【実施例1】
【0012】
図1は、実施例1に係る波長可変レーザ100の全体構成を示すブロック図である。
図1に示すように、波長可変レーザ100は、レーザデバイスとして、波長を制御可能な半導体レーザ30(チューナブル半導体レーザ)を備えている。本実施例の半導体レーザ30は、レーザ領域に連結してSOA(Semiconductor Optical Amplifier)となる領域が設けられている。このSOAは、光出力制御部として機能する。SOAは光出力の強度を任意に増減させることができる。また光出力の強度を実質的にゼロに制御することもできる。さらに波長可変レーザ100は、検知部50、メモリ60、コントローラ70などを備える。検知部50は、出力検知部および波長ロッカ部として機能する。コントローラ70は、波長可変レーザ100の制御を行うものであり、その内部にはRAM(Random Access Memory)を備えている。
【0013】
図2は、本実施例における半導体レーザ30の全体構成を示す模式的断面図である。
図2に示すように、半導体レーザ30は、SG−DFB(Sampled Grating Distributed Feedback)領域Aと、CSG−DBR(Chirped Sampled Grating Distributed Bragg Reflector)領域Bと、SOA(Semiconductor Optical Amplifier)領域Cとを備える。すなわち、半導体レーザ30は、半導体構造内に波長選択ミラーを有するレーザである。
【0014】
一例として、半導体レーザ30において、フロント側からリア側にかけて、SOA領域C、SG−DFB領域A、CSG−DBR領域Bがこの順に配置されている。SG−DFB領域Aは、利得を有しサンプルドグレーティングを備える。CSG−DBR領域Bは、利得を有さずにサンプルドグレーティングを備える。SG−DFB領域AおよびCSG−DBR領域Bが
図1のレーザ領域に相当し、SOA領域Cが
図1のSOA領域に相当する。
【0015】
SG−DFB領域Aは、基板1上に、下クラッド層2、活性層3、上クラッド層6、コンタクト層7、および電極8が積層された構造を有する。CSG−DBR領域Bは、基板1上に、下クラッド層2、光導波層4、上クラッド層6、絶縁膜9、および複数のヒータ10が積層された構造を有する。各ヒータ10には、電源電極11およびグランド電極12が設けられている。SOA領域Cは、基板1上に、下クラッド層2、光増幅層19、上クラッド層6、コンタクト層20、および電極21が積層された構造を有する。
【0016】
SG−DFB領域A、CSG−DBR領域BおよびSOA領域Cにおいて、基板1、下クラッド層2、および上クラッド層6は、一体的に形成されている。活性層3、光導波層4、および光増幅層19は、同一面上に形成されている。SG−DFB領域AとCSG−DBR領域Bとの境界は、活性層3と光導波層4との境界と対応している。
【0017】
SOA領域C側における基板1、下クラッド層2、光増幅層19および上クラッド層6の端面には、端面膜16が形成されている。本実施例では、端面膜16はAR(Anti Reflection)膜である。端面膜16は、半導体レーザ30のフロント側端面として機能する。CSG−DBR領域B側における基板1、下クラッド層2、光導波層4、および上クラッド層6の端面には、端面膜17が形成されている。本実施例では、端面膜17はAR膜である。端面膜17は、半導体レーザ30のリア側端面として機能する。
【0018】
基板1は、例えば、n型InPからなる結晶基板である。下クラッド層2はn型、上クラッド層6はp型であり、それぞれ例えばInPによって構成される。下クラッド層2および上クラッド層6は、活性層3、光導波層4、および光増幅層19を上下で光閉込めしている。
【0019】
活性層3は、利得を有する半導体により構成されている。活性層3は、例えば量子井戸構造を有しており、例えばGa
0.32In
0.68As
0.92P
0.08(厚さ5nm)からなる井戸層と、Ga
0.22In
0.78As
0.47P
0.53(厚さ10nm)からなる障壁層が交互に積層された構造を有する。光導波層4は、例えばバルク半導体層で構成することができ、例えばGa
