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特開2015-8648植物育成用繊維及びこれを含む繊維シート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-8648(P2015-8648A)
(43)【公開日】2015年1月19日
(54)【発明の名称】植物育成用繊維及びこれを含む繊維シート
(51)【国際特許分類】
   A01G 1/00 20060101AFI20141216BHJP
   D06M 14/22 20060101ALI20141216BHJP
   D06M 15/27 20060101ALI20141216BHJP
   D06M 15/285 20060101ALI20141216BHJP
【FI】
   A01G1/00 303E
   D06M14/22ZBP
   D06M15/27
   D06M15/285
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-134982(P2013-134982)
(22)【出願日】2013年6月27日
(71)【出願人】
【識別番号】000001096
【氏名又は名称】倉敷紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内・佐藤アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】萩谷 英一郎
(72)【発明者】
【氏名】勝圓 進
【テーマコード(参考)】
2B022
4L033
【Fターム(参考)】
2B022AA05
2B022BA12
2B022BA23
2B022BA24
2B022BB02
4L033AA02
4L033AB01
4L033AC15
4L033CA20
4L033CA23
(57)【要約】
【課題】生分解性繊維に吸水性成分の化学結合と植物養分を化学結合させ、かつ吸水性の高い植物育成用繊維及びこれを含む繊維シートを提供する。
【解決手段】生分解性を有する植物育成用繊維であって、前記植物育成用繊維は、吸水性を有すると共に、植物生育に必須の肥料成分である窒素、リン及びカリウムから選ばれる少なくとも一つの元素を含む化合物を結合させた繊維である。この繊維はシートとしても良い。この繊維は、植物の育成に必要な水を保持し、かつ繊維の生分解に伴って肥料成分を徐々に植物に付与できる。加えて環境汚染の問題がない植物育成用繊維及びこれを含む繊維シートを提供できる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性を有する植物育成用繊維であって、
前記植物育成用繊維は、吸水性を有すると共に、植物生育に必須の肥料成分である窒素、リン及びカリウムから選ばれる少なくとも一つの元素を含む化合物を結合させた繊維であることを特徴とする植物育成用繊維。
【請求項2】
前記生分解性を有する植物育成用繊維は、生分解性繊維に吸水性化合物を結合させたものであり、かつ前記結合させた化合物には、植物生育に必須の肥料成分である窒素、リン及びカリウムから選ばれる少なくとも一つの元素を含む請求項1に記載の植物育成用繊維。
【請求項3】
前記生分解性を有する植物育成用繊維は、生分解性繊維に吸水性化合物をグラフト化させて吸水性繊維とし、かつ前記グラフト化させた化合物に植物生育に必須の肥料成分である窒素、リン及びカリウムから選ばれる少なくとも一つの元素を含む請求項1又は2に記載の植物育成用繊維。
【請求項4】
前記吸水性化合物は、リン酸塩、カルボン酸塩及びケトン基含有化合物から選ばれる少なくとも一つである請求項1〜3のいずれか1項に記載の植物育成用繊維。
成用繊維。
【請求項5】
前記リン酸塩はリン酸エステルカリウム塩である請求項4に記載の植物育成用繊維。
【請求項6】
前記カルボン酸塩は(メタ)アクリル酸カリウム塩及びイミノ二酢酸カリウム塩から選ばれる少なくとも一つである請求項4又は5に記載の植物育成用繊維。
【請求項7】
前記ケトン基含有化合物は、エチレングリコールモノアセトアセテートモノメタクリレート及びダイアセトンアクリルアミドからなる群から選ばれる一種以上である請求項4〜6のいずれか1項に記載の植物育成用繊維。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の植物育成用繊維を含む繊維シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性繊維に吸水性成分の化学結合と植物養分を化学結合させた植物育成用繊維及びこれを含む繊維シートに関する。
【背景技術】
【0002】
