【実施例1】
【0057】
図1は、本発明の試験装置を、試験の一例として、加振試験を行う加振試験装置に適用した実施例を示す概略ブロック図、
図2(A)は目標波形、
図2(B)は実際の計測波形、
図2(C)は本発明の制御装置10で補正後の波形を示すグラフである。
【0058】
図1において、符号10は、全体で本発明の試験装置の制御装置10(以下、単に「制御装置10」と言う)を示している。
【0059】
図1に示したように、本発明の制御装置10は、試験を行うための試験装置本体12に対して、試験装置の制御を行うものである。
【0060】
この試験装置本体12は、この実施例では、試験の一例として、加振試験を行う加振試験装置から構成されている。
【0061】
図1に示したように、試験装置本体12は、例えば、油圧シリンダからなるアクチュエータ14を備えている。このアクチュエータ14には、被試験構造物である、例えば、車輛のショックアブソーバなどのテストピースAを載荷するためのピストン16と、例えば、変位センサ・速度センサ・加速度センサ・荷重センサなどから構成される検出センサ18とを備えている。
【0062】
また、アクチュエータ14には、例えば、サーボ弁などから構成される駆動部20が設けられている。
【0063】
さらに、本発明の制御装置10は、試験装置本体12の駆動部20に対して、初期の制御波形を入力する制御部22を備えている。
【0064】
また、本発明の制御装置10は、
図1の一点鎖線で示したように、波形補正演算部24を備えている。この波形補正演算部24は、
図1の破線で示したように、試験装置本体12の検出センサ18からの応答波形を、基本波成分と、任意のn倍高調波まで演算処理する高調波演算部26を備えている。
【0065】
さらに、波形補正演算部24は、高調波演算部26で演算された、任意のn倍高調波について、その位相と振幅とを演算処理する高周波生成部28を備えている。なお、
図1に示したように、この高周波生成部28には、ユーザーなどが設定する数の任意のn倍高調波まで演算する、複数の高調波生成器28aが備えられている。
【0066】
また、波形補正演算部24は、高周波生成部28で演算処理された、任意のn倍高調波の位相と振幅と、基本波成分とを入力し合算して、試験装置本体12の駆動部20への制御波形を生成する加算部(加算器)30を備えている。
【0067】
さらに、本発明の制御装置10は、
図1に示したように、加算部30に接続された可変ゲイン器32と、この可変ゲイン器32に接続され、試験装置本体12の駆動部20への制御波形(制御信号)を増幅するための増幅器(AMP)34が接続されている。
【0068】
また、本発明の制御装置10は、
図1の二点鎖線で示したように、ピーク演算部36を備えており、このピーク演算部36は、検出センサ18からの応答波形のピークを検出するためのピーク検出部38を備えている。
【0069】
また、ピーク演算部36は、制御部22とピーク検出部38の双方に接続された振幅指示値演算部40を備えている。この、振幅指示値演算部40は、制御部22に予め記憶された任意の周波数の1周期分のデータを得て振幅を演算処理し、ピーク演算部36において検出センサ18からの応答波形のピーク検出によって得られた振幅との差分を、加算部30からの制御波形に掛けるように構成されている。
【0070】
このように構成される本発明の制御装置10では、下記のような制御が行われるように構成されている。
【0071】
ところで、試験装置本体12の振幅制御を行う場合には、アクチュエータ14が、油圧式のアクチュエータである場合には、作動油の油圧共振とアクチュエータ14内にあるそれぞれの摺動部の影響により、速度波形、加速度波形が、
図2(B)のグラフで示したように歪むことになる。
【0072】
なお、
図2(A)は目標波形、
図2(B)は実際の計測波形、
図2(C)は本発明の制御装置10で補正後の波形を示している。
【0073】
すなわち、本発明の試験装置の制御装置10では、制御部22によって、試験装置本体12の駆動部20に対して、初期の制御波形を入力している。
【0074】
また、波形補正演算部24の高調波演算部26において、検出センサ18からの応答波形を、基本波成分と、任意のn倍高調波まで演算処理している。
【0075】
さらに、波形補正演算部24の高周波生成部28において、高調波演算部26で演算された、任意のn倍高調波について、その位相と振幅とを演算処理している。
【0076】
そして、波形補正演算部24の加算部30において、高周波生成部28で演算処理された、任意のn倍高調波の位相と振幅と、基本波成分とを入力し合算して、試験装置本体12の駆動部20への制御波形を生成している。
【0077】
具体的には、高調波演算部26において、任意のn倍高調波について、下記のように、フーリエ級数展開を行って、位相と振幅を求めている。
【0078】
先ず、計測波形f(t)を得たとすると、f(t)は、次の様な式で表現できる。
【数12】
【0079】
そして、計測波形f(t)のフーリエ級数展開を行えば、下記の式のようになる。
【数13】
【0080】
また、ここで、a
n、b
nは、それぞれ、
【数14】
であり、
Tは、加振周波数の1周期の時間、ω
0は加振周波数f
0[Hz]の角周波数ω
0=2πf
0である。
【0081】
そして、オイラーの公式を用いて、
【数15】
により、(1)式を置き換えると、計測波形f(t)は、下記の式のようになる。
