【解決手段】第1の光トランシーバ5の周囲温度が第1の温度から第3の温度に到達するまでの間に、第2の光トランシーバ6の周囲温度が第1の温度に維持された状態で光送信モジュールの温度特性を測定し(温度領域A)、一方の光トランシーバ5の周囲温度が第3の温度から第4の温度に到達するまでの間に、他方の光トランシーバ6の周囲温度が第1の温度に維持された状態で光受信モジュールの温度特性を測定し(温度領域B)、第1の光トランシーバ5の周囲温度が第4の温度から第2の温度に到達するまでの間、その周囲温度の変化率を、第1の温度から第3の温度に到達するまでの間の周囲温度の変化率よりも小さく制御する(温度領域C)。
2つの温度制御装置に光機器がそれぞれセットされ、一方の光機器の周囲温度を第1の温度から該第1の温度とは異なる第2の温度に向けて制御している間に、他方の光機器の周囲温度を前記第1の温度に維持した状態で温度特性を測定する光機器温度特性測定方法であって、
前記一方の光機器の周囲温度が、前記第1の温度から、該第1の温度と前記第2の温度との間の第3の温度に到達するまでの間に、前記他方の光機器の周囲温度が前記第1の温度に維持された状態で、前記他方の光機器が備える光送信モジュールの所定の温度特性を測定する第1の工程と、
前記一方の光機器の周囲温度が、前記第3の温度から、該第3の温度と前記第2の温度との間の第4の温度に到達するまでの間に、前記他方の光機器の周囲温度が前記第1の温度に維持された状態で、前記他方の光機器が備える光受信モジュールの所定の温度特性を測定する第2の工程と、
前記一方の光機器の周囲温度が前記第4の温度から前記第2の温度に到達するまでの間、前記一方の光機器の周囲温度の変化率を、前記第1の温度から前記第3の温度に到達するまでの間の周囲温度の変化率よりも小さく制御する第3の工程とを備えた、光機器温度特性測定方法。
前記第1の温度が前記第2の温度よりも高い場合、前記第1の温度、前記第3の温度、前記第4の温度、前記第2の温度の順で降温され、前記第1の温度が前記第2の温度よりも低い場合、前記第1の温度、前記第3の温度、前記第4の温度、前記第2の温度の順で昇温される、請求項1または2に記載の光機器温度特性測定方法。
前記光送信モジュールの所定の温度特性は、平均光出力強度、消光比、出射光波長の少なくとも1つ以上を含み、前記光受信モジュールの所定の温度特性は、信号ロスレベル、最小受信感度の少なくとも1つ以上を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の光機器温度特性測定方法。
【背景技術】
【0002】
光機器の一つとして光トランシーバが知られている。この光トランシーバの出荷検査においては、種々の電気的特性、光学的特性を仕様温度範囲(−40〜85℃)の上下限において取得しなければならない。光受信側(Rx)の特性としては、信号ロスレベル(LOS(Loss Of Signal)レベル)、最小受信感度(Pmin)が取得され、また、光送信側(Tx)の特性としては、平均光出力強度、消光比、出射光波長が取得され、また、光トランシーバ全体として、消費電流が取得される。さらに、仕様には規定されていない各種モニタ、例えば、周囲温度が−40〜85℃の時の光トランシーバの内部温度、電源変動、等も観測しなければならない。
【0003】
上記の出荷検査において最も時間を要するのは、測定自体ではなく、光トランシーバを所定の周囲温度に設定するまでの待ち時間である。従来、恒温槽(恒温チャンバ)内に光トランシーバをセットし、恒温槽の温度を所定の温度に設定して温度が安定化するまで待機した後に検査を開始していた。光トランシーバ自体はその外寸が大きいものでも20×15×100mm
3程度の超小型の光機器に過ぎない。このため、熱容量の大きい恒温槽に超小型の光トランシーバをセットして所定の温度に到達するまで待機するという方法は非常に効率が悪い。
【0004】
