましくはフェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレートであり、より好ましくはフェニルメタクリレートである。
【0022】
表面硬度向上剤(B)中の芳香族(メタ)アクリレート単位の含有率が5重量%以上であれば、透明性が維持され、80重量%以下であれば、ポリカーボネート樹脂(A)との相容性が高過ぎず、成形体表面への移行性が低下しないため、表面硬度が低下しないので好ましい。また、芳香族(メタ)アクリレート単位の含有率が20〜70重量%の範囲であれば、さらに透明性を維持しつつ高い表面硬度を発現することから、更に好ましい。
【0023】
表面硬度向上剤(B)には、必要に応じて芳香族(メタ)アクリレート単位およびメチルメタクリレート単位以外の他の単量体単位を含有させてもよい。他の単量体単位を構成するその他の単量体としては、例えば、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート等のメタクリレート;メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、プロピルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、グリシジルアクリレート等のアクリレート;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル単量体;ブタジエン、イソプレン、ジメチルブタジエン等のジエン系単量体;ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル等のビニルエーテル系単量体;酢酸ビニル、酪酸ビニル等のカルボン酸系ビニル単量体;エチレン、プロピレン、イソブチレン等のオレフィン系単量体;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸等のエチレン系不飽和カルボン酸単量体;塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニル単量体;マレイミド、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−メチルマレイミド等のマレイミド系単量体;アリル(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、1,3−ブチレンジメタクリレート等の架橋剤を挙げることができる。これらのうち、好ましくはメタクリレート、アクリレート、シアン化ビニル単量体であり、表面硬度向上剤(B)の熱分解を抑制するという観点からより好ましくはアクリレートである。これらの単量体は1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0024】
その他の単量体単位を含有する場合、表面硬度向上剤(B)の構成単量体は、芳香族(メタ)アクリレート単位5〜79.9重量%、メチルメタクリレート単位20〜94.9重量%およびその他の単量体単位0.1〜10重量%の範囲であることが好ましい。
【0025】
表面硬度向上剤(B)を得るための単量体の重合方法としては、乳化重合法、懸濁重合法、溶液重合法、塊状重合法等の公知の方法を使用することができる。好ましくは懸濁重合法や塊状重合法であり、さらに好ましくは懸濁重合法である。また、重合に必要な添加剤等は必要に応じて適宜添加することができ、例えば、重合開始剤、乳化剤、分散剤、連鎖移動剤が挙げられる。
【0026】
表面硬度向上剤(B)の重量平均分子量は、5000〜30000である。重量平均分子量が5000〜30000の範囲において、ポリカーボネート樹脂(A)との相容性が良好であり、表面硬度の向上効果に優れる。尚、好ましくは10000〜25000の範囲である。
【0027】
重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定され、その詳細条件は以下のとおりである:
GPCのカラムとして、アジレント・テクノロジー社製 PLGEL 5μm MIXED−Cを使用し、移動相としては、THFを用いた。
【0028】
表面硬度向上剤(B)の使用割合は、ポリカーボネート樹脂(A)および表面硬度向上剤(B)からなる樹脂成分を基準として、25〜65重量%の範囲である。表面硬度向上剤(B)の使用割合が25重量%未満であると表面硬度の改良効果が低下し、また65重量%を超えると耐熱性および透明性が低下するので好ましくない。より好ましくは、35〜55重量%の範囲である。
【0029】
本発明にて使用される銀イオンを溶出するガラスを必須成分とする抗菌剤(C)は、銀イオンを溶出しうるガラス組成物から構成される。とりわけ、その組成として、銀酸化物、リン酸化物、亜鉛酸化物を含み、形状が多面体であるものが好ましい。形状が多面体の場合、樹脂中で一定の方向に配向し易くなるため、樹脂中に均一かつ容易に混合分散することができ、光の散乱が抑えられることから、透明性に優れ好適である。
【0030】
上記抗菌剤(C)のガラス組成物は、AgOを0.2〜5重量%、Pを30〜80重量%、ZnOを30〜50重量%の範囲からなるものが好ましく使用される。また、これにBを0.1〜15重量%および/またはCaOを0.1〜15重量%の範囲で含有させても良い。前者の場合は、銀イオンを安定して放出することができるととともに、ガラスの透明性を向上させることができる。後者の場合は透明性や機械的強度に優れたガラスを得ることができる。
