【解決手段】トバモライト結晶を含む珪酸カルシウム板であって、珪酸カルシウムのXRDパターンにおいて、トバモライト結晶に起因するピークトップの強度と半価幅との積の総和が、参照用のトバモライト結晶のXRDパターンにおけるピークトップの強度と半価幅との積の総和に対して、60%以上であるように、トバモライト結晶を含み、かつ、水銀ポロシメーターにより測定した細孔容積の総和が0.97〜4.6cm
/gであり、5.0μm以下の細孔径を有する細孔のlog微分細孔容積の総和が、全細孔のlog微分細孔容積の総和に対して、90%以上であり、かつ、200nm以上1.0μm以下の細孔径を有する細孔のlog微分細孔容積の総和が、全細孔のlog微分細孔容積の総和に対して、2.5%以上40%以下であるように細孔を有する、珪酸カルシウム板。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献に記載のものを始めとする従来の珪酸カルシウム板に関する技術であっても、機械的強度を高く維持した状態で軽量化を達成した珪酸カルシウム板を高い生産性で製造するには、さらに改善の余地がある。特に抄造法により珪酸カルシウム板を製造する場合、従来の技術では、機械的強度の一種である層間の剥離強度を十分に高めるのは困難であり、さらに改善の余地がある。
【0006】
そこで、本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、軽量で、かつ高い機械的強度を有する珪酸カルシウム板及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、特定の製造方法、具体的には、所定のCaO/SiO
2モル比の原料を短時間でゲル化することにより、軽量でありながら強度の高い珪酸カルシウム板が得られることを見出し本発明を完成させた。
【0008】
即ち、本発明は、下記のとおりである。
1.トバモライト結晶を含む珪酸カルシウムを含有する珪酸カルシウム板であって、
前記珪酸カルシウムのXRDパターンにおいて、前記トバモライト結晶に起因する面指数(002)、(004)、(220)、(408)及び(620)から選択される3以上のピークトップの強度It(単位:cps)と半価幅Wh(単位:°)との積の総和が、参照用のトバモライト結晶のXRDパターンにおける前記ピークトップの強度It0(単位:cps)と半価幅Wh0(単位:°)との積の総和に対して、60%以上であるように、前記トバモライト結晶を含み、かつ、
水銀ポロシメーターにより測定した細孔容積の総和Vpaが0.97〜4.6cm
3/gであり、
5.0μm以下の細孔径を有する細孔のlog微分細孔容積の総和Vp1(単位:cm
3/g)が、全細孔のlog微分細孔容積の総和Vpa’(単位:cm
3/g)に対して、90%以上であり、かつ、
200nm以上1.0μm以下の細孔径を有する細孔のlog微分細孔容積の総和Vp2(単位:cm
3/g)が、前記全細孔のlog微分細孔容積の総和Vpa’(単位:cm
3/g)に対して、2.5%以上40%以下であるように細孔を有する、珪酸カルシウム板。
2.層状構造である、1記載の珪酸カルシウム板。
3.下記式(1)で表される条件を満足する、1又は2に記載の珪酸カルシウム板。
((Σ(It×Wh)×Vp3)/(Σ(It0×Wh0)×Vpa’))≧0.35…(1)
(式(1)中、Vp3は、水銀ポロシメーターにより測定した200nm以下の細孔径を有する細孔のlog微分細孔容積の総和(単位:cm
3/g)を示す。)
4.積層体からなる珪酸カルシウム板であって、
密度が0.2〜0.7g/cm
3であり、
密度(g/cm
3)と層間剥離強度(N/mm
2)が、以下の関係を満たす珪酸カルシウム板。
2.0×密度
2/0.9
2≦層間剥離強度≦3.5×密度
2/0.9
2
5.0.15〜0.65のCaO/SiO
2モル比、150〜200℃の合成温度、及び0.1〜60分の前記合成温度における保持時間、の条件で、少なくとも一部がゲル化した珪酸カルシウムを合成して、前記珪酸カルシウムを含む第1の混合物を得る工程と、
前記第1の混合物を35〜70質量%(水分を除く固形分換算)含む第2の混合物を得る工程と、
