(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-73271(P2015-73271A)
(43)【公開日】2015年4月16日
(54)【発明の名称】オーバーモード音響反射体層を用いた温度補償型バルク弾性波デバイス
(51)【国際特許分類】
H03H 9/17 20060101AFI20150320BHJP
H03H 9/54 20060101ALI20150320BHJP
H03H 9/02 20060101ALI20150320BHJP
H03H 3/02 20060101ALI20150320BHJP
【FI】
H03H9/17 F
H03H9/54 Z
H03H9/02 N
H03H3/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】24
【出願形態】OL
【外国語出願】
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-202936(P2014-202936)
(22)【出願日】2014年10月1日
(31)【優先権主張番号】14/044,782
(32)【優先日】2013年10月2日
(33)【優先権主張国】US
(71)【出願人】
【識別番号】599034594
【氏名又は名称】トライクイント・セミコンダクター・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】TriQuint Semiconductor,Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】アイグナー、ロバート
(72)【発明者】
【氏名】タジク、アリレザ
(57)【要約】 (修正有)
【課題】オーバーモード音響反射体層を用いた温度補償型バルク弾性波デバイスを提供する。
【解決手段】温度補償型のバルク弾性波(BAW)デバイス100は、第1電極と、第2電極と、第1電極および第2電極の間に結合される圧電層112と、第2電極に結合され、温度補償を提供する反射体層を有し、BAWデバイス100の主共振周波数における音波の縦波波長の少なくとも半分の厚さを有する反射体スタック108と、を備えてもよい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バルク弾性波(BAW)デバイスであって、
第1電極と、
第2電極と、
前記第1電極および前記第2電極の間に結合される圧電層と、
前記第2電極に結合され、温度補償を提供する反射体層を有し、当該BAWデバイスの主共振周波数における音波の縦波波長の少なくとも半分の厚さを有する反射体スタックと、を備えるBAWデバイス。
【請求項2】
前記反射体層は、二酸化シリコン層を備える、請求項1に記載のBAWデバイス。
【請求項3】
当該BAWデバイスは、SMR(solidly mounted resonator)型であり、
前記反射体層は、二酸化シリコン層とタングステン層とが交互に積層された層を含む、請求項2に記載のBAWデバイス。
【請求項4】
前記反射体層は、前記反射体スタックの最上層である、請求項3に記載のBAWデバイス。
【請求項5】
前記厚さは、前記音波の縦波波長の約3/4から前記音波の縦波波長の約4/5の間である、請求項1に記載のBAWデバイス。
【請求項6】
前記反射体層は、BAWデバイスにおける音波のエネルギーの約30%を含むように構成される、請求項1に記載のBAWデバイス。
【請求項7】
前記反射体層は、前記反射体スタックの最上層であり、前記反射体スタックは、前記音波の縦波波長の少なくとも半分の厚さを有する別の反射体層をさらに含む、請求項1に記載のBAWデバイス。
【請求項8】
電極対と圧電層を有する共振器と、
前記共振器に結合され、複数のミラーモードを提供するためのオーバーモード構造となる最上層を含む反射体スタックと、を備えるバルク弾性波(BAW)デバイス。
【請求項9】
前記最上層は、当該BAWデバイスにおける音波のエネルギーの約20%以上を含むように構成される、請求項8に記載のBAWデバイス。
【請求項10】
前記最上層は、当該BAWデバイスの音波のエネルギーの約30%を含むように構成される、請求項9に記載のBAWデバイス。
【請求項11】
