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特開2015-77105発酵菓子風の菓子類およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-77105(P2015-77105A)
(43)【公開日】2015年4月23日
(54)【発明の名称】発酵菓子風の菓子類およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A21D 13/08 20060101AFI20150327BHJP
   A23G 3/50 20060101ALI20150327BHJP
【FI】
   A21D13/08
   A23G3/00 102
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-216911(P2013-216911)
(22)【出願日】2013年10月18日
(71)【出願人】
【識別番号】000236768
【氏名又は名称】不二製油株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小田 ひかり
【テーマコード(参考)】
4B014
4B032
【Fターム(参考)】
4B014GB11
4B014GG02
4B014GG07
4B014GG10
4B014GG14
4B014GP15
4B032DB20
4B032DB40
4B032DG02
4B032DK12
4B032DK18
4B032DK42
4B032DK47
4B032DK49
4B032DP40
(57)【要約】
【課題】
イーストを使わずに、発酵菓子風の焼菓子およびこれを用いた菓子類の製造方法を提供すること。
【解決手段】
油脂類と水を加熱沸騰させ、火を止めて穀粉類を加え、卵類を加えて均一に混合し、さらにメレンゲを焼成前生地中10重量%以上、特にメレンゲとして加える糖類が焼成前生地中10重量%以下となるように加え成形、焼成することで、発酵菓子風の内相組織と食感を有する焼菓子が得られる。これをシロップに含浸することでサバラン風菓子、卵液に含浸し焼成することでフレンチトースト風菓子が製造できる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも油脂類と水を加熱沸騰させ、火を止めて穀粉類を加え、卵類を加えて均一に混合し、さらにメレンゲを焼成前生地中10重量%以上加え、成形、焼成することを特徴とする、発酵菓子風焼菓子の製造方法。
【請求項2】
メレンゲとして加える糖類が焼成前生地中10重量%以下であることを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
請求項1ないし2いずれか1項に記載の製造方法によって得られた焼菓子にシロップを含浸させる、サバラン風菓子の製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし2いずれか1項に記載の製造方法によって得られた焼菓子に、卵液を含浸させ焼成する、フレンチトースト風、ないしはパンプディング風菓子の製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし4いずれか1項に記載の製造方法によって得られた、菓子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イースト不使用で製造可能な、発酵菓子様の内相と食感を備えた菓子類に関する。
【背景技術】
【0002】
ブリオッシュ、クグロフ、デニッシュ・ペストリー、ヘーフェタイクなどは小麦粉、イースト、塩、水に卵、油脂、砂糖、乳製品などをリッチに加えて作られ、発酵菓子やイースト菓子とも呼ばれる。この中でも特に、卵と油脂の多いパータ・ババ(焼菓子)をさらにシロップに浸して得られるサバラン、ババ・オ・ロムなどは洋菓子のアイテムとして製造、利用されることが多い(非特許文献1)。サバランなどの発酵菓子が通常一般の菓子生地とは異なる特徴として、発酵により生じる多孔質かつ粗い肌理の内相組織と、グルテンネットワークによる適度な弾力を有する食感が挙げられる。他にもイースト発酵生地を用いた洋菓子アイテムとしては、食パンやブリオッシュなどを用いたフレンチトースト、パンプディングなどがあげられる。
