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特開2015-73988希土類元素を吸着するために用いるフェライト吸着材およびその吸着方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-73988(P2015-73988A)
(43)【公開日】2015年4月20日
(54)【発明の名称】希土類元素を吸着するために用いるフェライト吸着材およびその吸着方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/06 20060101AFI20150324BHJP
   B01J 20/34 20060101ALI20150324BHJP
   B03C 1/00 20060101ALI20150324BHJP
   C02F 1/28 20060101ALI20150324BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20150324BHJP
   C22B 59/00 20060101ALI20150324BHJP
   C22B 3/24 20060101ALI20150324BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20150324BHJP
   C01G 49/08 20060101ALN20150324BHJP
【FI】
   B01J20/06 A
   B01J20/34 G
   B03C1/00 A
   C02F1/28 B
   C02F1/28 E
   B01J20/28 Z
   C22B59/00
   C22B3/00 K
   C22B7/00 G
   C01G49/08 A
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-201942(P2014-201942)
(22)【出願日】2014年9月30日
(31)【優先権主張番号】102136156
(32)【優先日】2013年10月7日
(33)【優先権主張国】TW
(71)【出願人】
【識別番号】390023582
【氏名又は名称】財團法人工業技術研究院
【氏名又は名称原語表記】INDUSTRIAL TECHNOLOGY RESEARCH INSTITUTE
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(72)【発明者】
【氏名】羅 聖宗
(72)【発明者】
【氏名】游 鎮烽
(72)【発明者】
【氏名】▲と▼ 耀仁
【テーマコード(参考)】
4D624
4G002
4G066
4K001
【Fターム(参考)】
4D624AA04
4D624AA05
4D624AB16
4D624BA14
4D624BB01
4D624BC04
4D624DA07
4D624DB11
4D624DB20
4G002AA04
4G002AB02
4G002AD04
4G002AE05
4G066AA27B
4G066AA34D
4G066AA47D
4G066AA53D
4G066BA09
4G066BA20
4G066BA32
4G066BA36
4G066BA38
4G066CA46
4G066DA07
4G066DA08
4G066GA11
4G066GA35
4K001AA39
4K001BA21
4K001BA24
4K001DB35
(57)【要約】      (修正有)
【課題】吸着・脱着が速く、かつ分離及び再生利用が容易な希土類金属の吸着材の提供。
【解決手段】四酸化三鉄からなり、その結晶相が逆スピネル構造である、希土類元素を吸着するために用いるフェライト吸着材。亦、希土類元素を含有する被処理水を準備する工程、前記フェライト吸着材を被処理水に加えて混合溶液を作る工程、及び混合溶液をアルカリ性に調整し、フェライト吸着材に希土類元素を吸着させる工程、を含む希土類元素の吸着分離方法。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
四酸化三鉄からなり、その結晶相が逆スピネル構造である、希土類元素を吸着するために用いるフェライト吸着材。
【請求項2】
粒径が30〜90nmである請求項1に記載のフェライト吸着材。
【請求項3】
希土類元素を含有する被処理水を準備する工程、
請求項1に記載のフェライト吸着材を前記被処理水に加えて混合溶液を作る工程、および
前記混合溶液をアルカリ性に調整し、前記フェライト吸着材に前記希土類元素を吸着させる工程、
を含む希土類元素の吸着方法。
【請求項4】
