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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-80891(P2015-80891A)
(43)【公開日】2015年4月27日
(54)【発明の名称】缶の印刷用凸版の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B41C 1/05 20060101AFI20150331BHJP
   B41N 1/12 20060101ALI20150331BHJP
   B41F 17/22 20060101ALI20150331BHJP
【FI】
   B41C1/05
   B41N1/12
   B41F17/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-219335(P2013-219335)
(22)【出願日】2013年10月22日
(71)【出願人】
【識別番号】305060154
【氏名又は名称】ユニバーサル製缶株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100146835
【弁理士】
【氏名又は名称】佐伯 義文
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100126893
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(72)【発明者】
【氏名】橋本 浩明
(72)【発明者】
【氏名】白澤 武人
【テーマコード(参考)】
2H084
2H114
【Fターム(参考)】
2H084AA05
2H084AA30
2H084AE05
2H084BB04
2H084BB16
2H084CC01
2H114AA01
2H114AA09
2H114AA10
2H114AA23
2H114BA10
2H114EA02
2H114FA06
(57)【要約】
【課題】高精細な画像パターンを精度よく安定的に缶に印刷することができる缶の印刷用凸版を製造する方法を提供すること。
【解決手段】インキが付着する画像部分50に、複数の突起体41aが配設された網点部41と、前記網点部以外の部分42と、を有する缶の印刷用凸版40を製造する方法であって、前記画像部分50のうち、前記網点部41をレーザー彫刻する工程と、前記画像部分50のうち、前記網点部以外の部分42をレーザー彫刻する工程と、を備え、前記網点部以外の部分42をレーザー彫刻する工程では、レーザー彫刻後の前記網点部41の高さHに対応する高さHとなるように、前記網点部以外の部分42をレーザー彫刻することを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インキが付着する画像部分に、複数の突起体が配設された網点部と、前記網点部以外の部分と、を有する缶の印刷用凸版を製造する方法であって、
前記画像部分のうち、前記網点部をレーザー彫刻する工程と、
前記画像部分のうち、前記網点部以外の部分をレーザー彫刻する工程と、を備え、
前記網点部以外の部分をレーザー彫刻する工程では、レーザー彫刻後の前記網点部の高さに対応する高さとなるように、前記網点部以外の部分をレーザー彫刻することを特徴とする缶の印刷用凸版の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の缶の印刷用凸版の製造方法であって、
前記網点部をレーザー彫刻する工程の後に、前記網点部以外の部分をレーザー彫刻する工程を備えることを特徴とする缶の印刷用凸版の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の缶の印刷用凸版の製造方法であって、
前記網点部をレーザー彫刻する工程に比べて、前記網点部以外の部分をレーザー彫刻する工程では、レーザー出力を小さくし、かつ、彫刻面のレーザー焦点直径を大きくすることを特徴とする缶の印刷用凸版の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の缶の印刷用凸版の製造方法であって、
