【実施例】
【0073】
以下、本発明を実施例により、具体的に説明するが、この実施例により、本発明の技術的範囲は限定されない。なお、後述する5種類のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマについては、それぞれ独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターにおいて寄託を行っている。すなわち、モノクローナル抗体「1FB」を産生するハイブリドーマ「Mouse-Mouse hybridoma PCSK9-1FBは受託番号FERM P−22109として、モノクローナル抗体「B1G」を産生するハイブリドーマ「Mouse-Mouse hybridoma PCSK9-B1Gは受託番号FERM P−22110として、モノクローナル抗体「B12E」を産生するハイブリドーマ「Mouse-Mouse hybridoma PCSK9-B12E」は受託番号FERM P−22111として、モノクローナル抗体「G12D」を産生するハイブリドーマ「Mouse-Mouse hybridoma PCSK9-G12D」は受託番号FERM P−22112として、及び、モノクローナル抗体「8H9」を産生するハイブリドーマ「Mouse-Mouse hybridoma PCSK9-8H9」は受託番号NITE P−01582として、上記寄託機関において受領されている。
【0074】
なお、本実施例の記載において「PCSK9」と記載されたものは、特に断りのない限りは「ヒトPCSK9」を意味するものとする。
【0075】
1.リコンビナントPCSK9の作製
(1)リコンビナントヒト全長PCSK9の調製
HepG2細胞由来の全RNAより、ヒトPCSK9全長(アミノ酸番号1−692)に相当する相補鎖DNAをRT−PCRによって増幅し、pEF321ベクター (Kim DW, Gene. 1990 Jul 16;91(2):217-23)に組み込み、発現ベクターpEF/PCSK9を作製した。なお、上記PCRは、金属アフィニティー精製のために蛋白質のC末端にヒスチジン6残基が融合する形で発現するようプライマー配列を設定した(下記)。当該PCRの熱サイクルは、95℃ 5分の変性処理を行った後、「94℃ 1分 → 65℃ 2分 → 72℃ 5分 → 65℃ 1分」を35サイクル行い、最後に65℃ 7分の反応を行った。
【0076】
増幅用プライマーとしては、
「gacgaattccagcgacgtcgaggcgctcatggttg」(フォワードプライマー:配列番号3)、
「gacgaattctcagtgatggtgatggtgatgctggagctcctgggaggcctgcgcc」(リバースプライマー:配列番号4)
を用いた。
【0077】
発現ベクターpEF/PCSK9、及びネオマイシン耐性遺伝子発現ベクターpSV2Neo(クローンテック社製)を哺乳類動物細胞株CHO−K1(理研)に共導入し、ゲネティシン(シグマ社製)による選別を繰り返し行い、安定的にリコンビナントヒトPCSK9(rhPCSK9)を発現するクローンCHO−K1/PCSK9細胞を作製した。
【0078】
このCHO−K1/PCSK9細胞を無血清・低蛋白質培地CHO−S−SFM II(インビトロジェン社製)にて37℃、5%CO
2下で培養し、培養上清を回収した。さらに、培養上清500mLはTALON Resin(クローンテック社製)6mLと混合し、4℃で一晩反応させた。TALON Resinをカラムに充填し、50mLの500mM塩化ナトリウム含有25mMリン酸緩衝液(pH8.0)、続いて10mLの20mM リン酸緩衝液(pH 8.0)で洗浄し、20mLの200mMイミダゾール含有20mMリン酸緩衝液(pH8.0)で溶出した。次いで、この溶出液を予め20mMリン酸緩衝液(pH8.0)で平衡化したDEAE‐Sepharose CL−6B(0.6mL、GEヘルスケア社)カラムにアプライし、5mLの20mMリン酸緩衝液(pH8.0)、次いで1.5mLの100mM塩化ナトリウム含有20mMリン酸緩衝液(pH8.0)で洗浄した後、3mLの200mM 塩化ナトリウム含有20mMリン酸緩衝液(pH8.0)で溶出した。この溶出画分を精製rhPCSK9とした。
【0079】
後述の「2(6)モノクローナル抗体のFurin切断rhPCSK9に対する反応性」において言及するように、プロセグメントに対する抗体(G12D)を用いた免疫沈降を行うと、Furin未処理rhPCSK9では成熟セグメント(60kDa)が免疫沈降するのに対し、Furin切断rhPCSK9では成熟セグメント(53kDa)は免疫沈降しない。このことからFurin未処理rhPCSK9、すなわち上記の精製rhPCSK9は、ヘテロダイマーを形成していることが明らかとなっている。
【0080】
なお、特許文献6に開示された実施例(特許文献6段落[0067])において、上記精製rhPCSK9に対してSDSポリアクリルアミド電気泳動を行ったところプロセグメントは外れた形で存在する旨が開示されているが、これはSDSが強力は蛋白変性剤であるためにプロセグメントと60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)を結合させている非共有結合が外れた結果であると考えられる。
【0081】
(2)リコンビナントヒトΔN218PCSK9(53kDaセグメント)の調製
ΔN218PCSK9(アミノ酸番号219−692)に相当する相補鎖DNAをpEF/PCSK9を鋳型としたPCRによって増幅し、pEF321ベクター(Kim DW, Gene. 1990 Jul 16;91(2):217-23)に組み込み、発現ベクターpEF/ΔN218PCSK9を作製した。当該PCRの熱サイクルは、94℃・30秒の変性処理を行った後、「98℃・10秒 →60℃・5秒 →72℃・1.5分」を23サイクル行い、最後に72℃・2分の反応を行った。
【0082】
増幅用プライマーとしては、
「agtcaagcttcaggccagcaagtgtgacagtcat」(フォワードプライマー:配列番号5)、
「agtagtcgacctggagctcctgggaggcctg」(リバースプライマー:配列番号6)
を用いた。
【0083】
発現ベクターpEF/ΔN218PCSK9を上述と同様に、哺乳類動物細胞株CHO−K1に導入し、リコンビナントΔN218PCSK9を安定的に発現するクローンCHO−K1/ΔN218PCSK9細胞を作製した。
【0084】
この細胞は15cmφディッシュで培養し、トリプシン−EDTA(Gibco社製)処理にて細胞を回収し、遠心操作によりPBSにて洗浄した。洗浄後、細胞は1×Complete mini EDTA-free(ロシュ社製)及び1% Nonidet P40含有トリス緩衝液(TBS;150mM NaCl含有50mM Tris−HCl,pH7.5)に懸濁し、氷中で30分冷却した。次いで、細胞懸濁液を遠心(15000rpm、4℃、20分)し、上清を回収した。この上清画分をリコンビナントΔN218PCSK9(rhΔN218PCSK9)含有細胞ライセートとした。
