【解決手段】 ポリメタキシレンアジパミドとポリアミド6からなる樹脂組成物(成分1)とポリアミド樹脂(成分2)で構成される張り合わせ型の潜在捲縮糸であって、以下の(1)〜(2)の要件を満足するポリアミド潜在捲縮糸である。
ポリメタキシレンアジパミドとポリアミド6からなる樹脂組成物(成分1)とポリアミド樹脂(成分2)で構成される貼り合わせ型の潜在捲縮糸であって、以下の(1) 〜(2)の要件を満足するポリアミド潜在捲縮糸。
(1)捲縮率が50%を超える
(2)捲縮糸1cmあたりのクリンプ数が150個以上210個以下
ポリメタキシレンアジパミドとポリアミド6からなる樹脂組成物(成分1)とポリアミド樹脂(成分2)との2種のポリアミド成分を貼り合わせて、溶融複合紡糸にて得られる潜在捲縮糸を製造する方法であって、紡糸速度が2500〜3000m/minであり、延伸工程での熱セット温度が120℃より低い温度である請求項1又は2記載のポリアミド潜在捲縮糸の製造方法。
【背景技術】
【0002】
衣料用途などに用いる捲縮糸としては、湿度変化によって可逆的にその形態や捲縮が変化する木綿・羊毛などの天然繊維がよく知られている。合成繊維に対しても、従前から捲縮を得る試みが種々されてきた。例えば、衣料用途によく用いられるポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルやポリアミド6、ポリアミド12等のポリアミドの単一のポリマーからなる糸は、繊維自体に捲縮性がほとんどないため、仮撚加工等により繊維自身にトルクを持たせて捲縮を付与している。仮撚等の加工により捲縮を付与すると、織編物とした際、表面のシボが発生し易い。このシボ発生を防止しようと、織物に熱水処理を施すと仮撚加工等の加工による捲縮糸のトルクが減少し、伸縮性・伸長回復性などが十分でなくなり、伸縮性の高い布帛を得るのに適当でない。
また、捲縮糸として、弾性のあるポリマーを用いて、伸縮性を得て伸縮性の高い布帛を得る方法もあるが、例えばポリウレタン弾性糸単独では染色性・耐光性が悪いといったことや糸同士が膠着しやすい等の問題が生じるため、通常、ポリアミドなどをカバリングして用いるのが現状である。
また特許文献1には、弾性のあるポリマーとして、ナイロン12エラストマーを用いて、ポリアミドやポリエステルをサイドバイサイド型や芯鞘型に複合した繊維が開示されている。
一方、2種類の異なる汎用的なポリマーを複合した繊維を捲縮糸として、繊維に伸縮性を付与する方法も種々検討されている。例えば、ポリエステルとポリアミドなどの異なる樹脂同士を組み合わせて複合繊維として捲縮糸とすることや粘度差のある同じ樹脂同士を組み合わせた複合繊維として捲縮糸とする方法が挙げられる。
そして、特許文献2は、高粘度ポリマーにポリメタキシレンアジパミドを特定量ブレンドし、高粘度ポリマーと低粘度ポリマーの粘度をコントロールした高い捲縮性をポリアミド潜在捲縮糸が記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ポリウレタン弾性糸は、カバリング加工費が必要となりコストが高くなり、コスト的に不利となる。また特許文献1のようなナイロン12エラストマーを用いた共重合ポリアミドを用いたものも、樹脂が高価なためコスト的に不利になる。
また汎用的なポリエステルやポリアミドなどの異なるポリマーを組み合わせて複合繊維としたものは、捲縮を得るためのコストは低くて済むが、紡糸・延撚や後加工での樹脂同士の剥離が生じやすい。
また、同種の樹脂で粘度差が異なる樹脂同士を組み合わせた場合は、十分な捲縮が得られず、繊維自体の伸縮性も十分ではなく、高い伸縮性のある布帛を得るのは難しい。
さらに、特許文献2記載の潜在捲縮糸では、ある程度良好な捲縮率を有するものが得られているものの、いまだ十分伸縮性を得られるものではない。
したがって、本発明は上記の課題を解決し、カバリング加工や特殊な共重合体を用いずとも、十分捲縮性の優れたポリアミド潜在捲縮糸を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明は、ポリメタキシレンアジパミドとポリアミド6からなる樹脂組成物(成分1)とポリアミド樹脂(成分2)で構成される貼り合わせ型の潜在捲縮糸であって、以下の(1) 〜(2)の要件を満足するポリアミド潜在捲縮糸を第一の要旨とする。
