【背景技術】
【0002】
我々の生活空間においては、様々な物品が使用されている。例えば食器などの日用品、建造物の壁や床などに使用される建材、趣味や嗜好に合わせた工芸品などが、様々な生活空間の中で使用されている。これら日用品、建材、工芸品などは、自然界から採掘される天然原料を用いて製造されることが多い。例えば、自然界から採掘される陶石が用いられて、日用品や工芸品などが製造されることが多い。また、建材においても、自然界から採掘される天然原料を用いて製造されることがある。
【0003】
ここで、陶土や配合土など、自然界から採掘・加工されて、これら日用品、建材、工芸品などの製造に用いられる素材の元となる原料を、成形用組成物と称することとする。すなわち、日用品、建材、工芸品などの一定の形状を有する物品は、可塑性のある素材から成形されて固化されて製造される。このため、これら日用品、建材、工芸品などの物品を製造する素材の元となる原料を、成形用組成物と称することにする。なお、可塑性とは、力を加えると連続的に変形が起こり、力を除くと、その直前の状態を保つことのできる性質のことをいうものとする。
【0004】
上述したように陶土や配合土など成形用組成物は、一般的には自然界から採掘・加工される。例えば、日本各地で焼き物の産地として有名な地域には、陶土を製造するのに最適な天然原料が、現在あるいは過去において産出している。例えば、熊本県の天草陶石は江戸時代から現在に至るまで採掘が行われ、陶磁器原料として主に九州地域で消費されている。このように天然原料から陶土が製造され、この陶土が用いられて日用品や工芸品が製造されている。
【0005】
一方で、近年においては、上述の陶土原料のうち良質のものが減少しており、良質の陶土原料を十分な量で採掘することが難しくなっている。例えば、「何何焼き」と呼ばれる、地域名を冠した陶磁器の製造には、元来は当該地域あるいはその近隣地域で産出される陶土原料を用いていたが、これらの陶土原料は長年にわたって採掘されているために、その採掘量が十分に確保できなくなっているという問題がある。
【0006】
あるいは、近年の環境問題への意識の高まりと共に自然界の陶土原料を大量に採掘することに対する懸念も高まっているケースもある。陶土原料の採掘においては、山を削ったり森林を減少させたりすることが実際に行われているからである。山や森林を減少させることは、二酸化炭素を指標とする地球温暖化においても好ましくないからである。
【0007】
また、日用品や工芸品のみでなく、建材を製造するのに用いられる成形用組成物もほとんどは自然界から採掘される。自然界から採掘された岩石や鉱物が、その目的に応じて処理され、成形、加工等の工程を経て、建材が製造される。
【0008】
このように、日用品、工芸品、建材などの様々な物品を製造する組成物は、自然界から採掘される天然原料を用いることが多い。前記の陶土原料と同様に、自然界で採掘されるこれら天然原料の採掘可能量が減少している問題がある。採掘可能な埋蔵量が減少している問題と共に、採掘することによる環境負荷の問題があるからである。
【0009】
一方、上述のような日用品や工芸品は、陶磁器製ではなく合成樹脂製の製品が市場に溢れている。皿、茶碗、コップなどの生活に身近な陶磁器製飲食器は、製造工程が短く、製造原価が低い合成樹脂製に取って代わられている。すなわち合成樹脂製の飲食器は、原料の安定供給や、射出成形機などによる生産性の高い製造工程により、製造原価を陶磁器製品よりもはるかに低く抑えることが可能となっている。
【0010】
合成樹脂の原材料についても、その原材料は基本的に石油であり、他の多くの消費財と供給源を共有しているため、そのコストを低くできる。
【0011】
このように、合成樹脂の原料原価、成形にかかる加工原価が、陶磁器の素材に比べて低く抑えられていることが、合成樹脂製品が陶磁器製品に置き換わっている大きな原因である。
【0012】
しかしながら、このように合成樹脂人工素材を用いた日用品や工芸品などは、これらが廃棄されることによる新たな環境問題を引き起こしている。上述の通り、製造の容易性やコストの低さから、市場には人工素材製品の一つであるプラスチック製品があふれている。このプラスチックの原料は化石燃料であり、プラスチック製品の増加は化石燃料の使用量の増加をもたらしている。この点で環境負荷を大きくしている。
【0013】
加えて、日用品や工芸品は使い捨て感覚で短期間の使用で廃棄されることが多く、毎年多くのプラスチック製品が廃棄されている問題がある。この廃棄されるプラスチック製品は、日用品や工芸品に限らず、オフィス用品、電化製品、輸送機器の一部など、様々なものがある。
【0014】
このように、現代社会では、従来は陶磁器で製造されていた製品を代替したプラスチック製品を含み、多くのプラスチック製品があふれている。これらの多くのプラスチック製品が、短期間の使用の後で、大量に廃棄されている。これらの廃棄プラスチックは、その多くが焼却処分されるか埋め立て処分されるかしている。
【0015】
焼却処分される場合には、害のある化学物質ガスを発生させる問題がある。また、焼却に伴って地球温暖化の原因とされている二酸化炭素を大量に排出してしまう問題もある。埋め立て処分される場合には、埋立地の不足を生じさせたり、埋め立て後の土壌汚染、水質汚染などの問題も生じさせたりしている。
【0016】
このようにして、我々の周りには、プラスチックなどの人工素材で製造される物品が主流となっていることの種々の問題が存在している。まとめると、(1)化石燃料の大量消費、(2)化石燃料で製造されたプラスチック製品等の大量廃棄および廃棄されたプラスチック製品の処理、(3)安価であることによる使い捨て指向の高まり、といった問題がある。
【0017】
このように既にプラスチックで大量生産されている日用品や工芸品などを、従来のように自然界から採掘される原料を用いた組成物に戻すことが、上記の(1)〜(3)の問題解決の第一歩となる。
【0018】
