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特開2015-73450ノングルテン米粉パン生地及びその製造方法、並びにノングルテン米粉パンの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-73450(P2015-73450A)
(43)【公開日】2015年4月20日
(54)【発明の名称】ノングルテン米粉パン生地及びその製造方法、並びにノングルテン米粉パンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A21D 2/36 20060101AFI20150324BHJP
   A21D 13/04 20060101ALI20150324BHJP
【FI】
   A21D2/36
   A21D13/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-210513(P2013-210513)
(22)【出願日】2013年10月7日
(71)【出願人】
【識別番号】502175402
【氏名又は名称】株式会社サラ秋田白神
(71)【出願人】
【識別番号】513209132
【氏名又は名称】一般社団法人日本米粉クッキング協会
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100109449
【弁理士】
【氏名又は名称】毛受 隆典
(74)【代理人】
【識別番号】100111464
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 悦子
(74)【代理人】
【識別番号】100177149
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 浩義
(74)【代理人】
【識別番号】100183140
【弁理士】
【氏名又は名称】小原 深美子
(72)【発明者】
【氏名】大塚 節子
【テーマコード(参考)】
4B032
【Fターム(参考)】
4B032DB01
4B032DG08
4B032DP13
4B032DP33
4B032DP40
(57)【要約】
【課題】保水性に優れる無添加のノングルテン米粉パン生地及びその製造方法、並びにノングルテン米粉パンの製造方法を提供する。
【解決手段】米粉及び水、並びに米ペーストからなる群より選ばれる米成分、α化米粉、砂糖、並びに塩を含有する組成物を混捏して混捏物を得、該混捏物を該混捏物の凍結温度以下で熟成させることにより、保水性に優れるノングルテン米粉パン生地を製造する。また、このノングルテン米粉パン生地を解凍して温度調整し、パン酵母を加えて発酵させ、加熱調理してノングルテン米粉パンを製造する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
米粉及び水、並びに米ペーストからなる群より選ばれる米成分、α化米粉、砂糖、並びに塩を含有する組成物を混捏して混捏物を得、該混捏物を該混捏物の凍結温度以下で熟成させることにより得られる、ノングルテン米粉パン生地。
【請求項2】
前記混捏物は、酵母を含有しない、請求項1に記載のノングルテン米粉パン生地。
【請求項3】
前記米成分は米粉及び水であり、該米粉と前記α化米粉の重量比は100:3〜100:10であり、該米粉と該水の重量比は100:75〜100:90である、請求項1又は2に記載のノングルテン米粉パン生地。
【請求項4】
前記の、混捏物の凍結温度以下で熟成させることは、−18℃以下の低温下で20分間以上熟成させることである、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のノングルテン米粉パン生地。
【請求項5】