前記被処理水が工業廃水または海水を含む請求項3に記載の希土類元素の吸着方法。
【請求項5】
前記フェライト吸着材の添加量が1〜3g/被処理水1Lである請求項3に記載の希土類元素の吸着方法。
【請求項6】
前記混合溶液のpH値が8〜11である請求項3に記載の希土類元素の吸着方法。
【請求項7】
前記希土類元素を吸着した前記フェライト吸着材を回収する工程をさらに含む請求項3に記載の希土類元素の吸着方法。
【請求項8】
前記混合溶液に外部印加磁場を印加して、前記希土類元素を吸着した前記フェライト吸着材を回収する請求項7に記載の希土類元素の吸着方法。
【請求項9】
脱着剤を添加して、前記フェライト吸着材と前記希土類元素とを分離させる工程をさらに含む請求項7に記載の希土類元素の吸着方法。
【請求項10】
前記脱着剤が硝酸、塩酸または硫酸を含む請求項9に記載の希土類元素の吸着方法。
【請求項11】
前記脱着剤の濃度が0.3〜1.0Mである請求項9に記載の希土類元素の吸着方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は吸着材およびその吸着方法に関し、特に希土類元素を吸着するために用いるフェライト吸着材およびその吸着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
希土類元素(Rare Earth Elements, REE)は「産業のビタミン」と称され、機械、冶金、ガラス、セラミック、石油、化学工業、皮革、農牧などの各産業に広く利用されており、日常生活のあらゆる場面で見出すことができる。微量の希土類を添加することにより、金属材料の性能は顕著に改善され、鋼材の強度、耐摩耗性および耐食性が高まるため、希土類元素は電池、永久磁石、蛍光、水素吸蔵、触媒、ファインセラミックスなどの材料としてよく用いられる。しかし、産業における需要は大量であることから、全世界で供給が需要に追い付かない事態に陥っている。現在、全世界における希土類鉱石の可採埋蔵量は約9000万トン強あると見積もられているが、品位(鉱石1トン当たりの希土類の含量)は総じて低い。地殻に含まれる希土類元素の量は極めて低いため、大量の希土類鉱石を採掘してきた結果、深刻な環境破壊が進み、また希土類鉱石の採掘・加工にかかるコストが極めて高いことが、その製品の価格を高価なものとしている。これらに鑑みて、陸地での採掘以外の希土類採取方法を求めて、各国は関連重要技術の研究開発にしのぎを削っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第8419823号明細書
【特許文献2】台湾特許第201315815号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
吸着材(Adsorbent)は吸着プロセスにおいて吸着効果を決定する主要要素であるため、適した吸着材の選択は吸着濃縮技術を発展させるキーファクターである。磁鉄鉱(Magnetite, Fe)は、フェライト(Ferrite)とも呼ばれ、自然界でよく見られるスピネルグループの酸化鉄であり、その構造内の3個の鉄イオンのうち、2個はFe3+、1個はFe2+であり、つまりFeO・Feである。酸化鉄における2価のイオンは互いに混ざり合って固溶体を形成し、異なる磁性を示し得る。よって、業界では、吸着・脱着が速く、かつ分離および再生利用が容易などといった特徴を持つ吸着材が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一実施形態は、四酸化三鉄からなり、その結晶相が逆スピネル構造である、希土類元素を吸着するために用いるフェライト吸着材を提供する。
【0006】
本発明の一実施形態は、希土類元素を含有する被処理水を準備する工程、上記フェライト吸着材を被処理水に加えて混合溶液を作る工程、および混合溶液をアルカリ性に調整し、フェライト吸着材に希土類元素を吸着させる工程、を含む希土類元素の吸着方法を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る希土類元素の吸着方法によれば、フェライト吸着材の表面電荷を調整することによって、各種被処理水(工業廃水、海水)中に含まれる希土類元素を有効に吸着することができる。本発明に係るフェライト吸着材は希土類元素に対し良好な親和力を有し、迅速な吸着・脱着が可能である。さらに、フェライトと希土類元素とを迅速に分離させることができる。吸着效果は20mg/g以上に達する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