しかしながら、自然界から採掘される原料を用いた陶土などの成形用組成物で、日用品、工芸品、建材などを製造する場合には、既述のように、自然界での採掘可能量が、埋蔵量や環境問題などによって減少している問題に直面する。この結果、素材となる成形用組成物のコストが高くなる問題がある。加えて、陶土原料などの天然原料による成形用組成物を用いて、日用品や工芸品を製造するには、成形、乾燥、焼成・固化、加工・仕上げなどの様々な製造工程を必要とする。このため、素材である成形用組成物そのもののコストのみならず、物品を製造する物品製造コストも高くなる問題がある。
【0019】
このように、自然界から採掘した天然原料より得られる成形用組成物を原料として、プラスチック等の人工素材で製造された日用品、工芸品、建材などの物品を製造するには、採掘量確保、採掘における環境負荷、素材コスト、製造コストなどの産業上の問題が阻害要因となっている。
【0020】
また、プラスチック等の人工素材で物品が製造される場合には、既に固化している板材などを成形加工するだけであるので、物品の製造工程において、加熱処理をあまり必要としない。
【0021】
一方で、自然界から採掘される土壌や岩石などを陶土原料とする場合には、陶土原料を成形した上で、焼成して緻密化・固化させる必要がある。この緻密化・固化には大量の熱エネルギーを必要とするので、対応する化石燃料の消費による環境負荷を生じさせる問題がある。人工素材であっても、加工等の工程で熱を必要とするが、その温度は、高くない。
【0022】
一方で、天然素材に基づく組成物を固化させるための焼成温度は非常に高い。例えば、天然原料から得られる陶土を用いて素焼きの日用品を製造するには、その焼成には900℃前後の温度を必要とする。あるいは、天然原料から得られる陶土を用いて陶磁器の日用品を製造するには、1200℃以上の温度を必要とする。
【0023】
これらの非常に高い焼成温度を実現するためには、当然ながら、燃焼に伴うエネルギーの消費や二酸化炭素の排出という環境負荷をもたらす。また、焼成温度が高いだけでなく、長い焼成時間を必要とするので、焼成温度と焼成時間の両面からエネルギー消費や二酸化炭素排出の問題が生じる。もちろん、焼成温度や焼成時間の大きさによる、製造工程の管理コストなども高くなり、結果として、製造コストが高くなる。
【0024】
このように、自然界から採掘される天然原料から得られる成形用組成物を用いて日用品や工芸品を製造する場合には、その製造工程における技術上の問題がある。
【0025】
以上のように、人工素材であるプラスチック製品の廃棄問題や化石燃料の消費といった現代社会の問題を解決するために、人工素材の日用品や工芸品を、自然界から採掘される天然原料を素材とする日用品や工芸品に、戻していくことが求められている。
【0026】
しかしながら、この戻していく必要性においては産業上および技術上における次の課題がある。
【0027】
(課題1)天然原料が、自然界から採掘される採掘可能量が減少している。
(課題2)天然原料を自然界から採掘するにおいて、山や森林を破壊するという環境問題を生じさせる。
(課題3)天然原料を組成物(陶土など)として物品を製造するに当たって、固化のための焼成温度および焼成時間を長く必要とする問題がある。
(課題4)課題3に基づいて、燃焼による二酸化炭素排出という環境負荷問題がある。
【0028】
自然界から採掘される天然原料を用いつつも、このような課題1〜4を解決する物品を製造する新しい成形用組成物が求められている。このような状況で、組成物の提案がなされている(例えば、特許文献1参照)。
【発明を実施するための形態】
【0047】
本発明の第1の発明に係る成形用組成物は、骨材、粘土、オリゴ乳酸および不可避混合物を含有し、所定物品の製造に用いられる。
【0048】
この構成により、成形用組成物において、自然界から採掘される天然原料の割合を減らし、種々の物品を製造する材料の提供を実現できる。
【0049】
本発明の第2の発明に係る成形用組成物では、第1の発明に加えて、オリゴ乳酸は、重合度が2以上500未満である。
本発明の第3の発明に係る成形用組成物では、第1の発明に加えて、オリゴ乳酸は、分子量が、180以上5万未満である。
【0050】
これらの構成により、オリゴ乳酸は、成形用組成物内部において、均一かつ広く分散できる。結果として、オリゴ乳酸がバインダとしての機能を広く発揮できる。
【0051】
本発明の第4の発明に係る成形用組成物では、第1から第3のいずれかの発明に加えて、オリゴ乳酸は、廃棄プラスチックを所定工程で粉砕して得られる。
【0052】
この構成により、オリゴ乳酸は、リサイクルで得られる。この結果、製造される成形用組成物は、天然原料の割合を低下させる点、固化に要する焼成温度を下げる点に加えて、環境負荷を低減できる。
【0053】
本発明の第5の発明に係る成形用組成物では、所定工程は、所定工程は、過熱水蒸気による分解処理を含む。
【0054】
この構成により、重合度や分子量の小さいオリゴ乳酸を、容易に得ることができる。
【0055】
本発明の第6の発明に係る成形用組成物では、第1から第5のいずれかの発明に加えて、所定物品は、陶磁器、日用品、工芸品、建材のいずれかである。
【0056】
この構成により、成形用組成物は、成形工程および焼成工程を経て製造される様々な物品に適用できる。
【0057】
本発明の第7の発明に係る成形用組成物では、第1から第6のいずれかの発明に加えて、骨材は、石英又は長石である。
【0058】
この構成により、骨材は、成形用組成物の骨格を作ることができる。
【0059】
本発明の第8の発明に係る成形用組成物では、第7の発明に加えて、石英又は長石は、天然陶石由来であるである。
【0060】
この構成により、骨材を、容易に得ることができる。
【0061】
本発明の第9の発明に係る成形用組成物では、第1から第8のいずれかの発明に加えて、粘土は、カオリン鉱物を主成分とするカオリン粘土又は白雲母である。
【0062】
この構成により、粘土を容易に得ることができる。また可塑性に優れた成形用組成物が得られる。
【0063】