また、複数(数十台)の光トランシーバを恒温槽にセットして温度を安定化させ、等価的に一台の待機時間を短縮する方法も考えられるが、この場合、動作速度が10Gbpsあるいは10Gbps超の昨今の光トランシーバでは、使用可能な測定器が限られる。特に、数十台の光トランシーバを切り換えるために、一対nのマルチポートを有し且つ10Gbps超の帯域を有するスイッチは、市販品としては存在しないため、非常に高価なものとなる。従って、実用面からこのような形態をとることは難しい。
【0005】
上記に対して、恒温槽に代えて熱容量のはるかに小さいペルチェ素子を用いて温度制御を行う技術が種々提案されている。例えば、特許文献1には、電子部品の温度特性を計測する温度特性計測装置であって、電子部品が搭載された電子部品搭載プレートを、ペルチェ素子により温熱又は冷熱が供給される熱伝達プレートの載置面に配置する温度特性計測装置が開示されている。これによれば、電子部品搭載プレートには、その温度を直接計測する部品側温度計測装置が設置され、この部品側温度計測装置の計測結果に基づいて、温度制御ユニットによりペルチェ素子が制御される。
【0006】
また、特許文献2には、複数のペルチェ素子に対応するだけの個別の冷却ジャケットを有し、冷却ジャケットとペルチェ素子の組を、複数のペルチェ素子面積以上の面積を持つ共通の一枚の金属製の上板(共通上板)の裏面に固定し、共通上板を冷却ジャケットの下側が空間となるように支柱によって基台の上に固定する光素子温度特性検査装置が開示されている。これによれば、個別の冷却ジャケットには個別の冷却媒体経路を通じて冷却媒体を流し、共通上板の上には複数の光素子等を並べたステージ・ボードを置き、冷却媒体の温度や流量、ペルチェ素子の電流を制御することによって、共通上板の温度を所望の均一温度に保持して均一温度で複数の光素子等の特性を測定する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(本発明の実施形態の詳細)
以下、本発明の実施形態に係る光機器温度特性測定方法の具体例を、図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0015】
図1は、本発明による光機器温度特性測定方法を実行するための測定装置の構成例を示す図で、図中、1は測定装置を示す。測定装置1は、例えば、前述の
図5に示した構成として例示でき、測定系2、第1の温度制御系3、及び第2の温度制御系4を備える。測定装置1は、1つの測定系2が第1の温度制御系3と第2の温度制御系4とで共有され、第1の温度制御系3と第2の温度制御系4とを切り換えて、それぞれにセットされた光機器の温度特性の測定を実行する。なお、本例では、測定対象の光機器として、光トランシーバを例示して説明するが、これに限定されるものではない。
【0016】
測定系2は、光信号を送出する標準光源21と、標準光源21からの光信号を減衰させる減衰器である光ATT(Attenuator)22と、光ATT22からの光信号の出力先となる光トランシーバを選択的に切り換える第1の光スイッチ23と、光信号の入力元となる光トランシーバを選択的に切り換える第2の光スイッチ24と、光トランシーバからの光信号を後述のDCA(Digital Communication Analyzer),光パワーメータ,及びスペクトラムアナライザに分岐させる光分岐部25と、光分岐部25からの光信号をアイパターンで表示し、消光比やマスクマージン等を測定するDCA26と、光分岐部25からの光信号の平均光出力強度を測定する光パワーメータ27と、光分岐部25からの光信号の出射光波長を測定するスペクトラムアナライザ28とを備える。
【0017】