0.22In
0.78As
0.47P
0.53によって構成することができる。本実施例においては、光導波層4は、活性層3よりも大きいエネルギギャップを有する。
【0020】
光増幅層19は、電極21からの電流注入によって利得が与えられ、それによって光増幅をなす領域である。光増幅層19は、例えば量子井戸構造で構成することができ、例えばGa
0.35In
0.65As
0.99P
0.01(厚さ5nm)の井戸層とGa
0.15In
0.85As
0.32P
0.68(厚さ10nm)の障壁層が交互に積層された構造とすることができる。また、他の構造として、例えばGa
0.44In
0.56As
0.95P
0.05からなるバルク半導体を採用することもできる。なお、光増幅層19と活性層3とを同じ材料で構成することもできる。
【0021】
コンタクト層7,20は、例えばp型Ga
0.47In
0.53As結晶によって構成することができる。絶縁膜9は、窒化シリコン膜(SiN)または酸化シリコン膜(SiO)からなる保護膜である。ヒータ10は、チタンタングステン(TiW)で構成された薄膜抵抗体である。ヒータ10のそれぞれは、CSG−DBR領域Bの複数のセグメントにまたがって形成されていてもよい。
【0022】
電極8,21、電源電極11およびグランド電極12は、金(Au)等の導電性材料からなる。基板1の下部には、裏面電極15が形成されている。裏面電極15は、SG−DFB領域A、CSG−DBR領域BおよびSOA領域Cにまたがって形成されている。
【0023】
端面膜16および端面膜17は、1.0%以下の反射率を有するAR膜であり、実質的にその端面が無反射となる特性を有する。AR膜は、例えばMgF
2およびTiONからなる誘電体膜で構成することができる。なお、本実施例ではレーザの両端がAR膜であったが、端面膜17を有意の反射率を持つ反射膜で構成する場合もある。
図2における端面膜17に接する半導体に光吸収層を備えた構造を設けた場合、端面膜17に有意の反射率を持たせることで、端面膜17から外部に漏洩する光出力を抑制することができる。有意の反射率としては、たとえば10%以上の反射率である。なお、ここで反射率とは、半導体レーザ内部に対する反射率を指す。
【0024】
回折格子(コルゲーション)18は、SG−DFB領域AおよびCSG−DBR領域Bの下クラッド層2に所定の間隔を空けて複数箇所に形成されている。それにより、SG−DFB領域AおよびCSG−DBR領域Bにサンプルドグレーティングが形成される。SG−DFB領域AおよびCSG−DBR領域Bにおいて、下クラッド層2に複数のセグメントが設けられている。ここでセグメントとは、回折格子18が設けられている回折格子部と回折格子18が設けられていないスペース部とが1つずつ連続する領域のことをいう。すなわち、セグメントとは、両端が回折格子部によって挟まれたスペース部と回折格子部とが連結された領域のことをいう。回折格子18は、下クラッド層2とは異なる屈折率の材料で構成されている。下クラッド層2がInPの場合、回折格子を構成する材料として、例えばGa
0.22In
0.78As
0.47P
0.53を用いることができる。
【0025】
回折格子18は、2光束干渉露光法を使用したパターニングにより形成することができる。回折格子18の間に位置するスペース部は、回折格子18のパターンをレジストに露光した後、スペース部に相当する位置に再度露光を施すことで実現できる。SG−DFB領域Aにおける回折格子18のピッチと、CSG−DBR領域Bにおける回折格子18のピッチとは、同一でもよく、異なっていてもよい。本実施例においては、一例として、両ピッチは同一に設定してある。また、各セグメントにおいて、回折格子18は同じ長さを有していてもよく、異なる長さを有していてもよい。また、SG−DFB領域Aの各回折格子18が同じ長さを有し、CSG−DBR領域Bの各回折格子18が同じ長さを有し、SG−DFB領域AとCSG−DBR領域Bとで回折格子18の長さが異なっていてもよい。
【0026】