本発明の第10の発明に係る成形用組成物では、第9の発明に加えて、カオリン粘土が、木節粘土、ニュージーランドカオリン、英国SPカオリン由来のカオリン粘土である。
【0064】
この構成により、成形性に優れ、白色度の高い成形用組成物が得られる。
【0065】
本発明の第11の発明に係る成形用組成物では、第1から第10のいずれかの発明に加えて、粘土は、天草陶土由来又は七隈粘土由来のカオリン粘土又は白雲母である。
【0066】
この構成により、自然界から採掘容易な粘土を用いることができる。
【0068】
実施の形態について説明する。
(全体概要)
実施の形態における成形用組成物は、日用品、工芸品、建材などの種々の物品を製造する材料である。ここで、実施の形態における成形用組成物は、成形に用いられる材料となるので、種々の物品を製造する材料として利用されるために、次の段階を経ることもある。
【0069】
例えば、成形用組成物が、最終的に日用品や工芸品に用いられる場合には、成形用組成物は、陶土の段階を経ることがある。これら日用品や工芸品がいわゆる陶磁器の範疇において製造される場合には、成形用組成物が陶土として利用されるからである。あるいは成形用組成物が、最終的に建材に用いられる場合には、成形用組成物は、建材素材の段階を経る。このように、成形用組成物は、最終的に製造される物品に従って、必要な素材としての段階を経る。なお、成形用組成物がそのまま物品を製造するのに必要な素材として把握されても良いし、成形用組成物に別の工程や添加などが行われて、物品を製造するのに必要な素材となることで把握されても良い。
【0070】
成形用組成物は、骨材、粘土、オリゴ乳酸および不可避混合物を含有する。この成形用組成物が、日用品、工芸品、建材などの種々の物品の製造の材料として用いられる。上述したとおり、この成形用組成物に必要に応じて別の工程や別の添加物が添加されることで、次の段階の素材となる。この素材が最終的に製造される物品の直接的な材料となる。
【0071】
骨材は、成形用組成物の基本的な原料である。骨材が、成形用組成物において文字どおり主たる成分として主たる骨格をなす。すなわち、骨材は成形時においては、後述の可塑性成分である粘土と一体となって目標とする形状に変形し、一旦、成形の操作が終わると、その形状を維持するための骨格成分となる。すなわち、骨材は成形後の物品の形骸を与えるものであると同時に、骨材同士が相互に充填構造を形成することにより、物品の自重や外力など物品を変形させようとする力に抗して、物品の形骸を維持するという役割を担っている。このように成形用組成物に骨材が含まれることで、成形用組成物は、種々の物品の素材として利用される際に、物品の形状や一定の強度を生みだす。
【0072】
粘土は、成形用組成物に一定の可塑性を与える。この性質のために、例えば、成形用組成物は、水分が添加されることで、練ったり、成形・加工したりできるようになる。このような加工においては、材料そのものが水分によって混和した上で、成形・加工しやすいことが必要である。すなわち、固化していない段階で成形用組成物を成形・加工するに際して、成形用組成物は、一定の可塑性を有していることが必要である。
【0073】
粘土は、この成形用組成物が素材として成形加工される際の、可塑性を付与することができる。例えば、成形用組成物が陶土として用いられる場合には、作業者が、陶土をロクロ成形や押出し成形などの手法により所定形状に成形していく。この作業工程において、成形用組成物が一定の可塑性を有していない場合には、当然に練ったり成形したりすることが難しい。成形する工程で、ひびが入ったり崩れたりすれば、当然に物品を製造することができない。粘土は、成形用組成物を成形する工程で、成形用組成物に外力が加わると、その外力に応じて、成分粒子の間に滑りを生じさせ変形を助け、また、成形工程が終わるとその直前の状態を維持するために必要となる可塑性を付与する成分である。
【0074】
また、粘土は、成形時の可塑性だけでなく、成形された物品(低温での焼成による固化を含む)のグリーン強度も生み出す。グリーン強度は生強度とも言われ、成形した後の成形物が有する強度のことである。また、陶磁器は焼成するとさらに大きな強度(焼成強度)をもつようになるため、焼成強度に対する言葉として用いられる。
【0075】
実施の形態においては、成形用組成物が陶土として利用されて日用品や工芸品が製造される場合や、同様に相応の坏土に仕立てて建材が製造される場合でも、製造されるこれら物品は、一定のグリーン強度を有していることが求められる。成形品は固化した後に変形可能である必要はないが、外部から加わる圧力に対する応力としてのグリーン強度、すなわちハンドリング強度を有していることが好ましい。
【0076】
成形品が固化した後に自重や外的な力によって変形させようとする力が加わっても、固体化が十分なグリーン強度を有していれば、実際に変形や破壊が起こる可能性が減少する。物品を製造する材料である成形用組成物が年度を含むことで、製造される物品に圧力や衝撃に対しての強さが与えられる。すなわち、骨材や年度は、自然界から採掘される鉱物資源を粉砕して得られる。すなわち、骨材や粘土は天然材料である。
【0077】
しかしながら、従来技術で説明した通り、自然界で採掘される高品位の天然原料は減少している。更に、天然原料は地上資源であり、産業的価値に基づいて大規模な採掘が繰り返されれば、本来の地上構造が破壊されてしまい、地上の侵食や地面の陥没などを誘発することにもなる。近年、鉱物資源の採掘には、環境破壊の行為として社会の目が向けられている。このように天然原料としての鉱物は、化石燃料とは異なるものの、環境問題の側面を有していることがある。
【0078】
オリゴ乳酸は、成形用組成物を構成するに当たって、鉱物原料である骨材や粘土の体積を代替できる。しかも、オリゴ乳酸の密度は骨材や粘土の概ね半分程度であるため、成形用組成物に混合されると、成形用組成物の体積を増加させる効果がある。つまり、成形用組成物における鉱物原料の割合は相対的に低下する。
【0079】
