【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、独立行政法人科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST) 研究領域「先端光源を駆使した光科学・光技術の融合展開」における研究課題「高性能レーザーによる細胞光イメージング・光制御と光損傷機構の解明」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【解決手段】 光学測定装置は、光源と、前記光源からの出力光の一部の光成分を他の光成分に対してπ/2遅延させるπ/2位相加算器と、前記π/2位相加算器を介した光と、試料に導かれ、前記試料で透過または反射された光を検出する受光器と、前記受光器で検出された検出光と、前記光源に同期する同期信号とを入力とし、前記同期信号を用いて前記検出光に生じた位相変化を検出する位相変化検出器と、を有し、前記位相変化により前記試料の特性を取得する。
前記位相変化検出器は、前記同期信号が前記検出光と直交するように前記同期信号の位相を制御するとともに、位相制御信号を位相変化の検出結果として出力することを特徴とする請求項1に記載の光学測定装置。
前記位相変化検出器は、前記乗算器の出力から低周波成分を取り出すフィルタをさらに有し、前記低周波成分が前記位相シフタに帰還されるとともに、前記位相変化の検出結果として出力されることを特徴とする請求項3に記載の光学測定装置。
前記同期信号が前記検出光と直交するように、前記同期信号の位相を制御するとともに、位相制御信号を前記位相変化の検出結果として用いることを特徴とする請求項7に記載の光学測定方法。
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学測定装置および光学測定方法に関し、詳しくは、試料から得られる光信号の位相変化に基づいて光強度変調信号を検出する光学測定技術に関するものである。
【0002】
光信号検出装置の一種に、
図1に示す装置がある。
図1(A)では、レーザ等の光源1からの出力光を試料2に透過あるいは反射させてその透過光あるいは反射光を受光器3で検出し、この検出光の強度変化に基づいて、試料2の特性を観測する。
【0003】
図1(A)において、光源1からの出力光の強度をA、試料2による強度変化率(または強度変調度)をm、受光器3の変換率をBとすると、出力信号の大きさはA×(1+m)×Bとなる。ここで元の光信号の強度成分はA×1×B、試料からの信号成分はA×m×Bである。強度変調を受けた信号成分は元信号の光強度信号に加算されて検出される。
【0004】
このような光信号検出装置における光源1の強度変化率は数10%になることもあり、一般的に試料2から得られる光強度変化率(m)の0.1〜0.01%に比べてはるかに大きく、試料2からの光信号を適切に分離して取得することはきわめて困難である。
【0005】
そこで、従来から一般に、たとえば
図1(B)のような構成で検出信号を得ることが行われている。なお、
図1(B)では
図1(A)と共通する部分には同一の符号を付けている。
図1(B)において、外部に設けた試料変調器4と同期信号発生器5により、試料の状態を同期信号の周波数で変調させる。試料2により誘起される光源1の光強度の変化は試料の状態の変調の効果を受け、同期信号の周波数で変調される。試料に与えられた変調に同期した同期信号成分を同期検波器6で抽出することにより試料に誘起された光強度の変調信号を得ている。
【0006】
図1(B)において、試料2を周波数ωで変調した場合、受光器3からの出力は、
A(1+m×sin(ωt))×B
となる。
【0007】
一方、同期検波器6の出力は、
A(1+m×sin(ωt))×B×sin(ωt)
になる。
【0008】
そして、ωtを0から2πの範囲で積分すると、π×A×m×Bとなるので信号成分を抽出できる。ここで、光源信号の成分A×B×sin(ωt)は、ωt:0〜2πの積分でゼロとなる。
【0009】
特許文献1には、光強度信号を同期検波して検出信号を得るレーザ顕微鏡の構成が示されている。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<第1実施形態>
