【解決手段】電線Wが圧着により接続される電気コネクタの端子金具1であって、相手側の導体部分と電気的な接続を担う接触子13を備える端子本体部11と、電線Wを圧着により保持する電線保持部16と、が一体的に形成されるインナーターミナル10と、接触子13を覆う保護位置と接触子13を剥き出しにさせる退避位置とを往復移動可能に、インナーターミナル10に係合されるシェル20と、を備えることを特徴とする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の端子金具は、低背が可能でかつ、振動および熱を有する環境においても確実に電気的接続を行うことができる、とされている。ところが、特許文献1の端子金具は、接続相手となる回路基板の導体領域と接触する部分がむき出しになっているので、電線の圧着を含めたハーネスの組立時に、接触部分を変形させてしまうおそれがある。
そこで本発明は、相手の導体部分との接触に到るまでは接触部が保護される端子金具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的のもとなされた本発明は、電線が圧着により接続される電気コネクタの端子金具であって、相手側の導体部分と電気的な接続を担う接触部と、電線を圧着により保持する電線保持部と、が一体的に形成されるインナーターミナルと、接触部を覆う保護位置と接触部を剥き出しにさせる退避位置とを往復移動可能に、インナーターミナルに係合されるシェルと、を備えることを特徴とする。
本発明の端子金具は、シェルが、接触部を覆う保護位置と接触部を剥き出しにさせる退避位置とを往復移動可能に設けられているので、ハーネスの組立時にはシェルを保護位置に移動させておき、コネクタハウジングに挿入するのに先立って、シェルを退避位置に移動させることができる。したがって、本発明の端子金具によれば、相手の導体部分との接触に到るまでは、外力が作用することによる変形から接触部分を保護できる。
【0007】
本発明の端子金具の好ましい形態として、保護位置と退避位置の各々の位置に、インナーターミナルとシェルを互いに係止する係止機構を備えることができる。
この係止機構を設けることにより、シェルを保護位置又は退避位置のいずれかの位置に確実に保持できるので、不必要に、シェルが保護位置に移動したり、また、シェルが退避位置に移動したりするのを防ぐことができる。したがって、ハーネスの組立時には、シェルによって、インナーターミナルの電気的な接触部分を確実に保護することができる。また、端子金具がコネクタハウジングに挿入される際には、相手側の導体部分との電気的な接触を確実に確保することができる。
【0008】
上記の好ましい形態において、係止機構は、シェルの外部から係止の解除操作ができることがより好ましい。コネクタハウジングに設けられるハウジングランスに、係止の解除操作をさせるようにすれば、端子金具をコネクタハウジングに挿入する過程でシェルを保護位置から退避位置に移動させ、また、端子金具をコネクタハウジングから抜き取る過程でシェルを退避位置から保護位置に移動させることができる。
【0009】
本発明は、以上の構成を備える端子金具を保持するハウジングを備える電気コネクタを提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の端子金具によれば、シェルが、接触部を覆う保護位置と接触部を剥き出しにさせる退避位置とを往復移動可能に設けられているので、ハーネスの組立時にはシェルを保護位置に移動させておき、コネクタハウジングに挿入するのに先立って、シェルを退避位置に移動させることができる。したがって、本発明の端子金具によれば、相手の導体部分との接触に到るまでは、外力が作用することによる変形から接触部分を保護できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面に示す実施の形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
本実施形態に係る端子金具1は、
図1に示すように、インナーターミナル10とシェル20の二つの要素からなる。
端子金具1は、通常は、
図1(b)に示すように、シェル20がインナーターミナル10の先端部を覆うことで接触子13を保護するが、コネクタハウジング30の端子キャビティ31に挿入される過程で、シェル20が退避して接触子13の覆いが解除される。
以下、端子金具1の構成について説明した後に、コネクタハウジング30に対する挿入及び抜き取りの手順について説明する。
【0013】
[端子金具1]
端子金具1は、インナーターミナル10が相手側の電気的な接点と接続されることで端子としての本来の機能を果たす一方、シェル20はインナーターミナル10の電気的な接点部分を保護する機能を果たす。なお、端子金具1において、シェル20が配置される側を前、その反対側であって電線W(