【0085】
(3)リコンビナントヒトΔN152 PCSK9の調製
後述するモノクローナル抗体8H9の特異性を免疫沈降によって確認するために、ヒトPCSK9のアミノ酸配列番号(153−692)の部分によりなるセグメントを調製した。
【0086】
具体的には、ΔN152PCSK9(アミノ酸配列番号153−692)に相当する相補鎖DNAを、全長PCSK9の相補鎖DNAを鋳型としたPCRによって増幅し、pEF321ベクター(Kim DW, Gene. 1990 Jul 16;91(2):217-23)に組み込み、発現ベクターpEF/ΔN152PCSK9を作製した。当該PCRの熱サイクルは、94℃・30秒の変性処理を行った後、「98℃・10秒 →60℃・5秒 →72℃・1.5分」を23サイクル行い、最後に72℃・2分の反応を行った。
【0087】
増幅用プライマーとしては、
「agtcaagcttagcatcccgtggaacctggagcgga」(フォワードプライマー:配列番号7)
「agtagtcgacctggagctcctgggaggcctg」(リバースプライマー:配列番号6)を用いた。
【0088】
発現ベクターpEF/ΔN152PCSK9を上述と同様に、哺乳類動物細胞株CHO−K1に導入し、リコンビナントΔN152PCSK9を安定的に発現するクローンCHO−K1/ΔN152PCSK9細胞を作製した。
【0089】
この細胞は15cmφディッシュで培養し、トリプシン−EDTA(Gibco社製)処理にて細胞を回収し、遠心操作によりPBSにて洗浄した。洗浄後、細胞は1×Complete mini EDTA-free(ロシュ社製)及び1% Nonidet P40含有トリス緩衝液(TBS;150mM NaCl含有50mM Tris−HCl,pH7.5)に懸濁し、氷中で30分冷却した。次いで、細胞懸濁液を遠心(15000rpm、4℃、20分)し、上清を回収した。この上清画分をリコンビナントΔN152PCSK9(rhΔN152PCSK9)含有細胞ライセートとした。
【0090】
(4)Furin切断rhPCSK9(実質上は53kDaセグメントに相当する)の調製
2mM CaCl
2及び0.5% Triton X−100含有25mM Tris−HCl(pH9.0)液中で、上述の精製rhPCSK9 1μgとリコンビナントヒトFurin(R&D社)を混合し、37℃で6時間反応させた。その後、1μLの0.5M EDTAを加え、反応を停止した。この反応液をFurin切断rhPCSK9溶液とした。
【0091】
Furin処理によるrhPCSK9の切断は、以下のように、SDS−PAGE及びウェスタンブロット法により確認した。Furin未処理rhPCSK9及びFurin処理rhPCSK9(20ng)をそれぞれ還元条件下にてSDS−PAGEし、次いでPVDF膜(ミリポア社製)に転写した。転写した膜は、5%スキムミルクを含むPBSにて4℃、一晩静置した。洗浄液(0.1% Tween20含有PBS)にて2回洗浄後、10ng/mLペルオキシダーゼ標識抗ヒトPCSK9抗体MAB38881(R&D社製)を室温下、2時間反応させた。反応後、洗浄液にて5回洗浄した後、化学発光試薬(パーキンエルマー社製)を用い、X線フィルム(コダック社製)に感光させ、特異バンドを検出した(
図2)。
【0092】
その結果、Furin未処理rhPCSK9は分子量約60kDaのバンド(60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)に相当する)が検出されるのに対し、Furin処理rhPCSK9はそのほとんどが分子量約53kDaのバンド(53kDaセグメントに相当する)が検出された。詳細には、53kDaセグメント、7kDaセグメント、プロセグメント、及び、残存PCSK9ヘテロダイマーの混合物であるが、90%以上が53kDaセグメントである。
【0093】
よって上記のFurin切断rhPCSK9溶液を、53kDaセグメント含有溶液とした。
【0094】
(5)rhPCSK9非ヘテロダイマー60kDaの調製
(5)−1 プロセグメントに対して特異的なモノクローナル抗体を用いて、本発明の標準物質を生産する方法
<rhPCSK9ヘテロダイマー含有培養上清の調製>
上述したCHO−K1/PCSK9細胞を無血清・低蛋白質培地CHO−S−SFM II(インビトロジェン社製)にて37℃で5%CO
2で培養し、rhPCSK9ヘテロダイマー含有培養上清を回収した。
【0095】
<抗プロセグメント抗体G12D結合セファロース(G12D−seph)の作製>
NHS−activated Sepharose(GEヘルスケア社製)0.5mLをカラムに充填し、1mM HCl 10mLで洗浄した。次いで、500mM塩化ナトリウム含有100mM炭酸水素ナトリウム緩衝液(pH8.3)に1mg/mLの濃度で溶解したG12D溶液6mLと混合し、室温で2時間反応させた。反応後のセファロースをカラムに充填し、5mMの500mM塩化ナトリウム含有100mM炭酸水素ナトリウム緩衝液(pH8.3)で洗浄した。次いで5mLの100mM Tris−HCl緩衝液(pH8.5)で洗浄後、1mLの100mM Tris−HCl緩衝液(pH8.5)に懸濁し、4℃で一晩反応させた。反応後のセファロースをカラムに充填し、1.5mLの500mM塩化ナトリウム含有100mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.0)で洗浄後、1.5mLの100mM Tris−HCl緩衝液(pH8.5)で洗浄した。この2種類の緩衝液による洗浄を6回繰り返した後、5mLのPBSで洗浄し、G12D−sephとした。
【0096】
<rh60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)の精製>
上記培養上清300mLに1Mクエン酸緩衝液(pH3.0)を18mL添加し、培養上清のpHを4.0に調整後、室温下で1時間放置し、ヘテロダイマーを解離させた。2M Trisを27mL添加し、培養上清をpH8.0に調整後、TALON Resin(クローンテック社)7mLと混合し、4℃で一晩反応させた。このTALON Resinをカラムに充填し、35mLの500mM塩化ナトリウム含有25mMリン酸緩衝液(pH8.0)、続いて10mLの20mM HEPES緩衝液(pH7.5)で洗浄し、20mLの200mMイミダゾール含有20mM HEPES緩衝液(pH7.5)で溶出した。次いでこの溶出液を予め20mM HEPES緩衝液(pH7.5)で平衡化したDEAE−Sepharose CL−6B 0.6mL(GEヘルスケア社せ)を充填したカラムにアプライし、5mLの20mM HEPES緩衝液(pH7.5)、次いで2mLの100mM塩化ナトリウム含有20mM HEPES緩衝液(pH7.5)で洗浄した後、2mLの150mM塩化ナトリウム含有20mM HEPES緩衝液(pH7.5)で溶出した。次いで、この溶出液を予め150mM塩化ナトリウム含有20mM HEPES緩衝液(pH7.5)で平衡化したG12D−seph 0.1mLを充填したカラムにアプライし、通過画分を精製rh60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)とした。