以下、本発明について、図面を用いて説明する。
図2は本発明の一実施例を示す光学測定装置100Aの構成図であり、
図1と共通する部分には同一の符号を付けている。
図2において、光源1は、その出力光を試料2に照射し、その透過光または反射光に生じた強度変化を位相変化として測定し、測定結果に基づいて試料2の特性を求める。光源1としては、一定周期で短時間発光するパルスレーザ、あるいは周期的な強度変調を掛けたCWレーザ等を用いる。すなわち、光源1は、一定周期で発光強度が変化する光源や、光源と変調装置を組み合わせたものが使用できる。なお、光源自体が一定周期で発光する場合は、変調装置は光源の発光周期を検出する検出装置となる。
【0021】
受光器3は、光を受光して電気信号に変換する光電変換器である。
【0022】
光源同期信号発生器7は、光源1の出力光と受光器3からの検出信号とを同期検波させるための同期信号を発生出力する。光源1がたとえばCWレーザであれば発光強度変調を行い、パルスレーザであれば発光タイミングの周波数を決める。
【0023】
光源強度変調器8は、光源同期信号発生器7の出力信号に基づいて光源1の発光強度を制御する。
【0024】
変調位相変化検出器9は、受光器3で受光して電気信号に変換出力される試料2を経由した信号を同期検波し、光源同期信号との間の位相変化のみを検出・出力するものであり、光源同期信号の同一位相成分とπ/2ずれた成分の位相検波を行う2位相のロックインアンプ等で実現できる。
【0025】
π/2位相加算器10は、2個のビームスプリッタ10a、10dと2個の反射ミラー10b、10cとで構成されている。
【0026】
光源1からの出力光は、ビームスプリッタ10aにより試料2を照射する光と試料2を照射しない光に分波される。分岐された一方の光成分は、反射ミラー10b、10cにより光源1の強度変調周期の1/4(π/2)の時間遅れが与えられ、他方の光成分は試料2を照射する。2つの光成分はビームスプリッタ10dにより再加算される。たとえば光源1の変調周期が20nsであれば、5ns分、π/2位相加算器10の光路長を長くして試料2を照射した光に再加算する。
【0027】
図2において、光源強度変調器8によりω
cで変調された光源1からの光を、
A×(1+sin(ω
ct))
とする。
【0028】
ビームスプリッタ10aで分岐された光成分のうち、試料2側から受光器3に到達した光を
【0029】
【数1】
とし、分波されπ/(2×ω
c)時間遅れて受光器3に到着した光を
【0030】
【数2】
とする。二つの光を加算すると、
【0031】
【数3】
となる。ここで、位相変化を表わすθ
mは
【0032】
【数4】
であり、θ
mは試料2による強度変化(または強度変調度)mのみに依存する。
【0033】
受光器3における光強度の変調信号に対する位相変化はmのみに依存し、受光器3の後段で変調位相角の変化を検出することで、試料2により発生する強度変化mを測定できる。この位相変化は、光源1の強度や、受光器3と変調位相変化検出器9の感度によっても変化しないことから、光源1の強度や受光器3の感度等が、mの定量測定の誤差要素にはならない。
【0034】
なお、上記の計算では、簡略化のため、二つの光路に分岐させた光の強さを等しいものとし、光路差は1/4周期としている。実際の構成で、光学系が理想的な条件からずれていても、位相変化を表わすθ
mが光源1の強度や受光器3の感度変化に影響されないので、安定した測定結果を得ることができる。
【0035】
図3は本発明に基づく他の実施例を示す光学測定装置100Bの構成図であり、
図2の構成よりもさらにノイズを抑制するために、
図1(B)に示した手法を組み合わせたものである。
【0036】
試料変調器4は、試料2によって得られる信号光の強度変化の大きさを外部から変化させる機能を有するものである。試料2に照射される光源1とは別のポンピング光を照射する手段等で実現する。また、外部からの変調波二つの信号の積で制御する場合もある。
【0037】
