【解決手段】第1環状部材に310対して固定される固定部材110と、固定部材110に対してスライド自在に設けられ、かつ第2環状部材320と共に移動するスライド部材120と、を備え、固定部材110の表面の一部とスライド部材120の表面の一部とにより密閉空間Rが形成されると共に、密閉空間R内に充填される液体が固化されるとスライド部材120が固定部材110に対して固定された状態となり、密閉空間R内の固体が融解されるとスライド部材120が固定部材110に対してスライド自在となるように構成されることを特徴とする。
第1部材と第2部材の使用時における位置関係とは異なる位置関係となるように、第1部材と第2部材との間に作用する力に抗して、第1部材と第2部材との位置関係を変えた状態で、これら第1部材と第2部材とを一時的に固定させておく仮固定用治具において、
第1部材に対して固定される固定部材と、
該固定部材に対してスライド自在に設けられ、かつ第2部材と共に移動するスライド部材と、
を備え、
前記固定部材の表面の一部と前記スライド部材の表面の一部とにより密閉空間が形成されると共に、
前記密閉空間内に充填される液体が固化されると前記スライド部材が前記固定部材に対して固定された状態となり、前記密閉空間内の固体が融解されると前記スライド部材が前記固定部材に対してスライド自在となるように構成されることを特徴とする仮固定用治具。
前記固定部材と前記スライド部材の双方に環状溝が設けられており、これらの環状溝により、前記密閉空間が形成されることを特徴とする請求項1に記載の仮固定用治具。
前記固定部材と前記スライド部材のうちの一方に前記密閉空間の一部を形成する環状溝が設けられ、前記固定部材と前記スライド部材のうちの他方に前記環状溝内で往復移動するピストンが設けられることを特徴とする請求項1に記載の仮固定用治具。
【背景技術】
【0002】
各種装置や機構の構成部品となる2つの部材(以下、第1部材及び第2部材と称する)間に力が作用する状態で、これら第1部材及び第2部材が、装置や機構に組み込まれることがある。この場合、第1部材と第2部材の使用時における位置関係とは異なる位置関係となるように、第1部材と第2部材との間に作用する力に抗して、第1部材と第2部材との位置関係を変えた状態で、これら第1部材と第2部材とを、装置や機構に組み込まなければならないことがある。
【0003】
そのため、第1部材及び第2部材の装置や機構への組み込み作業が面倒な作業になることがある。また、第1部材及び第2部材を装置や機構に組み込む際に、各種部材間に摺動する部分が生じることで、摺動摩耗が発生したり、各種部材に傷が付いてしまったりすることもある。
【0004】
そこで、そのような問題を解消するために、第1部材と第2部材との間に作用する力に抗して、第1部材と第2部材との位置関係を変えた状態で、これら第1部材と第2部材とを一時的に固定する(仮固定する)ことがある。一般的には、第1部材と第2部材とを接続させる部材(以下、接続部材と称する)を別途設けて、接続部材をねじなどの固定具で固定し、第1部材と第2部材を装置や機構に組み込んだ後に、接続部材を取り外す手法が採用される。しかしながら、この場合には、接続部材を取り外す作業が必要となる。また、装置や機構によっては、接続部材の取り外し作業が難しい場合がある。
【0005】
なお、上記のように構成される装置の一例として、密封装置を挙げることができる(特許文献1参照)。
図13及び
図14を参照して、従来例に係る密封装置(フローティングシール)について説明する。
図13は従来例に係る密封装置の使用状態を示す模式的断面図である。
図14は従来例に係る密封装置の組み込み時の様子を示す模式的断面図である。
【0006】
図示の密封装置900は、回転軸500とハウジング600との間の環状隙間を封止するために設けられる。そして、密封装置900は、ハウジング600の内周面側に設けられた環状溝610に配置される。また、密封装置900は、第1環状部材910と、第2環状部材920とを備えている。これら第1環状部材910と第2環状部材920との間には複数のスプリング800が設けられている。これら複数のスプリング800によって、第1環状部材910は、環状溝610における一方の側面611側に押圧され、第2環状部材920は、環状溝610における他方の側面612側に押圧される。
【0007】
また、第1環状部材910には弾性体製の第1シールリング410が取り付けられている。この第1シールリング410が環状溝610における一方の側面611に対して密着することで、第1環状部材910と一方の側面611との間が封止される。同様に、第2環状部材920には弾性体製の第2シールリング420が取り付けられている。この第2シールリング420が環状溝610における他方の側面612に対して密着することで、第2環状部材920と他方の側面612との間が封止される。
