【解決手段】 医療手技を行うための方法は、プローブを患者の臓器内の組織に結合することを含む。アブレーションエネルギーがプローブを用いて組織に適用される。時間の関数として、アブレーションエネルギーによりもたらされた組織内の蒸気圧の進展のモデルが推定される。モデルに基づいて、蒸気圧によりもたられたスチームポップ現象の発生時間が予測され、かつスチームポップ現象の予測された発生時間が、オペレータに対して指示される。
前記プロセッサが、時間の関数として、前記アブレーションエネルギーによりもたらされた前記組織内の温度の進展を推定することによって、前記モデルを推定するように構成される、請求項1に記載の装置。
前記プロセッサが、前記プローブの前記組織内への貫入深度を推定することによって前記モデルを推定し、前記貫入深度及び前記アブレーションエネルギーに基づいて前記モデルを計算するように構成される、請求項1に記載の装置。
前記プロセッサが、前記組織の温度及びインピーダンスの多数の値を測定すること、及び前記測定された値に基づいて前記貫入深度を推定することによって、前記貫入深度を推定するように構成される、請求項3に記載の装置。
前記プロセッサが、時間の関数として、前記組織圧力の関数曲線を推定することによって前記モデルを推定するように、かつ前記関数曲線と定義済の閾値との間の交差時間を特定し、前記交差時間から前記発生時間を導出することによって前記スチームポップ現象の前記発生時間を予測するように、構成される、請求項1に記載の装置。
前記プロセッサが、前記スチームポップ現象までの残り時間の長さを前記オペレータに指示することによって前記予測された発生時間を指示するように構成される、請求項1に記載の装置。
前記プロセッサが、前記スチームポップ現象の前記予測された発生時間に反応して前記アブレーションエネルギーの適用を修正するように構成される、請求項1に記載の装置。
前記プロセッサが、前記スチームポップ現象の前記予測された発生時間に反応して前記アブレーションエネルギーの適用を修正するように前記オペレータによって構成される、請求項1に記載の装置。
前記プロセッサが、前記プローブの近傍で前記組織の最も熱い領域を特定することによって前記モデルを推定するように、かつ前記最も熱い領域の前記蒸気圧の前記進展を評価するように、構成される、請求項1に記載の装置。
前記プロセッサが、前記プローブの近傍の有限要素熱移動モデルをリアルタイムに評価することによって前記モデルを推定するように構成される、請求項1に記載の装置。
コンピュータソフトウェアプロダクトであって、内部にプログラム命令が記憶されている非一時的なコンピュータ読み取り可能な媒体を含み、その命令が、侵襲性のプローブが結合されている臓器内の組織にアブレーションエネルギーを適用するための前記プローブに結合されているプロセッサにより読み取られるとき、前記プロセッサに、時間の関数として、前記アブレーションエネルギーよりもたらされる前記組織内の蒸気圧の進展のモデルを推定させ、前記蒸気圧によりもたらされたスチームポップ現象の発生時間を、前記モデルに基づいて、予測させ、かつオペレータに対して前記スチームポップ現象の前記予測された発生時間を指示させる、コンピュータソフトウェアプロダクト。
【発明を実施するための形態】
【0015】
概論
上記のCARTOシステムなどのいくつかのカテーテルベースの治療システムにおいて、アブレーション手技を行う医師は、患者の脈管系を介してカテーテルを挿入して、焼灼対象組織にカテーテルの遠位先端部を接触させる。医師は、その後、カテーテルを介してRFエネルギーを組織に適用して組織内の損傷又は壊死を生成する。
【0016】
組織過熱は、RFエネルギーを組織に適用することの望ましくない副作用であり、これは結果的に組織内に蒸気気泡の形成をもたらし得る。カテーテルの近傍における組織の最も熱い領域は、ホットスポット領域と称される。典型的には、ホットスポットはカテーテル先端部の下に数mm(例えば、約1〜2mm)存在する。ホットスポットにおける組織には、過熱を蒙るという最も高いリスクがある。気泡内部の蒸気圧が発生して、かつ時間とともに増大するにつれて、過剰圧力レベルに到達することが気泡を破裂又は崩壊させて、結果的に組織裂傷をもたらす。更に、心筋において形成されたクレータ状の損傷が血流を妨害し、かつ流れの摂動に起因して血栓生成のリスクを増大させる。この蒸気気泡を破裂させる又は崩壊させる現象は、スチームポップ現象と称される。
【0017】
