特開2015-80449(P2015-80449A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-80449(P2015-80449A)
(43)【公開日】2015年4月27日
(54)【発明の名称】生ウニ様食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 1/328 20060101AFI20150331BHJP
   A23L 1/325 20060101ALI20150331BHJP
【FI】
   A23L1/328 Z
   A23L1/325 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-220306(P2013-220306)
(22)【出願日】2013年10月23日
(71)【出願人】
【識別番号】000236768
【氏名又は名称】不二製油株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中野 達朗
(72)【発明者】
【氏名】工藤 透
【テーマコード(参考)】
4B042
【Fターム(参考)】
4B042AC05
4B042AD36
4B042AD37
4B042AG53
4B042AG59
4B042AH09
4B042AK10
4B042AK13
(57)【要約】      (修正有)
【課題】生ウニを原材料として使用することなく、生ウニ特有の口当たり、口溶け感、ジューシー感を有し、生ウニに近似した風味、外観を有する生ウニ様食品の製造方法の提供。
【解決手段】帆立貝の卵巣、蛋白質含有素材、油脂、水及び調味剤を含有する原材料を混合して調製した生地を、蒸しなどの加熱処理を行うことにより生ウニ様食品を得る。特に、特定のゲル化能を有する蛋白質含有素材及び油脂を原材料として混合することにより、生ウニに近似した風味、外観を有する生ウニ様食品を得ることができる。該油脂は(A)パーム中融点部1〜7重量%と(B)油脂の固体脂含量(SFC)が10℃で5〜20%、20℃で3〜15%、30℃で10%以下の油脂組成物5〜30重量%とからなる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】

帆立貝の卵巣、蛋白質含有素材、油脂、水及び調味剤を含有する原材料を混合してなる生ウニ様食品の製造方法。
【請求項2】

帆立貝の卵巣の含有量が20〜70重量%である、請求項1記載の生ウニ様食品の製造方法。
【請求項3】

蛋白質含有素材が分離大豆蛋白である、請求項1または請求項2記載の生ウニ様食品の製造方法。
【請求項4】

分離大豆蛋白の含有量が1〜7重量%である、請求項3記載の生ウニ様食品の製造方法。
【請求項5】

油脂が下記A及びBの油脂を含む、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の生ウニ様食品の製造方法。A:パーム中融点部、B:油脂のSFC(固体脂含量)が10℃で5〜20%、20℃で3〜15%、30℃で10%以下である練り込み用油脂組成物。
【請求項6】

パーム中融点部の含有量が1〜7重量%であり、練り込み用油脂組成物の含有量が5〜30重量%である、請求項5記載の生ウニ様食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】

本発明は、生ウニに近似した風味、食感及び外観を有する生ウニ様食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】

刺し身、寿司種などの生鮮食品として、あるいは練りウニなどの加工食品として、古くから美味な食品として珍重されている食用のウニは、バフンウニ、アカウニ、ムラサキウニなどのウニ類の卵巣である。

ウニに対する需要は嗜好の高まりとともに増加している一方で、ウニ類の生息に適した海域が減少しており、ウニの供給量の不足に伴い、ウニは希少価値の高い高価な食品となっている。そのため、ウニに対する需要への対応策として、ウニに対して増量材を添加したものや原料として全くウニを使用せずにウニ様の風味、食感を付与したウニ様食品が提案されている。
【0003】

特許文献1は、塩蔵すけそうたら卵製造に当たって生ずる切れ子、卵粒を63〜65%程度に脱水して擂潰し、これに7〜8%のマーガリン又はショートニングオイルと5%内外のアルコール及び適当の調味料、適当の色素を加えて混練する、ねりウニ類似品の製造法である。本方法によるねりウニ類似品は練りウニに関するもので、刺し身や寿司種などの生食用生ウニ代替品としては満足できるものではなかった。
【0004】