【0003】
しかし洋菓子の製造現場、特に大手洋菓子メーカーの工場などでは工程管理上、イーストのコンタミ混入が懸念される場合がある。そのため、このような製造現場で発酵菓子類を作る場合には、焼成後の生地を外部から購入したり、通常の菓子生地で代替したりする必要がある。イーストを使わずに発酵菓子特有の組織と食感を有する焼菓子を安定的に製造できれば、市場における洋菓子アイテムの拡大と品質向上に寄与できる。
【0004】
特許文献1によると、シュー生地にパン粉を1〜20重量%含有させることでスポンジ様組織を有するシュー菓子が、さらにこれにシロップを含浸させることでサバラン風シュー菓子が得られるとあるが、パン粉の粒子感が残り、口溶けに違和感を生じる場合がある。特許文献2はシュー生地にメレンゲを混合することで得られるケーキ菓子に関する出願であるが、これは湯煎不要でスフレ様菓子を製造することを目的としており、また食感も「しっとり・ふんわり・口溶けが良い」などを特徴とするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−45959号公報
【特許文献2】特開2005−151924号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】お菓子の基本大図鑑(講談社、2001年2月1日発行)354頁〜
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、イーストを使わずに、発酵菓子風の内相組織と食感を備えた焼菓子、さらにはこれを用いたサバラン風、フレンチトースト風に例示される菓子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題に対して鋭意研究を重ねた結果、シュー生地の製法をもとに一定割合のメレンゲを加えることで発酵菓子風の組織と食感を有する焼菓子が得られ、さらにはこれを用いた菓子類が製造可能であることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1)少なくとも油脂類と水を加熱沸騰させ、火を止めて穀粉類を加え、卵類を加えて均一に混合し、さらにメレンゲを焼成前生地中10重量%以上となるように加え成形、焼成することを特徴とする、発酵菓子風焼菓子の製造方法、
(2)メレンゲとして加える糖類が焼成前生地中10重量%以下であることを特徴とする(1)に記載の製造方法、
(3)(1)ないし(2)に記載の製造方法によって得られた焼菓子にシロップを含浸させる、サバラン風菓子の製造方法、
(4)(1)ないし(2)に記載の製造方法によって得られた焼菓子に卵液を含浸させ焼成する、フレンチトースト風ないしはパンプディング風菓子の製造方法、
(5)(1)ないし(4)に記載の製造方法によって得られた菓子、である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、イーストを使わず、発酵菓子風の焼菓子およびこれを用いた菓子類を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0012】
(発酵菓子)
「発酵菓子」とは、ブリオッシュ、クグロフ、デニッシュ・ペストリー、ヘーフェタイクなどに例示される、小麦粉、イースト、塩、水に卵、油脂、砂糖、乳製品などをリッチに配合し、混捏、発酵、焼成して製造される菓子パン類のことであり、イースト菓子と呼ばれることもある。工程中の混捏によりグルテンが形成され、発酵により多孔質の粗い内相組織が形成されることが特徴の1つである。本発明によれば、このような内相と適度な弾力を有する焼菓子類を製造することができる。
【0013】
(油脂類)