CaOを含有させる場合には、ZnOに対するCaOの重量比率(ZnO/CaO)を1.1〜15の範囲内にするとより好ましい。
【0031】
また、樹脂の透明性を保持するために、ガラス組成物の平均粒径を0.1〜300μmの範囲内にすることが好ましい。該抗菌性ガラスは市販品として容易に入手可能で、シナネンゼオミック社製KM10Dなどが挙げられる。
【0032】
上記抗菌剤(C)の配合量としては、ポリカーボネート樹脂(A)35〜75重量%および表面硬度向上剤(B)25〜65重量%からなる樹脂成分100重量部あたり0.05〜1.5重量部である。配合量が0.05重量部未満であると十分な抗菌効果が得られにくくなるため好ましくない。一方、1.5重量部を超えると透明性が損なわれるため好ましくない。より好ましくは、0.1〜1.0重量部の範囲である。
【0033】
本発明にて使用されるアルキルケテンダイマー(D)は下記一般式1にて示される化合物である。
一般式1:
【0034】
【化2】
【0035】
一般式1において、Rは、同一でも異なっても良いが、炭素数6〜33のアルキル基、好ましくは炭素数10〜21のアルキル基である。
【0036】
一般式1において、更に好ましくは、Rは、同一でも異なっても良いが、炭素数が10〜21のアルキル基である化合物が使用できる。
【0037】
アルキルケテンダイマー(D)の配合量は、ポリカーボネート樹脂(A)35〜75重量%および表面硬度向上剤(B)25〜65重量%からなる樹脂成分100重量部あたり0.01〜20重量部である。0.01重量部未満では耐溶剤性に劣り、20重量部を越えると造粒加工が困難になり樹脂組成物のペレットを得ることができなくなることから好ましくない。好ましい配合量は、0.01〜10重量部、さらに好ましくは0.03〜5重量部である。
【0038】
さらに、本発明の効果を損なわない範囲で、本発明のポリカーボネート樹脂組成物に各種の樹脂、酸化防止剤、蛍光増白剤、顔料、染料、カーボンブラック、充填材、離型剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、ゴム、軟化材、展着剤(流動パラフィン、エポキシ化大豆油等)、難燃剤、有機金属塩等の添加剤、滴下防止用ポリテトラフルオロエチレン樹脂等を配合しても良い。
【0039】
各種の樹脂としては、例えば、ポリスチレン、ハイインパクトポリスチレン、ABS、AES、AAS、AS、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリフェニレンスルフィド樹脂等が挙げられ、これらは一種もしくは二種以上で併用してもよい。
【0040】
酸化防止剤としては、リン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤等が挙げられる。なかでも、ヒンダードフェノール系酸化防止剤が好適に使用され、例えば、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、チオジエチレン−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートなどが挙げられる。とりわけ、下記構造式に示される化合物が好適に用いられる。該酸化防止剤としてはチバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製Irganox1076などが挙げられる。ヒンダードフェノール系酸化剤を含む場合には、ポリカーボネート樹脂組成物の成形時の初期着色を抑制することができる。
【0041】
【化3】
【0042】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤の配合量としては、ポリカーボネート樹脂(A)35〜75重量%および表面硬度向上剤(B)25〜65重量%からなる樹脂成分100重量部あたり0.05〜1.0重量部が好ましく、より好ましくは0.1〜0.8重量部の範囲である。
【0043】
本発明の自動昇降機用制御ボタンを製造するには、得られた樹脂組成物を一旦ペレット化した後成形に供すればよく、成形手段としては任意の成形法が採用され、例えば射出成形等により直接成形しても、押出成形等により一旦シートやフイルムにした後真空成形等により成形してもよい。また、成形条件としても格別な条件をとる必要はない。ボタンを得るための製造方法としては、例えば、得られたポリカーボネート樹脂組成物のペレットを所定温度で所定時間乾燥した後に、射出成型機を用いて250℃〜400℃の温度、射出圧力1500〜2000kg/cmにて成形する方法がある。
【実施例】
【0044】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はそれら実施例に制限されるものではない。尚、実施例中の「部」、「%」は断りのない限り重量基準に基づく。
【0045】
使用した原料の詳細は以下のとおりである。
ポリカーボネート樹脂(A):
ビスフェノールAとホスゲンから合成されたポリカーボネート樹脂
(住化スタイロンポリカーボネート社製 カリバー200−20、粘度平均分子量
19000、以下、「PC」と略記)
表面硬度向上剤(B):