植物養分の三元素はN(窒素)、P(リン)、K(カリ)である。これらは通常肥料によって施す。このうちN(窒素)は雨水で流出したり、ガスに代わって逃げやすいので、分けて追肥により施肥するのが好ましい。しかし、植物の植生状態によっては追肥による施肥が困難であったり、コストがかかる等の問題がある場合もある。例えば山奥の植林、砂漠の緑地化、広い面積の緑地化、ゴルフ場の芝生管理などでは、人手のかからない施肥方法が望まれている。
【0003】
従来技術として、生分解繊維シートの少なくとも一面にリン及び窒素から選ばれた少なくとも一つの元素を含み、ハロゲンを含まない難燃性樹脂被覆層を設け、植物栽培用肥料として利用する提案がある(特許文献1)。セルロース繊維シートに肥料や活性炭を分散させておき、植生マットとして使用する提案もある(特許文献2〜3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-211592号公報
【特許文献2】特開2002-125450号公報
【特許文献3】特開2006-517414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来技術の繊維は吸水性が十分ではないという問題があった。
【0006】
本発明は、前記従来の技術を解決するため、生分解性繊維に吸水性成分の化学結合と植物養分を化学結合させ、かつ吸水性の高い植物育成用繊維及びこれを含む繊維シートを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の植物育成用繊維は、生分解性を有する植物育成用繊維であって、前記植物育成用繊維は、吸水性を有すると共に、植物生育に必須の肥料成分である窒素、リン及びカリウムから選ばれる少なくとも一つの元素を含む化合物を結合させた繊維であることを特徴とする。
【0008】
本発明の繊維シートは、前記の植物育成用繊維を含むシートである。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、生分解性繊維に吸水性と植物生育に必須の肥料成分である窒素、リン及びカリウムから選ばれる少なくとも一つの元素を含む化合物を結合させたことにより、植物の育成に必要な水を保持し、かつ繊維の生分解に伴って肥料成分を徐々に植物に付与できる。加えて環境汚染の問題がない植物育成用繊維及びこれを含む繊維シートを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は本発明の一実施例におけるカリウム含有量測定結果を示すグラフである。
図2図2は本発明の一実施例におけるリン含有量測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、生分解性繊維に吸水性と植物生育に必須の肥料成分である窒素、リン及びカリウムから選ばれる少なくとも一つの元素を含む化合物を結合させた繊維である。好ましくは、前記生分解性を有する植物育成用繊維は、生分解性繊維に吸水性化合物を結合させたものであり、かつ前記結合させた化合物には、植物生育に必須の肥料成分である窒素、リン及びカリウムから選ばれる少なくとも一つの元素を含む。
【0012】
生分解性繊維に吸水性化合物を結合させ、かつ前記結合させた化合物には、植物生育に必須の肥料成分である窒素、リン及びカリウムから選ばれる少なくとも一つの元素を有する繊維を製造するための方法としては、例えば下記が挙げられる。
(1)生分解性繊維にあらかじめ吸水性化合物を結合させ、当該結合させた吸水性化合物に対して窒素、リン及びカリウムから選ばれる少なくとも一つの元素を結合させる方法。
(2)生分解繊維にあらかじめ窒素、リン及びカリウムから選ばれる少なくとも一つの元素を有する化合物を結合させ、当該結合させた化合物に対して吸水性化合物を結合させる方法。
(3)あらかじめ吸水性化合物と窒素、リン及びカリウムから選ばれる少なくとも一つの元素を結合させておき、その吸水性を有しかつ窒素、リン及びカリウムから選ばれる少なくとも一つの元素を有する化合物を生分解性繊維に結合させる方法。
【0013】
好適な例として、化合物をグラフト化させて高吸水性繊維とし、かつ前記グラフト化させた化合物に植物生育に必須の肥料成分である窒素、リン及びカリウムから選ばれる少なくとも一つの元素を結合させた植物育成用繊維及びこれを含む繊維シートとする。あるいは、生分解性繊維にリン酸を含む有機基、カルボン酸を含む有機基及びケトン基含有化合物から選ばれる少なくとも一つの化合物を接触させてグラフト結合させ、かつ前記グラフト化させた化合物に植物生育に必須の肥料成分である窒素、リン及びカリウムから選ばれる少なくとも一つの元素を結合させてもよい。
【0014】
