【実施例】
【0022】
実施例1
本発明に係るフェライト吸着材の作製
本実施例では水熱合成法でフェライト吸着材を作製した。まず、反応器に脱イオン水1Lを加えてから、硫酸鉄(II)27.8gを取り反応器に加え、撹拌して完全に溶解させた。次いで、濃度0.1Mの水酸化ナトリウムを添加してpH値を9.5に調整した後、加熱して溶液の温度を80℃まで上げた。同時に安定した速度3L/min(曝気量)で空気を送り込むと共に、反応時間をカウントし始め、酸化還元電位が急速に上昇に転じるまで反応を続け、
図1に示されるフェライト吸着材を得た。
図1は、本実施例で合成したフェライト吸着材のSEM図である。図を見ると分かるように、本実施例のフェライト吸着材の粒径は約30〜90nmである。
【0023】
実施例2
本発明に係るフェライト吸着材の希土類元素に対する吸着、分離および吸着率(1)
先ず、反応器に希土類元素を含有する被処理水10mL(初期濃度は1000ppb)を加え、被処理水の状況に応じ水酸化ナトリウムまたは硝酸を添加して、水体のpH値をpH4.0、pH7.1、pH8.15、pH11.0などにそれぞれ調整した。次いで、フェライト吸着材0.05gを取り、反応器に加えると共に撹拌して、フェライト吸着材と各pH値の溶液中の希土類元素とを十分に混合し、吸着が平衡に達したら、反応器外部に外部印加磁場を印加して、フェライト吸着材を分離し、吸着材の希土類元素に対する吸着率を測定した。一般に、フェライト吸着材の添加量は、単位当たりのフェライト吸着材が吸着できる希土類元素により見積もる。実験からこのデータを得ることができる他、通常はモデル計算の方式により推算されており、よく用いられる評価の方式は吸着等温モデル、つまりラングミュアモデル(Langmuir model)またはフロイントリッヒモデル(Freundlich model)である。吸着が完全に完了したか否かは、吸着動力学曲線を根拠として判断することができる。例えば、
図2は希土類元素Ndの吸着動力学曲線であり、Y軸は吸着率(%)、X軸は吸着時間である。本実施例のフェライト吸着材の希土類元素Ndに対する吸着は10分以内に平衡に達したという結果が示されている。また、本実施例のフェライト吸着材の、異なるpH値(例えばpH4.0、pH7.1、pH8.15、pH11.0)の水体に含まれる希土類元素に対する吸着率は下表1および
図3〜6に示すとおりである。
図3〜6中のY軸は吸着率(%)、X軸は吸着時間である。
【0024】
【表1】
【0025】
表1および
図3〜6より分かるように、本発明に係るフェライト吸着材はpH値の変化の影響を受け、pH値の上昇に伴って希土類元素に対する吸着率が顕著に増加する傾向を示した。被処理水環境がpH7以上に達した(アルカリ性環境下)とき、被処理水中のほぼ全ての希土類元素の、本発明に係るフェライト吸着材による吸着はいずれも10分以内に完了した。
【0026】
実施例3
本発明に係るフェライト吸着材の希土類元素に対する吸着、分離および吸着率(2)
先ず、反応器に希土類元素Ndを含有する海洋深層水(原水)10mL(pH8.1)を加えてから、フェライト吸着材0.05gを取り反応器中に加え、撹拌してフェライト吸着材と海洋深層水(原水)中の希土類元素Ndとを十分に混合した(吸着時間は30分)。吸着が平衡に達したら、永久磁石でフェライト吸着材を分離し、吸着材の希土類元素Ndに対する吸着率を測定した。表2に示されるように、その吸着率は95.0%に達した。
【0027】
実施例4
本発明に係るフェライト吸着材の希土類元素に対する吸着、分離および吸着率(3)
先ず、反応器に、低温蒸発処理した希土類元素Ndを含有する海洋深層水10mL(pH8.1)を加えてから、フェライト吸着材0.05gを取り反応器中に加え、撹拌してフェライト吸着材とこの海洋深層水中の希土類元素Ndとを十分に混合した(吸着時間は30分)。吸着が平衡に達したら、永久磁石でフェライト吸着材を分離し、吸着材の希土類元素Ndに対する吸着率を測定した。表2に示されるように、その吸着率は96.6%に達した。
【0028】
実施例5
本発明に係るフェライト吸着材の希土類元素に対する吸着、分離および吸着率(4)
先ず、反応器に、逆浸透処理した希土類元素Ndを含有する海洋深層水10mL(pH8.1)を加えてから、フェライト吸着材0.05gを取り反応器中に加え、撹拌してフェライト吸着材とこの海洋深層水中の希土類元素Ndとを十分に混合した(吸着時間は30分)。吸着が平衡に達したら、永久磁石でフェライト吸着材を分離し、吸着材の希土類元素Ndに対する吸着率を測定した。表2に示されるように、その吸着率は95.6%に達した。
【0029】
実施例3〜5および下表2から分かるように、本発明に係るフェライト吸着材は、pH8.1の環境下、異なる条件で処理した海洋深層水に含まれる希土類元素Ndに対し、いずれも良好な吸着特性を示した。
【0030】
【表2】
【0031】
比較例1
本発明に係るフェライト吸着材の海水中の主要元素に対する吸着、分離および吸着率
