(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-89439(P2015-89439A)
(43)【公開日】2015年5月11日
(54)【発明の名称】指関節部骨折治療用創外固定器
(51)【国際特許分類】
A61B 17/60 20060101AFI20150414BHJP
【FI】
A61B17/60
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-230209(P2013-230209)
(22)【出願日】2013年11月6日
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
(71)【出願人】
【識別番号】508282465
【氏名又は名称】ナカシマメディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088993
【弁理士】
【氏名又は名称】板野 嘉男
(72)【発明者】
【氏名】新井 哲也
(72)【発明者】
【氏名】平田 仁
(72)【発明者】
【氏名】丸山 大輔
(72)【発明者】
【氏名】出井 準也
【テーマコード(参考)】
4C160
【Fターム(参考)】
4C160LL18
4C160LL21
(57)【要約】 (修正有)
【課題】牽引力が確実で微調整ができ、操作も容易で安価にできる指骨折部治療用創外固定器を提供する。
【解決手段】指の関節が骨折した場合の治療具であり、関節を挟んで基節骨1と中節骨2又は中節骨と末節骨3(母指では基節骨と末節骨)の両側面に沿い、近位端で基節骨又は中節骨に貫通された第一ピン7が通され、第一ピンの遠位側から外周にネジ4aが形成され、中央に側面方向に開口する長溝5が形成されたボルト4と、上下に割れてボルトの遠位側に嵌合され、中節骨又は末節骨に貫通された第二ピン9が長溝に通されたリング8と、第一ピンと第二ピンの間にあってネジに螺合するナット10と、ナットとリングとの間のボルトに嵌装されるコイルバネ11、とからなる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
指の関節部が骨折した場合の治療具であり、この治療具が、当該関節を挟んで基節骨と中節骨又は中節骨と末節骨(母指では基節骨と末節骨)の両側面に沿い、近位端で基節骨又は中節骨に貫通された第一ピンが通され、第一ピンの遠位側から外周にネジが形成され、中央に側面方向に開口する長溝が形成されたボルトと、ボルトの遠位側にスライド可能に嵌合され、中節骨又は末節骨に貫通された第二ピンが長溝に通されて横方向貫通したリングと、第一ピンと第二ピンの間にあってネジに螺合するナットと、ナットとリングとの間のボルトに嵌装されるコイルバネ、とからなることを特徴とする指関節部骨折治療用創外固定器。
【請求項2】
ナットの近位側にあって中節骨又は末節骨と長溝とを貫通する第三ピンが設けられる請求項1の指関節部骨折治療用創外固定器。
【請求項3】
ボルトの遠位端が上下に割れてリングに差し込まれ、第二ピンを通した状態でリングがスライド可能であるものの、一旦リングに差し込まれると一定以上の近位側への移動を規制する係止構造が施されているとともに、ボルトの遠位端側の上下を押えると、この部分が弾性変形してボルトがリングから抜出可能な請求項1又は2の指関節部骨折治療用創外固定器。
【請求項4】
ナットを回して第一ピンと第二ピンを離そうとする動き(牽引)が基節骨と中節骨又は中節骨と末節骨が屈曲した状態でもできる請求項1〜3いずれかの指関節部骨折治療用創外固定器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、指の関節部分又はその近辺を骨折した場合の治療用創外固定器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
関節部近辺は強い外力が働くことから骨折し易い。骨折治療の基本は患部を固定しておくことであるが、関節部分はその機能上可能な限りで動かした方がよい。ただ、関節部近辺の骨折は骨折線が関節面に及んでいるため、関節面を接触させておくのは好ましくない(関節面同士を離しておく方がよい、所謂、牽引)。このうち、器材が外に出ているものを創外固定器といい、各種のものがあるが、下記特許文献1に示されるものがよく知られている。
【0003】
