【解決手段】刺繍機は、上糸が挿入される複数の刺繍針と、これら複数の刺繍針26に挿入される上糸にテンションを付与する複数のテンション部(デジタル可変テンション部24)と、複数の刺繍針が選択時に横方向に移動することで複数のテンション部(デジタル可変テンション部24)に択一的に係合し、この係合したテンション部(デジタル可変テンション部24)に動力を与える駆動部(電磁ソレノイド32,駆動アーム33,作用軸35)と、を備える。
前記テンション部は、前記上糸を挟み込む前部糸テンション調子板及び後部糸テンション調子板と、前記駆動部から動力を与えられるテンション調整軸と、該テンション調整軸に連結されることで前後方向に移動し前記前部糸テンション調子板と前記後部糸テンション調子板との挟持力を調整する調整板と、前記前部糸テンション調子板と前記後部糸テンション調子板との平行度を調整するフローティング機構と、を有することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項記載の刺繍機。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態に係る刺繍機について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施の形態に係る刺繍機1を示す斜視図である。
図1に示す刺繍機1は、ミシンテーブル2と、このミシンテーブル2の中央部に大きく広がった刺繍枠3を備えている。
【0014】
刺繍枠3の下側には、複数(
図1の例では4個)の下釜部4が設けられている。刺繍枠3は、刺繍媒体を張設された後、刺繍指示書のプログラムに従って前後左右に自在に移動する。
【0015】
下釜部4に対応する上方の位置に複数(
図1の例では4個)の後述する刺繍機ヘッド20が、ヘッドレールをミシンアーム6のレール案内保持部に保持されて配置されている。
刺繍機1のミシンテーブル2には、門型フレームが配置されている。この門型フレームは、ミシンテーブル2の左右両端部に設けられた立設部7(7a、7b)と、これら2つの立設部7を連結する橋梁部8とから成る門型フレームとを有する。
【0016】
4個のミシンアーム6は、それぞれ固定部により、門型フレームの橋梁部8に固定されている。これら4個のミシンアーム6には、1本の主軸9が挿通されている。
主軸9は一端(
図1では左方の端部)を門型フレームの一方(
図1では左方)の立設部7(7b)に軸支されている。軸支された主軸9の一端には、
図1では立設部7bの内部に隠れて見えないが、プーリが固設され、図示を省略したモータのプーリとの間にベルトを掛け渡されている。このモータによって主軸9は回転駆動される。
【0017】
また、門型フレームの橋梁部8のミシンアーム6が固定されている面と同一面に、刺繍機ヘッド20の複数の針棒部を択一するカラーチェンジ部11が配設されている。カラーチェンジ部11は、4個の刺繍機ヘッド20を挿通しているカラーチェンジ軸12の軸方向の移動を制御している。
【0018】
また、門型フレームの橋梁部8の上面には、4個並んだ刺繍機ヘッド20の並び幅とほぼ対応する長手方向の長さを有する上糸台13が配設されている。上糸台13は、平板状の管置き14と棒状の糸通し15から成る。
【0019】
管置き14には、特には図示しないが、紙管(しかん)等の管(くだ)に巻かれた刺繍に用いられる各色の上糸が載置される。管から引き出された糸は、糸通し15に掛け渡されたのち更に引き出され、刺繍機ヘッド20に供給される。
【0020】
図2A及び
図2Bは、刺繍機ヘッド20を示す斜視図である。
図3は、刺繍機ヘッド20の内部構造を示す斜視図である。
図4A及び
図4Bは、刺繍機ヘッド20の下部を示す斜視図である。
【0021】
刺繍機ヘッド20は、固定テンション部21と、天秤22と、糸道カバー23と、デジタル可変テンション部24と、上糸ロック部25と、刺繍針26と、布押さえ27と、を例えば9組のそれぞれに備える。
【0022】
また、刺繍機ヘッド20は、リニアガイド29と、ガイド溝部材30と、溝部材保持部31と、駆動部の一例である、電磁ソレノイド(駆動源)32、駆動アーム33、アーム支持部34、及び作用軸35と、を備える。
【0023】
固定テンション部21には、