このようにオリゴ乳酸は成形用組成物の全体量における鉱物原料の割合を減らすことができる。
【0080】
ここで、実施の形態におけるオリゴ乳酸は、ポリ乳酸を分解して製造している。ポリ乳酸は乳酸を重合させることにより得られ、その性質は汎用的なプラスチックとして知られるポリエチレンテレフタラートと類似している。その一方で、ポリ乳酸は微生物の作用や加水分解などにより自然界で分解されやすいことから、生分解性プラスチックの代表例となっている。
【0081】
ポリ乳酸の製造は、大きく糖化、発酵、精製、重合の4工程からなっている。原料はサトウキビ、トウモロコシといった植物由来の原料から製造可能なデンプンである。このデンプンを糖化して得られるグルコースを、さらに発酵させることにより乳酸が得られる。この乳酸から、エステル化、重合の操作を経て、環状二量体であるラクチドを作り、さらに開環重合によりポリ乳酸が作られている。
【0082】
このように、オリゴ乳酸は植物由来の原料から製造されており、鉱物原料と同じ天然原料である。つまり、本発明の成形用組成物は天然原料で構成されていると考えることができる。
【0083】
また、成形用組成物を用いて成形された成形物を固化するための焼成において、オリゴ乳酸は微少な粉体粒子となる事により、結合材の役割を果すことができる。このようにオリゴ乳酸が微小な粒子であるオリゴ乳酸粒子となることで、骨材等と混合される状態となる。このため、成形用組成物は、オリゴ乳酸粒子が用いられる。成形用組成物は、骨材や粘土を含んでおり、混練工程でこれらが混ざり合う。焼成においては、混ざり合った骨材と粘土のそれぞれの微小な粉体粒子は、相互に接合される必要がある。オリゴ乳酸粒子は、この骨材の微小な粒子と粘土の微小な粒子を、相互に接合する役割を担う。
【0084】
粉体粒子間の接合のメカニズムは次のように考えられる。骨材、粘土、オリゴ乳酸粒子を配合し、これに適量の水分を加えて充分な混合を行うと、それぞれの成分は均質に混ざり合う。すなわち、骨材粒子と骨材粒子、粘土粒子と粘土粒子、骨材粒子と粘土粒子の間に、オリゴ乳酸粒子が入り込み、理想的にはすべての天然原料粒子の間にオリゴ乳酸粒子が入り込んだ状態となる。オリゴ乳酸粒子はその表面に加水分解で生じたカルボキシル基や水酸基を有しており、これらの親水性基は骨材粒子や粘土粒子の表面にある水酸基と水素結合を形成している。
【0085】
このようにして成形用配合物の構成粒子はそれぞれに相互にオリゴ乳酸粒子により結合した状態になっている。この成形体にさらに熱を加えると、オリゴ乳酸粒子は少なくとも170℃付近で溶融状態となり、の天然原料粒子の密着するようになり、また前後してオリゴ乳酸粒子と天然原料粒子の間に形成された、水素結合状態にある親水性基は脱水縮合を起こし、結合状態としてより強力な共有結合に変化する。このように、天然原料粒子間のポリ乳酸は溶融状態への変化と天然原料粒子間の結合力増加により、天然原料粒子より強力に結びつけるように変化する。この結果、熱処理後の成形用組成物(成形品)の強度が高められるものと考えられる。
【0086】
また、この固化によって得られる物品は、従来の天然原料のみでの日用品や工芸品と同じ態様や同様の特性を有する。すなわち、オリゴ乳酸粒子の混合によって、成形用組成物が必要とする天然原料の割合を減らしつつ、天然原料のみで製造される物品と変わりのない物品が製造できる。
【0087】
以上のように、オリゴ乳酸粒子は、(1)成形用組成物における天然原料の割合を減らして、自然界から天然原料を採掘することに伴う問題や環境負荷に対応できる、(2)微小粒子となる事で骨材や粘土のバインダとして働き、焼成によって得られる物品の強度や耐久性を実現する、(3)天然原料の割合を減少させつつも、天然原料のみで製造された物品と外観等において遜色のない物品を製造できる、とのメリットを発揮できる。
【0088】
以上のように、実施の形態における成形用組成物は、環境負荷の問題となっている天然原料を減らしつつ、従来の天然原料のみで製造される物品と同様の物品を製造することができる。
【0089】
次に、各要素の詳細や、種々のバリエーションについて説明する。
【0090】
(オリゴ乳酸)
オリゴ乳酸は、廃棄プラスチックを所定工程で粉砕して得られる。この所定工程においては、加熱蒸気による分解処理が含まれる。現代社会においては、様々なプラスチック製品があふれており、これらが廃棄されて大量のごみとなる問題が生じている。廃棄プラスチックは、焼却処理されると有毒ガスを発生させたり、二酸化炭素を発生させたりして環境負荷を与えることになる。あるいは、一般的に容器包装等に使用されるプラスチックは、廃棄した際の容積が大きく、そのまま埋め立てると社会問題となっている埋立用地不足を更に助長させることに繋がる。
【0091】
このような廃棄プラスチックの処理や処分が、大きな社会問題となっている。
【0092】
オリゴ乳酸は、バージン原料の他にこの廃棄プラスチックが過熱水蒸気処理を含む粉砕工程を経ることにより得られる。すなわち、成形用組成物に混合されるオリゴ乳酸は、本来は廃棄されていた廃棄プラスチックをリサイクルかつ有効利用することで得られる物質である。上述で説明した通り、オリゴ乳酸は、ポリ乳酸の分解によって得られる。
【0093】
ここで、オリゴ乳酸は、ポリ乳酸とは異なる。ポリ乳酸は、その重合度が500以上であり、分子量が5万以上である。これに対して、実施の形態の成形用組成物で使用されるオリゴ乳酸は、その重合度が2以上500未満である。分子量は、180以上5万未満である。
【0094】
このように、オリゴ乳酸は、ポリ乳酸に比較してその重合度や分子量において小さい。従来技術で提案されているポリ乳酸重合体を混合物として用いる組成物では、この重合度や分子量の大きなポリ乳酸が用いられている。これに対して、実施の形態における成形用組成物では、このポリ乳酸より重合度や分子量の小さなオリゴ乳酸が用いられる。
【0095】