前記最上層は、当該BAWデバイスの主共振周波数における音波の縦波波長の少なくとも半分の厚さを有する、請求項8に記載のBAWデバイス。
【請求項12】
前記厚さは、前記音波の縦波波長の約3/4から前記音波の縦波波長の4/5の間である、請求項11に記載のBAWデバイス。
【請求項13】
前記最上層は、二酸化シリコン層を備える、請求項8に記載のBAWデバイス。
【請求項14】
当該BAWデバイスは、SMR(solidly mounted resonator)型であり、
前記反射体スタックは、二酸化シリコン層とタングステン層とが交互に積層された層を含む、請求項8に記載のBAWデバイス。
【請求項15】
前記反射体スタックは、オーバーモード構造となる別の層を含む、請求項8に記載のBAWデバイス。
【請求項16】
オーバーモード構造となる前記別の層は、当該BAWデバイスにおけるミラーモードの大きさの低減を助けるためのものである、請求項15に記載のBAWデバイス。
【請求項17】
最上部の反射体層は、第1の音響インピーダンスを有し、前記反射体スタックの別の層は、前記第1の音響インピーダンスよりも大きい第2の音響インピーダンスを有する、請求項8に記載のBAWデバイス。
【請求項18】
前記反射体スタックは、第1の音響インピーダンスを有する層と第2の音響インピーダンスを有する層とが交互に積層された層を含む、請求項16に記載のBAWデバイス。
【請求項19】
アンテナ構造と、
前記アンテナ構造に結合され、無線周波数信号を受信または送信するように構成され、温度補償型のバルク弾性波(BAW)デバイスを有するフィルタを含むトランシーバと、を備え、
前記BAWデバイスは、
音波の形態と電気的な形態との間でエネルギーを変換するように構成される共振器と、
前記共振器に結合され、当該BAWデバイスにおける音波のエネルギーの約20%以上を有するように構成される温度補償層を有する反射体と、
を有する、システム。
【請求項20】
前記温度補償層は、前記BAWデバイスの主共振周波数における音波の縦波波長の少なくとも半分の厚さを有する、請求項19に記載のシステム。
【請求項21】
前記反射体は、音波の縦波波長の少なくとも半分の厚さを有する別の温度補償層を含む、請求項19に記載のシステム。
【請求項22】
バルク弾性波(BAW)デバイスの製造方法であって、
基板を提供するステップと、
前記基板の上に複数の反射体層を形成するステップであって、最上部の反射体層が当該BAWデバイスの主共振周波数における音波の縦波波長の少なくとも半分の厚さを有するようにするステップと、
前記最上部の反射体層の上に共振器を形成するステップと、を備える方法。
【請求項23】
前記厚さが、前記音波の縦波波長の約3/4から前記音波の縦波波長の4/5の間である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記複数の反射体層を形成するステップは、前記音波の縦波波長の少なくとも半分の厚さを有する別の反射体層を形成するステップをさらに備える、請求項22に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施の形態は、一般に音響共振器の分野に関し、特に、オーバーモード(over-moded)音響反射体層を用いたバルク弾性波デバイスの温度補償に関する。
【背景技術】
【0002】
近年発表される無線通信の周波数帯域は、通過帯域から隣接帯域への非常に急勾配な遷移をフィルタに要求する。最も需要のある帯域は、実質的にゼロの温度ドリフトを有するように温度補償がなされている高性能フィルタによってのみ実現されるであろう。従来の温度補償技術は、様々な課題と関係する。
【図面の簡単な説明】
【0003】
実施の形態は、例示を目的とし、添付の図面の記載に制限されないことを目的として示される。添付の図面において、同様の符号は、同様の構成要素であることを示す。
【0004】
【
図1】いくつかの実施の形態に係る温度補償型バルク弾性波デバイスを示す図である。
【0005】
【
図2】いくつかの実施の形態に係る別の温度補償型バルク弾性波デバイスを示す図である。
【0006】
【
図3】いくつかの実施の形態に係る温度補償型バルク弾性波デバイスのインピーダンス特性を示すグラフである。
【0007】
【
図4】いくつかの実施の形態に係る温度補償型バルク弾性波デバイスの製造工程を示すフローチャートである。