本発明の上記の目的、特徴および長所がより明瞭かつ分かり易くなるよう、以下に好ましい実施形態を挙げ、添付の図面と対応させながら、詳細に説明していく。
図1図1は、本発明の一実施例によるフェライト吸着材表面形態のSEM写真である。
図2図2は、本発明の一実施例による希土類元素Ndの吸着動力学曲線図である。
図3図3は、本発明の一実施例によるフェライト吸着材のpH4.0の被処理水に含まれる希土類元素に対する吸着率である。
図4図4は、本発明の一実施例によるフェライト吸着材のpH7.1の被処理水に含まれる希土類元素に対する吸着率である。
図5図5は、本発明の一実施例によるフェライト吸着材のpH8.15の被処理水に含まれる希土類元素に対する吸着率である。
図6図6は、本発明の一実施例によるフェライト吸着材のpH11.0の被処理水に含まれる希土類元素に対する吸着率である。
図7図7は、本発明の一比較例によるフェライト吸着材のpH2.29の被処理水に含まれる希土類元素に対する吸着率である。
図8図8A〜8Mは、本発明の一実施例による、異なる濃度、種類の脱着剤の希土類元素に対する脱着率を示している。
図9図9は、本発明の一実施例による希土類元素Ndの脱着動力学曲線図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一実施形態は、四酸化三鉄からなり、その結晶相が逆スピネル構造である、希土類元素を吸着するために用いるフェライト吸着材を提供する。
【0010】
本実施形態において、上記フェライト吸着材の粒径は約30〜90nmである。
【0011】
また、本発明の一実施形態は、希土類元素を含む被処理水を準備する工程、上記フェライト吸着材を被処理水に加えて混合溶液を作る工程、および混合溶液をアルカリ性に調整してフェライト吸着材に希土類元素を吸着させる工程、を含む希土類元素の吸着方法を提供する。
【0012】
別の一実施形態では、水熱合成法によりフェライト吸着材を作製することができる。その生成反応式は式(1)に示すとおりである。フェライト吸着材製造の基本原理は次のとおりである。つまり、二価鉄イオンを溶液中に加えると共に、適量のアルカリを加えて(pH値を8〜10に調整)水酸化物沈殿を生じさせ、昇温(温度は60〜90℃に制御)条件下、空気を供給して(曝気量は3〜5L/min)酸化反応を進行させ、適度な反応時間経過後に、スピネル構造のフェライト吸着材が形成される。
【0013】
(化1)
3 Fe2++6 OH+1/2 O→Fe+3 HO 式(1)
【0014】
本実施形態において、上記被処理水には海水または工業廃水が含まれ得る。
【0015】
本実施形態において、上記フェライト吸着材の添加量はおよそ1〜3g/被処理水1Lであり、つまり被処理水1L当たり最大で1〜3gのフェライト吸着材を添加することができる。
【0016】
本実施形態において、上記混合溶液のpH値は約8〜11であることが好ましい。
【0017】
本実施形態において、本発明に係る希土類元素の吸着方法は、希土類元素を吸着したフェライト吸着材を回収する工程をさらに含んでもよい。
【0018】
本実施形態において、上記混合溶液に外部印加磁場を印加することにより、希土類元素を吸着したフェライト吸着材を回収することができる。
【0019】
本実施形態において、本発明に係る希土類元素の吸着方法は、脱着剤を添加して、フェライト吸着材と希土類元素とを分離させる工程をさらに含んでもよい。
【0020】
本実施形態において、上記脱着剤には硝酸、塩酸または硫酸が含まれ得る。
【0021】
本実施形態において、上記脱着剤の濃度は約0.3〜1.0Mであることが好ましい。
【実施例】
【0022】
実施例1
本発明に係るフェライト吸着材の作製
本実施例では水熱合成法でフェライト吸着材を作製した。まず、反応器に脱イオン水1Lを加えてから、硫酸鉄(II)27.8gを取り反応器に加え、撹拌して完全に溶解させた。次いで、濃度0.1Mの水酸化ナトリウムを添加してpH値を9.5に調整した後、加熱して溶液の温度を80℃まで上げた。同時に安定した速度3L/min(曝気量)で空気を送り込むと共に、反応時間をカウントし始め、酸化還元電位が急速に上昇に転じるまで反応を続け、図1に示されるフェライト吸着材を得た。図1は、本実施例で合成したフェライト吸着材のSEM図である。図を見ると分かるように、本実施例のフェライト吸着材の粒径は約30〜90nmである。
【0023】
実施例2
本発明に係るフェライト吸着材の希土類元素に対する吸着、分離および吸着率(1)