前記第2の混合物を板状に成形する工程と、
を有する珪酸カルシウム板の製造方法。
6.前記第2の混合物が、石灰質材料、珪酸質材料、珪酸石灰質材料、及び繊維からなる群より選ばれる1種以上を含む、5に記載の製造方法。
7.前記板状に成形する工程は、前記第2の混合物を抄造する工程と、前記抄造した第2の混合物を複数積層する工程と、を有する、5又は6に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、軽量で、かつ高い機械的強度を有する珪酸カルシウム板及びその製造方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明を実施形態について詳細に説明する。尚、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。さらに、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0012】
本発明の第1の実施形態の珪酸カルシウム板は、トバモライト結晶を含有する珪酸カルシウム板であって、上記珪酸カルシウムのXRDパターンにおいて、上記トバモライト結晶に起因する面指数(002)、(004)、(220)、(408)及び(620)から選択される3以上のピークトップの強度It(単位:cps)と半価幅Wh(単位:°)との積の総和が、参照用のトバモライト結晶のXRDパターンにおけるピークトップの強度It0(単位:cps)と半価幅Wh0(単位:°)との積の総和に対して、60%以上であるように、上記トバモライト結晶を含み、かつ、水銀ポロシメーターにより測定した全細孔の細孔容積の総和Vpaが0.97〜4.6cm
3/gであり、5.0μm以下の細孔径を有する細孔のlog微分細孔容積の総和Vp1(単位:cm
3/g)が、全細孔のlog微分細孔容積の総和Vpa’(単位:cm
3/g)に対して、90%以上であり、かつ、200nm以上1.0μm以下の細孔径を有する細孔のlog微分細孔容積の総和Vp2(単位:cm
3/g)が、全細孔のlog微分細孔容積の総和Vpa’(単位:cm
3/g)に対して、2.5%以上40%以下であるように細孔を有するものである。
【0013】
大きい細孔径の細孔が多いと軽量であるが、機械的欠陥の原因となり得る。小さい細孔径の細孔が多いと機械的強度は高くなるが、製造時の水捌け性を悪化させる恐れがある。上記の実施形態に係る珪酸カルシウム板は、適度な中程度の細孔径を有する細孔が多いため、軽量であると共に、機械的強度が高く、生産性もよい。また、珪酸カルシウムの結晶割合が多いので、機械的強度が向上する。
【0014】
本発明の第2の実施形態の珪酸カルシウム板は、積層体であり、密度が0.2〜0.7g/cm
3であり、密度(g/cm
3)と層間剥離強度(N/mm
2)が、2.0×密度
2/0.9
2≦層間剥離強度≦3.5×密度
2/0.9
2を満たすものである。好ましくは、2.3×密度
2/0.9
2≦層間剥離強度≦3.4×密度
2/0.9
2を満たす。
または、縦軸に密度を、横軸に層間剥離強度を示すグラフにおいて、層間剥離強度が、3.5×密度
2/0.9
2と2×密度
2/0.9
2に囲まれる範囲にある。
図1に、縦軸が密度、横軸が層間剥離強度であるグラフにおける、3.5×密度
2/0.9
2と2×密度
2/0.9
2に囲まれる範囲を示す。
さらに、後述する本願実施例の密度と層間剥離強度、従来技術の密度と層間剥離強度(特許文献1〜5に相当)を示す。
【0015】
上記第1及び第2の実施形態(以下、単に「本実施形態」という。)の珪酸カルシウム板は、機械的強度が高くなるため、上記珪酸カルシウムのXRDパターンにおいて、上記トバモライト結晶に起因する面指数(002)、(004)、(220)、(408)及び(620)から選択される3以上のピークトップの強度It(単位:cps)と半価幅Wh(単位:°)との積の総和(以下、「Σ(It×Wh)」とも表記する。)が、参照用のトバモライト結晶のXRDパターンにおけるピークトップの強度It0(単位:cps)と半価幅Wh0(単位:°)との積の総和(以下、「Σ(It0×Wh0)」とも表記する。)に対して、好ましくは60%以上であるように、上記トバモライト結晶を含む。Σ(It×Wh)は、Σ(It0×Wh0)に対して、好ましくは、65%以上であり、より好ましくは68%以上であり、さらに好ましくは70%以上である。一方、Σ(It0×Wh0)に対するΣ(It×Wh)の比率の上限は特に限定されないが、例えば、95%であってもよく、90%であってもよい。