【0008】
【
図5】いくつかの実施の形態に係る無線通信装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施例の様々な面は、他の当業者に本発明の要旨を伝えるために、当業者が一般に用いる用語を用いて記載される。しかしながら、記載されるいくつかの面のみを用いて代替的な実施の形態が実現されうることは、当業者にとって明らかであろう。説明を目的として、特定の装置および構成は、実施の形態の完全な理解を提供するために明らかにされる。しかしながら、代替的な実施の形態が、特定の詳細部分を用いることなく実現されうることは、当業者にとって明らかであろう。他の実施例において、周知な特徴は、実施例を不明瞭としないことを目的として、省略または単純化される。
【0010】
さらに、様々な工程は、複数の分離した工程として記載され、本開示の理解を最も助けるように順に記載される。しかしながら、記載の順序は、これらの工程が順序依存であることを示唆するものとして解釈されるべきではない。特に、これらの工程は、開示の順序で実行される必要はない。
【0011】
「一実施の形態において」の語は、繰り返し用いられる。この語は、一般には、同じ実施の形態を示さない。しかしながら、同じ実施の形態を示すこともある。「備える」、「有する」、「含む」の語は、文脈上別であると示さない限り、同義である。
【0012】
様々な実施の形態の結合に用いうる用語に対し、文脈上の明確性を与えるため、「A/
B」および「Aおよび/またはB」の語は、(A)、(B)または(AおよびB)を意味することとする。また、「A、Bおよび/またはC」の語は、(A)、(B)、(C)、(AおよびB)、(AおよびC)、(BおよびC)または(A、BおよびC)を意味する。
【0013】
「〜に結合される」の語は、ここでは、派生的に用いられる。「結合される」は、二以上の要素が物理的または電気的に直接接触することを意味しうる。しかしながら、「結合される」は、二以上の要素が互いに間接的に接触しつつ互いに協働または相互作用することも意味し、また、一以上の他の要素が、上述の意味で互いに結合された要素間において結合または接続されることを意味しうる。
【0014】
様々な実施の形態において、「第2層の上に形成される第1層」の語は、第2層の上方に第1層が形成されることを意味し、第1層の少なくとも一部が、第2層の少なくとも一部に直接接触(例えば、物理的および/または電気的な直接接触)または間接接触する(例えば、第1層と第2層の間に一以上の他の層を有する)ことを意味しうる。
【0015】
本発明の実施の形態は、オーバーモード音響反射体層を用いた温度補償型(TC;temperature compensated)のバルク弾性波(BAW;bulk acoustic wave)デバイスを説明する。いくつかの実施の形態において、上部反射体層の厚さは、ある時点においてBAWデバイスを通過する弾性波エネルギーの約30%が含まれるように調整されうる。これは、従来のTCBAWデバイスに関係する多くの欠点なしに望ましい温度補償を提供しうる。望ましい温度補償は、温度ドリフトが低減または除去されることであると理解されうる。温度ドリフトは、温度変化に関連するBAWデバイスの動作特性の変化でありうる。
【0016】
図1は、様々な実施の形態に係るBAWデバイス100を示す。BAWデバイス100は、反射体スタック108に結合される共振器104を含んでもよい。反射体スタック108は、基板112の上に配置されてもよい。BAWデバイス100は、いくつかの実施の形態において、SMR(solidly mounted resonator)型と称されるものであってもよい。
【0017】
共振器104は、電極対の間に結合される圧電層を一般に含んでもよい。共振器104は、音波の形態と電気的な形態の間でエネルギーを変換するように構成される電気機械的トランスデューサであってもよい。共振器104は、共振周波数といわれる特定の周波数において、他の周波数よりも大きな振幅で振動しうる。共振器104は、振動に対応する電気信号を生成し、または、逆に電気信号に対応する振動を生成しうる。
【0018】