前記網点部以外の部分をレーザー彫刻する工程では、レーザー彫刻後の前記網点部の高さを基準として±0.03mmの範囲内の高さとなるように、前記網点部以外の部分をレーザー彫刻することを特徴とする缶の印刷用凸版の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、缶の印刷用凸版の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、缶の外周面に印刷を施す缶の印刷装置として、例えば、図4に示されるようなオフセット印刷装置Aが知られている。このオフセット印刷装置Aは、インキ付着機構Bと、缶移動機構Cと、を有している。
インキ付着機構Bは、インキを供給するインカーユニット1と、インカーユニット1に接触してインキを写し取った後、缶(缶胴)20の外周面に接触して該インキを印刷する(転写する)ブランケット9を外周に備えたブランケットホイール8と、を有している。
【0003】
インカーユニット1は、インキ源2と、インキ源2に接触してインキを受け取るダクティングロール3と、ダクティングロール3に接続する複数のローラからなる中間ローラ4と、中間ローラ4に接続するゴムローラ5と、ゴムローラ5に接続するシリンダ6と、を備えており、シリンダ6は、印刷装置Aのシャフト部に回転自在に支持されている。
【0004】
また、シリンダ6の外周面には、図5及び図6に示されるような円筒状のスリーブ印刷版30が着脱可能に嵌合しており、該スリーブ印刷版30の外周面には、缶20に転写する画像パターンと同形状に形成された画像部分を有する缶の印刷用凸版(以下、凸版と省略することがある)100が、スリーブ印刷版30の軸線O回り(周方向)に互いに間隔をあけて複数設けられている。
【0005】
また図4において、ブランケットホイール8の外周面には、ブランケット9が複数枚設けられており、これらブランケット9は、シリンダ6の外周面に装着されたスリーブ印刷版30の凸版100に接触し、また缶20にも接触するように構成されている。
【0006】
缶移動機構Cは、缶20を印刷装置Aに取り入れる缶シュータ10と、缶シュータ10から供給された缶20を回転自在に保持するマンドレル11と、マンドレル11に装着された缶20を、順次インキ付着機構Bへ向かわせるように回転移動させるマンドレルターレット12と、を有している。
【0007】
このような構成とされたオフセット印刷装置Aにおいては、複数のインカーユニット1のインキ源2から各々異なった色のインキが、ダクティングロール3、中間ローラ4、ゴムローラ5を介して、シリンダ6の外周面に配設されたスリーブ印刷版30の凸版100に付着させられ、これら各色のインキが、回転するブランケットホイール8上のブランケット9に画像パターンとして乗せられ、この画像パターンがマンドレル11に保持された缶20に接触しつつ印刷されるようになっている。
【0008】
例えば下記特許文献1、2に、従来の缶の印刷用凸版が開示されている。本明細書に添付の図7(a)(b)に示されるように、従来の缶の印刷用凸版100は、インキが付着する画像部分に、複数の突起体101aが配設された網点部101と、網点部以外の部分102と、を有している。前記網点部以外の部分102には、ベタ部(広範囲にインキが付着されてベタ塗りに用いられる部分)や線画部(線画の中でも太線及び太線による文字や記号等)が配設されており、網点部101の突起体101aは、前記網点部以外の部分102よりも凸版100の厚さ方向Tに後退させられた基底部103に突設されている。また、このような網点部101は、レーザー彫刻により形成される。
【0009】
下記特許文献1、2においては、網点部101の高さ(凸版100の厚さ方向Tに沿う突起体101aの基底部103からの突出高さ)Hが、ベタ部(画像部分のうち網点部以外の部分)102の高さHよりも低くされており、これにより、網点部101のドットゲイン(点太り現象)を抑制して、画像パターンの高精細化に対応するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−183888号公報
【特許文献2】特開平5−11438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記従来の缶の印刷用凸版100では、ベタ部102の高さに対して網点部101の高さが低くなっているために、網点部101における版面の押圧力が弱くなり、該網点部101からブランケット9にインキが転移しきれず残りやすくなって、残留したインキが突起体101a同士の間に溜まる所謂「目詰まり現象」が生じることがあった。特に、突起体101a同士が密集配置されて間隔が狭く設定された、精細度の高い網点部101においては、このような目詰まり現象が生じやすい。そして、目詰まり現象が生じた場合には、缶20の印刷品質を安定して維持することが難しかった。
【0012】