【0097】
精製rh60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)は、SDSポリアクリルアミド電気泳動を行い、ゲルを銀染色によりバンドを検出し、精製純度を確認した(
図3)。
【0098】
(5)−2 60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)に対して特異的なモノクローナル抗体を用いて、本発明の標準物質の本質成分を生産する方法
<抗60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)抗体8H9結合セファロース(8H9−seph)の作製>
NHS−activated Sepharose(GEヘルスケア社製)0.5mLをカラムに充填し、1mM HCl 10mLで洗浄した。次いで、500mM塩化ナトリウム含有100mM炭酸水素ナトリウム緩衝液(pH8.3)に1mg/mLの濃度で溶解した8H9溶液6mLと混合し、室温で2時間反応させた。反応後のセファロースをカラムに充填し、5mMの500mM塩化ナトリウム含有100mM炭酸水素ナトリウム緩衝液(pH8.3)で洗浄した。次いで5mLの100mM Tris−HCl緩衝液(pH8.5)で洗浄後、1mLの100mM Tris−HCl緩衝液(pH8.5)に懸濁し、4℃で一晩反応させた。反応後のセファロースをカラムに充填し、1.5mLの500mM塩化ナトリウム含有100mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.0)で洗浄後、1.5mLの100mM Tris−HCl緩衝液(pH8.5)で洗浄した。この2種類の緩衝液による洗浄を6回繰り返した後、5mLのPBSで洗浄し、8H9−sephとした。
【0099】
<rh60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)の精製>
上記培養上清300mLに1Mクエン酸緩衝液(pH3.0)を18mL添加し、培養上清のpHを4.0に調整後、室温下で1時間放置し、ヘテロダイマーを解離させた。2M Trisを27mL添加し、培養上清をpH8.0に調整後、TALON Resin(クローンテック社)7mLと混合し、4℃で一晩反応させた。このTALON Resinをカラムに充填し、35mLの500mM塩化ナトリウム含有25mMリン酸緩衝液(pH8.0)、続いて10mLの20mM HEPES緩衝液(pH7.5)で洗浄し、20mLの200mMイミダゾール含有20mM HEPES緩衝液(pH7.5)で溶出した。
【0100】
この溶出液に8H9−seph 0.5mLを混合し、室温で1時間緩やかに転倒混和した。次いで8H9−sephをカラムに充填し、2mLのPBSで洗浄後、2.7mLの100mMクエン酸ナトリウム緩衝液(pH3.0)で溶出した。次いで、溶出液に0.3mLの2M Tris溶液を加え中和した。この段階では、モノクローナル抗体8H9の特異性を活かしてrh60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)の濃縮精製を行っているが、高分子凝集体が混在している。
【0101】
この溶出液を予め20mM HEPES緩衝液(pH7.5)で平衡化したNAP−25カラム(GEヘルスケア社)2本において、カラム1本当たり1.5mLをアプライし、さらに1mLの20mM HEPES緩衝液(pH7.5)で溶出し、カラム2本分の溶出液を1本にまとめて、次のDEAE−Sepharoseに供するためのバッファー交換を行った。
【0102】
この溶出液を予め20mM HEPES緩衝液(pH7.5)で平衡化したDEAE−Sepharose CL−6B 0.6mL(GEヘルスケア社)を充填したカラムにアプライし、5mLの20mM HEPES緩衝液(pH7.5)で洗浄した後、2mLの150mM塩化ナトリウム含有20mM HEPES緩衝液(pH7.5)で溶出した。これにより、高分子凝集体を除去した。この溶出液を精製rh60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)とした。
【0103】
精製rh60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)は、精製過程の各画分についてSDSポリアクリルアミド電気泳動を行い、ゲルをクマシーブリリアントブルー染色によりバンドを検出し、それぞれの純度を確認した(
図4)。
図4において、レーン1はクエン酸緩衝液添加前の培養上清、2はTris溶液添加後の培養上清、3はTALON Resin非吸着画分、4はTALON Resin洗浄画分、5はTALON Resin溶出画分、6は8H9−seph非結合画分、7は8H9−seph洗浄画分、8は8H9−seph溶出画分、9はNAP−25溶出画分、10はDEAE非吸着画分、11はDEAE洗浄画分、及び、12はDEAE溶出画分である。精製段階が進むほど、60kaDaのバンドが特異的に顕れていることが分かる。
【0104】
2.抗ヒトPCSK9モノクローナル抗体の作製(1)(参考例)
(1)抗ヒトPCSK9モノクローナル抗体産生ハイブリドーマの調製
精製rhPCSK9を抗原とした蛋白免疫あるいは発現ベクターpEF/PCSK9を免疫源とした遺伝子免疫にてマウスを免疫した。
【0105】
蛋白免疫は、1回あたり精製rhPCSK9 3μgをアジュバントAbisco-100(ISCONOVA社)12μgと混合し、Balb/cマウス(8週齢、雌)の背部皮下に投与した(初回免疫)。追加免疫は2週間ごとに合計3回初回免疫同様の操作を行った。
【0106】
遺伝子免疫は、1回あたりPBSに溶解した発現ベクターpEF/PCSK9 50μgをBalb/cマウス(8週齢、雌)尾部皮下に投与した(初回免疫)。追加免疫は2週間ごとに合計4回初回免疫同様の操作を行った。
【0107】