【0016】
面指数は、データの精度の観点から、好ましくは、(002)、(004)、(220)、(408)及び(620)のピークトップ全てを用いる。しかしながら、充填材の添加等でピーク位置が重なる場合は、そのピークを避けて計算することができる。
【0017】
参照用のトバモライト結晶とは、良品質のトバモライト結晶を大量に含むように合成した結晶である。具体的には実施例に記載の方法で製造できる。
【0018】
本実施形態の珪酸カルシウム板は、水銀ポロシメーターにより測定した全細孔の細孔容積の総和Vpaが好ましくは0.97〜4.6cm
3/gである。細孔容積の総和Vpaは、好ましくは1.1〜3.2cm
3/gであり、より好ましくは、1.36〜2.05cm
3/gである。
【0019】
また、その珪酸カルシウム板は、5.0μm以下の細孔径を有する細孔のlog微分細孔容積の総和Vp1(単位:cm
3/g)が、全細孔のlog微分細孔容積の総和Vpa’(単位:cm
3/g)に対して、好ましくは90%以上であり、好ましくは93%以上であり、より好ましくは97%以上である。
【0020】
さらに、本実施形態の珪酸カルシウム板は、200nm以上1.0μm以下の細孔径を有する細孔のlog微分細孔容積の総和Vp2(単位:cm
3/g)が、全細孔のlog微分細孔容積の総和Vpa’(単位:cm
3/g)に対して、好ましくは2.5%以上40%以下であり、好ましくは10〜38%以下であり、より好ましくは20〜35%である。
【0021】
全細孔の細孔容積の総和Vpaが0.97cm
3/g以上であることにより珪酸カルシウム板が軽量化され、かつ、4.6cm
3/g以下であることによりその機械的強度が向上する。
【0022】
また、5.0μm以下の細孔径を有する細孔のlog微分細孔容積の総和Vp1(単位:cm
3/g)が、全細孔のlog微分細孔容積の総和Vpa’(単位:cm
3/g)に対して、90%以上であることにより、特に、機械的欠陥となりにくい微細な細孔が多くなるため、珪酸カルシウム板の機械的強度が向上する。その上限は特に限定されず、100%であってもよい。
【0023】
200nm以上1.0μm以下の細孔径を有する細孔のlog微分細孔容積の総和Vp2(単位:cm
3/g)が、全細孔のlog微分細孔容積の総和Vpa’(単位:cm
3/g)に対して、2.5%以上40%以下であると、微細な細孔のうち、さらに微細な400nm未満の細孔径を有する細孔の割合が少なくなると共に、微細な細孔の中では比較的大きな1.0μm超の細孔径を有する細孔の割合が少なくなる。その結果、特に、珪酸カルシウムの製造過程において、それぞれの細孔内に存在する水分を除去しやすくなり、生産性が向上すると共に、機械的強度も向上する。
【0024】
本実施形態の珪酸カルシウム板において、珪酸カルシウムの含有割合は、珪酸カルシウム板の全体量に対して、60質量%以上であると好ましく、70質量%以上であるとより好ましい。その上限は特に限定されないが、実質製板するために必要な補強用繊維量を除いた量が上限となる。
【0025】
本実施形態に係る珪酸カルシウムは、例えば、非晶質珪酸カルシウム、及び低結晶質珪酸カルシウム水和物を含んでもよい。また、本実施形態の珪酸カルシウム板には、本発明の目的達成を阻害しない範囲で、珪酸カルシウムの合成に用いられる原料、例えば、珪砂、クリストバライト、トリジマイト、珪藻土、シリカヒューム等の珪酸質材料、消石灰(水酸化カルシウム)及び生石灰(酸化カルシウム)等の石灰質材料が残存していてもよい。
【0026】