いくつかの実施の形態において、圧電層は窒化アルミニウム(AlN)層112を含んでもよく、上部電極はアルミニウム銅(AlCu)層116およびタングステン(W)層120を含んでもよく、下部電極はAlCu層124およびW層128を含んでもよい。
【0019】
上部や下部などの方向を特定する記載は、添付の図面による説明を助けるために与えられるということが留意されうる。これらの記載は、本発明の実施の形態をいかなる方法によっても限定することを意図しない。また、BAWデバイス100を構成する層に含まれる特定の材料が説明されうるが、他の実施の形態において、追加または代替の材料が用いられうる。一般に、材料の選択は、特定の実施の形態における具体的詳細に基づいてもよいし、性能、製造可能性、信頼性などの検討事項に基づいて選択されてもよい。
【0020】
いくつかの実施の形態において、上部電極の上に絶縁層が形成されてもよい。絶縁層は、例えば、窒化シリコン(SiN)層132であってもよい。
【0021】
いくつかの実施の形態において、反射体108は、材料に関連する音速や質量密度の違い等に起因して異なる音響インピーダンスを有する層を含む音響ブラッグ反射体であってもよい。例えば、いくつかの実施の形態において、反射体108は、二酸化シリコン(SiO
2)層とW層とが交互に積層された層を含んでもよい。SiO
2層は相対的に低い音響インピーダンスを有してもよく、一方、W層は相対的に高い音響インピーダンスを有してもよい。図示されるように、反射体108は、SiO
2層136、W層140、SiO
2層144、W層148およびSiO
2層152を含んでもよい。
図1においてBAWデバイス100の右側にある目盛りは、基板112からの概算距離を10
−6m(メートル)の単位で表す。
【0022】
従来のBAWデバイスにおいて、反射体を構成する層は波長の約1/4の厚さを有し、例えば圧電薄膜共振器(FBAR;film bulk acoustic resonator)において見られる自由表面に匹敵する性能を提供しうる。以下において、波長とは、BAWデバイスの主共振周波数における音波の縦波波長を称することがある。従来のBAWデバイスにおいて波長の約1/4の厚さを有する最上部のSiO
2層は、音波のエネルギーの約10%を有し、少なくともいくつかの温度補償効果を提供しうる。
【0023】
従来のTCBAWデバイスは、音波のエネルギー(以下、「音響エネルギー」という)の残りの20%を蓄積するであろうSiO
2層を共振器の中に与えうる。共振器の中にSiO
2層を設けることは、カップリング係数に劇的な影響を与えうる。これは、圧電層を挟んで利用可能な駆動電圧を低下させる容量分圧器を構成するSiO
2の誘電的な特質に起因しうる。このようにして、温度補償に必要となるSiO
2層に蓄積されるエネルギーと、温度補償に必要ではないSiO
2層を挟んで失われる駆動電圧の双方により、カップリング係数が低減される。
【0024】
さらに、共振器に薄いSiO
2層を設けることは、課題を処理することにも関係しうる。例えば、周波数および周波数の温度係数(TCF;temperature coefficient of frequency)の深刻な変動を引き起こすこととなる厚さや材料のパラメータの小さな変動に伴って、薄いSiO
2層が非常に敏感になりうる。
【0025】
さらに、薄いSiO
2層が音響エネルギーの20%を有することは、非常に高いエネルギー密度をもたらしうる。これは、他の全ての層における応力を超える機械的な応力を薄いSiO
2層にもたらすこととなり、その結果、より高い送信パワーでの動作時のデバイスの信頼性を低下させうる。
【0026】
共振器層の変更とは対照的に、BAWデバイス100は、音響エネルギーの約30%を含むように反射体108のSiO
2層136を変更することにより、望ましい温度補償を提供しうる。立方メートルあたりのジュール(J/m
3)で測定されるBAWデバイス100の内部に分布する音響エネルギーは、ライン156により表される。SiO
2層136の内部の音響エネルギーは、BAWデバイス100を通過する全音響エネルギーの30%を示す。いくつかの実施の形態において、SiO
2層136は、全音響エネルギーの約20%以上を含んでもよい。
【0027】
いくつかの実施の形態において、SiO
2層136が音響エネルギーの30%を含むことは、波長の約1/2以上の厚さを有する層を提供することによりなされてもよい。ここに記載する厚さは、基板の主面に垂直な方向の層の寸法であってもよい。これは、図示されるように、上方向であってもよい。
