【実施例】
【0029】
(全体構成)
本発明に係る樹脂板のプレス切断装置及びプレス切断方法の実施例を
図1〜6において説明する。まず、本発明に係る樹脂板のプレス切断装置1の全体構成を説明する。
図1に示すように、樹脂板のプレス切断装置1は、固定台2と、固定台2上で固定台2に対して上下動可能な可動台3と、可動台3を上下動させる移動機構4と、を備えている。
【0030】
固定台2には、ヒータ(図示せず)を備えた受け板7と、可動台3を案内するように起設されたガイド軸8とを備えている。受け板7に設けられたヒータは、受け板用の温度調整装置9によって温度調整可能である。
【0031】
受け板7の上面には、プレス切断作業を実施する際に、下敷シート12が敷設される。下敷シート12は、カッティングシートあるいはカッティングマットとも言われており、切断刃14に対して、言わばまな板となるフィルムである。
【0032】
下敷シート12としては、例えば、厚さが0.1mm程度の長尺状PETフィルムが使用される。下敷シート12は、切断作業の際に被加工物である樹脂板13(
図4、
図5参照)の下に敷き、適宜、長手方向に移動させて、切断刃14に対するまな板の役割として使用する。
【0033】
可動台3は、ガイド軸8で案内されて上下方向に移動可能である。可動台3の下面にはヒータ(図示せず)を備えた加熱板15を備え、この加熱板15の下面には刃物取付板16(通常のプレス装置における金型取付板)が設けられている。加熱板15に設けられたヒータは、加熱板用の温度調整装置17によって温度調整可能である。
【0034】
刃物取付板16は、
図2(a)に示すように、矩形の開口18を有している。プレス切断の作業を行う際には、
図2(a)、(b)に示すように、切断刃14は、この開口18内に下方向に向けて挿入され、締結ネジ19によって、押さえ具20と開口内壁21の間で挟持、締結される。
【0035】
移動機構4は、
図1に示すように、可動台3に固設され上方に延びるボールネジ22と、ボールネジ22に螺着されたボールナット24と、サーボモータ25と、サーボモータ25の回転軸26と、タイミングベルト28と、を備えている。
【0036】
ボールナット24はプーリ23を一体に有し、回転軸26はプーリ27を一体に有する。タイミングベルト28は、ボールナット24のプーリ23と回転軸26のプーリ27との間に装架されている。
【0037】
サーボモータ25は、サーボモータ制御装置33によって、その動作(始動、停止、回転方向、回転速度等)が制御されるように構成されている。このような移動機構4によれば、サーボモータ25が回転し、サーボモータ25の回転軸26及びタイミングベルト28等を介してボールナット24が回転すると、その回転方向に応じて、ボールネジ22を上下動させて、可動台3が上下方向に移動する。
【0038】
受け板7及び加熱板15は、それぞれ温度調整装置9及び温度調整装置17によって温度調整され、加熱状態となる。切断される樹脂板13は、受け板7の上に下敷シート12を介して載置される。そして、サーボモータ25を始動させて移動機構4によって可動台3及び刃物取付板16を下降させて、切断刃14によって、樹脂板13をプレス切断する。
【0039】
(本発明の特徴)
以上の構成から成る本発明に係る樹脂板のプレス切断装置及びプレス切断方法の特徴、特に本発明の特徴の一つである樹脂板のプレス切断装置1の切断刃14の構成について、以下、説明する。
【0040】
樹脂板のプレス切断装置1の切断刃14は、例えば超硬合金製とし、その全体構成は、
図3(a)に示すように、樹脂板13の切断幅(切断長さ)に対応した長さLを有し、また、
図3(b)に示すように、厚みTを有する。切断刃14は、その上部は取付け部40となっており、その下部には刃部41が形成されている。
【0041】
刃部41の構成を
図3(c)に示す。刃部41は、刃先42を通る垂直面43に対して外側(
図3(c)の左側)の外側刃面46と、垂直面43に対して内側(
図3(c)の右側)の内側刃面47とを有する。ここで、外側は、切断刃14で樹脂板13を切断する際に、樹脂板13のうち切断されて除去される側とし、内側は、切断刃14で樹脂板13を切断する際に、樹脂板13のうち製品となる側とする。
【0042】