特許文献2は、10メッシュより細かい粒度の粒状植物性蛋白を調味付けし、これに食用油脂と、予め同量乃至3倍量の水で水のばしした魚肉すり身とを加えて練合した後、蒸煮するウニ様食品の製造法に関する。本方法のウニ様食品は、ウニ特有の口当たり、口溶け感、ジューシー感について、さらに改良の余地のあるものであった。
【0005】

特許文献3は、帆立貝等の貝類の生殖巣を加熱処理して冷却した後、ソルビット液、還元糖、調味料及びウニ風着香料を加えて混練して製造するウニ風加工食品の製造方法である。本方法のウニ風加工食品は風味、外観は生ウニ風であるが、ウニ特有の口当たり、口溶け感、ジューシー感について、満足し得るものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】

【特許文献1】特開昭52−87261号公報
【特許文献2】特公昭56−43330号公報
【特許文献3】特開昭62−19070号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】

本発明の目的は、生ウニを原材料として使用することなく、生ウニ特有の口当たり、口溶け感、ジューシー感を有し、生ウニに近似した風味、外観を有する生ウニ様食品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】

本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、未利用資源である帆立貝の卵巣にゲル化能のある蛋白質含有素材、可塑性のある油脂、水及び調味剤を混合することにより、生ウニに近似した風味、外観を有する生ウニ様食品の製造が可能であることを見い出し、本発明を完成させた。
【0009】

即ち、本発明の第1は、帆立貝の卵巣、蛋白質含有素材、油脂、水及び調味剤を含有する原材料を混合してなる生ウニ様食品の製造方法である。

第2は、帆立貝の卵巣の含有量が20〜70重量%である、第1記載の生ウニ様食品の製造方法である。

第3は、蛋白質含有素材が分離大豆蛋白である、第1または第2記載の生ウニ様食品の製造方法である。

第4は、分離大豆蛋白の含有量が1〜7重量%である、第3記載の生ウニ様食品の製造方法である。

第5は、油脂が下記A及びBの油脂を含む、第1〜第4のいずれか1に記載の生ウニ様食品の製造方法である。A:パーム中融点部、B:油脂のSFC(固体脂含量)が10℃で5〜20%、20℃で3〜15%、30℃で10%以下である練り込み用油脂組成物。

第6は、パーム中融点部の含有量が1〜7重量%であり、練り込み用油脂組成物の含有量が5〜30重量%である、第5記載の生ウニ様食品の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】

本発明により、生ウニを原材料として使用することなく、生ウニ特有の口当たり、口溶け感、ジューシー感を有し、生ウニに近似した風味、外観を有する生ウニ様食品の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】

(帆立貝の卵巣)

本発明の帆立貝の卵巣は、帆立貝産地で生きているかあるいはそれに近い状態の高鮮度のものを刺し身で食したり、煮付けで食する程度に利用されており、大半は廃棄されている。本発明は、帆立貝の卵巣を生ウニ様食品の原材料の一部として利用するものであり、帆立貝卵巣の高度利用に寄与するものである。本発明の帆立貝の卵巣は、未加熱の生の状態でも加熱処理したものであってもよいが、生の状態のものの方がざらつきのない滑らかな口当たりとなる傾向がある。本発明における帆立貝の卵巣の含有量は20〜70重量%であるのが好ましく、さらに好ましくは30〜60重量%である。該含有量が下限未満では生ウニ様のソフトな口当たりが得られず、やや硬い食感になるため好ましくない。逆に、上限を超えると食感がソフトになりすぎて生ウニ様の適度な保形性が得られず、帆立貝の風味がやや強く出すぎる問題がある。
【0012】

(蛋白質含有素材)

本発明の蛋白質含有素材とは、加水後にゲル化能を有する蛋白質含有素材である。ゲル化能を有する蛋白質含有素材としては、濃縮大豆蛋白、分離大豆蛋白、濃縮小麦蛋白、小麦グルテン、卵白、カゼインが例示できる。本発明においては、使い勝手の良さと少量で十分なゲル化能が得られることから、分離大豆蛋白の利用が好ましい。