蛋白免疫、遺伝子免疫ともに最終投与から2週間後に、20μgの精製rhPCSK9をマウス腹腔内に投与した。腹腔内投与から3日後にマウス脾臓を摘出し、脾細胞を回収した。脾細胞はポリエチレングリコール1500溶液(ベーリンガーマンハイム社製)にてマウス骨髄腫細胞(SP2/0-Ag14)と融合させた。融合した細胞(ハイブリドーマ)は3%ハイブリドーマクローニングファクター(HCF、エアブラウン社製)、1×HAT(シグマ社製)および10%fetal bovine serum(FBS、ニチレイ社製)含有RPMI培地で選択した。抗PCSK9モノクローナル抗体の産生細胞は、精製rhPCSK9を固相したマイクロプレートを用いたELISA法によって選別した。すなわち、各ウェル当たり25ngの精製rhPCSK9を固相化(4℃、一晩)し、各ウェルを1%bovine serum albumin(BSA、シグマ社製)含有PBSでブロッキングした。各ウェルを洗浄後、100μLの各ハイブリドーマの培養上清を添加し、室温下で2時間反応した。反応後、各ウェルを洗浄液(0.1%Tween20含有PBS)で洗浄し、5000倍に希釈したペルオキシダーゼ標識ヤギ抗マウスIgG抗体(BioSource社)を加えて、室温下で1時間反応した。反応後、洗浄液にてウェルを5回洗浄し、100μLの発色溶液[0.012%過酸化水素、0.4mg/mL OPD(o-phenulenediamine dihydrochloride、シグマアルドリッチ社製)含有クエン酸リン酸緩衝液、pH5.0]を添加し、室温下で30分間反応させた。反応後、2N硫酸を添加し、反応を停止し、波長492nmの吸光度をマイクロプレートリーダーで測定した。ハイブリドーマ培養上清の吸光度が1.0以上を示すウェルを陽性として選別した。抗PCSK9モノクローナル抗体産生ハイブリドーマはさらに限界希釈法によりクローニングし、細胞株を樹立した。
【0108】
さらに、陽性ハイブリドーマ細胞の選別は、ハイブリドーマ細胞培養上清を用いてウェスタンブロット法によるrhPCSK9に対する反応性、あるいは免疫沈降法によるヒト血清PCSK9に対する反応性をそれぞれ確認し、両方法にて特異性が認められたクローンを最終的に選別した。
【0109】
ウェスタンブロット法は、ゲル1枚あたり1μgの精製rhPCSK9を非還元にてSDS−PAGEし、次いでPVDF膜(ミリポア社製)に転写した。転写した膜は、5%スキムミルクを含むPBSにて4℃、一晩静置した。0.1%Tween20含有PBS(洗浄液)にて2回洗浄後、各ハイブリドーマ培養上清を室温下、2時間反応させた。反応後、洗浄液にて5回洗浄した後、10000倍に希釈したペルオキシダーゼ標識ヤギ抗マウスIgG抗体(BioSource社)を室温下、2時間反応させた。反応後、洗浄液にて5回洗浄した後、化学発光試薬(パーキンエルマー社製)を用い、X線フィルム(コダック社製)に感光させ、特異バンドを検出した。
【0110】
免疫沈降法は、1.0×10
7個のDynabeads M-280 抗マウスIgG(ベリタス社製)に各ハイブリドーマ培養上清を200μL加え、室温2時間、転倒混和しながら抗体をビーズに結合させた。0.1% Tween20含有PBSでビーズを3回洗浄した後、ヒト血清100μLを添加し転倒混和しながら4℃、16時間反応させた。0.1% Tween20含有PBSで3回洗浄後、非還元SDSサンプル液に懸濁してSDS-PAGEし、次いでPVDF膜(ミリポア社製)に転写した。転写した膜は、5%スキムミルクを含むPBSにて4℃、一晩静置した。0.1% Tween20含有PBS(洗浄液)にて2回洗浄後、0.1μg/mLのペルオキシダーゼ標識抗PCSK9抗体MAB38881(R&D社製)を室温下、2時間反応させた。反応後、洗浄液にて5回洗浄した後、化学発光試薬(パーキンエルマー社製)を用い、X線フィルム(コダック社製)に感光させ、特異バンドを検出した。
【0111】
最終的に、精製rhPCSK9固相化マイクロプレートを用いたELISA法、ウェスタンブロット法による精製rhPCSK9に対する反応性、免疫沈降法によるヒト血清PCSK9に対する反応性により選別し、ヒトPCSK9に対して反応するモノクローナル抗体産生ハイブリドーマ25クローンを作製した。
【0112】
(2)ハイブリドーマからのモノクローナル抗体調製
プリステン(0.5mL/匹、シグマ社製)を予め腹腔内に投与したBalb/cマウス(8週齢、雄)に一匹あたりハイブリドーマ細胞10
6〜10
7個/0.5mLを腹腔内に注入した。注入10日後、マウスを開腹し、腹水を採取した。得られた腹水は、遠心にて細胞成分を取り除き、上清に等量の氷冷した飽和硫酸アンモニウム溶液を加えて混和し、氷冷し2時間放置した。次いで、10000×gで10分間遠心後、上清を捨て、沈殿を結合溶液(3M塩化ナトリウム含有1.5Mグリシン溶液、pH8.9)に溶解し、Protein Aセファロース(GEヘルスケア社製)と混和し、4℃で一晩転倒混和した。結合させたProtein Aセファロースをカラムに充填し、6倍量の結合溶液にて洗浄後、溶出溶液(0.1Mクエン酸溶液、pH4.0)で1mLずつ溶出した。溶出された画分は、0.1mLの2Mトリス溶液(pH10.0)で中和した。各溶出画分の吸光度(280nm)を測定し、モノクローナル抗体の溶出画分を回収した。回収したモノクローナル画分はPBSにて透析(4℃、一晩)し、精製モノクローナル抗体を得た。
【0113】
得られたモノクローナル抗体のアイソタイプは、マウスモノクロナール抗体アイソタイプ決定用キット(べーリンガー社製)を用い、キット添付の操作手順に準じて測定した。ヒトPCSK9に対するモノクローナルは、IgG1(17クローン)、IgG2a(2クローン)、IgG2b(6クローン)であった。これらのうち、ハイブリドーマ1FB、B12E、G12D、B1Gに由来するモノクローナル抗体[抗体1FB(IgG1)、B12E(IgG1)、G12D(IgG1)、B1G(IgG1)]について、下記のように抗体の特異性を確認した。
【0114】
(3)モノクローナル抗体特異性の確認
モノクローナル抗体の特異性は、ウェスタンブロット法によるrhPCSK9に対する反応性、免疫沈降法によるFurin切断rhPCSK9に対する反応性を検討し、確認した。
【0115】
(4)ペルオキシダーゼ標識モノクローナル抗体の作製
抗体1FB、B12E、G12D、B1G、及び市販抗ヒトPCSK9抗体MAB38881(R&D社)、抗ヒスチジンタグ抗体(Tetra-His Antibody、キアゲン社)はPeroxidase Labeling Kit-SH(同仁化学研究所)を用いて各抗体のペルオキシダーゼ標識抗体を作製した。抗体の標識はキット説明書に従い行った。
【0116】
(5)ウェスタンブロット法によるrhPCSK9に対する抗体の特異性検討
ゲル1枚あたり1μgの精製rhPCSK9を非還元及び還元条件下にてSDS-PAGEし、次いでPVDF膜(ミリポア社製)に転写した。転写した膜は、5%スキムミルクを含むPBSにて4℃、一晩静置した。洗浄液(0.1% Tween20含有PBS)にて2回洗浄後、各ペルオキシダーゼ標識抗体10ng/mLを室温下、2時間反応させた。反応後、洗浄液にて5回洗浄した後、化学発光試薬(パーキンエルマー社製)を用い、X線フィルム(コダック社製)に感光させ、特異バンドを検出した(
図5)。
【0117】
ウェスタンブロット法によるrhPCSK9に対する反応性の結果より、抗体1FB、B12E、B1Gは約60kDaの成熟セグメントに反応し、この反応性は抗原の還元処理により失われることが明らかとなった。抗体G12Dはプロセグメントのみに反応し、この反応性は抗原の還元処理に影響されないことが明らかとなった。
【0118】
(6)モノクローナル抗体のFurin切断rhPCSK9に対する反応性
抗PCSK9抗体1FB、B12E、B1G、G12D、及び、コントロール抗体16G5について、0.1Mホウ酸緩衝液(pH9.5)で洗浄したDynabeads M-280 Tosyl-activated(ベリタス社製)を3M硫酸アンモニウム含有0.1Mホウ酸緩衝液(pH9.5)に懸濁し、1.0×10