油脂類としては、菜種油、大豆油、ヒマワリ種子油、綿実油、落花生油、米ぬか油、コーン油、サフラワー油、オリーブ油、カポック油、ゴマ油、月見草油、パーム油、シア油、サル脂、カカオ脂、ヤシ油、パーム核油等の植物性油脂並びに乳脂、牛脂、ラード、魚油、鯨油等の動物性油脂、これらの単独または混合油、あるいはそれらの硬化、分別、エステル交換等を施した加工油脂類、およびこれらを用いたバター、マーガリン、コンパウンドマーガリン、ショートニング、ラード、各種シュー用油脂組成物(シュー用マーガリン等)に例示される食用油脂類をいずれも使用することができる。
【0014】
(穀粉類)
本発明においては、薄力粉・中力粉・強力粉などの小麦粉の他、米粉、そば粉、大麦粉、トウモロコシ粉、ハト麦粉、ライ麦粉、カラス麦粉等の穀粉類を適宜用いることができる。また、穀物類から得られるコーンスターチ、小麦澱粉、米澱粉、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、甘薯澱粉、およびこれらを原料としたデキストリン、各種加工澱粉類等の澱粉も同様に使用できる。これらはいずれか単独でも、2種類以上を併せて使用しても良い。
【0015】
(卵類)
本発明に用いる卵類としては、液状の全卵、卵黄、卵白、またはこれらの加糖卵、冷凍卵が例示でき、これらの単独または2種以上を適宜混合使用することができる。これらは常温(20〜30℃)、またはそれ以下の温度に調整したものを用いることが望ましい。
【0016】
(メレンゲ)
本発明に用いるメレンゲは常法により調製することができる。すなわち、卵白に糖類を数回に分けて加え、泡立て器、ミキサー、ホイッパー、ビーター等を用い、固くツノが立つまで起泡させる。卵白としては生卵白、液状卵白、加糖卵白、冷凍卵白、乾燥卵白などを適宜用いることができ、また、各種の起泡安定剤を加えてもよい。糖類としては砂糖、グラニュー糖、上白糖などの使用が例示できる。卵白と糖類の比率も適宜調整すればよく、おおむね卵白:砂糖=2:3〜5:1の範囲が例示できる。
【0017】
(焼成前生地の調製)
水及び油脂類を合わせて混合、加熱沸騰させた後、加熱を止め、小麦粉などの穀粉類を加え、その後卵類を加えて均一に混合する。ここまでは公知のシュー生地の製造法と同様であり、配合も公知のシュー生地と同様に適宜設定することができる。例えば水分10〜30重量%、油脂類10〜30重量%、穀粉類10〜30重量%、卵類20〜50重量%が例示できる。
続いてここに更にメレンゲを加え、混合する。この状態を「焼成前生地」とする。
ここで、焼成前生地におけるメレンゲ重量が10重量%以上となるように加える。好ましくは10〜30重量%、より好ましくは10〜20重量%の範囲が望ましい。これより少ないと焼菓子の中央に空洞が空いてしまい、多孔質の内相が得られない場合がある。これを超えると内相組織の肌理が均一になり、発酵菓子らしさに欠ける場合がある。
さらに、メレンゲとして加える糖類が焼成前生地の10重量%以下、より好ましくは9重量%以下、さらに好ましくは7重量%以下、最も好ましくは2〜7重量%とすることで、シロップや卵液に含浸後も適度な弾力を有する食感の菓子を得ることができる。これより多いと口中でのほぐれが良すぎたり、脆く崩れたりする場合がある。
【0018】
(発酵菓子風焼菓子)
調製した焼成前生地は、絞り出す、型に入れる、天板に流す等の方法により任意の形状に成形する。なお、ここでの成形とは、必ずしも特定形状に揃えることを意味するものではなく、大きめに作って、あるいは不定形として、焼成後にさらに適宜切り分けて用いることもできる。続いてこれをオーブンで焼成することで、発酵菓子風の焼菓子を得ることができる。焼成条件は通常のシューパフと同様に適宜設定することができる。
【0019】
(シロップ)
得られた焼菓子は、さらにシロップに含浸させることにより、サバラン風、ババ風に例示される発酵菓子風の洋菓子を得ることができる。シロップは水に砂糖、グラニュー糖、ブドウ糖、果糖、麦芽糖、澱粉糖、乳糖、ハチミツ、トレハロース、パラチノース、各種オリゴ糖、糖アルコール類、水飴、各種液糖類に例示される糖類から単独、又は2種以上を加え、加温して得る。糖類の他にも各種甘味料、洋酒、香料などを適宜配合することができる。
【0020】
(卵液)