本発明における分離大豆蛋白の含有量は、1〜7重量%であるのが好ましく、さらに好ましくは2〜6重量%である。分離大豆蛋白の配合量が下限未満であると、ゲル化力の低下や油分や水分の分離防止効果が低下するため好ましくない。逆に、上限を超えるとゲル食感が強くなり、硬くなりすぎるため好ましくない。
【0013】

(油脂)

本発明に用いる油脂としては、大豆油,菜種油,ヒマワリ油,紅花油,コーン油,パーム油,パーム核油,ヤシ油等の植物性油脂、乳脂,豚脂,牛脂,鯨油等の動物脂、これらの分別油やエステル交換油等がから選択される油脂の1種以上が使用できる。特に、本発明の生ウニ様食品にジューシーな食感を付与するために、融点が25〜35℃の比較的口溶けの良い固形状油脂を含有するのが好ましく、さらに体温付近で急激に融解するような固形状油脂を含有するのが好ましい。ジューシーな食感を付与する油脂として、融点25〜33℃のパーム中融点部を含有するのが最も好ましい。また、本発明においては、とろ味感付与のため、油脂のSFC(固体脂含量)が10℃で5〜20%、20℃で3〜15%、30℃で10%以下である練り込み用油脂組成物を含有するのが好ましく、該練り込み用油脂組成物はさらに不活性ガスを5〜20容量%含有するものであってもよい。かかる練り込み用油脂組成物として、特願2013−75483号に開示する油脂組成物が例示できる。 本発明におけるパーム中融点部の含有量は1〜7重量%であるのが好ましく、さらに好ましくは2〜6重量%である。また、パーム中融点部と併用する前記練り込み用油脂組成物の含有量は5〜30重量%であるのが好ましく、さらに好ましくは10〜20重量%である。油脂の種類と配合量を上記範囲とすることにより、ジューシー感ととろみ感に優れた生ウニ様食感を得ることができる。
【0014】

(調味剤)

本発明に用いる調味剤とは、本発明の生ウニ様食品に生ウニに近似する風味を付与するために添加するものであり、食塩、酵母エキス、卵黄、しょうゆ、酒、味醂などをそれぞれ適量添加するのが好ましい。
【0015】

(その他の原材料及び添加剤)

本発明においては、生ウニ様食品の外観、香味をより生ウニ様とするために、ウニフレーバー、色素を適宜添加するのが好ましい。また、適度な保存性を付与するために、アルコールやグリシンなどの抗菌剤を添加することもできる。
【0016】

本発明の生ウニ様食品は、例えば、以下の方法で製造することができる。サイレントカッター又はステファンカッター(真空カッター装置)に帆立貝の未加熱の生卵巣20〜70重量部を投入し、高速撹拌モードの撹拌条件で、食塩を0.1〜0.5重量部添加し、塩擦りを行う。次いで、1〜7重量部の蛋白質含有素材及び水を投入し、本擂りを行う。その後、1〜7重量部のチップ状の固形状油脂及び5〜30重量部のペースト状の練り込み用油脂などの油脂を投入し、混合する。最後に、色素、調味剤、ウニフレーバー、増粘剤、アルコールを添加、混合してからレトルト袋に充填し、80〜100℃、5〜15分の加熱処理を行って、生ウニ様食品を得る。加熱処理は、蒸し加熱、熱水浸漬による加熱の方法が例示できる。
【0017】

上記にて得られた生ウニ様食品は、生ウニ特有の口当たり、口溶け感、ジューシー感を有し、生ウニに近似した風味、外観を有するものであり、高級な寿司種である本物の生ウニを代替し得る寿司種やおにぎりやサンドイッチなど各種食品のトッピング材、サンド材として消費者に対し手軽で安価な食品として提供することができる。また、本発明の生ウニ様食品は冷蔵、冷凍保存性にも優れるため、チルドから冷凍食品まで幅広く生ウニ様食品として提供することもできる。
【実施例】
【0018】