本明細書に記載される本発明の実施形態は、アブレーション手技中のスチームポップ現象の発生時間を予測するための改善された方法及びシステムを提供する。この発生時間(例えば、予想されるスチームポップ現象までの残り時間)は医師に警告を発することができ、かつ/又はスチームポップを回避するために反応が早い対策を講じることができるように、典型的にはリアルタイムに予測される。
【0018】
いくつかの実施形態では、プローブ内で取得された組織温度及びインピーダンス測定値は、アブレーション電流と一緒に、時間の関数として、ホットスポット温度を予測するリアルタイムモデルを評価するために使用される。例示的実施形態では、組織内部のプローブ先端部の深度は、最初にはインピーダンス及び力測定値を用いて推定される。この先端部貫入深度は、有限要素モデルによって計算された温度及びインピーダンス値と実際の測定値との間で一致が見出されるまで再推定される。この推定された先端部深度及びアブレーション電流は、時間の関数として、焼灼された組織における蒸気圧の進展を予測するように、リアルタイムモデルを推定するのに使用される。この推定されたモデルは、差し迫ったスチームポップ現象の発生時間を予測する。いくつかの実施形態では、この推定されたモデルは温度及び/又は圧力曲線関数を備え、並びに予測された発生時間は、モデル曲線と定義済の温度又は圧力閾値との交差点から導出される。
【0019】
このスチームポップ現象の予測された発生時間は、アブレーション手技を実行する医師又はオペレータに指示される。いくつかの実施形態では、この指示は、予測時間の数値提示に加えて、ディスプレイ画面上のモデル曲線の提示を備える。代替的に又は追加的に、この指示は、時間が予測された発生時間に近づくにつれて、その振幅及び/又は周波数が増大する、音などの可聴表示を備えていてよい。
【0020】
スチームポップ現象の予想される差し迫った発生時間の指示を用いて、医師はこのような現象の実際の発生のリスクを低減するために、事前に、様々な措置を講じ得る。例えば、医師は組織に適用されるエネルギーの量を低減するためにアブレーション電流を低減するか又は停止することができる。代替的に又は追加的に、医師は組織内部の先端部深度を制御するために、プローブ先端部を再位置決めすることができる。更に代替的に又は追加的に、潅注カテーテルを用いてアブレーションが行われ、医師は潅注速度を制御することによってスチームポップ現象のリスクを低減し得る。代替の実施形態では、反応可能な措置が自動的に講じられる。
【0021】
有限要素モデル及びリアルタイムモデルは、例えば、患者の心臓の鼓動及び呼吸動作によって生成される変化する条件下で、更新済みである及び正確なモデルを維持するために、アブレーション手技中に連続的に更新される。
【0022】
後述する実施形態は、具体的には、好適な設計のカテーテルを用いた心臓内アブレーションの実行に関するが、本発明の原理は他の種類の治療においても同様に適用され得る。これはまた、カテーテル又は他の好適なタイプの侵襲性のプローブのいずれかを用いて、心臓に又は他の臓器に適用され得る。
【0023】
システムの説明
図1Aは、本発明の一実施形態に従って、心臓内アブレーションのためのシステム20の模式的実体図である。このシステム20は、システムソフトウェアへの好適な追加物を有する、例えば、上記のCARTOシステムに基づいてよい。システム20は、カテーテル24などのプローブ、及び制御コンソール34を備える。以下に説明される実施形態において、カテーテル24は、患者30の心臓26の1つ又は2つ以上の室(心房)における不整脈の焼灼部位に使用される。いくつかの実施形態では、カテーテル24は潅注カテーテルを備える。あるいは、カテーテル24又は他の好適なプローブが、必要な変更を加えれば、心臓における又は他の身体臓器における他の治療的目的のために使用され得る。
【0024】
循環器専門医などの、オペレータ22は、カテーテルの遠位端が心臓26の室(心房)に進入するように、患者30の脈管系を通してカテーテル24を挿入する。オペレータ22は、カテーテルの遠位先端部における電極28が所望されたアブレーション部位の心内膜組織と係合するようにカテーテルを前進させる。カテーテル24は典型的には、その近位端における好適なコネクタによってコンソール34に、及び具体的には、カテーテル24を介して電極28まで伝達のためのRFエネルギーを発生する、無線周波数(RF)発生器36に接続される。オペレータ22は、RF発生器36を起動して心臓内の不整脈の疑わしい部位において組織を焼灼する。RF発生器36に適用された電流が、発生した出力電力レベルを制御する。
