【実施例】
【0030】
[実施例1]
(1)針状炭酸ストロンチウム粒子水性スラリーの製造
水温10℃の純水3Lに水酸化ストロンチウム八水和物(特級試薬、純度:96%以上)366gを投入し、混合して濃度5.6質量%の水酸化ストロンチウム水性懸濁液を調整した。この水酸化ストロンチウム水性懸濁液にDL−酒石酸(特級試薬、純度:99%以上)を14.2g(水酸化ストロンチウム1gに対し0.039g)加えて撹拌し水性懸濁液に溶解させた。ついで水酸化ストロンチウム水性懸濁液の温度を10℃に維持しつつ、撹拌を続けながら該水性懸濁液に二酸化炭素ガスを0.5L/分の流量(水酸化ストロンチウム1gに対して2.9mL/分の流量)にて、該水性懸濁液のpHが7になるまで吹き込んで炭酸ストロンチウム粒子を生成させた後、さらに30分間撹拌を続けて、炭酸ストロンチウム粒子水性懸濁液を得た。得られた炭酸ストロンチウム粒子水性懸濁液を95℃の温度にて12時間加熱処理して炭酸ストロンチウム粒子を針状に成長させ、その後、室温まで放冷して、針状炭酸ストロンチウム粒子水性スラリーを製造した。
【0031】
(2)針状炭酸ストロンチウム粒子の表面処理
針状炭酸ストロンチウム粒子水性スラリーをホモミキサー(プライミクス株式会社製、T.K.ホモミキサーMarkII)を用い、撹拌羽根を7.85m/秒の周速で回転させ
て撹拌しながら、該水性スラリーに、側鎖にポリオキシアルキレン基を有するポリカルボン酸の無水物からなるポリマー(マリアリムSC−0505K、日油株式会社製)を16.24g(炭酸ストロンチウム粒子100質量部に対して8質量部)添加して、該ポリマーを水性スラリーに溶解させ、ついでポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸(カオーセラ8110、花王株式会社製)を56.84g(炭酸ストロンチウム100質量部に対して28質量部)添加し、その後1時間撹拌混合を続けた。撹拌後の炭酸ストロンチウム粒子水性スラリーを120〜130℃に加熱したステンレス板の上に噴霧し、水性スラリーを乾燥して炭酸ストロンチウム微粉末を得た。得られた炭酸ストロンチウム微粉末を電子顕微鏡を用いて観察した結果、針状粒子の微粉末であることが確認された。
【0032】
(3)針状炭酸ストロンチウム微粉末の粒子サイズとBET比表面積の測定
針状炭酸ストロンチウム微粉末の電子顕微鏡画像から1000個の粒子の長径とアスペクト比とを測定し、それらの平均と長径の長さが200nm以上の針状粒子の含有率とを求めた。その結果、長径の平均が37nmでアスペクト比の平均が2.3であって、長径200nm以上の針状粒子の含有率が個数基準で0.1%以下であり(1000個中0個)、さらに長径の長さが100nm以上の針状粒子の含有率は0.1%以下(1000個中0個)であった。また得られた炭酸ストロンチウム微粉末のBET比表面積を測定したところ、98.0m
2/gであった。
【0033】
(4)針状炭酸ストロンチウム微粉末の有機溶媒への分散性の評価
1)塩化メチレンへの分散性の評価
針状炭酸ストロンチウム微粉末0.2gを塩化メチレン20gに投入し、超音波ホモジナイザーを用いて5分間分散処理して、炭酸ストロンチウム粒子濃度が1質量%の針状炭酸ストロンチウム粒子の塩化メチレン分散液を調製した。
【0034】
塩化メチレン分散液中の針状炭酸ストロンチウム粒子の粒度分布を、動的光散乱法にて測定した。
図1に粒度分布のグラフを示す。また、下記の表1に、累積粒度分布のD
50(篩下の累積粒度分布が50%となる粒子径)、D
90(篩下の累積粒度分布が90%となる粒子径)、そして標準偏差のデータを示す。
【0035】
塩化メチレン分散液の光透過率を、分光光度計を用いて測定した。有機溶媒中に大きな凝集粒子が生成していると分散液の光透過率は低下する。下記の表1に400nm、500nm、600nm、700nm及び800nmの各波長の光の透過率を示す。
【0036】
2)シクロヘキサンへの分散性の評価
針状炭酸ストロンチウム微粉末0.2gをシクロヘキサン20gに投入し、超音波ホモジナイザーを用いて5分間分散処理して、炭酸ストロンチウム粒子濃度が1質量%の針状炭酸ストロンチウム粒子のシクロヘキサン分散液を調製した。
【0037】
シクロヘキサン分散液中の針状炭酸ストロンチウム粒子の粒度分布を、動的光散乱法にて測定した。
図2に粒度分布のグラフを示す。また、下記の表2に、累積粒度分布のD
50(篩下の累積粒度分布が50%となる粒子径)、D