第1の温度制御系3は、第1の温度制御装置31、第1の温度計32を備え、第1の温度制御装置31は、熱源として、例えばペルチェ素子を有し、コネクタ31aに、測定対象の第1の光トランシーバ5の電気プラグを接続する。第1の温度制御装置31は、第1の光トランシーバ5の周囲温度を第1の温度計32でモニタしながら、内蔵するペルチェ素子により第1の光トランシーバ5の周囲温度を制御する。同様に、第2の温度制御系4は、第2の温度制御装置41、第2の温度計42を備え、第2の温度制御装置41は、熱源として、例えばペルチェ素子を有し、コネクタ41aに、測定対象の第2の光トランシーバ6の電気プラグを接続する。第2の温度制御装置41は、第2の光トランシーバ6の周囲温度を第2の温度計42でモニタしながら、内蔵するペルチェ素子により第2の光トランシーバ6の周囲温度を制御する。
【0018】
第1の光トランシーバ5及び第2の光トランシーバ6は共に、光信号を送信する光送信モジュールTx(以下、単にTxともいう)と、光信号を受信する光受信モジュールRx(以下、単にRxともいう)とを搭載する。Rxの場合、標準光源21から送出された光信号は光ATT22により減衰された後、第1の光スイッチ23により第1の光トランシーバ5または第2の光トランシーバ6に振り分けられる。光ATT22の減衰量を変更することにより、各光トランシーバのRxについて信号ロスレベル、最小受信感度を測定する。なお、これら信号ロスレベル、最小受信感度の測定装置について図示は省略する。
【0019】
一方、Txの場合、図示しない標準パルスパターン発生器で発生させたパルス信号(電気信号)が第1の温度制御系3と第2の温度制御系4とに振り分けられる。そして、このパルス信号は、第1の温度制御装置31の入力ポート31bを介して、第1の光トランシーバ5に入力される。同様に、パルス信号は、第2の温度制御装置41の入力ポート41bを介して、第2の光トランシーバ6に入力される。なお、上記の各温度制御装置の入力ポートは、各光トランシーバの後端に形成されているホストコネクタと接続されている。
【0020】
次に、上記のパルス信号に応じて、第1の光トランシーバ5及び第2の光トランシーバ6はそれぞれ内蔵するLD(Laser Diode)を駆動し、それぞれのLDからの光信号を第2の光スイッチ24に出力する。第2の光スイッチ24では、第1の光トランシーバ5からの光信号または第2の光トランシーバからの光信号のいずれか一方の光信号を選択し、選択した光信号を三分岐して、DCA26で消光比及びマスクマージンを測定し、光パワーメータ27で平均光出力強度を測定し、スペクトラムアナライザ28で出射光波長を測定する。そしてさらに、光トランシーバのホストコネクタ経由で消費電流、光トランシーバ内温度、等を測定する。
【0021】
以下、上記二系統の2つの光トランシーバの出荷検査を、効率的に行う方法について説明する。具体的には、高温(例えば、85℃)、低温(例えば、−40℃)での温度特性の測定に際し、各光トランシーバの昇温、降温過程と、高温時及び低温時における各光トランシーバの温度特性の測定過程とを以下のようにして行う。なお、各光トランシーバの所定の温度特性としては、Txの平均光出力強度、消光比、出射光波長の少なくとも1つ以上を含み、Rxの信号ロスレベル、最小受信感度の少なくとも1つ以上を含むものとして説明するが、これらに限定されるものではない。
【0022】
(第1の実施形態)
図2は、本発明による光機器温度特性測定方法の概要を説明するための図である。図中、5は第1の光トランシーバ5の温度遷移、6は第2の光トランシーバ6の温度遷移を示し、横軸は時間、縦軸は温度である。
【0023】
まず、初期状態において、第1の光トランシーバ5及び第2の光トランシーバ6の周囲温度は共に室温状態にあり、第1の光トランシーバ5及び第2の光トランシーバ6の周囲温度を室温から所定の高温(ここでは85℃)まで昇温させる(区間t1)。次に、85℃において第1の光トランシーバ5のTx及びRx両方の温度特性を測定し、第2の光トランシーバ6の周囲温度はそのまま85℃に維持する(区間t2)。なお、区間t2では第2の光トランシーバ6の温度特性は測定されないため、区間t1で必ずしも第1の光トランシーバ5と同時に昇温させなくてもよい。つまり、第2の光トランシーバ6は、区間t2において第1の光トランシーバ5の温度特性測定中に昇温が完了していればよいため、
