特開2015-86340(P2015-86340A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-86340(P2015-86340A)
(43)【公開日】2015年5月7日
(54)【発明の名称】白色発光蛍光体及び白色発光装置
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/59 20060101AFI20150410BHJP
   C09K 11/08 20060101ALI20150410BHJP
   H01L 33/50 20100101ALI20150410BHJP
【FI】
   C09K11/59CPR
   C09K11/08 B
   H01L33/00 410
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-228268(P2013-228268)
(22)【出願日】2013年11月1日
(71)【出願人】
【識別番号】000119988
【氏名又は名称】宇部マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074675
【弁理士】
【氏名又は名称】柳川 泰男
(72)【発明者】
【氏名】福田 晃一
(72)【発明者】
【氏名】天谷 仁
(72)【発明者】
【氏名】有馬 憲治
【テーマコード(参考)】
4H001
5F142
【Fターム(参考)】
4H001CA02
4H001CF02
4H001XA08
4H001XA12
4H001XA14
4H001XA38
4H001YA63
5F142AA23
5F142BA02
5F142BA32
5F142CA02
5F142CD02
5F142CD16
5F142CD17
5F142CD18
5F142CD44
5F142CD47
5F142CE03
5F142CE13
5F142CE16
5F142CE17
5F142CG04
5F142CG05
5F142CG26
5F142DA02
5F142DA03
5F142DA12
5F142DA45
5F142DA53
5F142DA55
5F142DA72
5F142DA73
(57)【要約】
【課題】新規な白色発光蛍光体を提供する。
【解決手段】ストロンチウム化合物、マグネシウム化合物、ユウロピウム化合物そしてケイ素化合物を含む原料混合物を焼成して得られた白色発光蛍光体であって、構成元素としてストロンチウム、マグネシウム、ユウロピウムそしてケイ素を含み、CuKα線を用いて入射角θで測定されるX線回折パターンにおいて、回折角2θで32.6〜33.0度の範囲にあるX線回折ピークA、回折角2θで31.1〜31.3度の範囲にあるX線回折ピークB、そして回折角2θで42.9〜43.0度の範囲にあるX線回折ピークCを有する白色発光蛍光体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ストロンチウム化合物、マグネシウム化合物、ユウロピウム化合物そしてケイ素化合物を含む原料混合物を焼成して得られた白色発光蛍光体であって、構成元素としてストロンチウム、マグネシウム、ユウロピウムそしてケイ素を含み、CuKα線を用いて入射角θで測定されるX線回折パターンにおいて、回折角2θで32.6〜33.0度の範囲にあるX線回折ピークA、回折角2θで31.1〜31.3度の範囲にあるX線回折ピークB、そして回折角2θで42.9〜43.0度の範囲にあるX線回折ピークCを有する白色発光蛍光体。
【請求項2】
原料混合物が、ストロンチウム化合物をケイ素化合物中のケイ素を1モルとしたときのストロンチウム量として1.45〜2.00モルの範囲の量にて、マグネシウム化合物をケイ素化合物中のケイ素を1モルとしたときのマグネシウム量として0.20〜2.00モルの範囲の量にて、そしてユウロピウム化合物をケイ素化合物中のケイ素を1モルとしたときのユウロピウム量として0.01〜0.20モルの範囲の量にて含む請求項1に記載の白色発光蛍光体。
【請求項3】
原料混合物が、マグネシウム化合物をケイ素化合物中のケイ素を1モルとしたときのマグネシウム量として0.40〜2.00モルの範囲の量にて含む請求項2に記載の白色発光蛍光体。
【請求項4】
X線回折ピークAの強度が、X線回折ピークBの強度を1としたときに0.05〜20の範囲にある請求項1に記載の白色発光蛍光体。
【請求項5】
X線回折ピークCの強度が、X線回折ピークBの強度を1としたときに0.20以上である請求項1に記載の白色発光蛍光体。
