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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-81656(P2015-81656A)
(43)【公開日】2015年4月27日
(54)【発明の名称】低温流体移送管
(51)【国際特許分類】
   F16L 59/147 20060101AFI20150331BHJP
   F16L 59/153 20060101ALI20150331BHJP
   F16L 11/12 20060101ALI20150331BHJP
【FI】
   F16L59/147
   F16L59/153
   F16L11/12 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-220688(P2013-220688)
(22)【出願日】2013年10月24日
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】独立行政法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】大木 忍
(72)【発明者】
【氏名】端 健二郎
(72)【発明者】
【氏名】清水 禎
(72)【発明者】
【氏名】後藤 敦
(72)【発明者】
【氏名】野口 隆志
(72)【発明者】
【氏名】瀧澤 智恵子
(72)【発明者】
【氏名】酒井 修二
【テーマコード(参考)】
3H036
3H111
【Fターム(参考)】
3H036AA02
3H036AB18
3H036AB25
3H036AC06
3H111AA02
3H111BA12
3H111BA34
3H111CB03
3H111CB14
3H111CB23
3H111DA15
3H111DB02
(57)【要約】
【課題】恒久的な輸送設備を設けるほどの頻度が見込めない、突発的な事情で、液体窒素を10m以上で数百m以下の距離について比較的大量に移送する場合に用いて好適な低温流体移送管を提供すること。
【解決手段】 沸点が70K以上の液化ガスを移送するための冷温流体移送管10であって、前記液化ガスの流路部となる樹脂管20と、樹脂管20の外周側に被覆した状態で設けられる断熱層30であって、独立気泡を有する前記断熱層とを備え、樹脂管20と断熱層30による熱侵入量は、19W/m以下であることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
沸点が70K以上の液化ガスを移送するための冷温流体移送管であって、
前記液化ガスの流路部となる樹脂管と、
前記樹脂管の外周側に被覆した状態で設けられる断熱層であって、独立気泡を有する前記断熱層とを備え、
前記樹脂管と前記断熱層による熱侵入量は、19W/m以下であることを特徴とする冷温流体移送管。
【請求項2】
前記液化ガスの移送において、移送距離が10m以上200m以下であることを特徴とする請求項1に記載の冷温流体移送管。
【請求項3】
前記独立気泡型の前記断熱層が前記樹脂管を被覆する厚さが40mm以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の冷温流体移送管。
【請求項4】
前記独立気泡型の前記断熱層は、クロロプレンゴム、ニトリル系ゴム、硬質ポリウレタンゴムの少なくとも一つであることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の冷温流体移送管。
【請求項5】
前記請求項1乃至4の何れか1項に記載の冷温流体移送管において、
さらに、前記冷温流体移送管の相互、前記冷温流体移送管と低温流体移送元容器、前記冷温流体移送管と低温流体移送先容器の接続箇所において、外れ止め防止機構を有した接続治具を用いることを特徴とする冷温流体移送管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、恒久的な輸送設備を設けるほどの頻度が見込めない、突発的な事情で、液体窒素等の低温流体を大略10m以上で数百m以下の距離について比較的大量に移送する場合に用いて好適な低温流体移送管に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液体窒素を多量に使用する冷却設備等では、熱侵入によって液体窒素が蒸発する移送ロスの低減を目的として、真空断熱2重構造移送管を用いることが一般的であった。このような用途には、例えば特許文献1、2で提案された真空断熱構造が使用されている。また、非特許文献1では、真空断熱構造が示されていると共に、熱損失のデータが記載されている。