図2の温度遷移6′に示すように、昇温開始のタイミングを第1の光トランシーバ5より遅らせることで、85℃での維持時間を短くすることができ、省エネの観点から望ましい。
【0024】
次に、第1の光トランシーバ5の周囲温度を85℃から所定の低温(ここでは−40℃)に向けて降温制御し、85℃において第2の光トランシーバ6のTx及びRx両方の温度特性を測定する(区間t3)。次に、第2の光トランシーバ6の周囲温度を85℃から−40℃に向けて降温制御し、−40℃において第1の光トランシーバ5のTx及びRx両方の温度特性を測定する(区間t4)。次に、第1の光トランシーバ5の周囲温度を−40℃から昇温制御し、−40℃において第2の光トランシーバ6のTx及びRx両方の温度特性を測定する(区間t5)。
【0025】
図3は、本発明による光機器温度特性測定方法の降温過程の一例を説明するための図で、図中、5は第1の光トランシーバ5の温度遷移、6は第2の光トランシーバ6の温度遷移を示し、横軸は時間、縦軸は温度である。本例では、2つの温度制御装置31,41に測定対象とする光トランシーバ5,6がそれぞれセットされ、第1の光トランシーバ5の周囲温度を85℃から−40℃まで降温する間に、第2の光トランシーバ6の温度特性を測定する場合について説明する。ここで、降温速度が早過ぎると、光トランシーバが結露する場合がある。温度制御装置の周辺は乾燥窒素雰囲気とするが、これは真空引き−パージの工程を繰り返すのではなく、単に乾燥窒素を流入させるだけの雰囲気置換に過ぎない。従って、雰囲気中に空気分が必ず残るため、急峻な降温速度の場合には結露に繋がってしまう。そこで、第1の光トランシーバ5の降温過程と、第2の光トランシーバ6の測定過程とを次の手順で実施する。
【0026】
図3において、区間t1、t2での処理は
図2で説明した通りであるため、ここでの説明は省略する。区間t3では、第1の光トランシーバ5の周囲温度を第1の温度(85℃)から第2の温度(−40℃)に向けて降温制御し、第2の光トランシーバ6の周囲温度を第1の温度(85℃)に維持制御する。
【0027】
区間t3では、温度によって3つの工程が実行される。すなわち、第1の光トランシーバ5の周囲温度が、85℃から、85℃と−40℃との間の第3の温度(ここでは50℃)に到達するまでの間に、第2の光トランシーバ6の周囲温度が85℃に維持された状態で、第2の光トランシーバ6のTxの温度特性を測定する第1の工程と、第1の光トランシーバ5の周囲温度が、50℃から、50℃と−40℃との間の第4の温度(ここでは0℃)に到達するまでの間に、第2の光トランシーバ6の周囲温度が85℃に維持された状態で、第2の光トランシーバ6のRxの温度特性を測定する第2の工程と、第1の光トランシーバ5の周囲温度が0℃から−40℃に到達するまでの間、第1の光トランシーバ5の周囲温度の変化率を、85℃から50℃に到達するまでの間の周囲温度の変化率よりも小さく制御する第3の工程とが実行される。
【0028】
つまり、本例の場合、
図3に示すように、第1の光トランシーバ5の周囲温度について、第1の温度が第2の温度よりも高く、第1の温度、第3の温度、第4の温度、第2の温度の順で降温される。なお、各温度の決め方は上記の例に限らず、測定装置の仕様や測定条件等に応じて、適宜決定される。
【0029】