【0008】
更に、ハウジング600には油を導入するための導入口620が設けられている。この導入口620から導入された油は、第1環状部材910と第2環状部材920との間の隙
間を介して、これら第1環状部材910及び第2環状部材920の内周面と、回転軸500の外周面との間の環状隙間に流れていく(
図13中矢印X参照)。
【0009】
ここで、特に、
図14を参照して、装置の組み立て作業について説明する。なお、
図14においては、回転軸500を省略している。上述したハウジング600は、軸線方向に見た場合に半円形状の第1ハウジング600Xと第2ハウジング600Yに分割された構成となっている。そして、これら第1ハウジング600Xと第2ハウジング600Yを互いに固定することで、ハウジング600が得られる。
【0010】
そして、装置を組み立てる場合、複数のスプリング800のばね力に抗して、第1環状部材910と第2環状部材920を近づけるような位置関係にした状態で、第1ハウジング600X及び第2ハウジング600Yに、これら第1環状部材910と第2環状部材920を組み込む作業が必要となる。
【0011】
このように、複数のスプリング800のばね力に抗して、第1環状部材910と第2環状部材920を近づけるような位置関係にした状態で、組み込み作業を行わなければならないため組み込み作業は面倒な作業となる。また、組み込み過程において、第1シールリング410及び第2シールリング420は、環状溝610の側面に対して摺動してしまう。これにより、第1シールリング410及び第2シールリング420が摺動により摩耗してしまう。
【0012】
以上より、密封装置を組み込む作業時においては、第1シールリング410及び第2シールリング420が環状溝610の側面に摺動しない程度に、第1環状部材910と第2環状部材920を近づけた状態で一時的に固定する(仮固定する)のが望ましい。こうすることで、密封装置の組み込み作業が楽になり、かつ第1シールリング410及び第2シールリング420が摺動により摩耗してしまうことを防止できる。
【0013】
しかしながら、上記の通り、一般的な仮固定技術を採用する場合には、第1環状部材910と第2環状部材920とを接続する接続部材が必要となる。そして、第1環状部材910と第2環状部材920がハウジング600内に組み込まれた後に、接続部材を取り外す作業が必要となる。また、接続部材を取り外す作業を可能にするためには、接続部材の接続構造や取り外し方を工夫しなければならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、第1部材と第2部材とを一時的に固定(仮固定)した後に、接続部材を取り外すなどの作業を不要することを可能とする仮固定用治具及び密封装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
【0017】
すなわち、本発明の仮固定用治具は、
第1部材と第2部材の使用時における位置関係とは異なる位置関係となるように、第1部材と第2部材との間に作用する力に抗して、第1部材と第2部材との位置関係を変えた状態で、これら第1部材と第2部材とを一時的に固定させておく仮固定用治具において、
第1部材に対して固定される固定部材と、
該固定部材に対してスライド自在に設けられ、かつ第2部材と共に移動するスライド部材と、
を備え、
前記固定部材の表面の一部と前記スライド部材の表面の一部とにより密閉空間が形成されると共に、
前記密閉空間内に充填される液体が固化されると前記スライド部材が前記固定部材に対して固定された状態となり、前記密閉空間内の固体が融解されると前記スライド部材が前記固定部材に対してスライド自在となるように構成されることを特徴とする。
【0018】
本発明によれば、第1部材と第2部材との間に作用する力に抗して、第1部材と第2部材との位置関係を変えた状態で、密閉空間内に充填される液体を固化させることで、第1部材と第2部材とを一時的に固定させる(仮固定させる)ことができる。そして、密閉空間内の固体が融解されることにより、スライド部材が固定部材に対してスライド自在になるため、第1部材と第2部材との間に作用する力によって、第1部材と第2部材は使用時における位置関係になる。
【0019】
前記固定部材と前記スライド部材の双方に環状溝が設けられており、これらの環状溝により、前記密閉空間が形成されるとよい。
【0020】
これにより、双方の環状溝によって形成される密閉空間内に充填される液体が固化されることで、スライド部材は固定部材に対して固定される。
【0021】
前記固定部材に、前記スライド部材の移動範囲を規制するストッパが設けられるとよい。
【0022】
これにより、密閉空間内の固体が融解された状態において、仮固定用治具が第1部材と第2部材の位置関係を決める位置決め部材としての機能を発揮する。