また、本実施形態の珪酸カルシウム板は、本発明の目的達成を阻害しない範囲で、補強用繊維(例えば、セルロース繊維、ポリプロピレン繊維、ビニロン繊維、ガラス繊維、炭素繊維及びパルプ)、非反応性充填物(例えば、軽量骨材、樹脂フィラー、マイカ、炭酸カルシウム、タルク及び石膏)、樹脂バインダー及びその他の添加剤や不純物等、従来の珪酸カルシウム板に含まれているものを含んでもよい。
【0027】
本実施形態の珪酸カルシウム板は、層状構造であると好ましい。本実施形態の層状構造を有する珪酸カルシウム板は、例えば後述の抄造法により得られる。驚くべきことに、本実施形態における層状構造の珪酸カルシウム板は、従来の層状構造の珪酸カルシウム板と比較して、顕著に軽量で、かつ高い層間剥離強度を有するものである。その要因は、現在のところ詳細には明らかになっていないが、本発明者らは下記のように考えている。ただし、要因はこれに限定されない。
【0028】
本実施形態の層状構造の珪酸カルシウム板は、層間においてトバモライト結晶と細孔とが良好に係合するため、各層の機械的強度が高いこととも相俟って、層間剥離強度が顕著に高くなると考えている。
【0029】
本実施形態の珪酸カルシウム板は、下記式(1)で表される条件を満足すると好ましい。
((Σ(It×Wh)×Vp3)/(Σ(It0×Wh0)×Vpa’))≧0.35…(1)
ここで、式(1)中、Vp3は、水銀ポロシメーターにより測定した200nm以下の細孔径を有する細孔のlog微分細孔容積の総和(単位:cm
3/g)を示す。式(1)におけるその他の記号は、上述のものと同義である。
【0030】
上記式(1)の左辺は、珪酸カルシウム中のトバモライト結晶の割合と、200nm以下の細孔径を有する細孔の細孔容積の割合との積に関連する指標である。珪酸カルシウム板は、下記式(1a)で表される条件を満足するとより好ましい。
((Σ(It×Wh)×Vp3)/(Σ(It0×Wh0)×Vpa’))≧0.40…(1a)
【0031】
尚、上記式(1)の左辺で表される式の上限値は特に限定されず、例えば、0.80であってもよく、0.75であってもよい。
【0032】
本実施形態の珪酸カルシウム板の密度(かさ密度)は、軽質化を図る観点から、0.2〜0.7g/cm
3であると好ましく、0.35〜0.65g/cm
3であるとより好ましく、0.4〜0.55g/cm
3であるとさらに好ましい。
【0033】
本実施形態の珪酸カルシウム板の吸水寸法変化率は、特に限定されないが、0.15%以下であると好ましく、0.13%以下であるとより好ましい。本実施形態の珪酸カルシウム板は、上述のように密度が比較的低いにも関わらず、吸水寸法変化率も0.15%以下と低くすることも可能である点で、寸法安定性が高く特に有用である。
【0034】
本実施形態の珪酸カルシウム板は、さらに機械的強度の向上を図る観点から、そのMDに対して垂直に曲げる場合の曲げ強度(MD曲げ強度と記載)と密度の関係が、20×密度
2/0.9
2≦MD曲げ強度≦55×密度
2/0.9
2を満たすものが好ましく、25×密度
2/0.9
2≦MD曲げ強度≦50×密度
2/0.9
2を満たすものがより好ましい。
また、同様の観点から、そのTDに対して垂直に曲げる場合の曲げ強度(TD曲げ強度と記載)が、10×密度
2/0.9
2≦TD曲げ強度≦30×密度
2/0.9
2を満たすものが好ましく、12×密度
2/0.9
2≦TD曲げ強度≦28×密度
2/0.9
2を満たすものがより好ましい。
【0035】
本実施形態の層状構造の珪酸カルシウム板は、さらに機械的強度の向上を図る観点から、層間剥離強度と密度の関係が、2.0×密度
2/0.9
2≦層間剥離強度≦3.5×密度
2/0.9
2を満たすものが好ましく、2.3×密度
2/0.9
2≦層間剥離強度≦3.4×密度
2/0.9
2を満たすものがより好ましい。
【0036】
本実施形態の珪酸カルシウム板の厚さは、用途に応じて適宜調整すればよく、特に限定されない。例えば、その厚さは5mm〜20mmであってもよい。本実施形態の珪酸カルシウム板は、軽量であるにも関わらず、上記のように比較的薄い厚さであっても、必要とされる機械的強度を確保することができる点で有利である。
【0037】
上述の本実施形態の珪酸カルシウム板は、下記の製造方法によって得ることができる。0.15〜0.65のCaO/SiO