これは、骨折した関節の片側に添設部材と称されるベースを配し、これにピン支持部というブロックをスライド可能に嵌め込み、ブロックにピンを通して骨に差し込んで固定しているものである。この場合、添設部材は屈曲できるようになっている。しかし、全体として構造が複雑であるし、ピン支持部を添設部材の所望の位置に固定するのは至難の業である(スライド式であるから)。また、ピン支持部には二本のピンが設けられているが、ピン支持部は骨の片側のみに設けられており、しかも、ピンも骨の途中までしか挿入されておらず、固定が不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−167062
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は簡単な構造で操作もし易く、しかも、微調整ができて確実に機能を果たすことができる指関節部骨折治療用創外固定器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の課題の下、本発明は、請求項1に記載した、指の関節部が骨折した場合の治療具であり、この治療具が、当該関節を挟んで基節骨と中節骨又は中節骨と末節骨(母指では基節骨と末節骨)の両側面に沿い、近位端で基節骨又は中節骨に貫通された第一ピンが通され、第一ピンの遠位側から外周にネジが形成され、中央に側面方向に開口する長溝が形成されたボルトと、ボルトの遠位側にスライド可能に嵌合され、中節骨又は末節骨に貫通された第二ピンが長溝に通されて横方向に貫通したリングと、第一ピンと第二ピンの間にあってネジに螺合するナットと、ナットとリングとの間のボルトに嵌装されるコイルバネ、とからなることを特徴とする指関節部骨折治療用創外固定器を提供したものである。
【0007】
また、本発明は、以上において、請求項2に記載した、ナットの近位側にあって中節骨又は末節骨と長溝とを貫通する第三ピンが設けられる構成、請求項3に記載した、ボルトの遠位端が上下に割れてリングに差し込まれ、第二ピンを通した状態でリングがスライド可能であるものの、一旦リングに差し込まれると一定以上の近位側への移動を規制する係止構造が施されているとともに、ボルトの遠位端側の上下を押えると、この部分が弾性変形してボルトがリングから抜出可能な構成、請求項4に記載した、ナットを回して第一ピンと第二ピンを離そうとする動き(牽引)が基節骨と中節骨又は中節骨と末節骨が屈曲した状態でもできる構成を提供する。
【発明の効果】
【0008】
請求項1の発明によれば、牽引にネジという簡単で前後進のストロークが確実な手段によったものであるから、安価に製造できて確実に機能を果たすことができる。特に、調整はネジによる無段階であるから、病状にとってもっとも好ましい力で牽引できる。また、ピンを支持するボルトは骨の両側に存在するから、骨の横への傾きやずり上がりが少ない。請求項2の発明によれば、骨の傾きやずり上がりを一層防止する。請求項3の発明によれば、組み付けのときにリングが脱落したりするのを防ぐ。請求項4の発明によれば、多態様の使い方ができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図3】本発明の創外固定器の使用状態を示す平面図である。
【
図4】本発明の創外固定器の他の使用状態を示す斜視図である。
【
図5】ボルトとリングの組み合わせを示す他の例の一部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明するが、
図1は指関節骨折治療用創外固定器(以下、創外固定器という)の斜視図、
図2は平面図、
図3はこの創外固定器を指に装填した場合の平面図である。この創外固定器は以下の構造をしている。指は近位側から基節骨1、中節骨2、末節骨3を構成しており(母指は中節骨2がない)、ここでは骨折したのは基節骨1と中節骨2との間の関節であり、基節骨1に対して中節骨2を牽引するものとする。
【0011】
本発明に係る創外固定器の構成は、まず、基節骨1と中節骨2の両側に配されるボルト4を有している。ボルト4は外周にネジ4aが形成されており、近位端側の中心部分に側面方向に貫通して遠位端で上下に割れが拡大している長溝5が形成されている。なお、ネジ4aは近位端寄りの中間部分にのみ形成されている。
【0012】
ボルト4の近位端の側面には孔6aがあいており、この孔6aに基節骨1を貫通する第一ピン7を挿通する。なお、第一ピン7(すべてのピンも同じ)の一端は骨を貫通する必要があるため先を尖らせてある。また、ボルト4の材質はX線透過率を上げるためにアルミで構成されている。ボルト4の遠位側(上下に割れている部分)にはリング8がスライド可能に外嵌される。この場合、長溝5はリング8より外側に十分な長さを有してボルト4の撓みを防いでいるし、当然ながら、この部分にはネジ4aは存在していない。リング8に対しても第二ピン9が長溝5中を通過して中節骨2を貫通して固定されている(そのための孔6bが形成されている)。
