(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-89550(P2015-89550A)
(43)【公開日】2015年5月11日
(54)【発明の名称】異材接合方法
(51)【国際特許分類】
B23K 20/12 20060101AFI20150414BHJP
【FI】
B23K20/12 360
B23K20/12 310
B23K20/12 344
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-229082(P2013-229082)
(22)【出願日】2013年11月5日
(71)【出願人】
【識別番号】000238360
【氏名又は名称】武蔵精密工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304027349
【氏名又は名称】国立大学法人豊橋技術科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】100067356
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 容一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100160004
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 憲雅
(74)【代理人】
【識別番号】100120558
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 勝彦
(74)【代理人】
【識別番号】100148909
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧澤 匡則
(74)【代理人】
【識別番号】100161355
【弁理士】
【氏名又は名称】野崎 俊剛
(72)【発明者】
【氏名】藤田 智行
(72)【発明者】
【氏名】安井 利明
【テーマコード(参考)】
4E167
【Fターム(参考)】
4E167AA02
4E167AA06
4E167AA29
4E167BG05
4E167BG06
4E167BG12
4E167BG13
4E167BG15
4E167BG22
4E167DA10
(57)【要約】
【課題】接合ツールの寿命を延ばすことができると共に接合部の健全化を図ることができる異材接合方法を提供することを課題とする。
【解決手段】ショルダー部13及びこのショルダー部13から突出するプローブ12を備える接合ツール10を用い、硬質材21に軟質材22を突合わせて接合する異材接合方法において、前記ショルダー部13と前記硬質材21とに隙間を保つと共に前記ショルダー部13と前記軟質材22とに隙間を保った状態で接合する。
【効果】ショルダー部は流動材料(軟質材)とは接触するものの、流動前の材料には接触しないので、接合ツールに加わる負荷トルクは小さくなり、接合ツールの寿命を大幅に延ばすことができる。また、ショルダー部と硬質材との間に隙間があり、ショルダー部直下で硬質材に遮られることなく軟質材が流動できるので撹拌量が大きくなり、健全な接合部が得られる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ショルダー部及びこのショルダー部から突出するプローブを備える接合ツールを用い、硬質材に該硬質材よりも融点が低い軟質材を突合わせて、摩擦撹拌接合法により接合する異材接合方法において、
前記ショルダー部と前記硬質材の間に隙間を保つと共に前記ショルダー部と前記軟質材の間に隙間を保った状態で前記摩擦撹拌接合法を実施することを特徴とする異材接合方法。
【請求項2】
前記隙間は、0.05〜1.0mmの範囲に設定することを特徴とする請求項1記載の異材接合方法。
【請求項3】
前記隙間に介在する流動材料を回転中心に集める溝が、前記ショルダー部に形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2項記載の異材接合方法。
【請求項4】
前記硬質材は鉄系材料であり、前記軟質材はアルミニウム系材料であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の異材接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦撹拌接合法による異材接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2つの部材を接合する接合法として、溶接法、ろう付け法、拡散接合法など多種多様の技術が実用に供されている。多様な技術に、摩擦撹拌接合法と呼ばれる特殊な接合法が含まれる。
【0003】
また、例えば銅にアルミニウムを接合する接合法は異材接合法と呼ばれる。この異材接合法に摩擦撹拌接合法を適用することが知られている(例えば、特許文献1(
図2(C)、(D))参照。)。
【0004】
特許文献1を次図に基づいて説明する。