先ず、反応器に、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、カリウムイオンを含有する海洋深層水(原水)10mL(pH8.15)を加えてから、フェライト吸着材0.05gを取り反応器中に加え、撹拌してフェライト吸着材と海洋深層水(原水)中のカルシウム、マグネシウム、ナトリウム、カリウムイオンとを十分に混合した(吸着時間は30分)。吸着が平衡に達したら、永久磁石でフェライト吸着材を分離し、吸着材のカルシウム、マグネシウム、ナトリウム、カリウムイオンに対する吸着率を測定した。結果は表3に示されている。
【0032】
【表3】
【0033】
表3から分かるように、本発明に係るフェライト吸着材は、pH8.15の吸着環境下で、海洋深層水中の主要元素、例えばCa、Mg、Na、Kに対し顕著な吸着特性を示さなかった。
【0034】
比較例2
本発明に係るフェライト吸着材の極度に酸性の酸環境下での希土類元素に対する吸着、分離および吸着率
先ず、反応器に希土類元素を含有する被処理水10mL(初期濃度は1000ppb)を加え、被処理水のpH値をpH2.29に調整し、次いでフェライト吸着材0.05gを取り反応器に加え、撹拌してフェライト吸着材と被処理水中の希土類元素とを十分に混合した(吸着時間は30分)。吸着が平衡に達したら、反応器外部に外部印加磁場を印加して、フェライト吸着材を分離し、吸着材の希土類元素に対する吸着率を測定した。結果が下表4および
図7に示されている。
【0035】
下表4および
図7によれば、例えばpH2.29の極度に酸性の環境下において、本発明に係るフェライト吸着材の各種希土類元素に対する吸着率はいずれも10%に満たなかった。これらデータから、本発明に係るフェライト吸着材は、アルカリ性環境下において希土類元素に対し極めて優れた吸着效果を示す一方、酸性環境下では希土類元素に対する吸着に却って不利であることが分かった。
【0036】
【表4】
【0037】
実施例6
本発明による異なる濃度、種類の脱着剤の希土類元素に対する脱着および脱着率
実施例2の、すでに固(フェライト吸着材)液分離が完了した溶液を取り、次いで異なる濃度、種類の脱着剤(例えば0.3M HNO
3、0.3M HCl、0.3M H
2SO
4、1M HNO
3、1M HCl、1M H
2SO
4)を取ってそれぞれ反応器中に入れて、希土類元素を吸着したフェライト吸着材と脱着反応を進行させた。脱着が完了したら、反応器外部に再度外部印加磁場を印加して物理的な分離を行い、フェライト吸着材および希土類元素をそれぞれ収集した。本発明による異なる濃度、種類の脱着剤の希土類元素に対する脱着率は
図8A〜8Mに示すとおりである。
【0038】
図8H(希土類元素Nd)を例にとって見ると、脱着剤が硝酸、塩酸または硫酸のどれであっても、濃度が0.3M以上である場合に、その希土類元素Ndに対する脱着率はいずれも92%以上であった。
【0039】
フェライト吸着材上に吸着された希土類元素を脱着するためには、フェライト吸着材を吸着に不利な条件(つまり酸性環境)に置く必要がある。酸性条件下では、用いるフェライト吸着材の表面は正に帯電するため、同じく正に帯電した希土類元素に対して反発力が生じ、希土類元素のフェライト吸着材からの脱着を促進する。
【0040】
一般に、脱着の完了は脱着動力学曲線に基づいて判断することができる。例えば、
図9は希土類元素Ndの脱着動力学曲線であり、Y軸は脱着率(%)、X軸は脱着時間である。0.3M HNO
3を脱着剤として用いた場合では、希土類元素Ndの脱着は30分ですでに平衡に達しており、より長い脱着時間を経ても約90%の希土類元素Ndしか脱着させることができないという結果が示された。よって、脱着率は、液相中に脱着した希土類元素Ndの濃度と、フェライト吸着材上に吸着していた希土類元素Ndの濃度との差の値に基づき、脱着が完了したか否かを計算することで調べた。本実施例によれば、適した脱着剤(硝酸、塩酸、硫酸)によって希土類元素をフェライト吸着材表面から効果的に溶液中へ脱着させることができ、1度の脱着で脱着率が90%に達し得た。また、外部印加磁場により、短時間(数分以内)に99%以上のフェライト吸着材を回収することができる。
【0041】
実施例7
本発明に係るフェライト吸着材の耐酸性試験
フェライト吸着材0.05gを取り、表5に挙げられている浸出剤(leaching reagent)10mLにそれぞれ加え、30分間十分に振とうし混ぜ合わせた後、8時間反応させた。実験結果から分かるように、pH0.81のH
3PO
4という極端な環境下においても、本発明に係るフェライト吸着材はわずか6.35%の鉄を溶出しただけであった。このことから、本発明に係るフェライト吸着材は優れた耐酸性を備えることが証明された。
【0042】
【表5】
【0043】
本発明をいくつかの好ましい実施例により以上のように開示したが、これらは本発明を限定するものではなく、当業者であれば、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、任意の変更および修飾を加えることができる。よって、本発明の保護範囲は、後述の特許請求の範囲に定義されたものが基準となる。