【請求項6】
400nmの波長の光で励起させることによって、色度図におけるxが0.15〜0.45の範囲にあって、yが0.15〜0.50の範囲にある白色光を発光する請求項1に記載の白色発光蛍光体。
【請求項7】
ストロンチウム化合物、マグネシウム化合物、ユウロピウム化合物そしてケイ素化合物を含み、ストロンチウム化合物をケイ素化合物中のケイ素を1モルとしたときのストロンチウム量として1.45〜2.00モルの範囲の量にて、マグネシウム化合物をケイ素化合物中のケイ素を1モルとしたときのマグネシウム量として0.20〜2.00モルの範囲の量にて、そしてユウロピウム化合物をケイ素化合物中のケイ素を1モルとしたときのユウロピウム量として0.01〜0.20モルの範囲の量にて含有し、但し、ハロゲン化合物をケイ素化合物中のケイ素を1モルとしたときのハロゲン量として0.01モル以上含むことがない原料混合物を、還元性雰囲気中にて900〜1500℃の範囲で0.5〜100時間焼成することによって得られたものである白色発光蛍光体。
【請求項8】
電気エネルギーを付与することによって波長が350〜430nmの範囲にある光を発光する発光性半導体素子と、該発光性半導体素子の周囲に配置された、ストロンチウム化合物、マグネシウム化合物、ユウロピウム化合物そしてケイ素化合物を含む原料混合物を焼成して得られた白色発光蛍光体であって、構成元素としてストロンチウム、マグネシウム、ユウロピウムそしてケイ素を含み、CuKα線を用いて入射角θで測定されるX線回折パターンにおいて、回折角2θで32.6〜33.0度の範囲にあるX線回折ピークA、回折角2θで31.1〜31.3度の範囲にあるX線回折ピークB、そして回折角2θで42.9〜43.0度の範囲にあるX線回折ピークCを有する白色発光蛍光体を含む白色発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白色発光蛍光体に関する。本発明はまた、上記の白色発光蛍光体を用いた白色発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気エネルギーを付与することによって光を発光する発光性半導体素子と、発光性半導体素子から発光した光で励起させることによって可視光を発光する蛍光体とを備えたLEDランプは、長寿命でかつ消費電力量が少ない発光装置として注目されている。特に、白色光を発光するLEDランプは、白色LEDランプとも呼ばれ、照明用ランプとして実用化されている。
【0003】
白色LEDランプとしては、発光性半導体素子として電気エネルギーを付与することによって青色光を発光する青色光発光性半導体素子を用い、蛍光体として青色光で励起させることによって黄色光を発光する黄色発光蛍光体を用いた構成のランプが知られている。このランプでは、青色光発光性半導体素子から発光した青色光と、黄色発光蛍光体から発光した黄色光との混色によって白色光が得られる。
【0004】
また、別の構成の白色LEDランプとしては、発光性半導体素子として電気エネルギーを付与することによって波長が350〜430nmの範囲にある光(紫外光乃至紫色光)を発光する半導体素子を用い、蛍光体として紫外光乃至紫色光で励起させることによって白色光を発光する白色発光蛍光体を用いた構成のランプが知られている。このランプでは、発光性半導体素子から発光した紫外光乃至紫色光で白色発光蛍光体を励起させることによって白色光が得られる。白色発光蛍光体としては、青色発光蛍光体、緑色発光蛍光体及び赤色発光蛍光体の三種の蛍光体を混合した蛍光体混合物が知られている。この蛍光体混合物では、各蛍光体から発光した青色光、緑色光及び赤色光の混色によって白色光が得られる。
【0005】
また、単一の材料からなる白色発光蛍光体も知られている。特許文献1には、単一材料からなる白色発光蛍光体として、SrabMgcZndSief:Eu2+の式(但し、e=1の時、0<(c+d)/(a+c+d)≦0.2、1.8≦a+c+d≦2.2、0≦b/(b+f)≦0.07、3.0≦b+f≦4.4)で示される白色発光蛍光体が記載されている。この文献の実施例1−1〜1−16には、SrCO3、MgO、SiO2そしてEuF3を含有する原料混合物を焼成して得た白色発光蛍光体が記載されている。