【解決手段】インパクタモデルは、角速度の入力により回転軸周りに試験対象品モデルの打撃方向に回転する回転本体部モデル110と、回転本体部モデルの回転運動に伴って試験対象品モデルに回転打撃を入力するヘッドフォーム部モデル120と、ヘッドフォーム部モデルに生じる加速度を算出する加速度算出要素モデルを備える。衝撃解析シミュレーション方法は、試験対象品モデルを設定するステップと、インパクタモデル100を設定するステップと、インパクタモデルの回転打撃条件を設定するステップと、角速度の入力によりインパクタモデルを回転させ、試験対象品モデルに回転打撃を入力する衝撃シミュレーションを行うステップと、衝撃シミュレーションで加速度算出要素モデルにより加速度を取得するステップを含む。
加速度算出要素モデルが、ヘッドフォーム部モデルの安定部位であって、中空であるが一定の厚みを持つソリッドモデル部位の内面に設定されていることを特徴とする、請求項1又は請求項2記載のインパクタモデル。
回転本体部モデルの回転軸とヘッドフォーム部モデルの間に質量を任意に付加設定可能な重心位置が設定されていることを特徴とする、請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載のインパクタモデル。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明を実施するための一実施形態を、図面を参照しながら説明する。
図1において、符号100は本発明に係る衝撃解析用のインパクタモデルを示している。
【0022】
まず、インパクタモデル100について説明すると、本実施形態において、インパクタモデル100は、試験対象品モデルに対し、回転運動を伴う打撃(以下、「回転打撃」という。)を入力するもので、
図1および
図2に示すように、回転本体部モデル110とヘッドフォーム部モデル120と加速度算出要素モデル130とカウンターウェイトモデル140を備えている。かかるインパクタモデル100は、回転軸(O
1)周りに回転本体部モデル110を回転させて、試験対象品モデルにヘッドフォーム部モデル120による回転打撃を入力するように設定されている。
【0023】
回転本体部モデル110は所定長のアーム状の形状をもち、一端に回転軸(O
1)を備えている。ヘッドフォーム部モデル120は中空の半球形状をもち、
図3に示すように、回転本体部モデル110の回転軸(O
1)とは重心(G
1)位置を挟んで反対側の他端に取り付け部モデル111を介して回転方向(R)下側に固定状態(拘束状態)に配置されている。
【0024】
加速度算出要素モデル130は、
図2に示すように、ヘッドフォーム部モデル120の安定部位、すなわち、一定の厚みを持たせた球形部モデル121の内面のソリッドモデル部位の内面に設定されている。ここで、ヘッドフォーム部モデル120の安定部位とは、回転打撃の入力時に、加速度算出要素モデル130が設定された節点が剛体に近似した弾性挙動を示す安定部位を指す。すなわち、三軸(XYZ)方向に節点が接合されたヘッドフォーム部モデル120内のソリッドモデル部位において、回転打撃の入力時に、加速度算出要素モデル130が設定された節点と三軸方向に接合された節点どうしがほぼ剛体となって、回転打撃の入力(衝突)による弾性挙動が極力小さくなり、したがって、設定された加速度算出要素モデル130が安定する。
【0025】
カウンターウェイトモデル140は、インパクタモデル100の重心G
1(
図3参照)に掛かる総質量を実車試験の打撃インパクタの総質量と等価となるように調整するもので、ヘッドフォーム部モデル120の近傍に設定されている。
【0026】
次に、試験対象品モデルについて説明すると、本実施形態において、試験対象品モデルの一例としてインストルメントパネルモデル200が設定されている。インストルメントパネルモデル200は、
図4および
図5に示すように、インストルメントパネル本体モデル210にインストルメントパネルリーンフォース(取り付けブラケットを含む)モデル220を組み合わせた複数の部品モデルから構成されている。インストルメントパネル本体モデル210は多種類の樹脂材料(ABS樹脂、ポリプロピレン、ポリスチレン等)からなる樹脂部品モデルとして設定され、インストルメントパネルリーンフォースモデル220は金属材料からなる板金部品モデルとして設定されている。すなわち、インストルメントパネルモデル200は、これら材料の異なる複数の部品モデルから設定されている。
【0027】
次に、コンピュータ上で上記試験対象品モデル、インパクタモデルを設定し、衝撃解析のシミュレーションを実行する手順について