SG−DFB領域Aにおいては、各セグメントの光学長が実質的に同一となっている。CSG−DBR領域Bにおいては、少なくとも2つのセグメントの光学長が、互いに異なって形成されている。それにより、CSG−DBR領域Bの波長特性のピーク同士の強度は、波長依存性を有するようになる。SG−DFB領域Aのセグメントの平均光学長とCSG−DBR領域Bのセグメントの平均光学長は異なっている。このように、SG−DFB領域A内のセグメントおよびCSG−DBR領域Bのセグメントが半導体レーザ30内において共振器を構成する。
【0027】
SG−DFB領域AおよびCSG−DBR領域Bそれぞれの内部においては、反射した光が互いに干渉する。SG−DFB領域Aには活性層3が設けられており、キャリア注入されると、ピーク強度がほぼ揃った、所定の波長間隔を有する離散的な利得スペクトルが生成される。また、CSG−DBR領域Bにおいては、ピーク強度が異なる、所定の波長間隔を有する離散的な反射スペクトルが生成される。SG−DFB領域AおよびCSG−DBR領域Bにおける波長特性のピーク波長の間隔は異なっている。これら波長特性の組み合わせによって生じるバーニア効果を利用して、発振条件を満たす波長を選択することができる。
【0028】
図1に示すように、半導体レーザ30は、第1温度制御装置31上に配置されている。第1温度制御装置31は、ペルチェ素子を含み、TEC(Thermoelectric cooler)として機能する。第1サーミスタ32は、第1温度制御装置31上に配置されている。第1サーミスタ32は、第1温度制御装置31の温度を検出する。第1サーミスタ32の検出温度に基づいて、半導体レーザ30の温度を特定することができる。
【0029】
波長可変レーザ100においては、検知部50が半導体レーザ30のフロント側に配置されている。検知部50が波長ロッカ部として機能することから、波長可変レーザ100は、フロントロッカタイプと呼ぶことができる。検知部50は、第1受光素子42、ビームスプリッタ51、エタロン52、第2温度制御装置53、第2受光素子54、および第2サーミスタ55を備える。
【0030】
ビームスプリッタ41は、半導体レーザ30のフロント側からの出力光を分岐する位置に配置されている。ビームスプリッタ51は、ビームスプリッタ41からの光を分岐する位置に配置されている。第1受光素子42は、ビームスプリッタ51によって分岐された2つの光の一方を受光する位置に配置されている。エタロン52は、ビームスプリッタ51によって分岐された2つの光の他一方を透過する位置に配置されている。第2受光素子54は、エタロン52を透過した透過光を受光する位置に配置されている。
【0031】
エタロン52は、入射光の波長に応じて透過率が周期的に変化する特性を有する。本実施例においては、エタロン52としてソリッドエタロンを用いる。なお、ソリッドエタロンの当該周期的な波長特性は、温度が変化することによって変化する。エタロン52は、ビームスプリッタ51によって分岐された2つの光の他方を透過する位置に配置されている。また、エタロン52は、第2温度制御装置53上に配置されている。第2温度制御装置53は、ペルチェ素子を含み、TEC(Thermoelectric cooler)として機能する。
【0032】
第2受光素子54は、エタロン52を透過した透過光を受光する位置に配置されている。第2サーミスタ55は、エタロン52の温度を特定するために設けられている。第2サーミスタ55は、例えば第2温度制御装置53上に配置されている。本実施例では、第2温度制御装置53の温度を第2サーミスタ55で検出することで、エタロン52の温度を特定している。
【0033】
メモリ60は、書換え可能な記憶装置である。書き換え可能な記憶装置としては、典型的にはフラッシュメモリが挙げられる。コントローラ70は、中央演算処理装置(CPU:Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、電源などを備える。RAMは、中央演算処理装置が実行するプログラム、中央演算処理装置が処理するデータなどを一時的に記憶するメモリである。
【0034】
