特開2015-7622(P2015-7622A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ビー・エム・エルの特許一覧 ▶ 独立行政法人国立循環器病研究センターの特許一覧

特開2015-7622PCSK9関連薬剤のスクリーニング、又は、当該薬剤の投与効果の確認を行うためのPCSK9の測定方法
<>
  • 特開2015007622-PCSK9関連薬剤のスクリーニング、又は、当該薬剤の投与効果の確認を行うためのPCSK9の測定方法 図000005
  • 特開2015007622-PCSK9関連薬剤のスクリーニング、又は、当該薬剤の投与効果の確認を行うためのPCSK9の測定方法 図000006
  • 特開2015007622-PCSK9関連薬剤のスクリーニング、又は、当該薬剤の投与効果の確認を行うためのPCSK9の測定方法 図000007
  • 特開2015007622-PCSK9関連薬剤のスクリーニング、又は、当該薬剤の投与効果の確認を行うためのPCSK9の測定方法 図000008
  • 特開2015007622-PCSK9関連薬剤のスクリーニング、又は、当該薬剤の投与効果の確認を行うためのPCSK9の測定方法 図000009
  • 特開2015007622-PCSK9関連薬剤のスクリーニング、又は、当該薬剤の投与効果の確認を行うためのPCSK9の測定方法 図000010
  • 特開2015007622-PCSK9関連薬剤のスクリーニング、又は、当該薬剤の投与効果の確認を行うためのPCSK9の測定方法 図000011
  • 特開2015007622-PCSK9関連薬剤のスクリーニング、又は、当該薬剤の投与効果の確認を行うためのPCSK9の測定方法 図000012
  • 特開2015007622-PCSK9関連薬剤のスクリーニング、又は、当該薬剤の投与効果の確認を行うためのPCSK9の測定方法 図000013
  • 特開2015007622-PCSK9関連薬剤のスクリーニング、又は、当該薬剤の投与効果の確認を行うためのPCSK9の測定方法 図000014
  • 特開2015007622-PCSK9関連薬剤のスクリーニング、又は、当該薬剤の投与効果の確認を行うためのPCSK9の測定方法 図000015
  • 特開2015007622-PCSK9関連薬剤のスクリーニング、又は、当該薬剤の投与効果の確認を行うためのPCSK9の測定方法 図000016
  • 特開2015007622-PCSK9関連薬剤のスクリーニング、又は、当該薬剤の投与効果の確認を行うためのPCSK9の測定方法 図000017
  • 特開2015007622-PCSK9関連薬剤のスクリーニング、又は、当該薬剤の投与効果の確認を行うためのPCSK9の測定方法 図000018
  • 特開2015007622-PCSK9関連薬剤のスクリーニング、又は、当該薬剤の投与効果の確認を行うためのPCSK9の測定方法 図000019
  • 特開2015007622-PCSK9関連薬剤のスクリーニング、又は、当該薬剤の投与効果の確認を行うためのPCSK9の測定方法 図000020
  • 特開2015007622-PCSK9関連薬剤のスクリーニング、又は、当該薬剤の投与効果の確認を行うためのPCSK9の測定方法 図000021
  • 特開2015007622-PCSK9関連薬剤のスクリーニング、又は、当該薬剤の投与効果の確認を行うためのPCSK9の測定方法 図000022
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-7622(P2015-7622A)
(43)【公開日】2015年1月15日
(54)【発明の名称】PCSK9関連薬剤のスクリーニング、又は、当該薬剤の投与効果の確認を行うためのPCSK9の測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20141212BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20141212BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20141212BHJP
【FI】
   G01N33/53 D
   G01N33/15 Z
   G01N33/50 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【全頁数】38
(21)【出願番号】特願2014-111680(P2014-111680)
(22)【出願日】2014年5月29日
(31)【優先権主張番号】特願2013-116508(P2013-116508)
(32)【優先日】2013年5月31日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】591083336
【氏名又は名称】株式会社ビー・エム・エル
(71)【出願人】
【識別番号】510094724
【氏名又は名称】独立行政法人国立循環器病研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】100103160
【弁理士】
【氏名又は名称】志村 光春
(72)【発明者】
【氏名】石原 光昭
(72)【発明者】
【氏名】鯨岡 健
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 忠雄
(72)【発明者】
【氏名】小川 一行
(72)【発明者】
【氏名】服部 浩明
(72)【発明者】
【氏名】星野 文則
(72)【発明者】
【氏名】斯波 真理子
(72)【発明者】
【氏名】堀 美香
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045CA26
2G045DA36
2G045FB03
(57)【要約】
【課題】 PCSK9の生体内の振る舞いについての検討を行い、その本質に迫り、診断・医学分野の進歩に貢献する途を提供すること。
【解決手段】
血中に非ヘテロダイマー形態で、かつ、60kDaのPCSK9セグメント(60kDaセグメント(非ヘテロダイマー))が存在することを突き止め、「PCSK9ヘテロダイマーをプロセグメントと60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)に分解する被験薬剤の試験系において、当該薬剤の使用前と使用後の60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)の、PCSK9ヘテロダイマー又は全PCSK9に対する比率を求めることを特徴とするPCSK9の測定方法」を提供し、例えば血中のPCSK9ヘテロダイマーを非ヘテロダイマー化することで血中LDLコレステロールを低下させる薬剤のスクリーニングを可能とした。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
PCSK9ヘテロダイマーをプロセグメントと60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)に分解する被験薬剤の試験系において、当該薬剤の使用前と使用後の60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)の、PCSK9ヘテロダイマー又は全PCSK9に対する比率を求めることを特徴とする、PCSK9の測定方法。
【請求項2】
60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)の、PCSK9ヘテロダイマー又は全PCSK9に対する比率を求める際に行う60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)の定量は、60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)に反応し、かつ、PCSK9ヘテロダイマー及び53kDaPCSK9には交差反応しない抗体を用いて行われることを特徴とする、請求項1に記載のPCSK9の測定方法。
【請求項3】
60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)に特異的な抗体として、60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)に反応し、かつ、PCSK9ヘテロダイマー及び53kDaPCSK9には交差反応しない抗体は、モノクローナル抗体であることを特徴とする、請求項2に記載のPCSK9の測定方法。
【請求項4】
試験系として血液検体を用いることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のPCSK9の測定方法。
【請求項5】
試験系はPCSK9ヘテロダイマーが添加された溶媒系であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のPCSK9の測定方法。
【請求項6】
被験薬剤を有効とする判定は、60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)の、PCSK9ヘテロダイマー又は全PCSK9に対する比率の当該薬剤の使用後における上昇、に伴うことを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のPCSK9の測定方法。
【請求項7】
PCSK9は、ヒトPCSK9であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載のPCSK9の測定方法。
【請求項8】
60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)に反応し、かつ、PCSK9ヘテロダイマー及び53kDaPCSK9には交差反応しないモノクローナル抗体を含有することを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の測定方法を行うための測定キット。
【請求項9】
PCSK9は、ヒトPCSK9であることを特徴とする、請求項8に記載の測定キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新たな薬剤のスクリーニング、薬剤の効果確認等において有用な特定生理活性物質の測定方法に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
日本人における死因の第一位は悪性新生物(30.3%)、第二位は心疾患(15.8%)、第三位は脳血管障害(11.5%)である。心疾患及び脳血管障害は、脂質異常症や糖尿病などの生活習慣病を基盤とする動脈硬化症が主要な原因となっている。脂質異常症の管理は動脈硬化の最も有効な予防と治療手段の一つと考えられている。したがって、脂質異常症を早期に診断し、適切な治療を施すことは心疾患及び脳血管障害を予防する方法と考えられる。
【0003】
そのような背景の中、PCSK9(proprotein convertase subtilisin/kexin type 9:プロ蛋白転換酵素サブチリシン/ケキシン9型)が着目されている。PCSK9は、NARC−1(Neural apoptosis-regulated convertase 1:神経アポトーシス調節転換酵素1型)とも呼ばれ、サブチリシン様セリンプロテアーゼのケキシンに属するプロ蛋白転換酵素ファミリーの9番目の酵素である。ヒトPCSK9は主に肝臓、腎臓、及び小腸で発現している692アミノ酸からなる分泌蛋白質である(非特許文献1:Seidah NG,et al. Proc Natl Acad Sci U S A, 2003;100:928-933.)。
【0004】
肝細胞膜表面上のLDL受容体はリガンドであるLDLを結合した後、細胞内に取り込まれる(エンドサイトーシス)。エンドサイトーシス後、LDL受容体はLDLを細胞内に供給後、再び細胞膜表面上に局在する(リサイクリング)。この工程を繰り返して血中のコレステロール量を調節している。しかしながら、PCSK9が結合したLDL受容体は、エンドサイトーシス後、リソソームへ移行した後分解され、LDL受容体のリサイクリング機構が働らなくなる。その結果、肝細胞膜上に発現するLDL受容体の量的異常がおこり、延いては血中LDLの取り込みが減少し、血中LDLコレステロールが上昇する。すなわち、PCSK9はLDL受容体の分解を促してLDLコレステロール代謝に関与することが明らかにされている(非特許文献2:Lagace TA, et al. J Clin Invest, 2006;116:2995-3005、非特許文献3:Qian YW, et al., J Lipid Res, 2007;48:1488-1498、非特許文献4:Li J, et al. Biochem J, 2007;406:203-207、非特許文献5:Grefhorst A, et al. J Lipid Res, 2008;49:1303-1311)。
【0005】
ヒトPCSK9は全長692アミノ酸から成り、アミノ酸1−30がsignal sequence(シグナルペプチド)、31−152がpro domain(プロドメイン)、153−452がcatalytic domain(プロテアーゼ触媒ドメイン)、453−692がC−terminal domain(C末端ドメイン)を形成している。
【0006】
ヒトPCSK9は、上記のシグナルペプチドが外れた約74kDaのproPCSK9(PCSK9前駆体)として、小胞体内にてPCSK9自身のセリンプロテアーゼ活性によりアミノ酸配列152番目のグルタミンと153番目のセリンの間で自己分解を引き起こし、N末端側約14kDaのpro segment(プロセグメント)とC末端側約60kDaでプロテアーゼ触媒ドメインを含むmature segment(成熟セグメント)に変換される。これら2種の断片はプロセグメントが成熟セグメントの活性中心を塞ぐように複合体(PCSK9ヘテロダイマー)を形成した後、当該複合体としてゴルジ体へ移行し、細胞外へ分泌される(非特許文献1:Seidah NG, et al. Proc Natl AcadSci U S A, 2003;100:928-933、非特許文献6:Naureckiene S, et al. Arch Biochem Biophys, 2003;420:55-67、非特許文献7:Benjannet S, et al. J Biol Chem, 2004;279:48865-48875)。