そして、この実施例で得られている白色発光蛍光体は、Sr3MgSi28の相とSr2SiO4の相とからなる蛍光体であるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−332352号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、新規な白色発光蛍光体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、ストロンチウム化合物、マグネシウム化合物、ユウロピウム化合物そしてケイ素化合物を含む原料混合物の焼成物であって、CuKα線を用いて入射角θで測定されるX線回折パターンにおいて、回折角2θで32.6〜33.0度の範囲にあるX線回折ピークA、回折角2θで31.1〜31.3度の範囲にあるX線回折ピークB、そして回折角2θで42.9〜43.0度の範囲にあるX線回折ピークCを有する焼成物は、400nmの波長の光で励起させると白色光を効率良く発光することを見出して、本発明を完成させた。
【0009】
従って、本発明は、ストロンチウム化合物、マグネシウム化合物、ユウロピウム化合物そしてケイ素化合物を含む原料混合物を焼成して得られた白色発光蛍光体であって、構成元素としてストロンチウム、マグネシウム、ユウロピウムそしてケイ素を含み、CuKα線を用いて入射角θで測定されるX線回折パターンにおいて、回折角2θで32.6〜33.0度の範囲にあるX線回折ピークA、回折角2θで31.1〜31.3度の範囲にあるX線回折ピークB、そして回折角2θで42.9〜43.0度の範囲にあるX線回折ピークCを有する白色発光蛍光体にある。
【0010】
本発明の白色発光蛍光体の好ましい態様は、次の通りである。
(1)原料混合物が、ストロンチウム化合物をケイ素化合物中のケイ素を1モルとしたときのストロンチウム量として1.45〜2.00モルの範囲の量にて、マグネシウム化合物をケイ素化合物中のケイ素を1モルとしたときのマグネシウム量として0.20〜2.00モルの範囲の量にて、そしてユウロピウム化合物をケイ素化合物中のケイ素を1モルとしたときのユウロピウム量として0.01〜0.20モルの範囲の量にて含む。
(2)原料混合物が、マグネシウム化合物をケイ素化合物中のケイ素を1モルとしたときのマグネシウム量として0.40〜2.00モルの範囲の量にて含む。
(3)X線回折ピークAの強度が、X線回折ピークBの強度を1としたときに0.05〜20の範囲にある。
(4)X線回折ピークCの強度が、X線回折ピークBの強度を1としたときに0.20以上である。
(5)400nmの波長の光で励起させることによって、国際照明委員会で定められた色度図におけるxが0.15〜0.45の範囲にあって、yが0.15〜0.50の範囲にある白色光を発光する。
【0011】
本発明はまた、ストロンチウム化合物、マグネシウム化合物、ユウロピウム化合物そしてケイ素化合物を含み、ストロンチウム化合物をケイ素化合物中のケイ素を1モルとしたときのストロンチウム量として1.45〜2.00モルの範囲の量にて、マグネシウム化合物をケイ素化合物中のケイ素を1モルとしたときのマグネシウム量として0.20〜2.00モルの範囲の量にて、そしてユウロピウム化合物をケイ素化合物中のケイ素を1モルとしたときのユウロピウム量として0.01〜0.20モルの範囲の量にて含有し、但し、ハロゲン化合物をケイ素化合物中のケイ素を1モルとしたときのハロゲン量として0.01モル以上含むことがない原料混合物を、還元性雰囲気中にて900〜1500℃の範囲で0.5〜100時間焼成することによって得られたものである白色発光蛍光体にもある。
【0012】
本発明はさらに、電気エネルギーを付与することによって波長が350〜430nmの範囲にある光を発光する発光性半導体素子と、該発光性半導体素子の周囲に配置された、ストロンチウム化合物、マグネシウム化合物、ユウロピウム化合物そしてケイ素化合物を含む原料混合物を焼成して得られた白色発光蛍光体であって、構成元素としてストロンチウム、マグネシウム、ユウロピウムそしてケイ素を含み、CuKα線を用いて入射角θで測定されるX線回折パターンにおいて、回折角2θで32.6〜33.0度の範囲にあるX線回折ピークA、回折角2θで31.1〜31.3度の範囲にあるX線回折ピークB、そして回折角2θで42.9〜43.0度の範囲にあるX線回折ピークCを有する白色発光蛍光体を含む白色発光装置にもある。
【発明の効果】
【0013】
