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特開2015-824単結晶SiC基板の表面処理方法及び単結晶SiC基板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-824(P2015-824A)
(43)【公開日】2015年1月5日
(54)【発明の名称】単結晶SiC基板の表面処理方法及び単結晶SiC基板
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/36 20060101AFI20141202BHJP
   C30B 33/12 20060101ALI20141202BHJP
   H01L 21/205 20060101ALI20141202BHJP
【FI】
   C30B29/36 A
   C30B33/12
   H01L21/205
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-125016(P2013-125016)
(22)【出願日】2013年6月13日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成22年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「超高温耐熱TaCを用いた自己循環型SiCプロセス環境の実用化」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
(71)【出願人】
【識別番号】000222842
【氏名又は名称】東洋炭素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118784
【弁理士】
【氏名又は名称】桂川 直己
(72)【発明者】
【氏名】鳥見 聡
(72)【発明者】
【氏名】矢吹 紀人
(72)【発明者】
【氏名】野上 暁
【テーマコード(参考)】
4G077
5F045
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077AB10
4G077BE08
4G077FD02
4G077FE02
4G077FE06
4G077FE11
4G077FG04
4G077FG17
4G077HA06
4G077HA12
5F045AB06
5F045AC16
5F045AD18
5F045AE15
5F045AE17
5F045AF02
5F045AF13
5F045EB13
5F045HA05
5F045HA06
(57)【要約】
【課題】単結晶SiC基板の表面に形成されたマクロステップバンチングを除去する方法を提供する。
【解決手段】オフ角度を有する単結晶SiC基板の表面処理中に形成されたマクロステップバンチングを除去する表面処理方法において、以下の方法が提供される。即ち、この方法では、単結晶SiC基板の周囲の不活性ガス圧を調整することで、当該単結晶SiC基板の表面をエッチングするエッチング速度を所定の範囲内にして、当該不活性ガス及びSiの雰囲気中で単結晶SiC基板を加熱処理することで、マクロステップバンチングを除去する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オフ角度を有する単結晶SiC基板の表面処理中に形成されたマクロステップバンチングを除去する表面処理方法において、
前記単結晶SiC基板の周囲の不活性ガス圧を調整することで、当該単結晶SiC基板の表面をエッチングするエッチング速度を所定の範囲内にして、当該不活性ガス及びSiの雰囲気中で前記単結晶SiC基板を加熱処理することで、前記マクロステップバンチングを除去することを特徴とする単結晶SiC基板の表面処理方法。
【請求項2】
請求項1に記載の単結晶SiC基板の表面処理方法であって、
エッチング速度が100nm/min以上となるように前記不活性ガス圧を調整することを特徴とする単結晶SiC基板の表面処理方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の単結晶SiC基板の表面処理方法であって、
前記マクロステップバンチングの除去時の加熱温度を考慮して、不活性ガス圧を調整することを特徴とする単結晶SiC基板の表面処理方法。
【請求項4】
請求項1から3までの何れか一項に記載の単結晶SiC基板の表面処理方法であって、
前記マクロステップバンチングの除去時の不活性ガス圧を、少なくとも一時的に0.5Pa以上10Pa以下とすることを特徴とする単結晶SiC基板の表面処理方法。