【0007】
血中に分泌されたヘテロダイマーPCSK9は、LDL受容体のEGF−Aに結合し上述のごとく当該受容体を分解へと誘導する。PCSK9によるLDL受容体の分解促進はPCSK9自身のプロテアーゼ活性(セリンプロテアーゼ活性)とは独立した現象であり、PCSK9の分子シャペロン的作用によりLDL受容体のリサイクリングを阻害する、すなわちリソソームへの誘導とも考えられているが、未だ結論に至っていない(非特許文献8:McNutt MC, et al. J Biol Chem, 2007;282:20799-20803)。
【0008】
また、PCSK9はゴルジ体から細胞外へ分泌される過程において一部のPCSK9が更に分解を受けることが報告されている。例えばヒトPCSK9においては、プロ蛋白転換酵素Furin等の作用によりアミノ酸配列218番目のアルギニンと219番目のグルタミンの間におけるPCSK9の切断が認められる。この作用によりPCSK9ヘテロダイマーの成熟セグメントドメインは、N末端側約7kDaのセグメント(7kDaセグメント)とC末端側約53kDaのΔN218セグメント(53kDaセグメント)とに分解され、プロセグメントと成熟セグメントとのヘテロダイマー構造は崩壊する。分解後の断片(7kDaセグメントと53kDaセグメント)も細胞外へ分泌される。Furinによる分解を受けていないヘテロダイマーPCSK9は、LDL受容体に結合して上記のリサイクリングを阻害して、LDL受容体を分解に導く働きがあるのに対し、Furinによる分解を受けた非ヘテロダイマー型PCSK9には、そのような働きがない(非特許文献9:Benjannet S, et al. J Biol Chem, 2006;281:30561-30572)。
【0009】
2003年Abifadelらにより、PCSK9遺伝子が常染色体優性家族性高コレステロール血症(FH)の第3の原因遺伝子であることが見出された(非特許文献10:Abifadel M, et al. Nat Genet, 2003;34:154-156)。
【0010】
PCSK9遺伝子の異常は、これまでに100以上の変異が報告されており(http://www.ucl.ac.uk/ldlr/Current/)、遺伝子異常によりPCSK9の機能が亢進する、すなわちLDL受容体を分解促進する機能増強型変異(gain-of-function)と機能が喪失する、すなわちLDL受容体を分解を促進することができない機能喪失型変異(loss-of-function)の2通りが見つかっており、それぞれ高コレステロール血症と低コレステロール血症を呈することが明らかになっている。
【0011】
PCSK9は、コレステロールや中性脂肪生合成に関わる遺伝子の発現を調節している転写因子SREBPs(Sterol Regulatory Element-Binding Proteins:ステロール調節エレメント結合性タンパク質)の活性化により転写促進されることが報告されている(非特許文献11:Maxwell KN, et al. J Lipid Res, 2003;44:2109-2019)。
【0012】
すなわち、高コレステロール血症治療薬であるスタチン系薬剤はSREBPsの活性化を介してLDL受容体の発現を誘導するが、同様の経路でPCSK9も発現誘導される。このことから、PCSK9はスタチンのコレステロール低下作用に対して拮抗的に働くと考えられる(非特許文献12:Dubuc G, et al. Arterioscler Thromb Vasc Biol, 2004;24:1454-1459)。すなわち、PCSK9はFHの病因となっているばかりでなく、高コレステロール血症治療における薬剤効果を減弱する作用がある。また、PCSK9の作用を阻害することによる高コレステロール血症治療薬のターゲット分子として阻害薬の開発も行われている(特許文献1〜5)。
【0013】
このような背景のもと、本出願人は血液検体中のPCSK9を当該成分に対する抗体を用いて定量し、当該定量値に基づいて高コレステロール血症を検出する、高コレステロール血症の検出方法、についての特許出願を行った(特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特表2010−536384号公報
【特許文献2】特表2010−523135号公報
【特許文献3】特表2010−508817号公報
【特許文献4】特表2010−501952号公報
【特許文献5】米国公開2010/166768号公報
【特許文献6】特開2012−237752号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Seidah NG,et al. Proc Natl Acad Sci U S A, 2003;100:928-933
【非特許文献2】Lagace TA, et al. J Clin Invest, 2006;116:2995-3005
【非特許文献3】Qian YW, et al.,J Lipid Res, 2007;48:1488-1498
【非特許文献4】Li J, et al. Biochem J, 2007;406:203-207
【非特許文献5】Grefhorst A, et al. J Lipid Res, 2008;49:1303-1311
【非特許文献6】Naureckiene S, et al. Arch Biochem Biophys, 2003;420:55-67
【非特許文献7】Benjannet S, et al. J Biol Chem, 2004;279:48865-48875
【非特許文献8】McNutt MC,et al. J Biol Chem,2007;282;20799-20803
【非特許文献9】Benjannet S, et al. J Biol Chem, 2006;281:30561-30572
【非特許文献10】Abifadel M, et al. Nat Genet, 2003;34:154-156
【非特許文献11】Maxwell KN, et al. J Lipid Res, 2003;44:2109-2019
【非特許文献12】Dubuc G, et al. Arterioscler Thromb Vasc Biol, 2004;24:1454-1459
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
図1は、特許文献6においても開示したPCSK9(ヒト)の模式図であり、従来のPCSK9についての認識を端的に表している。上記と重複するが、重要な前提であるので再び説明を行う。なお、図1の説明において同じ符合で「ドメイン」と「セグメント」の2種類の用語を用いることがあるが、「ドメイン」はPCSK9において潜在的に認められる存在状態を重要視した表現であり、「セグメント」は現実に当該部分が他のPCSK9の分子から分離された状態を重要視した表現である。
【0017】
ヒトPCSK9は全長692アミノ酸から成るペプチド(1)であり、アミノ酸1−30がシグナルペプチド(11)、31−152がプロドメイン(12)、153−452がプロテアーゼ触媒ドメイン(13)、453−692がC末端ドメイン(14)を形成している。図1(a)は、このペプチド(1)を示しており、ペプチド(1)はPCSK9の生体内での最初の形態である「preproPCSK9」(プレPCSK9前駆体)である。プレPCSK9前駆体は、その遺伝子の塩基配列とアミノ酸配列(preproPCSK9、アミノ酸1−692)は公知である(NCBI リファレンス配列:NM_174936及びNP_777596:配列番号1及び2)。
【0018】
次いで図1(b)は、プレPCSK9前駆体(1)の細胞外への分泌に働く、シグナルペプチド(11)が外れた約74kDaのPCSK9前駆体(2)の形成を示している。
【0019】
このような形で生体内合成されPCSK9前駆体(2)は、小胞体内にてPCSK9自身のセリンプロテアーゼ活性によりアミノ酸配列152番目のグルタミンと153番目のセリンの間で自己分解を引き起こし、N末端側約14kDaのプロセグメント(12)と、C末端側約60kDaでプロテアーゼ触媒ドメイン(13)を含む成熟セグメント(13・14)に変換される。そして、これらの2種の領域[(12)と(13・14)]は、プロセグメント(12)が、成熟セグメント(13・14)の活性中心を塞ぐように非共有結合したヘテロダイマー構造のPCSK9ヘテロダイマー(3)を形成した後、当該ヘテロダイマー(3)としてゴルジ体へ移行し、細胞外へ分泌される。図1(c)は、このPCSK9ヘテロダイマー(3)の形成を示している。PCSK9のプロドメインはプロテアーゼ活性の阻害因子としての働きがあり、PCSK9ヘテロダイマー(3)は蛋白質分解酵素(セリンプロテアーゼ)としては不活性型であるにもかかわらず、LDL分解活性が認められる。血中に分泌されたこのPCSK9ヘテロダイマー(3)は、LDL受容体のEGF−Aに結合し当該受容体を分解へと誘導するのである。このようにPCSK9によるLDL受容体の分解促進はPCSK9自身のプロテアーゼ活性(セリンプロテアーゼ活性)とは独立した現象である。そしてこの現象が血中LDLコレステロール値の上昇を引き起こす要因となっている。
【0020】
その一方でPCSK9は、ゴルジ体から細胞外へ分泌される過程において、一部のPCSK9が更に分解を受けることが報告されている。すなわち、プロ蛋白転換酵素Furin等の作用によりアミノ酸配列218番目のアルギニンと219番目のグルタミンの間で切断されるのである。この作用により成熟セグメント(13・14)が、N末端側約7kDaの7kDaセグメント(15)とC末端側約53kDaの53kDaセグメント(ΔN218セグメント)(4)とに分解され、プロセグメント(12)と成熟セグメント(13・14)とのヘテロダイマー構造が崩壊し、分解後の断片(7kDaセグメント(15)と53kDaセグメント(4))も細胞外へ分泌される。図1(d)は、この最後の段階を図示したものである。53kDaセグメント(4)には、PCSK9ヘテロダイマーのようなLDL分解活性は認められない。
【0021】
このように生体内で現実に血液中に存在するPCSK9は、LDL受容体の分解促進活性を有する図1(c)のPCSK9ヘテロダイマー(3)、又は、同分解促進活性が失われた当該ヘテロダイマーの分解後の53kDaセグメント(4)、7kDaセグメント(15)、及び、プロセグメント(12)のみであると認識されていた。すなわち、図1(c)のPCSK9ヘテロダイマーからプロドメイン(12)のみが外れた「60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)」は、PCSK9ヘテロダイマー(3)の酸処理等により実験室のin vitro系の中でのみ存在するだけで、少なくともヒト血中には存在しないものと認識されていた。
【0022】
PCSK9の生体内の振る舞いについてのさらなる検討を行い、その本質に迫り、診断・医学分野の進歩に貢献する途を提供することが、本発明に想到するきっかけとなる初発の課題であったが、その時点では後述する本発明の内容については全く予想することができなかった。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明者は、特許文献6において開示された3種類のPCSK9の検出系、すなわち、「全PCSK9検出系」、「ヘテロダイマー特異的検出系」、及び、「非ヘテロダイマー特異的検出系」にて血清検体を測定したところ、一部に「ヘテロダイマー低値かつ非ヘテロダイマー高値」の検体が見出された。当時の技術常識に従い、当該非ヘテロダイマー成分は、上記の53kDaセグメント(4)であろうと考えられた。それを確認するため、非ヘテロダイマー特異抗体[B1G:53kDaセグメント(4)、及び、60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)の双方に反応する]を用い、上記の血清検体に対して免疫沈降を行い、非ヘテロダイマー成分の分子量を確認したところ、技術常識に基づく予想とは全く異なり、60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)であることが確認された。上述したように、PCSK9はヒトの脂質代謝において重要な役割を有することが知られており、この「血中の60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)」の存在もまたヒトの脂質代謝において重要な意義を有するものと考えられる。
【0024】
この驚くべき結果から、新たに認識された「血中の60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)」の脂質代謝において予想される重大な役割を鑑みて、本発明者は「60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)に反応し、かつ、PCSK9ヘテロダイマー及び53kDaPCSK9には交差反応しない新規の抗体(以下、本発明の抗体ともいう)」を作出した。これの詳細に関しては後述する。
【0025】
そして、このモノクローナル抗体を用いてヒトの血液検体における60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)の存在をより直接的に検討したところ、ヒト血中において確かに「60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)」が存在することが見出された。
【0026】
これも後述するように、「60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)」は「Furinによる分解を受けたPCSK9(53k)」と同様に、LDL受容体を分解する働きは減弱していることが、本発明者により確認された。よって、この血中の「60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)」の値が高く、ヘテロダイマー型のPCSK9が少なければ、LDLの分解処理がなされる最初のステップにかかわるLDL受容体は分解され難くなっており、その結果としてLDL血中コレステロール値は低下することが予想される。また上述のように、ヘテロダイマー型のPCSK9は高コレステロール血症治療剤であるスタチン系薬剤の投与に伴って増加する傾向が認められ、これが当該治療剤治療の抵抗となっている。これに対してヘテロダイマー型のPCSK9からプロセグメントを解離させることが可能な薬剤が提供されれば、それ自体が高コレステロール血症治療剤となるばかりか、スタチン系薬剤の増強薬としても用いることが可能であることが予想される。