米粉及び水、並びに米ペーストからなる群より選ばれる米成分、α化米粉、砂糖、並びに塩を含有する組成物を混捏する混捏工程と、得られた混捏物を該混捏物の凍結温度以下で熟成させる熟成工程とを有する、ノングルテン米粉パン生地の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載のノングルテン米粉パン生地を解凍する解凍工程と、解凍したパン生地に酵母を加えて捏ね上がりの生地の温度が28〜35℃となるように混捏した後、28〜35℃の温度下で発酵させる発酵工程と、発酵させたパン生地を加熱調理する加熱調理工程とを有する、ノングルテン米粉パンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米粉を使用した米粉パン生地及びその製造方法、並びに米粉パンの製造方法に関し、より詳細には、小麦粉や小麦由来のグルテンを含まず、保水性に優れるノングルテン米粉パン生地とその製造方法、該生地を用いたノングルテン米粉パンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
米の消費拡大による食糧自給率の向上、将来的な食料不足の解決などを目的として、米粉を利用した食品の開発が奨励されている。特に、小麦粉の代替として米粉を使用した米粉パンは、小麦粉に対してアレルギーを示す人向けの食品としても注目を集め、そのような米粉パンの製造方法が提案されている。例えば、特許文献1には、α化米粉を特定の割合で含む米粉を使用したノングルテン米粉パン生地、及びそれを用いたノングルテン米粉パンの製造方法が記載されている。
【0003】
また、ホームベーカリー機能付きの炊飯器などを利用して家庭などで米粉パンを焼く人も増えており、そのためのプレミックス粉や生地も市販されている。しかし、市販のプレミックス粉や生地には、小麦由来のグルテンや増粘剤が添加されているため、家庭などで無添加の米粉100%のパンを作るのは未だ困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−211920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に米粉は粒子が硬い。また、米粉は水を吸収してα化デンプンを形成し易いものの、水に対する親和性に劣り、水を放出しやすいため、α化デンプンがβ化(老化)し易いという性質を有する。それ故、生地を良好に発酵させるためには、米粉に充分に水を浸透させ(水和させ)、生地の保水性を高めることが必要となる。この保水性を高めるという点で、特許文献1のパン生地には、更なる改善が必要である。また、米粉は種類によって吸水力が異なるため、各種類に応じた水分調整が必要となる。そのため、プレミックス粉を用いる際には水分調整に気を付けなければならず、家庭などで米粉パンを焼くことには依然として煩雑さが残る。
【0006】
本発明は、かかる従来技術の課題に鑑み、保水性に優れる無添加のノングルテン米粉パン生地を用いて、家庭などでも簡単においしくノングルテン米粉パンを焼くことができる、ノングルテン米粉パン生地及びその製造方法、並びにノングルテン米粉パンの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、米粉に小麦由来のグルテンや増粘剤を添加する一般的な方法とは異なり、特定の割合のα化米粉を含む米粉を用いることで、米粉100%のノングルテン米粉パン生地作りに成功した。また、本発明者は、米粉の水和を促進し、ノングルテン米粉パン生地の保水性を高める方法について検討を重ねた結果、生地を生地の凍結温度以下で熟成させることにより生地の保水性が高まることを確認した。さらに、本発明者は、パン酵母を加えずに生地の凍結温度以下で熟成させることで、凍結によるパン酵母の発酵力低下が起こらず、保存性に優れるノングルテン米粉パン生地を得ることができた。また、本発明者は、米粉及び水の代わりに米ペーストを用いても、同様のノングルテン米粉パン生地が得られることを確認した。こうして得られたノングルテン米粉パン生地を用いて製造したノングルテン米粉パンは、熟成・解凍工程を経ずに製造した同質の生地を用いた場合と比較して、外観、風味、及び食感がいずれも改良されることを本発明者は確認した。
【0008】
即ち、本発明は、以下の態様を含む。
(1)米粉及び水、並びに米ペーストからなる群より選ばれる米成分、α化米粉、砂糖、並びに塩を含有する組成物を混捏して混捏物を得、該混捏物を該混捏物の凍結温度以下で熟成させることにより得られる、ノングルテン米粉パン生地。
(2)前記混捏物は、酵母を含有しない、前記(1)に記載のノングルテン米粉パン生地。