8個のビーズあたり抗体を10μg加え、4℃で20時間、転倒混和しながらビーズに各抗体を結合させた。反応後上清液を捨て、0.5%牛血清アルブミン(BSA)含有PBS(pH7.4)を加え、緩やかに攪拌しながら、室温で2時間反応させビーズを不活化した後、0.1%BSA含有PBS(pH7.4)で洗浄し、抗体結合ビーズを作製した。抗体結合ビーズ1.0×10
7個に対しrhPCSK9 20μg、もしくはFurin切断rhPCSK9 20μgを添加し、転倒混和しながら4℃で16時間反応させた。0.1%Tween20含有PBSで3回洗浄後、非還元SDSサンプル液に懸濁してSDS−PAGEし、次いでPVDF膜(ミリポア社製)に転写した。転写した膜は、5%スキムミルク含有PBSにて4℃、一晩静置した。洗浄液(0.1%Tween20含有PBS)にて2回洗浄後、0.1μg/mLのペルオキシダーゼ標識抗ヒトPCSK9抗体MAB38881(R&D社)を室温下、2時間反応させた。反応後、洗浄液にて5回洗浄した後、化学発光試薬(パーキンエルマー社製)を用い、X線フィルム(コダック社製)に感光させ、特異バンドを検出した(
図6)。
【0119】
前記のようにウェスタンブロット法によりプロセグメントに対する抗体であることが確認されたG12Dは、Furin未処理rhPCSK9では成熟セグメント(60kDa)が免疫沈降するのに対し、Furin切断rhPCSK9では成熟セグメント(53kDa)が免疫沈降しない。このことから、Furin未処理rhPCSK9はヘテロダイマーを形成しているのに対し、Furin切断rhPCSK9はヘテロダイマーを形成していない(非ヘテロダイマー)ことが確認された。
【0120】
成熟セグメントに対する抗体1FB、B12EはFurin未処理rhPCSK9(ヘテロダイマー)及びFurin切断rhPCSK9(非ヘテロダイマー:53kDaセグメント)の両者を免疫沈降することから、PCSK9ヘテロダイマー、及び、53kDaセグメントのいずれにも反応することが確認された。抗体B1GはFurin未処理rhPCSK9(ヘテロダイマー)を免疫沈降しないのに対し、Furin切断rhPCSK9(非ヘテロダイマー:53kDaセグメント)を免疫沈降することから、非ヘテロダイマーの成熟セグメント(53kDaセグメント)特異的に反応することが確認された。
【0121】
3.抗ヒトPCSK9モノクローナル抗体の作製(2)(実施例)
本発明のモノクローナル抗体、すなわち、「60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)に反応し、かつ、PCSK9ヘテロダイマー及び53kDaPCSK9には交差反応しないモノクローナル抗体」の調製を試みた。これは、後述する家族性高コレステロール血症(FH)血清における結果を受けて、60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)の検出を念頭に置いての実施例である。
【0122】
(1)抗ヒトPCSK9モノクローナル抗体産生ハイブリドーマの調製
精製rhPCSK9ヘテロダイマーを抗原としてマウスを免疫した。
【0123】
具体的には、1回当たり精製rhPCSK9 3μgをアジュバンドAbisio-100(ISCONOVA社)25μgと混合し、Balb/cマウス(8週齢、雌)の背部皮下に投与した(初回免疫)。追加免疫は2週間毎に合計3回初回免疫と同様の操作にて行った。
【0124】
最終投与から2週間後に、20μgの精製rhPCSK9をマウス腹腔内に投与した。腹腔内投与から3日後にマウスの脾臓を取り出し、脾細胞を回収した。脾細胞はポリエチレングリコール1500溶液(ベーリンガーマンハイム社製)にてマウス骨髄腫細胞(SP2/0−Ag14)と融合させた。融合した細胞(ハイブリドーマ)は、10%ハイブリドーマクローニングファクター(HCF、エアブラウン社製)を添加したHAT培地(シグマ社製)で選択した。抗PCSK9モノクローナル抗体の産生細胞は、精製rhPCSK9を固相化したマイクロプレートを用いたELISA法によって選別した。すなわち、各ウェル当たり25ngの精製rhPCSK9を固相化(4℃、一晩)し、洗浄後、各ウェルを5%スキムミルク含有PBSでブロッキングした。各ウェルを洗浄後、100μLの各ハイブリドーマの培養上清を添加し、室温下で2時間の反応を行った。反応後、各ウェルを洗浄液(0.1% Tween20含有PBS)で洗浄し、5000倍に希釈したペルオキシダーゼ標識ヤギ抗マウスIgG抗体(BioSource社)を加えて、室温下で1時間反応を行った。反応後、洗浄液にてウェルを5回洗浄し、100μLの発色溶液[0.012%過酸化水素、0.4mg/mL OPD(o-phenulenediamine dihydrochloride、シグマある度リッチ社製)含有クエン酸リン酸緩衝液、pH5.0]を添加し、室温下で30分間反応させた。反応後、2N硫酸を添加して反応を停止し、波長492nmの吸光度をマイクロプレートリーダーで測定した。ハイブリドーマ培養上清の吸光度が1.0以上を示すウェル陽性として選別した。抗PCSK9モノクローナル抗体産生ハイブリドーマはさらに限界希釈法によりクローニングし、細胞株を樹立した。
【0125】
(2)ハイブリドーマ8H9の選別
ハイブリドーマ8H9は、ハイブリドーマ培養上清を用いたウェスタンブロット法によるrhPCSK9に対する反応性を基準として、上記の陽性ハイブリドーマ株から選別された。
【0126】
ウェスタンブロット法は、ゲル1枚あたり1μgの精製rhPCSK9を非還元にてSDS−PAGEを行い、次いでPVDF膜(ミリポア社製)に転写した。転写した膜は、5%スキムミルク含有PBSにて4℃下で一晩静置した。0.1%Tween20含有PBS(洗浄液)により2回洗浄後、各ハイブリドーマの培養上清を室温下、2時間反応させた。反応後、洗浄液で5回洗浄した後、10000倍に希釈したペルオキシダーゼ標識ヤギ抗マウスIgG抗体(BioSource社)を室温下、2時間反応させた。反応後、洗浄液にて5回洗浄した後、化学発光試薬(パーキンエルマー社製)を用い、X線フィルム(コダック社製)に感光させ、特異バンドを検出した(
図7)。
【0127】
rhPCSK9にはC末端にHis×6tagが付加されている。His×6tagを認識する抗ヒスチジンタグ抗体では、60kDa付近のバンドに加え、微量の約50kDaのバンドが検出される。抗ヒスチジンタグ抗体が成熟セグメントのC末端を認識するころから、この約50kDのバンドは成熟セグメントのN末端側が分解することにより生じた分子であり、これは53kDaセグメントと考えられる。一方モノクローナル抗体8H9では、60kDaセグメントは検出されるものの前記約50kDaのバンドは検出されず、代わりにanti His-tag抗体では検出されない19.8kDa未満のバンドが検出された。このことから、ハイブリドーマ8H9は成熟セグメントのN末端を認識するモノクローナル抗体を産生する特徴的なクローンと考えられ、腹水からのモノクローナル抗体調製に値するクローンとして選別された。