生分解性繊維は、様々なものが知られており、例えばセルロース繊維、セルロースとタンパク質を含む繊維、獣毛繊維、絹、ポリ乳酸又はポリビニルアルコールである。このうちセルロース繊維を使用するのがコスト上好ましい。セルロース繊維としては木綿(コットン)等の天然セルロースと、レーヨンなどの再生セルロース繊維がある。さらにレーヨンとタンパク質を含む繊維(特開2010-24595号公報、本出願人販売の商品名“ルナセル”)もある。天然セルロース繊維は、木綿、麻(亜麻、ラミー、ジュート、ケナフ、大麻、マニラ麻、サイザル麻、ニュージーランド麻を含む)、カポック、バナナ、ヤシなどの天然繊維である。繊維は、綿(ワタ)又はシート状態で使用する。天然セルロース繊維、例えば木綿(コットン)の場合は、リン酸塩、カルボン酸塩及びケトン基含有化合物から選ばれる少なくとも一つの成分を化学結合させ、吸水性が相乗的に向上する。さらに、マーセル加工を施すことにより、より吸水性を向上させることができる。
【0015】
本発明の一例においては、繊維に少なくともリン酸塩、カルボン酸塩及びケトン基含有化合物から選ばれる少なくとも一つの成分を化学結合により固定する。リン酸塩としてはリン酸エステル塩が好ましい。カルボン酸塩としてはアクリル酸塩及びイミノ二酢酸塩が好ましい。ケトン基含有化合物としては、特に限定されないが、例えばアセチルアセトン類、ベインゾイルアセトン類及びダイアセトン類などを用いることが好ましく、エチレングリコールモノアセトアセテートモノメタクリレート及びダイアセトンアクリルアミドからなる群から選ばれる一種以上であることがより好ましい。化学結合による重量増加率は、0.1〜50重量%であるのが好ましい。この範囲であると親水性は高く保持できる。
【0016】
具体的方法においては、繊維に電子線照射する工程と、前記繊維にリン酸を含む有機基、カルボン酸を含む有機基及びケトン基含有化合物から選ばれる少なくとも一つの化合物を接触させて化学結合、好ましくはグラフト結合させる工程を含む。電子線照射工程は、リン酸を含む有機基、カルボン酸を含む有機基及びケトン基含有化合物から選ばれる少なくとも一つの化合物を接触させる工程の前及び/又は後であっても良い。いずれの順序としてもグラフト結合させることができる。
【0017】
リン酸を含む有機基物質として、例えばモノ(2−メタクリロイルオキシエチル)ホスフェート(別名リン酸2−(メタクリロイルオキシ)エチル、以下「P1M」という。)をセルロース繊維に適用する場合、電子線照射により下記(化2)及び/又は(化3)に示すようにセルロースにP1Mがグラフト結合し、次いで中和処理により下記(化4)及び/又は(化5)に示すようにリン酸カリウム塩となる。
【0018】
【化1】
【0019】
【化2】
【0020】
【化3】
【0021】
【化4】
【0022】
【化5】
【0023】
カルボン酸を含む有機基物質として、例えばアクリル酸を使用した場合、電子線照射により下記(化7)及び/又は(化8)に示すセルロースにアクリル酸がグラフト結合し、次いで中和処理により下記(化9)及び/又は(化10)のようにカルボン酸カリウム塩となる。
【0024】
【化6】
【0025】
【化7】
【0026】
【化8】
【0027】
【化9】
【0028】
【化10】
【0029】
カルボン酸を含む有機基物質として、例えばメタクリル酸グリシジルをセルロース繊維にグラフト結合させ、イミノ二酢酸(キレート基)を導入して中和処理した場合、電子線照射により下記化(12)及び/又は(化13)のようにセルロースにメタクリル酸グリシジルがグラフト結合し、次いで下記(化14)及び/又は(化15)のようにイミノ二酢酸(キレート基)が導入され、次いで中和処理により下記(化16)及び/又は(化17)のようにカルボン酸カリウム塩となる。
【0030】
【化11】
【0031】
【化12】
【0032】
【化13】
【0033】
【化14】
【0034】
【化15】
【0035】
【化16】
【0036】
【化17】
【0037】
本発明の別の方法においては、セルロース繊維を含む生地にリン酸と尿素を含む水溶液を接触させ、前記セルロース繊維にリン酸エステルを化学結合、好ましくは共有結合させる。より好ましくはその後アルカリにより中和させる。例えば、リン酸と尿素を含む水溶液(以下、単にリン酸処理液とも記す。)にセルロース繊維生地をパディングし、セルロース繊維にリン酸エステルを共有結合させる。リン酸処理液は、例えばリン酸処理液を100重量%としたとき、85重量%リン酸を10重量%、尿素を30重量%、残りは水とする。このときpHは2.1程度とするのが好ましい。別の例のリン酸処理液としては、例えばリン酸処理液を100重量%としたとき、85重量%リン酸を10重量%、尿素を30重量%、28重量%アンモニア水を8重量%、残りは水とする。このときpHは6.5程度が好ましい。アンモニア水を任意量使用してpH調整できる。処理条件は、温度100〜180℃で、処理時間0.5〜5分が好ましい。例えば、この処理により、セルロース繊維に対してリン酸エステルを0.1重量%以上、好ましくは2〜8重量%、特に好ましくは5〜8重量%共有結合できる。