【0028】
いくつかの実施の形態において、SiO
2層136の厚さは、約3/4波長から4/5波長の間であってもよい。これは、SiO
2層136をオーバーモード構造にしうる。BAWデバイス100の動作周波数において、共振器104を構成する層などのSiO
2層136よりも上方に位置する層における音響エネルギー分布は変化しないかもしれない。したがって、共振器104の適切な動作は維持されうる。
【0029】
従来のTCデバイスの共振器における薄いSiO
2層とは対照的に、反射体108における相対的に厚いSiO
2層136は、その厚さが初めから終わりまで非常に均質であり、全てのパラメータにおいて十分に制御されうる。さらに、層136の厚さは、より大きな領域にわたってエネルギーを分散させ、その結果、従来のTCデバイスの薄いSiO
2層と同じ程度の応力を防ぎうる。
【0030】
いくつかの実施の形態に係るBAWデバイス100の動作の詳細は、以下に示されうる。BAWデバイス100は、従来のTCBAWデバイスにおける約1000のQ値に対し、約1700のQ値を有しうる。従来のTCBAWデバイスと比べて増大したQ値は、従来のTCBAWデバイスでされているようにSiO
2デバイスの上に上部電極を成長させることに関係する課題から生じうる。対照的に、本発明の実施の形態は、非常に高いQ値(例えば、約2000)と関係しうる従来の温度補償のないSMR型のBAWデバイスにて用いられるものと同じインターフェースの上に全ての層を成長させる。
【0031】
BAWデバイス100は、従来のTCBAWデバイスにおける約3.5%のカップリング効率k
2effに対し、約5%のk
2effを有しうる。従来のTCBAWデバイスと比べて増大したカップリング効率は、BAWデバイス100が共振器104内のSiO
2層を挟んだ駆動電圧を失わないという事実に部分的に由来しうる。
【0032】
いくつかの実施の形態において、BAWデバイス100の増大したカップリング効率は、例えば、進化型地上無線アクセス(E−UTRA)のバンド7といった、より高い相対的な帯域幅条件を有する帯域にとって十分に広い、調和した通過帯域の実現を助けうる。
【0033】
BAWデバイス100は、約−2ppm/℃から0ppm/℃の間のTCFを有しうる(これに対し、従来のTCBAWデバイスでは約−10ppm/℃から0ppm/℃の間のTCFであり、従来の温度補償のないSMR型のBAWデバイスでは約−17ppm/℃のTCFである)。
【0034】
いくつかの場合において、SMR型のBAWデバイスにおける最上部の反射体層は、主動作周波数よりも典型的には50%高い周波数における追加の共鳴モードを生じうる。このモードは、時に、ミラーモードと称されうる。たいていの場合、このミラーモードは、フィルタにおいて何らかの問題を生じさせるには小さすぎる。しかしながら、SiO
2層136に上述した厚さを与えた場合、一以上のミラーモードを有し、その結果、「オーバーモード(over-moded)」となりうる。具体的には、SiO
2層136の厚さを例えば3/4波長に設定した場合、SiO
2層136は、主動作周波数よりも約30%低い周波数における一のミラーモードと、主動作周波数よりも約30%高い周波数における別のミラーモードとを含みうる。双方のミラーモードは、従来のSMR型のBAWフィルタにおけるミラーモードよりも顕著でありうる。本発明の実施の形態は、これらのミラーモードが特定のフィルタ用途において問題となる場合に、これらに対処するように構成されうる。
【0035】
図2は、いくつかの実施の形態に係るBAWデバイス200を示す。BAWデバイス200は、本明細書に記載される相違点を除いて、BAWデバイス100と同様であってもよい。
【0036】
BAWデバイス200は、反射体スタック208の最上層として、BAWデバイス100と同様に、SiO
2層236などのオーバーモード層を含んでもよい。しかしながら、BAWデバイス200は、例えばSiO
2層244などの別のオーバーモード層を含んでもよい。この実施の形態において、SiO
2層244は、約1/2波長以上の厚さを有してもよい。いくつかの実施の形態において、厚さは、約3/4波長から4/5波長の間であってもよい。BAWデバイス200の望ましい動作に依存して、SiO