同期信号発生器5は、試料変調器4と同期検波器6を同期して動作させるための同期信号を発生する信号発生器である。
【0038】
同期検波器6は、ロックイン検波増幅器等、試料2を経由して強度変調された信号から変調周波数成分のみを抽出する機能を有する検波器である。
【0039】
これらの構成によれば、光源1の強度変化の影響を受けることなく安定に計測でき、受光器3の感度変化の影響も受けることなく高精度、高安定に計測できる。
【0040】
また、光源1のノイズ成分を除去した高感度計測を行うことができ、結果として、高速高安定な計測が実現できる。
【0041】
また、高速計測が行えることから、多数のデータを計測して2次元あるいは3次元データとして活用するような多点計測アプリケーションにも適用できる。
【0042】
なお、位相変化を捉える電気的な手法はいろいろ提案されているが、本発明はどのような手法であっても適用でき、たとえば後述する位相検波器を用いることができる。
【0043】
図4は、本発明の他の実施例を示す光学測定装置100Cの構成図であり、
図2と共通する部分には同一の符号を付けている。
図4と
図2の違いは、試料2がπ/2位相加算器10の下流に設けられていることである。このような構成により、試料2には、π/2位相加算器10を通過した光が照射される。
【0044】
図5は、本発明の他の実施例を示す光学測定装置100Dの構成図であり、
図3と共通する部分には同一の符号を付けている。
図5と
図3の違いは、試料2がπ/2位相加算器10の下流に設けられていることである。このような構成により、試料2には、
図4と同様に、π/2位相加算器10を通過した光が照射される。
【0045】
図4および
図5の構成によれば、試料2がπ/2位相加算器10の下流に設けられていることにより、π/2位相加算器10によって重ねられた両方の光が試料の同じ位置を透過、或いは同じ位置で反射して受光器3に入力される。試料2による反射や散乱、吸収の変動といった、試料変調以外の効果を受けることなく、試料変調による強度変化mのみを検出できる。
【0046】
以上説明したように、
図2〜
図5の構成によれば、光源1の出力光の不規則な強度変動や受光器の不規則な感度変動の影響を受けることなく高速高感度で高精度の安定した測定が行える光学測定装置が実現できる。
<第2実施形態>
図6は、第2実施形態の光学測定装置200の構成例を示す。第2実施形態では、本発明を誘導ラマン顕微鏡に適用する。誘導ラマン散乱の観測では、少なくとも2波長の光を試料に照射する。この2波長の光のエネルギー差が分子振動のエネルギーに一致したときに、波長が短い方の光の強度が減少し、波長が長い方の光の強度が増加する。すなわち、片方の光を刺激源として(これを「ポンプ光」と呼ぶ)、もう片方の光をプローブ光とすると、プローブ光の強度変化を観測することで分子振動の観測が可能である。さらに、プローブ光として白色光を用い、分光した後に各波長の強度変化を観測することでスペクトルを得ることも可能である。これらポンプ光と白色プローブ光を顕微鏡に導入し、光または、試料を掃引することで、試料の各測定点におけるスペクトルを得ることができる。これをスペクトルイメージングという。
【0047】
第2実施形態では、光源21としてチタンサファイアパルスレーザーを用いる。この点で、光源21を「パルス光源21」と称してもよい。光源21の発振波長は802nm、パルス幅は2.5ps、パルス繰り返し周波数は76.3MHzである。パルスレーザからのパルス光はビームスプリッタ24により分割され、片方は白色パルス光の生成に、もう片方はポンプパルス光(以下、単に「ポンプ光」と称する)L
1として用いられる。
【0048】
白色光の生成のため、パルス光の一部は集光され、高非線形フォトニック結晶ファイバー(PCF:Photonic Crystal Fiber)25に入射される。光源21とPCF25で白色光源を構成する。PCF25によってスペクトルが拡張された白色パルス光の偏光方向は、偏光子26によって、調整・固定される。次に、偏光ビームスプリッタ10aにより垂直偏光は反射され参照光L
ref として用いられ、水平偏光は透過され、プローブパルス光(以下、単に「プローブ光」と称する)L