【0025】
この描写された実施形態では、システム20は磁気位置検知を使用して心臓26内部のカテーテル24の遠位端の位置座標を決定する。この目的のために、コンソール34内のドライバ回路38は、磁場発生器32を駆動して患者30の身体内に磁場を生成する。典型的には、磁場発生器32はコイルを備え、これらは固定された、既知の位置において患者の胴体の下に定置される。これらのコイルは、心臓26を収める定義済の作業体積内に磁場を生成する。カテーテル24の遠位端内の磁場センサー(図示せず)は、これらの磁場に反応して電気信号を発生する。信号プロセッサ40は、カテーテル24の遠位端の位置座標を決定するために、これらの信号を処理する、典型的には位置座標及び向きの座標両方を含む。位置検知のこの方法は上記のCARTOシステムにおいて実施され、かつ技術において周知である。代替的に又は追加的に、システム20は、超音波又は電気的インピーダンスベースの方法など、技術において既知である位置検知の他の方法を使用し得る。
【0026】
加えて、カテーテル24は、カテーテル先端部と心臓26の壁部29との間の接触力を測定するための、その遠位端内に力センサー(図示せず)を備え得る。CARTOシステム向けにBiosense Webster Inc.によって開発されたSmartTouch(商標)カテーテルは、この種の能力を提供する。この種のカテーテルは、例えば、その開示が参照によって本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第2011/0130648号に説明されている。力測定は、例えば、電極28が、RFエネルギーを効果的に移送して、かつ心臓組織を焼灼するために心臓壁と十分に強固な接触を確実にするに際して有用である。別の例として、好適な指示に反応して、オペレータ22はスチームポップ現象を生成させる可能性のある過熱のリスクを低減するために、カテーテル接触力を低減し得る。
【0027】
コンソール34内のプロセッサ40は、典型的には、カテーテル24から信号を受信し、かつコンソール34の他の構成要素からの入力を制御し、かつ受信するための好適なフロントエンド及びインターフェ一ス回路を有する汎用コンピュータプロセッサを備える。プロセッサ40は、本明細書に記載される機能を実行するためにソフトウェアにおいてプログラム化され得る。このソフトウェアは、例えば、ネットワーク上に、電子的形態でプロセッサ40にダウンロードされ得るか、あるいはそれは、代替的に又は追加的に、光学的、磁気的若しくは電子的メモリ媒体などの、有体物の、非一時的媒体上に提供され得る。更に代替的に又は追加的に、プロセッサ40の機能の一部又は全部が専用の若しくはプログラム可能なデジタルハードウェア構成要素によって実行され得る。
【0028】
カテーテル24及びシステム20の他の構成要素から受信された信号に基づいて、プロセッサ40は、ディスプレイ42を駆動してオペレータ22に心臓26の三次元(3D)マップ44を提示する。このマップはカテーテル24により測定された心臓電気生理的活動を指示し得るとともに、患者の身体内のカテーテルの位置に関して視覚的フィードバック並びに進行中の手技に関する状況情報及びガイダンスを提供し得る。カテーテル24及びシステム20の他の要素によって測定され得る、プロセッサ40へ伝達され、かつディスプレイ42上に示され得る他のパラメータは、例えば、カテーテルと心臓組織との間の接触力、アブレーション部位と患者の皮膚上の1つ又は2つ以上の箇所との間の電気的インピーダンス、局部温度、並びにカテーテルを通じて伝達されたRF電力を含み得る。
【0029】
図1Bは、本発明の一実施形態に従って、
図1Aの線A−Aに沿って得られた断面の模式的実体図である。
図1Bは、その先端部が焼灼された部位において心臓26の壁部29に接触しているカテーテル24を示す。カテーテル先端部は電極28及び組織界面温度とインピーダンスを測定するためのセンサー27を備える。システム20はホットスポット31の温度とともに、ホットスポットを含むより広い測定領域33における温度及びインピーダンス値を測定するためにカテーテル24を使用する。この組織の領域33は、更に以下に記載される温度ドメイン(temperature domain)と称されるより大きな領域の追加的な一部である。組織温度及びインピーダンスを測定するためのセンサー及び電極を備えるカテーテルについては、例えば、上記に引用された米国特許出願公開第2011/0224664号及び欧州特許出願公開第2364664号に説明される。
