【解決手段】平均円形度が0.85〜1.0、かつAlを1000ppm〜10質量%含む球状非晶質シリカ粒子であって、該球状非晶質シリカ粒子表層部にAlが濃化され、等電点がpH1.0〜2.0の範囲である球状非晶質シリカ粒子を提供する。また、それを樹脂と混合した樹脂組成物を提供する。
平均円形度が0.85〜1.0、かつAlを1000ppm〜10質量%含む球状非晶質シリカ粒子であって、該球状非晶質シリカ粒子表層部にAlが濃化され、前記球状非晶質シリカ粒子20質量%を0.01MのKCl水溶液と混合して測定される等電点がpH1.0〜2.0の範囲であることを特徴とする球状非晶質シリカ粒子。
球状非晶質シリカ粒子の表面から1μm深さまでの表層部におけるAl量が5〜50質量%である粒子を50〜100質量%含有することを特徴とする請求項1記載の球状非晶質シリカ粒子。
粒径15μm〜70μmの範囲に粒度分布の極大値をもつ球状非晶質シリカ粒子と、粒径2μm〜10μmの範囲に粒度分布の極大値をもつ球状非晶質シリカ粒子からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の球状非晶質シリカ粒子。
シリカ粒子を火炎中で溶融させて請求項1〜5のいずれか1項に記載の球状非晶質シリカ粒子を製造する方法において、シリカ粒子にAl化合物をAl換算で1000ppm〜10質量%添加して溶融させ、これを急冷することを特徴とする球状非晶質シリカ粒子の製造方法。
【背景技術】
【0002】
半導体パッケージに用いられる封止材には、高熱伝導化、高強度化を目的にシリカ粒子をフィラーとして充填した樹脂組成物が用いられているが、より高熱伝導率化することを目的としてシリカ粒子を高充填化するために球状のシリカ粒子が多く用いられている。
【0003】
一般的なシリカ粒子の製造方法としては、粉砕したシリカの原料粉末を火炎中で溶融させて球状化する溶射による方法が用いられている。この溶射法では、シリカ原料粉末が火炎中で溶融して液状となり、液化したシリカが表面張力により球形となり、球形を保ったまま冷却されることで球状のシリカ粒子を得ることができる。
【0004】
溶射法による球状シリカでは、製造時にシリカ粒子が溶融する高温を経るために、表面のシラノール基が脱水縮合するため、粒子表面のシラノール基が少ないことが知られている。
【0005】
シリカ粒子と樹脂を混合した樹脂組成物を作製する場合、シリカ粒子と樹脂の結合性を上げて、樹脂組成物の強度を高めるために、シリカ粒子の表面をシランカップリング剤等で表面処理することが一般的である。
しかしながら、溶射法による球状シリカ粒子では、溶融シランカップリング剤との反応部位であるシラノール基が少ないため、樹脂と混合して得られる樹脂組成物の強度が低下する問題があった。
【0006】
これを解決するためには、シラノール基を多く含有するシリカ粒子を得ることが必要であるが、前述したように溶射法ではシラノール基を多く含有するシリカ粒子を得ることが困難であった。
【0007】
シラノール基を多く含む球状シリカ粒子を得る方法としては、特許文献1のようにアルコキシシランの加水分解により得られるシリカゲルを600〜1050℃で1時間以上加熱することによりシラノール基を多く含むシリカ粒子を得る方法が開示されているが、溶射法で用いる粉砕シリカ原料と比べて高価な原料を用いるため、高コストとなる問題があった。
【0008】
特許文献2のように、溶射法による球状シリカ粒子とシランカップリング剤の結合性を上げる方法としては、溶融して球状化したフィラーの冷却過程においてシランカップリング剤で処理する方法などがあるが、冷却過程でカップリング処理するために特別な装置が必要などの問題があった。
【0009】
また、表面にAlを含有する球状シリカ粒子としては、シリカ粒子の表面からAlを拡散させて製造する方法がある。
特許文献3では、結晶質のクリストバライトの表面にAlを含有するものが開示されている。この技術は、非晶質のシリカを結晶化してクリストバライトの粒子を得ることを目的としたものであり、非晶質のシリカの表面にアルミニウム等を含有する有機金属化合物のゾル又はスラリーで表面処理した後、1,000〜1,600℃の温度で加熱処理することにより、未処理の場合と比べて非晶質シリカの結晶化を促進することができるとしている。