【0023】
前記固定部材と前記スライド部材のうちの一方に前記密閉空間の一部を形成する環状溝が設けられ、前記固定部材と前記スライド部材のうちの他方に前記環状溝内で往復移動するピストンが設けられるとよい。
【0024】
これにより、環状溝内にピストンが配置された状態で、密閉空間内に充填される液体が固化されることで、スライド部材は固定部材に対して固定される。また、ピストンが、固定部材に対するスライド部材の移動範囲を規制するストッパとして機能する。従って、密閉空間内の固体が融解された状態において、仮固定用治具が第1部材と第2部材の位置関係を決める位置決め部材としての機能を発揮する。また、密閉空間内の固体が融解されて、スライド部材が固定部材に対してスライドする際に、スライド部材の移動に要する時間を長くすることができる。従って、第1部材と第2部材との間に作用する力によって、第1部材と第2部材が使用時における位置関係になるまでの時間を長くすることができる。
【0025】
本発明の密封装置は、
環状溝内に装着され、該環状溝における一方の側面側に押圧される第1環状部材と、
前記環状溝内に装着され、該環状溝における他方の側面側に押圧される第2環状部材と、
第1環状部材に取り付けられて、前記環状溝における一方の側面に対して密着する弾性体製の第1シールリングと、
第2環状部材に取り付けられて、前記環状溝における他方の側面に対して密着する弾性体製の第2シールリングと、
を備える密封装置において、
第1環状部材に対して前記固定部材が固定され、第2環状部材と共に前記スライド部材が移動するように構成される上記の仮固定用治具が設けられることを特徴とする。
【0026】
本発明によれば、仮固定用治具によって、第1環状部材と第2環状部材を近づけた状態で、これらを一時的に固定することができる。そのため、環状溝に対する第1環状部材及び第2環状部材の組み込み作業を容易にすることができる。また、第1シールリング及び第2シールリングの摺動摩耗を防止できる。
【0027】
なお、上記各構成は、可能な限り組み合わせて採用し得る。
【発明の効果】
【0028】
以上説明したように、本発明によれば、第1部材と第2部材とを一時的に固定(仮固定)した後に、接続部材を取り外すなどの作業が不要となる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0031】
(実施例1)
図1〜
図8を参照して、本発明の実施例1に係る仮固定用治具、及びこれを備える密封装置について説明する。なお、本実施例においては、密封装置の一例として、フローティングシールの場合を例にして説明する。
【0032】
<密封装置の使用状態>
図1を参照して、本実施例に係る密封装置の使用状態について説明する。
図1は本発明の実施例に係る密封装置の使用状態を示す模式的断面図である。
図1中、密封装置300については簡略的に示している。本実施例に係る密封装置300は、回転軸500とハウジング600との間の環状隙間を封止するために設けられる。そして、密封装置300は、ハウジング600の内周面側に設けられた環状溝610に配置される。また、密封装置
300は、第1環状部材310と、第2環状部材320とを備えている。第1環状部材310は、環状溝610における一方の側面611側に押圧され、第2環状部材320は、環状溝610における他方の側面612側に押圧される。
【0033】
また、第1環状部材310には弾性体製の第1シールリング410が取り付けられている。この第1シールリング410が環状溝610における一方の側面611に対して密着することで、第1環状部材310と一方の側面611との間が封止される。同様に、第2環状部材320には弾性体製の第2シールリング420が取り付けられている。この第2シールリング420が環状溝610における他方の側面612に対して密着することで、第2環状部材320と他方の側面612との間が封止される。
【0034】
更に、ハウジング600には油を導入するための導入口620が設けられている。この導入口620から導入された油は、第1環状部材310と第2環状部材320との間の隙間を介して、これら第1環状部材310及び第2環状部材320の内周面と、回転軸500の外周面との間の環状隙間に流れていく(
図1中矢印X参照)。なお、本実施例においては、不図示の装置によって、油が循環するように構成されている。これにより、第1環状部材310及び第2環状部材320の内周面と、回転軸500の外周面との間の環状隙間には、常時、油が供給される。
【0035】
<密封装置>
特に、
図2〜
図5を参照して、本実施例に係る密封装置について説明する。
図2は本発明の実施例に係る密封装置の平面図であり、
図1中の密封装置300を左側から見た図に相当する。
図3は本発明の実施例に係る密封装置の底面図であり、