上述のとおり、オリゴ乳酸は、重合度が2以上500未満であり、分子量が180以上5万未満である。もちろん、更に好ましい範囲として、実施の形態の成形用組成物に含まれるオリゴ乳酸は、その重合度が2以上100未満であり、分子量が180以上9000未満である。更には、オリゴ乳酸は、重合度が2以上10数未満であり、分子量が180以上数1000未満であることでもよい。
【0096】
このように、成形用組成物は、ポリ乳酸より重合度および分子量で小さなオリゴ乳酸を利用している。
【0097】
オリゴ乳酸は、ポリ乳酸に比較して重合度や分子量が小さいので、ポリ乳酸に比較して脆く壊れやすい。すなわち、オリゴ乳酸は粉体となりやすい。一方、ポリ乳酸は、重合度や分子量が大きいので、壊れにくく粉体になりにくい。成形用組成物は、混練や成形工程を経て加工されるので、骨材、粘土と共にオリゴ乳酸が十分に分散しつつ混合されることが適当である。ポリ乳酸の場合には、粉体となりにくいことで、成形用組成物の中で十分な分散や混合が難しい。
【0098】
これに対して、オリゴ乳酸は、微小な粒子となりやすいので、成形用組成物の中で十分に分散して混合される。この結果、成形用組成物において、オリゴ乳酸が天然原料の割合を減少させることが確実に行える。
【0099】
加えて、上述したように、オリゴ乳酸は、結合材の役割を果す。このため、オリゴ乳酸が成形用組成物の中で十分に分散して混合されることで、結合材としての役割をより確実に果すことができる。バインダの役割を確実に果せることで、ポリ乳酸を混合する場合よりも、効率よく製品の強度増強を実現できる。
【0100】
このように、オリゴ乳酸が用いられることで、廃棄プラスチックのリサイクルが有効に行えるだけでなく、オリゴ乳酸はポリ乳酸に比較してバインダ機能や混合割合において、優位な結果をもたらすことができる。
【0101】
実施の形態における成形用組成物は、天然原料に加えて、廃棄プラスチックから製造される人工原料であるオリゴ乳酸を混合することで、天然原料の割合を減らしつつ、天然原料のみで製造される物品と同等の物品を製造することができる。
【0102】
(焼成温度)
また、オリゴ乳酸が用いられることで、成形用組成物を固化させる際の焼成温度を低くすることができる。
【0103】
骨材および可塑性原料などの天然原料のみの成形用組成物を成形して固化させるためには高い温度を必要とする。例えば、陶磁器の素焼き温度は一般的に900℃前後であり、磁器として緻密化するためには概ね1300℃前後の温度で焼成する必要がある。また、焼成時間も非常に長く、製造される物品の大きさや形状にもよるが、例えば陶土による人形の場合には、概ね10時間程度の焼成時間を必要とする。
【0104】
このように高い焼成温度および長い焼成時間を必要とすることは、焼成に伴うエネルギー消費(燃料消費)と、焼成によって生じる二酸化炭素の排出といった環境負荷をもたらす。また、製造者にとっても高い焼成温度と長い焼成時間は、余分な手間を生じさせる。
【0105】
これに対して、実施の形態における成形用組成物は、オリゴ乳酸を含有しており、既述のように、オリゴ乳酸は結合材として構成粒子間を接着している。すなわち、骨材粒子と粘土粒子、あるいは骨材粒子同士や粘土粒子同士を接着によって結合させている。
【0106】
また成形用組成物は、焼成によってより確実に固化する。既述のように、オリゴ乳酸粒子はその表面に加水分解によって生じたカルボキシル基や水酸基を有しており、これらの親水性基は骨材粒子や粘土粒子の表面にある水酸基と水素結合を形成している。すなわち成形用配合物の構成粒子はそれぞれに相互にオリゴ乳酸粒子により結合した状態になっており、この成形体にさらに熱を加えると、オリゴ乳酸のカルボキシル基や水酸基など親水性基は、水素結合状態にある天然原料粒子上の水酸基と脱水縮合を行い、結果として天然原料粒子はオリゴ乳酸粒子を介してより強力に結合することになると考えられる。
【0107】
一方、天然原料のみで構成される、従来の一般的な陶磁器素焼素地は、石英、長石、粘土の混合物、あるいは、石英、白雲母、粘土の混合物であるが、構成粒子同士が、主に粘土粒子の結合材としての性質によって相互に接着された状態である。用いられている粘土は主にカオリン族粘土鉱物で、さらに普通はカオリナイトが多用されている。カオリナイトは素地の成形時に可塑性を与えるだけではなく、素焼焼成の過程で結晶水を不可逆的に脱水するため、素焼製品が水を吸収することがあっても、構成粒子が水に再分散し、素焼製品が崩壊することを防いでいる。このように、天然原料のみで構成される素地は、素焼温度で焼成することにより、主に粘土粒子による接着によって、その素焼強度を保っている。
【0108】
以上のように、実施の形態における成形用組成物では、オリゴ乳酸が結合材の役割を果すため、固化のための焼成温度は低くて済む。実際には、成形用組成物の固化に要する焼成温度は、160℃〜220℃の範囲で充分である。オリゴ乳酸の溶融温度が低いためである。
【0109】
また、オリゴ乳酸が接着剤の役割を果すことで、固化に要する温度のみならず焼成時間を短くすることができる。焼成温度が低く焼成時間も短くできることで、成形用組成物を用いて陶磁器、日用品、工芸品、建材などの様々な物品を製造するに当たって、環境負荷を低減できる。
【0110】
また、オリゴ乳酸は、ポリ乳酸に比較してその重合度および分子量が小さい。このため、成形用組成物内部において、オリゴ乳酸は均一かつ広く分散する。すなわちオリゴ乳酸は、成形用組成物内部において、骨材や粘土の粉末の隙間に均質に分散して入り込むようになる。この結果、オリゴ乳酸は、ポリ乳酸の場合に比較して、より均一かつ分散した状態で溶融して骨材や粘土を接着できる。
【0111】
また、オリゴ乳酸はポリ乳酸より重合度および分子量の点で小さいことで、燃焼熱による溶融温度も低くなる。
【0112】
これらが相まって、オリゴ乳酸は、ポリ乳酸に比較してより低い焼成温度で、成形用組成物の固化を実現できる。このように、オリゴ乳酸は、成形用組成物の含有物とされる際に壊れやすく微細な粉末となりやすいことで、均一かつ広く分散して混合される。この分散と混合により、骨材や粘土との接着度合いが高まり、低い焼成温度と短い焼成時間で、固化することができる。