【0013】
ボルト4のネジ4aにはナット10が螺合しており(同じく中節骨2が存在する辺り)、リング8とナット10との間にはコイルバネ11がボルト4の外周に巻かれて張り掛けられている。さらに、ナット10の近位寄りで中節骨2の近位端付近にも第三ピン12が貫通しており、ボルト4の長溝5を挿通している。関節の近くであり、中節骨2が倒れたり、ずり上がったりするのを防ぐためである。
【0014】
次に、この創外固定器の使い方について説明すると、ボルト4にリング8やナット10及びコイルバネ11を装着しながら当該関節を挟む骨の両側に配し、第一〜第三ピン7、9、12を通す。この状態でナット10を回してリング8側に寄せて行くと、リング8は後退するとともに、コイルバネ11の作用が増し、中節骨2が基節骨1に対して牽引され、基節骨1と中節骨2の間(関節)が適度に隙間を有するものになる。この牽引力はナット10の締め込みによるものであるから、無段階に調整できる。
【0015】
反対に締めすぎたとき(牽引しすぎたとき)にはナット10をリング8から後退させると、コイルバネ11 の張力は弱くなり(これも無段階)、隙間は小さくなる。そして、全部のピン7、9、12が通されたなら、突出している部分を適当に切断し、ボルト4の傍で曲げたり、カバーを掛けたりして邪魔にならないようにしておく。特に、隣りの指との間隔には留意する必要がある。以上は基節骨1と中節骨2に対するものであるが、中節骨2と末節骨3に対しても同じである。さらに、母指も同様である。
【0016】
以上から次のようなことがいえる。
1)固定性、安定性がよい。
各ピンは両側二つのボルトで支持されるから、横に傾いたりずり上がったりしない。特に、第三ピンの存在は大きい。
2)使用中であっても関節機能は保持する。
第一ピンを中心にボルトを回転させると、第二ピンと第三ピンとの間隔は変わらないから、中間骨は近位骨に対して屈曲する。この場合、第一ピンとそれが通る孔の嵌合を緊くしておけば、屈曲角度を維持できる。
3)関節の隙間を最適に保てる。
ナット、ネジ方式であるから、正確な隙間を確保できる。また、微調整も可能である。
4)ボルトの材質としてX線透過率を上げるアルミを使用しているから、骨折箇所のX線撮影にあまり影響を及ぼさない。
【0017】
以上は本発明の基本的な形態であるが、本発明は種々改変された形態をとることがある。例えば、第一ピンから第三ピンまでを近位骨側からとしたが、逆であってもよい。また、第一ピンとボルトとの嵌合はきついものが好ましいとしたが、これが緩いと不安定になるからである。その意味からピンと孔の嵌め合いを非常にきついものにしてもよいが、そうすると、屈曲させるときにはピンと骨とが擦れて骨が傷付いて好ましくない。さらに、組み付けのときにリングがボルトから抜け落ちることがあるから、十分に留意する必要がある。
【0018】
図5は組み付けのときにリング8が脱落し難いボルト4とリング8の組み合わせの他の例の一部断面図であるが、ボルト4の割れた部分(先端部分13)をスリ割状にしておき、リング8の孔8aを遠位側ほど小さくしておくのである。そして、先端部分13を孔8aに通過させると、孔8aの遠位面に引っかかって後退ができないように先端部分13の内側等に段を形成したりした係止構造14を施しておくのである。これにより、ボルト4を一旦リング8に通すと、係止構造14が存在する部分からは後退できない(前進は可能であり、その範囲では牽引力は自由に調整できる)。
【0019】
ただ、絶対的に後退ができないのでは具合が悪いので、先端部分13を指で挟みつければ、先端部分13は外方に持ち上がって係止構造14が外れるようにしておく。このような構造は絶対的なものではないが、組み付け時、リング8が下に落ちたりすれば非衛生的であるから、この構成はすべてにおいて施すのが好ましい。
【0020】
この他、基節骨1と中節骨2(末節骨3)とを屈曲させた状態で牽引も可能である。
図4にそれを示すが、基節骨1と中節骨2(末節骨3)を屈曲させ、この状態で第一ピン7を基節骨1の骨軸に沿う方向(第三ピン12と平行方向)に挿入するのである。さらに、この創外固定器は骨折以外の疾病、例えば、関節症、脱臼等で関節面を接触させるのが好ましくない場合にも適用できる。
【符号の説明】
【0021】
1 基節骨
2 中節骨
3 末節骨
4 ボルト
4a 〃 のネジ
5 長溝
6a 第一ピンが通るボルトの孔
6b 第二ピンが通るリングの孔
6c 第三ピンが通るボルトの長溝
7 第一ピン
8 リング
8a 〃の孔
9 第二ピン
10ナット
11コイルバネ
12第三ピン
13先端部分
14係止構造