図1中の密封装置300を右側から見た図に相当する。
図4は本発明の実施例に係る密封装置の側面図であり、密封装置300の外周面側から見た図である。
図5は本発明の実施例に係る密封装置の模式的断面図であり、
図2中のAA断面図である。なお、
図5中、仮固定用治具100については簡略的に示している。
【0036】
上記の通り、密封装置300は、第1環状部材310と、第2環状部材320とを備えている。第1環状部材310と第2環状部材320には、仮固定用治具100が取り付けられる取り付け孔311,321がそれぞれ形成されている。これらの取り付け孔311,321は、いずれも底面側の方が小径の段付きの貫通孔により構成される。また、取り付け孔311の小径部分にはめねじが形成されている。なお、本実施例では、それぞれ4か所に取り付け孔311,321が形成されている。
【0037】
また、第1環状部材310と第2環状部材320には、位置決め機構700が取り付けられる取り付け孔312,322もそれぞれ形成されている。取り付け孔312は、底面側の方が小径の段付きの貫通孔により構成される。また、取り付け孔322の内周には環状凸部322aが設けられている。なお、本実施例では、それぞれ4か所に取り付け孔312,322が形成されている。
【0038】
本実施例においては、仮固定用治具100及び位置決め機構700をそれぞれ4か所に設置する場合を示している。しかしながら、これらの設置数は、密封装置300の大きさ等に応じて適宜設定すればよく、通常、2か所以上設置される。
【0039】
そして、第1環状部材310には環状溝313が設けられている。この環状溝313に、第1シールリング410が取り付けられる。同様に、第2環状部材320には環状溝314が設けられている。この環状溝314に、第2シールリング420が取り付けられる。なお、本実施例においては、第1シールリング410及び第2シールリング420は、いずれもOリングを用いているが、角リングやDリングなどの各種シールリングを採用す
ることができる。
【0040】
また、第1環状部材310と第2環状部材320は、位置決め機構700によって、円周方向の位置決めがなされ、かつ互いに離れる方向の力が作用するように構成されている。なお、円周方向の位置決めがなされた状態においては、取り付け孔311と取り付け孔321の中心軸線は一致し、取り付け孔312と取り付け孔322の中心軸線も一致する。
【0041】
位置決め機構700は、ねじ710と、スプリング720とを備えている。ねじ710は、先端側のおねじ部711と、後端側の頭部712と、中央の円柱状の胴体部713とから構成される。このねじ710は、第2環状部材320の取り付け孔322を介して、第1環状部材310の取り付け孔312に固定される。なお、取り付け孔312における底面側の小径部の内周はめねじが形成されている。スプリング720は、ねじ710における胴体部713に対して同心的に装着され、かつ取り付け孔312の段差面と取り付け孔322の内周に設けられた環状凸部322aとの間に挟み込まれた状態で配置される。
【0042】
以上の構成により、第1環状部材310と第2環状部材320は、円周方向の位置決めがなさる。また、第1環状部材310と第2環状部材320には、スプリング720のばね力によって、互いに離れる方向の力が作用している。
【0043】
<仮固定用治具>
特に、
図6〜
図8を参照して、本実施例に係る仮固定用治具100の構成について説明する。
図6〜
図8は本発明の実施例1に係る仮固定用治具の模式的断面図であり、いずれも密封装置300に取り付けられた状態を示している。また、
図6は第1環状部材310と第2環状部材320を一時的に固定(仮固定)した状態を示しており、
図7は仮固定状態が解除されて第1環状部材310と第2環状部材320が使用時の状態に戻る途中の状態を示しており、
図8は第1環状部材310と第2環状部材320の使用時の状態を示している。
【0044】
仮固定用治具100は、第1部材としての第1環状部材310に対して固定される固定部材110と、固定部材110に対してスライド自在に設けられ、かつ第2部材としての第2環状部材320と共に移動するスライド部材120とを備えている。
【0045】
固定部材110は、金属製の部材により構成される。そして、固定部材110は、先端側におねじ部111が設けられ、後端にはすりわり112が設けられている。また、固定部材110は、おねじ部111の後端付近に外向きフランジ部113が設けられ、後端付近に環状溝114が設けられている。この環状溝114に、ストッパとしてのスナップリング130が装着されている。また、固定部材110の中央には環状溝115が設けられている。
【0046】