【0030】
図1Aに戻って参照すると、測定された/構成されたパラメータを受信次第、プロセッサ40は時間の関数として、ホットスポット31におけるホットスポット温度及び圧力進展のリアルタイムモデルを推定する。この推定されたモデルに基づいて、プロセッサ40はスチームポップ現象の発生時間を予測し、かつディスプレイ42上に指示/警告46を提示する。オペレータ22は、ユーザーインターフェ一ス制御装置48及び画面上のメニューを用いて、温度値又は圧力閾値などの構成値を設定し得る。
【0031】
図1A及び
図1Bは、特定のシステム構成及び適用環境を示すが、心臓内において並びに他の身体臓器及び領域両方において、カテーテルのみならず他のタイプのプローブを用いた他の治療的用途において本発明の原理は同様に適用され得る。
【0032】
スチームポップ現象の時間発生の予測
図2は、本発明の一実施形態に従って、アブレーション中の組織界面温度の実験測定値に基づいた計算ホットスポット温度及び圧力値を示すグラフである。この図面は、Rambam medical center(Haifa,Israel)において2012年6月に実施された、動物被検体に対するアブレーション実験を要約している。
図2は、秒単位による水平時間軸、摂氏単位による左縦温度軸、及び平方インチ当たりポンド(PSI)単位による右縦圧力軸を表す。水平閾値線100は、約145℃及び413.7kPa(60PSI)の温度値及び圧力閾値両方をそれぞれ表す。
【0033】
図2において、各曲線は対応するアブレーション手技中の時間の経過に伴うホットスポット温度の進展を表している。典型的には、カテーテル位置及び組織内の深度、接触力、RF電力レベル、及び潅注速度などの安定したアブレーション条件において、ホットスポット温度はアブレーション過程中に上昇する。
図2における各曲線は、異なった条件で行われるアブレーションを表す。閾値100を決して通過しない曲線については、アブレーション条件は約145℃以下に温度レベルを制限する。温度を制限する可能性のある要因は、例えば、低いRF電力、及びカテーテル先端部と組織との間の不十分な接触力である。しかしながら、他の曲線については、アブレーション条件は、閾値100より高いレベルまでの急速な温度上昇を許容する。
【0034】
閾値100を通過する曲線に付けられた〇マークは、スチームポップ現象を表す。実験データによって、スチームポップ現象の発生に対する確率が、温度が約145℃(及び対応して413.7kPa(60PSI))まで上昇するときに極めて高いことを実証する。一方で、温度が約145℃以下のレベルまで徐々に展開するとき、スチームポップ現象はきわめて稀であり、かつ典型的には発生しない。
【0035】
そこで、アブレーションホットスポット温度/圧力を閾値100以下のレベルまで制御することによって、スチームポップ現象及び関連内科的合併症の発生のリスクを大幅に低減することが可能である。更に、ホットスポット温度が閾値100と交差する時間が、スチームポップの発生時間を明確に指し示している。
【0036】
特定の温度及び圧力値、例えば、閾値100の値は例示的な値と見なされるべきである。代替の実施形態では、任意の他の好適な温度及び圧力値を使用することができる。特に、閾値100の数値は異なり得る。上記のように、
図2に示される実験データは動物被検体に対して測定された。この開示された技法をヒト患者に適用するとき、数値は変わり得る。スチームポップの極めて低い確率とスチームポップの極めて高い確率とを確実に区別する一般的な現象、すなわち圧力/温度閾値はそのままであると予想される。
【0037】
図3は本発明の一実施形態に従って、アブレーション中の組織温度及び圧力進展を示すグラフである。この図面では、アブレーション#1及びアブレーション#2は、異なる条件下で行われる第1及び第2のアブレーション手技を表す。曲線200及び204並びに同様に曲線212及び216は、第1及び第2アブレーション手技中の温度及び圧力進展をそれぞれ表す。
【0038】
示されるように、第1アブレーション手技における条件は、第2アブレーション手技と比較して、組織ホットスポットにおいてより速い温度及び圧力上昇を可能にする。より速い曲線上昇は、例えば、アブレーション#1中に組織に伝達されたRF電力がより高い場合に、又はカテーテル24がより強固な接触で組織に係合して、結果的に組織内への口の広い先端部貫入(及び組織に適用されたより高いエネルギーの流れ)がもたらされる場合に生じ得る。潅注速度は、温度及び圧力上昇速度に影響を及ぼし得る別の要因である。