【0038】
セルロース分子は下記(化18)で示され(但し、nは1以上の整数)、反応性に富む水酸基をグルコース残基のC−2、C−3、C−6の位置に持ち、この部分にリン酸がエステル結合すると推測される。例えばグルコース残基のC−2の位置にリン酸がエステル結合した例を下記(化20)に示す。下記(化20)において、リン酸がエステル結合している−CH2−基はセルロース鎖内の炭化水素基である。次いで中和処理により下記(化21)のようにリン酸カリウム塩となる。
【0039】
【化18】
【0040】
【化19】
【0041】
【化20】
【0042】
【化21】
【0043】
前記化19〜化20は、下記化22〜化24になるとも考えられる。化22はリンと窒素のモル比が1:1の場合であり、化23〜化24はリンの含有率の高いエステル化物で、化24は架橋構造となる。
【0044】
【化22】
【0045】
【化23】
【0046】
【化24】
【0047】
以上のとおり、N(窒素)を含む繊維は化14〜化17、化22〜化24があり、P(リン)を含む繊維は化1〜化5、化19〜化24があり、K(カリ)を含む繊維は化4〜化5、化9〜化10、化16〜化17、化21がある。これらの繊維を混合すれば肥料の三元素を満足することができる。
【0048】
電子線を照射する場合、通常は1〜200kGy、好ましくは5〜100kGy、より好ましくは10〜50kGyの照射量が達成されればよい。雰囲気条件は、窒素雰囲気下で照射を行うことが好ましく、また透過力があるため、素材の片面に照射するだけでよい。電子線照射装置としては市販のものが使用可能であり、例えば、エリアビーム型電子線照射装置としてEC250/15/180L(アイ・エレクトロンビーム社製)、EC300/165/800(アイ・エレクトロンビーム社製)、EPS300((株)NHVコーポレーション製)などが使用される。電子線を照射した後は通常、水洗により未反応成分を除去し、乾燥が行われる。乾燥は例えば、素材を20〜85℃で0.5〜24時間保持することによって達成される。
【0049】
本発明においては、予め繊維素材に対して放射線を照射した後、上記のように加工剤を付与することが好ましく、さらに加工剤を付与後に再度放射線を照射することが特に好ましい。これによって、ラジカル重合性化合物の繊維素材へのグラフト結合による化学的結合が促進され、吸水発熱性がより有効に発現する。グラフト結合による化学的結合は、蛍光X線分析法を採用する装置、例えば波長分散型蛍光X線分析装置ZSX 100e((株)リガク製)によって、グラフト化物に含有される特定元素の存在を確認することによって検知できる。特定元素は例えばカリウムである。
【0050】
本発明の繊維シートは、植物育成用繊維を100重量%含むシートであっても良いが、本発明の植物育成用繊維を10〜100重量%含む繊維シートとし、これに90重量%以下の割合でセルロース繊維、獣毛繊維、絹、ポリ乳酸及びポリビニルアルコールから選ばれる少なくとも一つの生分解性繊維を加えても良い。繊維シートは一例としてカードウェブとし、ニードルパンチ、水流交絡、ケミカルボンドなどにより繊維を一体化させて不織布シートとしても良い。
【実施例】
【0051】
以下実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。なお本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0052】
(実施例1)
<アクリル酸グラフトワタの作製>
レーヨンワタ15gをエレクトロカーテン型電子線照射装置EC250/15/180L((株)アイ・エレクトロンビーム製)にて加速電圧250kVで、窒素雰囲気下、40kGy照射した。電子線照射した綿をアクリル酸(ナカライテスク株式会社製)16重量%、INVADINE650(浸透剤)(ハンツマン・ジャパン株式会社製)0.5重量%、HT−150D(大阪ケミカル工業株式会社製)(消泡剤)0.1重量%の水溶液200mLを付与し、マングルでスライバー質量に対して約100重量%のピックアップ率となるように絞った。その後、未反応のアクリル酸を除去するため、水洗し、乾燥することによりアクリル酸グラフト率11重量%のレーヨンワタを得た。なお、グラフト率は、下記式のとおり、加工前後の質量差より算出した。また、EB加工とは、電子線照射をして化合物をセルロース繊維に共有結合させる加工のことである。また、owfはon the weight of fiberの略である。
グラフト率(owf%)=[(EB加工後の生地重量−EB加工前の生地重量)/(EB加工前の生地重量)]×100
【0053】
(実施例2)