(3)前記米成分は米粉及び水であり、該米粉と前記α化米粉の重量比は100:3〜100:10であり、該米粉と該水の重量比は100:75〜100:90である、前記(1)又は(2)に記載のノングルテン米粉パン生地。
(4)前記の、混捏物の凍結温度以下で熟成させることは、−18℃以下の低温下で20分間以上熟成させることである、前記(1)乃至(3)のいずれか1つに記載のノングルテン米粉パン生地。
(5)米粉及び水、並びに米ペーストからなる群より選ばれる米成分、α化米粉、砂糖、並びに塩を含有する組成物を混捏する混捏工程と、得られた混捏物を該混捏物の凍結温度以下で熟成させる熟成工程とを有する、ノングルテン米粉パン生地の製造方法。
(6)前記(1)乃至(4)のいずれか1つに記載のノングルテン米粉パン生地を解凍する解凍工程と、解凍したパン生地に酵母を加えて捏ね上がりの生地の温度が28〜35℃となるように混捏した後、28〜35℃の温度下で発酵させる発酵工程と、発酵させたパン生地を加熱調理する加熱調理工程とを有する、ノングルテン米粉パンの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、保水性に優れる無添加のノングルテン米粉パン生地を用いて、家庭などでも簡単においしくノングルテン米粉パンを焼くことができる、ノングルテン米粉パン生地及びその製造方法、並びにノングルテン米粉パンの製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係るノングルテン米粉パン生地及びノングルテン米粉パンの製造方法を示す工程図である。
図2】実施例1及び2、並びに比較例1〜3で得られた各ノングルテン米粉パンの評価用試料パンの写真である。
図3】実施例1及び2、並びに比較例1〜3で得られた各ノングルテン米粉パンの断面の写真である。
図4】実施例1及び2、並びに比較例1で得られた各ノングルテン米粉パンの断面、並びに定規を並べた写真である。
図5】実施例1及び2、並びに比較例1〜3で得られた各ノングルテン米粉パンの側面の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態について図1に基づいて詳細に説明するが、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。また、幅方向、高さ方向、厚み方向等の方向を示す用語は、説明のために用いるのであって、本発明を限定する趣旨ではない。
【0012】
本発明に係るノングルテン米粉パン生地は、米成分として米粉及び水を含有し、その他の成分としてα化米粉、砂糖、及び塩を含有する組成物を混捏して得られる混捏物を、この混捏物の凍結温度以下で熟成させることで得られるものである。
【0013】
本発明に係る「米粉」とは、生米の粉である。生米の品種や性状に特に制限はなく、生米を各種公知の粉砕法で粉末化した生米粉が使用できる。米粉の粉末の粒径は、75μm未満であることが好ましい。また、生米を粉砕する際に発生する熱等により割れや傷ができたデンプン粒の割合(デンプンの損傷率)が高いと、膨張率が悪くなるなど、米粉パンの品質に大きく影響する。そのため、市販の測定キット等を用いてデンプンの損傷率を測定し、その値が5%以下である米粉が好ましい。市販の測定キットとしては、例えば、Megazyme製 STARCH DAMAGE ASSAY KITが挙げられる。
【0014】
本発明に係る「α化米粉」とは、生米の粉に水を加えて加熱処理した米粉である。このα化米粉は、糊状の強いデンプンネットワークを形成し、生地の発酵によって生じるガスの気泡を閉じ込める働きをする。そのため、α化米粉はグルテンの代用として使用でき、小麦アレルギーの人に対する米粉パンの安全性がさらに高まるといえる。強固なデンプンネットワークが形成されるためには、米粉とα化米粉が適切な割合で混合されること、米粉が十分に水和されること、及び生地の温度を適切な温度に調整することが重要である。
【0015】
本発明では、米粉、α化米粉、砂糖、塩、及び水を、好ましくは下記に記載する割合で用意し、これらを混捏する。混捏は、これに限定されるものではないが、通常室温にて10〜20分間行えばよい。デンプンのネットワークが形成され、生地が糊状となるまで混捏を行う。