【0003】
しかしながら、特許文献1、2、非特許文献1の移送管では、可撓性はあるものの真空断熱構造であるので、輸送距離1m当たり数万円から十数万円程度の設備コストが発生する。また、当該特許文献の移送管では、金属を使用しているので重く、施工性が悪いという課題がある。
同様に、非特許文献2の移送管では、真空断熱構造が提案されている。しかし、非特許文献2の真空断熱構造は、固定配管、真空断熱構造であるため、恒久的な移送配管設備を目的とするものであり、臨時的に一時使用の場合のように用途に用いるのでは、設備コストが高額になると共に、流路経路の自由度が乏しく、配管設置場所の選定が困難になる場合がある。
【0004】
他方で、非特許文献3では移送距離が2〜3m以下の場合に用いて好適な、容器の組合せのフレキシブルホースが提案されている。これによれば供給先の場所に応じて、適宜に液体窒素等を容器から供給先に移送でき、好都合である。
しかしながら、非特許文献3の装置では断熱構造を有していないので、液体窒素等を例えば10m以上移送する場合、移送途中の低温流体移送管で液体窒素が気化温度まで上昇して、液体窒素の移送ロスが大きくなるか、最悪の場合は液体状態での移送が不可能になるという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5188769号公報
【特許文献2】特許第4626887号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】古河電工時報 第116号、53〜59頁
【非特許文献2】(株)千代田精機のHP http://www.chiyoda-seiki. co.jp/page.php
【非特許文献3】(株)バイオメディカルサイエンスのHP http://www. bmsci.com/system/sample_m/cryojet.php
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、恒久的な輸送設備を設けるほどの頻度が見込めない、突発的な事情で、液体窒素等の低温流体を10m以上で数百m以下の距離について比較的大量に移送する場合には、従来の真空断熱2重構造移送管では非常に高価であると共に、施工性が悪いという課題があった。このような臨時的な使用状況として、例えば以下の事例がある。
(i) 大型超伝導マグネットの液体He注入前の液体窒素による予備冷却、
(ii) 臨時的に必要となった液体窒素の移送、
(iii) 食品、医療関係の低温保存需要に対する液体窒素による冷却
【0008】
また、断熱構造を有していない移送管では、液体窒素の液体状態での移送が困難になるという課題があった。特に、上記(i)のように、液体窒素を数百リットル移送する場合には、液体状態での移送効率が大切である。移送すべき液体窒素が大量になると、小型の運搬容器を用いて頻繁に移送作業を繰り返すのは妥当性に欠ける。
【0009】
本発明は、上記の課題を解決したもので、恒久的な輸送設備を設けるほどの頻度が見込めない、突発的な事情で、液体窒素等の低温流体を10m以上で数百m以下の距離について比較的大量に移送する場合に用いて好適な低温流体移送管を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の低温流体移送管は、例えば図1に示すように、沸点が70K以上の液化ガスを移送するための冷温流体移送管10であって、前記液化ガスの流路部となる樹脂管20と、樹脂管20の外周側に被覆した状態で設けられる断熱層30であって、独立気泡を有する前記断熱層とを備え、樹脂管20と断熱層30による熱侵入量は、19W/m以下であることを特徴とする。
液化ガスには、例えば液体窒素が適しているが、液体酸素、液体二酸化炭素などでもよい。
【0011】
本発明の低温流体移送管において、好ましくは、移送距離が10m以上200m以下であるとよい。移送距離は、例えば冷温流体移送管10の全体の長さや、低温流体移送元容器100と低温流体移送先容器200との距離、並びに真空断熱2重構造移送管の区間を冷温流体移送管10で延長する場合の延長長さがある。
【0012】
本発明の低温流体移送管において、好ましくは、独立気泡型の断熱層30が前記樹脂管を被覆する厚さが40mm以上であるとよい。独立気泡型のガスの種類は、空気、アルゴン、二酸化炭素等が用いられる。空気に比べ、アルゴン、二酸化炭素ガスの場合、断熱性能は約1.5倍になる。なお、R−11等のフロンガスは分子量が二酸化炭素よりさらに大きく熱伝導率は小さく断熱材用途に優れている。しかし、フロンガスは成層圏オゾン層破壊ガスであり、行政法上の規制から、独立気泡型のガスとして使用できない。