2層244の厚さはSiO
2層236の厚さと同一または同様であってもよいし、SiO
2層236の厚さと異なっていてもよい。
【0037】
最上部の反射体層に加えて、反射体層としてオーバーモードとなる厚さを選択することにより、存在しうる任意のミラーモードの強度の低減を助けうる。例として、
図3は、反射体スタックに一つのオーバーモード層を有するBAWデバイス100などのBAWデバイスと、反射体スタックに二つのオーバーモード層を有するBAWデバイスのインピーダンス特性をそれぞれ表すグラフ300および304を示す。
【0038】
グラフ300において、第1ミラーモード308は、メインモード312の約1GHz下に見ることができる。グラフ300は、メインモード312の約800MHz上に生じうる第2ミラーモード316も示す。
【0039】
グラフ304も同様に、第1ミラーモード320、メインモード324、第2ミラーモード328を示す。グラフ304のモードは、グラフ300の対応するモードとほぼ同じ周波数に見られる。しかしながら、図示されるように、ミラーモード320および328は、ミラーモード308および316と比べて低減された強度を有する。この強度の低減は、二つのオーバーモード層間での相互作用に起因しうる。この相互作用は、これらのモードをさらに強度の低いサブモードに分離しうる。例えば、ミラーモードの周波数に存在する音響エネルギーは、基板に向かって漏れ出すことができ、ミラーモードにおけるより低いQ値につながる。
【0040】
BAWデバイス200が別のオーバーモード反射体層を提供してミラーモードの大きさの低減を助ける一方で、他の実施の形態は、寄生通過帯域の生成を避けるため、より少ない程度によりSiO
2反射体層の厚さを調整しうる。
【0041】
図4は、いくつかの実施の形態に係る製造工程を説明するフローチャート400を示す。いくつかの実施の形態において、この製造工程は、BAWデバイス100または200をもたらしうる。
【0042】
404において、工程は、基板を提供するステップを含んでもよい。基板は、石英、ガラス、アルミナ、サファイアまたはシリコンを含むいかなる種類の材料を含んでもよいが、これらに限られるものではない。
【0043】
408において、工程は、基板の上に反射体層を形成するステップを含んでもよい。上述したように、反射体層は、音響インピーダンスの低い層と高い層とを交互に含んでもよい。いくつかの実施の形態において、低音響インピーダンスの反射体層はSiO
2を含んでもよく、一方、高音響インピーダンスの反射体層はWを含んでもよい。いくつかの実施の形態において、音響反射体は、Al合金、AlN、炭素ドープのSiO
2、フッ素化されたSiO
2、モリブデン(Mo)、ダイアモンドライクカーボン(DLC)、酸化タンタル(Ta
2O
5)、酸化ハフニウム(HfO
2)を含んでもよい。
【0044】
反射体層の少なくとも一つは、オーバーモード層であってもよい。いくつかの実施の形態において、一以上の低音響インピーダンス層は、オーバーモード層であってもよい。様々な実施の形態において、最上部の反射体層は、一以上の追加のオーバーモード層を有して、もしくは、有さずに、オーバーモードとなってもよい。上述したように、オーバーモード反射体層は、約1/2波長よりも大きく、いくつかの実施の形態において約3/4波長から4/5波長の間の厚さを有する層の形成により形成されうる。
【0045】
様々な実施の形態において、反射体層は、成長、堆積、スパッタ、または、いくつかの他の適切な製造プロセスにより形成されてもよい。
【0046】
412において、工程は、反射体層の上に共振器を形成するステップを含んでもよい。共振器を形成するステップは、最上部の反射体層の上に一以上の下部電極層を形成するステップと、下部電極の上に圧電層を形成するステップと、圧電層の上に一以上の上部電極層を形成するステップと、を含んでもよい。
【0047】
様々な実施の形態において、共振器層は、成長、堆積、スパッタ、または、いくつかの他の適切な製造プロセスにより形成されてもよい。共振器層および反射体層の順序は、温度補償のないSMRBAWデバイスのそれと同様であってもよい。したがって、層間のインターフェースも同様であってよいし、同様の製造プロセスの使用が許容されてもよい。