より具体的には、第1の工程が実行される温度領域A(85℃〜50℃の領域)では、第1の温度制御装置31が本来的に有する最速の降温速度にて第1の光トランシーバ5の周囲温度を降下させる。これは区間t1,t2で加熱モードであったペルチェ素子を冷却モードに切り換えることにより実現できる。そして、この間、第2の光トランシーバ6では、その周囲温度が85℃に維持されており、測定時間が固定されている温度特性の項目(Tx側で平均光出力強度、消光比、出射光波長、さらに、光トランシーバ本体についての消費電流、内部温度などを含む各種モニタ値)について測定が実行される。なお、第1の光トランシーバ5の周囲温度が50℃に到達する前に、第2の光トランシーバ6のTx側の測定が終了した場合には、連続して次のRx側の測定を開始してもよい。また、第1の光トランシーバ5の周囲温度が50℃に到達した時点で、第2の光トランシーバ6のTx側の測定が全て終了できなかった場合には、Tx側の測定を一旦中断し、後述する温度領域Cに後ろ倒しする。つまり、温度領域Aでは降温速度、及びこの降温速度を維持する最終温度(50℃)を優先させる。
【0030】
次いで、第2の工程が実行される温度領域B(50℃〜0℃の領域)では、第1の光トランシーバ5の周囲温度が50℃を超え0℃までの間に、第2の光トランシーバ6のRx側の温度特性について測定を行う。なお、第2の光トランシーバ6の周囲温度は85℃に維持されている。このRx側の温度特性としては、信号ロスレベル、最小受信感度が含まれる。そして、Rx側のこれらの特性は、信号ロスレベルが所定dBm以下、最小受信感度が所定dBm以下という仕様で規定されており、光入力強度を光ATT22で変化させながら第2の光トランシーバ6からの出力をモニタする必要がある。また、個々の光トランシーバが持つPD(Photo Diode)の裸受光特性、Rx側光コネクタからPDまでの光結合効率などに応じて、その特性(値)がばらつくため、測定時間が一定にならない。
【0031】
温度領域Bでの測定の場合、第1の光トランシーバ5の降温速度は温度領域Aでの降温速度よりも小さくしてもよい。例えば、Rx側の信号ロスレベル及び最小受信感度の2つの特性値を測定するのに要する時間の経験的な値と、温度領域Bの温度差50℃とから大凡の降温速度(降温時間)を決定することができる(当然に適度な余裕を持った降温時間とする)。Rx側の特性値の測定がこの降温時間内に終了している場合には、降温時間の経過を待つことなく、第2の光トランシーバ6を次の温度領域Cでの特性測定に移行させてもよく、あるいは、特性測定に移行させずに降温時間が経過するまで待機としてもよい。
【0032】
また、これとは逆に、Rx側の特性値の測定に降温時間以上を要し、降温時間を経てもなおRx側の特性値の測定が終了していない場合には、第1の光トランシーバ5の温度設定を0℃で維持する。このときの状態を温度遷移8に示す。つまり、温度遷移8によれば、温度領域Bで測定すべき項目が終わるまで温度が維持される。このように、比較的常温に近いところで温度を維持することで、電力消費を抑えることができ、省エネの観点から望ましい。なお、別の例として、降温時間を経てもなおRx側の特性値の測定が終了していない場合、温度領域C側にはみ出してRx側の測定を継続してもよい。
【0033】
上記の変形例として、
図3に示すように、温度領域Bにおける第1の光トランシーバ5の降温速度を、温度領域Aでの降温速度に従って決定してもよい。具体的には、第1の光トランシーバ5の降温開始時の実際温度(85℃)において、第1の光トランシーバ5に対するペルチェの設定値(目標温度)を0℃とする。この場合、降温開始時に最も大きな降温速度が得られ、0℃に近付くにつれて降温速度が低下する。すなわち、その時の実際温度と目標温度との差に依存して降温速度が決定されるモード(指数関数的に温度が変化するモード)を選択しても良い。なお、
図3では温度遷移を直線的に示しているが、実際には指数関数的に遷移する。
【0034】