【0027】
本発明は、上記のようなプロセグメントを解離させる治療薬の開発過程において、当該解離作用を有する候補物質を選別することを可能とする、PCSK9の測定方法を提供する。また、そのような治療剤の効果を臨床の場においてモニタリングすることを可能とする、PCSK9の測定方法を提供する。
【0028】
具体的には本発明は、PCSK9ヘテロダイマーをプロセグメントと60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)に分解する被験薬剤の試験系において、当該薬剤の使用前と使用後の60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)の、PCSK9ヘテロダイマー又は全PCSK9に対する比率を求めることを特徴とする、PCSK9の測定方法(以下、本発明の測定方法ともいう)を提供する発明である。
【0029】
この本発明の測定方法は、後述するように新規の60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)に特異的な抗体を用いて行うことが可能であり、当該抗体はモノクローナル抗体であることが好適である。
【0030】
本発明の測定方法は、臨床の場、又は、in vivo試験の場で用いる場合、すなわち、「PCSK9ヘテロダイマーを、プロセグメントと60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)に分解する働きを行ったか否か」について検証を行う場合には、血液検体を用いて行うことが好適である。血液検体としては、全血、血清、血漿等があるが、血清又は血漿を用いることが好ましく、さらに血清が特に好ましい。さらに創薬の基礎実験において、薬剤のスクリーニングを行う場合、すなわち、「PCSK9ヘテロダイマーを、プロセグメントと60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)に分解する働きを有するか否か」について検証を行う場合には、PCSK9ヘテロダイマーが添加された溶媒系を用いることができる。
【0031】
60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)の上記したような存在意義に基づけば、被験薬剤を有効とする判定は、60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)の、PCSK9ヘテロダイマー又は全PCSK9に対する比率の当該薬剤の使用後における上昇に伴ってなされるものである。
【0032】
PCSK9は、ヒト以外にもカニクイザル(Frank-Kamenetsky M,et al.,Proc.Natl.Acad Sci U.S.A,2008;105;11915-11920)、マウス(非特許文献2)、ラット(Persson L,et al.,Endocrinology,2009;150:1140-1146)等の哺乳動物においてヒトと同様の生理活性を有することが報告されている(ただし、種間のアミノ酸配列は異なることが原則である。例えば、ヒト/マウス間のPCSK9のアミノ酸配列のホモロジーは76%である)。上述した本発明における「PCSK9」とは、これらの哺乳動物全般に認められるPCSK9を網羅するものであるが、ヒトPCSK9が主要な本発明の対象である。
【発明の効果】
【0033】
本発明により、PCSK9ヘテロダイマーをプロセグメントと60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)に分解する作用を有する薬剤を開発段階において選別する際に、又は、当該作用薬の臨床における効果をモニタリングする際に用いられる、PCSK9の測定方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】PCSK9についての従来からの認識内容を示す概略図である。
図2】ウェスタンブロット法によるrhPCSK9のFurin処理による切断の内容を検討した結果を示す電気泳動図面である。
図3】rh60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)の精製の結果を示す電気泳動図面である。
図4】精製rh60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)のSDSポリアクリルアミド電気泳動による純度の確認の結果を示す図面である。
図5】ウェスタンブロット法によるrhPCSK9に対する反応性を検討した結果を示す電気泳動図面である。
図6】免疫沈降法による、取得された各モノクローナル抗体のFurin切断rhPCSK9に対する反応性を検討した結果を示す電気泳動図面である。
図7】60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)に特異的なモノクローナル抗体(8H9)の反応性を示す、ウェスタンブロット法による電気泳動図面である。
図8】60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)に特異的なモノクローナル抗体(8H9)について、Furin処理による特異性の確認を行った結果を示すウェスタンブロット法による電気泳動図面である。
図9】60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)に特異的なモノクローナル抗体(8H9)について、免疫沈降法による特異性の確認を行った結果を示す電気泳動図面である。
図10】サンドイッチELISA法によるPCSK9分子形態特異的蛋白質量測定系(A系、B系、C系)の説明図である。
図11】実施例において用いた血清サンプル(1〜11)におけるPCSK9についての免疫沈降を行った結果を示す電気泳動図面である。
図12】サンドイッチELISA法によるPCSK9分子形態特異的蛋白質量測定系(A系、B系、C系)における検量線を示した図面である。
図13】サンドイッチELISA法によるPCSK9分子形態特異的蛋白質量測定系(A系、B系、C系)による血清サンプルに対する希釈直線性を示した図面である。
図14】サンドイッチELISA法によるPCSK9分子形態特異的蛋白質量測定系(D系)における検量線を示した図面である。
図15】サンドイッチELISA法によるPCSK9分子形態特異的蛋白質量測定系(D系)による血清サンプルに対する希釈直線性を示した図面である。
図16】ヒト血清における60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)の存在を示す、モノクローナル抗体8H9を用いた免疫沈降法に基づく電気泳動図面である。
図17】HepG2細胞におけるLDL受容体の分解活性を、PCSK9ヘテロダイマーと60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)において比較検討した結果を示す図面である。
図18】PCSK9ヘテロダイマーを分解する薬剤のスクリーニングに本発明の測定方法を用いる場合の有用性を検討した結果を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
1.本発明の抗体
本発明の測定方法では、試験系中の60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)を定量することが必要となる。この場合、PCSK9の中でも60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)に対して特異的な抗体を用いることによる、直接的な測定が効率的である。具体的には、「60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)に反応し、かつ、PCSK9ヘテロダイマー及び53kDaセグメントには交差反応しない抗体」(本発明の抗体)である。また、本発明の抗体はポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体であるが、モノクローナル抗体であることが好適であり、かつ、現実的である。モノクローナル抗体は特定の抗原決定基のみであり、所望の性質を有する抗体の抗原決定基が限定されたものだからである。
【0036】
本発明の抗体の製造方法は、常法に従って行うことが可能であるが、抗原としてのPCSK9の全部又は一部が必要である。PCSK9の入手法は、生体材料からの天然蛋白質や細胞株が自然発現している蛋白質を用いることも可能であるが、実質的には蛋白工学的手法を用いてPCSK9の組み換え(リコンビナント)蛋白質を製造することにより入手する。当該組み換え蛋白質は、上述したPCSK9遺伝子の塩基配列を参考にして、遺伝子増幅用プライマーを調製し、これを用いてRT−PCR法を行うことにより、PCSK9遺伝子を遺伝子増幅産物として得ることができる。そして、これを組み込んだ発現ベクターを細胞等に導入することにより得た強制発現細胞より産生されるPCSK9組み換え蛋白質を、通常公知の精製法により精製することにより、PCSK9に対する抗体を製造するための抗原として用いることが可能な、PCSK9組み換え蛋白質とすることができる。また、上記のPCSK9遺伝子の塩基配列を一部改変した、PCSK9一部改変遺伝子がコードする改変組み換え蛋白質も、PCSK9に対する抗原としての性質を失わない限り可能である。ここで使用される抗原としてのPCSK9は、必ずしもPCSK9の全部である必要はなく、その一部の断片ペプチドであってもよい。特に所望の性質を有する抗体の抗原決定基は、図1(d)のN末端側約7kDaセグメント(15)(アミノ酸配列番号153〜218番)の中にあるため、少なくとも当該約7kDaセグメントを免疫原として選択することが合理的である。このような予め絞り込まれた免疫原を用いることにより、本発明の抗体の製造をより効率的に行うことが可能となる。PCSK9の一部の断片ペプチドは、PCSK9遺伝子の一部断片を発現させたPCSK9断片や、PCSK9のプロテアーゼ処理物、ホスファイト−トリエステル法(Ikehara,M.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,81,5956(1984)) 等を用いた固相法や液相法による化学合成ペプチド等を抗原として用いることができる。
【0037】
このようにして得られるPCSK9において、特に、免疫抗原として用いるPCSK9が小分子の一部ペプチドである場合には、抗原の免疫原性を向上させるために、ハプテンを結合させることができる。ハプテンとしては、通常はハプテンとして用いられ得る物質を任意に選択することが可能であり、例えば、傘貝ヘモシアニン(KLH)、ニワトリ卵アルブミン(OVA)、牛血清アルブミン(BSA)等をハプテンとして選択することができる。
【0038】
免疫は一般的方法により、例えば、上記免疫抗原を、免疫の対象とする動物に静脈内、皮内、皮下、筋肉内、腹腔内等で投与することにより行うことができる。
【0039】
ポリクローナル抗体は、PCSK9分子のうち上記7kDaセグメントの全部又は一部を免疫抗原として、免疫した動物に由来する免疫血清から製造することができる。
【0040】
本発明のモノクローナル抗体は、PCSK9分子の全部又は一部により免疫した動物の免疫細胞と動物の骨髄腫細胞とのハイブリドーマを作出し、これにより所望の性質を有する抗体を産生するクローンを選択し、このクローンを培養することにより製造することができる。
【0041】
上述したポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体は、公知技術、例えば、Nature 1992 Mar12;356, p152-154やJ.Immunol Methods Mar 1;249, p147-154を参考に、遺伝子免疫によっても調製が可能である。具体的にはPCSK9分子の全部又は一部をコードする遺伝子を発現するベクターを直接動物に免疫する事によって製造することができる。
【0042】
また、免疫される動物も特に限定されるものではなく、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、ニワトリ等を広く用いることができるが、モノクローナル抗体を製造する場合には、細胞融合に用いる骨髄腫細胞との適合性を考慮して選択することが望ましい。
【0043】
より具体的には、上記免疫抗原を所望により通常のアジュバントと併用して、免疫の対象とする動物に7〜21日毎を目安に上記手段により数回投与し、ポリクローナル抗体製造のための免疫血清又はモノクローナル抗体製造のための免疫細胞、例えば免疫後の脾臓細胞や腹水を得ることができる。
【0044】
モノクローナル抗体を作製する場合、公知のモノクローナル抗体作製方法、例えば、安藤民衛、千葉 丈、共著、「単クローン抗体実験操作入門」講談社(1991年)や、EdHarlow and David Lane,“Antibodies: A Laboratory Manual”, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988に従い作製することができる。
【0045】
本発明の抗体に備わるべき「所望の性質」とは、上記したように「60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)に反応し、かつ、PCSK9ヘテロダイマー及び53kDaセグメントには交差反応しない」ことであるが、抗原決定基が上記の7kDaセグメントに存在することにより、53kDaセグメントには抗原決定基は存在しないゆえに交差反応はせず、53kDaセグメントのN末端側に上記の7kDaセグメントが結合した60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)には反応する。これに加えて、PCSK9ヘテロダイマーはアミノ酸配列186番目(7kDaセグメント領域内)のアスパラギン酸、226番目のヒスチジン、及び、386番目のセリンにより構成されるセリンプロテアーゼ活性中心をプロセグメントが塞ぐように形成されているため、7kDaセグメント領域内とプロセグメントにより立体構造的に被覆される部分に抗原決定基を持つ抗体は、PCSK9ヘテロダイマーに結合することは困難となる。
【0046】