【請求項5】
請求項1から4までの何れか一項に記載の単結晶SiC基板の表面処理方法であって、
前記単結晶SiC基板にイオンが注入されるイオン注入工程を含み、
前記単結晶SiC基板の表面のイオン注入不足部分と、前記マクロステップバンチングと、を同時に除去することを特徴とする単結晶SiC基板の表面処理方法。
【請求項6】
請求項1から5までの何れか一項に記載の表面処理方法を用いて表面が処理されたことを特徴とする単結晶SiC基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主要には、単結晶SiC基板の表面に発生したマクロステップバンチングを除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
SiCは、Si等と比較して耐熱性及び機械的強度等に優れるため、新たな半導体材料として注目されている。なお、単結晶SiC基板の表面には、初めは結晶欠陥等が存在していることがある。
【0003】
特許文献1は、この単結晶SiC基板の表面を平坦化する(修復する)表面平坦化方法を開示する。この表面平坦化方法では、単結晶SiC基板に炭化層及び犠牲成長層を形成し、この犠牲成長層をエッチングすることで、表面を平坦化する。これにより、エピタキシャル成長のための高品質な種基板を生産することができる。なお、特許文献1では、高真空下でエッチングを行う旨が開示されている。
【0004】
一般的には、上記のようにして生産された種結晶に対して、エピタキシャル成長、イオン注入、及びイオン活性化等の処理が行われる。
【0005】
また、特許文献2は、単結晶SiC基板の表面にカーボン層(グラフェンキャップ)を形成した上で、上記のイオン活性化を行うことで、イオン活性化時のSi及びSiCの昇華を抑制する方法を開示する。その後、この方法では、カーボン層を除去するとともに、イオン注入不足部分を除去するために、単結晶SiC基板の表面をエッチングする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−230944号公報
【特許文献2】特開2011−233780号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献2には詳細は記載されていないが、オフ角を有する基板に対してイオン活性化等の加熱処理を行うことで、マクロステップバンチングが発生する。マクロステップバンチングとは、複数のSiC層によって高さが1nm以上のステップの束が形成される現象(又は複数のSiC層によって形成されたステップそのもの)である。
【0008】
マクロステップバンチングが発生すると、半導体素子のデバイス構造が不安定になったり、電界の局所集中によって半導体素子としての性能が低下したりする。従って、従来では、高真空のSi雰囲気中で加熱処理を行って、マクロステップバンチングを除去していた。
【0009】
しかし、高真空中のSi雰囲気中で加熱処理を行うと、エッチング速度が速いので基板を過剰に除去してしまう可能性がある。特に、イオン注入後の基板を除去する場合は、イオン注入部分を大幅に除去してしまう可能性があるため、解決が望まれていた。
【0010】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その主要な目的は、単結晶SiC基板の表面に形成されたマクロステップバンチングを除去する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0011】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0012】
本発明の第1の観点によれば、オフ角度を有する単結晶SiC基板の表面処理中に形成されたマクロステップバンチングを除去する表面処理方法において、以下の方法が提供される。即ち、この方法では、前記単結晶SiC基板の周囲の不活性ガス圧を調整することで、当該単結晶SiC基板の表面をエッチングするエッチング速度を所定の範囲内にして、当該不活性ガス及びSiの雰囲気中で前記単結晶SiC基板を加熱処理することで、前記マクロステップバンチングを除去する。
【0013】
これにより、マクロステップバンチングを除去することができるので、単結晶SiC基板及びそれを用いた半導体素子の品質を向上させることができる。また、不活性ガス圧を用いてエッチング速度を制御することでエッチング速度を抑えることができるので、単結晶SiC基板の表面が過剰に除去されることを防止できる。