メモリ60は、波長可変レーザ100の各部の初期設定値およびフィードバック制御目標値をチャネルに対応させて記憶している。チャネルとは、半導体レーザ30の発振波長に対応する番号である。例えば、各チャネルは、ITU−T(International Telecommunication Union Telecommunication Standardization Sector)のグリッド波長に対応している。本実施例においては、各チャネルの波長が基本波長と定義される。
【0035】
図3は、上記初期設定値およびフィードバック制御目標値を示す図である。なお、以下の説明では、初期設定値およびフィードバック制御目標値を駆動条件とも称する。
図3に示すように、上記初期設定値は、SG−DFB領域Aの電極8に供給される初期電流値I
LD、SOA領域Cの電極21に供給される初期電流値I
SOA、半導体レーザ30の初期温度値T
LD、エタロン52の初期温度値T
Etalon、および各ヒータ10に供給される初期電力値P
Heater1〜P
Heater3を含む。これら初期設定値は、チャネルごとに定められている。上記フィードバック制御目標値は、コントローラ70のフィードバック制御を行う際の目標値である。フィードバック制御目標値は、第1受光素子42が出力する光電流の目標値I
m1、および第1受光素子42が出力する光電流I
m1に対する第2受光素子54が出力する光電流I
m2の比の目標値I
m2/I
m1を含む。制御目標値も、チャネルごとに定められている。また、メモリ60には、温度補正係数C1が格納されている。温度補正係数C1の詳細については後述する。本実施例においては、温度補正係数C1は、各チャネルに共通の値である。なお、これらの各値は、波長可変レーザ100の出荷前に、波長計を使ったチューニングによって個体ごとに取得される。
【0036】
図4(a)は、ヒータ10の温度と、半導体レーザ30の発振波長λとの関係を表す図である。
図4(a)では、第1温度制御装置31によって半導体レーザ30の温度が一定に維持されているものとする。横軸はヒータ10の平均温度を示し、縦軸は半導体レーザ30の発振波長を示す。半導体レーザ30は、SG−DFB領域Aの利得スペクトルとCSG−DBR領域Bの反射スペクトルとのうち2つの反射ピークが重なった波長でレーザ光を発振する。したがって、半導体レーザ30の発振波長は、所定の波長間隔で分布する。すなわち、半導体レーザ30は、飛び飛びの波長特性を有している。
【0037】
基本波長の1つである基本波長λ2を選択するためには、ヒータ10の平均温度を範囲Rに設定し、第1温度制御装置31の温度を所定の温度に設定することによって、波長変化が微小のほぼ平坦な部分(以下、テラス部分と称する)を選択する。このテラスにおいて、第1温度制御装置31の温度を制御することによって、テラスの中央Tにおいて基本波長λ2を選択することができる。
【0038】
図4(b)に示すように、この状態で、第1温度制御装置31の温度をT(Low)からT(High)(>T(Low))の範囲で変化させることによって、発振波長を基本波長λ0〜λ4から選択することができる。基本波長λ0〜λ4以外の波長を選択する場合には、ヒータ10の温度を上昇させるか低下させ、第1温度制御装置31の温度をT(Low)からT(High)の範囲で変化させればよい。
図4(b)の例では、ヒータ10の温度を上昇させ、第1温度制御装置31の温度をT(Low)からT(High)の範囲で変化させることによって、基本波長λ5〜λ9から発振波長を選択することができる。
【0039】
このように、波長可変レーザ100においては、半導体レーザ30の基本波長に対応した駆動条件が、基本波長が所定の波長間隔となるように複数設定されており、基本波長は、第1温度制御装置31の所定の温度範囲で周期的に配置されている。ヒータ10の温度と第1温度制御装置31の温度とを組み合わせて制御することによって、各基本波長での発振を実現することができる。なお、本実施例においては、T(Low)からT(High)の範囲で基本波長が5つ設定されているが、この数は特に限定されるものではない。
【0040】
ところで、本実施例に係る波長可変レーザ100は、要求波長が基本波長と一致しなくても、当該要求波長を出力することができる。基本波長と異なる波長での出力を可能とする制御のことを、以下、グリッドレス制御と称する。