【0113】
(骨材)
骨材は、成形用組成物の主原料であり、成形用組成物の骨格となる成分である。
【0114】
骨材は、自然界から採掘されればよく、自然界から採掘される天然原料を分離して骨材が取り出されて使用されても良い。あるいは、自然界から採掘される天然原料が実施の形態の成形用組成物に添加される。この天然原料に含まれる骨材が、成形用組成物の骨材の成分となる。
【0115】
このように、実施の形態の成形用組成物が含有する骨材は、成分として単独で混合されても良いし、骨材を含んだ天然原料のままで混合されても良い。
【0116】
骨材は成形用組成物が成形・加工された際に、成形品の組織中で充填構造をつくり形状を維持できる粒子であれば、その鉱物の如何を問わないが、成形用組成物が陶土もしくは練土である場合は、実際には石英または長石が適当である。因みに陶土における長石は、陶土が磁器化するような高温度(通常は1300℃程度)で焼成される場合には、長石それ自身は溶融し、粘土成分をその中に溶かしこむような働きをするために、媒溶材として扱われている。一方、本願の成形用組成物は160℃〜220℃で焼成され、長石の溶融する温度よりはるかに低いために骨材として機能する。石英及び長石は、天然原料としてその存在量が多く、その採掘が容易であり、成形用組成物の主成分として、十分な量を用いることができる。
【0117】
骨材の一つである石英は、様々な天然原料から得ることができる。この天然原料は、さまざまであってよい。ただし、成形用組成物が、地域に根ざした陶磁器の陶土として用いられる場合には、地域に産出する天然原料由来の石英が骨材として用いられることも好適である。
【0118】
例として、骨材として用いられる石英や長石は、天草陶石と呼ばれる天然原料由来であることも好適である。天草陶石は採掘可能量が多く、石英または長石を成分として含み、成形用組成物として使用されるのに適切だからである。
【0119】
ここで、実施の形態における成形用組成物は、天草陶石から分離された石英を、骨材として含有しても良い。あるいは、天草陶石そのものが混合されることで、骨材としての石英を含有することになってもよい。
【0120】
もちろん、ここでは骨材成分を配合するための一例として天草陶石を挙げたが、他の天然原料に由来する骨材が用いられてもよいし、天然原料などから分離されて原料の一つとなった骨材が用いられてもよい。これらが、他の原料と共に混合されて、実施の形態における成形用組成物が得られる。
【0121】
(粘土)
粘土は成形用組成物に適量の水分を含ませて混練する際の流動性や、成形する際の可塑性を与えることができる。また、成形用組成物を乾燥した後は、微細な粘土粒子による接着効果をもたらすことができるので、オリゴ乳酸粒子による接着効果と相まって、物品の機械的強度を高く維持することに貢献する。
【0122】
このように、粘土は製造段階において成形用組成物が有する可塑性を生じさせる。このため、粘土は、成形用組成物によって製造される物品の骨格を作る機能には乏しいが、骨材粒子やオリゴ乳酸粒子の間に入り込み、成形用組成物全体に可塑性を与えることができる。
【0123】
骨材と同様に、粘土も自然界から採掘される天然原料として、実施の形態における成形用組成物に混合されても良い。あるいは、粘土を成分として含む陶石等の天然原料がそのまま成形用組成物に混合されても良い。いずれの場合でも、粘土がその成分として成形用組成物に混合されるからである。
【0124】
一例として、粘土はカオリン鉱物を主成分とするカオリン粘土もしくは白雲母であることも好適である。可塑性に優れたカオリン粘土は、国内では木節粘土や蛙目粘土があり、また、天草陶石のようにカオリン粘土の他に、カオリン粘土ではないが可塑性を持つ白雲母を含む陶石がある。
【0125】
なお、陶石は他の天然原料を配合することなく、水簸などの手段で粗粒の石英成分を除いて陶土に加工される。さらに、いくつかの人形用に多用されている七隈粘土は、天草陶土(天草陶石から単味で製造される陶土)と同様に、石英、カオリナイト、白雲母から構成されており、天草陶土と同様に成形用組成物の原料として用いて好適である。いずれもカオリン鉱物や白雲母の有する可塑性が、粘土を含有成分とする実施の形態における成形用組成物の目的に適うからである。
【0126】
また、ニュージーランドカオリン由来のカオリンが用いられることも好適である。ニュージーランドカオリンはカオリン鉱物のハロイサイトを主な構成鉱物としている。このハロイサイトもまた可塑性に富む粘土である。また、ニュージーランドカオリン由来のカオリンは、その白色度が高いので、得られる成形用組成物の白色度が高まることも、この粘土を用いる理由の一つである。
英国SPカオリンもまた成形用組成物の粘土として用いるのに好適である。英国SPカオリンの主成分はカオリナイトであるが、ニュージーランドカオリンと同じように可塑性に富んでおり、かつ白色度の高い粘土である。したがって、成形用組成物に配合されると、その白色度を高く維持することに貢献する。
【0127】
成形用組成物の白色度が高ければ、当然に製造される物品の白色度も高まる。実施の形態における成形用組成物は、オリゴ乳酸がバインダの役割を果すことで、焼成温度を低くできる。このため
、焼成によって物品の白色度が落ちにくい。このため、成形用組成物の白色度が高ければ、得られる物品の白色度も高く維持される。
【0128】
成形用組成物を用いて製造される種々の物品は、その製造後にデザインや色の付与が行われる適用性が高いことが好ましい。このため、製造される物品は、その色味が白色に近いことが好ましい。白色に近ければ、その後のデザインや色の付与が容易となるからである。加えて、付与されたデザインや色の美しさが際立つからである。
【0129】
また、国内に産する天然原料の粘土として、木節粘土由来であることも好適である。木節粘土は国内で安定的に産出する天然原料であり、採掘が容易であると共に、可塑性において優れており、得られる成形用組成物の成形性やハンドリング強度を良好にすることができる。