非晶質のシリカにAlを含有させるためには、高温での熱処理により表面からAlを拡散させる必要があるが、Alが拡散するような高温で保持した場合、シリカの結晶化が進むため、非晶質の状態を保ったままシリカ粒子の表面にAlを含有させることは困難である。結晶化したシリカにAlが含有される場合、ムライト(3Al
2O
3・2SiO
2)のような結晶質の構造となり、シラノール基が多くなる効果は得られない。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明者らは、球状非晶質シリカ粒子(以下、シリカ粒子という。)の表面にAlを濃化させることにより、シリカ粒子表面のシラノール基の濃度を高めることができることを新たに見出した。
【0023】
シリカ粒子の表面にAlが濃化されると、シラノール基が増える現象は、SiとAlの価数の違いにより起こるものである。SiとAlは、イオン半径が近いことから、シリカ粒子を製造する際にAlを添加すると、SiのサイトにAlが置換するAl同形置換が起こる。4価のSiサイトを3価のAlが置換すると、価数の違いによりSi−O(−)が生成し、シラノール基(Si−OH基)になると考えられる。
【0025】
このため、シリカ粒子の表面にAlを濃化させ、SiをAlで同形置換させることにより、シラノール基を多く含むシリカ粒子を得ることができる。
【0026】
本発明によるシラノール基を多く含む球状のシリカ粒子に含まれるAlの含有量は、1000ppm〜10質量%(ここでは、Alを添加した後のシリカ粒子の質量を基準とする)の範囲である。1000ppm未満ではAlによる置換が十分ではなく、シラノール基の量を多くすることができない。
また、シラノール基の量を多くするためには、5000ppm以上添加することで顕著な効果が得られることから、5000ppm以上のAlを含有することがより望ましい。
一方、10質量%超では、Alの量が多すぎるために、シリカに溶け込まずにAl
2O
3などのAl化合物の粒子の量が多く生成するため、好ましくない。シリカに含まれるAlの含有量は、原子吸光法、ICP質量分析などの方法で測定することができる。
【0027】
また、シリカ粒子表面にAlを濃化させるとは、少なくともシリカ粒子表面から1μmの領域のAl量を5〜50質量%(ここでは、シリカ粒子表面から1μmの領域の質量を基準とする)とすることが必要である。5%未満ではAlによる同形置換の量が十分ではなく、シラノール基の量が少なくシリカ粒子と樹脂との結合が十分でない。
50%より多くなるとシリカ粒子表面のAl量が過剰となり、シリカ粒子表面のSi量が相対的に少なくなるため、シラノール基の量が少なくなり、本発明の効果を得ることができない。
シリカ粒子表面に濃化したAl量の測定には、粒子断面のEPMA分析による定量分析などの方法により測定することが出来る。
【0028】
また、上記の条件を満たすシリカ粒子はシリカ粒子全体の内に50〜100質量%(ここでは、シリカ粒子全体の質量を基準とする)含まれることが必要である。50%未満だとシラノール基の量が少ない粒子の比率が多くなるため、十分な強度の樹脂混合物を得ることができない。
【0029】
シリカ粒子表面のシラノール基の量を評価する方法としては、水中でのゼータ電位を測定する方法が簡便かつ有効である。
【0030】
水中の粒子の表面電位については、現状では粒子表面の電位を直接測定する方法はないため、粒子表面に水中で形成される電気二重層のすべり面の電位であるゼータ電位を測定するのが一般的である。
【0031】
ゼータ電位は、表面の電荷の状態に応じて変化することから、本発明では、表面のシラノール基の量および電離状態により、ゼータ電位が大きく変化することに着目した。
【0032】
本発明による球状シリカ粒子は、表面に活性なシラノール基を多く含むため、水に混合した場合、表面に多く含まれるシラノール基(Si−OH基)がSi−O(−)に電離する。
このため、通常のシリカに比べSi−O(−)が多く存在し、粒子の表面は(−)に帯電しているため、水中での表面電荷であるゼータ電位が通常のシリカ粒子に比べて、低pH側にシフトする。
【0033】
例えば0.01MのKCl水溶液にシリカ粒子を20質量%(ここでは、KCl水溶液の質量を基準とする)混合した場合、