【0039】
熱力学理論から既知であるように、クラウジウス−クラペイロンの式(Clausius-Clapeyron equations)は、関係:P=exp{A−B/T}、(式中、Pは圧力を指し、Tはホットスポット温度を指し、並びにA及びBは気化熱特性などの関与している物質の熱特性に主として依存する定数である)から導出される式によって与えられるように、沸騰蒸気圧と温度との間で指数関数的な関係を定義する。したがって、
図3の曲線212及び216上の圧力点は、クラウジウス−クラペイロンの式を介して曲線200及び204上の対応する温度点に関連付けられている。
【0040】
水平線218及び220は、温度及び圧力閾値レベルを表している。これらの閾値は、ホットスポットにおける温度及び圧力レベルを2つのゾーンに分割する。これによって、閾値を上回る点についてはスチームポップ現象の確率が極めて高く、これに反して閾値を下回る点については、スチームポップ現象の確率が典型的には極めて低い。
【0041】
図2を参照しながら説明された実験結果に基づいて、温度/圧力閾値は、145℃及び413.7kPa(60PSI)にそれぞれ設定されるべきである。しかしながら、代替の実施形態では、任意の他の好適な閾値レベルが選択されてよい。前述のように、
図2の結果が動物被検体に基づいているので、他の閾値レベルはヒト患者についてはより適切であってよい。別の例として、異なる臓器へのアブレーションは、結果的に異なる温度/圧力進展プロセスをもたらし、よって異なる閾値レベルを必要としてよい。温度及び圧力閾値はプロセッサ40によって実行されるソフトウェアにおいて一定値として構成されてよい、又はアブレーション手技を開始する前にオペレータ22によって手動で構成されてよい。
【0042】
図3のT1及びT2は、温度/圧力曲線が対応する閾値218又は220と交差する時間例を指す。
図3の例では、曲線200及び212が対応する曲線204及び216よりも速く上昇するのでT1<T2。そこで、アブレーション持続時間がアブレーション#1についてT1を超えるとき又はアブレーション#2についてT2を超えるとき、スチームポップ発生のリスクは著しく増大する。典型的なアブレーション時間枠は20〜90秒の範囲に及ぶ。アブレーションが開始すると直ぐにオペレータ22にT1又はT2を指示することによって、オペレータはスチームポップ発生のリスクを低減するために事前に適切な措置を講じることができる。発明者らの実際的な経験によれば、この開示されたモデル及び技法によってアブレーション手技の初めの2〜3秒以内にT1又はT2を予測することを可能にする。
【0043】
前述のように、閾値218を超えるホットスポット温度は、高い確率でスチームポップ発生を招くおそれがある。このホットスポットは表面下数mmに位置することが多い、したがって、その温度をカテーテル内の温度センサーにより直接測定することができない。その代わり、いくつかの実施形態では、プロセッサ40は、カテーテルの有限要素熱移動モデル及び組織環境(すなわち、
図1Bの領域33を含む温度ドメイン)を(リアルタイムに)評価することによってホットスポット31の温度を推定する。モデルの境界条件は、測定された温度(カテーテル内の1つ又は2つ以上のセンサー27によって)、推定された先端部深度、及びアブレーション電流を含む。
【0044】
プロセッサ40は、比較的冷たい生理食塩水(温度は通常約28℃)の温度を含み、プローブの内部先端部表面上の対流境界条件を設定することによって、潅注の影響を追加的に組み込んでよい。対流係数は、例えば、数値流体力学(CFD)モデルを用いて予め計算されてよい。
【0045】
スチームポップ現象が、組織内に形成された気泡内部の過剰な圧力によって生成されるので、また圧力と温度との間に1対1の関係があるので(例えば、上記のクラウジウス−クラペイロンの式)、スチームポップ現象を確実に予測するために、推定されたホットスポット温度を利用することができる。
【0046】
したがって、いくつかの実施形態では、スチームポップ現象を圧力測定値、温度測定値、又は両方に基づいて予測することができる。本特許出願との関係において及び請求項において、フレーズ「圧力の進展を予測するモデルを推定する」はまた、組織温度を推定し、かつ推定される圧力を明示的に計算せずに、推定される温度からスチームポップを予測するモデルを指す。
【0047】
