特開2015-8642(P2015-8642A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-8642(P2015-8642A)
(43)【公開日】2015年1月19日
(54)【発明の名称】繊維状大豆蛋白質素材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23J 3/16 20060101AFI20141216BHJP
   A23J 3/26 20060101ALI20141216BHJP
【FI】
   A23J3/16 501
   A23J3/26 501
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-134389(P2013-134389)
(22)【出願日】2013年6月27日
(71)【出願人】
【識別番号】000236768
【氏名又は名称】不二製油株式会社
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 裕
(72)【発明者】
【氏名】芦田 茂
(57)【要約】
【課題】大豆蛋白素材を用いて、従来品よりもツナ様食感に近いものを提供することを課題とした。
【解決手段】大豆蛋白原料、カルシウム、澱粉類および水をエクストルーダーにより加熱、加圧下にダイより押し出した押し出し物に加水した後、澱粉分解酵素処理し破砕することにより、繊維感、硬さがあり、弾力が抑制され、歯切れ感が良く、パサつき、ほぐれ感がある従来よりもツナ様に近い食感を有する繊維状大豆蛋白質を得ることができる。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
大豆蛋白原料、カルシウム、澱粉類および水をエクストルーダーにより加熱、加圧下にダイより押し出し、該押し出し物に加水した後澱粉分解酵素処理し、破砕することを特徴とする、繊維状大豆蛋白質素材の製造方法。
【請求項2】
加水量が押し出し物の重量に対して5倍量以上である、請求項1記載の繊維状大豆蛋白質素材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は繊維状大豆蛋白質素材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エクストルーダーは食品加工分野で利用が盛んである。脱脂大豆、分離大豆蛋白等の大豆蛋白原料を主原料として、各種のその他の原料を組み合わせたり、製造条件を変える等して、種々の肉様蛋白の製造方法が知られている。
例えば、大豆蛋白原料、および水をエクストルーダーにより加熱、加圧下に反応させる際にカルシウム及び澱粉類を併用して配合し、ダイより押し出す方法(特許文献1)、植物蛋白原料、乳ホエイ蛋白原料及び水を主成分として押出機を用いて加熱加圧する方法(特許文献2)、大豆蛋白原料、カルシウム、及び水をエクストルーダーにより加熱、加圧下に反応させダイより押し出す方法(特許文献3)等がある。
また、肉様食感を改良する目的で酵素を作用させる方法も開示されている。例えば組織状大豆蛋白質に蛋白質分解酵素を作用させる方法(特許文献4)や水和された粒状蛋白質、繊維状蛋白質と蛋白質接着酵素を含む原料混合物を加熱凝固させる方法(特許文献5)等がある。
【0003】
特許文献1の技術ではしなやかさや舌触り、喉通りの良い食感が得られ、特許文献2の技術では繊維感、歯切れ感、のど越しが良く、風味が良好なものが得られ、特許文献3の技術では硬くて、弾力性に富み、噛みごたえのある食感が得られる。また、特許文献4の技術では柔らかい食感を付与でき、特許文献5の技術では弾力性と歯ごたえのある食感を付与できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−279099号公報
【特許文献2】特開2003−180256号公報
【特許文献3】特開平6−165644号公報
【特許文献4】特開平6−217702号公報
【特許文献5】特開2010−200627号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ツナ様の食感として、繊維感、硬さがあり、弾力が抑制され、歯切れ感が良いことに加え、パサつきやほぐれ感があることが求められる。しかしながら、特許文献1〜5の技術では、繊維感はあるものの、硬さ、弾力、歯切れ感において満足できるものでない上、特にパサつきやほぐれ感において不十分でありツナ様の食感にすることに改善の余地がある。