温度領域Bにおける第2の光トランシーバ6の温度特性の測定後、第3の工程が実行される温度領域Cでは、第1の光トランシーバ5の周囲温度を最速で降下させた場合、温度遷移7のようになるが、この場合、結露が発生する虞がある。このため、温度領域Cでは、第1の光トランシーバ5の降温速度(すなわち、温度の変化率)を、結露が生じないようにさらに小さくする。具体的には、温度領域Aでの降温速度よりも小さくする。ここで、温度領域Cでの第1の光トランシーバ5の降温開始時点は温度領域Bでの測定時間に依存して変化する(温度遷移8,9)。また、この温度領域Cでの降温速度は一定とされ、ペルチェの設定温度を適宜変化させることにより定率の降温特性を得ることができる。
【0035】
なお、温度領域Cでは、第2の光トランシーバ6について温度領域AでのTx側の測定が完了していない場合、Tx側の残りの測定を行う。なお、第2の光トランシーバ6の周囲温度は85℃に維持されている。また、Tx側の測定が全て完了している場合には、第2の光トランシーバ6について新たな測定は行わない。ここで、第2の光トランシーバ6について高温側の測定が完了しても、すぐに第2の光トランシーバ6を低温側に遷移させることは行わない。これは、第1の光トランシーバ5の降温が完了しておらず、第1の光トランシーバ5の低温側の測定が開始されていないためである。つまり、第1の光トランシーバ5の低温側の測定は温度降下が終わり次第開始されるが、これに合わせて第2の光トランシーバ6が降温を開始するように制御される。
【0036】
以上のアルゴリズムを採用することで、第1の光トランシーバ5が結露することなく、降温制御されている間に、第2の光トランシーバ6の高温側における温度特性の測定を行うことができる。なお、上記例では、
図2において、第2の光トランシーバ6の高温側の測定を行う区間t3の処理内容について説明したが、第2の光トランシーバ6の降温中に、第1の光トランシーバ5の低温側の測定を行う区間t4の処理内容についても基本的な流れは同様である。
【0037】
すなわち、区間t4では、第2の光トランシーバ6の周囲温度が85℃から50℃に到達するまでの間に、第1の光トランシーバ5の周囲温度が−40℃に維持された状態で、第1の光トランシーバ5のTxの温度特性を測定する工程と、第2の光トランシーバ6の周囲温度が50℃から0℃に到達するまでの間に、第1の光トランシーバ5の周囲温度が−40℃に維持された状態で、第1の光トランシーバ5のRxの温度特性を測定する工程と、第2の光トランシーバ6の周囲温度が0℃から−40℃に到達するまでの間、第2の光トランシーバ6の周囲温度の変化率を、85℃から50℃に到達するまでの間の温度の変化率よりも小さく制御する工程とが実行される。これにより、第2の光トランシーバ6の周囲温度を降下させる間に、第1の光トランシーバ5の低温側の温度特性を測定することができる。
【0038】
また、区間t5では、第1の光トランシーバ5の昇温中に、第2の光トランシーバ6の低温側の測定を行うが、第1の光トランシーバ5の高温側の測定は区間t2で完了しているため、第1の光トランシーバ5の昇温状態に係らず、第2の光トランシーバ6の低温側の測定をTx及びRxについて順次行えばよい。
【0039】
(第2の実施形態)
図4は、本発明による光機器温度特性測定方法の昇温過程の一例を説明するための図で、図中、5は第1の光トランシーバ5の温度遷移、6は第2の光トランシーバ6の温度遷移を示し、横軸は時間、縦軸は温度である。本例では、2つの温度制御装置31,41に測定対象とする光トランシーバ5,6がそれぞれセットされ、第1の光トランシーバ5を−40℃から85℃まで昇温する間に、第2の光トランシーバ6の温度特性を測定する場合について説明する。ここで、第1の光トランシーバ5の昇温速度を急峻に設定した場合に、第1の光トランシーバ5の周囲温度にオーバーシュートが現れる可能性が大きい。そこで、第1の光トランシーバ5の昇温過程と、第2の光トランシーバ6の測定過程とを次の手順で実施する。
【0040】
まず、本例の場合、初期状態において、第1の光トランシーバ5及び第2の光トランシーバ6の周囲温度は共に室温状態にあり、