従って、外側刃面46は、プレス切断において切断される樹脂板13のうち切断されて除去される側(外側)の被切り込み側面48(
図5(b)参照)に当接する刃面であり、内側刃面47は、プレス切断において切断される樹脂板13のうち製品となる側(内側)の被切り込み側面49に当接する刃面である。
【0043】
本発明者は、研究開発において、切断刃14の形状、寸法等を鋭意検討した結果、切断刃14の刃部41の断面形状を、
図3(c)に示すような構成とし、その各部寸法を後記するような数値条件とすることで、切断された樹脂板13の製品となる側(内側)の被切り込み側面49が、鏡面のように著しく平滑で均一な面が得られるという知見を得るに至ったのである。
【0044】
図3(c)に示すように、外側刃面46は、刃先42から垂直面43に対してα1の角度で外側斜め上方に直線的に延びるように形成されている。内側刃面47は、内側刃面下部52と内側刃面上部53から連続的に形成されている。
【0045】
内側刃面下部52は、刃先42から垂直面43に対してα2の角度で内側斜め上方に直線的に延びるように形成されている。内側刃面上部53は、内側刃面下部52の上縁54から連続して垂直上方に直線的延びるように形成されている。
【0046】
角度α1と角度α2は等角(例えば、ともに15°)とすることが好ましいが、異なっていても良い。外側刃面46と内側刃面下部52のなす角度(「刃先角」という)αは、α=α1+α2であり、α=25°〜30°とすると、切り込みがよい。
【0047】
さらに、刃先42の中心から内側刃面下部52の上縁54までの水平距離S(刃先42と上縁54の間の水平寸法S)は、20μmとした。
図3(d)に示す刃先42先端の平坦長Wは、刃先42の鋭利性を示す値となるが、1μm以下とした。なお、刃先42先端の平坦長Wは、刃先42の内外方向の水平幅でもある。
【0048】
ところで、切断刃14の外側刃面46及び内側刃面47(内側刃面下部52と内側刃面上部53)は、それぞれ、ダイヤモンドホイール#1500で鏡面仕上げされている。この鏡面仕上げの表面粗さ(面粗度)については、Ra(算術平均粗さ)で0.4以下とする。
【0049】
プレス切断の際は、受け板7のヒータ及び加熱板15のヒータを、それぞれ受け板用の温度調整装置9及び加熱板用の温度調整装置17によって制御し、受け板7及び加熱板15を加熱し、これによって、被加工物である樹脂板13を加熱する。この加熱温度は、樹脂板13の材料によって異なるが、アクリル、ポリカーボネートの場合は、加熱板15は120℃〜180℃であり、受け板7は30℃〜60℃である。
【0050】
受け板7の加熱温度を加熱板15と同じ温度にすると、樹脂板を受け板7に乗せた時点で樹脂板の受け板7に接触している面が過熱膨張して大きな反りが発生してしまうので、受け板7の過熱温度は低くしなければならない。
【0051】
(作用、切断方法等)
本発明に係る樹脂板のプレス切断装置の作用及びプレス切断方法について、説明する。プレス切断の際は、切断刃14を刃物取付板16に取付け、その刃先42が
図6のグラフの折れ線に示すような行程で移動させる。
【0052】
図6のグラフでは、横軸に時間を示し、縦軸に刃先42の高さを示す。従って、グラフの折れ線の勾配は、[刃先42の移動距離]/[移動時間]であり、刃先42の下降又は上昇の際の移動速度を示し、この移動速度は、サーボモータ制御装置33で制御する。
【0053】
具体的な移動行程について、
図4、
図5及び
図6を参照して説明する。
(1)第1の行程(行程1:期間t0−t1)
切断刃14は、作業前の停止時は、その刃先42が、
図4(a)に示すように、切断刃14が上下移動する範囲のおける最上位の高さの第1の位置で停止している。
【0054】
時点t0で、切断刃14の下降を開始させ、
図4(b)に示すように、刃先42が樹脂板13の上面の高さの位置(刃先42が上面に接触(当接)する位置)である第2の位置になる時点t1で、一旦、停止させる。この間の切断刃14の下降速度は、樹脂板のプレス切断装置1における切断刃14の最高移動速度となるようにサーボモータ制御装置33で制御する。
【0055】
(2)第2の行程(行程2:期間t1−t2)
期間t1−t2の間は、切断刃14の移動を停止し、その刃先42を