本発明の白色発光蛍光体は、波長が350〜430nmの範囲にある光で励起させたときの白色光の発光効率が高い。このため、本発明の白色発光装置は、発光性半導体素子として電気エネルギーを付与することによって波長が350〜430nmの範囲にある光を発光する素子を用いた白色LEDランプのような白色発光装置の白色光の光源として有利に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に従う白色発光装置の一例の断面図である。
図2】実施例1にて製造した蛍光体のX線回折パターンである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の白色発光蛍光体は、ストロンチウム化合物、マグネシウム化合物、ユウロピウム化合物及びケイ素化合物を含む原料混合物を焼成することによって得られた焼成物であって、構成元素としてストロンチウム、マグネシウム、ユウロピウムそしてケイ素を含む。この白色発光蛍光体のストロンチウムの含有量は、ケイ素1モルに対する量として一般に1.45〜2.00モルの範囲、好ましくは1.55〜1.90モルの範囲である。マグネシウムの含有量は、ケイ素1モルに対する量として一般に0.20〜2.00モルの範囲、好ましくは0.40〜1.60モルの範囲である。また、ストロンチウムの含有量は、マグネシウム1モルに対する量として一般に0.5〜4.0モルの範囲、好ましくは0.8〜3.5モルの範囲にある。ユウロピウムの含有量は、ケイ素1モルに対する量として一般に0.01〜0.20モルの範囲、好ましくは0.02〜0.10モルの範囲にある。白色発光蛍光体に含まれるストロンチウム、マグネシウム、ユウロピウムそしてケイ素の量は、一般に原料混合物に含まれる量と同じである。
【0016】
本発明の白色発光蛍光体は、ストロンチウム、マグネシウム、ユウロピウム及びケイ素以外の元素を含んでいてもよい。この元素の例としては、カルシウム及びバリウムなどのアルカリ土類金属元素、ユウロピウム以外の希土類金属元素を挙げることができる。これらの元素の含有量は、ケイ素1モルに対する量として、一般に0.5モル未満、好ましくは0.3モル未満、特に好ましくは0.1モル未満である。
【0017】
本発明の白色発光蛍光体は、CuKα線(CuKα1線とCuKα2線とを含む)を用いて入射角θで測定されるX線回折パターンにおいて、回折角2θで32.6〜33.0度の範囲にあるX線回折ピークA、回折角2θで31.1〜31.3度の範囲にあるX線回折ピークB、そして回折角2θで42.9〜43.0度の範囲にあるX線回折ピークCを有する。X線回折ピークAは、組成式がSr3MgSi28で表される化合物に起因するX線回折ピークであると考えられる。X線回折ピークBは、組成式がSr2SiO4で表される化合物に起因するX線回折ピークであると考えられる。X線回折ピークCは、酸化マグネシウムに起因するX線回折ピークであると考えられる。
【0018】
X線回折ピークAの強度は、X線回折ピークBの強度を1としたときに、一般に0.05〜20の範囲、好ましくは0.07〜15の範囲、より好ましくは0.10〜10の範囲、特に好ましくは0.20〜5.0の範囲にある。X線回折ピークCの強度は、X線回折ピークBの強度を1としたときに、一般に0.20以上、好ましくは0.30以上、特に好ましくは0.50以上であり、上限は一般に5.0、好ましくは4.0である。
【0019】
本発明の白色発光蛍光体を400nmの波長の光で励起させることによって得られる白色光は、色度図におけるxが、0.15〜0.45の範囲にあることが好ましく、0.23〜0.43の範囲にあることがより好ましく、0.28〜0.38の範囲にあることが特に好ましい。また、色度図におけるyは0.15〜0.50の範囲にあることが好ましく、0.23〜0.43の範囲にあることがより好ましく、0.28〜0.38の範囲にあることが特に好ましい。なお、本発明において、色度図は国際照明委員会(CIE)により定められた色度図を意味する。また、本発明の白色発光蛍光体から発光した白色光は、波長が430〜480nmの範囲と波長が520〜580nmの範囲のそれぞれに発光ピークを有することが好ましい。波長が430〜480nmの範囲にある発光ピークと波長が520〜580nmの範囲にある発光ピークの強度比(前者/後者)は、0.10〜10の範囲にあることが好ましく、0.20〜5.0の範囲にあることが特に好ましい。本発明の白色発光蛍光体は、外部量子効率が一般に30%以上、好ましくは35%以上、特に好ましくは40%以上である。外部量子効率は、蛍光体に光を照射し、その光で蛍光体を励起させて光を発光させたときに、蛍光体に照射した光の量子数に対する、蛍光体から発光した光の量子数の割合を意味する。この外部量子効率が大きい白色発光蛍光体は白色光の発光効率が高い。