図5は、グリッドレス制御における要求波長と基本波長との関係を表す図である。
図5に示すように、グリッドレス制御においては、要求波長は、基本波長と隣接する他の基本波長との間の波長である。なお、要求波長は、基本波長と一致していてもよい。
【0041】
図6は、グリッドレス制御の原理を示す図である。
図6において、横軸は波長を示し、縦軸は比I
m2/I
m1(エタロン52の透過率)の正規化値を示す。
図6において、実線は、エタロン52の初期温度値T
Etalonに対応する波長特性である。また、点線は、エタロン52の温度を第2温度制御装置53によって上昇させた場合の波長特性である。ここで、実線上の黒丸における比I
m2/I
m1がフィードバック目標値として採用されている場合、エタロン52が初期温度値T
Etalonであると、基本波長で発振することになる。一方、エタロン52が点線で示される波長特性に対応した温度であると、比I
m2/I
m1が基本波長を得るための値(点線上の黒丸)であっても、実際の発振波長はエタロン特性の変更分だけ、その基本波長からシフトする。つまり、要求波長と基本波長との波長差だけエタロン特性をシフトすることで、フィードバック目標値である比I
m2/I
m1はそのままで、要求波長を実現することができる。すなわち、要求波長と基本波長との波長差分ΔFに基づき、エタロン温度を変更するための演算をし、これをエタロン温度として適用することで、要求波長を実現することができる。なお、本実施例のエタロン52のFSR(自由スペクトル領域)は、例えば、50GHz間隔等で構成されている。
【0042】
上記したように、エタロン52の波長特性は、その温度にしたがってシフトする。エタロン52における周波数変動量/温度変化量[GHz/℃]を、エタロン52の温度補正係数C1と称する。なお、ここでは波長を周波数で表現している。温度補正係数C1は、波長可変レーザの駆動条件の波長変化に対する変化率に相当する。
【0043】
要求波長の制御を実現するためのエタロン52の設定温度をTetln_A[℃]とする。またエタロン52の初期温度、すなわち選択された基本波長に対応したエタロン52の温度をTetln_B[℃]とする。Tetln_BはT
Etalonに相当し、メモリ60から取得される。さらに、基本波長と要求波長との波長差分(絶対値)をΔF[GHz]とする。この場合、各パラメータの関係は、下記式(1)のように表すことができる。式(1)に基づいて要求波長を得るために必要な設定温度Tetln_Aを求めることができる。
Tetln_A=Tetln_B+ΔF/C1 (1)
第2温度制御装置53の温度を設定温度Tetln_Aに制御することによって、比I
m2/I
m1をそのまま利用して、要求波長を得ることが可能となる。
【0044】
以上の動作を実行することにより、
図6に示すように、エタロン52の特性がシフトした分だけ、基本波長からシフトした波長(要求波長)によって半導体レーザ30をレーザ発振させることができる。なお、上述したように、比I
m2/I
m1をそのまま利用することはできるが、第1温度制御装置31および各ヒータ10の温度制御によって、半導体レーザ30の発振波長を連続的に変化させることになる。
【0045】
上記グリッドレス制御を行うためには、
図4(b)で説明したように、ヒータ10の温度と第1温度制御装置31の温度とを組み合わせて制御すればよい。例えば、ヒータ10の平均温度を所定の温度とし、第1温度制御装置31の温度をT(Low)からT(High)の範囲で制御することによって、基本波長λ0から基本波長λ4の範囲で、基本波長に限らず任意の波長を選択することができる。また、基本波長λ0〜λ4を実現した場合よりもヒータ10の平均温度を上昇させることによって、発振波長を基本波長λ5〜λ9の範囲で任意の波長を選択することができる。
【0046】
ここで、発振波長を基本波長λ4と基本波長λ5との間の波長に変化させる場合について検討する。すなわち、基本波長の周期性を実現するための第1温度制御装置31の温度範囲外で波長を制御する場合について検討する。この場合、基本波長λ4の駆動条件から第1温度制御装置31の温度をT(High)よりもさらに上昇させる制御と、基本波長λ5の駆動条件から第1温度制御装置31の温度をT(Low)よりもさらに低下させる制御とが考えられる。第1温度制御装置31はペルチェ素子によって温度制御を行うため、温度を低くすると消費電力が大きくなる。