【数16】
【数17】
【0082】
さらに、(2)式を負まで拡張すると(1)式から、a
n、b
nは、それぞれ、
【数18】
【数19】
となる。
【0083】
この時、
【数20】
【数21】
とすると、
計測波形f(t)は、下記の式のようになる。
【数22】
【0084】
そして、振幅F(n)を、
【数23】
とすると、振幅F(n)は、下記の式のようになる。
【数24】
【0085】
ここで、
【数25】
の考え方から(4)式で求まったそれぞれの高調波成分の振幅と位相は、
振幅は、
【数26】
位相は、
【数27】
から、
【数28】
となる。
【0086】
そして、求まった位相と振幅に基づいて、制御波形、
【数29】
が生成され、振幅ゲイン調整アンプへ出力される。
【0087】
また、本発明の試験装置の制御装置10では、ピーク演算部36の振幅指示値演算部40において、制御部22に予め記憶された任意の加振周波数の1周期分のデータを得て振幅を演算処理し、ピーク演算部36において検出センサ18からの応答波形のピーク検出によって得られた振幅との差分を、加算部30からの制御波形に掛けるように構成されている。
【0088】
具体的には、ピーク演算部36では、下記のような処理が行われる。すなわち、
図3の概略図に示したように、任意の周波数の1周期分のデータがメモリー42に記憶される。
【0089】
そして、最大値maxと最小値minから、
指令値AMP=(max−min)/2である。
【0090】
これに基づき、下記の式に基づいて、今回の振幅指令値AmpNewが計算処理される。
【数30】
【0091】
ここで、AmpNewは今回の振幅指令値、AmpOldは1つ前の振幅指令値、Amp Targetは目標振幅、Ampは計測振幅、GainFは振幅調整ゲインである。
【0092】
上記のように演算処理される本発明の試験装置の制御装置10は、具体的には、
図4、
図5に示したフローチャートのように制御される。
【0093】
先ず、
図4のステップS1において、制御が開始され、
図4、
図5のステップS2において、パラメータの設定がなされる。
【0094】
そして、このパラメータの設定は、
図5のフローチャートのように設定される。
【0095】
すなわち、
図5に示したように、ステップS3において、例えば、正弦波・三角波・矩形波などの加振する波形の設定が行われる。そして、ステップS4において、振幅値の設定が行われ、ステップS5において、例えば、変位・荷重・速度・加速度など制御目標の設定が行われる。
【0096】
次に、ステップS6において、パラメータの設定が完了し、フラグのON設定がなされる。
【0097】
そして、ステップS7において、振幅ゲイン調整アンプの初期値設定がなされ、ステップS8において、波形補正演算部24の高周波生成部28において、ユーザーなどが設定する数の任意のn倍高調波まで演算する、複数の高調波生成器28aについて、それぞれの高調波生成器28aの初期値設定がなされる。これにより、ステップS9において、パラメータ設定完了が完了する。
【0098】
一方、ステップS6において、パラメータの設定が完了し、フラグのON設定がなされると、
図4に示したように、ステップS10において、パラメータの設定が完了し、フラグのON設定がなされたか否かが判断される。
【0099】
そして、ステップS10において、パラメータの設定が完了し、フラグのON設定がなされたと判断された場合、
図4に示したように、ステップS11に進み、制御部22から初期指令信号の出力がなされる。
【0100】
一方、ステップS10において、パラメータの設定が完了せず、フラグのON設定がなされていないと判断された場合、再び、
図4、
図5のステップS2に戻り、パラメータの設定がなされる。
【0101】
次に、
図4に示したように、ステップS11において、制御部22から初期指令信号の出力がなされた後、ステップS12において、初期指令信号が、パワーコンバータを介して、制御対象である試験装置本体12の駆動部20へ、制御波形(制御信号)として入力される。
【0102】
そして、ステップS13において、試験装置本体12の検出センサ18からの応答波形について、波形補正演算部24の高調波演算部26において、上記で説明したように、フーリエ級数展開計算の演算が開始される。
【0103】
次に、ステップS14において、ユーザーなどが設定する数の任意の倍数まで演算したか否かが判断される。そして、ステップS14において、任意の倍数まで演算したと判断された場合には、ステップS15に進む。
【0104】
そして、ステップS15では、波形補正演算部24の高周波生成部28において、演算結果から、任意のn倍の高調波のそれぞれの位相と振幅が抽出される(上記式(5)と式(6)参照)。
【0105】
一方、ステップS14において、任意の倍数まで演算したと判断されなかった場合には、再び、ステップS14において、任意の倍数まで演算したか否かの判断が繰り返されるようになっている。
【0106】
そして、ステップS15で、高周波生成部28において、任意のn倍の高調波のそれぞれの位相と振幅が抽出された後、ステップS16において、制御目標(例えば、加速度180°、速度90°など)により、それぞれの高調波の位相と振幅が調整される。
【0107】
次に、ステップS17において、それぞれの高調波生成器28aに、ステップS16において求めた位相と振幅情報が入力される。
【0108】