【0020】
本発明の白色発光蛍光体は、ストロンチウム化合物、マグネシウム化合物、ユウロピウム化合物そしてケイ素化合物を含む原料混合物を焼成することによって製造することができる。原料混合物は、ストロンチウム化合物をケイ素化合物中のケイ素を1モルとしたときのストロンチウム量として1.45〜2.00モルの範囲の量にて、マグネシウム化合物をケイ素化合物中のケイ素を1モルとしたときのマグネシウム量として0.20〜2.00モルの範囲の量にて、そしてユウロピウム化合物をケイ素化合物中のケイ素を1モルとしたときのユウロピウム量として0.01〜0.20モルの範囲の量にて含むことが好ましい。但し、原料混合物は、ハロゲン化合物のようなフラックス(融剤)として作用する化合物の含有量は少ない方が好ましい。特に、原料混合物のハロゲン化合物の含有量は、ケイ素化合物中のケイ素を1モルとしたときのハロゲン量として0.01モル以上含むことがないように抑えることが好ましい。原料混合物がフラックスとして作用する化合物を多く含むと、原料混合物の焼成時にマグネシウム化合物がストロンチウム化合物あるいはケイ素化合物と反応し易くなるため、酸化マグネシウムに起因するX線回折ピークCを有する白色発光蛍光体が生成しにくくなる。
【0021】
ストロンチウム化合物、マグネシウム化合物、ユウロピウム化合物及びケイ素化合物は、酸化物であってもよいし、水酸化物、炭酸塩(塩基性炭酸塩を含む)、硝酸塩、シュウ酸塩などの加熱により酸化物を生成する化合物であってもよい。各化合物はそれぞれ一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。各化合物は、純度が99質量%以上であることが好ましい。
【0022】
原料混合物の混合方法には、乾式混合法及び湿式混合法のいずれの方法も採用することができる。湿式混合法では、回転ボールミル、振動ボールミル、遊星ミル、ペイントシェーカー、ロッキングミル、ロッキングミキサー、ビーズミル、撹拌機などを用いることができる。溶媒には、水、あるいはエチルアルコール、イソプロピルアルコールなどの低級アルコールを用いることができる。
【0023】
原料混合物の焼成は一般に還元性雰囲気中で行う。還元性雰囲気は、0.5〜5.0体積%の水素と99.5〜95.0体積%の不活性気体との混合ガス雰囲気であることが好ましい。不活性気体の例としては、アルゴン及び窒素を挙げることができる。焼成温度は、一般に900〜1500℃の範囲である。焼成時間は、一般に0.5〜100時間の範囲、好ましくは0.5〜10時間の範囲である。
【0024】
本発明の白色発光蛍光体は、電気エネルギーを付与することによって波長が350〜430nmの範囲にある光を発光する発光性半導体素子を用いた白色LEDランプなどの白色発光装置の白色光の光源として使用することができる。本発明の白色発光蛍光体は、他の蛍光体と組み合わせて使用してもよい。他の蛍光体の例としては、紫外光乃至紫色光で励起させることによって黄色光を発光する黄色発光蛍光体あるいは紫外光で励起させることによって赤色光を発光する赤色発光蛍光体を挙げることができる。
【0025】
次に、本発明の白色発光蛍光体を白色光の光源として用いた白色発光装置を、図1を参照しながら説明する。
図1は、本発明に従う白色発光装置の一例の断面図である。図1において、白色発光装置(白色LEDランプ)は、基板1と、基板1の上に接着剤2により固定された発光性半導体素子3、基板1の上に形成された一対の電極4a、4b、発光性半導体素子3と電極4a、4bとを電気的に接続するリード線5a、5b、発光性半導体素子3を被覆する樹脂層6、樹脂層6の上に設けられた白色発光蛍光体7が分散されている封止材8、そして樹脂層6と封止材8の周囲を覆う光反射材9、そして電極4a、4bと外部電源(図示せず)とを電気的に接続する導電線10a、10bからなる。この白色発光装置において、導電線10a、10bを介して電極4a、4bに電圧を印加して、発光性半導体素子3に電気エネルギーを付与することによって、発光性半導体素子3から波長が350〜430nmの範囲にある光(紫外光乃至紫色光)が発光する。そして、その紫外光乃至紫色光で封止材8中の白色発光蛍光体7を励起させることによって白色光が得られる。
【0026】