(1) 捲縮率が50%を超える
(2) 捲縮糸1cmあたりのクリンプ数が150個以上210個以下
また、上記ポリアミド潜在捲縮糸において、成分1の樹脂組成物の相対粘度が2.6から3.0であることを満足するポリアミド潜在捲縮糸を第二の要旨とする。
また、上記ポリアミド潜在捲縮糸を製造する方法が、紡糸速度が2500m/min〜3000m/minであり、延伸工程での熱セット温度が120℃より低い温度であることを満足するポリアミド潜在捲縮糸を第三の要旨とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、カバリング加工や仮撚加工せずとも捲縮性が高い糸を得ることができる。
また、特殊なポリアミドエラストマーなどの共重合体を用いずとも高い収縮性を得ることができるため、コスト的にも有利となる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、ポリメタキシレンアジパミドとポリアミド6からなる樹脂組成物(成分1)とポリアミド樹脂(成分2)で構成される2種のポリアミド成分で構成された貼り合わせ型の潜在捲縮糸である。
【0008】
成分1で使用されるポリアミド6は、溶融紡糸安全性の観点から、相対粘度が2.2を超えることが好ましい。また、相対粘度に上限はないが、紡糸操業安全性の観点から相対粘度3.5までで十分である。
【0009】
成分1で使用されるポリメタキシレンアジパミドは、溶融紡糸安全性の観点から、相対粘度が2.1を超えることが好ましい。より好ましくは相対粘度が2.6を超えることである。また、相対粘度に上限はないが、紡糸操業安全性の観点から相対粘度3.3までで十分である。
【0010】
本発明の成分1に使用されるポリアミド、ポリメタキシレンアジパミドの水分率は、紡糸操業性の観点から、300ppm以下が好ましい。単糸繊維が細いほど乾燥を強化することが好ましい。
【0011】
本発明の成分1の樹脂組成物の平均相対粘度は、紡糸操業性と高捲縮性能発現の観点から、2.6〜3.0であることが好ましく、2.7〜2.9であることがより好ましい。
【0012】
成分1で使用されるポリメタキシレンアジパミドとポリアミド6の樹脂比率は35:65〜70:30が好ましく、45:55〜55:45が特に好ましい。この範囲であれば、熱水収縮率も十分であり、高い収縮性、捲縮性を備えた繊維となる。
【0013】
本発明の成分2に使用されるポリアミド樹脂は、ポリアミド6が好ましい。
【0014】
本発明の成分2で使用されるポリアミド6は溶融紡糸安定性の観点より、相対粘度が2.2を超えることが好ましい。より好ましくは2.4以上、特に好ましくは相対粘度2.7を超えることである。また、相対粘度に上限はないが、紡糸操業安全性の観点から相対粘度3.5までで十分である。
なお、捲縮率を高く保持する点からは、成分2の樹脂の相対粘度は、2.1〜3.5であることが好ましく、2.3〜3.0であることがより好ましい。
【0015】
成分2のポリアミド樹脂の水分率は、紡糸操業性の観点から、300ppm以下が好ましい。また、単糸繊維が細いほど乾燥を強化することが好ましい。
【0016】
本発明は、成分1と成分2で構成される2種のポリアミド成分で構成された貼り合わせ型の潜在捲縮糸である。
【0017】
成分1と成分2の樹脂比率は40:60〜60:40が好ましく、45:55〜55:45が特に好ましい。
【0018】
本発明の潜在捲縮糸の貼り合わせ法としては、例えば、成分1と成分2を別々に溶融し、口金で貼り合わせて紡糸して、複合繊維として貼り合わせる方法が挙げられる。
【0019】
成分1と成分2を貼り合わせる配置は、紡糸操業性や高捲縮性能発現の点から、成分1と成分2をサイドバイサイド型に配置する方法が好ましい。
【0020】
成分1及び成分2のポリマーの相対粘度差は、(成分1) - (成分2)=−0.5〜1.0の範囲が好ましい。この範囲であると、紡糸操業性を保ったまま捲縮性に優れたポリアミド潜在捲縮糸を得ることができる。
【0021】