そして、ステップS18において、それぞれの制御波形が、同時に加算部(加算器)30へ出力される(上記式(7)参照)。
【0109】
一方、ピーク演算部36では、ステップS13において、初期指令信号が、パワーコンバータを介して、制御対象である試験装置本体12の駆動部20へ、制御波形(制御信号)として入力された後、ステップS19へ進む。
【0110】
ステップS19では、ピーク検出部38において、試験装置本体12の検出センサ18からの応答波形から、現在の振幅(ピーク)が算出される。
【0111】
そして、ステップS20に進み、振幅指示値演算部40において、設定振幅との差が計算され、ステップS21において、先の差分を用いて振幅指令値の再計算が行われる。次に、ステップS22において、可変ゲイン器32のパラメータに先の計算結果が設定される(上記式(8)参照)。
【0112】
そして、
図4に示したように、ステップS18において、それぞれの制御波形が、同時に加算部(加算器)30へ出力された結果と、ステップS22において設定されたパラメータに基づいて、ステップS23において、可変ゲイン器32において、振幅が設定される。
【0113】
次に、ステップS24において、予め設定された回数、時間などの終了条件か否か判断され、終了条件と判断された場合には、ステップS25に進み、制御が終了される。一方、ステップS24において、終了条件でないと判断された場合には、ステップS13に再び戻って、指令信号が、パワーコンバータを介して、制御対象である試験装置本体12の駆動部20へ、制御波形(制御信号)として入力されて、制御が繰り返される。
【0114】
このように構成される本発明の試験装置の制御装置10によれば、従来の制御方法のように、フーリエ変換と逆フーリエ変換を対で行う必要がなく、計算処理数が減少して、制御装置の演算負荷が軽くなって、高性能で高価なマイクロプロセッサーユニット(MPU)が不要で、コストを低減することができる。
【0115】
また、任意のn倍高調波までの演算であり、余分な高調波成分が存在せず、誤差(歪)が生じるおそれがなく、テストピースに加える振動エネルギーの正確性が損なわれずに、正確な振動試験結果が得られる。
【0116】
さらに、従来の制御方法のように、補正に必要な目標波形が1周期となる加振周波数の周期時間以上の波形データ長分について、Δf毎の周波数特性を求める必要がなく、補正時間が短くなり、テストピースなどの状態変化が生じた場合にも、瞬時にその変化に対応できる。
【0117】
また、ピーク演算部36ピークの制御を行っているので、振幅誤差の補正を正確に行うことができ、正確な振動試験結果が得られる。
【0118】
図6は、本発明の試験装置の制御装置10による試験装置の制御方法を示すグラフで、
図6(A)は入力波形、
図6(B)は速度波形、
図6(C)は加速度波形を示すグラフである。
【0119】
図6(B)のC部分と、
図8(C)のD部分に示したように、本発明の試験装置の制御方法によれば、従来の制御方法の
図8(B)のA部分と、
図8(C)のB部分に比較して、極めて歪が減少している。
【0120】
また、本発明の試験装置の制御装置10によれば、例えば、計算ステップ数5000ステップ以内(20μ秒)(1サイクル)であり、常に対象の系を制御ループに取り込んでいるので、系の変化に対応できる。
【0121】
さらに、従来の試験装置100では、例えば、FFTを用いる場合、n=8とすると高速フーリエ変換(FFT)による計算回数が、229368回(計算式(N/2×log2(N)+(N/2-2))×4回)である。
【0122】
これに対して、本発明の試験装置の制御装置10によれば、例えば、第4高調波まで計算するとして、1波形のデータ数を1024として、基本波含めて計算する回数は、25600回であり、従来の試験装置100に比較して極めて短時間で処理が可能であることが分かる。
【0123】
なお、本発明の試験装置の制御装置10では、制御波形としては、例えば、正弦波、三角波、矩形波などに対して適用でき、何ら限定されるものではないが、正弦波の周期関数であるのが望ましい
【0124】
さらに、本発明の試験装置の制御装置10では、制御波形が、重畳された制御波形であっても使用することができる。例えば、2Hzの回転波形に、5Hzの荷重波形を重ねて試験する場合などにも適用することができる。
【0125】
また、本発明の試験装置の制御装置10では、アクチュエータ14としては、油圧式のアクチュエータに適用するのが望ましいが、例えば、電気式サーボモータなど電気式のアクチュエータにも適用することができる。
【0126】
さらに、本発明の試験装置の制御装置10では、上記実施例では、ピーク演算部36を設けたが、ピーク演算部36を設けないで処理することも可能である。
【0127】
以上、本発明の好ましい実施の態様を説明してきたが、本発明はこれに限定されることはなく、本発明の試験装置10は、試験装置として、例えば、自動車部品(駆動系や足回りの金属部品やゴム部品、ショックアブソーバなど)などの機械部品について、これらの自動車完成品について、さらに、土木関係(橋桁、橋梁や建物用の免震ゴムなど)の構造物について、材料試験・振動試験・疲労試験・特性試験などを行うための材料試験装置、振動試験装置、疲労試験装置など各種の試験装置に適用することが可能であり本発明の目的を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。