図3に示した区間t1,t2での昇温の場合とは逆に、第1の光トランシーバ5及び第2の光トランシーバ6の周囲温度を室温から所定の低温(ここでは−40℃)まで降温させる。
【0041】
次に、−40℃において第1の光トランシーバ5のTx及びRx両方の温度特性を測定し、第2の光トランシーバ6の周囲温度はそのまま−40℃に維持する。そして、区間t3′では、第1の光トランシーバ5の周囲温度を第1の温度(−40℃)から第2の温度(85℃)に向けて昇温制御し、第2の光トランシーバ6の周囲温度を第1の温度(−40℃)に維持制御する。
【0042】
区間t3′では、温度によって3つの工程が実行される。すなわち、第1の光トランシーバ5の周囲温度が、−40℃から、−40℃と85℃との間の第3の温度(ここでは40℃)に到達するまでの間に、第2の光トランシーバ6の周囲温度が−40℃に維持された状態で、第2の光トランシーバ6のTxの温度特性を測定する第1の工程と、第1の光トランシーバ5の周囲温度が、40℃から、40℃と85℃との間の第4の温度(ここでは60℃)に到達するまでの間に、第2の光トランシーバ6の周囲温度が−40℃に維持された状態で、第2の光トランシーバ6のRxの温度特性を測定する第2の工程と、第1の光トランシーバ5の周囲温度が60℃から85℃に到達するまでの間、第1の光トランシーバ5の周囲温度の変化率を、−40℃から40℃に到達するまでの間の周囲温度の変化率よりも小さく制御する第3の工程とが実行される。
【0043】
つまり、本例の場合、
図4に示すように、第1の温度が第2の温度よりも低く、第1の温度、第3の温度、第4の温度、第2の温度の順で昇温される。なお、各温度の決め方は上記の例に限らず、測定装置の仕様や測定条件等に応じて、適宜決定される。
【0044】
より具体的には、第1の工程が実行される温度領域Aの開始時点では第1の光トランシーバ5の周囲温度は−40℃(実際温度)である。この状態で第1の光トランシーバ5の周囲温度の設定を例えば60℃(目標温度)に変更する。これにより、ペルチェは冷却モードから加熱モードに変更され、加熱方向に電流が流れるが、実際温度と目標温度との差が100℃もあるので、加熱電流はペルチェに印加可能な最大電流となり、昇温速度は系の許す最大の昇温速度となる。
【0045】
その時の昇温特性は、冷却時と同様に指数関数に従うものとなる。そして、この状態で第1の光トランシーバ5の周囲温度が、40℃に到達するまでの間、第2の光トランシーバ6では、その周囲温度が−40℃に維持されており、測定時間が固定されている温度特性の項目(Tx側で平均光出力強度、消光比、出射光波長、さらに、光トランシーバ本体についての消費電流、内部温度などを含む各種モニタ値)について測定される。なお、第1の光トランシーバ5の周囲温度が40℃に到達する前に、第2の光トランシーバ6のTx側の測定が終了した場合には、連続して次のRx側の測定を開始してもよい。また、第1の光トランシーバ5の周囲温度が40℃に到達した時点で、Tx側の測定が全て終了できなかった場合には、Tx側の測定を一旦中断し、温度領域Cに後ろ倒しする。つまり、温度領域Aでは昇温速度、及びこの昇温速度を維持する最終温度(40℃)を優先させる。
【0046】
次いで、第2の工程が実行される温度領域B(40℃〜60℃の領域)では、第1の光トランシーバ5の周囲温度が40℃を超え60℃までの間に、第2の光トランシーバ6のRx側の温度特性について測定を行う。なお、第2の光トランシーバ6の周囲温度は−40℃に維持されている。このRx側の温度特性としては、信号ロスレベル、最小受信感度が含まれる。そして、Rx側のこれらの特性は、信号ロスレベルが所定dBm以下、最小受信感度が所定dBm以下という仕様で規定されており、光入力強度を光ATT22で変化させながら第2の光トランシーバ6からの出力をモニタする必要がある。また、個々の光トランシーバが持つPDの裸受光特性、Rx側光コネクタからPDまでの光結合効率などに応じて、その特性(値)がばらつくため、測定時間が一定にならない。