上述した操作により、モノクローナル抗体を産生するクローンが得られた後、これらから所望の性質を有するモノクローナル抗体を産生するクローンをスクリーニングすることが必要である。この抗体のスクリーニングは常法、すなわち免疫沈降法、ELISA法、ウェスタンブロッティング法等が挙げられる。これらの方法はいずれも蛋白工学的な手法により製造したPCSK9の種々の形態と、各々のクローンから得られたモノクローナル抗体との反応性を検討して、当該モノクローナル抗体が所望の性質を有するか否かの判断をするための方法である。具体的には、下記(1)〜(3)の性質を有するモノクローナル抗体の産生クローンを、本発明のモノクローナル抗体の産生クローンとして選択することができる。加えて、下記(1)〜(3)の性質を有するポリクローナル抗体は、本発明の抗体として用いることができる。
(1)7kDaセグメントとは結合するが、これが分離した53kDaセグメントとは結合しない。
(2)プロセグメントが結合したPCSK9ヘテロダイマーには結合しない。
(3)プロセグメント非結合の60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)には結合する。
【0047】
このようにして選択されたクローンから産生されるモノクローナル抗体、ないし、ポリクローナル抗体は、60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)に特異反応性を有する本発明の抗体として用いることができる。
【0048】
さらに、60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)に特異反応性を有する本発明の抗体に、必要に応じて標識処理、すなわち、酵素標識処理、蛍光標識処理、アイソトープ標識処理等を、常法に従い行うことができる。
【0049】
後述するように、試験系中における60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)を捕捉し得る抗体は、固相に固定化された固定化抗体として用いられるのが、好適な態様の一つである。
【0050】
固相としては、例えば、マイクロプレートやビーズ(アガロースゲルやセファロースゲル、ラテックス粒子、磁性粒子等)、等が挙げられる。
【0051】
固定化方法は、固相の種類に応じた抗体の固定化方法における常法に従い行うことができる。
【0052】
例えば、マイクロプレートに対しては、常法に従った物理的な非特異的吸着法を行うことにより、抗体の固定化を行うことができる。また、ビーズに対しても、常法に従って固定化を行うことができる。例えば、化学的な架橋剤を用いた固定化や、ビオチン−アビジンのような他の物質間の親和性を利用して、予め化合物で抗体を標識し、その化合物に親和性のある固定化された蛋白質等を用いた固定化法、固定化された抗イムノグロブリン抗体やプロテインA等の抗体に親和性のある蛋白質を用いた固定化法等を行うことにより、抗体の固定化を行うことができる。
【0053】
2.本発明の測定方法
本発明の測定方法は、上述したように試験系における60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)を測定することを要旨とする方法であるが、大きく分けて2種類の目的がある。
【0054】
本発明の測定方法の第一の目的は、創薬における薬剤のスクリーニングである。この場合、予め人工的なPCSK9ヘテロダイマーを蛋白工学的手法により調製し、これを適切な溶媒系に添加して、被験薬剤の添加前のPCSK9ヘテロダイマーと60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)の比率を測定する。次いで、当該試験系に被験薬剤を添加してインキュベーション後の当該比率を測定する。当該比率において被験薬剤添加後の60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)の比率が有意に増加していれば、被験薬剤はPCSK9ヘテロダイマーからプロセグメントを解離させる作用を有しており、所望する脂質代謝改善剤の候補として挙げることが可能となる。
【0055】
この溶媒を用いる形態で本発明の測定方法により薬剤スクリーニングを行う場合には、溶媒環境として、(1)「PCSK9ヘテロダイマーと候補薬剤の反応を行う」第1溶媒環境、及び、(2)「候補薬剤との反応後における定量を行うための反応(抗原抗体反応等)」第2溶媒環境、が用いられる。第1溶媒環境においては、候補薬剤無しでPCSK9ヘテロダイマーが解離又は変性する溶媒環境は好ましくない。第2溶媒環境においては、抗原抗体反応等の定量シグナルの基となる反応を阻害する溶媒環境は好ましくない。また、可能な限り第1溶媒環境と第2溶媒環境は類似する環境であることが好適である。第1溶媒環境と第2溶媒環境が異なる場合には、例えば第1溶媒環境におけるPCSK9ヘテロダイマーの濃度を高めに設定し、これを第2溶媒環境において希釈することにより行うことが可能となる。この希釈倍率は、10〜100倍程度であることが好適である。
【0056】
第1溶媒環境と第2溶媒環境を通じて、用いられる溶媒や緩衝液は、この条件を満たす限り特に限定されない。具体的には、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、Tris-HCl、HEPES等が挙げられる。
【0057】
溶媒環境のpHは5以上であることが必要である。これは第1溶媒環境の「PCSK9ヘテロダイマーが解離しないための条件」である。スクリーニングの対象薬剤は医薬であるから、生理的条件に近いpH6.5〜7.5程度が好適である。さらに溶媒環境の温度は、凍結しない4℃以上、上限はPCSK9ヘテロダイマーが熱変性しない範囲又は候補薬剤が失活しない範囲であるが、生理的条件に近い30〜40℃程度が好適である。
【0058】
第1溶媒環境におけるPCSK9ヘテロダイマーの濃度は、用いる定量方法で検出可能な濃度である。例えばサンドイッチELISAであれば、1ng/mL程度が下限である。ただし、第2溶媒環境における希釈を考慮すると、この10倍程度の濃度は必要となる。好適な濃度はヒト血清中のPCSK9の濃度である100〜500ng/mL程度である。
【0059】
本発明の測定方法の第二の目的は、投与した薬剤の有効性のチェックである。この場合、上記のスクリーニング等より開発されたPCSK9ヘテロダイマーからプロセグメントを解離させる作用を有する脂質代謝改善剤の投与前後の、被験者の血液検体における上記のPCSK9ヘテロダイマーと60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)の比率を測定する。当該薬剤投与前よりも投与後の当該比率における60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)の比率の方が有意に高い場合に、当該薬剤が有効であることを示す指標となる。
【0060】
このように、溶媒系中又は血中の60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)を測定することが可能な本発明の測定方法は、非常に重要な意義を有している。
【0061】
60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)の測定は、上述した本発明の抗体を用いて、それと試験系における60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)との抗原抗体反応を利用する検出手段を用いて行うことが好適である。具体的には、例えば、酵素免疫測定(ELISA)法、ラジオイムノアッセイ(RIA)法、免疫クロマトグラフィー法、ラテックス凝集比濁法、免疫沈降法等を利用した解析法等を例示することができる。これらの検出手段の中でも、その定量性と検出感度、安全性、簡便性、さらには、正確性ゆえに、ELISA法、特にサンドイッチELISA法を選択することが好適である。また、蛍光や化学発光等を検出に利用した免疫測定(FEIA,CLIA,CLEIA,ECLIA)法等も好適である。
【0062】
検出手段がELISA法である場合には、例えば、マイクロプレートに固定化した本発明の抗体に、血液検体又は被験溶媒(以下、試験系溶媒と総称することもある)を接触させて、試験系溶媒中の可溶性60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)を固定化抗体に結合させ、この固相に結合した可溶性60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)を、酵素標識した別のPCSK9に対する抗体等を用いて検出することにより、本発明の測定方法を構成する、試験系中の60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)の定量を行うことができる。また、固定化抗体と試験系溶媒及び酵素標識抗体を同時に反応させて検出することも可能である。
【0063】
また、検出手段として、免疫沈降法を利用する場合には、例えば、ビーズに固定化した本発明の抗体に、試験系溶媒を接触させて60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)を固定化抗体に結合させ、この固相に結合した60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)を分離して、この分離物から60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)を検出することにより、試験系溶媒における60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)の定量を行うことができる。この60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)の免疫沈降法による検出手段は、例えば、前記の分離物に対して電気泳動を行って、この電気泳動パターンの転写物に、60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)に対する標識抗体を作用させて、可溶性60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)のバンドを検出する、ウェスタンブロット法を挙げることができる。
【0064】
定量手段として、ラテックス凝集比濁法を用いることも可能である。例えば、ラテックス粒子に結合させた60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)に対する抗体に、試験系溶媒を接触させて、液相中で抗原抗体反応による免疫複合体の凝集塊を形成させ、その濁度の変化を測定することにより、60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)の定量を行うことができる。
【0065】
またPCSK9ヘテロダイマーの定量は、本発明の抗体に代えて、PCSK9ヘテロダイマーに対して特異的な抗体、すなわち、PCSK9ヘテロダイマーに対しては反応するが、60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)及び53kDaセグメントには交差反応しない抗体を用いることにより行うことができる。
【0066】
上述した通りに本発明の測定方法におけるPCSK9の定量は、60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)の定量ステップ(1)、PCSK9ヘテロダイマーの定量ステップ(2)、の定量ステップにより行われる。これらの定量ステップ(1)(2)は、共通の検体又は溶媒系において行われるが、各々の定量ステップ自体は別個に行われることが好適である。例えば、薬剤のスクリーニングを行う場合のこれらの定量ステップ(1)(2)は、共通の上述した第1溶媒環境における候補薬剤との接触後、好適には同条件の第2溶媒環境において別個に行われることが好適である。
【0067】
本発明の測定方法を行う場合の好適な定量手段の一つであるサンドイッチELISA法を用いる場合、前記の60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)の定量ステップ(1)は、上述したように固相抗体として本発明の抗体を用い、検出抗体として60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)とも53kDaセグメントとも結合する抗体を用いたサンドイッチELISA法により行うことができる。また、逆に固相抗体として60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)とも53kDaセグメントとも結合する抗体を用い、検出抗体として本発明の抗体を用いることもできる。また、同定量ステップ(2)は、PCSK9ヘテロダイマーに対して結合するが、非ヘテロダイマーのPCSK9に対しては結合しないモノクローナル抗体を固相抗体として用い、検出抗体として60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)とも53kDaセグメントとも結合する抗体を用いたサンドイッチELISA法により行うことができる。また、逆に固相抗体として60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)とも53kDaセグメントとも結合する抗体を用い、検出抗体としてPCSK9ヘテロダイマーに対して結合するが、非ヘテロダイマーのPCSK9に対しては結合しないモノクローナル抗体を用いたサンドイッチELISA法により行うことも可能である。
【0068】
このようにして、試験系溶媒中の60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)の、PCSK9ヘテロダイマー又は全PCSK9に対する比率を測定することにより、当該測定値を指標として、(1)上記した被験薬剤のスクリーニング、及び、(2)PCSK9ヘテロダイマーを60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)化する薬剤の有効性の判断、を行うことができる。
【0069】
本発明は、本発明の測定方法を行うためのキットを提供する。すなわち、本発明は、上記の検出を行うための要素を含むキット(以下、本発明のキットともいう)を提供する発明でもある。
【0070】