図4(b)の第2の位置に停止させる。この期間t1−t2の間の停止時間は、0.5〜1秒とする。このような停止時間を設ける理由は、適正温度に加熱された加熱板15の熱が、刃物取付板16を介して切断刃14に熱伝導している。切断刃14の刃先42が樹脂板13の上面に接触する位置で停止することで、樹脂板13を局部的に加熱軟化させる。
【0056】
(3)第3の行程(行程3:期間t2−t3)
期間t2−t3では、行程2において停止していた切断刃14を、第2の位置から緩やかに下降を開始させ、加熱した切断刃14で樹脂板13を加熱しながら切断作業を行う。この行程3における切断刃14の移動速度(下降速度)は、0.05〜0.2mm/秒にする。
【0057】
行程3では、切断刃14を下降させると、
図4(c)に示すように、刃先42が樹脂板13内に切り込みを開始し、さらに
図5(a)に示すように刃先42が内部に進行する。そして、時点t3において、
図5(b)に示すように刃先42が最下位の高さの位置である第3の位置になると切断刃14の下降を、一旦、停止させる。
【0058】
行程3における刃先42の移動距離h(
図5(b)参照)は、樹脂板13の厚みd(
図5(b)参照)より大きくする。具体的には、第3の位置において、内側刃面下部52の上縁54が、少なくとも樹脂板13の下面より下方となる位置になるまで移動距離hをとるようにすることが好ましい。
【0059】
その理由は、樹脂板13の樹脂板の製品側の側面49の上下方向にわたって全面を、内側刃面上部53で押圧するようにすることで、後記するが、側面49の前面を鏡面状に均一な平滑面とすることが可能となる。
【0060】
また、刃先42は、第3の位置の高さでは、
図5(b)に示すように、切断される樹脂板13の下面から下方に突き抜けて、下敷シート12内に確実に達する。刃先42は、PETフィルムから成る下敷シート12内において停止するので、受け板7に衝突して、刃先42及び受け板7が損傷するようなことはない。
【0061】
(4)第4の行程(行程4:期間t3−t4)
期間t3−t4の間では、切断刃14を停止させて、
図5(b)に示すよう刃先42が第3の位置にある停止状態に維持する。この期間t3−t4の間の停止時間は、0.2〜0.5秒とする。
【0062】
このような停止時間を設ける理由は、刃先42が
図5(b)に示すように樹脂板13の下面から下方に突き抜けた状態を確実にすることと、次の行程5における切断刃14の上昇動作への切替時間が必要なためである。
【0063】
(5)第5の行程(行程5:期間t4−t5)
時点t4で、切断刃14の上昇を開始させ、その刃先42が第3の位置から上昇し、刃先42が第1の位置(
図4(a)参照)に達する時点t5で、切断刃14の上昇を停止させる。この間の切断刃14の上昇速度は、行程1と同様に、樹脂板のプレス切断装置1の切断刃14の最高移動速度である。時点t5で、切断刃14による切断作業は完了する。
【0064】
次に、樹脂板のプレス切断装置1の切断刃14が、樹脂板13を切断する際の作用機序を説明する。
図4(b)に示すように、切断刃14の刃先42が樹脂板13の上面に接触する位置となってから、
図4(c)に示すように、刃先42が樹脂板13の内部に切り込む際には、外側刃面46と内側刃面下部52が鋭角(25°〜30°)に形成されているので、樹脂板13の上面から内部の垂直下方に向けてスムースに切り込むことができる。
【0065】
このような
図4(c)に示すような切り込みの過程では、内側刃面47については、内側刃面下部52が樹脂板13の製品側の被切り込み側面49に当接し、外側刃面46については、樹脂板13の除去側の被切り込み側面48に当接する。
【0066】
切り込みが進行し、内側刃面下部52の上縁54が、樹脂板13の上面より内部に入り込み
図5(a)に示すような状態となると、外側刃面46については、
図4(c)の状態と同様に、樹脂板13の除去側の被切り込み側面48に当接しているが、内側刃面上部53が製品側の被切り込み側面49に当接する。
【0067】
図5(a)に示すように、外側刃面46が樹脂板13の除去側の被切り込み側面48に当接する状態では、楔状の外側刃面46は、被切り込み側面48から抗力を受け、矢印Fに示すように、切断刃14を被切り込み側面49に向けて内側水平方向に押圧する。その結果、樹脂板13の製品側の被切り込み側面49は、内側刃面上部53によって内側水平方向に押圧される。