2モル比、150〜200℃の合成温度、及び0.1〜60分の合成温度における保持時間の条件で、少なくとも一部がゲル化した珪酸カルシウムを合成して、その珪酸カルシウムを含む第1の混合物を得る工程と、上記第1の混合物(水分を除く固形分換算)を35〜70質量%含む第2の混合物を得る工程と、その第2の混合物を板状に成形する工程とを有するものである。
【0038】
本実施形態の製造方法では、まず、珪酸カルシウムの原料を準備する。珪酸カルシウムの原料としては、従来知られているものであれば特に限定されず、例えば、珪酸質材料及び石灰質材料が用いられる。珪酸質材料としては、結晶質であっても非晶質であってもよく、例えば、珪藻土(焼成及び未焼成)、珪砂、シリカヒューム、ニップシール、沸石及びシリカフラワーが挙げられる。また、石灰質材料としては、例えば、消石灰、生石灰及び石灰乳が挙げられる。
【0039】
次いで、準備した珪酸質材料及び石灰質材料の少なくとも一部を水と共に混合してスラリーを得る。このスラリーにおける珪酸質材料と石灰質材料との比率は特に限定されないが、CaO/SiO
2のモル比として、好ましくは0.17〜0.63であり、より好ましくは0.18〜0.6である。このモル比が0.15未満では、成形体の密度を下げる効果が下がる。また、モル比が0.65を超えると濾水性が悪化し、抄き上がらない、ロールで圧搾積層する際にシートが伸びてしまう。
【0040】
また、スラリーにおける固形分の割合は、生産性の観点から、スラリーの全体量に対して、5〜20質量%であると好ましく、8〜15質量%であるとより好ましい。スラリーを得る際の混合温度は、例えば50℃未満である。
【0041】
次に、得られたスラリーから、少なくとも一部がゲル化した珪酸カルシウムスラリーを、攪拌式オートクレーブを用いて合成する。この工程における合成温度は、150〜200℃であり、好ましくは160〜190℃であり、より好ましくは165〜185℃である。また、その合成温度における保持時間は0.1〜60分であり、好ましくは0.2〜45分であり、より好ましくは0.3〜30分である。このような合成温度と時間での水熱合成を経ることにより、珪酸質材料の周りに疎なゲル化した珪酸カルシウムが生成する結果、本実施形態の珪酸カルシウム板をより確実に得ることができる。合成温度までの昇温時間は50〜100分間であることが好ましく、合成温度からの降温時間は50〜100分間であることが好ましい。
【0042】
続いて、上述のようにして得られた少なくとも一部がゲル化した珪酸カルシウム、その珪酸カルシウムを合成する工程において未反応で残存した珪酸質材料及び石灰質材料、並びに副生成物の混合物(第1の混合物)を、残りの原料及び必要に応じて追加の水と共に混合して、スラリー状の第2の混合物を得る。この際、必要に応じて撹拌しながら混合してもよい。残りの原料としては、例えば、珪酸質材料、石灰質材料、及び補強用の繊維が挙げられるが、その他、非反応性充填物、樹脂バインダー及びその他の添加剤、並びに、ワラストナイト、ゾノトライト、非晶質珪酸カルシウム、及び低結晶質珪酸カルシウム水和物等の珪酸石灰質材料も挙げられる。尚、これらの残りの原料のうち、珪酸カルシウムの原料とならないものは、上述のスラリーを得る工程、第1の混合物を得る工程において、本発明の目的達成を阻害しない範囲で添加されてもよい。
【0043】
第2の混合物における第1の混合物の含有割合(水分を除く固形分換算)は、本発明の効果をより有効且つ確実に奏する観点から、35〜70質量%であり、好ましくは40〜65質量%であり、45〜60質量%であるとさらに好ましい。第1の混合物の含有割合(水分を除く固形分換算)が70質量%以下であることにより、第2の混合物の濾水性がより良好となる点でも好ましい。第2の混合物における固形分の含有割合は、特に限定されず、珪酸カルシウム板の用途や所望の特性に応じて適宜調整すればよい。
【0044】