本検出用キットには、最低限、本発明の抗体が要素として含まれる。
【0071】
例えば、定量手段が、ELISA法の場合には、固相に固定化された又は固定化するための本発明の抗体を用いる第1抗体、及び/又は、この固定化第1抗体が認識するエピトープとは別の60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)分子内エピトープを認識する検出用の第2抗体が、ELISA法の本発明のキットに要素として含まれることが好適である。また、この第1抗体と第2抗体を入れ替えて用いることもできる。そして、これに加えてPCSK9ヘテロダイマーを特異的に定量するための、固相に固定化された又は固定化するためのPCSK9ヘテロダイマーに対して特異的な第1抗体、及び/又は、この固定化第1抗体が認識するエピトープとは別のPCSK9ヘテロダイマー分子内エピトープを認識する検出用の第2抗体が、当該本発明のキットに要素として含まれることも好適である。また、この第1抗体と第2抗体を入れ替えて用いることもできる。さらに、第2抗体を検出するための検出試薬、ブロッキング液、希釈液、60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)標準品等を、ELISA法の本発明のキットの要素として含めることも好適である。
【0072】
定量手段が、ラテックス凝集反応を利用した解析法では、ラテックス粒子に結合させた本発明の抗体が、本発明のキットに要素として含まれることが好適である。
【実施例】
【0073】
以下、本発明を実施例により、具体的に説明するが、この実施例により、本発明の技術的範囲は限定されない。なお、後述する5種類のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマについては、それぞれ独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターにおいて寄託を行っている。すなわち、モノクローナル抗体「1FB」を産生するハイブリドーマ「Mouse-Mouse hybridoma PCSK9-1FBは受託番号FERM P−22109として、モノクローナル抗体「B1G」を産生するハイブリドーマ「Mouse-Mouse hybridoma PCSK9-B1Gは受託番号FERM P−22110として、モノクローナル抗体「B12E」を産生するハイブリドーマ「Mouse-Mouse hybridoma PCSK9-B12E」は受託番号FERM P−22111として、モノクローナル抗体「G12D」を産生するハイブリドーマ「Mouse-Mouse hybridoma PCSK9-G12D」は受託番号FERM P−22112として、及び、モノクローナル抗体「8H9」を産生するハイブリドーマ「Mouse-Mouse hybridoma PCSK9-8H9」は受託番号NITE P−01582として、上記寄託機関において受領されている。
【0074】
なお、本実施例の記載において「PCSK9」と記載されたものは、特に断りのない限りは「ヒトPCSK9」を意味するものとする。
【0075】
1.リコンビナントPCSK9の作製
(1)リコンビナントヒト全長PCSK9の調製
HepG2細胞由来の全RNAより、ヒトPCSK9全長(アミノ酸番号1−692)に相当する相補鎖DNAをRT−PCRによって増幅し、pEF321ベクター (Kim DW, Gene. 1990 Jul 16;91(2):217-23)に組み込み、発現ベクターpEF/PCSK9を作製した。なお、上記PCRは、金属アフィニティー精製のために蛋白質のC末端にヒスチジン6残基が融合する形で発現するようプライマー配列を設定した(下記)。当該PCRの熱サイクルは、95℃ 5分の変性処理を行った後、「94℃ 1分 → 65℃ 2分 → 72℃ 5分 → 65℃ 1分」を35サイクル行い、最後に65℃ 7分の反応を行った。
【0076】
増幅用プライマーとしては、
「gacgaattccagcgacgtcgaggcgctcatggttg」(フォワードプライマー:配列番号3)、
「gacgaattctcagtgatggtgatggtgatgctggagctcctgggaggcctgcgcc」(リバースプライマー:配列番号4)
を用いた。
【0077】
発現ベクターpEF/PCSK9、及びネオマイシン耐性遺伝子発現ベクターpSV2Neo(クローンテック社製)を哺乳類動物細胞株CHO−K1(理研)に共導入し、ゲネティシン(シグマ社製)による選別を繰り返し行い、安定的にリコンビナントヒトPCSK9(rhPCSK9)を発現するクローンCHO−K1/PCSK9細胞を作製した。
【0078】
このCHO−K1/PCSK9細胞を無血清・低蛋白質培地CHO−S−SFM II(インビトロジェン社製)にて37℃、5%CO下で培養し、培養上清を回収した。さらに、培養上清500mLはTALON Resin(クローンテック社製)6mLと混合し、4℃で一晩反応させた。TALON Resinをカラムに充填し、50mLの500mM塩化ナトリウム含有25mMリン酸緩衝液(pH8.0)、続いて10mLの20mM リン酸緩衝液(pH 8.0)で洗浄し、20mLの200mMイミダゾール含有20mMリン酸緩衝液(pH8.0)で溶出した。次いで、この溶出液を予め20mMリン酸緩衝液(pH8.0)で平衡化したDEAE‐Sepharose CL−6B(0.6mL、GEヘルスケア社)カラムにアプライし、5mLの20mMリン酸緩衝液(pH8.0)、次いで1.5mLの100mM塩化ナトリウム含有20mMリン酸緩衝液(pH8.0)で洗浄した後、3mLの200mM 塩化ナトリウム含有20mMリン酸緩衝液(pH8.0)で溶出した。この溶出画分を精製rhPCSK9とした。
【0079】
後述の「2(6)モノクローナル抗体のFurin切断rhPCSK9に対する反応性」において言及するように、プロセグメントに対する抗体(G12D)を用いた免疫沈降を行うと、Furin未処理rhPCSK9では成熟セグメント(60kDa)が免疫沈降するのに対し、Furin切断rhPCSK9では成熟セグメント(53kDa)は免疫沈降しない。このことからFurin未処理rhPCSK9、すなわち上記の精製rhPCSK9は、ヘテロダイマーを形成していることが明らかとなっている。
【0080】
なお、特許文献6に開示された実施例(特許文献6段落[0067])において、上記精製rhPCSK9に対してSDSポリアクリルアミド電気泳動を行ったところプロセグメントは外れた形で存在する旨が開示されているが、これはSDSが強力は蛋白変性剤であるためにプロセグメントと60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)を結合させている非共有結合が外れた結果であると考えられる。
【0081】
(2)リコンビナントヒトΔN218PCSK9(53kDaセグメント)の調製
ΔN218PCSK9(アミノ酸番号219−692)に相当する相補鎖DNAをpEF/PCSK9を鋳型としたPCRによって増幅し、pEF321ベクター(Kim DW, Gene. 1990 Jul 16;91(2):217-23)に組み込み、発現ベクターpEF/ΔN218PCSK9を作製した。当該PCRの熱サイクルは、94℃・30秒の変性処理を行った後、「98℃・10秒 →60℃・5秒 →72℃・1.5分」を23サイクル行い、最後に72℃・2分の反応を行った。
【0082】
増幅用プライマーとしては、
「agtcaagcttcaggccagcaagtgtgacagtcat」(フォワードプライマー:配列番号5)、
「agtagtcgacctggagctcctgggaggcctg」(リバースプライマー:配列番号6)
を用いた。
【0083】
発現ベクターpEF/ΔN218PCSK9を上述と同様に、哺乳類動物細胞株CHO−K1に導入し、リコンビナントΔN218PCSK9を安定的に発現するクローンCHO−K1/ΔN218PCSK9細胞を作製した。
【0084】
この細胞は15cmφディッシュで培養し、トリプシン−EDTA(Gibco社製)処理にて細胞を回収し、遠心操作によりPBSにて洗浄した。洗浄後、細胞は1×Complete mini EDTA-free(ロシュ社製)及び1% Nonidet P40含有トリス緩衝液(TBS;150mM NaCl含有50mM Tris−HCl,pH7.5)に懸濁し、氷中で30分冷却した。次いで、細胞懸濁液を遠心(15000rpm、4℃、20分)し、上清を回収した。この上清画分をリコンビナントΔN218PCSK9(rhΔN218PCSK9)含有細胞ライセートとした。
【0085】
(3)リコンビナントヒトΔN152 PCSK9の調製
後述するモノクローナル抗体8H9の特異性を免疫沈降によって確認するために、ヒトPCSK9のアミノ酸配列番号(153−692)の部分によりなるセグメントを調製した。
【0086】
具体的には、ΔN152PCSK9(アミノ酸配列番号153−692)に相当する相補鎖DNAを、全長PCSK9の相補鎖DNAを鋳型としたPCRによって増幅し、pEF321ベクター(Kim DW, Gene. 1990 Jul 16;91(2):217-23)に組み込み、発現ベクターpEF/ΔN152PCSK9を作製した。当該PCRの熱サイクルは、94℃・30秒の変性処理を行った後、「98℃・10秒 →60℃・5秒 →72℃・1.5分」を23サイクル行い、最後に72℃・2分の反応を行った。
【0087】
増幅用プライマーとしては、
「agtcaagcttagcatcccgtggaacctggagcgga」(フォワードプライマー:配列番号7)
「agtagtcgacctggagctcctgggaggcctg」(リバースプライマー:配列番号6)を用いた。
【0088】
発現ベクターpEF/ΔN152PCSK9を上述と同様に、哺乳類動物細胞株CHO−K1に導入し、リコンビナントΔN152PCSK9を安定的に発現するクローンCHO−K1/ΔN152PCSK9細胞を作製した。
【0089】
この細胞は15cmφディッシュで培養し、トリプシン−EDTA(Gibco社製)処理にて細胞を回収し、遠心操作によりPBSにて洗浄した。洗浄後、細胞は1×Complete mini EDTA-free(ロシュ社製)及び1% Nonidet P40含有トリス緩衝液(TBS;150mM NaCl含有50mM Tris−HCl,pH7.5)に懸濁し、氷中で30分冷却した。次いで、細胞懸濁液を遠心(15000rpm、4℃、20分)し、上清を回収した。この上清画分をリコンビナントΔN152PCSK9(rhΔN152PCSK9)含有細胞ライセートとした。
【0090】
(4)Furin切断rhPCSK9(実質上は53kDaセグメントに相当する)の調製
2mM CaCl及び0.5% Triton X−100含有25mM Tris−HCl(pH9.0)液中で、上述の精製rhPCSK9 1μgとリコンビナントヒトFurin(R&D社)を混合し、37℃で6時間反応させた。その後、1μLの0.5M EDTAを加え、反応を停止した。この反応液をFurin切断rhPCSK9溶液とした。
【0091】
Furin処理によるrhPCSK9の切断は、以下のように、SDS−PAGE及びウェスタンブロット法により確認した。Furin未処理rhPCSK9及びFurin処理rhPCSK9(20ng)をそれぞれ還元条件下にてSDS−PAGEし、次いでPVDF膜(ミリポア社製)に転写した。転写した膜は、5%スキムミルクを含むPBSにて4℃、一晩静置した。洗浄液(0.1% Tween20含有PBS)にて2回洗浄後、10ng/mLペルオキシダーゼ標識抗ヒトPCSK9抗体MAB38881(R&D社製)を室温下、2時間反応させた。反応後、洗浄液にて5回洗浄した後、化学発光試薬(パーキンエルマー社製)を用い、X線フィルム(コダック社製)に感光させ、特異バンドを検出した(図2)。
【0092】
その結果、Furin未処理rhPCSK9は分子量約60kDaのバンド(60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)に相当する)が検出されるのに対し、Furin処理rhPCSK9はそのほとんどが分子量約53kDaのバンド(53kDaセグメントに相当する)が検出された。詳細には、53kDaセグメント、7kDaセグメント、プロセグメント、及び、残存PCSK9ヘテロダイマーの混合物であるが、90%以上が53kDaセグメントである。
【0093】
よって上記のFurin切断rhPCSK9溶液を、53kDaセグメント含有溶液とした。
【0094】
(5)rhPCSK9非ヘテロダイマー60kDaの調製
(5)−1 プロセグメントに対して特異的なモノクローナル抗体を用いて、本発明の標準物質を生産する方法
<rhPCSK9ヘテロダイマー含有培養上清の調製>
上述したCHO−K1/PCSK9細胞を無血清・低蛋白質培地CHO−S−SFM II(インビトロジェン社製)にて37℃で5%COで培養し、rhPCSK9ヘテロダイマー含有培養上清を回収した。
【0095】
<抗プロセグメント抗体G12D結合セファロース(G12D−seph)の作製>
NHS−activated Sepharose(GEヘルスケア社製)0.5mLをカラムに充填し、1mM HCl 10mLで洗浄した。次いで、500mM塩化ナトリウム含有100mM炭酸水素ナトリウム緩衝液(pH8.3)に1mg/mLの濃度で溶解したG12D溶液6mLと混合し、室温で2時間反応させた。反応後のセファロースをカラムに充填し、5mMの500mM塩化ナトリウム含有100mM炭酸水素ナトリウム緩衝液(pH8.3)で洗浄した。次いで5mLの100mM Tris−HCl緩衝液(pH8.5)で洗浄後、1mLの100mM Tris−HCl緩衝液(pH8.5)に懸濁し、4℃で一晩反応させた。反応後のセファロースをカラムに充填し、1.5mLの500mM塩化ナトリウム含有100mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.0)で洗浄後、1.5mLの100mM Tris−HCl緩衝液(pH8.5)で洗浄した。この2種類の緩衝液による洗浄を6回繰り返した後、5mLのPBSで洗浄し、G12D−sephとした。
【0096】
<rh60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)の精製>