90(篩下の累積粒度分布が90%となる粒子径)、そして標準偏差のデータを示す。
【0038】
シクロヘキサン分散液中の光透過率を、分光光度計を用いて測定した。下記の表2に400nm、500nm、600nm、700nm及び800nmの各波長の光の透過率を示す。
【0039】
[比較例1]
実施例1の(2)針状炭酸ストロンチウム粒子の表面処理において、針状炭酸ストロンチウム粒子水性スラリーに側鎖にポリオキシアルキレン基を有するポリカルボン酸の無水物からなるポリマー(マリアリムSC−0505K)を添加しなかったこと、そしてポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸(カオーセラ8110)の添加量を48.72g(炭酸ストロンチウム100質量部に対して24質量部)としたこと以外は、実施例1と同様にしてポリカルボン酸の無水物で処理された針状炭酸ストロンチウム微粉末を製造した。得られた針状炭酸ストロンチウム微粉末の有機溶媒への分散性の評価を、実施例1と同様に行った。その結果を、
図1、2及び表1、2に示す。
【0040】
[比較例2]
実施例1の(2)針状炭酸ストロンチウム粒子の表面処理において、針状炭酸ストロンチウム粒子水性スラリーにポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸(カオーセラ8110)を添加しなかったこと、すなわち針状炭酸ストロンチウム粒子水性スラリーに、側鎖にポリオキシアルキレン基を有するポリカルボン酸の無水物(マリアリムSC−0505K)を16.24g(炭酸ストロンチウム粒子100質量部に対して8質量部)のみを添加したこと以外は、実施例1と同様にしてポリカルボン酸の無水物で処理された針状炭酸ストロンチウム微粉末を製造した。得られた針状炭酸ストロンチウム微粉末を塩化メチレンとシクロヘキサンにそれぞれ投入したところ、針状炭酸ストロンチウム粒子は塩化メチレンとシクロヘキサンのいずれでも沈降してしまい、塩化メチレンとシクロヘキサンの両者共に分散できなかった。
【0041】
表1(溶媒:塩化メチレン)
────────────────────────────────────────
粒度分布 光透過率(%)
───────────────── ──────────────────
D
50(nm) D
90(nm) 標準偏差(%) 400nm 500nm 600nm 700nm 800nm
────────────────────────────────────────
実施例1 35.8 75.1 19.9 21.7 32.9 40.7 45.2 48.3
────────────────────────────────────────
比較例1 199.2 365.4 99.5 0.3 1.2 2.8 4.7 6.9
────────────────────────────────────────
【0042】
表2(溶媒:シクロヘキサン)
────────────────────────────────────────
粒度分布 光透過率(%)
───────────────── ──────────────────
D
50(nm) D
90(nm) 標準偏差(%) 400nm 500nm 600nm 700nm 800nm
────────────────────────────────────────
実施例1 185.2 355.2 82.0 23.2 35.4 43.0 48.4 52.7
────────────────────────────────────────
比較例1 358.7 1754.0 412.6 0.3 0.6 0.8 1.2 1.3
────────────────────────────────────────
【0043】
図1、
図2、表1及び表2、そして比較例2の結果から、側鎖にポリオキシアルキレン基を有するポリカルボン酸(もしくはその無水物)と親水性基と疎水性基とを有し、更に水中でアニオンを形成する基を有する化合物を組み合わせて処理した本発明に従う針状炭酸ストロンチウム微粉末は、親水性基と疎水性基とを有し、更に水中でアニオンを形成する基を有する化合物のみで処理した従来の針状炭酸ストロンチウム微粉末(比較例1)及び側鎖にポリオキシアルキレン基を有するポリカルボン酸(もしくはその無水物)のみで処理した従来の針状炭酸ストロンチウム微粉末(比較例2)と比較して、塩化メチレン及びシクロヘキサンに分散させたときに、凝集粒子の発生が少なく、優れた分散性を示すことが分かる。