第2の混合物中に、残りの原料として石灰質材料を混合する場合、第2の混合物におけるその石灰質材料の含有割合は、本発明の効果をより有効且つ確実に奏する観点から、10〜40質量%であると好ましく、15〜35質量%であるとより好ましい。また、第2の混合物中に、残りの原料としてワラストナイトを混合する場合、第2の混合物におけるそのワラストナイトの含有割合は、本発明の効果をより有効且つ確実に奏する観点から、0質量%超20質量%以下であると好ましく、5〜15質量%であるとより好ましい。さらに、第2の混合物中に、残りの原料としてパルプを混合する場合、第2の混合物におけるパルプの含有割合は、本発明の効果をより有効且つ確実に奏する観点から、5〜12質量%であると好ましく、6〜10質量%であるとより好ましい。
【0045】
また、第2の混合物を得る工程において用いる石灰質材料の比率が上記下限値以上、上記上限値以下であることにより、トバモライト結晶が多く生成し曲げ強度が高くなるという効果を奏する。さらに、第2の混合物を得る工程において用いる珪酸質材料の比率は10質量%以下であると好ましく、5質量%以下であるとより好ましい。第2の混合物を得る工程において用いる珪酸質材料の比率が上記上限値以下であることにより、トバモライト結晶サイズが小さくなり曲げ強度が高くなるという効果を奏する。尚、この珪酸質材料の比率の下限値は特に限定されず、例えば0であってもよい。
【0046】
本実施形態の製造方法は、好ましくは、第2の混合物を抄造法により抄造する工程を有し、さらに好ましくは、抄造した第2の混合物を複数積層する工程を有する。抄造する工程において用いられる抄造機は特に限定されず、丸網式抄造機であってもよい。丸網式抄造機は、従来知られているものであってもよいが、その一例を模式的に
図2に示す。
図2に示す丸網式抄造機100は、複数の抄箱110と、抄箱110中に設けられた丸網シリンダー120と、複数の抄箱110が並べられた方向に移動する帯状のフェルト130と、その帯状のフェルト130に接触して、帯状のフェルト130の移動方向に回転するメーキングロール140とを主要な構成とし、フェルト130を送るための複数のロールをも備える。抄箱110中には、第2の混合物150が収容されており、丸網シリンダーがその第2の混合物150内に浸漬されている。
【0047】
丸網式抄造機100によると、抄箱110中に設けられた丸網シリンダー120により第2の混合物150を抄き上げ、フェルト130に転写する。第2の混合物150が転写されたフェルト130には、次の抄箱150及び丸網シリンダー120により、さらに第2の混合物が転写される。このような操作を抄箱110(丸網シリンダー120)の数だけ反復し、その数だけ積層して抄造フィルム160を形成し、さらに、この抄造フィルム160をメーキングロール140で所定の厚さまで所定回数巻き付けた後切断する。このようにして成形することにより、第2の混合物が複数積層した板状のグリーンシートが得られる。
【0048】
本実施形態の製造方法においては、第2の混合物を抄造する際に、第1の混合物が35〜70質量%(水分を除く固形分換算)と比較的多いにも関わらず、濾水性(水捌け性)が良好になる。また、メーキングロール140を含む各ロールにおける圧搾や積層によっても、フェルト130に転写された抄造フィルム160が伸び難い。これは、第1の混合物におけるCaO/SiO
2のモル比が0.15〜0.65と比較的低くなっていることに起因すると考えられる。
【0049】
次に得られたグリーンシートを、水熱反応によりさらに硬化して珪酸カルシウム板を得る。上記水熱反応は通常オートクレーブ中、飽和水蒸気圧下、好ましくは140〜200℃の条件下6〜12時間で行われる。
【0050】
尚、本実施形態の製造方法は、本発明の目的達成を阻害しない範囲で、従来の珪酸カルシウム板の製造方法に用いられている各種の工程を有していてもよい。
【0051】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。例えば、本発明の別の実施形態において、上述の抄造法に代えて、金型を用いた脱水成形で第2の混合物を板状成形体とし、オートクレーブ内で加熱することで、珪酸カルシウム板を得てもよい。
【実施例】
【0052】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、以下の実施例の説明において「部」とは質量部を意味する。