基板1の例としては、ガラス基板、アルミナや窒素アルミニウムなどのセラミックから形成された基板、及び金属酸化物やガラスなどの無機物粒子を分散させた樹脂材料から形成された基板を挙げることができる。発光性半導体素子3は、AlGaN系半導体素子のような電気エネルギーを付与することによって波長が350〜430nmの範囲にある光を発光する半導体素子であることが好ましい。樹脂層6の材料の例としては、エポキシ樹脂及びシリコーン樹脂などの透明樹脂を挙げることができる。樹脂層6は省略してもよい。封止材8の材料としてはエポキシ樹脂及びシリコーン樹脂などの透明樹脂を挙げることができる。光反射材9の形成材料の例としては、Al、Ni、Fe、Cr、Ti、Cu、Rh、Ag、Au、Ptなどの金属、アルミナ、ジルコニア、チタニア、マグネシア、酸化亜鉛、炭酸カルシウムなどの白色金属化合物、及び白色顔料を分散させた樹脂材料を挙げることができる。
【0027】
白色発光装置は、例えば、次のようにして製造することができる。基板1に所定のパターンで電極4a、4bと導電線10a、10bを形成する。次に、基板1の上に接着剤2により発光性半導体素子3を固定した後、ワイヤボンディングなどの方法により、発光性半導体素子3と電極4a、4bとを電気的に接続するリード線5a、5bを形成する。次に、発光性半導体素子3の周囲に光反射材9を固定した後、発光性半導体素子3の上に硬化性透明樹脂を流し込み、その硬化性透明樹脂を硬化させて樹脂層6を形成する。そして、樹脂層6の上に、硬化性透明樹脂に白色発光蛍光体7を分散させた硬化性透明樹脂組成物を流し込み、次いでその硬化性透明樹脂組成物を硬化させて白色発光蛍光体7が分散されている封止材8を形成する。
【実施例】
【0028】
[実施例1]
炭酸ストロンチウム粉末、酸化マグネシウム粉末、酸化ユウロピウム粉末そして二酸化ケイ素粉末を、モル比で1.67:1.27:0.03:1(=SrCO3:MgO:Eu23:SiO2)の割合となるように秤量した。秤量した各原料粉末をエチルアルコールと共にロッキングミルに入れて、1時間混合して原料粉末のスラリーを得た。原料粉末のスラリーの溶媒(エチルアルコール)を、エバポレータを用いて除去し、得られた固形物を真空乾燥機を用いて15時間乾燥して原料混合物を得た。得られた原料混合物から、篩(目開き:250μm)を用いて分級した。篩を通過した原料混合物を、アルゴンガス98体積%と水素ガス2体積%とを含む還元性ガス中にて1450℃の温度で6時間焼成して、蛍光体を製造した。得られた蛍光体は、乳鉢に入れて解砕した。各原料粉末の割合を下記の表1に示す。
【0029】
[実施例2〜11]
炭酸ストロンチウム粉末、酸化マグネシウム粉末、酸化ユウロピウム粉末そして二酸化ケイ素粉末の割合を、下記の表1に示す割合としたこと以外は、実施例1と同様にして蛍光体を製造した。
【0030】
表1
────────────────────────────────────────
SrCO3 MgO Eu23 SiO2
────────────────────────────────────────
実施例1 1.67 1.27 0.03 1
実施例2 1.67 1.00 0.03 1
実施例3 1.67 0.50 0.03 1
実施例4 1.77 1.17 0.03 1
実施例5 1.57 1.37 0.03 1
実施例6 1.47 1.47 0.03 1
実施例7 1.47 1.27 0.03 1
実施例8 1.47 1.07 0.03 1
実施例9 1.47 0.50 0.03 1
実施例10 1.47 0.45 0.03 1
実施例11 1.67 0.33 0.03 1
────────────────────────────────────────
【0031】
[評価]
(1)X線回折パターンの測定
実施例1〜11にて製造した蛍光体のX線回折パターンを、X線回折装置(D8 ADVANCE、ブルカー・エイエックス(株)製)を用いて下記の測定条件にて測定した。図2に、実施例1にて製造した蛍光体のX線回折パターンを示す。なお、X線回折パターンは、CuKα1線に起因する回折ピークとCuKα2線に起因する回折ピークとを含む。図2のX線回折パターンから回折角2θで32.6〜33.0度の範囲にあるX線回折ピークA、回折角2θで31.1〜31.3度の範囲にあるX線回折ピークB、そして回折角2θで42.9〜43.0度の範囲にあるX線回折ピークCが確認された。実施例2〜11で製造した蛍光体のX線回折パターンからも同様にX線回折ピークA、X線回折ピークB、そしてX線回折ピークCが確認された。各実施例の蛍光体のX線回折パターンからX線回折ピークA、X線回折ピークBそしてX線回折ピークCの強度を計測し、X線回折ピークBの強度を1としたときのX線回折ピークAの強度(A/B)及びX線回折ピークBの強度を1としたときのX線回折ピークCの強度(C/B)を算出した。その結果を表2に示す。