図2参照)が引き出される側を後という。
【0014】
[インナーターミナル10]
インナーターミナル10は、タブ型の端子の一部を変形した構造を有しており、
図1に示すように、端子本体部11と電線保持部16からなる。インナーターミナル10は、導電性及び弾性に優れた銅又は銅合金からなる板材を打ち抜き及び曲げ加工を施すことで、一体に形成される。
【0015】
端子本体部11は、外観が直方体をなし、内部が空洞をなしており、上下方向yに対向する上壁12,接触子13と、上壁12,接触子13の一方の縁同士及び他方の縁同士を繋ぎ、幅方向xに対向する側壁14,15を備えている。上壁12,接触子13,側壁14,側壁15は、概ね偏平に形成されている。
【0016】
上壁12は、板状のばね12dを備えている。ばね12dは、幅方向の両端を切り欠くことで、上壁12と同一平面上に形成されている。ばね12aは、切り欠かれた部分を除いて、後方に位置する支持端12bにより上壁12と連なっており、支持端12bを基点として、上下方向yに撓むことができる。ばね12dは、上向きに突出する係止突起12aを自由端12cの近傍に備えている。
【0017】
接触子13は、後方が側壁14と連なって支持端13bをなすばね状の部材であり、支持端13bを基点として、上下方向yに撓むことができる。接触子13は、自由端13aの側がU字状に折り返されている。
【0018】
側壁14は、表裏を貫通する移動規制孔14aを備えている。移動規制孔14aは前後方向に所定の長さを有している。移動規制孔14aにはシェル20が備えるストッパ24aが挿入されることで、インナーターミナル10とシェル20が相対的に前後方向に移動する範囲を規制する。なお、側壁14に係止突起を設ける一方、シェル20に係止孔を設けてもよい。また、もう一方の側壁15に同様の係止孔を設けるとともに、シェル20にも同様のストッパを設けることもできる。
【0019】
電線保持部16は、電線W(
図2参照)を保持し、電線の被覆部分を保持する被覆保持部16aと、被覆が剥ぎ取られた芯線部分を保持する芯線保持部16bと、を備えている。被覆保持部16aによりインナーターミナル10と電線Wの機械的な接続を確保する一方、芯線保持部16bによりインナーターミナル10と電線Wの電気的な接続を確保する。
【0020】
[シェル20]
次に、シェル20は、概ね端子本体部11と相似の形態を有しており、内部に微小な隙間を空けて端子本体部11を収容し、端子本体部11、特に接触子13を保護する。
シェル20は、上下方向yに対向する上壁22,下壁23と、上壁22,下壁23の一方の縁同士及び他方の縁同士を繋ぎ、幅方向xに対向する側壁24,25を備えている。上壁22,接触子13,側壁24,側壁25は、概ね偏平に形成されている。
シェル20は、上壁22、下壁23及び側壁24,25で周囲が取り囲まれる受容キャビティ26を備えている。シェル20がインナーターミナル10に組み付けられると、インナーターミナル10の端子本体部11が受容キャビティ26に挿入される。また、シェル20は、端子本体部11が挿入されるインナー挿入口27を後端に備え、さらに、端子金具1がコネクタハウジング30の所定位置に保持されると接触子13が外部に突出する突出口28を前端に備えている。
【0021】
上壁22は、各々が表裏を貫通し、前後方向に並ぶ2つの係止孔22a,22bを備えている。係止孔22a,22bには、シェル20がインナーターミナル10と組み付けられると、インナーターミナル10のばね12aの係止突起12aが選択的に挿入される。詳しくは後述するが、端子金具1が初期状態にあるときには係止突起12aは係止孔22aに挿入され、端子金具1がコネクタハウジング30の端子キャビティ31に挿入が完了すると、それまで係止孔22aに挿入されていた係止突起12aは移動して係止孔22bに挿入される。
【0022】
側壁24は、受容キャビティ26に向けて突出するストッパ24aを備える。ストッパ24aは、インナーターミナル10の移動規制孔14aの中に挿入され、移動規制孔14aの範囲内だけで移動が許可されることで、シェル20とインナーターミナル10の相対的な移動を規制する。
【0023】
さて、インナーターミナル10とシェル20は、シェル20のインナー挿入口27にインナーターミナル10を前端から挿入し、ストッパ24aが係止孔22aに挿入されるまでインナーターミナル10を押し込む。これで、端子金具1は初期状態をなす。このとき、シェル20のストッパ24aは、インナーターミナル10の移動規制孔14aの前端側に位置している(
図2(a)参照)。
【0024】
[コネクタハウジング30]
次に、端子金具1が保持されるコネクタハウジング30について、
図2を参照して説明する。
コネクタハウジング30は端子金具1に対応する数の端子キャビティ31を
図2の紙面の奥行き方向に備える。