【0016】
本発明では、α化米粉は、米粉100重量部に対し、3〜10重量部の割合で用いることが好ましく、4〜8重量部であるとより好ましく、4〜6重量部であるとさらに好ましい。α化米粉の割合が上記の下限以上であると、生地が充分に糊化するので好ましい。また、α化米粉の割合が上記の上限以下であると、良好な粘りと堅さの生地が得られるので好ましい。
【0017】
水は、米粉100重量部に対し、通常75〜90重量部の割合で用いることが好ましく、80〜90重量部であるとより好ましく、85〜90重量部であるとさらに好ましい。ここで、水の割合が上記の下限以上であると、生地にパン酵母を均一に混ぜ易くなり、充分な発酵が得られる点で好ましい。また、水の割合が上記の上限以下であると、発酵によるガスの気泡を閉じ込めるのに充分な強さの生地が得られる点で好ましい。
【0018】
砂糖及び塩は、米粉100重量部に対し、それぞれ3〜20重量部、1〜2重量部の割合で用いるが、これはあくまで目安であり、好みに応じて適宜変更することができる。
【0019】
また、本発明に係るノングルテン米粉パン生地は、米成分として米ペーストを含有し、その他の成分としてα化米粉、砂糖、及び塩を含有する組成物を混捏して得られる混捏物を、この混捏物の凍結温度以下で熟成させることでも得られる。
【0020】
本発明に係る「米ペースト」とは、水に浸して柔らかくなった精米を磨り潰し、加熱せずにペースト状にしたものであり、粉砕時に発生する摩擦熱によるデンプンの変質が少ない。米ペースト中の米微粒は、米粉や小麦粉に比べて微細であり、5〜10μmの粒径であることが好ましい。
【0021】
本発明では、α化米粉は、米ペースト中の米微粒100重量部に対し、3〜10重量部の割合で用いることが好ましく、4〜8重量部であるとより好ましく、4〜6重量部であるとさらに好ましい。砂糖及び塩は、米ペースト中の米微粒100重量部に対し、それぞれ3〜20重量部、1〜2重量部の割合で用いるが、これはあくまで目安であり、好みに応じて適宜変更することができる。
【0022】
本発明では、つや出しや米の旨味を引き出すために、組成物にもろみ等の調味料を加えるのが好ましい。その他、必要に応じて、サラダオイルやオリーブオイル等の植物油や、バター等の油脂を組成物に加えてもよい。但し、本発明においては、グルテンの代わりとなる増粘剤等を用いる必要はない。
【0023】
本発明は、前記のようにして得られた混捏物を、容器に充填する。容器は、特に制限されないが、この混捏物が付着し難く、冷凍に耐えられる素材のものが好ましい。また、容器は、流通や解凍の際の利便性の観点から、トレー形状のものが好ましい。
【0024】
前記のようにして容器に充填した混捏物を、−18℃以下の低温下で20分間以上熟成させることで、本発明に係るノングルテン米粉パン生地が得られる。好ましくは、−20℃〜−18℃で40分間、より好ましくは、−28℃〜−32℃で20分間の熟成を行う。容器への充填及び熟成は、組成物を混捏してから1時間以内に行うのが望ましい。得られたノングルテン米粉パン生地は、ポリ袋などの冷凍耐性のある袋に容器ごと入れて密封する。このような袋入りの状態にすることで、ノングルテン米粉パン生地を便利に広く流通に乗せることができる。また、このノングルテン米粉パン生地は、袋入りの状態のまま−18℃以下の低温で保管するのが好ましい。
【0025】
ノングルテン米粉パン生地は、電子レンジの解凍機能、冷蔵庫又は常温での静置などの方法で解凍し、パン生地の温度が25℃〜28℃になるようにする。このパン生地にパン酵母を加え、捏ね上がりのパン生地の温度が28〜35℃、好ましくは30〜32℃になるように調整しながら混捏する。混捏したパン生地の重さ(以下、「焼成前の重さ」とする)を測定した後、28〜35℃、好ましくは30〜32℃の温度下で発酵させる。
【0026】
発酵させたノングルテン米粉パン生地は、オーブンやホームベーカリー機能付きの炊飯器等で焼成することにより、本発明に係るノングルテン米粉パンとなる。得られたノングルテン米粉パンは、粗熱を取った後、重さ(以下、「焼成後の重さ」とする)を測定し、焼減率を計算する。「焼減率」とは、焼成前後の重さの減少率であり、計算式は、(焼成前の重さ−焼成後の重さ)÷焼成前の重さ×100(%)である。焼減率は、パンの焼き加減の指標とされており、ノングルテン米粉パンの焼減率としては、18〜22%が好ましく、19〜21%がより好ましい。