スライド部材120は、金属製の略円筒状の部材により構成される。このスライド部材120の筒内に、固定部材110が相対的に往復移動自在に挿入されている。そして、スライド部材120は、後端に外向きフランジ部121を備えている。また、スライド部材120の内周面には、2か所に環状溝122,123が設けられている。これらの環状溝122,123には弾性体製のシールリング141,142が装着されている。なお、本実施例においては、シールリング141,142は、いずれもOリングを用いているが、角リングやDリングなどの各種シールリングを採用することができる。また、スライド部材120の内周面のうち中央には環状溝124が設けられている。
【0047】
そして、固定部材110に対してスライド部材120を組み立てた状態においては、固
定部材110に設けられた環状溝115と、スライド部材120に設けられた環状溝124とによって、密閉空間Rが形成される。また、この密閉空間R内に液体(水等)を充填させた場合であっても、その両側に設けられているシールリング141,142によって、液体が外部に漏れてしまうことはない。
【0048】
<仮固定用治具の組み立て手順>
上述した仮固定用治具100の組み立て手順について説明する。まず、スライド部材120の環状溝122,123にシールリング141,142を装着する。そして、液体中(水中等)において、スライド部材120の筒内に、固定部材110を挿入する。これにより、密閉空間R内には液体(水等)が充填された状態となる。そして、固定部材110に設けられた環状溝114に、スナップリング130を装着する。その後、スライド部材120の先端を、固定部材110の外向きフランジ部113に突き当てた状態で、密閉空間R内の液体を冷却により固化させる。つまり、液体が水の場合には、密閉空間R内には氷が形成される。そして、密閉空間R内の固体が融解されるまでの間に、固定部材110を第1環状部材310に固定させる。なお、このとき、固定部材110のおねじ部111を、外向きフランジ部113が取り付け孔311の段差面に突き当たるまで、取り付け孔311の小径部分のめねじにねじ込む。これにより、第2環状部材320は、位置決め機構700におけるスプリング720のばね力に抗して、第1環状部材310側に移動した状態で固定される。なお、第2環状部材320における取り付け孔321の段差面とスライド部材120における外向きフランジ部121との係合によって、第2環状部材320はスライド部材120と共に、第1環状部材310側に移動する。
【0049】
以上の組み立て手順によって、第1環状部材310と第2環状部材320は、これらの間に作用するスプリング720のばね力に抗して、第1環状部材310と第2環状部材320とが近付いた状態で、一時的に固定(仮固定)される(
図6参照)。なお、仮固定状態においては、第1環状部材310と第2環状部材320とを密着させるようにしてもよいし、離れるようにしてもよい。
【0050】
このように、第1環状部材310と第2環状部材320とを仮固定させた状態で、密封装置300を、上述したハウジング600に組み込む。なお、ハウジング600の構成、及びハウジング600への密封装置300の組み込み方については、背景技術の中で説明した通りであるので、ここではその説明は省略する。
【0051】
そして、ハウジング600に密封装置300を組み込んでから、時間の経過と共に、仮固定用治具100における密閉空間R内の固体(氷等)が徐々に融解する。これにより、固定部材110に対してスライド部材120を固定させる力は徐々に失われる。そのため、スプリング720のばね力によって、スライド部材120と共に、第2環状部材320は第1環状部材310から離れていく(
図7中、矢印S参照)。そして、第2環状部材320は、スライド部材120が固定部材110に設けられたスナップリング130に突き当たる位置まで移動する(
図8参照)。これにより、
図1に示すように、第1シールリング410が環状溝610における一方の側面611に対して密着し、第2シールリング420が環状溝610における他方の側面612に対して密着した状態となる。つまり、密封装置300が使用可能な状態(密封装置として機能する状態)となる。
【0052】
これにより、仮固定用治具100における仮固定させる役割は終える。ただし、本実施例に係る仮固定用治具100の場合には、上記の通り、スナップリング130がスライド部材120及び第2環状部材320の移動範囲を規制する機能、つまりストッパとしての機能を発揮する。従って、仮固定用治具100は、第1環状部材310と第2環状部材320との間の距離を位置決めする機能を発揮する。
【0053】
<本実施例に係る仮固定用治具及び密封装置の優れた点>
本実施例に係る仮固定用治具100を用いることで、第1環状部材310と第2環状部材320との間に作用する力(ばね力)に抗して、これらを近付けた状態で、密閉空間R内に充填される液体を固化させることで、これらを一時的に固定させる(仮固定させる)ことができる。これにより、ハウジング600に設けられた環状溝610に対する第1環状部材310及び第2環状部材320の組み込み作業を容易にすることができる。また、第1シールリング410及び第2シールリング420の摺動摩耗を防止できる。