図1に示す糸通し15から刺繍機ヘッド20に供給される上糸28が押し付けるように挿入される。固定テンション部21は、挿入された上糸28に一定のテンションを付与する。
【0024】
天秤22は、揺動し、自由端である先端において
図7に示す上糸28が引っ掛けられている。なお、天秤22には、トーションバネを配置し、天秤22の揺動動作とトーションバネの付勢力により上糸28を引き上げるようにしてもよい。
【0025】
図2に示すように、糸道カバー23は、上糸の右側において前方に突出し、突出部分の前端において直角に左方向に折り曲げられた板状を呈し、天秤22の下方において上糸の糸道を覆う。
【0026】
図5A〜
図5Cに示すように、デジタル可変テンション部24は、前端ガイドプレート24aと、調整用板の一例であるデジタルテンションプレート24bと、フローティング機構の一例であるフローティング用縦方向ピン24c及びフローティング用横方向ピン24dと、前部糸テンション調子板24eと、後部糸テンション調子板24fと、糸切れ検出ディスク24gと、ベアリング24hと、糸切れ検出センサ24iと、糸切れ検出用スリット24jと、ブッシュ24k,24Lと、テンション調整軸24mと、作用軸用前部フランジ部24nと、作用軸用後部フランジ部24oと、を有する。
【0027】
デジタル可変テンション部24は、天秤22よりも下方に配置され、上糸28を供給側から天秤側22へ折り返すとともに上糸28にテンションを付与するテンション部の一例である。また、糸切れ検出ディスク24g、糸切れ検出センサ24i、及び糸切れ検出用スリット24jは、糸切れ検出手段の一例である。
【0028】
前端ガイドプレート24aは、デジタルテンションプレート24bの前方に配置されている。また、前端ガイドプレート24aは、後述する糸切れ検出ディスク24gにおいて天秤22側に上方へ折り返され再度天秤22において下方へ折り返された後の上糸28について、デジタルテンションプレート24bとの間に糸道を形成する。
【0029】
デジタルテンションプレート24bは、後述するブッシュ24k,24Lの内側に配置され前後方向に微動するテンション調整軸24mに連結され、このテンション調整軸24mは、後述する電磁ソレノイド32によって前後方向に微動可能になっている。これにより、デジタルテンションプレート24bは、前後方向に微動し、後方に配置された後述する前部糸テンション調子板24e及び後部糸テンション調子板24fによる上糸28の挟持力を調整する。
【0030】
フローティング用縦方向ピン24cは、デジタルテンションプレート24bにより支持されている。一方、フローティング用横方向ピン24dは、後述する前部糸テンション調子板24eにより支持されている。フローティング用縦方向ピン24cとフローティング用横方向ピン24dとは長手方向が交差するように設けられている。
【0031】
これらフローティング用縦方向ピン24cとフローティング用横方向ピン24dとが点接触により当接することで、デジタルテンションプレート24bが傾いても前部糸テンション調子板24eに傾きが発生してテンション調整に誤差が生じるのを防ぐことができる。なお、フローティング機構としては、前部糸テンション調子板24eと後部糸テンション調子板24fとの平行度を調整するものであればよく、上述のフローティング用縦方向ピン24c及びフローティング用横方向ピン24dを用いた構造に限定されない。
【0032】
前部糸テンション調子板24e及び後部糸テンション調子板24fは、上述のようにデジタルテンションプレート24bにより挟持力を調整されて上糸28を挟み込む。また、前部糸テンション調子板24eと後部糸テンション調子板24fとは、上糸28を、固定テンション部21から供給され糸切れ検出ディスク24gにおいて折り返された後において挟持する。なお、糸切れ検出ディスク24gにおいて折り返される前の上糸28は、前部糸テンション調子板24eの後面に形成された図示しない溝を通るため、挟持されない。このような構成を採用しているのは、糸切れ検出ディスク24gにおける上糸28の引き回しによる屈曲、回転抵抗の影響を受けずに上糸28を挟持するためである。
【0033】