【0013】
本発明の低温流体移送管において、好ましくは、独立気泡型の断熱層30は、クロロプレンゴム、ニトリル系ゴム、硬質ポリウレタンゴムの少なくとも一つであるとよい。なお、硬質ポリウレタンゴムは、クロロプレンゴムより断熱性(熱伝導性)が優れているが、可撓性に劣るため、可撓性が要求されない用途に適している。
また、最内層の樹脂管20の外周、または移送管全体の外周にアルミニウム等の輻射熱侵入を防止する層を設けてもよい。これにより、外気からの熱侵入はさらに抑えられる。
【0014】
本発明の低温流体移送管において、好ましくは、上記の冷温流体移送管において、さらに、冷温流体移送管10の相互、冷温流体移送管10と低温流体移送元容器100、冷温流体移送管10と低温流体移送先容器200の接続箇所において、外れ止め防止機構を有した接続治具50を用いるとよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、従来の真空断熱管方式に比較して次の利点がある。
(i) 設備費用が従来の真空断熱方式に比べ、約1/10以下と非常に安価であること。
(ii) 金属製の真空断熱方式に比べ、フレキシブルな樹脂製であるため設置が容易で移送経路の制約が少なく簡便であること。
(iii) 特別な真空断熱/極低温に関する技術または知識を必要とせず、初歩的な教育のみで窒素移送の業務に従事できること。
(iv) 断熱機構が真空断熱でないため、多少の蒸発ロスは発生するものの、その蒸発ロス量は実務上許容される範囲内ですむ。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施の形態としての移送管の断面構成図である。
図2】移送管の被覆断熱部の厚みを変えた場合の、被覆部表面温度の時間変化を示した図である。
図3】本発明の一実施の形態としての移送管を適用した時の液体窒素移送状況を示す図である。
図4図3の本発明適用時の液体窒素移送結果を示す図である。
図5】本発明の一実施の形態としての移送管を適用した時の液体窒素移送状況を示す図である。
図6図5で示した移送時の930MHzNMRマグネットの冷却曲線を示す図である。
図7】本発明の一実施の形態としての移送管接続治具を説明する斜視状態の図である。
図8】本発明の一実施の形態としての移送管接続治具を説明する組立状態の構成図である。
図9】本発明の一実施の形態としての移送管接続治具を説明する斜視状態の図である。
図10図7図9の移送管接続治具の取付状況を説明する斜視状態の図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を用いて、本発明の実施の形態を詳述する。
[実施例1]
本発明の原理が実現可能か、可能ならば断熱材の最適な厚みはどの位かを確認するための予備実験を実施した。
図1は、本発明の一実施の形態としての移送管の断面構成図である。中心に内径12mm、外径16mmのポリウレタン製の樹脂管20を配し、断熱被覆材として独立気泡型の厚み10mmのクロロプレンゴムを単数又は複数枚を積層して、断熱層30a、30b、30c、30d、30e、30fとしている。ここでは、クロロプレンゴムの厚みが10mmなので、断熱層30a、30b、30c、30d、30e、30fの厚みは、積層した状態で10mmから60mmまで、10mm刻みで6種類変えて、液体窒素移送時の表面温度、結露状況を調査した。図において、クロロプレンゴムの各層には、温度測定用の熱電対40a、40b、40c、40d、40e、40fが設けてある。
【0018】
図2は、被覆厚みを変えた時の移送管の表面温度の経時変化を示したものである。外気温は24℃である。断熱層30としてクロロプレン厚み40mm以上では、温度の低下が少なく熱侵入が少ないことがわかる。また。断熱層30としてクロロプレン厚みが30mm以下では明らかに結露が見られた。このデータをもとに、被覆材の熱伝導率、被覆材の表面放射率、熱伝達率をベースに、熱侵入量を求めると、被覆厚み60mm;14W/m、被覆厚み50mm;16W/m、被覆厚み40mm;19W/m、被覆厚み30mm;30W/m、被覆厚み20mm;39W/m、被覆厚み10mm;59W/mであり、40mm以下で急激に熱侵入量が多くなることが分かった。以上の実験結果から、断熱層30の被覆厚みは40mm以上必要であることが分かった。