図6に示すように、高融点材料101に低融点材料102を突合わせる。合わせ面103を接合ツール110で接合する。
【0005】
図7に示すように、接合ツール110は、本体111と、この本体111から軸方向に突出するプローブ112を備えている。このプローブ112は本体111より小径であり、本体111のプローブ112側端面が環状面となる。この環状面はショルダー部113と呼ばれる。
【0006】
本体111及びプローブ112を高速で回すと、静止している高融点材料101及び低融点材料102との間で摩擦熱が発生する。この摩擦熱で高融点材料101及び低融点材料102の一部が軟化し、活性化することで接合が行われる。軟化した流動材料104に、空気などのガスが巻き込まれることがある。このガスは放置すると気泡の形態で残留し、接合欠陥が生じる。
しかし、ショルダー部113が前上がり、後下がりの形態で前進し、流動材料104を押し潰す。この押し潰しにより、ガスを追い出しつつ接合部の緻密化を図ることができる。
【0007】
ところで、高融点材料101や低融点材料102に、プローブ112の他、ショルダー部113が接触する。高融点材料101が鉄系材料であれば、鉄系材料は硬いため接合ツール110に大きな負荷トルクが加わると共に多量の摩擦熱が発生する。
結果、接合ツール110の寿命が著しく短くなり、工具の調達費用及び交換工事費用が嵩む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−66765公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、接合ツールの寿命を延ばすことができると共に接合部の健全化を図ることができる異材接合方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る発明は、ショルダー部及びこのショルダー部から突出するプローブを備える接合ツールを用い、硬質材に該硬質材よりも融点が低い軟質材を突合わせて、摩擦撹拌接合法により接合する異材接合方法において、
前記ショルダー部と前記硬質材の間に隙間を保つと共に前記ショルダー部と前記軟質材の間に隙間を保った状態で前記摩擦撹拌接合法を実施することを特徴とする。
【0011】
請求項2に係る発明では、隙間は、0.05〜1.0mmの範囲に設定することを特徴とする。
【0012】
請求項3に係る発明では、隙間に介在する流動材料を回転中心に集める溝が、ショルダー部に形成されていることを特徴とする。
【0013】
請求項4に係る発明では、硬質材は鉄系材料であり、軟質材はアルミニウム系材料であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る発明では、ショルダー部と軟・硬質材の間に隙間を保った状態で摩擦撹拌接合法を実施する。ショルダー部は流動材料(軟質材)とは接触するものの、流動前の材料には接触しないので、接合ツールに加わる負荷トルクは小さくなり、接合ツールの寿命を大幅に延ばすことができる。また、ショルダー部と硬質材との間に隙間があり、ショルダー部直下で硬質材に遮られることなく軟質材が流動できるので撹拌量が大きくなり、健全な接合部が得られる。
【0015】
請求項2に係る発明では、隙間は、0.05〜1.0mmとした。
隙間が0.05mm未満では流動材料の流れる場所が過小になり、接合ツールに加わる負荷トルクが増大する。また、隙間が1.0mmを超えると、流動材料がショルダー部に当たりにくくなり、ショルダー部による撹拌作用が低下し、ガスの排出も不十分になる。よって、隙間は、0.05〜1.0mmとする。
【0016】
請求項3に係る発明では、ショルダー部に、流動材料を回転中心に集める溝を設けた。流動材料を中央に集める形状にすることで、攪拌作用が増加し、ガスの排出が促される。加えて接合界面及びその付近に大きな流動を造りだし、接合界面の酸化膜を破壊することができる。酸化膜が破壊されると新生面が現れる。結果、酸化物が含まれない健全な接合状態が得られる。
【0017】
請求項4に係る発明では、硬質材は鉄系材料であり、軟質材はアルミニウム系材料である。強度が要求される部位に鉄系材料を配置し、強度が要求されない部位にアルミニウム系材料を配置した異材部品を本発明で製造することができる。この異材部品は自動車部品に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に係る接合ツールの形状を説明する図である。
【
図6】従来の摩擦撹拌接合法を説明する平面図である。
【
図7】従来の摩擦撹拌接合法を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。
【実施例】
【0020】
図1に示すように、接合ツール10は、円柱状の本体11と、この本体11から突出しているプローブ12とを備える。プローブ12は本体11より十分に小径である。本体11のプローブ12側端面が、円環状のショルダー部13となる。よって、見かけ上、ショルダー部13からプローブ12が突出している。
【0021】