ここで、上述した問題について、図8図12により具体的に説明する。図8図12は、缶の印刷用凸版100による印刷手順、及び目詰まり現象について説明している。
まず、図8において、弾性を有するゴムローラ5に対して、凸版100の版面が押圧されることで、該ゴムローラ5から、前記版面のうち画像部分である網点部101及びベタ部102に、インキIが付着(転移)させられる。
【0013】
次いで、凸版100においてインキIが載せられた画像部分(網点部101及びベタ部102)に対して、図9に示されるようにブランケット9が押圧されることで、凸版100の画像部分からブランケット9に、インキIが付着(転移)させられる。
ここで、金属製の缶20の印刷において、光沢のある金属面(缶20の外周面)に陰ぺい性高く(隙間なく)インキIを印刷するには、インキIの供給量(付着量)を多く確保することが望ましいことから、図9に示されるように、ブランケット9は、撓む程度にまでベタ部102に対して強く押圧される。一方、網点部101はベタ部102より厚さ方向Tに一段後退しているため、ベタ部102に比べて弱い力でブランケット9に押圧される。
【0014】
ところが、ブランケット9が強く押圧されるベタ部102に比べて、網点部101では、インキIを凸版100からブランケット9に転移させるのに十分な押圧力が得られず、図10に示されるように、網点部101のインキIの一部が突起体101aの外周面に残インキIsとして残ってしまう。
【0015】
このような残インキIsが網点部101に徐々に蓄積していき、図11に示されるように目詰まり状態(突起体101a同士の間に残インキIsが充満した状態)となり、突起体101a同士の間に残インキIsを保持できなくなった時点で、残インキIsはブランケット9にまとめて転移されることになる。
ここで、図12(a)に示される画像パターンは、凸版100の画像部分(ベタ部102及び網点部101)からブランケット9に正常にインキIが転移した場合の缶20の印刷状態(正常な印刷状態)を表しており、図12(b)に示される画像パターンは、網点部101に上記目詰まり現象が生じたことで、凸版100の画像部分からブランケット9に意図しない残インキIsが転移して、網点同士が連結された、異常な印刷状態を表している。
【0016】
また近年では、画像パターンの高精細化が要求されているのにともない、網点部101を構成する各突起体101aの頂部面積が非常に小さく設定される場合がある。そのため、網点部101をレーザー彫刻したときに、これら突起体101aの頂部が溶けるなどによって網点部101の高さHが所期の値(所望の高さ)より低くなることがあり、つまり網点部101をベタ部102の高さ位置に合わせてレーザー彫刻しようとしても実現できず、やはり上述した問題(目詰まり現象)が生じることがあった。
また、レーザー彫刻機の諸条件によっても、網点部101の高さがベタ部102の高さより低くなるという同様の問題が生じ得る。
【0017】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、高精細な画像パターンを精度よく安定的に缶に印刷することができる缶の印刷用凸版を製造する方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
このような課題を解決して、前記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提案している。
すなわち本発明は、インキが付着する画像部分に、複数の突起体が配設された網点部と、前記網点部以外の部分と、を有する缶の印刷用凸版を製造する方法であって、前記画像部分のうち、前記網点部をレーザー彫刻する工程と、前記画像部分のうち、前記網点部以外の部分をレーザー彫刻する工程と、を備え、前記網点部以外の部分をレーザー彫刻する工程では、レーザー彫刻後の前記網点部の高さに対応する高さとなるように、前記網点部以外の部分をレーザー彫刻することを特徴とする。
【0019】
本発明に係る缶の印刷用凸版の製造方法によれば、該凸版においてインキが付着する(インキが載せられる)画像部分のうち、複数の突起体が配設された「網点部」をレーザー彫刻する工程と、ベタ部(広範囲にインキが付着されてベタ塗りに用いられる部分)や線画部(線画の中でも太線及び太線による文字や記号等)が配設された「網点部以外の部分」をレーザー彫刻する工程と、を備えている。そして、画像部分のうち、網点部以外の部分をレーザー彫刻する工程においては、レーザー彫刻後の網点部の高さ(凸版の厚さ方向に沿う高さ)に対応する高さとなるように、当該網点部以外の部分をレーザー彫刻するので、下記の効果を奏する。