本発明のポリアミド潜在捲縮糸の捲縮率は、50%を超えるものである。捲縮率が50%を超えれば、十分な捲縮を発現させることができる。なかでも55%以上あればより好ましく、60%以上あればさらに好ましい。これにより高密度な布帛でありながら、伸縮性を合わせ持った布帛が得られる。そして、染色などの後加工において、潜在捲縮糸が収縮し、高収縮の高密度布帛を得ることができる。
【0022】
本発明のポリアミド潜在捲縮糸の破断強度は、糸切れ無く、織編加工等での操業性を良好に保つ点から、3.2cN/dtex以上が好ましい。より好ましくは4.0cN/dtex以上である。
【0023】
本発明のポリアミド潜在捲縮糸の破断伸度は、糸切れ無く、製編織操業性を良好に保つ点から、30%以上が好ましい。より好ましくは35%以上である。
【0024】
本発明のポリアミド潜在捲縮糸のクリンプ数は、捲縮性の優れたものとするため、捲縮糸1cmあたり150個以上あることが好ましい。より好ましくは170個以上である。また、上限に制約はないが、210個以下で十分である。
【0025】
次に、本発明のポリアミド潜在捲縮糸を得る方法について、説明する。
本発明のポリアミド潜在捲縮糸は、例えば紡糸と延撚の二工程法(コンベンショナル法)や紡糸直接延伸法などにより得ることができる。
【0026】
以下、さらに具体的な方法を例示する。
まず、成分1のポリメタキシレンアジパミドとポリアミド6を準備する。両者を混練等により混合して、樹脂組成物(成分1)を得る。次に、(成分2)の樹脂を準備する。
成分1と成分2を溶融混練して、口金パックに導き、所定の横断面となるようにノズルから吐出し、溶融紡糸する。次いで、冷却して、巻き取った後、延伸して、延伸糸を得る。
コンベンショナル法や紡糸直接延伸法などの場合、ノズルから吐出された糸条が最初に捲かれるゴデットロールの速度(紡糸速度)が、1200〜4000m/minであることが好ましい。このような速度とすることにより、ポリアミド捲縮糸の伸長率を50%以上にでき、布帛としたとき、伸縮性のあるものを得たり、高密度化ができる。
なお、紡糸速度を速くすると、吐出量が多くなることによりノズル孔部のせん断速度が高くなる。これによりノズル直下での繊維内の分子鎖配向させ、繊維内の歪みを高くした状態で巻き取る。この歪みをもった繊維をさらに延伸することによって、さらに分子鎖配向を加え繊維内歪みを蓄えさせることにより、捲縮率が高く、高度な捲縮を与えることができ、伸縮性のある高収縮性ポリアミド潜在捲縮糸を得ることができると推測される。この点から、紡糸速度は、1200m/min以上が好ましく、2500m/min〜3000m/minの範囲が特に好ましい。
【0027】
コンベンショナル法や直接延伸法の紡糸温度は、270℃以上が好ましい。より好ましくは、紡糸温度が280℃以上である。上限は、紡糸温度290℃程度が好ましい。
【0028】
コンベンショナル法や直接延伸法の延伸工程での熱セット温度は、120℃未満が好ましい。より好ましくは、熱セット温度が110℃以下、さらに好ましくは熱セット温度が100℃以下である。熱セット温度が120℃を超える温度にした場合、成分1と成分2単独糸の熱水収縮率の差が小さくなり、複合繊維全体の熱水収縮率も低下する。これにより、捲縮が発現しにくくなるため、布帛としたときの高密度性、高い伸縮性が損なわれる。
【0029】
なお上記したように、本発明では、ポリアミド樹脂組成物からなる成分1とポリアミド樹脂からなる成分2とを、特定の相対粘度差の範囲内とし、紡糸の際の紡糸速度や製糸
過程での熱セット温度を低めにコントロールする等により両成分を貼り合わせた複合繊維等の潜在捲縮糸とすることで、強伸度に優れ、かつ高い捲縮を発現させることのできる伸縮性に優れた高収縮のポリアミド潜在捲縮糸を得ることができる。
【0030】
このようにして得られた上記ポリアミド潜在捲縮糸は、適度な強度を保持することができるため、製織性が良好である。また、本発明の潜在捲縮糸は高い捲縮性をもつため、製織して収縮加工を施した際には、より高密度で風合いの良い織物にする繊維を得ることが可能である。このような特徴より、ポリエステル高密度織物にはない良好な風合いを有することが期待できる。
【実施例】
【0031】