【0054】
そして、密閉空間R内の固体が融解されることにより、スライド部材120が固定部材110に対してスライド自在になる。そのため、第1環状部材310と第2環状部材320との間に作用するばね力によって、これらは互いに離れるように移動して、これら第1環状部材310と第2環状部材320は使用時における位置関係になる。従って、一般的な仮固定技術のように接続部材を用いる必要がなく、第1環状部材310と第2環状部材320とを一時的に固定(仮固定)した後に、接続部材を取り外すなどの作業が不要となる。
【0055】
また、本実施例に係る仮固定用治具100においては、固定部材110に、スライド部材120の移動範囲を規制するストッパとしてのスナップリング130を設ける構成を採用している。これにより、仮固定用治具100は、密閉空間R内の固体が融解された後に、第1環状部材310と第2環状部材320との間の距離を位置決めする機能を発揮する。
【0056】
<その他>
上記の通り、本実施例においては、固定部材110にスナップリング130を設けることによって、仮固定用治具100が、第1環状部材310と第2環状部材320との間の距離を位置決めする機能を発揮する場合の構成を採用している。しかしながら、仮固定用治具100に対して、第1環状部材310と第2環状部材320との間の距離を位置決めする機能を持たせない構成を採用してもよい。つまり、第1環状部材310と第2環状部材320との間の距離の位置決めについては、別途、他の部材(位置決めピン等)を用いてもよい。
【0057】
また、本実施例においては、スライド部材120を略円筒状の部材により構成し、固定部材110をスライド部材120の筒内に相対的に往復移動自在に挿入されるように構成する場合を示した。しかしながら、固定部材を筒状(略円筒状)の部材により構成し、スライド部材を固定部材の筒内に相対的に往復移動自在に挿入されるように構成することも可能である。
【0058】
本実施例においては、仮固定用治具100を、密封装置300(フローティングシール)における第1環状部材310と第2環状部材320とを一時的に固定する場合を例にして説明した。しかしながら、本実施例に係る仮固定用治具100は、密封装置300に限らず、その他の各種装置や機構に採用することができる。
【0059】
(実施例2)
図9〜
図12を参照して、本発明の実施例2に係る仮固定用治具について説明する。なお、本実施例に係る仮固定用治具についても、上記実施例1で示した密封装置に適用でき、同様の機能を発揮する。従って、ここでは密封装置に適用した場合の構成及び作用については省略し、仮固定用治具についてのみ説明する。
【0060】
図9は本発明の実施例2に係る仮固定用治具の側面図である。
図10は本発明の実施例2に係る仮固定用治具の平面図であり、
図9中左側から見た図に相当する。
図11は本発
明の実施例2に係る仮固定用治具の底面図であり、
図9中右側から見た図に相当する。
図12は本発明の実施例2に係る仮固定用治具の模式的断面図であり、
図10中のAA断面図である。
【0061】
仮固定用治具200は、第1部材(上記密封装置300においては第1環状部材310に相当)に対して固定される固定部材210と、固定部材210に対してスライド自在に設けられ、かつ第2部材(上記密封装置300においては第2環状部材320に相当)と共に移動するスライド部材220とを備えている。
【0062】
固定部材210は、金属製の部材により構成される。そして、固定部材210は、先端側におねじ部211が設けられ、後端にはすりわり212が設けられている。また、固定部材210は、おねじ部211の後端付近に外向きフランジ部213が設けられている。これらおねじ部211,すりわり212,外向きフランジ部213については、上記実施例1における固定部材110のおねじ部111,すりわり112,外向きフランジ部113とそれぞれ同一の機能を発揮する。
【0063】
そして、本実施例の場合には、固定部材210にピストン216が設けられている。なお、このピストン216は、その両側に設けられるスナップリング217,218によって、固定部材210に固定されている。
【0064】
スライド部材220は、金属製の略円筒状の部材により構成される。このスライド部材220の筒内に、固定部材210が相対的に往復移動自在に挿入されている。そして、スライド部材220は、後端に外向きフランジ部221を備えている。この外向きフランジ部221は、上記実施例1におけるスライド部材120の外向きフランジ部121と同一の機能を発揮する。
【0065】