【0027】
本発明に係るノングルテン米粉パン生地は、既に水分調整及び混捏がなされているため、家庭などで材料を調整したり、生地を捏ね合わせたりするといった、最も煩雑な作業を省くことができ、パン酵母を加えるだけで簡単にパンを焼くことができる。
【0028】
また、本発明に係るノングルテン米粉パン生地は、生地の凍結温度以下で熟成させることで水分を逃さず、熟成中に米粉の水和が進むと考えられるため、適した水分量が保たれる。また、生地の凍結温度以下で生地を熟成させることによりデンプンネットワークの損傷や米粉のβ化が抑えられ、より安定したデンプンネットワークが得られる。
【0029】
さらに、本発明に係るノングルテン米粉パン生地では、パン酵母は加えられていないため、凍結によるパン酵母の発酵力低下は起こらない。そのため、家庭の冷凍庫などでも問題なく安心してパン生地を保存することができる。一般に、パン酵母入りのパン生地を凍結させると、長期冷凍中に成長した氷結晶がパン酵母の細胞を破壊して活性を低下させたり、生地のネットワーク構造を損傷したりすることにより、パンの品質が低下する恐れがある。また、本発明に係るノングルテン米粉パン生地は、冷蔵庫、電子レンジ、又は常温などで簡単に解凍できるため、その都度解凍していつでも手軽に焼きたてのパンを楽しむことができる。
【0030】
本発明のノングルテン米粉パンの製造方法によれば、ホームベーカリーなどを利用して、家庭などでも簡単にノングルテン米粉パンを焼くことができる。さらに、本発明に係るノングルテン米粉パンは、同じ材料で熟成・解凍工程を経ずに製造した生地によるノングルテン米粉パンと比較して、同等かそれ以上の外観、風味、及び食感を得ることができる。
【0031】
(実施例)
以下、実施例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれにより限定されるものではない。
【0032】
実施例及び比較例で製造したノングルテン米粉パンは、以下の官能評価方法で評価した。
(官能評価方法)
パネラーの人数は、5人以上とした。評価の対象となる各試料パンは、全て同時に製造し、完成から半日経過したものを使用した。各試料パンは、パンの厚み方向に垂直な面で切って厚さ1cmとした後、さらに半分の大きさになるようにパンの幅方向に垂直な面で切り、これを一人分とした。得られた一人分の各試料パンは、図2のように、パンの種類が分からないようにアルファベット記号のA、B、C、D、及びEを付してパネラーに提供した。評価項目は、噛んだ時の感覚、見た目の良さ(焼き色、つや等)、断面のキメの細かさ、香りの良さ、味の良さ、ふっくら感の6項目とした。パネラーに各項目を5点満点の5段階(5点:最良、4点:良、3点:普通、2点:悪、1点:最悪)で評価してもらった。
【0033】
<実施例1>
(1)混捏工程
パン生地の組成物として、α化米粉(商品名:マイプラス、株式会社サラ秋田白神)15g、米粉(インディカ米、国産、200メッシュ)300g、砂糖15g、塩4.8g、塩もろみ(商品名:こだまの塩もろみ、株式会社サラ秋田白神)8g、及び水265gを混合機に入れた。組成物を室温で20分間しっかりと混捏して糊化させ、混捏物を得た。
【0034】
(2)熟成工程
上記(1)で得られた混捏物をトレー状の容器に充填した。トレー状の容器に充填した混捏物を冷凍庫(製品名:URD−252FMTA、福島工業株式会社)を用いて−30℃で20分間かけて熟成させ、本発明に係るノングルテン米粉パン生地を得た。このパン生地をポリ袋に入れて密封し、−18℃の冷凍庫にて保管した。
【0035】
(3)解凍工程
上記(2)で得られたパン生地を袋入りの状態のまま5℃の冷蔵庫に8時間静置して解凍した後、室温でパン生地の温度が25℃になるように調整した。
【0036】
(4)発酵工程
上記(3)で解凍したパン生地をニーダーのポットに流し入れ、パン酵母(商品名:白神こだま酵母(商標)ドライG)を6g加えて5分間混捏した。捏ね上がりのパン生地の温度が30℃となるように温度調整した。パン生地を焼き型に流し入れ、30℃で20分間発酵させた。