図2はその中で1つの端子キャビティ31を示している。端子キャビティ31は、端子金具1の数に応じて設けられる。端子キャビティ31は、上下方向yについては、上壁32と下壁33により区画され、幅方向x(
図2〜
図5の紙面に対して垂直方向)については、図示を省略する一対の側壁により区画される。
【0025】
コネクタハウジング30は、端子キャビティ31に対応してハウジングランス35を備えている。ハウジングランス35は、端子キャビティ31に挿入される端子金具1を係止することで、端子金具1をコネクタハウジング30から抜け出ないように保持する。また、ハウジングランス35は、端子金具1が挿入される過程では、端子金具1に作用することで、インナーターミナル10の前端を覆っていたシェル20を退避させることで、接触子13を露出させる。さらに、ハウジングランス35は、端子金具1が抜き取られる過程では、端子金具1に作用することで、シェル20がインナーターミナル10の前端を覆うように移動させる。以上の動作を実現することを含めて、ハウジングランス35は、以下の構成を添えている。
【0026】
ハウジングランス35は、上壁32に支持端35bを備え、その先端が挿入される端子金具1の前方を向くように形成されている。
ハウジングランス35は、先端側に端子キャビティ31の中心に向けて突出する係止突起35aを備えている。係止突起35aは、前方を向く係止面35dを備えており、この係止面35dが、係止突起35aは、少なくとも下端部分が、シェル20に設けられる係止孔22a,22bに挿入可能な寸法を有している。なお、符号35aが指している面を先端面35aということがある。
また、ハウジングランス35は、係止突起35aよりも先端側に解除作用つば35cが形成されている。解除作用つば35cは、端子金具1を端子キャビティ31から抜き去るときに、後述する治具40を突き当ててハウジングランス35を上向きに撓ませることでハウジングランス35による端子金具1の係止状態を解除するのに用いられる。
【0027】
[挿入・抜き取りのプロセス]
以下、コネクタハウジング30に端子金具1を挿入する手順を
図2及び
図3を参照して、また、コネクタハウジング30に保持されている端子金具1を抜き取る手順を、
図2〜
図6を参照して説明する。
【0028】
[挿入のプロセス]
図2(a)に示すように、端子金具1をコネクタハウジング30の端子キャビティ31に挿入する。この段階では端子金具1は初期状態にあり、インナーターミナル10の係止突起12aはシェル20の係止孔22aの中に挿入されているとともに、シェル20のストッパ24aはインナーターミナル10の移動規制孔14aの前端側に位置している。こうして、シェル20は保護位置に移動する。
端子金具1を端子キャビティ31の奥に向けて押し込むと、シェル20の前端がハウジングランス35の係止突起35aの後端側に突き当たり、さらに端子金具1を押し込むと、
図2(b)に示すように、ハウジングランス35を押し上げる。よって、ハウジングランス35は、下向きの弾性力を蓄える。
【0029】
さらに端子金具1を押し込むと、ハウジングランス35の係止突起35aは、シェル20の係止孔22aと、係止孔22aと係止孔22bの間の上壁22と、を順に通過して、係止孔22bに達し、インナーターミナル10の係止突起12aに接触する。そうすると、
図2(c)に示すように、係止突起35aはハウジングランス35の弾性力により係止突起12aは下向きに押し込まれ、シェル20の係止孔22bによる係止状態が解除される。このとき、係止突起12aを支持するインナーターミナル10のばね12は、上向きの弾性力を蓄える。
【0030】
さらに端子金具1を押し込むと、シェル20の係止孔22aによる係止状態が解除されており、かつ、ハウジングランス35の係止突起35aがシェル20の係止孔22aに挿入されているので、インナーターミナル10とシェル20は相対的な移動が可能とされる。しかし、シェル20は、ハウジングランス35の係止突起35aが係止孔22aに挿入されているために移動が拘束されている。したがって、インナーターミナル10をさらに押し込むと、インナーターミナル10だけが、
図3(a)に示すように、ばね12の係止突起12aがシェル20の係止孔22bに達する位置まで移動する。このとき、シェル20のストッパ24aはインナーターミナル10の移動規制孔14aの後端に位置する。このとき、シェル20は退避位置に置かれており、接触子13はシェル20の外部に移動して剥き出しの状態になる。
【0031】
さらに端子金具1を押し込むと、シェル20のストッパ24aはインナーターミナル10の移動規制孔14aの後端に接するので、
図3(b)に示すように、インナーターミナル10とシェル20は一緒になって、図示を省略する位置決めストッパに突き当たるまで、端子キャビティ31の奥に移動する。一方で、ハウジングランス35は、その係止面35dが端子金具1の端子本体部11よりも後方であって、かつ端子本体部11とy方向において干渉する位置まで弾性が復帰する。したがって、端子金具1は、端子キャビティ31の内部に位置決めされるとともに、不用意に抜け出ないように保持される。