先ず、反応器に希土類元素を含有する被処理水10mL(初期濃度は1000ppb)を加え、被処理水の状況に応じ水酸化ナトリウムまたは硝酸を添加して、水体のpH値をpH4.0、pH7.1、pH8.15、pH11.0などにそれぞれ調整した。次いで、フェライト吸着材0.05gを取り、反応器に加えると共に撹拌して、フェライト吸着材と各pH値の溶液中の希土類元素とを十分に混合し、吸着が平衡に達したら、反応器外部に外部印加磁場を印加して、フェライト吸着材を分離し、吸着材の希土類元素に対する吸着率を測定した。一般に、フェライト吸着材の添加量は、単位当たりのフェライト吸着材が吸着できる希土類元素により見積もる。実験からこのデータを得ることができる他、通常はモデル計算の方式により推算されており、よく用いられる評価の方式は吸着等温モデル、つまりラングミュアモデル(Langmuir model)またはフロイントリッヒモデル(Freundlich model)である。吸着が完全に完了したか否かは、吸着動力学曲線を根拠として判断することができる。例えば、図2は希土類元素Ndの吸着動力学曲線であり、Y軸は吸着率(%)、X軸は吸着時間である。本実施例のフェライト吸着材の希土類元素Ndに対する吸着は10分以内に平衡に達したという結果が示されている。また、本実施例のフェライト吸着材の、異なるpH値(例えばpH4.0、pH7.1、pH8.15、pH11.0)の水体に含まれる希土類元素に対する吸着率は下表1および図3〜6に示すとおりである。図3〜6中のY軸は吸着率(%)、X軸は吸着時間である。
【0024】
【表1】
【0025】
表1および図3〜6より分かるように、本発明に係るフェライト吸着材はpH値の変化の影響を受け、pH値の上昇に伴って希土類元素に対する吸着率が顕著に増加する傾向を示した。被処理水環境がpH7以上に達した(アルカリ性環境下)とき、被処理水中のほぼ全ての希土類元素の、本発明に係るフェライト吸着材による吸着はいずれも10分以内に完了した。
【0026】
実施例3
本発明に係るフェライト吸着材の希土類元素に対する吸着、分離および吸着率(2)
先ず、反応器に希土類元素Ndを含有する海洋深層水(原水)10mL(pH8.1)を加えてから、フェライト吸着材0.05gを取り反応器中に加え、撹拌してフェライト吸着材と海洋深層水(原水)中の希土類元素Ndとを十分に混合した(吸着時間は30分)。吸着が平衡に達したら、永久磁石でフェライト吸着材を分離し、吸着材の希土類元素Ndに対する吸着率を測定した。表2に示されるように、その吸着率は95.0%に達した。
【0027】
実施例4
本発明に係るフェライト吸着材の希土類元素に対する吸着、分離および吸着率(3)
先ず、反応器に、低温蒸発処理した希土類元素Ndを含有する海洋深層水10mL(pH8.1)を加えてから、フェライト吸着材0.05gを取り反応器中に加え、撹拌してフェライト吸着材とこの海洋深層水中の希土類元素Ndとを十分に混合した(吸着時間は30分)。吸着が平衡に達したら、永久磁石でフェライト吸着材を分離し、吸着材の希土類元素Ndに対する吸着率を測定した。表2に示されるように、その吸着率は96.6%に達した。
【0028】
実施例5
本発明に係るフェライト吸着材の希土類元素に対する吸着、分離および吸着率(4)
先ず、反応器に、逆浸透処理した希土類元素Ndを含有する海洋深層水10mL(pH8.1)を加えてから、フェライト吸着材0.05gを取り反応器中に加え、撹拌してフェライト吸着材とこの海洋深層水中の希土類元素Ndとを十分に混合した(吸着時間は30分)。吸着が平衡に達したら、永久磁石でフェライト吸着材を分離し、吸着材の希土類元素Ndに対する吸着率を測定した。表2に示されるように、その吸着率は95.6%に達した。
【0029】
実施例3〜5および下表2から分かるように、本発明に係るフェライト吸着材は、pH8.1の環境下、異なる条件で処理した海洋深層水に含まれる希土類元素Ndに対し、いずれも良好な吸着特性を示した。
【0030】
【表2】
【0031】
比較例1
本発明に係るフェライト吸着材の海水中の主要元素に対する吸着、分離および吸着率
先ず、反応器に、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、カリウムイオンを含有する海洋深層水(原水)10mL(pH8.15)を加えてから、フェライト吸着材0.05gを取り反応器中に加え、撹拌してフェライト吸着材と海洋深層水(原水)中のカルシウム、マグネシウム、ナトリウム、カリウムイオンとを十分に混合した(吸着時間は30分)。吸着が平衡に達したら、永久磁石でフェライト吸着材を分離し、吸着材のカルシウム、マグネシウム、ナトリウム、カリウムイオンに対する吸着率を測定した。結果は表3に示されている。
【0032】
【表3】
【0033】