図1の右側に示されるように、通常のシリカ粒子ではpH4.6前後になるのに対して、本発明のシリカ粒子はSi−OH基が多いためpHは4.1〜4.2前後となる。
この溶液をpH4に調整した場合、通常のシリカ粒子ではゼータ電位は−16mVであるのに対し、本発明のシリカ粒子では−40〜−60mVと負に大きく荷電する。
また、ゼータ電位が0となる等電点は、通常のシリカ粒子がpH2.6程度であるのに対し、本発明によるシリカ粒子はpH1.7〜1.8と酸性側にシフトする。
【0034】
このようなゼータ電位の相違は、シリカ粒子表面の活性なシラノール基の多寡に起因するものであり、本発明のシリカ粒子は表面に活性なシラノール基が多く存在するため、これが水中で容易にSi−O(−)に電離し、負に大きく帯電する。これを中和するためにH(+)が必要となるため、等電点が低pHとなる。
以上のように、シリカ粒子表面のシラノール基の量は水中での等電点を測定することにより測定することができる。
本発明のシリカ粒子20質量%を水と混合して測定した等電点は、pH1.0〜2.0の範囲が好ましい。
【0035】
等電点がpH2.0より大きい場合は、本発明が目的とするシラノール基の量が十分に多くないことを示すものであるため望ましくない。
等電点がpH1.0より小さくなる場合は、比表面積が極端に大きく、表面のシラノール基の量が多くなる場合に起こりうる。しかしながら、本発明が目的とする樹脂と混合して用いるフィラーとして有用なシリカ粒子は、平均粒径が1μm〜数十μmの粒子であり、これらの粒子の比表面積から表面に存在し得るシラノール基の量を考慮すると、等電点はpH1.0より小さくならない。
また、等電点のpH低い場合に、すなわちシリカ粒子の表面に活性なシラノール基が多く存在する場合に、高強度の樹脂組成物が得られることから、等電点はpH1.7以下であることがより望ましい。
【0036】
等電位点の測定は、シリカ粒子を高濃度で含んだ状態の方が、表面の状態を明確に判断することができる。このため、高濃度スラリーのゼータ電位の測定が可能な超音波スペクトロスコピーを利用したゼータ電位測定方法を用いて評価する。例えばDispersion Technology社製超音波式粒度分布・ゼータ電位測定装置DT−1200を用いることにより評価することが可能である。
【0037】
29Si−固体NMRによるスペクトル解析を行うことにより、更にAlを含有するシリカの結合状態を詳細に調べることが可能である。固体NMRによりシリカの化学構造を定量的に解析するには、DD−MAS(Dipolar Decoupling−Magic Angle Spinning)の手法を用いるのが有効である。
シリカは、主にケイ素が酸素を介してケイ素と結合した、Si−O−Si結合で形成されているが、前述したようにAlを含有するシリカは、酸素を介して水素と結合したシラノール基を多く含む。シリカの結合状態は、
図2に示すように、Si−O−Si結合とSi−O−H結合(シラノール基)の数によって、Q2、Q3、Q4と表すことができる。Q2は、2個のSi−O−Si結合と2個のSi−O−H結合を有する状態であり、Q3は3個のSi−O−Si結合と1個のSi−O−H結合、Q4は4個の結合が全てSi−O−Si結合の状態を示す。別の言い方をすると、Q2は、Siが水酸基(−OH)を2個有する状態であり、Q3は、Siが水酸基(−OH)を1個有する状態であり、Q4は、Siが水酸基(−OH)を有さない状態に相当する。
DD−MAS法を用いた
29Si−固体NMRのスペクトルは、このQ2〜Q4の結合状態の違いにより、ピークシフトが起こり、得られたNMRスペクトルをピーク分離することにより、Q2〜Q4の結合状態を定量的に解析することができる。
Q4の結合状態のSiは−120〜−105ppm、Q3の結合状態のSiは−105〜−95ppm、Q2の結合状態のSiは−95〜−85ppmの範囲にピークの最大値を示す。得られたNMRスペクトルのこれらのピーク位置を基準にピーク分離し、それぞれの分離ピークの面積比がそれぞれの結合状態のSiの存在比と見なすことができる。