2として用いられる。ここで、偏光方向によってプローブ光L
2と参照光L
ref への分割比が調整され、偏光方向が45度である場合には、プローブ光L
2と参照光L
ref への分割比はほぼ等しくなる。
【0049】
通常、PCF25によって生成された白色パルス光の偏光方向はパルス毎に揺らぐ。偏光ビームスプリッタ10aの分割比は偏光依存性があるので、偏光方向が揺らぐと分割比の揺らぎをもたらす。このような、測定中のパルス毎の分割比の揺らぎを防ぐため、偏光子26による偏光の固定が重要である。
【0050】
参照光L
ref を、反射ミラー10b、10cを含む付加的な光路に通過させることより、パルス繰り返し周期の1/4程度の遅延時間が与えられる。パルス繰り返し周波数が76.3MHzの場合、付加的な光路の光路長は98cmである。遅延された参照光L
ref は偏光ビームスプリッタ10dにより、プローブ光L
2と空間的に重ねられ、プローブ光L
2と平行になるように反射される。偏光ビームスプリッタ10a、10d及び反射ミラー10b、10cで構成されるπ/2遅延生成部は、第1実施形態と同様に「π/2位相加算器10」と呼んでもよい。
【0051】
偏光ビームスプリッタ10a、10dは通常のビームスプリッタでも良いが、偏光ビームスプリッタを用いることで水平偏光は高い透過率で透過し、垂直偏光は高い反射率で反射する。水平偏光であるプローブ光L
2は高い透過率で透過し、垂直偏光である遅延された参照光L
ref は高い反射率で反射されるので、白色光の損失を低く抑えることができる。
【0052】
空間的に重ねられたプローブ光L
2と参照光L
ref はダイクロイックミラー27を透過する。ダイクロイックミラー27は、白色光を透過させ、ポンプ光を反射する光学素子である。
【0053】
一方、ポンプ光L
1はディレイ(遅延)ステージ38によって、プローブ光L
2とのみ、試料22への入射のタイミングが一致するように調整される。ディレイステージ38は直線状に移動するステージ上に設置された2枚の鏡35、36からなり、鏡35、36の位置によって光路長の調整が可能である。光路長を適切に調整することで、プローブ光L
2とのみタイミングを一致させることが可能である。
【0054】
次に、ポンプ光L
1は光強度変調器41によって、強度変調を受ける。光強度変調器41として光学チョッパや電気光学変調器(EOM:Electro‐Optic Modulator)、音響光学変調器(AOM:Acousto‐Optic Modulator)などを用いることができる。
図6の例では、光学チョッパにより、4.48kHzで変調される。強度変調されたポンプ光L
1はダイクロイックミラー27上でプローブ光L
2と空間的に重ねられ、プローブ光と平行にアラインされる。
【0055】
空間的に重ねられたプローブ光L
2、参照光L
ref 、及びポンプ光L
1は顕微鏡28に導入され、試料22に照射される。光強度変調器41は試料22を変調するポンプ光L
1の強度を変調するものであり、ミラー33,34,37、ディレイステージ38、及び光強度変調器41で試料変調器を構成する。
【0056】
試料22を透過したプローブ光L
2と参照光L
ref は図示しないコンデンサレンズで集められ、分光器29に入射される。ここで、試料22または光を掃引することで、試料22の各測定点における信号強度を測定するイメージングが可能である。分光器29によって、白色光が分光され、特定の波長成分が受光器23に導入される。受光器23からの信号は位相検波器30に導入される。
【0057】
図6の構成例では、位相検波器30に用いられる同期信号は光源(パルスレーザー)21から供給されるようになっている。位相検波器30からの出力は、ロックイン検出器31に導入される。ロックイン検出に用いられる参照信号は、光強度変調器制御器42から供給されるようになっており、ポンプ光L
1による刺激に起因する信号のみが得られる。
図6では、図示の便宜上、一波長分の構成を示しているが、受光器23からロックイン検出器31まで測定系列を波長ごとに並列的に配置することで、誘導ラマンスペクトルを得ることができる。
【0058】
図7を参照して、