【0020】
例えば、高精細な画像パターンを印刷する目的で、網点部を構成する各突起体の頂部面積が非常に小さく設定される場合において、該網点部をレーザー彫刻したときには、これら突起体の頂部が溶けるなどにより網点部の高さが所期の高さより低くなることがある。このような場合であっても、レーザー彫刻後の網点部の高さを経験値から予測したり、実測したりして、この彫刻後の網点部の高さに対応する高さとなるように、網点部以外の部分をレーザー彫刻することで、網点部と、網点部以外の部分との高さ位置を容易に一致させることができる。
【0021】
つまり、高精細な画像パターンを印刷する場合であっても、画像部分のうち、網点部と、網点部以外の部分との高さ位置を揃えることができるので、ブランケット等のインキ付着対象物に対する凸版の押圧力が網点部で低下するようなことが抑えられ、これにより、突起体同士の間にインキが残留して溜まりやすくなるようなことが防止される。よって本発明によれば、従来問題となっていた目詰まり現象を効果的に抑制することができ、安定して高精度な印刷を行うことが可能になる。
【0022】
さらに本発明によれば、例えば網点部の突起体の頂部がレーザー彫刻により溶けて半球状に形成された場合などにおいて、該突起体の頂面(最頂点)から所定の高さ(例えば数μm)だけ後退した高さ位置(印刷後に所期の点太さが得られる突起体の高さ位置)に対して高さを一致させるように、網点部以外の部分をレーザー彫刻することが可能である。
つまり、本発明でいう「レーザー彫刻後の網点部の高さに対応する高さとなるように、網点部以外の部分をレーザー彫刻する」とは、レーザー彫刻後における網点部と、網点部以外の部分との高さ位置を互いに一致させるという意味のみならず、レーザー彫刻後における網点部の高さ位置に対して、レーザー彫刻後における網点部以外の部分の高さ位置を、所定値だけ(所定範囲内において)小さくする、又は大きくするという意味を含んでいる。
【0023】
以上のように、本発明に係る缶の印刷用凸版の製造方法により製造した缶の印刷用凸版によれば、高精細な画像パターンを精度よく安定的に缶に印刷することができる。
【0024】
また、本発明に係る缶の印刷用凸版の製造方法において、前記網点部をレーザー彫刻する工程の後に、前記網点部以外の部分をレーザー彫刻する工程を備えることとしてもよい。
【0025】
この場合、画像部分のうち網点部をレーザー彫刻して、その高さ位置が決定した状態から、該画像部分のうち網点部以外の部分をレーザー彫刻するので、網点部の高さに対する網点部以外の部分の高さ位置をより高精度に設定でき、前述した作用効果がより顕著に得られやすい。
【0026】
また、本発明に係る缶の印刷用凸版の製造方法において、前記網点部をレーザー彫刻する工程に比べて、前記網点部以外の部分をレーザー彫刻する工程では、レーザー出力を小さくし、かつ、彫刻面のレーザー焦点直径を大きくすることとしてもよい。
【0027】
この場合、レーザー彫刻後における網点部以外の部分(ベタ部や太い線画部等)の表面(版面)を滑らかに形成して表面粗さを小さく抑えることができ、該網点部以外の部分の印刷精度を確保することができる。
【0028】
また、本発明に係る缶の印刷用凸版の製造方法において、前記網点部以外の部分をレーザー彫刻する工程では、レーザー彫刻後の前記網点部の高さを基準として±0.03mmの範囲内の高さとなるように、前記網点部以外の部分をレーザー彫刻することとしてもよい。
【0029】
この場合、本発明の前述した作用効果がより確実かつ顕著に得られやすくなる。
具体的に、レーザー彫刻後の網点部の高さを基準として−0.03mm未満の高さとなるように、網点部以外の部分をレーザー彫刻した場合には、網点部が、網点部以外の部分に対して突出し過ぎることで、ドットゲイン(点太り現象)が生じやすくなったり、網点部の摩耗が早期に生じて印刷品質が安定しなかったりするおそれがある。また、レーザー彫刻後の網点部の高さを基準として+0.03mmを超える高さとなるように、網点部以外の部分をレーザー彫刻した場合には、網点部が、網点部以外の部分より後退し過ぎることで、目詰まり現象を抑制する効果が得られにくくなるおそれがある。
【発明の効果】
【0030】
本発明に係る缶の印刷用凸版の製造方法によれば、高精細な画像パターンを精度よく安定的に缶に印刷することが可能な缶の印刷用凸版を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の一実施形態に係る缶の印刷用凸版の製造方法を説明する図であり、(a)ベタ部(網点部以外の部分)をレーザー彫刻する前の状態、(b)ベタ部をレーザー彫刻した後の状態、を表している。