【0014】
前記の単結晶SiC基板の表面処理方法においては、エッチング速度が100nm/min以上となるように前記不活性ガス圧を調整することが好ましい。
【0015】
これにより、エッチング速度が約100nm/min以下だとマクロステップバンチングを除去できないため、上記の制御を行うことでマクロステップバンチングを確実に除去することができる。
【0016】
前記の単結晶SiC基板の表面処理方法においては、前記マクロステップバンチングの除去時の加熱温度を考慮して、不活性ガス圧を調整することが好ましい。
【0017】
これにより、エッチング速度は加熱温度にも依存するため、上記の制御を行うことで、マクロステップバンチングを確実に除去するとともに、単結晶SiC基板の表面が過剰に除去されることを防止できる。
【0018】
前記の単結晶SiC基板の表面処理方法においては、前記マクロステップバンチングの除去時の不活性ガス圧を、少なくとも一時的に0.5Pa以上10Pa以下とすることが好ましい。
【0019】
これにより、エッチング速度を100nm/min以上にすることができるので、マクロステップバンチングを確実に除去できる。
【0020】
前記の単結晶SiC基板の表面処理方法においては、以下のようにすることが好ましい。即ち、前記単結晶SiC基板にイオンが注入されるイオン注入工程を含む。前記単結晶SiC基板の表面のイオン注入不足部分と、前記マクロステップバンチングと、を同時に除去する。
【0021】
これにより、イオン注入不足部分とマクロステップバンチングとを同時に除去できるので効率的に表面処理を行うことができる。また、本願ではエッチング速度を抑えることができるのでイオンが注入された部分が過剰に除去されることを防止できる。
【0022】
本発明の第2の観点によれば、前記の表面処理方法を用いて表面が処理されたことを特徴とする単結晶SiC基板が提供される。
【0023】
これにより、マクロステップバンチングが除去されるとともに、必要な分だけ表面がエッチングされた単結晶SiC基板を生産できるので、高品質な単結晶SiC基板が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の表面処理方法に用いる高温真空炉の概要を説明する図。
図2】各工程における基板の様子を概略的に示す図。
図3】エッチングによりイオン注入不足部分が除去されることを示すグラフ。
図4】加熱温度と、エッチング速度と、の関係性を示すグラフ。
図5】不活性ガスの圧力と、エッチング速度と、の関係性を加熱温度毎に示すグラフ。
図6】不活性ガスの圧力を変えてエッチングを行ったときの基板の表面の顕微鏡写真及び表面粗さを示す図。
図7】(a)処理時間に対するエッチング量及びエッチング速度の関係を示すグラフ。(b)処理時間を変えてエッチングを行ったときの基板の表面を示す顕微鏡写真。
【発明を実施するための形態】
【0025】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0026】
初めに、図1を参照して、本実施形態の加熱処理で用いる高温真空炉10について説明する。図1は、本発明の表面処理方法に用いる高温真空炉の概要を説明する図である。
【0027】
図1に示すように、高温真空炉10は、本加熱室21と、予備加熱室22と、を備えている。本加熱室21は、単結晶SiC基板を1000℃以上2300℃以下の温度に加熱することができる。予備加熱室22は、単結晶SiC基板を本加熱室21で加熱する前に予備加熱を行うための空間である。
【0028】
本加熱室21には、真空形成用バルブ23と、不活性ガス注入用バルブ24と、真空計25と、が接続されている。真空形成用バルブ23により、本加熱室21の真空度を調整することができる。不活性ガス注入用バルブ24により、本加熱室21内の不活性ガス(例えばArガス)の圧力を調整することができる。真空計25により、本加熱室21内の真空度を測定することができる。
【0029】
本加熱室21の内部には、ヒータ26が備えられている。また、本加熱室21の側壁や天井には図略の熱反射金属板が固定されており、この熱反射金属板によって、ヒータ26の熱を本加熱室21の中央部に向けて反射させるように構成されている。これにより、単結晶SiC基板を強力且つ均等に加熱し、1000℃以上2300℃以下の温度まで昇温させることができる。なお、ヒータ26としては、例えば、抵抗加熱式のヒータや高周波誘導加熱式のヒータを用いることができる。
【0030】