糸切れ検出ディスク24gは、上糸28が巻き付けられるため、上糸28が供給されるとベアリング24h内を回転し、ひいては、糸切れ検出ディスク24gとともにテンション調整軸24mと同軸上に設けられた糸切れ検出用スリット24jを回転させる。
【0034】
糸切れ検出センサ24iは、糸切れ検出用スリット24jの回転を検出する光学式のセンサであり、エンコーダを構成する。
ブッシュ24k,24Lは、テンション調整軸24mと刺繍機20の本体側のケーシングとの間に設けられている。
【0035】
カラーチェンジ等により刺繍針26が選択されると、その選択された刺繍針26に対応するデジタル可変テンション部24の作用軸用前部フランジ部24nと作用軸用後部フランジ部24oとの間に、後述する作用軸35が挿入される。この作用軸35は、本実施の形態では、作用軸用後部フランジ部24oを押圧することで、上述のテンション調整軸24m及びデジタルテンションプレート24bを介して、上糸28にテンションを付与する。作用軸35の押圧力は、電磁ソレノイド32の電流値によって変動するため、上糸28に付与するテンションを調整することができる。
【0036】
図2に示す上糸ロック部25は、開放位置と閉鎖位置とをとり、閉鎖位置において上糸28を固定する。
刺繍針26は、布押さえ27により保持される刺繍対象である例えば布を貫通するように上下動する。
【0037】
図4A及び
図4Bに示すリニアガイド29は、
図1に示すミシンアーム6のガイド溝部材30に摺動自在に嵌入されている。ガイド溝部材30は、溝部材保持部31に固定されている。
【0038】
図4Aに示すように、電磁ソレノイド32は、駆動アーム33に連結され、この駆動アーム33は、電磁ソレノイド32の動力を、作用軸35を介してデジタル可変テンション部24に伝える。
【0039】
駆動アーム33は、電磁ソレノイド32に対する連結部分である左端の力点と、アーム支持部34により揺動自在に支持された揺動中心となる支点と、の間に位置する作用点として作用軸35が固定されている。この作用軸35は、例えば、駆動アーム33の中央に配置されている。
【0040】
そのため、半分の動力(推力)で作用軸35を移動させることができる。この作用軸35は、上述のとおり、
図5Cに示すようにデジタル可変テンション部24の作用軸用前部フランジ部24nと作用軸用後部フランジ部24oとの間に挿入される。
【0041】
なお、
図1に示すカラーチェンジ軸12によって複数の刺繍針26が選択時に横方向に移動することで、作用軸35は、複数のデジタル可変テンション部24のうち、選択される刺繍針26のデジタル可変テンション部24に択一的に係合するように配置されている。
【0043】
まず、
図8Aに示すように、上糸28は、例えば
図1に示す糸通し15から固定テンション部21に供給され、一定のテンションを付与される。そして、上糸28は、固定テンション部21からそのまま下方へ延びる(上糸28−1)。
【0044】
次に、
図8Bに示すように、上糸28−1は、デジタル可変テンション部24において、前部糸テンション調子板24eと後部糸テンション調子板24fとの間で糸切れを検出されるとともに、デジタルテンションプレート24b、テンション調整軸24m等によりテンションを調整され、天秤22側へ折り返される(上糸28−2)。
【0045】
図8Cに示すように、上糸28−2は、天秤22に引っ掛けられて折り返され、再度デジタル可変テンション部24側へ延びる(上糸28−3)。
図8Dに示すように、天秤22から折り返された上糸28−3は、前端ガイドプレート24aとデジタルテンションプレート24bとの間を通って下方に延びる(上糸28−4)。
【0046】
図8Eに示すように、上糸28−4は、上糸ロック部25に固定され、刺繍針26によって
図1に示す下釜部4に供給される。
なお、上述の説明において、微細なテンション調整を行うために、駆動部の駆動源の一例として電磁ソレノイド32を用いているが、シリンダその他の駆動源を用いることも可能である。
【0047】
また、上述の説明において、駆動源は、刺繍針の数よりも少ない数であれば刺繍針ごとに個別に駆動源を配置する構成よりも簡素化を図ることができるため、例えば、刺繍機ヘッド20の左右に計2つ配置されるようにしてもよい。
【0048】
また、上述の説明において、駆動アーム33を省略して、電磁ソレノイド32が択一的に係合するデジタル可変テンション部24に直接動力を伝えるようにしてもよい。