上記培養上清300mLに1Mクエン酸緩衝液(pH3.0)を18mL添加し、培養上清のpHを4.0に調整後、室温下で1時間放置し、ヘテロダイマーを解離させた。2M Trisを27mL添加し、培養上清をpH8.0に調整後、TALON Resin(クローンテック社)7mLと混合し、4℃で一晩反応させた。このTALON Resinをカラムに充填し、35mLの500mM塩化ナトリウム含有25mMリン酸緩衝液(pH8.0)、続いて10mLの20mM HEPES緩衝液(pH7.5)で洗浄し、20mLの200mMイミダゾール含有20mM HEPES緩衝液(pH7.5)で溶出した。次いでこの溶出液を予め20mM HEPES緩衝液(pH7.5)で平衡化したDEAE−Sepharose CL−6B 0.6mL(GEヘルスケア社せ)を充填したカラムにアプライし、5mLの20mM HEPES緩衝液(pH7.5)、次いで2mLの100mM塩化ナトリウム含有20mM HEPES緩衝液(pH7.5)で洗浄した後、2mLの150mM塩化ナトリウム含有20mM HEPES緩衝液(pH7.5)で溶出した。次いで、この溶出液を予め150mM塩化ナトリウム含有20mM HEPES緩衝液(pH7.5)で平衡化したG12D−seph 0.1mLを充填したカラムにアプライし、通過画分を精製rh60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)とした。
【0097】
精製rh60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)は、SDSポリアクリルアミド電気泳動を行い、ゲルを銀染色によりバンドを検出し、精製純度を確認した(図3)。
【0098】
(5)−2 60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)に対して特異的なモノクローナル抗体を用いて、本発明の標準物質の本質成分を生産する方法
<抗60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)抗体8H9結合セファロース(8H9−seph)の作製>
NHS−activated Sepharose(GEヘルスケア社製)0.5mLをカラムに充填し、1mM HCl 10mLで洗浄した。次いで、500mM塩化ナトリウム含有100mM炭酸水素ナトリウム緩衝液(pH8.3)に1mg/mLの濃度で溶解した8H9溶液6mLと混合し、室温で2時間反応させた。反応後のセファロースをカラムに充填し、5mMの500mM塩化ナトリウム含有100mM炭酸水素ナトリウム緩衝液(pH8.3)で洗浄した。次いで5mLの100mM Tris−HCl緩衝液(pH8.5)で洗浄後、1mLの100mM Tris−HCl緩衝液(pH8.5)に懸濁し、4℃で一晩反応させた。反応後のセファロースをカラムに充填し、1.5mLの500mM塩化ナトリウム含有100mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.0)で洗浄後、1.5mLの100mM Tris−HCl緩衝液(pH8.5)で洗浄した。この2種類の緩衝液による洗浄を6回繰り返した後、5mLのPBSで洗浄し、8H9−sephとした。
【0099】
<rh60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)の精製>
上記培養上清300mLに1Mクエン酸緩衝液(pH3.0)を18mL添加し、培養上清のpHを4.0に調整後、室温下で1時間放置し、ヘテロダイマーを解離させた。2M Trisを27mL添加し、培養上清をpH8.0に調整後、TALON Resin(クローンテック社)7mLと混合し、4℃で一晩反応させた。このTALON Resinをカラムに充填し、35mLの500mM塩化ナトリウム含有25mMリン酸緩衝液(pH8.0)、続いて10mLの20mM HEPES緩衝液(pH7.5)で洗浄し、20mLの200mMイミダゾール含有20mM HEPES緩衝液(pH7.5)で溶出した。
【0100】
この溶出液に8H9−seph 0.5mLを混合し、室温で1時間緩やかに転倒混和した。次いで8H9−sephをカラムに充填し、2mLのPBSで洗浄後、2.7mLの100mMクエン酸ナトリウム緩衝液(pH3.0)で溶出した。次いで、溶出液に0.3mLの2M Tris溶液を加え中和した。この段階では、モノクローナル抗体8H9の特異性を活かしてrh60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)の濃縮精製を行っているが、高分子凝集体が混在している。
【0101】
この溶出液を予め20mM HEPES緩衝液(pH7.5)で平衡化したNAP−25カラム(GEヘルスケア社)2本において、カラム1本当たり1.5mLをアプライし、さらに1mLの20mM HEPES緩衝液(pH7.5)で溶出し、カラム2本分の溶出液を1本にまとめて、次のDEAE−Sepharoseに供するためのバッファー交換を行った。
【0102】
この溶出液を予め20mM HEPES緩衝液(pH7.5)で平衡化したDEAE−Sepharose CL−6B 0.6mL(GEヘルスケア社)を充填したカラムにアプライし、5mLの20mM HEPES緩衝液(pH7.5)で洗浄した後、2mLの150mM塩化ナトリウム含有20mM HEPES緩衝液(pH7.5)で溶出した。これにより、高分子凝集体を除去した。この溶出液を精製rh60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)とした。
【0103】
精製rh60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)は、精製過程の各画分についてSDSポリアクリルアミド電気泳動を行い、ゲルをクマシーブリリアントブルー染色によりバンドを検出し、それぞれの純度を確認した(図4)。図4において、レーン1はクエン酸緩衝液添加前の培養上清、2はTris溶液添加後の培養上清、3はTALON Resin非吸着画分、4はTALON Resin洗浄画分、5はTALON Resin溶出画分、6は8H9−seph非結合画分、7は8H9−seph洗浄画分、8は8H9−seph溶出画分、9はNAP−25溶出画分、10はDEAE非吸着画分、11はDEAE洗浄画分、及び、12はDEAE溶出画分である。精製段階が進むほど、60kaDaのバンドが特異的に顕れていることが分かる。
【0104】
2.抗ヒトPCSK9モノクローナル抗体の作製(1)(参考例)
(1)抗ヒトPCSK9モノクローナル抗体産生ハイブリドーマの調製
精製rhPCSK9を抗原とした蛋白免疫あるいは発現ベクターpEF/PCSK9を免疫源とした遺伝子免疫にてマウスを免疫した。
【0105】
蛋白免疫は、1回あたり精製rhPCSK9 3μgをアジュバントAbisco-100(ISCONOVA社)12μgと混合し、Balb/cマウス(8週齢、雌)の背部皮下に投与した(初回免疫)。追加免疫は2週間ごとに合計3回初回免疫同様の操作を行った。
【0106】
遺伝子免疫は、1回あたりPBSに溶解した発現ベクターpEF/PCSK9 50μgをBalb/cマウス(8週齢、雌)尾部皮下に投与した(初回免疫)。追加免疫は2週間ごとに合計4回初回免疫同様の操作を行った。
【0107】
蛋白免疫、遺伝子免疫ともに最終投与から2週間後に、20μgの精製rhPCSK9をマウス腹腔内に投与した。腹腔内投与から3日後にマウス脾臓を摘出し、脾細胞を回収した。脾細胞はポリエチレングリコール1500溶液(ベーリンガーマンハイム社製)にてマウス骨髄腫細胞(SP2/0-Ag14)と融合させた。融合した細胞(ハイブリドーマ)は3%ハイブリドーマクローニングファクター(HCF、エアブラウン社製)、1×HAT(シグマ社製)および10%fetal bovine serum(FBS、ニチレイ社製)含有RPMI培地で選択した。抗PCSK9モノクローナル抗体の産生細胞は、精製rhPCSK9を固相したマイクロプレートを用いたELISA法によって選別した。すなわち、各ウェル当たり25ngの精製rhPCSK9を固相化(4℃、一晩)し、各ウェルを1%bovine serum albumin(BSA、シグマ社製)含有PBSでブロッキングした。各ウェルを洗浄後、100μLの各ハイブリドーマの培養上清を添加し、室温下で2時間反応した。反応後、各ウェルを洗浄液(0.1%Tween20含有PBS)で洗浄し、5000倍に希釈したペルオキシダーゼ標識ヤギ抗マウスIgG抗体(BioSource社)を加えて、室温下で1時間反応した。反応後、洗浄液にてウェルを5回洗浄し、100μLの発色溶液[0.012%過酸化水素、0.4mg/mL OPD(o-phenulenediamine dihydrochloride、シグマアルドリッチ社製)含有クエン酸リン酸緩衝液、pH5.0]を添加し、室温下で30分間反応させた。反応後、2N硫酸を添加し、反応を停止し、波長492nmの吸光度をマイクロプレートリーダーで測定した。ハイブリドーマ培養上清の吸光度が1.0以上を示すウェルを陽性として選別した。抗PCSK9モノクローナル抗体産生ハイブリドーマはさらに限界希釈法によりクローニングし、細胞株を樹立した。
【0108】
さらに、陽性ハイブリドーマ細胞の選別は、ハイブリドーマ細胞培養上清を用いてウェスタンブロット法によるrhPCSK9に対する反応性、あるいは免疫沈降法によるヒト血清PCSK9に対する反応性をそれぞれ確認し、両方法にて特異性が認められたクローンを最終的に選別した。
【0109】
ウェスタンブロット法は、ゲル1枚あたり1μgの精製rhPCSK9を非還元にてSDS−PAGEし、次いでPVDF膜(ミリポア社製)に転写した。転写した膜は、5%スキムミルクを含むPBSにて4℃、一晩静置した。0.1%Tween20含有PBS(洗浄液)にて2回洗浄後、各ハイブリドーマ培養上清を室温下、2時間反応させた。反応後、洗浄液にて5回洗浄した後、10000倍に希釈したペルオキシダーゼ標識ヤギ抗マウスIgG抗体(BioSource社)を室温下、2時間反応させた。反応後、洗浄液にて5回洗浄した後、化学発光試薬(パーキンエルマー社製)を用い、X線フィルム(コダック社製)に感光させ、特異バンドを検出した。
【0110】
免疫沈降法は、1.0×10個のDynabeads M-280 抗マウスIgG(ベリタス社製)に各ハイブリドーマ培養上清を200μL加え、室温2時間、転倒混和しながら抗体をビーズに結合させた。0.1% Tween20含有PBSでビーズを3回洗浄した後、ヒト血清100μLを添加し転倒混和しながら4℃、16時間反応させた。0.1% Tween20含有PBSで3回洗浄後、非還元SDSサンプル液に懸濁してSDS-PAGEし、次いでPVDF膜(ミリポア社製)に転写した。転写した膜は、5%スキムミルクを含むPBSにて4℃、一晩静置した。0.1% Tween20含有PBS(洗浄液)にて2回洗浄後、0.1μg/mLのペルオキシダーゼ標識抗PCSK9抗体MAB38881(R&D社製)を室温下、2時間反応させた。反応後、洗浄液にて5回洗浄した後、化学発光試薬(パーキンエルマー社製)を用い、X線フィルム(コダック社製)に感光させ、特異バンドを検出した。
【0111】
最終的に、精製rhPCSK9固相化マイクロプレートを用いたELISA法、ウェスタンブロット法による精製rhPCSK9に対する反応性、免疫沈降法によるヒト血清PCSK9に対する反応性により選別し、ヒトPCSK9に対して反応するモノクローナル抗体産生ハイブリドーマ25クローンを作製した。
【0112】
(2)ハイブリドーマからのモノクローナル抗体調製
プリステン(0.5mL/匹、シグマ社製)を予め腹腔内に投与したBalb/cマウス(8週齢、雄)に一匹あたりハイブリドーマ細胞10〜10個/0.5mLを腹腔内に注入した。注入10日後、マウスを開腹し、腹水を採取した。得られた腹水は、遠心にて細胞成分を取り除き、上清に等量の氷冷した飽和硫酸アンモニウム溶液を加えて混和し、氷冷し2時間放置した。次いで、10000×gで10分間遠心後、上清を捨て、沈殿を結合溶液(3M塩化ナトリウム含有1.5Mグリシン溶液、pH8.9)に溶解し、Protein Aセファロース(GEヘルスケア社製)と混和し、4℃で一晩転倒混和した。結合させたProtein Aセファロースをカラムに充填し、6倍量の結合溶液にて洗浄後、溶出溶液(0.1Mクエン酸溶液、pH4.0)で1mLずつ溶出した。溶出された画分は、0.1mLの2Mトリス溶液(pH10.0)で中和した。各溶出画分の吸光度(280nm)を測定し、モノクローナル抗体の溶出画分を回収した。回収したモノクローナル画分はPBSにて透析(4℃、一晩)し、精製モノクローナル抗体を得た。
【0113】
得られたモノクローナル抗体のアイソタイプは、マウスモノクロナール抗体アイソタイプ決定用キット(べーリンガー社製)を用い、キット添付の操作手順に準じて測定した。ヒトPCSK9に対するモノクローナルは、IgG1(17クローン)、IgG2a(2クローン)、IgG2b(6クローン)であった。これらのうち、ハイブリドーマ1FB、B12E、G12D、B1Gに由来するモノクローナル抗体[抗体1FB(IgG1)、B12E(IgG1)、G12D(IgG1)、B1G(IgG1)]について、下記のように抗体の特異性を確認した。
【0114】
(3)モノクローナル抗体特異性の確認
モノクローナル抗体の特異性は、ウェスタンブロット法によるrhPCSK9に対する反応性、免疫沈降法によるFurin切断rhPCSK9に対する反応性を検討し、確認した。
【0115】
(4)ペルオキシダーゼ標識モノクローナル抗体の作製
抗体1FB、B12E、G12D、B1G、及び市販抗ヒトPCSK9抗体MAB38881(R&D社)、抗ヒスチジンタグ抗体(Tetra-His Antibody、キアゲン社)はPeroxidase Labeling Kit-SH(同仁化学研究所)を用いて各抗体のペルオキシダーゼ標識抗体を作製した。抗体の標識はキット説明書に従い行った。
【0116】
(5)ウェスタンブロット法によるrhPCSK9に対する抗体の特異性検討
ゲル1枚あたり1μgの精製rhPCSK9を非還元及び還元条件下にてSDS-PAGEし、次いでPVDF膜(ミリポア社製)に転写した。転写した膜は、5%スキムミルクを含むPBSにて4℃、一晩静置した。洗浄液(0.1% Tween20含有PBS)にて2回洗浄後、各ペルオキシダーゼ標識抗体10ng/mLを室温下、2時間反応させた。反応後、洗浄液にて5回洗浄した後、化学発光試薬(パーキンエルマー社製)を用い、X線フィルム(コダック社製)に感光させ、特異バンドを検出した(図5)。
【0117】