また、単結晶SiC基板は、坩堝(収容容器)30に収容された状態で加熱される。坩堝30は、適宜の支持台等に載せられており、この支持台が動くことで、少なくとも予備加熱室から本加熱室まで移動可能に構成されている。
【0031】
坩堝30は、互いに嵌合可能な上容器31と下容器32とを備えている。また、坩堝30は、タンタル金属からなるとともに、炭化タンタル層を内部空間に露出させるようにして構成されている。
【0032】
単結晶SiC基板を加熱処理する際には、初めに、図1の鎖線で示すように坩堝30を高温真空炉10の予備加熱室22に配置して、適宜の温度(例えば約800℃)で予備加熱する。次に、予め設定温度(例えば、約1800℃)まで昇温させておいた本加熱室21へ坩堝30を移動させ、単結晶SiC基板を加熱する。
【0033】
次に、上記の高温真空炉10を利用して単結晶SiC基板40から半導体素子を製造する処理について図2及び図3を参照して説明する。図2は、各工程における基板の様子を概略的に示す図である。図3は、エッチングによりイオン注入不足部分が除去されることを示すグラフである。なお、本実施形態では、オフ角を有する単結晶SiC基板40を用いるものとする。
【0034】
初めに、図2(a)に示すように、単結晶SiC基板40にエピタキシャル層41を形成する。エピタキシャル層を形成する方法は、任意であり、公知の気相エピタキシャル法や準安定溶媒エピタキシャル法等を用いることができる。更には、単結晶SiC基板40がOFF基板である場合、ステップフロー制御によってエピタキシャル層を形成するCVD法を用いることもできる。
【0035】
次に、図2(b)に示すように、エピタキシャル層41が形成された単結晶SiC基板40にイオン注入を行う。このイオン注入は、対象物にイオンを照射する機能を有するイオンドーピング装置を用いて行う。イオンドーピング装置によって、エピタキシャル層41の表面の全面又は一部に選択的にイオンが注入される。そして、イオンが注入されたイオン注入部分42に基づいて半導体素子の所望の領域が形成されることになる。
【0036】
また、イオンが注入されることによって、図2(c)に示すように、イオン注入部分42を含むエピタキシャル層41の表面が荒れた状態になる(単結晶SiC基板40の表面が損傷し、平坦度が悪化する)。
【0037】
次に、注入したイオンを活性化する処理を行う。この処理は、Si蒸気圧下で単結晶SiC基板40を1500℃以上2200℃以下、望ましくは1600℃以上2000℃以下の環境で加熱する。これにより、注入されたイオンを活性化することができる。
【0038】
また、本実施形態で用いた基板70は、オフ角を有しているため、この加熱処理によって、マクロステップバンチングが発生する(図2(d)を参照)。このマクロステップバンチングが発生すると、上述したように、半導体素子のデバイス構造が不安定になったり、電界の局所集中によって半導体素子としての性能が低下したりする。この点、本実施形態では、以下で説明するエッチング処理によって、このマクロステップバンチングを除去することができる。
【0039】
マクロステップバンチングは、条件にもよるが基板70の表面から100nm程度まで形成されている。また、図3に示すように、単結晶SiC基板40の表面から数十nm程度には、注入されたイオンのイオン濃度が不足する部分(イオン注入不足部分)が表れる。以上の点を考慮して、本実施形態では単結晶SiC基板40の表面を100nm程度除去する必要がある。以下具体的に説明する。
【0040】
このエッチング工程では、Si蒸気圧下で単結晶SiC基板40を加熱することで行う。なお、従来では、エッチング速度が高速であるため、イオン注入不足部分及びマクロステップバンチングのみを精度良く除去することが困難であった。
【0041】
この点、本実施形態では、不活性ガスの圧力を調整することで、エッチング速度を正確かつ簡単に制御することができる。エッチング速度を制御することで、エッチング量を正確に把握することができるので、イオン注入不足部分及びマクロステップバンチングのみをエッチングにより除去することが可能となる。
【0042】
以下、不活性ガスの圧力とエッチング速度との関係性等について図4から図6を参照して説明する。
【0043】
従来から知られているように、単結晶SiC基板のエッチング速度は、加熱温度に依存する。図4は、所定の環境下において、加熱温度を1600℃、1700℃、1750℃、及び1800℃としたときのエッチング速度を示すグラフである。このグラフの横軸は温度の逆数であり、このグラフの縦軸はエッチング速度を対数表示している。図4に示すように、このグラフは直線となっている。そのため、例えば温度を変更したときのエッチング速度を見積もることができる。