【0047】
そこで、本実施例においては、基本波長の周期性を実現するための第1温度制御装置31の温度範囲外で波長を制御する場合に、発振波長を基本波長から任意の波長に設定する際に、第1温度制御装置31の温度を低温から高温への一方向に制御する。具体的には、発振波長を基本波長λ4と基本波長λ5との間の波長に変化させる場合に、基本波長λ4(第1基本波長)と、隣接する基本波長λ5(第2基本波長)との間の任意の波長に発振波長を設定する際に、第1温度制御装置31の温度が低い方の基本波長から連続的に発振波長を変化させる。
【0048】
この場合の効果について説明する。
図7に示すように、基本波長λ3と基本波長λ4との間の波長に発振波長を制御する際に、第1温度制御装置31が基本波長λ3を実現する温度から第1温度制御装置31の温度を上昇させる。また、基本波長λ4と基本波長λ5との間の波長に発振波長を制御する際にも、第1温度制御装置31が基本波長λ4を実現する温度(T(High))から第1温度制御装置31の温度を上昇させる。この場合、第1温度制御装置31の温度がT(Low)とT(High)との範囲外に制御される場合に、当該範囲よりも高い温度に第1温度制御装置31が制御される。それにより、第1温度制御装置31の温度をT(Low)〜T(High)の範囲外に制御する際の消費電力を抑制することができる。
【0049】
なお、本実施例においては、第1温度制御装置31の温度をT(Low)〜T(High)の範囲外の場合について述べているが、第1温度制御装置31の温度をT(Low)〜T(High)の範囲内で制御する際にも消費電力を抑制することができる。ただし、第1温度制御装置31の温度をT(Low)〜T(High)の範囲外のほうが、消費電力を抑制する効果は大きい。
【0050】
図8は、波長可変レーザ100の起動手順を説明するためのフローチャートである。
図8に示すように、コントローラ70は、波長要求を受ける(ステップS1)。この要求波長は、図示しない外部入出力装置からの入力によるものである。典型的にはRS232C規格に対応した入出力装置が採用される。次に、コントローラ70は、一例として、要求波長を挟む基本波長のうち、第1温度制御装置31の温度の低い基本波長を選択する(ステップS2)。
【0051】
次に、コントローラ70は、基本波長と要求波長との波長差分ΔFを算出する(ステップS3)。次に、コントローラ70は、エタロン52の更新設定温度を算出する(ステップS4)。次に、コントローラ70は、半導体レーザ30の更新設定値を算出する(ステップS5)。この場合に、第1温度制御装置31の温度が低い基本波長から第1温度制御装置31の温度を上昇させるように、上記更新設定値を算出する。
【0052】
次に、コントローラ70は、ステップS4およびステップS5で算出した更新設定温度および更新設定値を自身のRAMに書き込む(ステップS6)。次に、コントローラ70は、RAMに書き込まれた更新設定温度および更新設定値を用いて半導体レーザ30を駆動させる(ステップS7)。なお、SOA領域Cについては、この時点では半導体レーザ30から光が出力されないように制御する。
【0053】
次に、コントローラ70は、第1サーミスタ32の検出温度TH1がT
LDの範囲内になるように、ATC(Automatic Temperature Control)制御を行う。また、第1サーミスタ32の検出温度TH1がT
LDの範囲内にあるか否かを判定する(ステップS8)。ここでT
LDの範囲とは、更新設定値の温度値T
LDを中心とする所定範囲である。ステップS8において「No」と判定された場合、コントローラ70は、第1サーミスタ32の検出温度TH1が温度値T
LD近づくように第1温度制御装置31に供給される電流値を変更する。
【0054】