アクリル酸グラフト率40重量%品のレーヨンワタは、電子線照射後、アクリル酸薬液を付与した後に30秒静置を行い、マングルでスライバーを絞ること以外は、実施例1と同様の処理を行うことにより得た。
【0054】
(実施例3)
アクリル酸グラフト率10重量%品の綿ワタは、電子線照射後、アクリル酸薬液を付与した後にすぐにマングルでスライバーを絞ること以外は、実施例1と同様の処理を行うことにより得た。
【0055】
(実施例4)
アクリル酸グラフト率50重量%品の綿ワタは、電子線照射後、アクリル酸薬液を付与した後に50秒静置を行い、マングルでスライバーを絞ること以外は、実施例1と同様の処理を行うことにより得た。
【0056】
実施例1〜2により得られたアクリル酸グラフトレーヨンワタ及び実施例3〜4により得られたアクリル酸グラフト綿ワタを、水酸化カリウム(ナカライテスク株式会社製)1重量%の水溶液400mLにそれぞれ浸漬し5分間攪拌、その後、数回水洗し残っている水酸化カリウムを完全に除去し、乾燥することによりカルボキシル基部分にカリウムの固定を行った。
【0057】
以上のようにして得られたワタそれぞれに、100mlのイオン交換水を10回シャワーで振りかけ洗浄を行い、前後のカリウム含有量を波長分散型蛍光X線分析装置ZSX 100e((株)リガク製)により測定した。シャワー前後のカリウム含有量測定結果を表1及び図1に示す。図1において素材の後の数字は実施例番号を示す(図2も同じ)。表1及び図1から明らかなとおり、シャワーによりカリウムの大きな脱落は見られなかった。
【0058】
【表1】
【0059】
(実施例5)
<リン酸中和品グラフトワタの作製>
モノ(2−メタクリロイルオキシエチル)ホスフェート(共栄社化学(株)製;商品名ライトエステルP−1M;以下「P1M」と略す)120gをイオン交換水179gに溶解し、温度が40℃以下となるようビーカーを冷却しながらエチレンジアミンを5g滴下した。さらに25%アンモニア水を30g滴下した。さらにアンモニア水をpHが5.5〜5.8程度になるよう確認しながら滴下し、中和されたP1Mの35重量%溶液を得た。
【0060】
レーヨンワタ15gをエレクトロカーテン型電子線照射装置EC250/15/180L((株)アイ・エレクトロンビーム製)にて加速電圧250kVで、窒素雰囲気下、40kGy照射した。電子線照射したレーヨンワタを20重量%に調整したP1M中和品、INVADINE650(浸透剤)(ハンツマン・ジャパン株式会社製)0.5重量%、HT−150D(大阪ケミカル工業株式会社製)(消泡剤)0.1重量%の水溶液200mLを付与した後に2分静置した。次に、マングルでスライバー質量に対して約100重量%のピックアップ率となるように絞った。その後、未反応のP1M中和物を除去するため、水洗し、乾燥することによりP1M中和物18重量%のレーヨンワタを得た。
【0061】
(実施例6)
P1M中和物32重量%品のレーヨンワタは、電子線照射後、アクリル酸薬液を付与した後に5分静置を行い、マングルでスライバーを絞ること以外は、実施例5と同様の処理を行うことにより得た。
【0062】
(実施例7)
P1M中和物を綿ワタに実施例5のレーヨンワタと同様の加工を行いP1M中和物12重量%の綿ワタを得た。
【0063】
(実施例8)
P1M中和物を綿ワタに実施例5のレーヨンワタと同様の加工を行いP1M中和物30重量%の綿ワタを得た。
【0064】
以上のようにして得られたワタそれぞれに、100mlのイオン交換水を10回シャワーで振りかけ洗浄を行い、前後のリン含有量を波長分散型蛍光X線分析装置ZSX 100e((株)リガク製)により測定した。シャワー前後のリン含有量測定結果を表2及び図2に示す。表2及び図2から明らかなように、シャワーによりリンの大きな脱落は見られなかった。このことから窒素も固定できていると推定される。
【0065】
【表2】
【0066】
実施例1〜8により得られた養分レーヨンワタを使用して植物の育成実験をした。高さ90mm、サイズ105mmの育苗ポッドの中に約200gの土壌とNo.1のカリウム固定化レーヨン、No.5のリン及び窒素固定化レーヨンをそれぞれ2gを混ぜ入れホウレンソウを育てた。ワタの吸水効果により1週間に2〜3度程度の水遣りで苗は十分育った。また混合したワタは1ヶ月後から少しずつ生分解し始め、6ヵ月後にはほぼ繊維形状は無くなっていた。ホウレンソウの生育は良好であった。
【0067】
(比較例1)
比較としてワタを混合しない以外は施肥状態を同一の条件としてホウレンソウを育てた。水やりはほぼ毎日必要とし、実施例品と比べて育成状態は劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の植物育成用繊維は、植林、砂漠の緑地化、市街地の緑地化、ゴルフ場の芝生管理、植物ポット、農業などに適用できる。
図1
図2