【0044】
図5は、オフ角が4°の基板における不活性ガス圧とエッチング速度との関係を示すグラフである。具体的には、このグラフから分かるように、従来エッチング処理を行っていた高真空環境ではエッチング速度が比較的高いため、エッチング量を正確に把握することが困難であった。この点、本実施形態では、不活性ガス圧を高くすることでエッチング速度を低下させることができる。これにより、エッチング量を正確に把握して、イオン注入不足部分とマクロステップバンチングのみを除去することができる。
【0045】
次に、エッチング速度とマクロステップバンチングの除去との関係性について説明する。図6は、不活性ガスの圧力を変えてエッチングを行ったときの基板の表面を示す顕微鏡写真である。図7は、(a)処理時間に対する(累計の)エッチング量及びエッチング速度の関係を示すグラフと、(b)処理時間を変えてエッチングを行ったときの基板70の表面を示す顕微鏡写真である。
【0046】
図6の左端には、エッチング処理を行う前における単結晶SiC基板40の表面の顕微鏡写真が示されている。この顕微鏡写真には無数の直線が写っているが、この直線はマクロステップバンチングの段差を示している。未処理の顕微鏡写真の右側には、不活性ガス圧を異ならせて1800℃で15分加熱した後における単結晶SiC基板40の表面の顕微鏡写真及び表面粗さが示されている。また、その下側には、対応する顕微鏡写真の拡大図が示されている。
【0047】
これらの図に示すように、不活性ガスの圧力が1.3kPaの場合はマクロステップバンチングが残存しており、不活性ガスの圧力が133Paになると、表面粗さが顕著に低下しマクロステップバンチングの一部が除去されていることが分かる。また、不活性ガスの圧力が13Paと1.3Paの場合及び高真空の場合は更に表面粗さが低下してマクロステップバンチングがほぼ全て除去できていることが分かる。
【0048】
なお、図7では、不活性ガスの圧力を1.3kPaとして1800℃で15分、60分、及び180分加熱したときのデータが示されている。図7(a)に示すように、エッチング速度は略一定であるため、時間の経過に比例するようにエッチング量が増加している。しかし、図7(b)に示すように、エッチング量が十分である60分経過後及び180分経過後であってもマクロステップバンチングは除去されていない。従って、マクロステップバンチングを除去できるか否かは、エッチング量ではなくエッチング速度に依存していることが分かる。
【0049】
ここで、これらの実験結果と図5のグラフ、及び図6の表面粗さの数値とに基づいて、エッチング速度が100nm/min以上である場合にマクロステップバンチングの分解が開始されて一部が除去され、更にエッチング速度を高めればマクロステップバンチングをほぼ全て除去可能であることが分かる。
【0050】
また、エッチング速度が速過ぎる場合、イオン注入部分を過剰に除去してしまうおそれがあるので、エッチング速度が速過ぎることは好ましくない。以上より、不活性ガス圧を例えば0.5Paから10Pa程度とすることが好ましい。なお、エッチング速度は、不活性ガス圧だけでなく、加熱温度及びSiの圧力にも依存するため、それらを考慮してエッチング速度を調整することが好ましい。
【0051】
更には、図6に示すように、マクロステップバンチングを除去した後でも微小な凹凸が残存する場合がある。この微小な凹凸が半導体素子の性能の観点等から問題となる場合は、以下の処理を行っても良い。即ち、初めに不活性ガスの圧力を調整してエッチング速度を100nm/min以上にして加熱処理を行ってマクロステップバンチングを分解又は除去する。その後、不活性ガスを更に加えてエッチング速度を低下させ、表面の平坦性を向上させる。
【0052】
次に、本実施形態のエッチングと、従来の方法によるエッチングと、を比較した実験及びその結果について説明する。
【0053】
(実施例1)
4H−SiC 4°−off(0001)(□10mm/4”)、エピタキシャル層n−type1×1016/cm3〜10μmの単結晶SiC基板に、Alイオンの多段注入を、高温(500℃)、1×1019atoms/cm3、基板表面から500nm、の条件下で行った。このイオン注入後の単結晶SiC基板を、直径20mmの蓋付の上記の坩堝内に載置し、1600℃でAr1.3kPa雰囲気下において5分間のエッチングを行った。
【0054】
(比較例1)
イオン注入後の単結晶SiC基板に、従来のカーボン層を形成してアニールを行い、上記の実施例1と電気特性を比較した。
【0055】