コントローラ70は、ステップS8と並行して、第2サーミスタ55の検出温度TH2が設定範囲内になるように、ATC(Automatic Temperature Control)制御を行う。また、第2サーミスタ55の検出温度TH2が設定範囲内にあるか否かを判定する(ステップS9)。この場合の設定範囲は、更新設定値に含まれる設定温度Tetln_Aに基づいて決定される。例えば、上記設定範囲は、設定温度Tetln_Aを中心とする所定範囲とすることができる。ステップS9において「No」と判定された場合、コントローラ70は、第2サーミスタ55の検出温度TH2が設定温度Tetln_Aに近づくように第2温度制御装置53に供給される電流値を変更する。なお、ステップS9において「Yes」と判定された場合においても、上記の第2温度制御装置53によるATC制御の動作は継続する。
【0055】
コントローラ70は、ステップS8およびステップS9の両方で「Yes」と判定されるまで待機する。ステップS8およびステップS9の両方で「Yes」と判定された場合、コントローラ70は、シャッタオープンの動作を行う(ステップS10)。具体的には、SOA領域Cの電極21に供給される電流を初期電流値I
SOAに制御するAPC(Automatic Power Cotrol)制御を動作する。それにより、半導体レーザ30から更新波長のレーザ光が出力される。なお、ステップS10においても、APC(Automatic Power Cotrol)制御の動作は継続する。
【0056】
次に、コントローラ70は、第1温度制御装置31による温度値T
LDを制御目標とした温度制御を終了する(ステップS11)。次に、コントローラ70は、第1温度制御装置31によるAFC制御を開始する(ステップS12)。つまり、第1温度制御装置31の温度が、フィードバック制御目標値の比I
m2/I
m1を満たすようにフィードバック制御される。エタロン52の入力光と出力光の比(前後比)は、半導体レーザ30の発振波長を示している。また、第1温度制御装置31は半導体レーザ30の波長を制御するパラメータである。すなわちステップS21では、前後比がI
m2/I
m1になるように第1温度制御装置31の温度をフィードバック制御することで、半導体レーザ30の波長を制御するAFC制御が動作される。それにより、要求波長が実現される。コントローラ70は、比I
m2/I
m1がステップS2で選択された基本波長における目標値I
m2/I
m1を中心とする所定範囲内にあることを確認すると、ロックフラグを出力する(ステップS13)。その後、フローチャートの実行が終了する。
【0057】
本実施例によれば、発振波長を制御する際に、第1温度制御装置31の温度が低温から高温へ一方向に制御される。それにより、第1温度制御装置31の温度がT(Low)からT(High)の範囲よりも低くならない。それにより、第1温度制御装置31の消費電力を抑制することができる。
【0058】
なお、本実施例を適用することができる光源は、
図2の半導体レーザ30に限られない。波長選択部を温度制御することによって出力波長を選択することができる半導体レーザであればよい。例えば、DFBレーザ、SG−DFBレーザ、DFBアレイレーザなどが挙げられる。
【0059】
図9は、半導体レーザ30に代えて使用可能なレーザデバイスの他の例を開示するものである。
図9に示すように、レーザモジュール30aは、複数のDFBレーザ71、光カプラ72、光増幅器73を備える。複数のDFBレーザ71は、それぞれコルゲージョンのピッチが異なっている。あるいは活性層を構成する半導体材料を異ならせる場合もある。このような構成により、それぞれのDFBレーザ71は同じ温度・駆動電流において、異なる発振波長を実現する。各DFBレーザ71の出力は、光カプラ72に結合される。光カプラ72は、入射された光を光増幅器73に接続する。光増幅器73は、入射された光を増幅して外部に出力する。出力波長の選択にあたっては、まず、目的とする波長の帯域をカバーするDFBレーザ71を1つ選択する。そして、選択されたDFBレーザ71の温度を第1温度制御装置31によって制御することで、所望の発振波長を実現する。したがって、DFBレーザ71の数は、レーザモジュール30aに要求される波長帯域全体をカバーする分だけ、用意される。なお、選択されなかったDFBレーザ71は、駆動電力が与えられずオフしている。