【0032】
[X線回折パターンの測定条件]
測定:連続測定
X線:CuKα線(CuKα1線とCuKα2線とを含む)
管電圧:40kV
管電流:40mA
発散スリット幅:0.3deg
散乱スリット幅:0.3deg
受光スリット幅:5.56mm
スキャンモード:4deg/分
スキャンステップ:0.005deg
【0033】
表2
─────────────────────────
A/B C/B
─────────────────────────
実施例1 2.0 0.63
実施例2 1.7 0.44
実施例3 1.8 0.22
実施例4 0.9 0.42
実施例5 3.9 0.92
実施例6 15.2 2.68
実施例7 12.7 1.93
実施例8 10.8 1.35
実施例9 13.4 0.45
実施例10 10.2 0.33
実施例11 1.7 0.12
─────────────────────────
【0034】
(2)発光スペクトルの測定
実施例1〜11にて製造した蛍光体に波長400nmの紫外光を照射して蛍光体を励起させたところ、各実施例の全ての蛍光体から白色光が発生していることが確認できた。この白色光の発光スペクトルを測定したところ、各実施例の全ての蛍光体の発光スペクトルから、波長が430〜480nmの範囲と波長が520〜580nmの範囲のそれぞれに発光ピークが確認できた。発光スペクトルから波長が430〜480nmの範囲にある発光ピークと波長が520〜580nmの範囲にある発光ピークの強度を計測し、その比(前者/後者)を算出した。また、得られた発光スペクトルから、国際照明委員会で定められた色度図におけるxとyの値を常法により求めた。これらの結果を表3に示す。
【0035】
(3)外部量子効率の測定
1)標準白板を積分球の内側底部に取り付けた。標準白板表面に、該表面に対して垂直にピーク波長400nmの紫外光を照射した。積分球壁で散乱された光のスペクトルを測定し、波長380〜410nmの光のピーク面積(L)を測定した。
2)実施例1〜11にて製造した蛍光体をそれぞれ試料ホルダーに充填し、試料ホルダーを積分球の内側底部に取り付けた。試料ホルダーの白色発光蛍光体の表面に、該表面に対して垂直にピーク波長400nmの紫外光を照射した。積分球壁で散乱された光のスペクトルを測定し、波長410〜700nmの光のピーク面積(E)を測定した。そして、下記の式から蛍光体の外部量子効率を算出した。その結果を表3に示す。
白色発光蛍光体の外部量子効率(%)=100×E/L
【0036】
表3
────────────────────────────────────────
色相*) 強度比**) 色度図のx 色度図のy 外部量子効率(%)
────────────────────────────────────────
実施例1 白色 1.18 0.356 0.349 46.2
実施例2 白色 1.33 0.345 0.337 36.3
実施例3 白色 1.34 0.342 0.340 35.7
実施例4 白色 0.51 0.408 0.422 44.3
実施例5 白色 2.04 0.304 0.282 51.8
実施例6 白色 4.75 0.233 0.190 65.0
実施例7 白色 6.74 0.223 0.177 57.3
実施例8 白色 5.21 0.237 0.198 60.4
実施例9 白色 6.10 0.226 0.188 59.5
実施例10 白色 9.75 0.200 0.152 43.5
実施例11 白色 1.66 0.324 0.320 32.9
────────────────────────────────────────
*)蛍光体に波長400nmの紫外光を照射して蛍光体を励起させたときに、蛍光体から発生した光の色相である。
**)波長が430〜480nmの範囲にある発光ピークと波長が520〜580nmの範囲にある発光ピークの強度の比(前者/後者)である。
【0037】
表2と表3に示す結果から、本発明に従う白色発光蛍光体は、波長400nmの紫外光によって励起させたときの外部量子効率が高い値を示すことが分かる。
【符号の説明】
【0038】
1 基板
2 接着剤
3 発光性半導体素子
4a、4b 電極
5a、5b リード線
6 樹脂層
7 白色発光蛍光体
8 封止材
9 光反射材
10a、10b 導電線
図1
図2