実施例1及び比較例1の電気特性を測定したところ、比較例1によるアニール処理後では、シート抵抗1.35×104ohm/square、キャリア密度3.47×1017/cm3であったのに対し、実施例1によるアニール処理後では、シート抵抗3.26×104ohm/square、キャリア密度3.89×1017/cm3であった。従って、活性化は、ほぼ遜色のないレベルであることが確認された。
【0056】
また、比較例1、実施例1に用いた単結晶SiC基板の、エピタキシャル成長直後、イオン注入直後の表面について、RBS(ラザフォード後方散乱)測定によりチャネリング測定を行ってχmin値を測定した。その結果、エピタキシャル成長直後は2.0%、イオン注入直後は7.8%となったが、実施例1は2.5%、比較例1は2.4%と、結晶性回復の効果についても従来のカーボン層を用いた場合と同等であることが確認された。
【0057】
以上に説明したように、本実施形態では、単結晶SiC基板40の周囲の不活性ガス圧を調整することで、当該単結晶SiC基板40の表面をエッチングするエッチング速度を所定の範囲内にして、当該不活性ガス及びSiの雰囲気中で単結晶SiC基板40を加熱処理することで、マクロステップバンチングを除去する。
【0058】
これにより、マクロステップバンチングを除去することができるので、単結晶SiC基板40及びそれを用いた半導体素子の品質を向上させることができる。また、不活性ガス圧を用いてエッチング速度を制御することでエッチング速度を抑えることができるので、単結晶SiC基板40の表面が過剰に除去されることを防止できる。
【0059】
また、本実施形態の表面処理方法においては、エッチング速度が100nm/min以上となるように不活性ガス圧を調整する。
【0060】
これにより、エッチング速度が約100nm/min以下だとマクロステップバンチングを除去できないため、上記の制御を行うことでマクロステップバンチングを確実に除去することができる。
【0061】
また、本実施形態の表面処理方法においては、マクロステップバンチングの除去時の加熱温度を考慮して、不活性ガス圧を調整する。
【0062】
これにより、エッチング速度は加熱温度にも依存するため、上記の制御を行うことで、マクロステップバンチングを確実に除去するとともに、単結晶SiC基板40の表面が過剰に除去されることを防止できる。
【0063】
また、本実施形態の表面処理方法においては、マクロステップバンチングの除去時の不活性ガス圧を、少なくとも一時的に0.5Pa以上10Pa以下とする。
【0064】
これにより、エッチング速度を100nm/min以上にすることができるので、マクロステップバンチングを確実に除去できる。
【0065】
また、本実施形態の表面処理方法においては、単結晶SiC基板40にイオンが注入されるイオン注入工程を含み、単結晶SiC基板40の表面のイオン注入不足部分と、マクロステップバンチングと、を同時に除去する。
【0066】
これにより、イオン注入不足部分とマクロステップバンチングとを同時に除去できるので効率的に表面処理を行うことができる。また、本願ではエッチング速度を抑えることができるのでイオンが注入された部分が過剰に除去されることを防止できる。
【0067】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0068】
上記実施形態では、カーボン層(グラフェンキャップ)を形成する処理を行わないが、この処理を行っても良い。この場合、カーボン層を除去する処理と、イオンを活性化する処理と、単結晶SiC基板をエッチングする処理と、を1つの工程で行うことができる。
【0069】
不活性ガスの調整方法は任意であり、適宜の方法を用いることができる。また、エッチング工程の間、不活性ガス圧を一定にしても良いし、変化させても良い。不活性ガス圧を変化させることで、例えば初めはエッチング速度を高くして後にエッチング速度を低くして微調整を行う方法が考えられる。
【0070】
処理を行った環境及び用いた単結晶SiC基板等は一例であり、様々な環境及び単結晶SiC基板に対して適用することができる。例えば、加熱温度は上記で挙げた温度に限られず、より低温とすることでエッチング速度を一層低下させることができる。また、上述した高温真空炉以外の加熱装置を用いても良い。
【符号の説明】
【0071】
10 高温真空炉
21 本加熱室
22 予備加熱室
30 坩堝
40 単結晶SiC基板
41 エピタキシャル層
42 イオン注入部分
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7