【0130】
以上のように、実施の形態における成形用組成物は、骨材、粘土、オリゴ乳酸および不可避混合物を含有することで、天然原料の割合を減らしつつ低い焼成温度で、種々の物品を製造できる。結果として、様々な段階および観点での環境負荷を低減できる。
【0131】
なお、骨材、粘土、オリゴ乳酸は、基本的に微粉末粒子の混合した状態として、成形用組成物が構成されれば良いが、その具体的な方法は、基本的には天然原料である骨材と粘土にオリゴ乳酸を加えて、これらを均質に混合することによって達成される。
【0132】
(実験結果)
次に、発明者が、実施の形態で説明した成形用組成物を実際に作製して、曲げ強さ、白色度、焼成温度と曲げ強さとの関係について、実験を行った。実験においては、骨材および粘土については、種々の由来のものを用いることで、複数の試料を作製して、実験を行った。
【0133】
(実験1:試料1〜試料5による実験)
実験1では、一般的な天草陶土などから得られる骨材などを主とした成形用組成物を用いた。
【0134】
発明者は、骨材、粘土およびオリゴ乳酸を含有する成形用組成物を製造し、これに成形工程、焼成工程を付与して最終的に焼成物を作製した。表1は、実験1に用いた試料1〜試料5の成形用組成物の配合を示している。すなわち、表1においては、骨材、粘土およびオリゴ乳酸の成分比率あるいは骨材や粘土の由来によって異なる成形用組成物を、試料1から試料5まで、試料毎に示している。
【0135】
各試料の配合に用いた天然原料は、その化学分析値とX線回折により明らかにした構成鉱物をもとに、ノルム計算によって、その鉱物の割合(質量%)を算出している。なお、ノルムとは,天然原料の化学組成から、一定の規則に従って算出された仮想的な鉱物組成とされているが、ここでは、天然原料の化学成分を、石英、長石、カオリナイト、セリサイトのいずれかに帰属させて、その鉱物割合を算出している。
【0136】
この算出結果をもとに各試料中の骨材(石英及び長石の合量)、粘土(カオリナイト及び白雲母の合量)の質量%が求められる。表1では、天草陶土Aにオリゴ乳酸を加えた試料(試料1),骨材、粘土、オリゴ乳酸をそれぞれ配合した試料(試料2,試料3)、また、七隈粘土A、七隈粘土Bにオリゴ乳酸を加えた試料(試料4,試料5)を示している。
【0138】
表1に示されるように、発明者が製作した試料は、次のとおりである。
【0139】
(試料1)骨材:36.7wt%、粘土:49.8wt%、オリゴ乳酸:13.5wt%、骨材及び粘土は天草陶土A由来である。
【0140】
(試料2)骨材:56wt%、粘土:33wt%、オリゴ乳酸:11.1wt%、粘土は、ニュージーランドカオリン由来である。
【0141】
(試料3)骨材:56wt%、粘土:33wt%、オリゴ乳酸:11.1wt%、粘土は木節粘土由来である。
【0142】
(試料4)骨材:21.2wt%、粘土68.3wt%、オリゴ乳酸:10.5wt%、粘土は七隈粘土A由来である。
【0143】
(試料5)骨材:17.2wt%、粘土72.3wt%、オリゴ乳酸10.5wt%、骨材及び粘土は七隈粘土B由来である。
【0144】
なお、既述のように、試料1〜試料5の各成分の比率は、原料の化学分析とX線回折による構成鉱物の同定から、計算によって求められる。
【0145】
この試料1〜試料5のそれぞれを、実際に成形(鋳込み)工程および焼成工程(200℃で1h保持)を経て、試料1〜5それぞれにおいて曲げ強さ測定用の円柱状試料(直径約10mm、長さ約80mm)及び白色度測定用の板状試料(縦約50mm、横約50mm、厚み約10mm)を得た。
【0146】
更に、試料1〜試料5のそれぞれにおける測色計によって測定した白色度も測定された。表2は、この試料1〜試料5の曲げ強度の測定結果および白色度の測定結果を示している。
【0148】
表2の結果から明らかなとおり、試料1〜5のいずれにおいても、一般的な天然陶土を用いて得られる素焼きの曲げ強さである8MPaを越えている。一般的な天然陶土を用いて得られる素焼きとして、発明者は、天草陶土を上記と同様に鋳込み成形し、920℃で焼成して得られる円柱状試料を用いた。
【0149】
また、試料1〜試料5のいずれも160℃〜220℃の温度で焼成されたものである。すなわち、一般的な天然陶土の素焼きの焼成に必要な温度よりも非常に低い温度で、焼成できる。この非常に低い温度での焼成にも係らず、920℃程度で焼成される天然陶土の素焼きよりも高い曲げ強さを有していることが分かる。これは、曲げ強さが十分であることを示すだけでなく、焼成における製造コスト、製造負担、環境負荷を低減できることを示している。このように実施の形態1,2における成形用組成物は、実際に作製された結果からも、従来技術も課題や問題点を解決できている。
【0150】
表2は、白色度も示している。白色度の参考値として天草陶土素焼の白色度を示しているが、試料1、試料2の白色度は天草陶土素焼のそれよりもはるかに高い値を示している。特に試料1は同じ天草陶土を用いているにも拘わらず5%あまりも高い値となっている。これは、陶土を素焼焼成すると、陶土に含まれる鉄分の酸化により、赤みを帯びるようになるためであり、試料1は素焼温度(920℃)に比べて充分に低温度(200℃)で焼成するため、鉄分の酸化による白色度低下を免れるためである。
【0151】
試料2は粘土として鉄分の少ないニュージーランドカオリンを用いているために、その白色度は試料1よりもさらに5%高い。一方、試料3,試料4の白色度はいずれも75%程度にとどまっているが、これは原料として用いた木節粘土、七隈粘土の白色度が元々低いことによる。焼成品の曲げ強さは、製品の機械的耐久性を左右する性質であり、特に大形製品には自重や取り回しによる破損を抑制する観点から重要である。また、白色度は製品に彩色を施す際に、下塗りの要・不要や下地による発色への影響を小さくする観点から重要である。表1の結果では、曲げ強さ、白色度のいずれかに優れており、それぞれの長所を活かす製品作りが、実施の形態における成形用組成物で可能である。