【0053】
実施例1
表1の「第1スラリー形成工程」に記載の各原料を、常温にて撹拌しながら十分に混合してスラリーを得た。次いで、得られたスラリーを表1の「ゲル化工程」に記載の「昇温時間」で「合成温度」まで加熱し、「保持時間」の間その合成温度で保持し、「降温時間」で室温まで降温し、少なくとも一部がゲル化した珪酸カルシウムを含む第1の混合物を得た。
【0054】
次に、上記第1の混合物を、表1の「第2スラリー形成工程」に記載の各原料と共に常温にて撹拌しながら十分に混合してスラリー状の第2の混合物を得た。
【0055】
続いて、第2の混合物を丸網抄造機を用いて多段階で抄造して、第2の混合物が5層積層した板状のグリーンシートを得た。次いで、得られたグリーンシートを表1のオートクレーブ内に収容し、飽和水蒸気圧下、表1の「オートクレーブ条件」に記載の温度と時間にて、水熱反応によりさらに硬化して、珪酸カルシウム板を得た。得られた珪酸カルシウム板の厚さ及び珪酸カルシウムの含有割合を表1に示す。
【0056】
実施例2〜6、比較例1〜4
原料や各種製造条件を表1に示すように変更した以外は実施例1と同様にして、実施例2〜5、比較例1〜4の珪酸カルシウム板を製造した。比較例3は、特許文献2の実施例1を追試したものであり、比較例4は、特許文献5の実施例1を追試したものである。
尚、比較例1,2は実施例1と同じ抄造法では成形できなかった。従って、金型に入れて脱水成形した。そのため、抄造配向性がないため、MD、TDの方向性がない。通常の曲げ強度をMD曲げ強度とした。また、積層体ではないので層間剥離強度は測定しなかった。
【0057】
比較例5
比較例5は、特許文献6の実施例4を追試したものである。
原料として、普通ボルトランドセメント30部、生石灰41部、珪石26部、二水石膏3部及び水160部を、攪拌機を用いて60℃にて混合してスラリーを得た。次いで、そのスラリーを60℃で4時間保持して反応させた。その後、撹拌を止めてしばらく静置し硬化させた。このようにして得られた混合物50部、普通ボルトランドセメント10.5部、生石灰10.5部、珪石26部、二水石膏4部及び水120部、さらに繊維3部(外割)を混合してスラリーを得た。得られたスラリーを型枠に流し込み、飽和水蒸気圧下にて60℃で8〜15時間かけて予備硬化させた。得られた予備硬化物をオートクレーブに収容し、180℃で4時間保持した後、さらに乾燥させて珪酸カルシウム板を得た。
抄造配向性がないため、MD、TDの方向性がない。通常の曲げ強度をMD曲げ強度とした。また、積層体ではないので層間剥離強度は測定しなかった。
【0058】
【表1】
【0059】
評価例1
実施例1〜6と比較例1〜5で得られた珪酸カルシウム板について、以下の方法で各種特性・物性等の評価を行った。結果を表4に示す。
【0060】
(1)トバモライト結晶含有割合(Σ(It×Wh)/Σ(It0×Wh0))
参照用のトバモライト結晶として、公知の方法で合成したトバモライト結晶を用いた。具体的には、消石灰原料(和光試薬1級)、珪石原料(三栄シリカ SP80)を用い、CaO/SiO
2比を0.83とし、原料濃度が5wt%となるように水(精製水350ml)を加え、500ml攪拌式オートクレーブ(耐圧硝子工業製)で、179℃−48hr、400rpmの条件で合成した。次いで、測定対象となる珪酸カルシウム板、及び参照用のトバモライト結晶を粉砕して粉末にし、互いに同じ質量になるように秤取して、それぞれの試料とした(以下、測定対象となる珪酸カルシウム板の試料を「測定対象試料」、参照用のトバモライト結晶の試料を「参照用資料」という)。
【0061】
次に、これらの試料のXRDパターンを、X線としてCuKα線を用いた粉末X線回折装置(リガク製、型式「RINT2200」)の所定位置にセットして、測定した。測定条件は、下記のとおりである。
測定条件:
電圧/電流 40kV/20mA
スキャンスピード 4°/min
発散スリット 1°
散乱スリット 1°
受光スリット 0.3mm