ウェスタンブロット法によるrhPCSK9に対する反応性の結果より、抗体1FB、B12E、B1Gは約60kDaの成熟セグメントに反応し、この反応性は抗原の還元処理により失われることが明らかとなった。抗体G12Dはプロセグメントのみに反応し、この反応性は抗原の還元処理に影響されないことが明らかとなった。
【0118】
(6)モノクローナル抗体のFurin切断rhPCSK9に対する反応性
抗PCSK9抗体1FB、B12E、B1G、G12D、及び、コントロール抗体16G5について、0.1Mホウ酸緩衝液(pH9.5)で洗浄したDynabeads M-280 Tosyl-activated(ベリタス社製)を3M硫酸アンモニウム含有0.1Mホウ酸緩衝液(pH9.5)に懸濁し、1.0×10個のビーズあたり抗体を10μg加え、4℃で20時間、転倒混和しながらビーズに各抗体を結合させた。反応後上清液を捨て、0.5%牛血清アルブミン(BSA)含有PBS(pH7.4)を加え、緩やかに攪拌しながら、室温で2時間反応させビーズを不活化した後、0.1%BSA含有PBS(pH7.4)で洗浄し、抗体結合ビーズを作製した。抗体結合ビーズ1.0×10個に対しrhPCSK9 20μg、もしくはFurin切断rhPCSK9 20μgを添加し、転倒混和しながら4℃で16時間反応させた。0.1%Tween20含有PBSで3回洗浄後、非還元SDSサンプル液に懸濁してSDS−PAGEし、次いでPVDF膜(ミリポア社製)に転写した。転写した膜は、5%スキムミルク含有PBSにて4℃、一晩静置した。洗浄液(0.1%Tween20含有PBS)にて2回洗浄後、0.1μg/mLのペルオキシダーゼ標識抗ヒトPCSK9抗体MAB38881(R&D社)を室温下、2時間反応させた。反応後、洗浄液にて5回洗浄した後、化学発光試薬(パーキンエルマー社製)を用い、X線フィルム(コダック社製)に感光させ、特異バンドを検出した(図6)。
【0119】
前記のようにウェスタンブロット法によりプロセグメントに対する抗体であることが確認されたG12Dは、Furin未処理rhPCSK9では成熟セグメント(60kDa)が免疫沈降するのに対し、Furin切断rhPCSK9では成熟セグメント(53kDa)が免疫沈降しない。このことから、Furin未処理rhPCSK9はヘテロダイマーを形成しているのに対し、Furin切断rhPCSK9はヘテロダイマーを形成していない(非ヘテロダイマー)ことが確認された。
【0120】
成熟セグメントに対する抗体1FB、B12EはFurin未処理rhPCSK9(ヘテロダイマー)及びFurin切断rhPCSK9(非ヘテロダイマー:53kDaセグメント)の両者を免疫沈降することから、PCSK9ヘテロダイマー、及び、53kDaセグメントのいずれにも反応することが確認された。抗体B1GはFurin未処理rhPCSK9(ヘテロダイマー)を免疫沈降しないのに対し、Furin切断rhPCSK9(非ヘテロダイマー:53kDaセグメント)を免疫沈降することから、非ヘテロダイマーの成熟セグメント(53kDaセグメント)特異的に反応することが確認された。
【0121】
3.抗ヒトPCSK9モノクローナル抗体の作製(2)(実施例)
本発明のモノクローナル抗体、すなわち、「60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)に反応し、かつ、PCSK9ヘテロダイマー及び53kDaPCSK9には交差反応しないモノクローナル抗体」の調製を試みた。これは、後述する家族性高コレステロール血症(FH)血清における結果を受けて、60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)の検出を念頭に置いての実施例である。
【0122】
(1)抗ヒトPCSK9モノクローナル抗体産生ハイブリドーマの調製
精製rhPCSK9ヘテロダイマーを抗原としてマウスを免疫した。
【0123】
具体的には、1回当たり精製rhPCSK9 3μgをアジュバンドAbisio-100(ISCONOVA社)25μgと混合し、Balb/cマウス(8週齢、雌)の背部皮下に投与した(初回免疫)。追加免疫は2週間毎に合計3回初回免疫と同様の操作にて行った。
【0124】
最終投与から2週間後に、20μgの精製rhPCSK9をマウス腹腔内に投与した。腹腔内投与から3日後にマウスの脾臓を取り出し、脾細胞を回収した。脾細胞はポリエチレングリコール1500溶液(ベーリンガーマンハイム社製)にてマウス骨髄腫細胞(SP2/0−Ag14)と融合させた。融合した細胞(ハイブリドーマ)は、10%ハイブリドーマクローニングファクター(HCF、エアブラウン社製)を添加したHAT培地(シグマ社製)で選択した。抗PCSK9モノクローナル抗体の産生細胞は、精製rhPCSK9を固相化したマイクロプレートを用いたELISA法によって選別した。すなわち、各ウェル当たり25ngの精製rhPCSK9を固相化(4℃、一晩)し、洗浄後、各ウェルを5%スキムミルク含有PBSでブロッキングした。各ウェルを洗浄後、100μLの各ハイブリドーマの培養上清を添加し、室温下で2時間の反応を行った。反応後、各ウェルを洗浄液(0.1% Tween20含有PBS)で洗浄し、5000倍に希釈したペルオキシダーゼ標識ヤギ抗マウスIgG抗体(BioSource社)を加えて、室温下で1時間反応を行った。反応後、洗浄液にてウェルを5回洗浄し、100μLの発色溶液[0.012%過酸化水素、0.4mg/mL OPD(o-phenulenediamine dihydrochloride、シグマある度リッチ社製)含有クエン酸リン酸緩衝液、pH5.0]を添加し、室温下で30分間反応させた。反応後、2N硫酸を添加して反応を停止し、波長492nmの吸光度をマイクロプレートリーダーで測定した。ハイブリドーマ培養上清の吸光度が1.0以上を示すウェル陽性として選別した。抗PCSK9モノクローナル抗体産生ハイブリドーマはさらに限界希釈法によりクローニングし、細胞株を樹立した。
【0125】
(2)ハイブリドーマ8H9の選別
ハイブリドーマ8H9は、ハイブリドーマ培養上清を用いたウェスタンブロット法によるrhPCSK9に対する反応性を基準として、上記の陽性ハイブリドーマ株から選別された。
【0126】
ウェスタンブロット法は、ゲル1枚あたり1μgの精製rhPCSK9を非還元にてSDS−PAGEを行い、次いでPVDF膜(ミリポア社製)に転写した。転写した膜は、5%スキムミルク含有PBSにて4℃下で一晩静置した。0.1%Tween20含有PBS(洗浄液)により2回洗浄後、各ハイブリドーマの培養上清を室温下、2時間反応させた。反応後、洗浄液で5回洗浄した後、10000倍に希釈したペルオキシダーゼ標識ヤギ抗マウスIgG抗体(BioSource社)を室温下、2時間反応させた。反応後、洗浄液にて5回洗浄した後、化学発光試薬(パーキンエルマー社製)を用い、X線フィルム(コダック社製)に感光させ、特異バンドを検出した(図7)。
【0127】
rhPCSK9にはC末端にHis×6tagが付加されている。His×6tagを認識する抗ヒスチジンタグ抗体では、60kDa付近のバンドに加え、微量の約50kDaのバンドが検出される。抗ヒスチジンタグ抗体が成熟セグメントのC末端を認識するころから、この約50kDのバンドは成熟セグメントのN末端側が分解することにより生じた分子であり、これは53kDaセグメントと考えられる。一方モノクローナル抗体8H9では、60kDaセグメントは検出されるものの前記約50kDaのバンドは検出されず、代わりにanti His-tag抗体では検出されない19.8kDa未満のバンドが検出された。このことから、ハイブリドーマ8H9は成熟セグメントのN末端を認識するモノクローナル抗体を産生する特徴的なクローンと考えられ、腹水からのモノクローナル抗体調製に値するクローンとして選別された。
【0128】
(3)ハイブリドーマからのモノクローナル抗体調製
Balb/cマウス(雌)に一匹当たりハイブリドーマ細胞を10〜10個/0.5mLを腹腔内に注入した。注入10日後、マウスを開腹し、腹水を採取した。得られた腹水は、遠心を用いて細胞成分を取り除き、上清に等量の氷冷した飽和硫酸アンモニウム溶液を加えて混和し、氷冷し、2時間放置した。次いで、10000×gで10分間遠心後、上清を捨て、沈殿を結合溶液(3M塩化ナトリウム含有1.5Mグリシン溶液、pH8.9)に溶解しProtein Aセファロース(GEヘルスケア社製)と混和し、4℃で一晩転倒混和した。結合させたProtein Aセファロースをカラムに充填し、6倍量の結合溶液にて洗浄後、溶出溶液(0.1Mクエン酸溶液、pH4.0)で1mLずつ溶出した。溶出された画分は、0.1mLの2Mトリス溶液(pH10.0)で中和した。各溶出画分の吸光度(280nm)を測定し、モノクローナル抗体の溶出画分を回収した。回収したモノクローナル画分はPBSにて4℃で一晩透析し、精製モノクローナル抗体を得た。
【0129】
得られたモノクローナル抗体のアイソタイプは、マウスモノクローナル抗体アイソタイプ決定用キット(ベーリンガー社製)を用い、キット添付の操作手順に準じて測定した。その結果、モノクローナル抗体8H9のアイソタイプはIgG1であった。
【0130】
(4)モノクローナル抗体8H9の特異性の確認
<Furin切断rhPCSK9に対するウェスタンブロット>
Furinによる切断前と切断後のrhPCSK9を、それぞれ20ngを還元条件下でSDS−PAGEを行い、次いでPVDF膜(ミリポア社)に転写した。転写した膜は、5%スキムミルクを含むPBSにて4℃で一晩静置した。洗浄液(0.1% Tween20含有PBS)にて2回洗浄後、10ng/mLのペルオキシダーゼ標識抗ヒトPCSK9抗体MAB38881(R&D社:抗ヒトPCSK9ヘテロダイマー抗体)又はペルオキシダーゼ標識モノクローナル抗体8H9を室温下、2時間反応させた。反応後、洗浄液にて5回洗浄した後、化学発光試薬(パーキンエルマー社)を用い、X線フィルム(コダック社)に感光させ、特異バンドを検出した(図8)。
【0131】
Furin切断前ではいずれの抗体も60kDaの成熟セグメントを検出した。Furin切断後では残存している60kDaの成熟セグメントに加え、MAB38881が53kDaのC末端側分子を検出したのに対し、モノクローナル抗体8H9は7kDaのN末端側分子を検出した。以上のことから、モノクローナル抗体8H9は、PCSK9成熟セグメントのN末端側7KDaの領域にエピトープを持つモノクローナル抗体であることが明らかになった。
【0132】
<免疫沈降>
免疫沈降サンプルとしてrhPCSK9ヘテロダイマー、53kDaセグメント、60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)、免疫沈降抗体として8H9及びB12E、検出抗体としてペルオキシダーゼ標識B12Eを用い免疫沈降を行った。
【0133】
各免疫沈降抗体について、0.1Mホウ酸緩衝液で洗浄したDynabeads M-280 抗マウスIgG(ベリタス社製)を、3M硫酸アンモニウム含有0.1Mホウ酸緩衝液(pH9.5)に懸濁し、1.0×10個のビーズ当たり抗体を10μg加え、4℃下で20時間、転倒混和しながらビーズに抗体を結合させた。反応後上清液を捨て、0.5%ウシ血清アルブミン(BSA)含有PBS(pH7.4)を加え、緩やかに攪拌しながら、室温で2時間反応させてビーズを不活化した後、0.1%BSA含有PBS(pH7.4)で洗浄し、抗体結合ビーズを調製した。抗体結合ビーズ1.0×10個に対し血清検体100μLを添加し、転倒混和しながら4℃下で16時間反応させた。0.1% Tween20含有PBSで3回洗浄後、非還元SDSサンプル液に懸濁してSDS−PAGEを行い、次いでPVDF膜(ミリポア社製)に転写した。転写した膜は、5%スキムミルクを含むPBSにて4℃で一晩静置した。洗浄液(0.1% Tween20含有PBS)にて2回洗浄後、0.1μg/mLの検出抗体を室温下、2時間反応させた。反応後、洗浄液にて5回洗浄した後、化学発光試薬(パーキンエルマー社製)を用い、X線フィルム(コダック社製)に感光させ、特異バンドを検出した(図9)。
【0134】
B12Eが全てのPCSK9を免疫沈降したのに対し、8H9は60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)のみ免疫沈降した。このことから、モノクローナル抗体8H9は60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)に対して特異的な抗体であることが明らかになった。
【0135】
4.サンドイッチELISA法によるPCSK9分子形態特異的蛋白質量測定系(参考例)
上述のごとく作製したモノクローナル抗体(8H9を除く)を用いて、サンドイッチELISAが可能な抗体の組合せを検討し、最終的に、固相抗体1FBと検出抗体ペルオキシダーゼ標識B12Eの組合せによる「全PCSK9測定系」(A系)、固相抗体B12Eと検出抗体ペルオキシダーゼ標識G12Dの組合せによる「ヘテロダイマーPCSK9測定系」(B系)、固相抗体B1Gと検出抗体ペルオキシダーゼ標識B12Eの組合せによる「非ヘテロダイマーPCSK9測定系」(C系)をそれぞれ構築した(図10)。
【0136】
これらの測定系(A系、B系、及び、C系)のサンドイッチELISA系は、特許文献6にて示した通りである。B系値≫C系値であれば非ヘテロダイマー型PCSK9値が小さいことを示し、逆にB系値≪C系値であれば非ヘテロダイマー型PCSK9値が大きいことを意味する。
【0137】
健常者108名及び家族性高コレステロール血症(FH)患者194名の血清におけるPCSK9濃度を、これらの測定系を用いて測定し、(a)B系値≫C系値の非ヘテロダイマー型PCSK9値が小さい血清サンプル(サンプル番号1〜4)と、(b)B系値≪C系値の非ヘテロダイマー型PCSK9値が大きい血清サンプル(サンプル番号5〜11)をピックアップした。これらのサンプル1〜11のA系値、B系値、及び、C系値を表1に示す。
【0138】
【表1】
【0139】
5.血清サンプル中の60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)の免疫沈降による検出
次いで上記の血清サンプル1〜11を、非ヘテロダイマー型PCSK9特異的な抗PCSK9抗体B1Gを用いて血清PCSK9分子を免疫沈降により検討した。この免疫沈降において行った各抗体のペルオキシダーゼ標識は、Peroxidase Labeling Kit-SH(同仁化学研究所製)を用いて行った。標識方法は、キット添付の説明書に従って行った。
【0140】