また、スライド部材220の内周面には、弾性体製のシールリング243が装着される環状溝223も設けられている。更に、スライド部材220の内周面には、環状の切欠き222が設けられている。この環状の切欠き222の開口部側は、環状の蓋部材250により閉じられている。これにより、スライド部材220の内周面側に環状溝が形成される。なお、蓋部材250は、セットスクリュ260によりスライド部材220に固定されている。また、蓋部材250の内周面側と外周面側にはそれぞれ環状溝251,252が設けられている。これらの環状溝251,252には、弾性体製のシールリング241,242が装着されている。なお、本実施例においては、シールリング241,242,243は、いずれもOリングを用いているが、角リングやDリングなどの各種シールリングを採用することができる。
【0066】
そして、固定部材210に対してスライド部材220を組み立てた状態においては、スライド部材220の内周面側の環状溝(切欠き222と蓋部材250により形成される環状溝)内で、固定部材210に設けられたピストン216が相対的に往復動可能な状態となる。また、固定部材210の外周面の一部と、スライド部材220に設けられた切欠き222の内周面の一部と、蓋部材250の内壁面とによって、密閉空間Rが形成される。そして、この密閉空間R内に液体(水等)を充填させた場合であっても、その両側に設けられているシールリング241,242,243によって、液体が外部に漏れてしまうことはない。
【0067】
<仮固定用治具の組み立て手順>
上述した仮固定用治具200の組み立て手順について説明する。まず、スライド部材220の環状溝223にシールリング243を装着する。また、固定部材210にピストン216とスナップリング217,218を取り付ける。更に、蓋部材250の環状溝25
1,252にシールリング241,242を装着する。これらの作業の順序は特に限定されない。そして、液体中(水中等)において、スライド部材220の筒内に、固定部材210を挿入し、セットスクリュ260を用いて蓋部材250を取り付ける。その後、スライド部材220の先端を、固定部材210の外向きフランジ部213に突き当てた状態で、密閉空間R内の液体を冷却により固化させる。その後の手順については、上記実施例1の場合と同様であるので、その説明は省略する。
【0068】
また、仮固定後の挙動についても上記実施例1の場合と同様であるが、実施例1の場合には、スナップリング130にスライド部材120が突き当たることでスライド部材120の移動範囲が規制されていた。これに対して、本実施例の場合には、ピストン216(より具体的にはスナップリング218)が、蓋部材250に突き当たることでスライド部材220の移動範囲が規制される点が異なっている。なお、
図12は、スナップリング218が蓋部材250に突き当たった状態を示している。
【0069】
以上のように構成された本実施例に係る仮固定用治具200においても、上記実施例1の場合と同様の効果を得ることができる。つまり、本実施例においても、環状溝(切欠き222と蓋部材250により形成される環状溝)内にピストン216が配置された状態で、密閉空間R内に充填される液体が固化されることで、スライド部材220は固定部材210に対して固定される。また、ピストン216が、固定部材210に対するスライド部材220の移動範囲を規制するストッパとして機能する。
【0070】
そして、本実施例の場合には、密閉空間R内の固体が融解されて、スライド部材220が固定部材210に対してスライドする際に、スライド部材220の移動に要する時間を長くすることができる。すなわち、本実施例の場合には、密閉空間R内の固体が融解され、スライド部材220が
図12中左側に移動する過程で、ピストン216を介して
図12中右側の空間内の液体が、ピストン216を介して
図12中左側の空間内に移動する。そして、本実施例の場合には、ピストン216を介して
図12中右側の空間内に固体(氷など)が残存していると、スライド部材220の移動が妨げられる。つまり、固体が全て融解されるまでは、スライド部材220の移動が完了せず、スライド部材220の移動に要する時間を長くすることができる。これにより、密閉空間R内の液体を冷却によって固化した後に、仮固定用治具200を密封装置300に取り付けて、その後、密封装置300をハウジング600に組み込むのに必要な作業時間を長くすることができる。
【0071】
<その他>
本実施例においても、固定部材を筒状(略円筒状)の部材により構成し、スライド部材を固定部材の筒内に相対的に往復移動自在に挿入されるように構成することも可能である。ただし、この場合には、スライド部材にピストンを設ける構成となる。
【0072】
また、本実施例に係る仮固定用治具200についても、密封装置300に限らず、各種装置や機構に採用することができる。