【0128】
(3)ハイブリドーマからのモノクローナル抗体調製
Balb/cマウス(雌)に一匹当たりハイブリドーマ細胞を10
6〜10
7個/0.5mLを腹腔内に注入した。注入10日後、マウスを開腹し、腹水を採取した。得られた腹水は、遠心を用いて細胞成分を取り除き、上清に等量の氷冷した飽和硫酸アンモニウム溶液を加えて混和し、氷冷し、2時間放置した。次いで、10000×gで10分間遠心後、上清を捨て、沈殿を結合溶液(3M塩化ナトリウム含有1.5Mグリシン溶液、pH8.9)に溶解しProtein Aセファロース(GEヘルスケア社製)と混和し、4℃で一晩転倒混和した。結合させたProtein Aセファロースをカラムに充填し、6倍量の結合溶液にて洗浄後、溶出溶液(0.1Mクエン酸溶液、pH4.0)で1mLずつ溶出した。溶出された画分は、0.1mLの2Mトリス溶液(pH10.0)で中和した。各溶出画分の吸光度(280nm)を測定し、モノクローナル抗体の溶出画分を回収した。回収したモノクローナル画分はPBSにて4℃で一晩透析し、精製モノクローナル抗体を得た。
【0129】
得られたモノクローナル抗体のアイソタイプは、マウスモノクローナル抗体アイソタイプ決定用キット(ベーリンガー社製)を用い、キット添付の操作手順に準じて測定した。その結果、モノクローナル抗体8H9のアイソタイプはIgG1であった。
【0130】
(4)モノクローナル抗体8H9の特異性の確認
<Furin切断rhPCSK9に対するウェスタンブロット>
Furinによる切断前と切断後のrhPCSK9を、それぞれ20ngを還元条件下でSDS−PAGEを行い、次いでPVDF膜(ミリポア社)に転写した。転写した膜は、5%スキムミルクを含むPBSにて4℃で一晩静置した。洗浄液(0.1% Tween20含有PBS)にて2回洗浄後、10ng/mLのペルオキシダーゼ標識抗ヒトPCSK9抗体MAB38881(R&D社:抗ヒトPCSK9ヘテロダイマー抗体)又はペルオキシダーゼ標識モノクローナル抗体8H9を室温下、2時間反応させた。反応後、洗浄液にて5回洗浄した後、化学発光試薬(パーキンエルマー社)を用い、X線フィルム(コダック社)に感光させ、特異バンドを検出した(
図8)。
【0131】
Furin切断前ではいずれの抗体も60kDaの成熟セグメントを検出した。Furin切断後では残存している60kDaの成熟セグメントに加え、MAB38881が53kDaのC末端側分子を検出したのに対し、モノクローナル抗体8H9は7kDaのN末端側分子を検出した。以上のことから、モノクローナル抗体8H9は、PCSK9成熟セグメントのN末端側7KDaの領域にエピトープを持つモノクローナル抗体であることが明らかになった。
【0132】
<免疫沈降>
免疫沈降サンプルとしてrhPCSK9ヘテロダイマー、53kDaセグメント、60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)、免疫沈降抗体として8H9及びB12E、検出抗体としてペルオキシダーゼ標識B12Eを用い免疫沈降を行った。
【0133】
各免疫沈降抗体について、0.1Mホウ酸緩衝液で洗浄したDynabeads M-280 抗マウスIgG(ベリタス社製)を、3M硫酸アンモニウム含有0.1Mホウ酸緩衝液(pH9.5)に懸濁し、1.0×10
8個のビーズ当たり抗体を10μg加え、4℃下で20時間、転倒混和しながらビーズに抗体を結合させた。反応後上清液を捨て、0.5%ウシ血清アルブミン(BSA)含有PBS(pH7.4)を加え、緩やかに攪拌しながら、室温で2時間反応させてビーズを不活化した後、0.1%BSA含有PBS(pH7.4)で洗浄し、抗体結合ビーズを調製した。抗体結合ビーズ1.0×10
7個に対し血清検体100μLを添加し、転倒混和しながら4℃下で16時間反応させた。0.1% Tween20含有PBSで3回洗浄後、非還元SDSサンプル液に懸濁してSDS−PAGEを行い、次いでPVDF膜(ミリポア社製)に転写した。転写した膜は、5%スキムミルクを含むPBSにて4℃で一晩静置した。洗浄液(0.1% Tween20含有PBS)にて2回洗浄後、0.1μg/mLの検出抗体を室温下、2時間反応させた。反応後、洗浄液にて5回洗浄した後、化学発光試薬(パーキンエルマー社製)を用い、X線フィルム(コダック社製)に感光させ、特異バンドを検出した(
図9)。
【0134】
B12Eが全てのPCSK9を免疫沈降したのに対し、8H9は60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)のみ免疫沈降した。このことから、モノクローナル抗体8H9は60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)に対して特異的な抗体であることが明らかになった。
【0135】
4.サンドイッチELISA法によるPCSK9分子形態特異的蛋白質量測定系(参考例)
上述のごとく作製したモノクローナル抗体(8H9を除く)を用いて、サンドイッチELISAが可能な抗体の組合せを検討し、最終的に、固相抗体1FBと検出抗体ペルオキシダーゼ標識B12Eの組合せによる「全PCSK9測定系」(A系)、固相抗体B12Eと検出抗体ペルオキシダーゼ標識G12Dの組合せによる「ヘテロダイマーPCSK9測定系」(B系)、固相抗体B1Gと検出抗体ペルオキシダーゼ標識B12Eの組合せによる「非ヘテロダイマーPCSK9測定系」(C系)をそれぞれ構築した(
図10)。
【0136】
これらの測定系(A系、B系、及び、C系)のサンドイッチELISA系は、特許文献6にて示した通りである。B系値≫C系値であれば非ヘテロダイマー型PCSK9値が小さいことを示し、逆にB系値≪C系値であれば非ヘテロダイマー型PCSK9値が大きいことを意味する。
【0137】
健常者108名及び家族性高コレステロール血症(FH)患者194名の血清におけるPCSK9濃度を、これらの測定系を用いて測定し、(a)B系値≫C系値の非ヘテロダイマー型PCSK9値が小さい血清サンプル(サンプル番号1〜4)と、(b)B系値≪C系値の非ヘテロダイマー型PCSK9値が大きい血清サンプル(サンプル番号5〜11)をピックアップした。これらのサンプル1〜11のA系値、B系値、及び、C系値を表1に示す。
【0138】
【表1】
【0139】
5.血清サンプル中の60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)の免疫沈降による検出
次いで上記の血清サンプル1〜11を、非ヘテロダイマー型PCSK9特異的な抗PCSK9抗体B1Gを用いて血清PCSK9分子を免疫沈降により検討した。この免疫沈降において行った各抗体のペルオキシダーゼ標識は、Peroxidase Labeling Kit-SH(同仁化学研究所製)を用いて行った。標識方法は、キット添付の説明書に従って行った。
【0140】
免疫沈降法は、抗PCSK9抗体B1Gについて、0.1Mホウ酸緩衝液(pH9.5)で洗浄したDynabeads M-280 抗マウスIgG(ベリタス社製)を、3M硫酸アンモニウム含有0.1Mホウ酸緩衝液(pH9.5)に懸濁し、1.0×10