図6等を参照しながら説明する。なお、以下に具体的に記述する条件や設定値は、本発明の実施の形態を説明するための一例であって、本発明はこれに限定されない。
【0028】
(S1)試験対象品モデルを設定するステップ
(S1−1)材料物性の測定
実車の評価試験に用いるインストルメントパネル11(
図11参照)は、樹脂製のインストルメントパネル本体と、板金製のインストルメントパネルリーンフォースと、同じく板金製の取り付けブラケットの各部品から組み合わされている。まず、インストルメントパネル11に使用される各部品(樹脂部品、板金部品)の材料試験片を引っ張り試験機を用いて引っ張り試験を行い、引っ張り速度毎の応力−歪線図、ヤング率、ポアソン比を測定する。
図7に使用材料の応力−歪線図の一例を示す。また、インストルメントパネル本体のヤング率は1600Mpa、ポアソン比は0.3、インストルメントパネルリーンフォース(取り付けブラケットを含む)のヤング率は205000Mpa、ポアソン比は、0.3である。
【0029】
(S1−2)各部品モデルの設定
次に、各部品の形状データをコンピュータに入力し、試験対象品モデルの各部品モデル、すなわち、
図4に示すインストルメントパネル本体モデル210、インストルメントパネルリーンフォースモデル220を設定する。具体的にはコンピュータに入力した各部品の形状データの各要素を三角形要素や四角形要素などのシェル要素あるいは六面体要素や四面体要素などのソリッド要素からなる有限要素にメッシュ分割し、コンピュータで計算可能な数値データとして設定する。
【0030】
(S1−3)材料特性の付与
次に、各部品について上記測定により取得した材料特性((応力−歪線図、ヤング率、ポアソン比)を、速度依存の特性値に変換して、各部品モデル、すなわち、インストルメントパネル本体モデル210、インストルメントパネルリーンフォースモデル220のそれぞれの属性として付与する。
(S1−4)各部品モデルのアッセンブリ
次に、
図4に示す各部品モデル、すなわち、インストルメントパネル本体モデル210、インストルメントパネルリーンフォースモデル220を、インストルメントパネルにおける各部品の組み合わせ状態と一致するようにコンピュータ上で互いに位置合わせし、インストルメントパネルモデル200として設定する。
【0031】
(S1−5)拘束条件、接触可能条件の付与
次に、上記インストルメントパネル12における各部品は、回転打撃入力時に部品どうしが互いに拘束しあう箇所、また、回転打撃入力を受けて部品間の隙間を塞ぐように部品どうしが互いに接触する箇所が存在する。回転打撃入力時の挙動に適合するようにインストルメントパネルモデル200に拘束条件と接触条件を設定する。
【0032】
まず、前者の拘束条件について説明すると、上記インストルメントパネル12は、部品どうしが若干の隙間を形成したまま爪と穴等により互いに組み付けられて剛体接合されている。このため、インストルメントパネルモデル200では、前記剛体接合を実現するため、拘束条件として、各部品モデルにおける剛体接合の対象となる節点について、3軸方向(XYZ方向)に変位および3軸回りに回転しないように拘束する。また、後者の接触条件について説明すると、打撃入力を受けて部品間の隙間(例えば3mm)を塞ぐようにして部品どうしが互いに接触する箇所が存在する。このため、インストルメントパネルモデル200では、接触条件として、各部品モデルにおける接触対象となる節点について、打撃入力を受けて荷重がかかる方向に設定距離(例えば3mm)だけ各節点が移動できるように設定する。かかる拘束条件と接触条件の要素はインストルメントパネルモデル200の属性として付与する。
【0033】
(S1−6)打撃箇所の設定
次に、実車の評価試験に用いるインストルメントパネル11にあわせて、打撃箇所が一致するように、インストルメントパネルモデル200に打撃箇所を設定する。この打撃箇所の要素はインストルメントパネルモデル200の属性として付与する。
【0034】
(S2)インパクタモデルを設定するステップ
次に、上記のようにして設定されたインストルメントパネル200に対し、インパクタモデル100を設定する。インパクタモデル100は、回転本体部モデル110とヘッドフォーム部モデル120と加速度算出要素モデル130とカウンターウェイトモデル140を備えている。
図11に示す実車の評価試験に用いる打撃インパクタ10は、試験機の一部に所定長の回転本体部10aが回転可能に支持され、回転本体部10aの回転軸(O
0)と重心(G
0)を挟んで反対側の回転方向(R)下側に図示しない取り付け部を介して中空で一定の厚みをもつ半球形状のヘッドフォーム部12が図示しないカウンターウェイトと共に取り付け固定されており、ヘッドフォーム部12の内部に加速度計(図示せず)が設置されている。