本発明では、大豆蛋白素材を用いて、従来品よりもツナ様食感に近いものを提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記の課題に鑑み、鋭意研究を重ねた結果、大豆蛋白原料、カルシウム、澱粉類および水をエクストルーダーにより加熱、加圧下にダイより押し出し、該押し出し物に加水した後澱粉分解酵素処理し、破砕することにより、従来品よりもツナ様食感に近い繊維状大豆蛋白質を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち本発明は、
(1)大豆蛋白原料、カルシウム、澱粉類および水をエクストルーダーにより加熱、加圧下にダイより押し出し、該押し出し物に加水した後澱粉分解酵素処理し、破砕することを特徴とする、繊維状大豆蛋白質の製造方法、
(2)加水量が押し出し物の重量に対して5倍量以上である、(1)記載の繊維状大豆蛋白質の製造方法、
である。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、繊維感、硬さがあり、弾力が抑制され、歯切れ感が良く、パサつき、ほぐれ感を有する繊維状大豆蛋白質素材を提供することが可能となる。特に、パサつき、ほぐれ感が従来品より大幅に改善され、ツナ様に極めて近い食感を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(大豆蛋白原料)
本発明に用いる大豆蛋白原料として、全脂大豆粉や全脂濃縮蛋白、脱脂大豆粉、豆乳粉末、濃縮大豆蛋白、分離大豆蛋白等が挙げられ、なかでも、脱脂大豆粉、豆乳粉末、濃縮大豆蛋白、分離大豆蛋白を用いると、本発明の効果がより顕著に得られるため好ましい。
大豆蛋白原料には、必要に応じてその他の蛋白を併用することができる。例えば、落花生、菜種、綿実などの油糧種子由来の蛋白や、小麦、トウモロコシ、米等の穀物由来の蛋白等、加熱ゲル形成植物性蛋白が好ましく、その他動物由来、微生物由来の蛋白も用いることができる。原料中の蛋白質含量は乾物換算で40〜85重量%が好ましく、より好ましくは50〜75重量%が適当である。蛋白質含量が40重量%未満では食感が弱すぎて噛みごたえが得られない場合がある。また、85重量%より高ければ組織が硬すぎて繊維状にほぐれない場合がある。
【0010】
(カルシウム)
本発明に用いるカルシウムは、カルシウム塩が好ましく、わずかでも解離してカルシウムイオンとなる化合物であれば特に制限するものではない。例えば、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、塩化カルシウム、水酸化カルシウム等を用いることができる。好ましくは硫酸カルシウムである。
カルシウム塩の配合量は、カルシウムとして原料中のカルシウム含量が乾物換算で、好ましくは0.01〜3重量%、より好ましくは0.1〜2重量%が適当である。カルシウム含量が低すぎるとほとんど効果が得られない場合がある。また、カルシウム含量が高すぎると繊維が強くなりすぎる場合がある。
【0011】
(澱粉類)
本発明に用いる澱粉類は、小麦粉、小麦澱粉、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、タピオカ澱粉などその由来を問わず、また、それらの化工澱粉でも差支えない。好ましくはコーンスターチ、小麦澱粉である。澱粉類の配合量は、原料中の澱粉含量が乾物換算で、好ましくは6〜40重量%、より好ましくは8〜30重量%が適当である。澱粉含量が低すぎると効果が低くなる場合がある。また、澱粉含量が高すぎると噛みごたえが出ない場合がある。
【0012】
(水)
本発明に用いる水は、原料中の水分が好ましくは12〜50重量%、より好ましくは20〜44重量%となるような範囲で用いることが適当である。
【0013】
(その他の原料)