尚、測定して得られたデータは必要に応じて、平滑化、BG(バックグランド)除去、Kα2除去等の加工を行うが、その際は、測定対象試料、参照用試料ともに同様の処理を行う。本実施例、比較例では平滑化、BG除去、Kα2除去の処理を行った。
【0062】
得られた測定対象試料のXRDパターンにおいて、トバモライト結晶の面指数(hkl)の(002)、(004)、(220)、(408)及び(620)回折を示す5つのピークトップの強度(It−1〜5)(単位:cps)、半価幅(Wh−1〜5)(単位:°)を乗じて総和Σ(It×Wh)を求めた。参照用試料のXRDパターンにおいて、(002)、(004)、(220)、(408)及び(620)回折を示すピークトップ強度(It0−1〜5)(単位:cps)、半価幅(Wh0−1〜5)(単位:°)を乗じて総和Σ(It0×Wh0)を求めた。
【0063】
(2)細孔容積の総和(Vpa、Vpa’、Vp1、Vp2、Vp3)
水銀ポロシメーターとして、Micromeritics社製の商品名「AutoPore IV 9500」を用いた。また、水銀ポロシメーター用の試料は、珪酸カルシウム板を粉砕して5mm程度とし、105℃−24hr以上乾燥したものとした。水銀ポロシメーターによる細孔径分布の測定条件は、下記のとおりである。
【0064】
測定条件:
細孔径範囲:5.5nm〜360μm
測定圧力:125測定点(表2に示す)
計算条件:
水銀と試料の接触角:130度
水銀の表面張力:485dyn/cm
【0065】
表3に測定結果から計算した細孔径とlog微分細孔容積を示す。
Vpa’は、表3のlog微分細孔容積の総和を示す。
Vp1は、細孔径5μm以下のlog微分細孔容積の総和、Vp2は、細孔径200nm以上1.0μm以下のlog微分細孔容積の総和、Vp3は、細孔径200μm以下のlog微分細孔容積の総和を示す。
【0066】
【表2】
【0067】
【表3】
【0068】
(3)密度(かさ密度)
密度は、JISA5430(2008)の10.5.1に準拠して測定した。
【0069】
(4)吸水寸法変化率
吸水寸法変化率は、JISA5430(2008)の10.7に準拠して測定した。
【0070】
(5)曲げ強度
曲げ強度(曲げ破壊荷重)は、JISA5430(2008)の10.3.2に準拠して測定した。MDに対して垂直に曲げる場合の曲げ強度と、TDに対して垂直に曲げる場合の曲げ強度を測定した。
【0071】
(6)層間剥離強度
50mm×50mm×6mm(厚み)サイズの珪酸カルシウム板表面に常温硬化2液エポキシ系接着剤(コニシ(株)製、商品名ボンドクィックセット)を薄く均一に塗布し、
図3に示す鉄製の取手部にピンのさせる穴を有した鍋蓋状治具に所用硬化時間以上養生し接着した。
図3に鍋蓋状治具を示す。治具本体は、50mm×50mm×9mm(厚み)であり、取手部は25mm(幅)×34mm(高さ)×6mm(厚み)であり、穴は直径10mmであった。取手部は治具本体の中央に治具本体表面から垂直方向に取り付けられ、穴の中心は、取手部の横(幅)方向の中央で、治具本体表面から垂直方向に20mmの高さにあった。裏面も同様の処理を行い、表裏同様の治具を接着固定したものを試験体(
図4参照)とし、万能試験機(島津製作所製、オートグラフAG100)に試験体上下の治具をピンで固定し、2mm/minの速度で引張り試験を行い、破壊荷重を予めノギスを用いて採寸した寸法を用いて算出した面積で割ることで算出した。
【0072】
【表4】
【0073】
評価例2
実施例1〜6、比較例3(特許文献2の実施例1に相当),比較例4(特許文献5の実施例1に相当)で得られた珪酸カルシウム板の密度と層間剥離強度を
図1に示す。
さらに、特許文献1,3,4に記載のこれら実施例で得られた珪酸カルシウム板の密度と層間剥離強度も合わせて
図1に示す。
図1から、珪酸カルシウム板は一般に密度が低下すると強度も低下するが、実施例の珪酸カルシウム板は、従来の珪酸カルシウム板と同じ密度のとき、従来の珪酸カルシウム板より高い強度を有することが分かる。
から、珪酸カルシウム板は一般に密度が低下すると強度も低下するが、実施例の珪酸カルシウム板は、従来の珪酸カルシウム板と同じ密度のとき、従来の珪酸カルシウム板より高い強度を有することが分かる。