【0037】
(5)加熱調理工程
上記(4)で発酵させたパン生地を、焼き型に蓋をした状態で、160℃で10分間、続いて200℃で20分間、オーブンで焼成し、固化させた。その後、焼き型の蓋を取り、固化したパン生地をさらに200℃で20分間焼成して表面に焼き色を付け、ノングルテン米粉パン(塩もろみ入り)(a)を得た。
【0038】
<実施例2>
塩もろみを加えなかった他は実施例1と同じ分量の材料を用い、実施例1と同じ手順で、混捏工程、熟成工程、解凍工程、発酵工程、及び加熱調理工程を行い、ノングルテン米粉パン(塩もろみなし)(b)を得た。
【0039】
<実施例3>
パン生地の組成物として、α化米粉(商品名:マイプラス、株式会社サラ秋田白神)18g、米ペースト(商品名:こめペースト、株式会社いちまる)550g、砂糖15g、及び塩4.8gを用いた。実施例1と同じ手順で、混捏工程、熟成工程、解凍工程、発酵工程、及び加熱調理工程を行い、ノングルテン米粉パンを得た。
【0040】
<比較例1>
実施例1と同じ分量の材料を用い、実施例1と同じ手順で混捏した後、熟成工程及び解凍工程は行わず、続けて実施例1と同じ手順で発酵工程及び加熱調理工程を行って、熟成及び解凍工程を経ていない生地を用いたノングルテン米粉パン(塩もろみ入り)(c)を得た。
【0041】
<比較例2>
塩もろみを加えなかった他は実施例1と同じ分量の材料を用い、実施例1と同じ手順で混捏した後、熟成工程及び解凍工程は行わず、続けて実施例1と同じ手順で発酵工程及び加熱調理工程を行って、熟成及び解凍工程を経ていない生地を用いたノングルテン米粉パン(塩もろみなし)(d)を得た。
【0042】
<比較例3>
塩もろみを加えなかった他は実施例1と同じ分量の材料を用い、実施例1と同じ手順で混捏した後、熟成工程及び解凍工程は行わずに、続けて発酵工程に移行した。発酵工程は、捏ね上がりのパン生地の温度を調整しなかった点以外は実施例1と同じ手順で行い、実施例1と同じ手順で加熱調理工程を行って、熟成及び解凍工程を経ていない生地を用いたノングルテン米粉パン(塩もろみなし、生地の温度調整なし)(e)を得た。
【0043】
実施例1及び2、比較例1〜3で得られたノングルテン米粉パンについて、それぞれ焼成前後の重さを測定し、焼減率を計算した。結果を表1に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
表1より、実施例1及び2の焼減率は、比較例1及び2よりやや高いことが分かる。また、比較例3の焼減率は、比較例1及び2と比べても低いことが分かる。
【0046】
実施例1及び2、比較例1〜3で得られたノングルテン米粉パンを、上記の官能評価方法を用いて5人のパネラーにそれぞれ評価してもらった。各パネラーによる評価結果(単位:点)を、噛んだ時の感覚、見た目の良さ(焼き色、つや等)、断面のキメの細かさ、香りの良さ、味の良さ、ふっくら感の順で、以下に示す。
パネラー1:実施例1(5,5,5,5,5,5)、実施例2(5,4,4,5,5,4)、比較例1(4,4,5,4,4,4)、比較例2(3,3,3,3,3,4)、比較例3(1,1,1,2,1,1);
パネラー2:実施例1(5,5,5,5,5,5)、実施例2(5,4,5,4,5,5)、比較例1(4,4,5,4,4,4)、比較例2(3,3,4,3,3,3)、比較例3(1,2,1,2,1,1);
パネラー3:実施例1(5,5,5,5,5,5)、実施例2(4,4,4,4,4,4)、比較例1(5,5,4,5,5,5)、比較例2(3,4,3,4,4,4)、比較例3(1,2,1,3,2,1);
パネラー4:実施例1(5,5,5,5,5,5)、実施例2(4,4,4,5,5,4)、比較例1(4,5,4,5,5,5)、比較例2(4,4,4,4,4,4)、比較例3(1,2,1,2,1,1);
パネラー5:実施例1(5,5,5,5,5,5)、実施例2(5,5,5,5,4,5)、比較例1(4,4,4,5,5,4)、比較例2(4,4,4,4,4,4)、比較例3(2,2,2,2,2,2)。
【0047】
上記の評価結果の平均点を表2に示す。
【0048】
【表2】
【0049】