(実験2:試料6〜10による実験)
【0152】
次に、表1と異なる由来による骨材や粘土を用いた成形用組成物の試料6〜試料10を作製して、実験2を行った。試料6〜試料10の成分組成を、表3に示す。試料6、試料7は、粘土成分が少ない低下度天草陶土Bに粘土およびオリゴ乳酸を加えた成形用組成物である。試料8〜試料10は、鉄分の多い天草陶土Cにオリゴ乳酸を加えた成形用組成物である。
【0153】
実験2は、実験1と異なり、粘土成分が元々少ない天然陶土を、骨材や粘土に用いる実験1のバリエーションと異なる成形用組成物での曲げ強さや白色度を確認する。
【表3】
【0155】
(試料6)骨材:37wt%、粘土:53wt%、オリゴ乳酸:10wt%。骨材は天草陶土B(低下度)、粘土は天草陶土B(低下度)及び英国SPKカオリン由来である。
【0156】
(試料7)骨材:34wt%、粘土:51wt%、オリゴ乳酸:15wt%。骨材は天草陶土B(低下度)由来、粘土は天草陶土B(低下度)及び英国SPKカオリン由来である。
【0157】
(試料8)骨材:29wt%、粘土:56wt%、オリゴ乳酸:15wt%。骨材及び粘土は天草陶土C(鉄分・粘土分が多い)由来である。
【0158】
(試料9)骨材:28wt%、粘土:54wt%、オリゴ乳酸:18wt%。骨材及び粘土は天草陶土C(鉄分・粘土分が多い)由来である。
【0159】
(試料10)骨材:42wt%、粘土:43wt%、オリゴ乳酸:15wt%。骨材及び粘土は天草陶土D(鉄分が多く粘土分が少ない)由来である。
【0160】
試料6〜試料10のそれぞれの成形用組成物を、上述の鋳込み成形および焼成工程(200℃で1時間の焼成)を経て得られた成形物の曲げ強さおよび白色度を測定した。測定方法等については、表2で説明したものと同様である。この測定結果を、表4に示す。
【表4】
【0161】
試料6,試料7は、いずれも天草陶土B(低下度陶土。粘土分38%)に、白色度に優れる英国SPカオリンを配合した試料である。SPカオリンの配合量が10wt%、15wt%と増加すると、試料の曲げ強さは試料6:14.5MPa、試料7:16MPaと増加した。試料7の曲げ強さは天草陶土素焼の8MPaの2倍に当たる。
【0162】
試料8,試料9は、天草陶土C(粘土分65%、鉄分0.6%)にオリゴ乳酸をそれぞれ15wt%、18wt%加えて得た試料である。試料の曲げ強さは21.1MPa、23.3MPaと供試料中最大となった。試料9の曲げ強さは天草陶土素焼の約3倍である。一方、白色度は試料8:84.3%、試料9:85%と、天草陶土素焼と同程度であった。
【0163】
試料10は、天草陶土D(粘土分43%、鉄分0.5%)にオリゴ乳酸15wt%を加えて得た試料である。試料10の曲げ強さは16.9MPa、白色度は87.2MPaであった。
【0164】
以上のように、品位が異なる天草陶土、もしくは天草陶土に英国SPカオリンを加えたものに、オリゴ乳酸を加え、低温度で固化させることにより、天草陶土素焼の概ね2〜3倍の曲げ強さをもち、白色度が天草陶土素焼と同等もしくは6〜7%高い成形用組成物を得ることができる。
実験2から明らかな通り、骨材や粘土の由来としてバリエーションを有する場合でも、実施の形態における成形用組成物は、実用上十分な成形物を生じさせることができる。
【0165】
(実験3:焼成温度範囲の確認)
次に、発明者は実験3として、実施の形態における成形用組成物の焼成温度の最適範囲を検討する実験を行った。
【0166】
天草陶土(低下度。粘土分38%)90wt%に、オリゴ乳酸10wt%を加えて作製した試料11を、泥しょう鋳込み成形により曲げ強さ測定用の円柱状試料(直径約10mm、長さ約80mm)の形態に成形し、100℃で乾燥した後、160℃、180℃、200℃、220℃の各温度で1時間焼成した。すなわち、焼成温度の異なる4種類の成形物が作製された。ここで、160℃で焼成した成形物をサンプル1、180℃で焼成した成形物をサンプル2、200℃で焼成した成形物をサンプル3、220℃で焼成した成形物をサンプル4とする。
【0167】
これらサンプル1〜サンプル4の曲げ強さを測定したところ、次の通りであった。
【0168】
サンプル1: 6.2MPa
サンプル2: 9.2MPa
サンプル3: 10.6MPa
サンプル4: 10.1MPa
【0169】
このように、試料11の曲げ強さはサンプル1からサンプル4が示すように、焼成温度の増加とともに高くなる。実際には、200℃の焼成温度であるサンプル3で曲げ強さは、最大となり、220℃の焼成温度であるサンプル4では曲げ強さは若干減少した。
【0170】
このように、実施の形態におけるオリゴ乳酸を結合材として用いる成形用組成物は、160℃〜220℃、更に好ましくは180℃〜220℃の焼成温度が、曲げ強さの観点から最適な温度範囲であると考えられる。もちろん、曲げ強さでの結果がよいことは、耐久性や使用強度などもよいことを示している。
【0171】
一方で、天然陶土を用いた一般的な素焼きの焼成温度は900℃程度である。この900℃程度の焼成温度に比較して、180℃〜220℃の焼成温度は極めて低い。すなわち、実施の形態で説明した成形用組成物を、焼成して成形物とする場合には、製造コスト、製造負担、環境負荷(エネルギー消費、二酸化炭素発生などの点で)を、低減できるメリットがある。
【0172】
以上より、オリゴ乳酸をその成分として含有する成形用組成物は、200℃前後の低温度で焼成することにより、天然陶土素焼よりも高い曲げ強さ与えることができ、また、素焼焼成で現れる鉄分による着色を回避できることから、焼成品の白色度もはるかに高い数値が得られる。この結果、実施の形態における成形用組成物は、陶磁器、日用品、工芸品、建材など種々の物品の材料として利用できる。
【0173】
以上、実施の形態で説明された成形用組成物は、本発明の趣旨を説明する一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲での変形や改造を含む。