【0048】
様々な実施の形態において、一以上の電極層はW層およびAlCu層を含んでもよく、圧電層はAlNを含んでもよい。他の実施の形態では、共振器層のために他の材料を利用してもよい。
【0049】
BAWデバイス100または200などの温度補償されたBAWデバイスは、例えば
図5に示される無線通信装置500を含む、数多くの実施の形態に用いられうるフィルタに実装されてもよい。様々な実施の形態において、無線通信装置500は、携帯電話、ページングデバイス、パーソナルデジタルアシスタント、テキストメッセンジャー装置、ポータブルコンピュータ、基地局、レーダ、衛星通信装置、その他、これらに限定されないRF信号を無線により送信および/または受信できるいかなる他の装置であってもよい。
【0050】
無線通信装置500は、少なくとも図示されるように互いに結合される、アンテナ構造504、デュプレクサ508、トランシーバ512、メインプロセッサ516およびメモリ520を有してもよい。
【0051】
メインプロセッサ516は、無線通信装置500の全体的な動作を制御するために、メモリ520に記憶される基本的なOS(operating system)プログラムを実行してもよい。例えば、メインプロセッサ516は、トランシーバ512による信号の受信および送信を制御してもよい。メインプロセッサ516は、メモリ520に常駐する他のプロセスやプログラムを実行する能力を有してもよく、実行するプロセスの要求に応じて、データをメモリ520に移動したり、メモリ520から取り出したりしてもよい。
【0052】
トランシーバ512は、デュプレクサ508およびアンテナ構造504を介してRF信号を送信し、送信用データを通信するための送信機524を含んでもよい。トランシーバ512は、デュプレクサ508およびアンテナ構造504からのRF信号を受信し、受信用データを通信するための受信機528を追加的/代替的に含んでもよい。送信機524および受信機528は、個別のフィルタ532および536を含んでもよい。フィルタ532および536は、それぞれのフィルタに採用される機能を得るために選択された温度補償型のBAWデバイスを有してもよい。例えば、いくつかの実施の形態において、フィルタ532および536は、一以上の並列または直列のBAWデバイスに結合される一以上のシリーズBAWデバイスを含むラダーフィルタであってもよい。
【0053】
様々な実施の形態において、アンテナ構造504は、例えば、ダイポールアンテナ、モノポールアンテナ、パッチアンテナ、ループアンテナ、マイクロストリップアンテナまたはRF信号の無線(OTA)送信/受信に適した、いかなる種類のアンテナを含む、一以上の指向性および/または無指向性アンテナを含んでもよい。
【0054】
本開示は、上述の実施の形態に関して記載されるが、本開示の範囲を逸脱しない限りにおいて、同様の目的を実現すると考えられる幅広い種類の代替的および/または等価な実施の形態または実施により、上述した特定の実施の形態が置換されうることは、当業者にとって明らかであろう。当業者であれば、本開示が示唆するところにより、幅広い種類の実施の形態が実際されうることは容易に理解できるであろう。本記載は、制限的に考慮されるのではなく、例示としてみなされることを意図する。
【手続補正書】
【提出日】2014年12月1日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バルク弾性波(BAW)デバイスであって、
第1電極と、
第2電極と、
前記第1電極および前記第2電極の間に結合される圧電層と、
前記第2電極に結合され、温度補償を提供する反射体層を有し、当該BAWデバイスの主共振周波数における音波の縦波波長の少なくとも半分の厚さを有する反射体スタックと、を備えるBAWデバイス。
【請求項2】
前記反射体層は、二酸化シリコン層を備える、請求項1に記載のBAWデバイス。
【請求項3】
当該BAWデバイスは、SMR(solidly mounted resonator)型であり、
前記反射体層は、二酸化シリコン層とタングステン層とが交互に積層された層を含む、請求項2に記載のBAWデバイス。
【請求項4】
前記反射体層は、前記反射体スタックの最上層である、請求項3に記載のBAWデバイス。
【請求項5】