【0068】
樹脂板13は、受け板7と加熱板15との間で加熱され若干軟化しているので、樹脂板13の製品側の被切り込み側面49は、内側刃面上部53の押圧力を受けると、側方からプレスを受けている状態と同じとなる。しかも、切断刃14の内側刃面上部53は、鏡面仕上げされているので、樹脂板13の製品側の被切り込み側面49も、鏡面状の均一な平滑面に形成されることとなる。
【0069】
特に、第3の位置において、内側刃面下部52の上縁54が、少なくとも樹脂板13の下面より下方となる位置になるまで切断刃14を下降させるので、樹脂板13の樹脂板の製品側の被切り込み側面49の上下方向の全面について、内側刃面上部53で押圧でき、製品側の被切り込み側面49を鏡面状に均一な平滑面とすることが可能となる。
【0070】
以上のような本発明に係る樹脂板のプレス切断装置及びプレス切断方法は、光源からの光を均一に反射するために、均一な平滑面であることが必要な、バックライトの導光板の側面を切断する手段として最適である。
【0071】
例えば、導光板の素材となる樹脂板13は、通常、射出成形で形成されるが、射出成形の際に生じるゲート部分(インジェクションゲートに形成される樹脂部分)を切断(ゲートカット)し、導光板の側面を形成する。金型内で形成される側面については、均一な平滑面が得られるが、ゲートカットして得られる側面は、切断により粗面となる
【0072】
このようなゲートカットをする手段として、本発明に係る樹脂板のプレス切断装置及びプレス切断方法を利用すると、均一な平滑面である側面を備えた導光板が得られる。
【0073】
このように切断された側面を有する樹脂板13を導光板として利用し、端面から光を導入すると、側面は鏡面状の均一な平滑面に形成されているので、側面における反射は乱反射することなく均一に反射される。従って、このような樹脂板13を導光板として利用することによってバックライト光は均一となる。
【0074】
図7は、本発明に係る樹脂板のプレス切断方法の実施例において、プレス切断方法の一部についての具体的な一実施態様例を説明する図である。導光板に使用する樹脂板の素材として、アクリル(PMMA)樹脂、ポリカーボネート樹脂等を使用するが、導光板の素材として、これらの樹脂板を購入すると、通常、樹脂板の上下両面に、それぞれ樹脂製の上側及び下側保護用フィルム(マスキングフィルム)が付いている。
【0075】
この実施態様例は、あくまでも、
図1〜6に説明する実施例を前提とする方法であるが、
図7及び
図8に示すように、切断刃14の刃先42が入る側の上面の上側保護用フィルム60はそのまま残しておき、下面の下側保護用フィルムは剥がして切断するという方法である。
【0076】
この実施態様例の実施に際しても、その刃先41の行程動作は、上記実施例の行程1〜5の説明及び
図1〜6とほぼ同様であるからその詳細な行程動作の説明は省略する。ただ、異なるのは、第2の位置は、
図7(b)に示すように、上側保護用フィルム60の上面に接触する位置である点である。
【0077】
従って、行程3では、刃先42は、まず
図7(b)に示す第2位置から、
図7(c)に示すように、上側保護用フィルム60内に切り込み、その後、樹脂板13内に切り込んで行き、さらに
図8(a)に示すように刃先42が内部に進行する。そして、時点t3において、
図8(b)に示すように刃先42が最下位の高さの位置である第3の位置になる。
【0078】
また、実施態様例では、行程3における刃先42の移動距離h(
図5(b)参照)は、樹脂板13の厚みd(
図5(b)参照)と上側保護用フィルム60の厚みd’の合計の厚みより大きくする。具体的には、第3の位置において、内側刃面下部52の上縁54が、少なくとも樹脂板13の下面より下方となる位置になるまで移動距離hをとるようにすることが好ましい。
【0079】
以上、本発明に係る樹脂板のプレス切断装置及びプレス切断方法を実施するための形態を実施例に基づいて説明したが、本発明はこのような実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された技術的事項の範囲内でいろいろな実施例があることは言うまでもない。