8個のビーズ当たり抗体を10μg加え、4℃下で20時間、転倒混和しながらビーズに抗体を結合させた。反応後上清液を捨て、0.5%ウシ血清アルブミン(BSA)含有PBS(pH7.4)を加え、緩やかに攪拌しながら、室温で2時間反応させてビーズを不活化した後、0.1%BSA含有PBS(pH7.4)で洗浄し、抗体結合ビーズを調製した。抗体結合ビーズ1.0×10
7個に対し血清検体100μLを添加し、転倒混和しながら4℃下で16時間反応させた。0.1% Tween20含有PBSで3回洗浄後、非還元SDSサンプル液に懸濁してSDS−PAGEを行い、次いでPVDF膜(ミリポア社製)に転写した。転写した膜は、5%スキムミルクを含むPBSにて4℃、一晩静置した。洗浄液(0.1% Tween20含有PBS)にて2回洗浄後、0.1μg/mLのペルオキシダーゼ標識抗PCSK9抗体MAB38881(R&D社製)を室温下、2時間反応させた。反応後、洗浄液にて5回洗浄した後、化学発光試薬(パーキンエルマー社製)を用い、X線フィルム(コダック社製)に感光させ、特異バンドを検出した。
【0141】
結果を
図11に示す。
【0142】
その結果、非ヘテロダイマー型PCSK9値が小さい血清サンプル(サンプル番号1〜4)においては、Furin切断rhPCSK9と同様に53kDaのバンドが検出され、バンドシグナルの濃さは非ヘテロダイマー型PCSK9値が高い血清サンプル(サンプル番号5〜11)において濃い、すなわち濃度が高い傾向が認められた。
【0143】
そして非ヘテロダイマー型PCSK9値が高い血清サンプル(サンプル番号5〜11)においては、薄めの53kDaのバンドに加え、意外なことに60kDaのバンドが濃く検出された。この60kDaのバンドの分子量は、60kDa成熟ドメインに相当するサイズであり、これは60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)であると認められた。これまでに、ヒト血清中での成熟ドメインは、PCSK9ヘテロダイマーと53kDaセグメントの存在が報告されているのみであり(Piper DE et al.,Structure,2007:15;545-552、Dubuc G et al.,J Lipid Res,2010:51;140-149)、ヒト血清中に60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)が存在することが、今般初めて見出された。
【0144】
6.サンドイッチELISAの構築
イムノプレート(Nunc社)にPBSで希釈した各固相抗体(A系:1FB 1μg/mL、B系:B12E 0.3μg/mL、C系:B1G 1μg/mL)を100μL/wellで添加し、4℃で一晩静置した。
【0145】
0.1%Tween20含有PBS(洗浄液)で2回洗浄後、1%BSA及び10%Sucrose含有PBSを200μL/wellで添加し、室温2時間ブロッキングした。各ウェルの液を除去後、0.3%BSA及び0.1%Tween20含有PBSで希釈したスタンダード溶液(A系及びB系はrhPCSK9ヘテロダイマー、C系はrhΔN218 PCSK9(53kDaセグメント))、あるいはヒト血清を100μL/wellで添加し、室温で2時間静置した(表2)。
【0146】
【表2】
【0147】
反応後洗浄液で4回洗浄し、10% StabilZyme(SurModics社)、0.3% BSA及び0.1%Tween20含有PBSで希釈した各検出抗体(A系:ペルオキシダーゼ標識B12E 10ng/mL、B系:ペルオキシダーゼ標識G12D 25ng/mL、C系:ペルオキシダーゼ標識B12E 35ng/mL)を100μL/wellで添加し、室温1時間静置した。反応後洗浄液で4回洗浄し、酵素基質液TMB+(Dako社)を100μL/well添加し、室温30分間発色させた後、0.5M硫酸100μL/wellを添加して酵素反応を停止し、Multiskan Ascent (Thermo Labsystems社製)にて各ウェルの吸光度を波長450nm(バックグラウンド560nm)で測定した。
【0148】
各ELISA測定系における検量線は
図12のとおりである。A系及びB系は、0〜20ng/mL、C系は0〜4ng/mLの範囲で良好な検量線を示した。
【0149】
図13は、血清サンプルの希釈直線性試験の結果を示している。いずれの系、サンプルについても直線性が示されており、各ELISA系の正確度が確認された。
【0150】
7.サンドイッチELISA法によるPCSK9非ヘテロダイマー60kDa特異的蛋白質量測定系の構築(実施例)
60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)特異的抗体8H9及び抗PCSK9成熟セグメント抗体B12Eを組み合わせ、PCSK9非ヘテロダイマー60kDa特異的サンドイッチELISA系(D系)を構築した。固相抗体として8H9、検出抗体としてペルオキシダーゼ標識B12Eを使用した。スタンダードには、前述の「8H9−seph」を用いて調製した「精製rh60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)」を使用した。
【0151】
イムノプレート(Nunc社)に、PBSで希釈した8H9 5μg/mLを100μL/wellで添加し、4℃で一晩静置した。0.1%Tween20含有PBS(洗浄液)で2回洗浄後、1%BSA及び10%Sucrose含有PBSを200μL/wellで添加し、室温で2時間ブロッキングを行った。各ウェルの液を除去後、0.3%BSA及び0.1%Tween20含有PBSで希釈したスタンダード溶液(rhΔN152PCSK9)、あるいは測定サンプルを100μL/wellで添加し、室温で2時間静置した。反応後、洗浄液で4回洗浄し、10%stabiliZyme(SurModics社)、0.3%BSA及び0.1%Tween20含有PBSで希釈したペルオキシダーゼ標識B12E 50ng/mLを100μL/wellで添加し、室温で1時間静置した。反応後洗浄液で4回洗浄し、酵素基質液TMB+(Dako社)を100μL/wellで添加し、室温で30分間発色させた後、0.5M硫酸を100μL/well添加して酵素反応を停止し、Multiskan Ascent(Thermo Labsystems社製)にて各ウェルの吸光度を波長450nm(バックグラウンド560nm)で測定した。
【0152】
本ELISA測定系(D系)における検量線は
図14に示す通りである。本ELISA系は0〜4ng/mLの範囲で良好であった。
【0153】
さらに、本ELISA測定系(D系)における血清サンプルの希釈直線性試験の結果は
図15に示す通りである。いずれのサンプルについても直線性が示され、本ELISA系の正確度が確認された。
【0154】
8.モノクローナル抗体8H9のヒト血清サンプルに対する反応性の確認
(1)サンドイッチELISAによる測定