図4は、本発明の一実施形態に従って、スチームポップ現象の時間発生を予測するための方法を模式的に例示するフローチャートである。この方法は、プローブ位置決め工程250においてオペレータ22がカテーテル24を焼灼対象組織の中へ挿入することで始まる。オペレータ22は、組織内のアブレーション部位を選択するために任意の好適な方法を使用してよい。例えば、心臓アブレーションにおいて、オペレータ22は、当該技術分野において既知である不整脈の部位を焼灼するよう選択してよい。プローブ位置決めに続いて、プロセッサ40は、初期深度推定工程252において、プローブ先端部の組織内への初期貫入深度を推定する。プロセッサ40はインピーダンス測定値、及びもしかしたら温度及び/又は力測定値を用いて初期貫入深度を推定する。
【0048】
オペレータ22は、その後、電流適用工程254においてRF発生器36を起動する。RF発生器36によって生成されたRF電力レベルは、発生器に適用された電流レベルによって制御される。RF発生器36によって生成されたエネルギーは、アブレーションの部位において組織までプローブ24を介して伝達される。典型的には、RFエネルギーが組織に適用されるにつれて、プローブ24はプロセッサ40へ伝達される温度、インピーダンス及び力測定を行う。
【0049】
プロセッサ40は、FEモデル生成工程258において、有限要素(FE)モデルを生成するために推定された先端部深度とともに、温度及びインピーダンス測定値を使用する。このFEモデルは、温度ドメインと称せられ、3D領域の多数のサブ領域において計算された温度及びインピーダンス値を備える。この温度ドメインは典型的には組織の領域、例えば、
図1Bの領域33及びホットスポット32、カテーテル先端部及びセンサー、並びに血液及び潅注生理食塩水などの液体が存在し得る組織のごく近傍の領域を含む。プローブ先端部のセンサーがFEモデルのサブ領域のいくつかに存在していることに留意されたい。
【0050】
プロセッサ40は、モデル比較工程262において、FEモデルの計算された温度及びインピーダンス値をプローブセンサーの実際の測定値と比較する。工程262において全く一致がない場合には、プロセッサ40は、再推定工程266において先端部貫入深度を再推定し、かつ工程258へ折り返す。貫入深度の再推定(工程266)及びFEモデル(工程258)の調節のループは、プロセッサ40が工程262において一致を見つけるまで継続し、リアルタイムモデル生成工程270において、時間の関数として予測されたホットスポット温度及び圧力進展のリアルタイムモデルを生成するように進める。このモデルは、工程252及び/又は266において推定されたプローブ貫入深度(すなわち、モデルの「自由なパラメータ」)、及びRF発生器36を起動させるのに使用されるアブレーション電流に少なくとも基づいている。このモデルは、典型的にはホットスポットにおける温度及び/又は圧力の予測された進展曲線を備える。あるいは、このモデルは温度/圧力及び時点の表を備えてもよい。更に、あるいは、このモデルは数式などの、任意の他の好適な形態を備えてもよい。
【0051】
モデル及び定義済の温度/圧力閾値に基づいて、プロセッサ40は、時間予測工程274においてスチームポップ現象の予想される時間発生を予測する。この予測された時間は、モデル曲線と対応する温度/圧力閾値との交差点から導出されてよい。
【0052】
プロセッサ40は、ディスプレイ指示工程278においてディスプレイ42上に、提示される対象の予想スチームポップ現象に関する指示を送る。典型的には、この指示は視聴覚の指示を含む。例えば、プロセッサ40は、リアルタイムモデルの曲線とともに定義済の閾値を提示することができる。代替的に又は追加的に、この指示は、工程274において計算される予測時間、又はスチームポップ現象までの残り時間の長さの数値提示を備え得る。更に代替的に又は追加的に、この指示は時間がスチームポップ現象の予想時間に近づくにつれてその振幅及び/又は周波数が増大する交互のビープ音などの(だがそれに限定されない)可聴警告を含んでもよい。いくつかの実施形態では、プロセッサ40はオペレータ22に対する追加の支援情報を提示してもよい。例えば、プロセッサ40は、心臓マップ44、心臓室及び壁に対するプローブ位置、プローブの組織内への貫入深度、プローブが組織に加える力の量、及び瞬間的なホットスポット温度及び/又は圧力測定値を連続的に表示してもよい。
【0053】