以下に実施例を記載し、本発明を説明する。なお、各例の部は全て重量部を意味する。なお、各例における風味、食感は下記にて評価した。

生ウニの食経験のあるパネラー5名により、風味、食感(ジューシー感、繊維感、歯ごたえ)について合議により評価を行った。評価基準は以下の通りであり、それぞれ3点以上を合格とした。

<風味>

5点 生ウニと同等の風味である。

4点 生ウニとほとんど同等の風味である。

3点 生ウニと若干の差異はある風味だが、許容範囲である。

2点 生ウニに近い風味だが、違和感を感じる。

1点 生ウニと相違する風味である。

<食感>

5点 生ウニ焼と同等の食感である。

4点 生ウニとほとんど同等の食感である。

3点 生ウニと若干の差異はある食感だが、許容範囲である。

2点 生ウニに近い食感だが、違和感を感じる。

1点 生ウニと相違する食感である。
【0019】

実施例1

サイレントカッターに0.8%濃度の食塩水で洗浄し水切りした帆立貝の未加熱卵巣50.02重量部を投入し、食塩0.3重量部を添加し、塩擦りを行った。次いで、分離大豆蛋白(商品名:フジプロFR、不二製油株式会社製)3.33重量部及び水16.69重量部を添加し、本擦りを行った。その後、チップ状のパーム中融点部(融点26℃°、商品名:ユニショートMJ、不二製油株式会社製)3.33重量部及びペースト状の練り込み油脂(融点32℃、商品名:トロマスターTMN2、不二製油株式会社製、10℃SFC:12.7%、20℃SFC:5.2%、30℃SFC:0.2%,窒素ガス含有量:13容量%)15.84重量部を混合、撹拌した。最後に、赤色色素0.02重量部を溶解した大豆油0.98重量部、酵母エキス(商品名:ハイマックスGL)0.33重量部、卵黄パウダー(キューピー株式会社製)1.33重量部、グリシン1重量部、しょうゆ0.83重量部、酒粕ペースト(大関酒造株式会社製)3.33重量部、ウニフレーバー0.17重量部、70%アルコール溶液2.50重量部を順次、添加混合した。全ての撹拌、混合作業はいずれも高速モードで実施した。最終的に得られた混合生地を80gレトルト袋に充填、密封し、90℃、10分間の蒸しを行い、冷水にて冷却して生ウニ様食品を得た。

得られた生ウニ様食品は、風味4.5点、食感4.8点で口当たり、ジューシー感、とろみ感、歯ごたえともに生ウニに近似し、外観も生ウニに近似するもので、優れた生ウニ様食品であった。
【0020】

比較例1

実施例1の分離大豆蛋白3.34重量部及び水16.68重量を帆立貝の未加熱卵巣20.02重量部に置き換えて、帆立貝の未加熱卵巣の配合量を合計で70.07重量部として実施例1同様に生ウニ様食品を調製した。調製した生ウニ様食品は、風味4点であったが、食感は2点であり、滑らかな食感であったがまとまりがなく分離しかけていた。また、帆立貝のにおいがやや強いものであった。
【0021】

実施例2

実施例1の帆立貝の未加熱卵巣を、レトルト袋に充填し、90℃、10分の蒸しを行った加熱卵巣に置換して、実施例1同様に生ウニ様食品を調製した。調製した生ウニ様食品は、風味4.2点であったが、食感3.2点であり、ややざらつきのある食感であった。
【産業上の利用可能性】
【0022】

本発明は、未利用資源である帆立貝の卵巣にゲル化能のある蛋白質、可塑性のある油脂、水及び調味剤を混合することにより、生ウニに近似した風味、外観を有する生ウニ様食品の製造方法に関する。