また、上述の説明において、テンション部(デジタル可変テンション部24)が糸切れ検出手段を有するが、糸切れ検出ディスクを別体に配置することも可能ではある。但し、糸道経路の簡素化の観点では、本実施の形態の構成を採用することが望ましい。
【0049】
また、上述の説明において、本実施の形態の刺繍機ヘッド20の上糸28の引き回しは、作業性を向上させるため、穴への糸挿入作業を排除し、溝呼び込みへの押し付け作業により糸セット作業を完了させることが可能なものであるが、テンション部等の各部の配置や構成は、あくまで一例であり、適宜変更することも可能である。
【0050】
以上説明した本実施の形態の刺繍機1の刺繍機ヘッド20の駆動部(電磁ソレノイド(駆動源)32,駆動アーム33,アーム支持部34,作用軸35)は、複数の刺繍針26が選択時に横方向に移動することで複数のテンション部(デジタル可変テンション部24)に択一的に係合し、この係合したテンション部(デジタル可変テンション部24)に動力を与える。
【0051】
そのため、テンション部(デジタル可変テンション部24)のそれぞれに駆動部を配置しなくとも上糸28のテンションを調整することができる。
よって、本実施の形態によれば、簡素な構成で上糸28のテンションを調整することができる。
【0052】
また、本実施の形態では、駆動部は、駆動源の一例である電磁ソレノイド32と、この電磁ソレノイド32の動力をテンション部(デジタル可変テンション部24)に伝える駆動アーム33と、を有し、この駆動アーム33は、電磁ソレノイド32に対する連結部分である力点と、揺動中心となる支点(アーム支持部34)との間に位置する作用点において、デジタル可変テンション部24に係合する。
【0053】
そのため、電磁ソレノイド32とデジタル可変テンション部24とを直接連結する場合よりも少ない動力(推力)で上糸28のテンションを調整することができる。そのため、駆動源を定格推力の弱いものを選定することが可能となり、小型化による更なる簡素化、及びコストダウンを図ることもできる。
【0054】
また、本実施の形態では、テンション部(デジタル可変テンション部24)は、糸切れ検出手段(糸切れ検出ディスク24g、糸切れ検出センサ24i、及び糸切れ検出用スリット24j)を有する。そのため、糸道経路を簡素化して刺繍機ヘッド20ひいては刺繍機1を簡素化することができる。
【0055】
また、本実施の形態では、テンション部(デジタル可変テンション部24)は、上糸28を挟み込む前部糸テンション調子板24e及び後部糸テンション調子板24fと、駆動部から動力を与えられるテンション調整軸24mと、このテンション調整軸24mに連結されることで前後方向に移動し前部糸テンション調子板24eと後部糸テンション調子板24fとの挟持力を調整する調整板(デジタルテンションプレート)と、前部糸テンション調子板24eと後部糸テンション調子板24fとの平行度を調整するフローティング機構(フローティング用縦方向ピン24c及びフローティング用縦方向ピン24d)と、を有する。そのため、上糸28のテンションをより確実に調整することができる。なお、調整板(デジタルテンションプレート)は、後部糸テンション調子板24fの後方に配置して後部糸テンション調子板24fとの間で上記の第1のピン及び第2のピンを互いに当接させる構成をとることも可能である。
【0056】
また、本実施の形態では、テンション部(デジタル可変テンション部24)は、天秤22よりも下方に配置され、上糸28を供給側から天秤22側へ折り返すとともに上糸28にテンションを付与する。そのため、上糸28の屈曲回数を減らして刺繍機ヘッド20ひいては刺繍機1を簡素化することができるとともに、針先の近くにおいて上糸28の屈曲等によるテンションの増幅を抑えて正確にテンションを調整することができる。
【0057】
また、本実施の形態では、供給側から天秤22側への折り返し部分に配置されたテンション部の一例としてデジタル可変テンション部24を採用したことにより、テンションの微調整を可能とし、生産効率向上、前段取りの効率化、品質維持・向上などを図ることができるとともに、作業者のオペレーションレベルに品質等が左右されるのを防ぐことができる。