図2】本発明の一実施形態に係る缶の印刷用凸版の製造方法を説明する図であり、(a)画像パターン(印刷デザイン)、(b)網点部レーザー彫刻(1回目レーザー彫刻)画像、(c)、ベタ部レーザー彫刻(2回目レーザー彫刻)画像、を表している。
図3】高精細化された網点部において、レーザー彫刻後の突起体の頂部形状の一例を示す図である。
図4】缶に印刷を施すオフセット印刷装置の概略構成を説明する図である。
図5図4のオフセット印刷装置に用いられるスリーブ印刷版を示す斜視図である。
図6図4のオフセット印刷装置に用いられるスリーブ印刷版を軸線方向から見た正面図である。
図7】従来の缶の印刷用凸版を示す(a)上面図、(b)側断面図、である。
図8】従来の缶の印刷用凸版における印刷手順、及び目詰まり現象を説明する図である。
図9】従来の缶の印刷用凸版における印刷手順、及び目詰まり現象を説明する図である。
図10】従来の缶の印刷用凸版における印刷手順、及び目詰まり現象を説明する図である。
図11】従来の缶の印刷用凸版における印刷手順、及び目詰まり現象を説明する図である。
図12】缶の外周面に、(a)画像パターンが正常に印刷された状態を説明する図、(b)目詰まり現象により、画像パターンが異常に印刷された状態を説明する図、である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の一実施形態に係る缶の印刷用凸版40及びその製造方法について、図面を参照して説明する。
本実施形態の缶の印刷用凸版40は、図5及び図6に示されるスリーブ印刷版30の外周面に設けられるものであり、該スリーブ印刷版30は、図4に示されるオフセット印刷装置Aのシリンダ6に、着脱可能に嵌合される。オフセット印刷装置Aの概略構成は前述した通りであり、ここではその説明を省略する。
【0033】
図5及び図6において、スリーブ印刷版30は、軸線Oに沿って延びる円筒状をなすスリーブ支持体31と、スリーブ支持体31の外周側に配設された版材32と、を備えている。尚、本実施形態では、版材32はスリーブ支持体31に一体に形成されている。
【0034】
スリーブ支持体31は、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂で形成されている。本実施形態ではスリーブ支持体31は、例えばその外径Dが100mm≦D≦250mm、軸線O方向に沿う長さLが50mm≦L≦500mm、外径Dと軸線O方向長さLとの比L/Dが0.2≦L/D≦2、に設定されている。また、スリーブ支持体31の肉厚tは、例えば0.25mm≦t≦2mmとされている。
【0035】
版材32は、レーザー光による彫刻が可能な感光性樹脂からなり、例えば肉厚が0.5mm〜1.0mmとされた円筒状をなしている。この版材32の外周面には、レーザー加工(レーザー彫刻)によって形成された画像パターン(印刷デザイン)を有する缶の印刷用凸版40(以下、凸版40と省略することがある)が、軸線O回り(スリーブ印刷版30の周方向)に互いに間隔をあけて複数刻設されている。尚、本実施形態では、図6に示されるように、版材32の外周面に2つの凸版40が設けられており、これら凸版40同士が軸線Oを挟んで互いに背向する位置(背中合わせの位置)に配置されている。
【0036】
図1(b)及び図2(a)に示されるように、凸版40は、その画像パターンとされる版面に、インキが付着される画像部分50と、インキが付着されない非画像部分51と、を有している。
また、インキが付着する画像部分50は、複数の突起体41aが配設された網点部41(図2(a)において灰色で示される網点画像部)と、網点部以外の部分42(図2(a)において黒色で示されるベタ画像部)と、を有している。尚、図2(a)に示される画像パターン(印刷デザイン)は、あくまで本実施形態を説明するための一例であり、本発明の構成を限定するものではない。
【0037】
画像部分50のうち、前記網点部以外の部分42には、ベタ部(広範囲にインキが付着されてベタ塗りに用いられる部分)や線画部(線画の中でも太線及び太線による文字や記号等)が配設されている(図2(c)に黒塗りで示される部分を参照)。以下、前記網点部以外の部分42を、単にベタ部42ということがある。
【0038】