【0035】
まず、前記の回転本体部10a、取り付け部、ヘッドフォーム部12、カウンターウェイトの形状データをコンピュータに入力し、回転本体部モデル110、取り付け部モデル111、ヘッドフォーム部モデル120、カウンターウェイトモデル140を設定する。具体的にはコンピュータに入力した各部位の形状データの各要素を三角形要素や四角形要素などのシェル要素あるいは六面体要素や四面体要素などのソリッド要素からなる有限要素にメッシュ分割し、コンピュータで計算可能な数値データとして設定する。さらに加速度計の要素として、加速度算出要素モデル130をコンピュータで計算可能な要素として設定する。打撃入力時の加速度(減速度)はインパクタモデル100に入力される角速度とインパクタモデルに掛かる等価荷重(総重量)により算出される入力値を解析ソフトで処理し、算出される。
【0036】
これら回転本体部モデル110、取り付け部モデル111、ヘッドフォーム部モデル120、カウンターウェイトモデル140を前記打撃インパクタ10における各部品の組み合わせ状態と一致するようにコンピュータ上で互いに位置合わせし、さらに回転開始時から回転打撃時に至るまでこれらの各モデルが互いに拘束するように拘束条件を各節点に設定し、各部品モデルをインパクタモデル100として拘束する。また、回転打撃時における各モデル内の接触条件を対象節点に設定する。加速度算出要素モデル130は、
図2に示すように、ヘッドフォーム部モデル120の球形部モデル121の安定部位(頂部直下の内面)に位置決めし、各節点に拘束条件を設定して同位置に拘束する。
【0037】
なお、試験対象品モデルを設定するステップ(S1)と、インパクタモデルを設定するステップ(S2)は実行順序を逆にして行ってよく、また各ステップ(S1)(S2)を並列して行ってもよい。
【0038】
(S3)インパクタモデルの回転打撃条件を設定するステップ
次に、コンピュータ上で、インストルメントパネルモデル200に対するインパクタモデル100の回転打撃条件を設定する。インパクタモデル100の回転打撃条件の設定には、インストルメントパネルモデル200に対するインパクタモデル100の位置条件の設定と、インパクタモデル100の荷重条件および回転条件の設定が含まれる。実車の評価試験においては、試験機に回転自在に支持された打撃インパクタを試験品に向けて回転させ、打撃インパクタのヘッドフォーム部を試験品の打撃箇所に衝突させて回転打撃を与える。
【0039】
(S3−1)位置条件の付与
まず、インパクタモデル100の位置条件として、インストルメントパネルモデル200とインパクタモデル100との相対的な位置関係を設定する。インパクタモデル100の回転によりインストルメントパネルモデル200の設定された打撃箇所(P
1)(
図5参照)にヘッドフォーム部モデル120が衝突するように、両モデルを位置合わせする。具体的には、インストルメントパネル200の打撃箇所(P
1)に対するインパクタモデル100の回転軸(O
1)の相対位置を、実車の評価試験におけるインストルメントパネル11の打撃箇所(P
0)(
図11参照)に対するインパクタ10の回転軸(O
0)の相対位置と一致するように設定し、この回転軸(O
1)の要素はインパクタモデル100の属性として付与する。
【0040】
(S3−2)荷重条件の付与
次に、インパクタモデル100の荷重条件として、実車の評価試験におけるインパクタの総重量(W
0=22kg)と重心(G
0)に対し、インパクタモデル100の重心(G
1)位置を合わせ、同重心(G
1)位置に作用するインパクタモデル100の総重量(W
1)が等価(22kg)となるように設定する(
図3参照)。インパクタモデル100の重心(G
1)位置および総重量(W
1)の各要素はインパクタモデル100の属性として付与する。
【0041】
(S3−3)回転条件の付与
次に、インパクタモデル100の回転条件として、
図3に示すように、インパクタモデル100を回転軸(O
1)周りの回転方向(R)への移動を許容し、それ以外の移動を拘束するように、回転本体部モデル110、ヘッドフォーム部モデル120、取り付け部モデル111、加速度算出要素モデル130の全ての節点に拘束条件を設定する。また、
図11に示す実車の評価試験におけるインパクタの角速度(V
0)と同じ角速度(V
1)をインパクタモデル100に付与できるように設定する。入力される角速度(V
1)は任意に変更可能であり、インパクタモデル100の属性として付与される。なお、インパクタモデル100は、角速度(V
