(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-88218(P2015-88218A)
(43)【公開日】2015年5月7日
(54)【発明の名称】イオンビーム処理装置及び中和器
(51)【国際特許分類】
H01J 37/077 20060101AFI20150410BHJP
H01J 37/30 20060101ALI20150410BHJP
H01J 37/305 20060101ALI20150410BHJP
H01J 27/08 20060101ALI20150410BHJP
【FI】
H01J37/077
H01J37/30 Z
H01J37/305 A
H01J27/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-287192(P2011-287192)
(22)【出願日】2011年12月28日
(71)【出願人】
【識別番号】000227294
【氏名又は名称】キヤノンアネルバ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100143395
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 今日文
(74)【代理人】
【識別番号】100173174
【弁理士】
【氏名又は名称】間野 日出男
(72)【発明者】
【氏名】深石 翼
(72)【発明者】
【氏名】中川 行人
(72)【発明者】
【氏名】辻山 公志
【テーマコード(参考)】
5C030
5C034
【Fターム(参考)】
5C030DE01
5C030DE03
5C030DG07
5C034AA01
5C034AA09
5C034BB09
5C034BB10
(57)【要約】
【課題】ホローカソードタイプの中和器を用いた場合、中和器内部に堆積物が生じる。イオンビームによって電子部品を製造する際に中和器を用いた場合、その堆積物が加工中に基板上に落下することでパーティクルが生じ、製品の不良が発生して歩留まりが低下する。
【解決手段】イオンビームを中和するために、イオンビーム処理装置に設けられたホローカソードタイプの中和器であって、該中和器のアノード及びカソードは同一の熱膨張率を有する材質から構成されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部空間を有するプラズマ形成室と、
前記プラズマ形成室に連結した処理室と、
前記プラズマ形成室にプラズマを形成するための電力供給手段と、
前記プラズマ形成室に形成されたプラズマからイオンを引き出し、前記処理室に向けてイオンビームを照射するための引き出し手段と、
を有するイオンビーム処理装置であって、
電子を放出する中和器を前記処理室に備え、
前記中和器は、
プラズマが形成される中空部を有するカソードと、
前記カソードと対向し、前記中空部に形成されるプラズマから電子を引き出すアノードと、
前記カソードに負の電圧を、前記アノードに正の電圧を印加するための電圧印加手段と、
前記中空部に放電用ガスを導入するためのガス導入部とを有し、
前記アノードと前記カソードが同一の熱膨張率を有する材質から構成されていることを特徴とするイオンビーム処理装置。
【請求項2】
前記アノードと前記カソードが同一の材質から構成されていることを特徴とする請求項1に記載のイオンビーム処理装置。
【請求項3】
前記アノードと前記カソードはチタンから構成されていることを特徴とする請求項2に記載のイオンビーム処理装置。
【請求項4】
プラズマが形成される中空部を有するカソードと、
前記カソードと対向し、前記中空部に形成されるプラズマから電子を引き出すアノードと、
前記カソードに負の電圧を、前記アノードに正の電圧を印加するための電圧印加手段と、
前記中空部に放電用ガスを導入するためのガス導入部とを有し、
前記アノードと前記カソードが同一の熱膨張率を有する材質から構成されていることを特徴とする中和器。
【請求項5】
前記アノードと前記カソードが同一の材質から構成されていることを特徴とする請求項4に記載の中和器。
【請求項6】
前記アノードと前記カソードはチタンから構成されていることを特徴とする請求項5に記載の中和器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオンビーム処理装置及び中和器に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品等の製造において、イオンビームによる種々の処理が適用されている。特にイオンビームをエッチングに用いたイオンビームエッチングは、被処理基板の加工等に広く利用されている。
【0003】
イオンビームはプラズマ源から複数の電極を用いてイオンを引き出すことにより形成される。このとき被処理基板のチャージアップを防止するために、引き出したイオンビームの電荷量に等しい負の電荷を供給する必要がある。
イオンビームの中性化は、中和器を用いて電子をイオンビームに対して供給することにより行われる(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4−351838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