図1(b)において、画像部分50のうち、網点部41の突起体41aは、ベタ部42よりも凸版40の厚さ方向Tに後退させられた基底部43に突設されている。突起体41aは、基底部43から厚さ方向Tに沿って頂部側(図1(b)における上側)へ向かう従い漸次縮径する円錐台状又は角錐台状(つまり截頭錐体状)をなしている。
【0039】
網点部41には、複数の突起体41aが規則的に又は不規則に集合して配置(配列)されており、また突起体41aの集中度が画像部分50の各部で互いに同一とされたり、互いに異なったりして、網点画像が形成されている。具体的に網点部41は、例えば、網点線数(精細度)が80〜250LPIとされ、網点濃度(網点面積率)が0%を超え10%以下(具体的には、0.2〜10%)とされ、その突起体41aの頂部面積(頂点面積)が、80線・網点濃度10%の時で頂部面積9×10−3mm、250線・網点濃度1%の時で頂部面積0.2×10−3mmとされている。
【0040】
ここで、突起体41aの前記頂部面積とは、基本的には各突起体41aの円形平面状又は角形平面状をなす頂面の面積を表しているが、突起体41aの頂面の面積が、例えば9×10−3mmよりも小さい場合には、図3に示されるように、突起体41aをレーザー彫刻したときに頂部が溶けて半球状となる場合がある。この場合、印刷により所期(所望)の網点太さが得られる突起体41aの頂部位置は、該突起体41aの最頂点から所定の高さHだけ厚さ方向Tに後退した高さ位置となることから、このような場合における突起体41aの前記頂部面積は、該突起体41aの最頂点から所定の高さHだけ厚さ方向Tに後退した高さ位置における、この突起体41aの頂部横断面の面積、と定義する。尚本実施形態では、前記所定の高さHを2μmとした。
また、前記網点線数(LPI)とは、版面の1インチ(25.4mm)あたりに網点(突起体41aの頂面)が並ぶ列数(線/インチ)を表している。
また、前記網点濃度とは、単位面積あたりにインキが盛られる面像面積の割合を表している。
【0041】
そして本実施形態では、網点部41の高さ、つまり凸版40の厚さ方向Tに沿う突起体41aの基底部43から頂部(頂面)までの高さが、ベタ部42の高さに対して、同等(略同一)とされている。具体的には、ベタ部42の高さを基準(ゼロ)とした場合に、網点部41の高さが、±0.03mmの範囲内とされている。
尚、ここでいう網点部41の高さとは、基本的には突起体41aの頂部において平面状をなす最頂点(頂面)の高さであるが、上述したように突起体41aの頂部がレーザー彫刻により溶けて半球状となるような場合(突起体41aの頂面の面積が、上述したように例えば9×10−3mmよりも小さい場合)には、突起体41aの最頂点から所定の高さHだけ厚さ方向Tに後退した高さを指す。
【0042】
また、非画像部分51には、画像部分50よりも高さが低い基底部43が形成されており、上述の網点部41とは異なりこの基底部43には、突起体41aは形成されていない。
【0043】
次に、このような構成とされた缶の印刷用凸版40を製造する方法について説明する。
本実施形態に係る缶の印刷用凸版40の製造方法では、レーザー彫刻機により、スリーブ印刷版30の版材32にレーザー彫刻を施して、画像部分50及び非画像部分51を有する凸版40を形成(刻設)する。
【0044】
そして、この凸版40の製造方法は、画像部分50のうち、網点部41をレーザー彫刻する工程と、画像部分50のうち、ベタ部(網点部以外の部分)42をレーザー彫刻する工程と、を備えており、図1(a)(b)に示されるように、ベタ部42をレーザー彫刻する工程では、レーザー彫刻後の網点部41の高さHに対応する高さとなるように、ベタ部42をレーザー彫刻する。
また、この凸版40の製造方法は、非画像部分51をレーザー彫刻する工程を備えている。
【0045】
具体的に本実施形態では、網点部41をレーザー彫刻する工程の後に、ベタ部42をレーザー彫刻する工程を備えている。また、網点部41をレーザー彫刻する工程とともに(つまり同一パスで)、非画像部分51をレーザー彫刻する工程が行われている。
【0046】
ここで、図2(b)は、レーザー彫刻機による1回目のレーザー彫刻画像を示しており、図中に黒色で示された部位に対してレーザー光が照射され、彫刻が施される。この1回目のレーザー彫刻(以下、第1のレーザー彫刻工程という)により、網点部41、非画像部分51及び細い線画部(線画の中でも細線及び細線による文字や記号等)が彫刻される。
【0047】
本実施形態では、第1のレーザー彫刻工程を、レーザー彫刻機出力:200W、彫刻面での焦点直径:φ0.1mmの条件で行い、網点線数:120LPI、網点濃度(網点面積率):1%に設定された網点部41を彫刻したところ、図1(a)において、網点部41(突起体41a)の高さ(レリーフ深度)H:0.45mm、ベタ部42(彫刻前)の高さHと網点部41(彫刻後)の高さHとの差(ビローサーフェス)△hが0.12mmであった。