官能評価の結果について、表2より、実施例1及び2は、どの項目も平均点が4.2点以上であり、全体として高い評価が得られた。熟成・解凍工程の有無による違いを見るために、実施例1と比較例1、実施例2と比較例2をそれぞれ比較すると、実施例1及び2の方が、全ての項目において、それぞれ比較例1及び2よりも高い評価であった。また、比較例3は、全ての項目で最も低い評価となった。
【0050】
噛んだ時の感覚について、表2において、実施例1及び2と、比較例1及び2とを比較すると、実施例1及び2の方が、比較例1及び2よりも高い評価となり、最も評価点の差が大きい項目であった。特に、実施例1については、「米粉100%のパンとは思えない、本当のパンのようだった」といった感想が複数得られたのに対し、比較例3については、「餅のような食感でゴワつき感があった」といった感想が複数寄せられた。
【0051】
見た目の良さ(焼き色、つや等)について、表2より、実施例2よりも比較例1の方が高い評価であった。また、「実施例1と比較例1とでは、見た目があまり変わらなかった」という感想のパネラーもいた。
【0052】
断面のキメの細かさについて、表2において、実施例1及び2と、比較例1及び2とを比較すると、実施例1及び2の評価は、比較例1及び2と同等かそれ以上であり、図3及び4からもそれが窺える。また、比較例3は、図3から分かるように、キメが粗く気泡が不揃いであった。
【0053】
香り、味の良さについて、表2において、実施例1及び2と、比較例1及び2とを比較すると、実施例1及び2の評価は、比較例1及び2と同等かそれ以上であった。
【0054】
ふっくら感について、表2において、実施例1及び2と、比較例1及び2とを比較すると、実施例1及び2の評価は、比較例1及び2と同等かそれ以上であった。また、図4及び5において、実施例1と比較例1、実施例2と比較例2をそれぞれ比較すると、実施例1及び2の方が、比較例1及び2よりも、それぞれ米粉パンの膨らみが大きいことが観察される。
【0055】
(付記)
(付記1)
米粉及び水、並びに米ペーストからなる群より選ばれる米成分、α化米粉、砂糖、並びに塩を含有する組成物を混捏して混捏物を得、該混捏物を該混捏物の凍結温度以下で熟成させることにより得られる、ノングルテン米粉パン生地。
(付記2)
前記混捏物は、酵母を含有しない、付記1に記載のノングルテン米粉パン生地。
(付記3)
前記米成分は米粉及び水であり、該米粉と前記α化米粉の重量比は100:3〜100:10であり、該米粉と該水の重量比は100:75〜100:90である、付記1又は2に記載のノングルテン米粉パン生地。
(付記4)
前記の、混捏物の凍結温度以下で熟成させることは、−18℃以下の低温下で20分間以上熟成させることである、付記1乃至3のいずれか一項に記載のノングルテン米粉パン生地。
(付記5)
付記1乃至4のいずれか一つに記載のノングルテン米粉パン生地を解凍し、酵母を加えて捏ね上がりの生地の温度が28〜35℃となるように混捏した後、28〜35℃の温度下で発酵させ、加熱調理することで得られる、ノングルテン米粉パン。
(付記6)
米粉及び水、並びに米ペーストからなる群より選ばれる米成分、α化米粉、砂糖、並びに塩を含有する組成物を混捏する混捏工程と、得られた混捏物を該混捏物の凍結温度以下で熟成させる熟成工程とを有する、ノングルテン米粉パン生地の製造方法。
(付記7)
付記1乃至4のいずれか一つに記載のノングルテン米粉パン生地を解凍する解凍工程と、解凍したパン生地に酵母を加えて捏ね上がりの生地の温度が28〜35℃となるように混捏した後、28〜35℃の温度下で発酵させる発酵工程と、発酵させたパン生地を加熱調理する加熱調理工程とを有する、ノングルテン米粉パンの製造方法。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明により、米粉パンの普及拡大、小麦粉アレルギーの人への安全なパンの供給などが可能となり、食品業界において広く利用されることが期待される。
【符号の説明】
【0057】
1 組成物
2 混合機
3 混捏物
4 容器
5 冷凍庫
6 ノングルテン米粉パン生地
7 パン酵母
8 ニーダー
9 焼き型
10 ノングルテン米粉パン
図1
図2
図3
図4
図5