中和器とは、イオンビーム処理装置内のイオンビームによる電荷を中和するために設置される電子発生装置であり、その構造としては、
図3に示すようなホローカソードタイプのものを用いることが考えられる。ホローカソードタイプはフィラメントを用いた中和器と比べて寿命が長く、小さなプラズマ体積で大きな電流密度及び効率が得られる。なお、
図3及び
図4は本発明者が従来の中和器の課題を説明するために作成した図である。
【0006】
図3において、201はアノード(陽極)、202はカソード(陰極)、203はアノード201とカソード202を絶縁するための絶縁体である。カソード202は筒形であり、一端がアノード201に対向して開口しており、他端は閉塞している。カソード202は内部にプラズマを形成するための中空部207を有する。カソード202の中空部の断面形状は一般に円状であるが、正八角形や正六角形など、プラズマが形成できる空間が存在すれば良い。アノード201及びカソード202は各々に所定の電圧を印加するために電源206に接続されている。204は中和器内に放電用ガスを導入するためのガス導入路、205は放電用ガスの流量や圧力を制御するためのガス導入制御部であり、不図示のガス源に接続される。
【0007】
中和器内に放電用ガスを導入し、カソード202に負の電圧を印加することで、中空部207にプラズマが形成される。さらにアノード201に正の電圧を印加することでアノード201の開口部より電子が引き出され、イオンビームの中和が行われる。
アノード201には、例えば、耐熱性を考慮してチタンが、カソード202には加工容易性およびコストを考慮してステンレスが好適に用いられる。
【0008】
上述したようなホローカソードタイプの中和器はカソード202の開口部付近がプラズマによって削られていく。削られたカソード202の材質は、
図4に示すように、中和器内部のアノード201の開口部付近に堆積し、堆積物208が形成される。このためイオンビームを電子部品の製造に用いる場合、中和器内の堆積物208が加工中に基板上に落下することでパーティクルが生じ、製品の不良が発生して歩留まりが低下するという問題が生じる。
【0009】
本発明はこのような問題を解決するために成されたものであり、電子部品等の製造に適した中和器の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、イオンビーム処理装置に備えられたホローカソードタイプの中和器において、アノードとカソードを同一の熱膨張率を有する材質もしくは同一の材質から構成することをその要旨とする。
【0011】
本発明の第1の側面は、内部空間を有するプラズマ形成室と、前記プラズマ形成室に連結した処理室と、前記プラズマ形成室にプラズマを形成するための電力供給手段と、前記プラズマ形成室に形成されたプラズマからイオンを引き出し、前記処理室に向けてイオンビームを照射するための引き出し手段と、を有するイオンビーム処理装置に係り、電子を放出する中和器を前記処理室に備え、前記中和器は、プラズマが形成される中空部を有するカソードと、前記カソードと対向し、前記中空部に形成されるプラズマから電子を引き出すアノードと、前記カソードに負の電圧を、前記アノードに正の電圧を印加するための電圧印加手段と、前記中空部に放電用ガスを導入するためのガス導入部とを有し、前記アノードと前記カソードが同一の熱膨張率を有する材質から構成されていることを特徴とする。
【0012】
本発明の第2の側面は、中和器に係り、プラズマが形成される中空部を有するカソードと、前記カソードと対向し、前記中空部に形成されるプラズマから電子を引き出すアノードと、前記カソードに負の電圧を、前記アノードに正の電圧を印加するための電圧印加手段と、前記中空部に放電用ガスを導入するためのガス導入部とを有し、前記アノードと前記カソードが同一の熱膨張率を有する材質から構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明を用いることで、電子部品の加工にイオンビームを用いた場合にも、中和器からのパーティクル発生が抑制され、歩留まりが改善される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明が適用可能なイオンビーム処理装置の一例を説明するための図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る中和器を説明するための図である。
【
図4】従来の中和器の問題点を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は本実施形態に限定されず、その要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。また、以下で説明する図面において、同機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略することもある。
【0016】
本発明に係る中和器を用いたイオンビーム処理装置の一例としての、イオンビームエッチング装置の概略図を
図1に示す。
【0017】
イオンビームエッチング装置100は主にプラズマが形成されるプラズマ形成室102と、プラズマ形成室102と連結した処理室101で構成されている。