オペレータ22は、完了確認工程282において現在の部位についてアブレーションが完結しているか確認する。オペレータ22は、アブレーション完結を決定する任意の好適な方法を用いてよい。例えば、オペレータ22は組織に適用されたエネルギーの量(例えば、RF電力と持続時間との積)が定義済の閾値を超える場合に、アブレーションを停止するように決定してよい。代替的に又は追加的に、オペレータ22はアブレーションの過程中にディスプレイ42上に提示された任意の好適な情報を調べることによってアブレーション停止を決定してよい。更に代替的に又は追加的に、プロセッサ40は、例えば、その開示が参照によって本明細書に組み込まれる2012年5月7日に出願された米国特許出願第13/465,103号に説明される方法を用いてアブレーション停止を自動的に決定してよい。工程282におけるアブレーションが完結される場合には、この方法は停止工程286において停止する。そうでなければ、プロセッサ40は、モデルに対してずれが生じている場合には、FEモデルを再調節するために工程258に折り返す。FEモデルのずれの原因となり得る要因としては、例えば、患者30の心臓鼓動及び呼吸動作によって生成される組織−プローブ相対運動が挙げられる。工程258におけるFEモデルの調節の後に、工程270におけるリアルタイムモデルに対して、工程274におけるスチームポップ現象の予測された発生時間に対して、及び工程278において提示された警告に対して、対応する更新が続いてよいことに留意されたい。
【0054】
アブレーション手技中に、オペレータ22はスチームポップ発生のリスクを低減するために、工程278において提示された指示に対して、又はディスプレイ42上に提示される任意の他の指示に対して、反応可能なように措置を講じてよい。例えば、オペレータ22は、RF発生器36に適用される電流を調節して、組織に適用されるエネルギー用量を制御してよい。別の例として、工程270のリアルタイムモデルが緩慢な温度/圧力進展を指示する場合には、オペレータは、RF発生器36に適用される電流を増大させてよい。一方で、システム20が差し迫ったスチームポップ現象を指示する場合には、オペレータ20はRF発生器36に適用される電流を低減するか又は更には完全に遮断してもよい。
【0055】
代替的に又は追加的に、オペレータ22は、カテーテル24の位置若しくは組織内への貫入深度を調節してよい、又は更にはカテーテルを組織と接触しないように一時的に取り除いてもよい。オペレータは増大した力をカテーテルに加えて、予測モデルが緩慢な上昇温度/圧力曲線を指示する場合には、それを組織内に深く挿入してよい。しかしながら、モデルがスチームポップ現象の差し迫った発生を指示する場合には、オペレータ22は、組織からカテーテル24を部分的に又は完全に取り除いてよい。更に代替的に又は追加的に、オペレータ22は、モデル指示に反応可能なように潅注速度を、及び/又は温度/圧力進展速度に影響を及ぼし得る任意の他の好適な手段を、制御してよい。
【0056】
オペレータは、スチームポップ現象のリスクを低減することに並行して、様々な措置で対応してよいことが認識されるであろう。
【0057】
代替の実施形態では、オペレータ22によって手で講じられる措置のうちのいくつかが、プロセッサ40によって自動化されてよい。例えば、プロセッサ40はRF発生器36へのアブレーション電流及び/又は潅注速度を自動的に制御してよい。別の例として、カテーテルの電気機械的操作を支援するシステム20において、プロセッサ40は、組織内のカテーテル24を自動的に再位置決めしてよい。
【0058】
上記
図4に記載される構成は、純粋に概念の明瞭さのために選択される例示的構成である。代替の実施形態では、任意の他の好適な構成もまた使用され得る。
【0059】
前述した実施形態が例として引用されること、及び本発明が上文に特に図示されかつ説明されてきたことに限定されないことが認識されるであろう。むしろ、本発明の範囲は上文に説明された様々な特徴の組み合わせ及びサブ組み合わせの両方を包含し、並びに先行技術に開示されていない、それらの変形例及び改変例は、前述の説明を読めば当業者には思い付くであろう。本特許出願に参照により組み込まれる文献は、本願の必須部分と考えられるべきである。ただし、任意の用語が、本明細書に明示的に又は黙示的になされた定義と矛盾するような方法で、これらの組み込まれた文献において定義される場合にはその限りでなく、本明細書における定義のみが考慮されるべきである。
【0060】
〔実施の態様〕
(1) 医療手技を行うための方法であって、
プローブを患者の臓器の中の組織に結合することと、
前記プローブを用いてアブレーションエネルギーを前記組織に適用することと、