家族性高コレステロール血症患者の血清サンプルS1,S2,S3について、A系、B系、C系及びD系のサンドイッチELISA系にて、各PCSK9分子形態濃度を測定した。これらのサンプルのA系値、B系値、C系値及びD系値を表3に示す。
【0155】
【表3】
【0156】
(2)免疫沈降による確認
上記の血清サンプルS1,S2,S3について、免疫沈降抗体として8H9及びB12Eを、検出抗体としてペルオキシダーゼ標識B12E及び同標識G12Dを用い、下記のように免疫沈降を行った。
【0157】
各免疫沈降抗体について、0.1Mホウ酸緩衝液(pH9.5)で洗浄したDynabeads M-280 Tosyl-activated(ベリタス社)を3M硫酸アンモニウム含有0.1Mホウ酸緩衝液(pH9.5)に懸濁し、1.0×10
8個のビーズあたり抗体を10μg加え、4℃で20時間、転倒混和しながらビーズに抗体を結合させた。反応後上清液を捨て、0.5%牛血清アルブミン(BSA)含有PBS(pH7.4)を加え、緩やかに攪拌しながら、室温で2時間反応させてビーズを不活化した後、0.1%BSA含有PBS(pH7.4)で洗浄し、抗体結合ビーズを作製した。抗体結合ビーズ1.0×10
7個に対し、各血清サンプル100μLを添加し、転倒混和しながら4℃で16時間反応させた。0.1% Tween20含有PBSで3回洗浄後、非還元SDSサンプル液に懸濁してSDS−PAGEを行い、次いでPVDF膜(ミリポア社)に転写した。転写した膜は、5%スキムミルク含有PBSにて4℃で一晩の反応後、洗浄液にて5回洗浄した後、化学発光試薬(パーキンエルマー社)を用い、X線フィルム(コダック社)に感光させ、特異バンドを検出した(
図16)。
【0158】
図16に示すように、モノクローナル抗体B12Eが60kDaセグメント、53kDaセグメント(A系値相当)、及び、プロセグメント(B系値相当)を免疫沈降したのに対し、モノクローナル抗体8H9は60kDaセグメント(D系値相当)のみを免疫沈降した。このことから、ヒト血清中には確かに60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)が存在することが確認された。
【0159】
9.rhPCSK9非ヘテロダイマー60kDaのLDL受容体分解活性の検討
(1)HepG2細胞の培養
HepG2細胞(ATCC)を24ウェル細胞培養プレート(BM機器社)に1ウェルあたり1×10
5個の細胞数で撒き、10%FBS(ニチレイ社)含有DMEM(ライフテクノロジー社)を1ウェルあたり0.5mL添加し、37℃・5%CO
2下で24時間培養した。次いで培地を5%LPDS(Lipoprotein Deficient Serum:Havel RJ et al.,J Clin Invest,1955:34;1345-1353に従い調製した)含有DMEM、1ウェルあたり0.3mLに変更し、37℃・5%CO
2下で24時間培養した。次いで、培地を濃度0μg/mL、1.1μg/mL、3.3μg/mL、10μg/mLの精製rhPCSK9ヘテロダイマー若しくは精製rh60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)含有DMEM,1ウェルあたり0.25mLに変更し、37℃・5%CO
2下で4時間培養した。培養後の細胞をPBSで1回洗浄後、1mMEDTA含有PBSを1ウェルあたり0.2mL添加し、37℃で10分間静置し、培養プレートから遊離させた。遊離した細胞をマイクロチューブ(BM機器)に回収後、400g・4℃にて3分間遠心し上清を除いた後、30μLの0.3%BSA、0.05%アジ化ナトリウム含有PBS(緩衝液A)に懸濁し、氷上に静置した。
【0160】
(2)HepG2細胞表面上LDL受容体の染色
30μLのHepG2細胞懸濁液に20μLの5μg/mL抗ヒトLDL受容体マウスモノクローナル抗体含有緩衝液Aを添加し、氷上にて40分間反応させた。反応後、細胞を氷冷した緩衝液Aにて2回洗浄後、20μLの250倍希釈のフィコエリスリン標識ヤギ抗マウスIgG抗体(ロックランド社)含有緩衝液Aに懸濁し氷上にて30分間反応させ、細胞表面上のLDL受容体を蛍光標識した。反応後、細胞を氷冷した緩衝液Aにて2回洗浄後、0.17mLの氷冷したPBSに懸濁し、FACSCalibur(ベクトン・ディッキンソン社)にて蛍光強度を測定し、細胞表面上のLDL受容体発現量を評価した。なお、上記抗ヒトLDL受容体マウスモノクローナル抗体は、Kosaka S et al.,Circulation, 2001:103;1142-1147、及び、Takahashi M et al.,Clin Genet,2001:59;290-292に従って調製したものを用いた。
【0161】
rhPCSK9ヘテロダイマー添加、前述の「G12D−seph」を用いて調製した「精製rh60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)」添加のいずれにおいてもHepG2細胞表面上のLDL受容体発現量低下が認められたが、いずれの添加濃度においてもrhPCSK9ヘテロダイマーに比べrh60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)の方が低下量が有意に少なかった(n=3、Student's t-testにて有意差検定)(
図17)。
【0162】
このことから、60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)のLDL受容体分解促進活性は、PCSK9ヘテロダイマーに比べ明らかに減弱していることが明らかになった。
【0163】
10.薬剤スクリーニング系構築
PCSK9ヘテロダイマーは、pH4.0処理により60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)とプロセグメントが解離することが知られている。これをモデル現象として、本発明の測定方法を行うためのアッセイ系を構築した。
【0164】
上述したrhPCSK9ヘテロダイマー含有培養上清30mLに対し、1Mクエン酸緩衝液(pH3.0)1.8mLと2M Tris溶液2.7mLの混合液4.5mLを添加し、室温にて1時間静置する処理(pH4.0処理無し)、又は、1Mクエン酸緩衝液(pH3.0)を1.8mL添加し培養上清のpHを4.0に調整後、室温にて1時間静置し、その後2M Tris溶液を2.7mL添加し、培養上清のpHを8.0にする処理(pH4.0処理有り)を行った。両サンプルを、(a)上述の「60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)測定系」、及び、(b)「PCSK9ヘテロダイマー特異的測定系(B系)」にて測定したところ、pH4.0処理有りのサンプルにおいて60kDaセグメント(非ヘテロダイマー)が増加し、PCSK9ヘテロダイマーが減少していることを明確に検出することができた(
図18)。
【0165】
この結果より、本発明のPCSK9ヘテロダイマーを解離させる物質のスクリーニングにおける有用性が明らかになった。