前記厚さは、前記音波の縦波波長の約3/4から前記音波の縦波波長の約4/5の間である、請求項1から4のいずれか一項に記載のBAWデバイス。
【請求項6】
前記反射体層は、BAWデバイスにおける音波のエネルギーの約30%を含むように構成される、請求項1から5のいずれか一項に記載のBAWデバイス。
【請求項7】
前記反射体層は、前記反射体スタックの最上層であり、前記反射体スタックは、前記音波の縦波波長の少なくとも半分の厚さを有する別の反射体層をさらに含む、請求項1から6のいずれか一項に記載のBAWデバイス。
【請求項8】
電極対と圧電層を有する共振器と、
前記共振器に結合され、複数のミラーモードを提供するためのオーバーモード構造となる最上層を含む反射体スタックと、を備えるバルク弾性波(BAW)デバイス。
【請求項9】
前記最上層は、当該BAWデバイスにおける音波のエネルギーの約20%以上を含むように構成される、請求項8に記載のBAWデバイス。
【請求項10】
前記最上層は、当該BAWデバイスの音波のエネルギーの約30%を含むように構成される、請求項9に記載のBAWデバイス。
【請求項11】
前記最上層は、当該BAWデバイスの主共振周波数における音波の縦波波長の少なくとも半分の厚さを有する、請求項8から10のいずれか一項に記載のBAWデバイス。
【請求項12】
前記厚さは、前記音波の縦波波長の約3/4から前記音波の縦波波長の4/5の間である、請求項11に記載のBAWデバイス。
【請求項13】
前記最上層は、二酸化シリコン層を備える、請求項8から12のいずれか一項に記載のBAWデバイス。
【請求項14】
当該BAWデバイスは、SMR(solidly mounted resonator)型であり、
前記反射体スタックは、二酸化シリコン層とタングステン層とが交互に積層された層を含む、請求項8から13のいずれか一項に記載のBAWデバイス。
【請求項15】
前記反射体スタックは、オーバーモード構造となる別の層を含む、請求項8から14のいずれか一項に記載のBAWデバイス。
【請求項16】
オーバーモード構造となる前記別の層は、当該BAWデバイスにおけるミラーモードの大きさの低減を助けるためのものである、請求項15に記載のBAWデバイス。
【請求項17】
最上部の反射体層は、第1の音響インピーダンスを有し、前記反射体スタックの別の層は、前記第1の音響インピーダンスよりも大きい第2の音響インピーダンスを有する、請求項8から16のいずれか一項に記載のBAWデバイス。
【請求項18】
前記反射体スタックは、第1の音響インピーダンスを有する層と第2の音響インピーダンスを有する層とが交互に積層された層を含む、請求項16に記載のBAWデバイス。
【請求項19】
アンテナ構造と、
前記アンテナ構造に結合され、無線周波数信号を受信または送信するように構成され、温度補償型のバルク弾性波(BAW)デバイスを有するフィルタを含むトランシーバと、を備え、
前記BAWデバイスは、
音波の形態と電気的な形態との間でエネルギーを変換するように構成される共振器と、
前記共振器に結合され、当該BAWデバイスにおける音波のエネルギーの約20%以上を有するように構成される温度補償層を有する反射体と、
を有する、システム。
【請求項20】
前記温度補償層は、前記BAWデバイスの主共振周波数における音波の縦波波長の少なくとも半分の厚さを有する、請求項19に記載のシステム。
【請求項21】
前記反射体は、音波の縦波波長の少なくとも半分の厚さを有する別の温度補償層を含む、請求項19または20に記載のシステム。
【請求項22】
バルク弾性波(BAW)デバイスの製造方法であって、
基板を提供するステップと、
前記基板の上に複数の反射体層を形成するステップであって、最上部の反射体層が当該BAWデバイスの主共振周波数における音波の縦波波長の少なくとも半分の厚さを有するようにするステップと、
前記最上部の反射体層の上に共振器を形成するステップと、を備える方法。
【請求項23】
前記厚さが、前記音波の縦波波長の約3/4から前記音波の縦波波長の4/5の間である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記複数の反射体層を形成するステップは、前記音波の縦波波長の少なくとも半分の厚さを有する別の反射体層を形成するステップをさらに備える、請求項22または23に記載の方法。
【外国語明細書】