本発明の卵液とは、卵を含む液状物のことをいい、具体的には卵、牛乳、糖類などの混合液が例示される。ここに焼菓子を含浸し、さらにオーブンまたはフライパン等で焼成することで、フレンチトースト風、パンプディング風に例示される、パンを用いた菓子様の洋菓子を得ることができる。
【0021】
以下に実施例および比較例を記載し、本発明をより詳細に説明する。なお、本文中部および%は特に断りのない限り、重量基準を意味する。
【0022】
<検討1:焼菓子の調製及び評価>
[実施例1]
水150部と、市販のシュー用油脂組成物(商品名:シュートップD、不二製油株式会社製)150部、食塩1部を加熱し、沸騰させた後に火を止め、薄力粉70部と強力粉30部を加えて混合し、全卵230部を加えてさらに混合した。
別途、卵白100部に対してグラニュー糖50部を加えて固く泡立て、メレンゲを調製した。このメレンゲを先の生地に90部加えて混合し、焼成前生地を得た。これを30gずつ、天板に円形に絞り出し、オーブン焼成(上火/下火=180/200℃、20分→180/180℃、10分)し、焼菓子を得た。
【0023】
[実施例2]
メレンゲの添加量を120部とし、他は実施例1と同様の工程で焼菓子を調製した。
【0024】
[実施例3]
メレンゲの添加量を150部とし、他は実施例1と同様の工程で焼菓子を調製した。
【0025】
[実施例4]
メレンゲの添加量を210部とし、他は実施例1と同様の工程で焼菓子を調製した。
【0026】
[実施例5]
メレンゲの添加量を270部とし、他は実施例1と同様の工程で焼菓子を調製した。
【0027】
[実施例6]
メレンゲを卵白:砂糖=5:1とし、これを120部加えて同様に焼菓子を調製した。
【0028】
[実施例7]
メレンゲを卵白:砂糖=1:1とし、これを120部加えて同様に焼菓子を調製した。
【0029】
[比較例1]
メレンゲを添加せず、他は実施例1と同様の工程で焼菓子を調製した。
【0030】
[比較例2]
メレンゲの添加量を20部とし、他は実施例1と同様の工程で焼菓子を調製した。
【0031】
[比較例3]
メレンゲの添加量を50部とし、他は実施例1と同様の工程で焼菓子を調製した。
【0032】
(評価)
得られた焼菓子は、内相組織の状態を以下の基準で目視観察し、発酵菓子風の焼菓子としての適性をパネラー7名による合議で判定した。◎および○を合格とした。
◎多孔質で粗い内相
○多孔質、やや肌理が細かく均一
△やや大き目の空洞あり
×大きな空洞あり
実施例の焼菓子は、いずれも発酵菓子に類似した、多孔質の内相を有していた。
一方、比較例の焼菓子はシューパフ様に内部に大きな空洞が空き、発酵菓子としての利用には不適当と判断した。
【0033】
<検討2:サバラン風菓子としての評価>
水100部、グラニュー糖80部を合わせて加温し、ここにネグリタラム18部、グランマルニエ5部を加え混合し、シロップを調製した。実施例1〜7の焼菓子を十分量のシロップに一晩浸し、サバラン風菓子としての食感を以下の基準で官能評価し、パネラー7名による合議で判定した。△以上を合格とした。
◎発酵菓子様の適度な弾力を有し、特に良好
○やや弾力が弱いが、良好
△ほぐれが良く弾力が弱い
×組織がきわめて脆く、サバラン風菓子として不適
いずれも、サバラン様の洋菓子として利用可能であった。メレンゲ由来の砂糖の割合が多いほどほぐれが良く、弾力が弱くなる傾向がみられた。
【0034】
<検討3:フレンチトースト風菓子としての評価>
全卵340部、牛乳370部、グラニュー糖62部、バニラエッセンス1部を混合し、グラニュー糖を溶かして卵液(アパレイユ)を調製した。実施例1〜7の焼菓子を4等分にカットしてバットに並べ、ここに先の卵液を掛け、一晩冷蔵庫に静置して卵液を十分に浸み込ませた。余分の卵液を切り天板に並べ、柔らかくしたバター(分量外)を0.2gずつ絞り、210℃のオーブンで6分間焼成した。
これを、フレンチトースト風の菓子として以下の基準で官能評価し、パネラー7名による合議で判定した。△以上を合格とした。
◎焼菓子部分がパンのような適度な弾力を有し、特に良好
○やや弾力が弱いが、良好
△ほぐれが良く弾力が弱い
×組織がきわめて脆く、パンを用いた菓子として不適
いずれも、パンを用いた菓子として利用可能な食感を備えていた。
【0035】
[表1]