図6で用いた位相検波器30の構成を説明する。第2実施形態の方法では、白色パルス光の強度揺らぎが大きいので、誘導ラマン散乱による強度変調を受けた信号の位相変化を、この強度揺らぎに影響されずに測定することが肝要である。
【0059】
第2実施形態の位相検波の特徴は、光検出信号の位相と同期信号の位相が直交するように同期信号の位相を帰還制御するとともに、この帰還制御信号を位相検波器30の出力として得るものである。同期信号のための帰還制御信号は、光検出信号と同期信号の位相差が90°を保つように変化するので、位相帰還信号は光検出信号の位相に比例する。
【0060】
具体的な構成例と、光検出信号と同期信号を直交させる意義を含めた原理の詳細は以下のとおりである。分光されたプローブ光L
2と参照光L
ref は、受光器23の共通の光検出素子231によって電流に変換される。この電流は、パルス繰り返し周波数に共鳴する共振器232を負荷として電圧信号に変換される。電流信号を電圧信号に変換するために、抵抗を負荷とするトランスインピーダンスアンプを用いても良いが、共振器232を負荷とすることで、抵抗の熱雑音や計測に無関係な外来ノイズを避けることができる。共振器からの電圧信号はプリアンプ233によって適切な大きさまで増幅される。
【0061】
増幅された信号は、位相検波器30の乗算器301に入力される。白色プローブ光L
2と参照光L
ref の光学的な分割比をa:b(a+b=1)とする。参照光L
ref は1/4周期に相当する付加的な光路によりプローブ光L
2に比べて位相が90°遅れるので、プローブ光L
2の基本成分を余弦波で表すと、参照光L
ref の基本成分は正弦波で表される。プローブ光L
2の検出信号を
【0063】
【数6】
とすると、乗算器301に入力される信号はこれらの和であり、
【0064】
【数7】
となる。ここで、Aは白色光源の強度に比例し、揺らぎを含むもので、mは誘導ラマン散乱による強度変化の度合い(強度変調度)、ω
cはパルス繰り返し角周波数、θ
mは式(7)で表される位相変化、
【0066】
【数9】
と近似でき、位相変化θ
mと強度変化(または強度変調度)mは比例する。
【0067】
一方、位相検波器30のもうひとつの入力信号である同期信号は、位相シフタ305により位相が調整されたあと、乗算器301に導入され、光検出信号と乗算される。この同期信号を、
【0068】
【数10】
とする。位相シフタ305は、電圧によって同期信号の位相θ
dを調整することが可能である。同期信号の位相θ
dと、後述する積分器304から出力される位相制御電圧v
0の関係は、定数Kを用いて、式(10)で表される。
【0069】
θ
d=Kv
0 (10)
乗算器301からの出力は、減算器302によってオフセット(r)が補正される。オフセット(r)は、同期信号と光検出信号の位相関係を決めるものであり、このオフセット補正や意図しない回路素子のオフセットによって定まる。あるいは、オフセット補正により、意図しない回路素子のオフセットを打ち消すことができるようになっている。オフセット(r)を含む乗算器301からの出力は、
【0071】
問題とする応答周波数(信号の変化の速度)が2ω
cよりも十分に小さいときは、次に続く積分器304のゲインが20dB/decの割合で減少する(周波数が10倍になるごとに振幅が1/10になる)ので、式(11)の低周波成分、
【0073】
また、角周波数ω
cの高周波成分を取り除くためにループフィルタ303を挿入しても良い。ループフィルタ303を挿入することで、測定の応答速度を大きくして、より高速な現象を測定することができる。ループフィルタ303による高速化の効果に関しては、後述する。
【0074】
式(12)において、θ
m−θ
d<<1のとき、
【0075】
【数13】
と近似できる。ここで、A{a
2(1+m)
2+b
2}
1/2のラプラス変換をA'、1/[A{a
2(1+m)
2+b
2}
1/2]のラプラス変換を(1/A)'、v
0、θ
m、θ
dのラプラス変換をそれぞれV
0、Θ
m、Θ
d、積分器304の積分時間をTとすると、積分器304の出力は式(14)で表される。
【0076】
【数14】