プラズマ形成室102にプラズマを形成するためのプラズマ形成手段として、放電容器としてのベルジャ104、ガス導入部105、ベルジャ104内に誘導磁界を発生するアンテナ106、アンテナ106に高周波電力(ソース電力)を供給する放電用電源112、放電用電源112とアンテナ106の間に設けられた整合器107、電磁コイル108が設置されており、処理室101との境界にはグリッド109が設置されている。放電用電源112から供給された高周波電力がアンテナ106に供給され、ベルジャ104内部のプラズマ形成室102にプラズマが形成されるようになっている。ベルジャ104はその内壁部にファラデーシールド118を備える。
【0018】
処理室101には排気ポンプ103が設置されている。また、処理室101内には基板ホルダ110があり、基板111は基板ホルダ110により固定される。
プラズマ形成室102にプラズマが形成された後、グリッド109に電圧を印加して、プラズマ形成室102内のイオンをビームとして引き出す。引き出されたイオンビームは、中和器113により電気的に中和されて、基板111に照射される。
【0019】
図2に本発明に係る中和器を示す。
基本的な構造は
図3及び
図4において示した、ホローカソードタイプの中和器と同様である。
本発明において、中和器のアノード201とカソード202は同一の熱膨張率を有する材質から構成される。
アノード201とカソード202が同一の熱膨張率を有する材質から構成される場合、アノード201と堆積物208との熱膨張率も等しくなる。このため、プラズマによってアノード201と堆積物208が熱されても互いの熱膨張量が等しく、アノード201と堆積物208との界面に発生する応力が大きく低減される。このためアノード201に堆積物208が堆積しても、基板上への落下が生じ難く、パーティクルを低減することが可能となる。
なお本発明においてパーティクルとは、金属あるいは金属を含む材質からなり、その直径が概ね0.01ミクロン以上、1ミクロン以下の微粒子のことを言う。
【0020】
アノード201とカソード202が同一の材質から構成される場合はより一層のパーティクルの低減が可能となる。アノード201と堆積物208の材質が同一であることによって、アノード201と堆積物208との間の吸着性が向上するため、基板上への落下の危険性をより一層低減させることが可能となる。
【0021】
アノード201とカソード202を同一の材質とする場合は、チタンやモリブデン、タンタルなどが用いられる。特にチタンは加工容易性、低スパッタ率、高放電効率等の観点から見て好ましい。
【0022】
低スパッタ率の観点から、アノード201とカソード202の材質として導電性のセラミクスを用いることもできる。特に炭化シリコン、チタニア、ジルコニア等の材料は導電性の付与が比較的容易であり、アノードおよびカソードとして用いることができる。
【実施例1】
【0023】
本発明に係る中和器を用いて、イオンビームエッチングによって電子部品の加工を行う際の一例を以下に示す。
【0024】
まず排気ポンプ103によって処理室101及びプラズマ形成室102を排気する。次に基板111を基板ホルダ110に載置し、次にプラズマ形成室102に放電用ガスとしてのArをガス導入部105から10sccmで導入する。
【0025】
次に、アンテナ106に1kWの電力を印加することで、プラズマ形成室102にプラズマを形成する。その後、グリッド109に電圧を印加する。グリッド109は3枚の電極から構成され、プラズマ形成室側から見て1枚目の電極には+200Vの電圧が、2枚目の電極には−800Vの電圧が印加されており、3枚目の電極は接地されている。
グリッド109よりイオンビームが処理室101に引き出される。処理室101は排気ポンプ103により1.0×10
−2Pa程度に排気される。
【0026】
このとき、グリッド109より引き出されたイオンビームを中和すべく、中和器113より電子をイオンビームに対して供給する。
中和器113のカソード202及びアノード201は共にチタンから構成される。まず放電用ガスが、ガス導入制御部205を通してガス導入路204から5sccmで中和器113の内部に導入される。放電用ガスとしてはArが用いられる。
中和器のカソード202にアノード201に対する電位差が−200Vとなるように電圧を印加し、カソード202の中空部207にプラズマを形成する。アノードには接地電位に対して+24Vの電圧が印加され、中空部207に形成されたプラズマより電子が引き出され、処理室101に向かって放出される。該電子によってグリッド109から引き出されたイオンビームは中和される。
【0027】
上述した実施例ではイオンビームエッチング装置を用いて説明したが、本発明はこれ以外のイオンビーム装置、例えば表面改質装置、イオンビームスパッタ装置、などにも適用可能である。また本発明に係る中和器を用いたイオンビーム処理装置は種々の電子部品の微細加工に適用可能である。
【符号の説明】
【0028】
100 イオンビームエッチング装置
101 処理室
102 プラズマ形成室
103 排気ポンプ
104 ベルジャ
105 ガス導入部
106 アンテナ
107 整合器
108 電磁コイル
109 グリッド
110 基板ホルダ
111 基板
112 放電用電源
113 中和器
118 ファラデーシールド
201 アノード
202 カソード
203 絶縁体
204 ガス導入路
205 ガス導入制御部
206 電源
208 堆積物