本発明によるシリカ粒子は、Q2ピークが3〜20%、シラノール基を1個有するSiを示すQ3ピークが10〜30%、シラノール基を有さないSiを示すQ4ピークが50%〜87%の割合で存在する。Q2ピークおよびQ3ピークがこれらの範囲より少ない場合、シラノール基の量が少ないため、望ましくない。また、Q2ピークおよびQ3ピークがこれらの範囲より多いシリカ粒子を得ることは困難である。
このようにDD−MAS法を用いた
29Si−固体NMR測定により、本発明によるシリカ粒子のシラノール基の量を結合状態から定量的に把握することが可能である。
【0038】
また、本発明のシリカ粒子の円形度は、平均円形度が0.85〜1.0の範囲が好ましい。
ここで言う、シリカ粒子の円形度とは、面積相当円の周囲長 ÷ 実際の周囲長で得られる値である。
平均円形度が0.85より小さい場合、シリカ粒子と樹脂との混合物の粘度が上昇し流動性が低下するという問題、粒子の充填率が下がるという問題が生じるため好ましくない。
また、平均円形度が1.0で真球となるので、この値を超えることはないため、平均円形度は1.0以下の値となる。
また、円形度は、シスメックス製FPIA2100などの円形度測定装置で測定する方法で測定することができる。また、SEMで粒子を撮影した画像を用いて、画像処理ソフト等で「面積相当円の周囲長」および「実際の粒子の周囲長」を測定し、円形度を計算する等の方法でも測定することが可能である。
【0039】
樹脂へ混合するシリカ粒子の充填率を、単一粒径の粒子の最密充填密度(74体積%)以上に高めるには大きな粒径のシリカ粒子の間隙に小さい粒径のシリカ粒子を入り込ませる必要がある。
そこで大きな粒径のシリカ粒子としては、粒径15μm〜70μmの範囲に粒度分布の極大値をもつシリカ粒子を含有することが望ましい。粒径15μm未満に粒度分布の極大値をもつシリカ粒子は、粒径が小さすぎるために樹脂と混合したときに粒子同士の接触が多くなり、樹脂組成物の流動性を低下させてしまう。また、粒径70μm超に粒度分布の極大値をもつ球状シリカ粒子を含む樹脂組成物を、半導体封止材などに用いた場合、狭小部に樹脂組成物が侵入しにくくなる。
【0040】
本発明の小さい粒径のシリカ粒子としては、粒径が2μm〜10μmに粒度分布の極大値をもつシリカ粒子を含有することが望ましい。粒径2μm未満に粒度分布の極大値をもつシリカ粒子は、粒径が小さすぎるために、充填率を上げるために添加する粒子の個数を多くする必要がある。粒子の個数を過剰に多くすると、粒子同士の接触が起こりやすくなるので、樹脂と混合した際に樹脂組成物の流動性を低下させてしまう。
【0041】
粒径2μm〜10μmの範囲に粒度分布の極大値をもつシリカ粒子が、粒径15μm〜70μmの範囲粒度分布の極大値をもつシリカ粒子の間隙に位置することにより、充填率を上げることが可能となる。しかし、粒径10μm超に粒度分布の極大値をもつシリカ粒子は、粒径15μm〜70μmのシリカ粒子同士の間隙に対して粒径が大きすぎるため、間隙に位置したときに他の粒子と接触してしまい、高充填としたときに樹脂組成物の流動性低下の原因となる。
【0042】
また、上記の粒度分布をもつシリカ粒子に500nm超〜1μmの範囲に極大値をもつ超微粒子をさらに添加することが望ましい。粒径500nm超〜1μmの範囲に粒度分布の極大値をもつシリカ超微粒子は、樹脂に添加されると樹脂と一体化して流動する。特に樹脂中に均一に混合されているシリカ超微粒子は、樹脂と一体化して流動するため、このようなシリカ超微粒子を用いれば、樹脂組成物の流動性を損なうことなく、シリカ粒子の樹脂への充填率を上げることが可能である。粒度分布の極大値が500nm以下のシリカ超微粒子は凝集しやすく、樹脂中に均一に分散して混合することが困難となるため、流動性を低下させてしまう。また、粒度分布の極大値が1μmより大きいシリカ粒子は、樹脂と一体化しないため、高流動性の樹脂組成物を得ることができない。
【0043】
本発明のシリカ粒子は、溶射法で球状の非晶質シリカを製造する際にシリカ原料にAl含有成分を添加、混合し、これを溶射して急冷する方法で製造できる。Al含有成分としては、アルミナ、水酸化アルミニウム、硝酸アルミニウムなどがあるが、Alを含有し溶射時にシリカ粒子に取り込まれる成分であれば、特に限定されるものではない。
Al含有成分は、粉末、水溶液、有機溶媒溶液の状態でシリカと混合し、これを溶射することで本発明のシリカ粒子を得ることができる。