免疫沈降法は、抗PCSK9抗体B1Gについて、0.1Mホウ酸緩衝液(pH9.5)で洗浄したDynabeads M-280 抗マウスIgG(ベリタス社製)を、3M硫酸アンモニウム含有0.1Mホウ酸緩衝液(pH9.5)に懸濁し、1.0×10個のビーズ当たり抗体を10μg加え、4℃下で20時間、転倒混和しながらビーズに抗体を結合させた。反応後上清液を捨て、0.5%ウシ血清アルブミン(BSA)含有PBS(pH7.4)を加え、緩やかに攪拌しながら、室温で2時間反応させてビーズを不活化した後、0.1%BSA含有PBS(pH7.4)で洗浄し、抗体結合ビーズを調製した。抗体結合ビーズ1.0×10個に対し血清検体100μLを添加し、転倒混和しながら4℃下で16時間反応させた。0.1% Tween20含有PBSで3回洗浄後、非還元SDSサンプル液に懸濁してSDS−PAGEを行い、次いでPVDF膜(ミリポア社製)に転写した。転写した膜は、5%スキムミルクを含むPBSにて4℃、一晩静置した。洗浄液(0.1% Tween20含有PBS)にて2回洗浄後、0.1μg/mLのペルオキシダーゼ標識抗PCSK9抗体MAB38881(R&D社製)を室温下、2時間反応させた。反応後、洗浄液にて5回洗浄した後、化学発光試薬(パーキンエルマー社製)を用い、X線フィルム(コダック社製)に感光させ、特異バンドを検出した。
【0141】
結果を図11に示す。
【0142】
その結果、非ヘテロダイマー型PCSK9値が小さい血清サンプル(サンプル番号1〜4)においては、Furin切断rhPCSK9と同様に53kDaのバンドが検出され、バンドシグナルの濃さは非ヘテロダイマー型PCSK9値が高い血清サンプル(サンプル番号5〜11)において濃い、すなわち濃度が高い傾向が認められた。
【0143】
そして非ヘテロダイマー型PCSK9値が高い血清サンプル(サンプル番号5〜11)においては、薄めの53kDaのバンドに加え、意外なことに60kDaのバンドが濃く検出された。この60kDaのバンドの分子量は、60kDa成熟ドメインに相当するサイズであり、これは60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)であると認められた。これまでに、ヒト血清中での成熟ドメインは、PCSK9ヘテロダイマーと53kDaセグメントの存在が報告されているのみであり(Piper DE et al.,Structure,2007:15;545-552、Dubuc G et al.,J Lipid Res,2010:51;140-149)、ヒト血清中に60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)が存在することが、今般初めて見出された。
【0144】
6.サンドイッチELISAの構築
イムノプレート(Nunc社)にPBSで希釈した各固相抗体(A系:1FB 1μg/mL、B系:B12E 0.3μg/mL、C系:B1G 1μg/mL)を100μL/wellで添加し、4℃で一晩静置した。
【0145】
0.1%Tween20含有PBS(洗浄液)で2回洗浄後、1%BSA及び10%Sucrose含有PBSを200μL/wellで添加し、室温2時間ブロッキングした。各ウェルの液を除去後、0.3%BSA及び0.1%Tween20含有PBSで希釈したスタンダード溶液(A系及びB系はrhPCSK9ヘテロダイマー、C系はrhΔN218 PCSK9(53kDaセグメント))、あるいはヒト血清を100μL/wellで添加し、室温で2時間静置した(表2)。
【0146】
【表2】
【0147】
反応後洗浄液で4回洗浄し、10% StabilZyme(SurModics社)、0.3% BSA及び0.1%Tween20含有PBSで希釈した各検出抗体(A系:ペルオキシダーゼ標識B12E 10ng/mL、B系:ペルオキシダーゼ標識G12D 25ng/mL、C系:ペルオキシダーゼ標識B12E 35ng/mL)を100μL/wellで添加し、室温1時間静置した。反応後洗浄液で4回洗浄し、酵素基質液TMB+(Dako社)を100μL/well添加し、室温30分間発色させた後、0.5M硫酸100μL/wellを添加して酵素反応を停止し、Multiskan Ascent (Thermo Labsystems社製)にて各ウェルの吸光度を波長450nm(バックグラウンド560nm)で測定した。
【0148】
各ELISA測定系における検量線は図12のとおりである。A系及びB系は、0〜20ng/mL、C系は0〜4ng/mLの範囲で良好な検量線を示した。
【0149】
図13は、血清サンプルの希釈直線性試験の結果を示している。いずれの系、サンプルについても直線性が示されており、各ELISA系の正確度が確認された。
【0150】
7.サンドイッチELISA法によるPCSK9非ヘテロダイマー60kDa特異的蛋白質量測定系の構築(実施例)
60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)特異的抗体8H9及び抗PCSK9成熟セグメント抗体B12Eを組み合わせ、PCSK9非ヘテロダイマー60kDa特異的サンドイッチELISA系(D系)を構築した。固相抗体として8H9、検出抗体としてペルオキシダーゼ標識B12Eを使用した。スタンダードには、前述の「8H9−seph」を用いて調製した「精製rh60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)」を使用した。
【0151】
イムノプレート(Nunc社)に、PBSで希釈した8H9 5μg/mLを100μL/wellで添加し、4℃で一晩静置した。0.1%Tween20含有PBS(洗浄液)で2回洗浄後、1%BSA及び10%Sucrose含有PBSを200μL/wellで添加し、室温で2時間ブロッキングを行った。各ウェルの液を除去後、0.3%BSA及び0.1%Tween20含有PBSで希釈したスタンダード溶液(rhΔN152PCSK9)、あるいは測定サンプルを100μL/wellで添加し、室温で2時間静置した。反応後、洗浄液で4回洗浄し、10%stabiliZyme(SurModics社)、0.3%BSA及び0.1%Tween20含有PBSで希釈したペルオキシダーゼ標識B12E 50ng/mLを100μL/wellで添加し、室温で1時間静置した。反応後洗浄液で4回洗浄し、酵素基質液TMB+(Dako社)を100μL/wellで添加し、室温で30分間発色させた後、0.5M硫酸を100μL/well添加して酵素反応を停止し、Multiskan Ascent(Thermo Labsystems社製)にて各ウェルの吸光度を波長450nm(バックグラウンド560nm)で測定した。
【0152】
本ELISA測定系(D系)における検量線は図14に示す通りである。本ELISA系は0〜4ng/mLの範囲で良好であった。
【0153】
さらに、本ELISA測定系(D系)における血清サンプルの希釈直線性試験の結果は図15に示す通りである。いずれのサンプルについても直線性が示され、本ELISA系の正確度が確認された。
【0154】
8.モノクローナル抗体8H9のヒト血清サンプルに対する反応性の確認
(1)サンドイッチELISAによる測定
家族性高コレステロール血症患者の血清サンプルS1,S2,S3について、A系、B系、C系及びD系のサンドイッチELISA系にて、各PCSK9分子形態濃度を測定した。これらのサンプルのA系値、B系値、C系値及びD系値を表3に示す。
【0155】
【表3】
【0156】
(2)免疫沈降による確認
上記の血清サンプルS1,S2,S3について、免疫沈降抗体として8H9及びB12Eを、検出抗体としてペルオキシダーゼ標識B12E及び同標識G12Dを用い、下記のように免疫沈降を行った。
【0157】
各免疫沈降抗体について、0.1Mホウ酸緩衝液(pH9.5)で洗浄したDynabeads M-280 Tosyl-activated(ベリタス社)を3M硫酸アンモニウム含有0.1Mホウ酸緩衝液(pH9.5)に懸濁し、1.0×10個のビーズあたり抗体を10μg加え、4℃で20時間、転倒混和しながらビーズに抗体を結合させた。反応後上清液を捨て、0.5%牛血清アルブミン(BSA)含有PBS(pH7.4)を加え、緩やかに攪拌しながら、室温で2時間反応させてビーズを不活化した後、0.1%BSA含有PBS(pH7.4)で洗浄し、抗体結合ビーズを作製した。抗体結合ビーズ1.0×10個に対し、各血清サンプル100μLを添加し、転倒混和しながら4℃で16時間反応させた。0.1% Tween20含有PBSで3回洗浄後、非還元SDSサンプル液に懸濁してSDS−PAGEを行い、次いでPVDF膜(ミリポア社)に転写した。転写した膜は、5%スキムミルク含有PBSにて4℃で一晩の反応後、洗浄液にて5回洗浄した後、化学発光試薬(パーキンエルマー社)を用い、X線フィルム(コダック社)に感光させ、特異バンドを検出した(図16)。
【0158】
図16に示すように、モノクローナル抗体B12Eが60kDaセグメント、53kDaセグメント(A系値相当)、及び、プロセグメント(B系値相当)を免疫沈降したのに対し、モノクローナル抗体8H9は60kDaセグメント(D系値相当)のみを免疫沈降した。このことから、ヒト血清中には確かに60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)が存在することが確認された。
【0159】
9.rhPCSK9非ヘテロダイマー60kDaのLDL受容体分解活性の検討
(1)HepG2細胞の培養
HepG2細胞(ATCC)を24ウェル細胞培養プレート(BM機器社)に1ウェルあたり1×10個の細胞数で撒き、10%FBS(ニチレイ社)含有DMEM(ライフテクノロジー社)を1ウェルあたり0.5mL添加し、37℃・5%CO下で24時間培養した。次いで培地を5%LPDS(Lipoprotein Deficient Serum:Havel RJ et al.,J Clin Invest,1955:34;1345-1353に従い調製した)含有DMEM、1ウェルあたり0.3mLに変更し、37℃・5%CO下で24時間培養した。次いで、培地を濃度0μg/mL、1.1μg/mL、3.3μg/mL、10μg/mLの精製rhPCSK9ヘテロダイマー若しくは精製rh60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)含有DMEM,1ウェルあたり0.25mLに変更し、37℃・5%CO下で4時間培養した。培養後の細胞をPBSで1回洗浄後、1mMEDTA含有PBSを1ウェルあたり0.2mL添加し、37℃で10分間静置し、培養プレートから遊離させた。遊離した細胞をマイクロチューブ(BM機器)に回収後、400g・4℃にて3分間遠心し上清を除いた後、30μLの0.3%BSA、0.05%アジ化ナトリウム含有PBS(緩衝液A)に懸濁し、氷上に静置した。
【0160】
(2)HepG2細胞表面上LDL受容体の染色
30μLのHepG2細胞懸濁液に20μLの5μg/mL抗ヒトLDL受容体マウスモノクローナル抗体含有緩衝液Aを添加し、氷上にて40分間反応させた。反応後、細胞を氷冷した緩衝液Aにて2回洗浄後、20μLの250倍希釈のフィコエリスリン標識ヤギ抗マウスIgG抗体(ロックランド社)含有緩衝液Aに懸濁し氷上にて30分間反応させ、細胞表面上のLDL受容体を蛍光標識した。反応後、細胞を氷冷した緩衝液Aにて2回洗浄後、0.17mLの氷冷したPBSに懸濁し、FACSCalibur(ベクトン・ディッキンソン社)にて蛍光強度を測定し、細胞表面上のLDL受容体発現量を評価した。なお、上記抗ヒトLDL受容体マウスモノクローナル抗体は、Kosaka S et al.,Circulation, 2001:103;1142-1147、及び、Takahashi M et al.,Clin Genet,2001:59;290-292に従って調製したものを用いた。
【0161】
rhPCSK9ヘテロダイマー添加、前述の「G12D−seph」を用いて調製した「精製rh60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)」添加のいずれにおいてもHepG2細胞表面上のLDL受容体発現量低下が認められたが、いずれの添加濃度においてもrhPCSK9ヘテロダイマーに比べrh60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)の方が低下量が有意に少なかった(n=3、Student's t-testにて有意差検定)(図17)。
【0162】
このことから、60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)のLDL受容体分解促進活性は、PCSK9ヘテロダイマーに比べ明らかに減弱していることが明らかになった。
【0163】
10.薬剤スクリーニング系構築
PCSK9ヘテロダイマーは、pH4.0処理により60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)とプロセグメントが解離することが知られている。これをモデル現象として、本発明の測定方法を行うためのアッセイ系を構築した。
【0164】
上述したrhPCSK9ヘテロダイマー含有培養上清30mLに対し、1Mクエン酸緩衝液(pH3.0)1.8mLと2M Tris溶液2.7mLの混合液4.5mLを添加し、室温にて1時間静置する処理(pH4.0処理無し)、又は、1Mクエン酸緩衝液(pH3.0)を1.8mL添加し培養上清のpHを4.0に調整後、室温にて1時間静置し、その後2M Tris溶液を2.7mL添加し、培養上清のpHを8.0にする処理(pH4.0処理有り)を行った。両サンプルを、(a)上述の「60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)測定系」、及び、(b)「PCSK9ヘテロダイマー特異的測定系(B系)」にて測定したところ、pH4.0処理有りのサンプルにおいて60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)が増加し、PCSK9ヘテロダイマーが減少していることを明確に検出することができた(図18)。
【0165】
この結果より、本発明のPCSK9ヘテロダイマーを解離させる物質のスクリーニングにおける有用性が明らかになった。
図1
図10
図12
図13
図14
図15
図17
図18
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図11
図16
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]