表3から分かるように、本発明に係るフェライト吸着材は、pH8.15の吸着環境下で、海洋深層水中の主要元素、例えばCa、Mg、Na、Kに対し顕著な吸着特性を示さなかった。
【0034】
比較例2
本発明に係るフェライト吸着材の極度に酸性の酸環境下での希土類元素に対する吸着、分離および吸着率
先ず、反応器に希土類元素を含有する被処理水10mL(初期濃度は1000ppb)を加え、被処理水のpH値をpH2.29に調整し、次いでフェライト吸着材0.05gを取り反応器に加え、撹拌してフェライト吸着材と被処理水中の希土類元素とを十分に混合した(吸着時間は30分)。吸着が平衡に達したら、反応器外部に外部印加磁場を印加して、フェライト吸着材を分離し、吸着材の希土類元素に対する吸着率を測定した。結果が下表4および図7に示されている。
【0035】
下表4および図7によれば、例えばpH2.29の極度に酸性の環境下において、本発明に係るフェライト吸着材の各種希土類元素に対する吸着率はいずれも10%に満たなかった。これらデータから、本発明に係るフェライト吸着材は、アルカリ性環境下において希土類元素に対し極めて優れた吸着效果を示す一方、酸性環境下では希土類元素に対する吸着に却って不利であることが分かった。
【0036】
【表4】
【0037】
実施例6
本発明による異なる濃度、種類の脱着剤の希土類元素に対する脱着および脱着率
実施例2の、すでに固(フェライト吸着材)液分離が完了した溶液を取り、次いで異なる濃度、種類の脱着剤(例えば0.3M HNO、0.3M HCl、0.3M HSO、1M HNO、1M HCl、1M HSO)を取ってそれぞれ反応器中に入れて、希土類元素を吸着したフェライト吸着材と脱着反応を進行させた。脱着が完了したら、反応器外部に再度外部印加磁場を印加して物理的な分離を行い、フェライト吸着材および希土類元素をそれぞれ収集した。本発明による異なる濃度、種類の脱着剤の希土類元素に対する脱着率は図8A〜8Mに示すとおりである。
【0038】
図8H(希土類元素Nd)を例にとって見ると、脱着剤が硝酸、塩酸または硫酸のどれであっても、濃度が0.3M以上である場合に、その希土類元素Ndに対する脱着率はいずれも92%以上であった。
【0039】
フェライト吸着材上に吸着された希土類元素を脱着するためには、フェライト吸着材を吸着に不利な条件(つまり酸性環境)に置く必要がある。酸性条件下では、用いるフェライト吸着材の表面は正に帯電するため、同じく正に帯電した希土類元素に対して反発力が生じ、希土類元素のフェライト吸着材からの脱着を促進する。
【0040】
一般に、脱着の完了は脱着動力学曲線に基づいて判断することができる。例えば、図9は希土類元素Ndの脱着動力学曲線であり、Y軸は脱着率(%)、X軸は脱着時間である。0.3M HNOを脱着剤として用いた場合では、希土類元素Ndの脱着は30分ですでに平衡に達しており、より長い脱着時間を経ても約90%の希土類元素Ndしか脱着させることができないという結果が示された。よって、脱着率は、液相中に脱着した希土類元素Ndの濃度と、フェライト吸着材上に吸着していた希土類元素Ndの濃度との差の値に基づき、脱着が完了したか否かを計算することで調べた。本実施例によれば、適した脱着剤(硝酸、塩酸、硫酸)によって希土類元素をフェライト吸着材表面から効果的に溶液中へ脱着させることができ、1度の脱着で脱着率が90%に達し得た。また、外部印加磁場により、短時間(数分以内)に99%以上のフェライト吸着材を回収することができる。
【0041】
実施例7
本発明に係るフェライト吸着材の耐酸性試験
フェライト吸着材0.05gを取り、表5に挙げられている浸出剤(leaching reagent)10mLにそれぞれ加え、30分間十分に振とうし混ぜ合わせた後、8時間反応させた。実験結果から分かるように、pH0.81のHPOという極端な環境下においても、本発明に係るフェライト吸着材はわずか6.35%の鉄を溶出しただけであった。このことから、本発明に係るフェライト吸着材は優れた耐酸性を備えることが証明された。
【0042】
【表5】
【0043】
本発明をいくつかの好ましい実施例により以上のように開示したが、これらは本発明を限定するものではなく、当業者であれば、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、任意の変更および修飾を加えることができる。よって、本発明の保護範囲は、後述の特許請求の範囲に定義されたものが基準となる。
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図8D
図8E
図8F
図8G
図8H
図8I
図8J
図8K
図8L
図8M
図9
図1