芳香族(メタ)アクリレート単位及びメチルメタクリレート単位の共重合体
(三菱レイヨン株式会社製メタブレンH−880、重量平均分子量10000、
以下「表面硬度向上剤」と略記)
抗菌性ガラス(C):
シナネンゼオミック社製KM10D(以下「抗菌剤」と略記)
アルキルケテンダイマー(D):
永恒化工社製 AKD1840(以下「AKD」と略記)
成分は、下記式のとおり:
【0046】
【化4】
上記式でRは炭素数が15〜18のアルキル基である。
酸化防止剤:
チバスペシャリティケミカルズ社製Irganox 1076(以下「AO」と略記)
【0047】
表1〜2に示す配合比率にて、上記の原料をそれぞれタンブラーに投入し、4分間乾式混合した後、二軸押出機(L/D=42、Φ=37mm、神戸製鋼社製 KTX−37)を用いて、溶融温度240℃にて溶融混錬し、各種ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを得た。
【0048】
(曇価率)
上記で得られた各種樹脂組成物のペレットをそれぞれ100℃で6時間乾燥した後に、射出成型機(日本製鋼所製J−100E−C5)を用いて設定温度260℃、射出圧力1600kg/cmにて透明性評価用試験片(150x90x3.0mm)を作成した。
得られた試験片を用いて、JISK7361に従い、ヘーズメーター(村上色彩技術研究所社製HM150)にて曇価率(H)を求めた。尚、曇価率(H)は下記式に従い算出した。
曇価率H(%)=(拡散透過率Td/全光線透過率Tt)×100
曇価率(H)が7.0%未満を良好とした。
【0049】
(耐熱性)
23℃における、荷重たわみ温度をISO75−2に準拠して測定した。90℃以上を良好とした。
【0050】
(鉛筆硬度)
上記で得られた各種樹脂組成物のペレットをそれぞれ100℃で6時間乾燥した後に、射出成型機(日本製鋼所製J−100E−C5)を用いて設定温度260℃、射出圧力1600kg/cmにて透明性評価用試験片(150x90x2.0mm)を作成した。
得られた試験片を用いて、JISK5600−5−4に従い鉛筆硬度測定機(東洋精機社製鉛筆引掻塗膜硬さ試験機)にて、試験片表面に擦り傷が観察されない鉛筆硬度を求めた。鉛筆硬度が、HB以上を良好とした。
【0051】
(抗菌性)
抗菌性試験はJIS Z 2801(フィルム密着法)に基づいて実施した。具体的には、初期着色性の評価と同様の条件(シリンダー設定温度270℃)で得られた平板試験片の表面に、大腸菌を10個含む菌液を滴下し、その上からPE製フィルムを密着させ、35℃で24時間放置後にPE製フィルム及び平板試験片に付着している菌体をSCDLP培地で洗い出し、シャーレに移して35℃で45時間培養後に、大腸菌の生菌数(y)をカウントした。なお、評価の基準は、本発明の抗菌剤(B)を含まない樹脂組成物からなる平板試験片を用いてフィルム密着法によりカウントした大腸菌の生菌数をxとしたときに、log10(x/y)(以下、抗菌活性値と略記)が2.0以上であるものを良好(○)、2.0未満であるものを不良(×)とした。
さらに、大腸菌を黄色ブドウ球菌に変更する以外は全て上記と同じ操作・条件で抗菌性試験を行い、抗菌活性値を求め、同様の基準で評価した。それぞれの結果を表1および表2に示す。
【0052】
(ボタンの耐溶剤性(耐薬剤性)の評価)
上記で得られた各種樹脂組成物のペレットをそれぞれ100℃で6時間乾燥した後に、射出成型機(日本製鋼所製J−100E−C5)を用いて設定温度260℃、射出圧力1600kg/cmにて試験片(127x13x3.2mm)を作成した。
得られた試験片を片持ち梁の耐溶剤性試験治具(下式の図参照)を用いて任意の歪みをかけて、試験片の中央部に下記溶剤をそれぞれ塗布した。
評価用溶剤
花王社製 マジックリン(以下、溶剤1と略記)
ニベア花王社製 ニベアクリーム(以下、溶剤2と略記)
上記の溶剤塗布後の試験片を23℃および85℃の雰囲気下で48時間放置し、試験片上の割れやヒビの位置から臨界歪み(%)を次式により求めた。
【0053】
(式)
【0054】
上記式にて求めた臨界歪みから、耐溶剤性を下記基準にて判定し、臨界歪みが0.7%以上(○〜◎)を良好とした。
耐溶剤性の判定:
◎:臨界歪みが1.0%以上
○:臨界歪みが0.7%以上〜1.0%未満
△:臨界歪みが0.5%以上〜0.7%未満
×:臨界歪みが0.3%以上〜0.5%未満
××:臨界歪みが0.3%未満
【0055】
【表1】
表中「判定」は ○: 良好 、×:不良 を表す。
【0056】
【表2】
表中「判定」は ○: 良好 、×:不良 を表す。
【0057】
実施例1〜6に示すように、本発明の構成要件を満足するものについては、要求性能を満たしていた。
一方、比較例1〜6に示すように、本発明の構成要件を満足しないものについては、それぞれ次のとおり欠点を有していた。
比較例1は、表面硬度向上剤の配合量が規定量よりも少ない場合で、鉛筆硬度が不良となった。
比較例2は、表面硬度向上剤の配合量が規定量よりも多い場合で、耐熱性および曇価率が不良となった。
比較例3は、抗菌剤の配合量が規定量よりも少ない場合で、抗菌性が不良となった。
比較例4は、抗菌剤の配合量が規定量よりも多い場合で、曇価率が不良となった。
比較例5は、AKDの配合量が規定量よりも少い場合で、耐薬品性が不良となった。
比較例6は、AKDの配合量が規定量よりも多い場合で、造粒困難によりペレットが作成できなかった。