Al含有成分として粉末を用いる場合、効率良くシリカ粒子表面にAlを濃化させるためには、シリカ粒子の中心粒径の1/10以下の粒径の粒子を用いることが望ましい。例えばアルミナをAl含有成分として用いる場合、平均粒径が10nm〜3μmのものを用いることが望ましい。
また、シリカ粒子に微細なアルミナ粒子を混合させる方法として、原料のシリカを粉砕する段階で、ボールミル粉砕でのボールのような粉砕メディアに、アルミナを用いてアルミナの摩耗粉を発生させて、アルミナを添加する方法を用いることも可能である。
【0044】
Al含有成分を添加したシリカ原料は、2000℃以上の温度で溶射することにより、本発明のシリカ粒子を得ることができる。溶射は、プロパンガス等の燃料ガスと酸素ガスを用いた高温の火炎中にシリカ原料を供給して行う。この場合、燃料ガスと酸素ガスの比率等を変えることにより火炎の温度を変えることが可能である。
2000℃以下の温度では、シリカ原料が均一に溶融せず、原料の形態のままの粒子が残ったり、溶融してもシリカの粘度が高いため、球状の粒子を得ることができない。
また、本発明のシリカ粒子のように平均円形度が0.85〜1.0と高い円形度を有する球状シリカ粒子を得るためには、2200℃以上の温度で溶射することが更に望ましい。2200℃以上の温度で溶射することにより、溶融したシリカの粘度が低下し、球形になりやすくなる。また、アルミナのような高融点のAl含有成分を添加した場合、アルミナの融点である2054℃より高温で溶射することにより、シリカの表面にAlが濃化する際に均一に分布し、SiをAlで同形置換しやくすることができる。
また、溶射温度が高温になり過ぎるとシリカがSiOなどの形で蒸発しやすくなり、フュームと呼ばれるサブミクロンのシリカ微粒子が多くなり、樹脂と混合した際の粘度を上げて樹脂との混合物の流動性を大きく低下させる原因となるため、溶射温度は2800℃以下で行うことが望ましい。
【0045】
また、溶射により製造する場合、溶融段階でAl成分を添加しても冷却速度が遅い場合、シリカが結晶化した粒子しか得られず、3Al
2O
3・2SiO
2で表されるムライトのように4価のSiと3価のAlが電気的なバランスを持った結晶を形成してしまうため、SiのサイトにAlが置換するAl同形置換が起きにくく、シラノール基の濃度を高める効果を得ることができない。
実際に溶射法により製造する場合、火炎中で溶融したシリカは、火炎の外に出ることで冷却が始まるが、火炎から出たシリカを気流搬送してサイクロンやバグフィルター等の捕集装置で回収することで、気流搬送する過程で急冷されるため、非晶質のシリカ粒子を得ることができる。
また、溶射法を用いずに、シリカ粒子の表面からAlを拡散させて含有させる場合(特許文献3参照)、Alの拡散と同時にシリカの結晶化が進むため、シラノール基の濃度を高める効果を得ることができない。
【0046】
本発明のシリカ粒子は、フィラーとして樹脂と混合して樹脂組成物に使用することができる。樹脂組成物を封止材として用いる場合、樹脂はo'−クレゾールノボラック樹脂、ビフェニル樹脂などを用いることができるが、樹脂の種類は特にこれらに限定されるものではない。
本発明のシリカ粒子の、樹脂組成物における添加量は、50質量%〜95質量%(ここでは、シリカ粒子と樹脂の合計質量、すなわち樹脂組成物の質量、を基準とする)であることが好ましい。シリカ粒子の添加量が50質量%より少ない樹脂組成物は、例えば封止材として使用する際、熱伝導性、強度、熱膨張率等の、フィラーとしてのシリカ粒子に求められる特性が十分に得られない。一方、シリカ粒子の添加量が95質量%より多くなると、シリカ粒子同士が接触してしまうために、著しく流動性が低下してしまう。
【0047】
以上述べたように、本発明のシリカ粒子は、シラノール基を多く含む非晶質の球状シリカ粒子であり、本発明のシリカ粒子を樹脂と混合することにより、高強度の樹脂混合物を得ることが可能となる。
【実施例】
【0048】
以下に、本発明の実施例および比較例を示す。
【0049】
(実施例1)
平均粒径20μmの破砕状シリカ粒子に粒径0.3μmのアルミナ粉末をAl換算で表1に示す添加量となるように混合し、酸素とプロパンガスを燃焼させた火炎中投入し、球状シリカ粒子を得た。