ここで、演算子は畳み込み積分を意味する。式(10)の関係を用いて式(14)を整理すると(Θ
d=KV
0を代入)、
【0077】
【数15】
となる。出力の周波数応答は、応答角周波数をωとして、式(15)のsをs=jωとしたものである(j=(−1)
1/2)。
【0078】
【数16】
帰還される目標値は、式(16)において、ωT→0とした量であり、
【0079】
【数17】
となる。このとき、出力は式(17)を逆ラプラス変換して、
【0080】
【数18】
となる。式(18)から、r=0のときは、目標値は
v
0→θ
m/K (19)
であり、式(10)から、
θ
d→θ
m (20)
となる。
【0081】
式(6)、(9)、(20)に注意すると、同期信号(式(9))は、A、a、bとは無関係に光検出信号と直交していることが分かる。すなわち、位相シフタ305にフィードバックされる制御電圧v
0は、いかなる光学的分割比a:bにおいても、Aの揺らぎ、すなわち光雑音の影響を受けずに光検出信号の位相変化θ
mと比例することが分かる。
【0082】
一方、オフセットrがゼロでないとき(r≠0)は、式(18)のように、位相検波器30の出力は光検出信号の振幅Aに依存する。これはフィードバック用の制御電圧v
0がAの揺らぎ(光雑音)の影響を受けることを意味している。すなわち、同期信号の位相を光検出信号に追従させ、同期信号の位相制御信号を位相検波器30の出力として得る第2実施形態の手法で信号雑音比を最大化させるためには、同期信号の位相と光検出信号の位相を直交させることが重要になる。
【0083】
次に、応答速度とループフィルタ303の効果に関して説明する。式(16)から、Tが一定である時、ωが大きくなると、実際の位相変化と帰還制御される位相との偏差が大きくなることが分かる。これは、観測周波数が大きくなると、帰還制御が追従できなくなることを意味している。すなわち、高速な現象を観測できないことを意味している。
【0084】
ここで積分時間Tを短く設定すると、ωが大きくても、Tωは小さく保つことができる。これは、Tを短くすることで、帰還ループの遮断周波数が大きくなり(応答速度が大きくなり)、高速な現象の観測が可能になることを意味する。しかしながら、積分器304のゲイン傾きが−20dB/decでしかないので、Tを短くするだけでは、式(11)で表される乗算器301の出力中の高周波成分を十分に除くことができなくなる。
【0085】
たとえば、試料22による強度変化mを観測する周波数がパルス繰り返し周波数の1/100の場合、誘導ラマン散乱による強度変化mが10
−3〜10
−5であるのに対し、パルス繰り返し周波数の搬送波の影響が10
−2程度の強度変調度として出力に現れ、ダイナミックレンジが狭まる。そこで、ループフィルタ303を帰還ループに挿入することで、2ω
cの信号を十分に減衰させ、遮断周波数を大きく設定する。ここで、遮断周波数における位相遅れが180°未満になるように、ループフィルタ303を設定することが重要である。位相遅れが180°を超えると、帰還が正帰還となり、制御の発振をもたらす。一般に、120°未満に位相遅れを設定すると、オーバーシュートが現れず、この値が適切な位相遅れの目安となる。
【0086】
このようにして得られた位相制御信号を、着目する観測周波数成分を通すバンドパスフィルタ306を経て出力するようにしても良い。バンドパスフィルタ306を挿入することで、位相変化を表わす位相変調信号を出力する一方、位相のオフセットや観測に無関係な電気的雑音を除き、ダイナミックレンジを広げることができる。
【0087】
図8は、第2実施形態の光学測定装置200による、白色光源の強度(横軸)と誘導ラマン散乱による出力値(縦軸)の関係を示す。白色光源のパワーは減光フィルターを用いて調整した。白色光源のパワーは受光器23の直前で測定したものである。出力信号はシクロヘキサンのC−H伸縮振動のラマンバンドに由来し、1.7×10
−3の強度変調度に相当するものである。
【0088】