尚、本明細書でいうレーザー彫刻機出力とは、レーザー光が彫刻面に至る途中の光学系で減衰することを鑑みて、加工に寄与する最終段階での出力を実測したものである。
【0048】
また図2(c)は、レーザー彫刻機による2回目のレーザー彫刻画像を示しており、図中に黒色で示された部位に対してレーザー光が照射され、彫刻が施される。この2回目のレーザー彫刻(以下、第2のレーザー彫刻工程という)により、ベタ部42が彫刻される。尚、第2のレーザー彫刻工程では、画像データからベタ部42のみを抽出したデータを用いて、該ベタ部42に対して均一に版面の薄皮を剥がすように彫刻する。このとき、第1のレーザー彫刻工程後の位置決め精度が重要となるため、同一のレーザー彫刻機に凸版40を装着した状態のまま、第1、第2のレーザー彫刻工程を順次行うことが好ましい。
【0049】
そして本実施形態では、網点部41をレーザー彫刻する工程(第1のレーザー彫刻工程)に比べて、ベタ部42をレーザー彫刻する工程(第2のレーザー彫刻工程)では、レーザー出力を小さくし、かつ、彫刻面のレーザー焦点直径を大きくする。
また、ベタ部42をレーザー彫刻する工程では、レーザー彫刻後の網点部41の高さHを基準として±0.03mmの範囲内の高さHとなるように、ベタ部42をレーザー彫刻する。
【0050】
本実施形態では、第2のレーザー彫刻工程を、レーザー彫刻機出力:120W、彫刻面での焦点直径:φ0.5mmの条件で行い、ベタ部42を彫刻したところ、図1(b)において、ベタ部42は均一に0.1mmの高さ分だけ剥ぎ落とされて、ベタ部42(彫刻後)の高さHと網点部41(彫刻後)の高さHとの差△hは0.02mmとなった。
このように、ベタ部42のスクライブ加工は、直接印刷面を加工するため出力を下げ、レーザーの集光径を大きくすることにより、滑らかに加工することが必要である。また、このようにレーザーの諸条件を適宜設定することで、差△hを所定の範囲内(±0.03mm)に調整することが可能である。
【0051】
以上説明した本実施形態に係る缶の印刷用凸版40の製造方法によれば、該凸版40においてインキが付着する(インキが載せられる)画像部分50のうち、複数の突起体41aが配設された「網点部41」をレーザー彫刻する工程と、ベタ部(広範囲にインキが付着されてベタ塗りに用いられる部分)や線画部(線画の中でも太線及び太線による文字や記号等)が配設された「ベタ部(網点部以外の部分)42」をレーザー彫刻する工程と、を備えている。そして、画像部分50のうち、ベタ部42をレーザー彫刻する工程においては、レーザー彫刻後の網点部41の高さ(凸版40の厚さ方向Tに沿う高さ)Hに対応する(所定の範囲内とされた)高さHとなるように、当該ベタ部42をレーザー彫刻するので、下記の効果を奏する。
【0052】
例えば、高精細な画像パターンを印刷する目的で、網点部41を構成する各突起体41aの頂部面積が非常に小さく設定される場合において、該網点部41をレーザー彫刻したときには、これら突起体41aの頂部が溶けるなどにより網点部41の高さHが所期の高さ(例えば図1(a)に示される高さH)より低くなることがある。このような場合であっても、レーザー彫刻後の網点部41の高さHを経験値から予測したり、実測したりして、この彫刻後の網点部41の高さHに対応する高さH図1(b)に示される高さH)となるように、ベタ部42をレーザー彫刻することで、網点部41と、ベタ部42との高さ位置を容易に一致させることができる。
【0053】
つまり、高精細な画像パターンを印刷する場合であっても、画像部分50のうち、網点部41と、ベタ部42との高さ位置を揃えることができるので、ブランケット(インキ付着対象物)9に対する凸版40の押圧力が網点部41で低下するようなことが抑えられ、これにより、突起体41a同士の間にインキが残留して溜まりやすくなるようなことが防止される。よって本実施形態によれば、従来問題となっていた目詰まり現象を効果的に抑制することができ、安定して高精度な印刷を行うことが可能になる。
【0054】
さらに本実施形態によれば、例えば網点部41の突起体41aの頂部がレーザー彫刻により溶けて半球状に形成された場合などにおいて、該突起体41aの頂面(最頂点)から所定の高さH(例えば数μm)だけ後退した高さ位置(印刷後に所期の点太さが得られる突起体41aの高さ位置)に対して高さHを一致させるように、ベタ部42をレーザー彫刻することが可能である。