本発明では、硬質材21に軟質材22を突合わせる。合わせ面23から硬質材21へ距離δだけ食い込むように、プローブ12の水平位置を定める。また、硬質材21及び軟質材22の上面とショルダー部13との間に隙間cが確保できるように、接合ツール10の高さ位置を定める。距離δは例えば0.05mmであり、隙間cは例えば0.5mmである。
【0022】
硬質材21は、例えば、鉄系材料である。鉄系材料は、主成分がFeであればよく、組成は任意である。鉄系材料の一例として、S45C(JIS G 4051で規定される機械構造用炭素鋼鋼材)が挙げられる。
軟質材22は、硬質材21より融点が低い材料であれば、種類は問わない。軟質材22は、例えば、アルミニウム系材料であり、主成分がAlであればよく、組成は任意である。アルミニウム系材料の例として、ADC12(JIS H 5302で規定されるアルミニウム合金ダイカスト12種)、A6061(JIS H 4040アルミニウム合金棒)が挙げられる。
【0023】
車両部品は、路面反力や車体の変形に耐えるような剛性(強度など)が要求される。一方、省エネルギーの観点から車両の軽量化が求められ、車両部品の軽量化が求められる。
そこで、車両部品において、強度が要求される部位に鉄系材料を配置し、比較的強度が要求されない部位に軽量なアルミニウム系材料を配置する。これにより、強度確保と軽量化とが達成できる。よって、本発明は、車両部品の接合方法に好適である。
【0024】
硬質材21がS45Cで、軟質材22がA6061又はADC12の場合、WC−Co製のプローブ12が推奨される。接合ツール10の寸法は、対象材料により決定されるが、例えば本体11の外径が20mmで、プローブ12の外径が5mmに設定される。
【0025】
図2に示すように、プローブ12を高速で回しながら、白抜き矢印のように、合わせ面23に沿って前進させる。結果、プローブ12の後方にビード24が生成される。
図3にて、プローブ12を、例えば毎分1500回の速度で回転させつつ、毎分220mmの速度で前進させる。プローブ12と軟質材22との間で摩擦熱が発生し、この摩擦熱で軟質材22は融点未満の温度まで加熱される。
【0026】
すると、軟質材22が軟らかくなり、流動し易くなる。すなわち軟質材22の一部が流動材料25となる。この流動材料25がプローブ12で押されるなどしてショルダー部13側へ盛り上がる。流動材料25の上端がショルダー部13に接触し、流動撹拌される。仮に、流動材料25にガス(周囲の空気など)が混入されたとしてもこのガスは流動撹拌により排出される。流動材料25はプローブ12が通過した後は、冷却されてビード24となる。
【0027】
ここで隙間cの大きさを検討する。
隙間cを0.05mm未満にすると、流動材料の流れる場所が過小になり、接合ツールに加わる負荷トルクが増大する。
また、隙間cを1.0mm超にすると、流動材料25が隙間cに十分に収まるものの、流動材料25が十分にショルダー部13に接触しなくなる。すると、流動撹拌が不十分となり、ガスの排出が不十分になる心配がある。
よって、隙間cは、0.05mm以上で1.0mm以下に設定することが推奨される。
【0028】
ショルダー部13は平坦面であっても差し支えないが、次に説明する溝を設けることが推奨される。
すなわち、
図4に示すように、ショルダー部13に、スクロース溝やスパイラル溝とも呼ばれる渦巻き溝27を設ける。ショルダー部13を、図面で反時計回りに回転させると、流動材料が渦巻き溝27に案内されて中央に集まる。流動材料を中央に集める形状にすることで、接合界面及びその付近に大きな流動を造りだし、接合界面の酸化膜を破壊することができる。酸化膜が破壊されると新生面が現れる。結果、酸化物が含まれない健全な接合状態が得られる。
【0029】
ただし、渦巻き溝27の形成には高度な加工技術が要求され、加工費が嵩む。加工が比較的容易な別の例を
図5で説明する。
図5(a)に示すように、複数(この例では8本)の湾曲溝29をショルダー部13に形成する。
図4よりは加工が容易になり、加工費用の低減が図れる。
また、
図5(b)に示すように、複数(この例では4本)の斜め溝29をショルダー部13に形成する。
図5(a)よりは加工が容易になり、加工費用のさらなる低減が図れる。
【0030】
尚、本発明に係る接合方法は、車両部品の製造に好適であるが、車両部品以外の異材部品に適用することは差し支えない。
【0031】
また、ショルダー部13が硬質材21や軟質材22の上面に平行になるように、接合ツール10を鉛直に配置することを原則とするが、隙間が0.05mm〜1.0mmに収まることを条件に接合ツール10の軸を若干傾けることは差し支えない。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、異材からなる車両部品の製造に好適である。
【符号の説明】
【0033】
10…接合ツール、11…本体、12…プローブ、13…ショルダー部、21…硬質材、22…軟質材、23…合わせ面、24…ビード、25…流動材料、27…中心に集める溝(渦巻き溝)、28…中心に集める溝(湾曲溝)、29…中心に集める溝(斜め溝)、c…隙間、δ…距離。