【0032】
端子金具1を奥まで押し込むと、
図3(b)に示すように、接触子13がコネクタハウジング30の外に露出する。この接触子13は、例えば
図6に示すように、コネクタハウジング30を回路基板50に対して傾斜させて配置すれば、回路基板50の導電パターン51と接触させることができる。ただし、これは端子金具1の適用の一例に過ぎない。
【0033】
[抜き取りのプロセス]
次に、
図4及び
図5を参照して、保持されている端子金具1をコネクタハウジング30から抜き取る際のプロセスを説明する。抜き取りには、棒状の冶具40を用いる。シェル20は退避位置に置かれている。
端子金具1を抜き取るときには、はじめに、
図4(a),(b)に示すように、冶具40を端子本体部11とハウジングランス35の解除用つば35cの間に挿入するとともに、解除用つば35cを押し上げることで、ハウジングランス35の係止面35dと端子金具1の端子本体部11とのy方向における干渉状態を解除する。係止面35dと端子本体部11との干渉状態を解除したままで、電線Wを後方に向けて徐々に引っ張ると、
図4(c)に示すように、ハウジングランス35の係止突起35aは、シェル20の上壁22に接触しながら前方に向けて移動する。
【0034】
電線Wを引っ張り続けると、
図5(a)に示すように、係止突起35aが上壁22の係止孔22aに挿入されるので、シェル20は係止突起35aにより移動が拘束される。したがって、電線Wをさらに引っ張ると、インナーターミナル10だけが電線Wとともに後方に移動する。インナーターミナル10の係止突起12aは、
図5(b)に示すように、係止孔22bから抜け出した後に、係止孔22aに達する。そうすると、係止突起12aが係止突起35aをわずかに押し上げる。また、このときには、シェル20のストッパ24aは、インナーターミナル10の移動規制孔14aの前端側に位置する。こうして、シェル20は保護位置に戻る。
【0035】
先端面(係止突起)35aは、係止孔22aと係止孔22bの各々の前側の縁に対していわゆる順テーパになる。したがって、
図5(b)の状態からさらに電線Wを引っ張ると、係止突起35aは係止孔22a及び係止孔22bから順に容易に抜け出すことができるので、ハウジングランス35によるシェル20の係止が解除される。加えて、ストッパ24aが移動規制孔14aの前端に突き当たるので、
図5(c)に示すように、端子金具1は一体となって、ハウジングランス35を通過する。こうして、端子金具1は、端子キャビティ31から抜き取られる。
【0036】
[効果]
以上説明した端子金具1によると、以下の効果を奏する。
端子金具1は、少なくとも、コネクタハウジング30の端子キャビティ31に挿入されるまでは、シェル20により接触子13が覆われているので、電線Wを接続する作業を含めて、接触子13に不必要な外力が加わることがないので、接触子13を変形から保護することができる。
【0037】
端子金具1は、端子キャビティ31に挿入されるまでは、保護位置に置かれているシェル20により接触子13が覆われているが、端子キャビティ31の奥まで挿入する過程において、シェル20を退避位置に移動させて接触子13を露出させることができる。また、端子キャビティ31に保持されている端子金具1を抜き取る過程においては、接触子13を覆う保護位置までシェル20を移動させることができる。このように、本実施形態によれば、格別の操作をすることなく、シェル20による接触子13の保護及びシェル20の退避を行うことができるので、操作性に優れる端子金具1が提供される。
【0038】
次に、端子金具1は、起伏のある接触子13が滑らかな外形を有するシェル20に覆われた状態で、コネクタハウジング30に挿入できる。したがって、ファミリーシール(または、一括ゴム栓)と称される防水シールを、コネクタハウジング30の端子金具1を挿入する側に設けることができるので、カードエッジコネクタの防水性を向上することができる。
これに対して、接触子13がむき出しになっている端子金具の場合には、ファミリーシールに形成される電線挿通孔に、接触子13を挿入しようとしても、接触子13が変形してしまうので、ファミリーシールを用いることができない。
【0039】
以上、本発明の好ましい実施形態を説明したが、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
例えば、端子金具1を収容するコネクタハウジング30は、シェル20を保護位置と退避位置の間で往復移動させるのに必要なハウジングランスの機能を備えている限り、その形態は問われない。
また、インナーターミナル10とシェル20の形態もあくまで一例であり、保護位置と退避位置の間を往復移動して接触子を保護し、かつ、露出させることができる限り、他の形態を採用することを妨げない。