得られたシリカ粒子は、X線回折による分析の結果、いずれのサンプルもSiO
2結晶の回折ピークは検出されず、非晶質であることが確認された。
シリカ粒子中のAl含有量は、得られたシリカ粒子にフッ化水素酸と過塩素酸を加えて加熱し、蒸発乾固したものを塩酸溶解した後、原子吸光法により測定した。
表面から1μm領域のAl量は、得られたシリカ粒子を樹脂と混合して固化したものを研磨し、表面にカーボン蒸着膜を形成したものをEPMAによりAlの元素濃度をマッピング分析し、シリカ粒子の表面から1μm領域のAl量の濃度範囲を測定した。なお、この測定では、所定の演算を行い、混合した樹脂分は差し引いている。
円形度は、得られたシリカフィラーを蒸留水中で超音波照射により分散させたものをシスメックス製FPIA2100により測定した。
等電点は、0.01MのKCl水溶液を基準として、シリカ粒子を20質量%を該水溶液に加えて、混合し、超音波を掛けて均一に分散させた後、Dispersion Technology社製超音波式粒度分布・ゼータ電位測定装置DT−1200を用いて測定した。
シリカ粒子のAl含有量は、シリカ原料に不純物Alを含むため、添加したAl
2O
3に含まれるAl量よりおよそ100〜200ppm高い値となり、シリカ表面から1μm以内のAl量は5〜50質量%である粒子の割合は50〜100%であった。また、円形度は0.88〜0.91であった。
本発明の実施例であるNo.1〜6のシリカ粒子の等電点は1.6〜1.9の範囲であったが、比較例であるNo.7、8の等電位点はpH2.1以上と本発明の範囲外であった。
【0050】
【表1】
【0051】
また、実施例1によるサンプルをDD−MAS法を用いた
29Si−固体NMRによりスペクトルを測定し、Q2、Q3、Q4ピークにピーク分離し、それぞれのピーク面積をQ2、Q3、Q4結合の含有比率として求めた結果を表2に示す。
本発明によるシリカ粒子は、Q2結合を5%以上、Q3結合を20%以上含み、多くのシラノール基を有することが確認された。
【0052】
【表2】
【0053】
(実施例2)
実施例1の粒子を作製する際に、溶射後にサイクロンで回収した粒子(粒子A)、バグフィルタで回収した粒子(粒子B)に分けて回収し、粒度分布の極大値が25〜40μmと粒径が大きい粒子A、および粒度分布の極大値が5〜9μmと粒径が小さい粒子Bを得た。
得られた粒子Aと粒子B、および市販の粒度分布の極大値が0.8μmである球状シリカ粒子(粒子C)を表3に示す配合で混合し、この混合粒子をシランカップリング剤による表面処理をした後、クレゾールノボラック樹脂と粒子充填率が85質量%(ここでは、樹脂および混合粒子の合計質量、すなわち得られる樹脂組成物の質量、を基準とした)になるように加えて、ロール混合機を用いて100℃で5分間混合し、樹脂組成物を作製した。なお、粒子Aあるいは粒子Bだけを用いて、それぞれ粒子充填率が78質量%、75質量%で樹脂組成物を作製した。得られた樹脂組成物を70×10×3mmの試験片に175℃でトランスファー成形し、曲げ強度を測定した。なお、表3に示すサンプルNo.は実施例1のサンプルNo.と同じAl2O3添加量で作製したことを示す。
樹脂組成物の強度は、本発明によるシリカ粒子(サンプルNo.1〜6)を用いた樹脂組成物が141〜168MPaと高強度を示したのに対し、本発明の範囲外のものでは133MPa以下と低強度であった。
また、同じサンプルNo.3を用いて粒子Cを添加したものと無添加のものを比較すると、粒子Cを添加したものの方が高強度であった。
また、粒子Aまたは粒子Bだけを樹脂と混合したものは、粒子Aと粒子Bを混合したものに比べて低強度であった。
【0054】
【表3】
【0055】
(実施例3)
実施例2のサンプルNo.3の粒子を用いて粒子充填率の異なる樹脂組成物を実施例2と同様の方法で作製、曲げ強度の測定を実施した。
その結果、表4に示すように本発明の範囲内である粒子充填率の樹脂組成物は、いずれも114MPa以上の強度を示したのに対して、本発明の範囲外である比較例3では108MPaと低強度であった。また、比較例4は、粒子(充填率)が多すぎるため、曲げ試験を成形する際、型の中に樹脂組成物が充填されず、試験片を作製することができなかった。
【0056】
【表4】