本発明には上記の原料の他、本発明の効果に影響を与えない範囲で他の原料を配合することができる。例えば、蛋白質として、落花生,菜種,綿実等の油糧種子由来の蛋白質、小麦,トウモロコシ,米等の穀物由来の蛋白質、カゼイン,卵白,乳ホエイ等の動物由来の蛋白質、微生物由来の蛋白質等が挙げられる。また、油脂として、大豆油,オリーブ油,菜種油,落花生油,ゴマ油,ひまわり油,パーム油,コーン油,ヤシ油,カカオ脂,綿実油,米油等の植物由来の油脂、牛脂,豚脂,魚鯨脂等の動物由来の油脂が挙げられ、これらの分別,硬化,エステル交換等の加工油脂も含まれる。
また、レシチン,モノグリセリン脂肪酸エステル,ポリグリセリン脂肪酸エステル,プロピレングリコール脂肪酸エステル,有機酸モノグリセリド,シュガーエステル,ソルビタン脂肪酸エステル等の乳化剤、ビタミン類、味剤、香料等も配合することができる。
【0014】
(エクストルーダー)
本発明では、大豆蛋白原料、カルシウム、澱粉類および水をエクストルーダーにより加熱、加圧下にダイより押し出して押し出し物を得る。
本発明に用いるエクストルーダーは、一軸エクストルーダーや二軸以上の複数エクストルーダーを用いることができる。中でも、品質の安定性の点から二軸型のものが好ましい。エクストルーダーは、原料供給口、バレル内をスクリューにおいて原料送り、混合、圧縮、加熱機構を有し、さらに先端バレルに装着されたダイを有するものであれば利用できる。バレルはジャケットを有していても有していなくてもよく、これにより加熱するしないは自由である。
【0015】
本発明でエクストルーダー処理する際の温度は、先端バレル温度が好ましくは、120〜200℃、より好ましくは140〜180℃が適当である。
また、加圧は、ダイ部圧力が好ましくは5〜100kg/cm2、より好ましくは10〜70kg/cm2が適当である。 ダイはスクリュー方向に押し出すダイでも、送りの外周方向に押し出すダイ(いわゆるペリフェラルダイ)でもよい。
【0016】
(澱粉分解酵素処理)
エクストルーダー処理により得られた押し出し物に加水した後、澱粉分解酵素処理される。加水量は、エクストルーダー処理して得られた押し出し物の重量に対して、好ましくは5倍量以上、より好ましくは10倍量以上、さらにより好ましくは15倍量以上が適当である。
【0017】
本発明に使用する澱粉分解酵素はいずれのものであってもよく、例えば、麹菌など糸状菌由来のデンプン分解酵素、枯草菌などの細菌由来の澱粉分解酵素などを用いてもよい。本発明の素材の製造に使用できる澱粉分解酵素としては、α−アミラーゼ,グルコアミラーゼなどのアミラーゼ、α−グルコシダーゼ,トランスグルコシダーゼなどのグルコシダーゼ、プルラナーゼ,イソアミラーゼなどの枝切り酵素、などが挙げられる。これらの酵素は精製品であっても、粗精製品であってもよい。
市販の澱粉分解酵素剤を本発明に使用することもできる。市販の澱粉分解酵素剤としては、グルク100(アマノエンザイム社製)、グルクSB(アマノエンザイム社製)、グルクザイムAF6(アマノエンザイム社製)、コクゲンL(大和化成社製)、スピターゼCP−40FG(ナガセケムテックス社製)、スミチームS(新日本化学工業社製)、Fungamyl 800L(ノボザイムズ社製)、Ban480L(ノボザイムズ社製)、
ビオザイムA(アマノエンザイム社製)、クライスターゼL1(大和化成社製)、コクラーゼ-G2(三共ライフテック社製)などがある。本発明の素材の製造に用いる澱粉分解酵素または酵素剤は1種、または2種以上を併用して使用することができる。これらの澱粉分解酵素および市販の澱粉分解酵素剤は例示であり、原料の種類、処理量、目的とする素材などに応じて上記以外のものを適宜選択して用いることができる。
【0018】
また澱粉分解酵素処理条件は特に限定されず、使用する澱粉分解酵素を適切な条件下で反応させればよい。また、酵素の添加量は、調製した原料物質の量に応じて当業者が適宜設定することができる。
【0019】
澱粉分解酵素処理後、酵素由来の雑味成分を除去し風味を向上する目的のために、水で洗浄することが好ましい。洗浄する水の量は、エクストルーダー処理して得られた押し出し物の重量に対して、好ましくは10倍量以上、より好ましくは50倍量以上、さらにより好ましくは80倍量以上が適当である。
【0020】
また、澱粉分解酵素処理前または後に、酸性溶液及び/または塩を含む溶液で水戻しすることができる。