以下に実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。なお、本発明は以下に述べる実施例に限定されるものではない。
【0032】
物性の測定は、以下の通り実施した。
A. 相対粘度の測定
柴山科学機械製作所製の自動粘度測定装置(SS−600−L1型)を用いて測定する。溶媒に95.8%濃硫酸を用いて、ポリマーを1g/dlの濃度で溶解させて、恒温槽25℃にて測定する。
【0033】
B. 破断強度、破断伸度の測定
JISL1013に準じ、島津製作所製のAGS−1KNGオートグラフ引張試験機を用い、試料糸長20cm、定速引張試験20cm/minの条件で測定する。荷重−伸び曲線での荷重の最高値を繊度で除した値を破断強度(cN/dtex)とし、そのときの伸び率を破断伸度(%)とする。
【0034】
C.捲縮率の算出
浅野機械株式会社製の検尺器にて、5回転のかせを作成し2重に束ねる。その後1/6000g/dのおもりを掛け沸水バス投入し、バスに30min浸漬させた後取り出し、その状態で30min風乾しつつ、その後1/500g/dのおもりを掛け30秒後の長さ(A)を計測し、さらに1/20g/dのおもりを掛け30秒後の長さ(B)を測定し、次の式で捲縮率を算出した。
捲縮率(%)=((B−A)/B)×100
【0035】
D.クリンプ数の算出
試料糸を沸水バスに投入し、バスに30min浸漬させた後、そのままの状態で30min風乾した後に光学顕微鏡にて1cmあたりのクリンプ数を計測した。
【0036】
E.生地伸長性能評価
幅50mm、長さ300mmの試験片を用意し、引張試験機又はこれと同等の性能を持つ装置に一端の幅をセットし、生地がたるまないよう下側のもう一端の幅に初荷重を加える。200mmの間隔(A)に印を付け14.7Nの荷重を加える。1時間保持後の印間の長さ(B)を測定した。その後、荷重を取り除き、30秒後に初荷重を加えて印間の長さ(C)を測定し、次式によって伸長回復率(%)を求めた。
伸長回復率(%)=((B−C)/(B−A))×100
得られた結果を以下の基準により判定した。
○:伸長回復率が30%以上
△:伸長回復率が20%以上30%未満
×:伸長回復率が20%未満
【0037】
[実施例1]
成分1の相対粘度2.9のポリアミド(ポリメタキシレンアジパミドとポリアミド6を質量比率50:50になるようブレンダーで混合)チップと、成分2(ポリアミド6)の相対粘度2.4のチップをコンベンショナル法にて紡糸ノズルを用いて、紡糸温度280℃、捲取速度(紡糸速度)2750m/minで成分1:成分2が質量比率1:1になるよう溶融紡糸して繊維横断面がサイドバイサイドに貼り合わせた落花生型である潜在捲縮糸を得た。
未延伸糸を一日エージングさせ、延伸速度800m/min、スピンドル回転数7500rpm、プレートヒーター温度100℃、延伸倍率1.7倍で延伸し、潜在捲縮糸を得た。
成分1と成分2の質量比率および得られたポリアミド潜在捲縮糸の物性を測定した結果を表1に示す。
【0038】
[実施例2、3、4]
成分1のポリアミド(ポリメタキシレンアジパミドとポリアミド6を質量比率50:50になるようブレンダーで混合)の相対粘度を3.0、2.7、2.6に変更する以外は、実施例1と同様に潜在捲縮糸を得た。その結果を表1に示す。
【0039】
[比較例1]
成分2のポリアミド(ポリアミド6)の相対粘度を3.0に、紡糸速度を2770m/minに、プレートヒーター温度を150℃に変更する以外は、実施例1と同様に潜在捲縮糸を得た。その結果を表1に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
実施例1〜4から得られた潜在捲縮糸はいずれも捲縮率が50%以上でクリンプ数が150個以上の捲縮性の高いものであった。
また実施例1〜4および比較例1から得られた潜在捲縮糸を布帛化し、生地伸長性能を評価したところ、実施例1〜4から得られたものは伸縮性能に優れる結果となり、比較例1から得られたものは伸縮性能が劣る結果となった。
また実施例1〜4から得られた潜在捲縮糸を用いて製織、染色したところ、伸縮性に優れ、かさ高で風合いがよい織物となったが、比較例1から得られた潜在捲縮糸を用いて製織、染色したところ伸縮性、かさ高性ともに劣る織物となった。