【0019】
[実施例2]
次に、本発明で50mレベルの長距離移送が可能かの実験を実施した。実施例1の結果をもとにポリウレタン中心移送管の外周に厚さ70mmの独立気泡型クロロプレン断熱材を被覆した。
図3は実験状況を示す図である。低温流体移送元容器100としての500Lの液体窒素タンクから、本発明の一実施の形態としての移送管55mを介して、低温流体移送先容器200としての200Lのタンクへの移送を実施した。スペースを取らないように7周巻いて液体窒素移送実験を行った。
【0020】
図4は、図3の本発明適用時の液体窒素移送結果を示す図である。移送開始後約10分で液体窒素は低温流体移送先容器200に貯蔵開始され、67分後に200L充填された。従って、3L/分の移送速度である。低温流体移送元容器100としての500Lのタンクの液体窒素の減量は約300Lであり、30%が気化ロスとなっていた。前述した熱侵入量から計算した本発明の一実施の形態としての移送管の気化ロスは、約15%である。以上の実験から、50mレベルの液体窒素の長距離に本発明、被覆断熱移送管が十分使用できることが分かった。
【0021】
[実施例3]
実施例2で使用した液体窒素移送管を使用して、低温流体移送先容器200としての930MHzNMRマグネットシステムの液体窒素温度レベルへの予冷を行った。マグネットシステムのクライオスタットの内容積は約1500Lである。
図5に、本発明の一実施の形態としての移送管を適用した時の液体窒素移送状況を示す図である。また、図6にクライオスタット内の冷却曲線を示した。約13日で、液体窒素温度レベルの100Kまで冷却できた。その後は、液体ヘリウムで冷却した。液体ヘリウムによる冷却は本発明の一実施の形態としての移送管は使用していない。
図6の結果にみられるように、本発明液体窒素移送管は大型超伝導マグネットの予冷に十分機能することが確かめられた。
【0022】
移送管を延長する場合、図7図8に示すような、外径11.2mmの真鍮製の治具50を用いて内径12mm、外径16mmのポリウレタン製の樹脂管20を両側に挿入接続した。接続治具50は、本体のフランジ部分の両側に、樹脂管20を接続するための突起部60が設けてある。突起部60に樹脂管20を挿入した状態で、樹脂管20が突起部60から抜けることを防止するため、係止治具70が装着される。組立状態では、係止用紐80によって、接続治具50と係止治具70が嵌合した状態で保持される。
【0023】
図9は、片側が低温流体移送元容器100側または移送先容器200側の場合の接続治具52を示した。接続治具52は、本体のフランジ部分の一方側に、樹脂管20を接続するための突起部62が設けてあり、他方に低温流体移送元容器100側または移送先容器200側と接続するためのネジ部64が設けてある。ネジ部64には、例えばM26の雌ねじを用いる。
図10は、実際の移送管治具50の取付状況を示したものである。接続治具50の一方には樹脂管20が接続してあり、他方には樹脂管20を接続するための突起部60が露出している。
以上のような、端末または延長接続治具を用いることにより、液体窒素移送は長時間、少ないロスで移送することができる。
【0024】
なお、上記の実施の形態は本発明を例示するものであり、本発明を制限的に解釈すべきものではない。従って、当業者にとって上記の実施の形態から自明な範囲は、本発明の保護範囲に含まれるものである。
例えば、独立気泡型の断熱層30に用いられる材料は、クロロプレンゴム、ニトリル系ゴム、硬質ポリウレタンゴムであり、その物性値は表1のようになっている。そこで、表1の物性値を有するゴム性材料であれば、独立気泡型の断熱層30として他の汎用有機化合物を用いても差し支えない。
【0025】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の低温流体移送管は、恒久的な輸送設備を設けるほどの頻度が見込めない、突発的な事情で、液体窒素を10m以上で数百m以下の距離について比較的大量に移送する場合に用いて好適であり、典型的には次の類型がある。
(i) 大型超伝導マグネットの液体He注入前の液体窒素による予備冷却、
(ii) 臨時的に必要となった液体窒素の移送、
(iii) 食品、医療関係の低温保存需要に対する液体窒素による冷却。
【符号の説明】
【0027】
10 冷温流体移送管
20 樹脂管
30 断熱層
40 熱電対
50 接続治具
100 移送元容器
200 移送先容器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10