つまり、本実施形態で説明した「レーザー彫刻後の網点部41の高さHに対応する高さHとなるように、ベタ部42をレーザー彫刻する」とは、レーザー彫刻後における網点部41と、ベタ部42との高さ位置を互いに一致させるという意味のみならず、レーザー彫刻後における網点部41の高さ位置に対して、レーザー彫刻後におけるベタ部42の高さ位置を、所定値だけ(所定範囲内において)小さくする、又は大きくするという意味を含んでいる。
【0055】
以上のように、本実施形態に係る缶の印刷用凸版40の製造方法により製造した缶の印刷用凸版40によれば、高精細な画像パターンを精度よく安定的に缶20に印刷することができる。
【0056】
また本実施形態では、網点部41をレーザー彫刻する工程の後に、ベタ部42をレーザー彫刻する工程を備えているので、下記の効果を奏する。
すなわちこの場合、画像部分50のうち網点部41をレーザー彫刻して、その高さ位置が決定した状態から、該画像部分50のうちベタ部42をレーザー彫刻するので、網点部41の高さHに対するベタ部42の高さ位置をより高精度に設定でき、前述した作用効果がより顕著に得られやすい。
【0057】
また本実施形態では、網点部41をレーザー彫刻する工程に比べて、ベタ部42をレーザー彫刻する工程では、レーザー出力を小さくし、かつ、彫刻面のレーザー焦点直径を大きくするので、下記の効果を奏する。
すなわちこの場合、レーザー彫刻後におけるベタ部42の表面(版面)を滑らかに形成して表面粗さを小さく抑えることができ、該ベタ部42の印刷精度を確保することができる。
【0058】
また本実施形態では、ベタ部42をレーザー彫刻する工程では、レーザー彫刻後の網点部41の高さHを基準として±0.03mmの範囲内の高さHとなるように、ベタ部42をレーザー彫刻するので、下記の効果を奏する。
すなわちこの場合、本実施形態の前述した作用効果がより確実かつ顕著に得られやすくなる。
具体的に、レーザー彫刻後の網点部41の高さHを基準として−0.03mm未満の高さHとなるように、ベタ部42をレーザー彫刻した場合には、網点部41が、ベタ部42に対して突出し過ぎることで、ドットゲイン(点太り現象)が生じやすくなったり、網点部41の摩耗が早期に生じて印刷品質が安定しなかったりするおそれがある。また、レーザー彫刻後の網点部41の高さHを基準として+0.03mmを超える高さHとなるように、ベタ部42をレーザー彫刻した場合には、網点部41が、ベタ部42より後退し過ぎることで、目詰まり現象を抑制する効果が得られにくくなるおそれがある。
【0059】
尚、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0060】
例えば、前述の実施形態では、凸版40を備えた版材32が、スリーブ支持体31に一体に形成されていると説明したが、これに限定されるものではなく、版材32が、スリーブ支持体31に着脱可能に配設されていてもよい。
【0061】
また前述の実施形態では、網点部41をレーザー彫刻する工程の後に、ベタ部42をレーザー彫刻する工程を備えていると説明したが、これに限定されるものではない。すなわち、網点部41をレーザー彫刻した際に、突起体41aの頂部が溶けるなどにより後退される後退量(図1(a)に符号△hで示される寸法)が経験値等により予測し得る場合には、前述の実施形態に代えて、ベタ部42をレーザー彫刻する工程の後に、網点部41をレーザー彫刻する工程を実施してもよい。或いは、これらベタ部42と網点部41とを同一パスでレーザー彫刻することとしても構わない。
【0062】
また前述の実施形態では、網点部41をレーザー彫刻する工程とともに、非画像部分51をレーザー彫刻する工程を行うと説明したが、非画像部分51は、網点部41をレーザー彫刻する工程とは別工程でレーザー彫刻してもよい。
【0063】
その他、本発明の趣旨から逸脱しない範囲において、前述の実施形態、変形例及び尚書き等で説明した各構成(構成要素)を組み合わせてもよく、また、構成の付加、省略、置換、その他の変更が可能である。また本発明は、前述した実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【符号の説明】
【0064】
40 缶の印刷用凸版
41 網点部
41a 突起体
42 ベタ部(画像部分のうち網点部以外の部分)
50 画像部分
網点部の高さ
ベタ部の高さ
△h ベタ部の高さと網点部の高さとの差
図1
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図2