【0047】
温度領域Bでの測定の場合、第1の光トランシーバ5の昇温速度は、例えば、降温時と同様に、温度領域Aでの昇温速度に従って指数関数的に決定することができる。上記Rx側の2つの特性値の測定がこの昇温時間内に終了している場合には、昇温時間の経過を待つことなく、第2の光トランシーバ6を次の温度領域Cでの特性測定に移行させてもよく、あるいは、特性測定に移行させずに昇温時間が経過するまで待機としてもよい。
【0048】
これとは逆に、Rx側の特性値の測定に昇温時間以上を要し、昇温時間を経てもなおRx側の特性値の測定が終了していない場合には、第1の光トランシーバ5の温度設定を60℃で維持する。このときの状態を温度遷移8に示す。つまり、温度遷移8によれば、温度領域Bで測定すべき項目が終わるまで温度が維持される。このように、比較的常温に近いところで温度を維持することで、電力消費を抑えることができ、省エネの観点から望ましい。また、別の例として、昇温時間を経てもなおRx側の特性値の測定が終了していない場合、温度領域C側にはみ出してRx側の測定を継続してもよい。
【0049】
温度領域Bにおける第2の光トランシーバ6の温度特性の測定後、第3の工程が実行される温度領域Cでは、第1の光トランシーバ5の周囲温度を最速で上昇させた場合、温度遷移7のようになるが、この場合、オーバーシュートが発生する虞がある。このため、温度領域Cでは、第1の光トランシーバ5の昇温速度(すなわち、温度の変化率)を、オーバーシュートが生じないようにさらに小さくする。具体的には、温度領域Aでの昇温速度よりも小さくする。ここで、温度領域Cでの第1の光トランシーバ5の昇温開始時点は温度領域Bでの測定時間に依存して変化する(温度遷移8,9)。また、この温度領域Cでの昇温速度は一定とされ、ペルチェの設定温度を適宜変化させることにより定率の昇温特性を得ることができる。
【0050】
なお、温度領域Cでは、第2の光トランシーバ6について温度領域AでのTx側の測定が完了していない場合、Tx側の残りの測定を行う。なお、第2の光トランシーバ6の周囲温度は−40℃に維持されている。また、Tx側の測定が全て完了している場合には、第2の光トランシーバ6について新たな測定は行わない。ここで、第2の光トランシーバ6について低温側の測定が完了しても、すぐに第2の光トランシーバ6を高温側に遷移させることは行わない。これは、第1の光トランシーバ5の昇温が完了しておらず、第1の光トランシーバ5の高温側の測定が開始されていないためである。つまり、第1の光トランシーバ5の高温側の測定は温度上昇が終わり次第開始されるが、これに合わせて第2の光トランシーバ6が昇温を開始するように制御される。
【0051】
以上のアルゴリズムを採用することで、第1の光トランシーバ5がオーバーシュートすることなく、昇温制御されている間に、第2の光トランシーバ6の低温側における温度特性の測定を行うことができる。なお、上記例では、第2の光トランシーバ6の低温側の測定を行う場合の処理内容について説明したが、第2の光トランシーバ6の昇温中に、第1の光トランシーバ5の高温側の測定を行う場合の処理内容についても基本的な流れは同様である。また、第1の光トランシーバ5の降温中に、第2の光トランシーバ6の高温側の測定を行うが、第1の光トランシーバ5の低温側の測定は工程t3′の前工程で既に完了しているため、第1の光トランシーバ5の降温状態に係らず、第2の光トランシーバ6の高温側の測定をTx及びRxについて順次行えばよい。
【0052】
このようにして、1つの測定系に対して2つの温度制御系を切り換える場合に、一方の光機器の周囲温度を降下あるいは上昇させている間に、他方の光機器の温度特性を測定することができるため、効率的に光機器の出荷検査を行うことができる。