酸性溶液として、無機酸、有機酸またはそれらの塩を水等の溶媒に溶解したものを用いることができる。無機酸として、塩酸,硫酸,リン酸化合物等が挙げられる。また、有機酸として、クエン酸,リンゴ酸,フマル酸,酢酸,穀物酢,酒石酸,乳酸,グルコン酸等が挙げられる。これらの酸は1種以上を併用して使用することができる。酸性溶液のpHは5以下にすることが好ましい。
塩の種類として、塩化ナトリウム,クエン酸ナトリウム,塩化カリウム等のアルカリ金属塩、塩化カルシウム,塩化マグネシウム等のアルカリ土類金属塩等を用いることができる。これらの塩類は1種以上を併用して使用することができる。
【0021】
エクストルーダー処理して得られた押し出し物は澱粉分解酵素処理を行った後、必要に応じて脱水される。脱水する度合いは目的に応じて種々選択されるので特に限定されない。
【0022】
(破砕)
押し出し物は澱粉分解酵素処理後、破砕(カッティング)される。破砕は例えば、カッターミキサー等の器具を用いて行うことができ、目的に応じた大きさに破砕され、繊維状大豆蛋白質を得ることができる。
【0023】
(殺菌)
破砕された繊維状大豆蛋白質は必要に応じて殺菌される。殺菌する方法はいかなる方法でもよく、特に制限されないが、例えば、レトルト殺菌などが挙げられる。
【0024】
このようにして得られた繊維状大豆蛋白質は、繊維感、硬さ、があり、弾力が抑制され、歯切れが良好であり、パサつき、ほぐれ感のある食感を有する。従来の繊維状大豆蛋白質では、特にほぐれ、パサつきにおいて不十分であったが、本発明によりこれらが大幅に改善され、ツナ様に極めて近い食感のものが得られるようになった。
【実施例】
【0025】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに説明するが、本発明はこれらの例示によって制限されるものではない。なお、例中の部および%は何れも重量基準を意味する。
【0026】
(製造例1)
分離大豆蛋白(ニューフジプロE、蛋白質含量92%、不二製油株式会社製)55部、脱脂大豆(蛋白質含量53%)25部と小麦澱粉20部を混合し、さらにこの混合原料に対してカルシウム量が0.5部となるように硫酸カルシウムを混合した。この混合物100部、水40部を二軸エクストルーダーに供給して加熱、加圧処理を行い解砕した繊維状大豆蛋白質素材Aを得た。なお、エクストルーダー処理は、スクリュー回転数200rpm、バレル入口側温度80℃、中央部120℃、出口側150℃、ダイの穴の径5mm、粉体原料流量30kg/hrの条件で行った。
【0027】
(実施例1〜3、比較例1)
製造例1で得られた繊維状大豆蛋白質A 1部に温水(68℃)20部を加え、更に澱粉分解酵素(商品名;Ban480L、ノボザイムズ社製)を種々の濃度(繊維状大豆蛋白質A 100部に対して、0、0.1、0.2、0.3v/w%)にて添加し、撹拌しながら、68℃、2時間、澱粉分解酵素処理を行った。その後95℃まで昇温し失活処理を行った。次に、100部の水で流水洗浄を行い、繊維状大豆蛋白質Aの重量に対して3倍量になるまで脱水し、カッターミキサーでカッティングを行った後、レトルト加熱処理(121℃、20分)をし、繊維状大豆蛋白質を得た(実施例1〜3、比較例1)。
この繊維状大豆蛋白質について、ツナ様食感の評価を行った。
ここで、ツナ様食感は、繊維感、硬さ、弾力感、歯切れ感、パサつき、ほぐれ感の6項目で評価することができ、これらの項目の評価が優れているほど、よりツナに近い食感であると評価できる。従って、食感(繊維感、硬さ、弾力感、歯切れ感、パサつき、ほぐれ感)を表1の評価基準に基づいて、パネラー5名の合議により官能評価した。結果を表2に示した。
【0028】
(表1)

各項目の評価を総合的に判断して、品質の合否を判断した。
すなわち、総合評価として、◎:非常に良好、○良好、△:やや不良、×;不良 とし、総合評価として◎、○、のものを合格と判断した。
【0029】
(表2)
【0030】
表2の結果から、大豆蛋白原料、カルシウム、澱粉類および水をエクストルーダーにより加熱、加圧下にダイより押し出しした押し出し物に加水した後、澱粉分解酵素で処理し破砕することにより、繊維感、硬さがあり、弾力が抑制され、歯切れ感の良い、食感を有し、特に従来の繊維状大豆蛋白質では得られなかったパサつきやほぐれ感が大幅に改善され、よりツナ様食感に近い繊維状大豆蛋白質を得ることが可能となった。