1)の入力により、回転軸(O
1)周りに回転し、インストルメントパネルモデル200の打撃箇所(P
1)へ衝突するように設定される。インパクタモデル100の回転開始位置は任意に設定できるが、計算時間の短縮化を図るため、打撃直前の位置、例えばインストルメントパネルモデル200に設定された打撃箇所(P
1)から回転方向Rと反対方向に5度ないし15度の角度だけ戻る位置)に設定する。
【0042】
(S4)試験対象品モデルに回転打撃を入力する衝撃シミュレーションを行うステップ
次に、有限要素法(FEM)による解析が可能な衝撃解析ソフトを用いて、
図3および
図5に示すように、インパクタモデル100を回転させてインストルメントパネルモデル200に回転打撃を入力する衝撃シミュレーションを行う。すなわち、上記ステップ(S1)乃至(S3)で設定した各種解析条件、拘束条件等の下、角速度(例えばV
1=8.0rad/s)の入力により、打撃直前の位置から、インパクタモデル100を回転させてインストルメントパネル200の打撃箇所(P
1)にヘッドフォーム部120を衝突させる。同時にヘッドフォーム部120内の安定部位に設定された加速度算出要素モデル130により、衝突時の減速度(加速度)を精度良く算出する。
【0043】
衝突時の減速度の解析処理は、アプリケーションソフトが設定した微小時間毎に時間ステップを刻みながら、逐次計算することで行われ、設定した所定の出力時間間隔毎に減速度を出力して記憶し、設定した所定の計算終了時間に達したら計算を終了する。
【0044】
(S5)衝撃シミュレーションから減速度を取得するステップ
次に、衝撃シミュレーションを行ったインストルメントパネルモデル200から評価値として減速度データを取得するステップを行う。本ステップで得られる減速度データは、インストルメントパネルの設計開発において、多数種類の樹脂部品と板金部品の組み合わせ、各部品の形状変更、軽量化などの事前検討を行うために利用する。減速度データの評価値は、前記ステップ(S4)で予め設定され衝撃シミュレーションの中で出力されかつ記憶され、本ステップ(S5)で取得され、また出力装置上で可視化される。衝撃シミュレーションを繰り返し実行することができる。
【0045】
図8のグラフは、本発明のシミュレーション方法で得られる解析結果と、実車の評価試験における実測結果を示している。
図8で横軸はヘッドフォーム部がインストルメントパネル試験品の打撃箇所に接触した時点を起点(0秒)とする経過時間(mS)を、縦軸は衝突による減速度(mm/S
2)を示している。同図によると、実車の評価試験では減速度の実測値が時間の経過と共に急上昇し、その後漸次低下してその後時間の経過とともに殆どゼロとなるが、本発明で得られる減速度の解析値でも時間の経過と共に急上昇し、その後漸次低下してその後時間の経過とともに殆どゼロとなっており、実車の評価試験の結果と良く一致している。このことから本発明のシミュレーション方法は、実車の評価試験を良く再現していることがわかる。
【0046】
上記の各ステップ(S1)〜(S5)の手順を含むシミュレーション方法を実施することでインストルメントパネルの衝撃評価試験の結果を精度良く再現し、予測することができる。
【0047】
以上のことから、本発明の回転打撃入力用のインパクタモデルを用いた衝撃解析シミュレーション方法によれば、回転打撃の入力による衝撃評価試験の結果を精度良く、しかも短時間に再現し、予測することができる。繰り返し再現して理解を深めることができる。この衝撃解析のシミュレーション結果を踏まえて対象品を開発することで、少ない試作回数で対象品を開発できるなど、開発費用の削減、開発期間の短縮化を発揮することができる。
【0048】
本実施形態によると、ヘッドフォーム部120内の厚みのある球形部モデル121の安定部位に加速度算出要素モデル130を設定したことにより、インストルメントパネルモデル200の評価値としての減速度を精度良く算出することができた。
【0049】
以上の実施形態では、試験対象品モデルとして、車両のインストルメントパネルモデルの例を説明したが、これに限らない。例えば、バンパー、センターコンソール、ヘッドレスト等の各モデルに適用可能である。また、車両に限らず、振り子試験機、ロボット等、本発明のインパクタモデルによって回転打撃を入力する全ての試験対象品モデルに適用可能である。さらに、スポーツ分野において、野球やソフトボールのバット、ゴルフクラブ、テニスラケット等の各モデルがボールモデルを打撃する瞬間の加速度(減速度)を算出して、競技者の運動能力の向上、用具の開発に活用したり、医療分野で衝突事故による人体モデルへの影響解析にも活用することが期待できる。