図8から、白色光源のパワーが1.5μWから8μWまで変化しても出力値は30mV近傍で一定であることが分かる。この結果から、試料22により生じた変化の測定において、光検出信号の強度変化ではなく、位相変化が検出されていることが実証されている。すなわち、光強度が変動しやすいプローブ光源を用いた場合や、光学系の乱れに由来するプローブ光の強度変動を生じた場合でも、これらの変動に影響されず、高い安定性で測定信号が得られることが分かる。
【0089】
図9は、光学測定装置200による光雑音除去の効果を示す。縦軸は観測された雑音を強度変調度に換算したものである。白色光の強度雑音は、光学測定装置200の同期信号の位相を固定したうえで、参照光L
ref を遮断し、プローブ光L
2のみを観測するようにして、乗算器301直後の信号をロックイン検出により140回測定し、二乗平均平方根(RMS:Root Mean Square)を計算したものである。同期信号の位相を固定することで、乗算器301直後の信号は光検出信号の強度に比例する。プローブ光L
2の信号強度は、プローブ光L
2を直接強度変調してロックイン検出により得た。白色光の強度雑音を、ロックイン検出したプローブ光L
2の信号強度で除算して変調度に換算した。白色光の強度雑音は変調度換算で1.1×10
−4Hz
-1/2であった。
【0090】
一方、第2実施形態の位相検出を適用したときの雑音は、ポンプ光L
1を遮断したうえで雑音を140回測定したRMS値として得た。次に、ポンプ光L
1を入射し、既知のシクロヘキサンの変調度と出力の関係を用いて、雑音のRMS値を強度変調度に換算した。この測定をプローブ光L
2と参照光L
ref の強度バランスを変えて繰り返した。プローブ光L
2と参照光L
ref の強度バランスは、
図6の偏光子26の角度により調節した。
【0091】
図9の横軸の光学バランスは、{(プローブ光パワー)−(参照光パワー)}/{(プローブ光パワー)+(参照光パワー)}で定義する。例えば、光学バランス値が零であるということは、プローブ光のパワーと参照光のパワーが等しいことを意味する。
【0092】
図9の結果から、光雑音は光学バランスに依存せず、光源雑音のおよそ1/20である5×10
−6Hz
−1/2 まで雑音が削減されていることが分かる。一般に、信号雑音比は積算時間の1/2乗に比例して改善するので、雑音が1/20になるということは、同じ信号雑音比を得るのに必要な積算時間は1/400となることを意味する。すなわち、400倍の高速化が実現される。
【0093】
また、プローブ光L
2と参照光L
ref の差を観測する一般的なバランス検出法では、雑音除去能は光学バランスが等しいときに最大で、バランスが崩れるとその分だけ光雑音が除去できなくなるが、実施形態では原理的に雑音除去能が光学バランスに依存しない。この特徴も光学測定装置200の堅牢性に寄与する。
【0094】
図10は本発明を誘導ラマンイメージングに適用した効果である。試料はスライドガラス上の4μm径のポリスチレン球で、信号はポリスチレンのベンゼン環のC−H伸縮振動のラマンバンドが得られる波長で観測されている。ロックイン検出の時定数は100msとした。
【0095】
図10(a)は、同期信号の位相を固定し、参照光L
ref を遮断して、乗算器301直後の信号により得られた像で、プローブ光L
2の強度変調が観測される。この条件は、第2実施形態の手法を適用せずに、光検出信号に対しロックイン検出のみを適用したものと同じである(
図1(B)の方法)。
図10(a)のイメージでは、プローブ光L
2の光雑音に起因する信号揺らぎが支配的で、ポリスチレン球の像が得られていない。
【0096】
図10(b)は第2実施形態の手法を適用して得られた画像であり、イメージの相対的なコントラストは変調度換算で
図10(a)と等しくなるように調整してある。
図10(b)のイメージでは、光雑音が低減されており、ポリスチレン球が無い領域で、
図10(a)と比較して信号の揺らぎが小さい。4μm径のポリスチレン球のある領域では、ポリスチレン球の形状に対応して円盤状に信号強度が大きい領域が観測されている。すなわち光雑音は低減され、かつ誘導ラマン散乱信号は打ち消されることなく観測されている。この測定結果は、本発明が誘導ラマンイメージングにも適用可能であり、その信号雑音比の向上に有効であることを実証している。