時間の関数として、前記アブレーションエネルギーによりもたらされた前記組織内の蒸気圧の進展(evolution)のモデルを推定することと、
前記蒸気圧によりもたらされたスチームポップ現象の発生時間を、前記モデルに基づいて、予測することと、
前記スチームポップ現象の前記予測された発生時間をオペレータに対して指示することと、を含む、方法。
(2) 前記モデルを推定することが、時間の関数として、前記アブレーションエネルギーによりもたらされた前記組織内の温度の進展を推定することを含む、実施態様1に記載の方法。
(3) 前記モデルを推定することが、前記プローブの前記組織内への貫入深度を推定することと、前記貫入深度及び前記アブレーションエネルギーに基づいて前記モデルを計算することと、を含む、実施態様1に記載の方法。
(4) 前記貫入深度を推定することが、前記組織の温度及びインピーダンスの多数の値を測定することと、前記測定された値に基づいて前記貫入深度を推定することと、を含む、実施態様3に記載の方法。
(5) 前記モデルを推定することが、時間の関数として、前記組織圧力の関数曲線を推定することを含み、前記スチームポップ現象の前記発生時間を予測することが、前記関数曲線と定義済の閾値との間の交差時間を特定することと、前記交差時間から前記発生時間を導出することと、を含む、実施態様1に記載の方法。
【0061】
(6) 前記予測された発生時間を指示することが、前記スチームポップ現象までの残り時間の長さを前記オペレータに指示することを含む、実施態様1に記載の方法。
(7) 前記スチームポップ現象の前記予測された発生時間に反応して、前記アブレーションエネルギーの適用を修正することを含む、実施態様1に記載の方法。
(8) 前記モデルを推定することが、前記プローブの近傍で前記組織の最も熱い領域を特定することと、前記最も熱い領域における前記蒸気圧の前記進展を評価することと、を含む、実施態様1に記載の方法。
(9) 前記モデルを推定することが、前記プローブの近傍の有限要素熱移動モデルをリアルタイムに評価することを含む、実施態様1に記載の方法。
(10) 医療手技を行うための装置であって、
患者の臓器内の組織に結合されるように、かつ前記組織にアブレーションエネルギーを適用するように構成される、侵襲性のプローブと、
前記プローブに結合され、時間の関数として、前記アブレーションエネルギーによりもたらされた前記組織内の蒸気圧の進展のモデルを推定するように、前記蒸気圧によりもたらされたスチームポップ現象の発生時間を、前記モデルに基づいて、予測するように、かつオペレータに対して前記スチームポップ現象の前記予測された発生時間を指示するように構成されるプロセッサと、を含む、装置。
【0062】
(11) 前記プロセッサが、時間の関数として、前記アブレーションエネルギーによりもたらされた前記組織内の温度の進展を推定することによって、前記モデルを推定するように構成される、実施態様10に記載の装置。
(12) 前記プロセッサが、前記プローブの前記組織内への貫入深度を推定することによって前記モデルを推定し、前記貫入深度及び前記アブレーションエネルギーに基づいて前記モデルを計算するように構成される、実施態様10に記載の装置。
(13) 前記プロセッサが、前記組織の温度及びインピーダンスの多数の値を測定すること、及び前記測定された値に基づいて前記貫入深度を推定することによって、前記貫入深度を推定するように構成される、実施態様12に記載の装置。
(14) 前記プロセッサが、時間の関数として、前記組織圧力の関数曲線を推定することによって前記モデルを推定するように、かつ前記関数曲線と定義済の閾値との間の交差時間を特定し、前記交差時間から前記発生時間を導出することによって前記スチームポップ現象の前記発生時間を予測するように、構成される、実施態様10に記載の装置。
(15) 前記プロセッサが、前記スチームポップ現象までの残り時間の長さを前記オペレータに指示することによって前記予測された発生時間を指示するように構成される、実施態様10に記載の装置。
【0063】
(16) 前記プロセッサが、前記スチームポップ現象の前記予測された発生時間に反応して前記アブレーションエネルギーの適用を修正するように構成される、実施態様10に記載の装置。
(17) 前記プロセッサが、前記スチームポップ現象の前記予測された発生時間に反応して前記アブレーションエネルギーの適用を修正するように前記オペレータによって構成される、実施態様10に記載の装置。
(18) 前記プロセッサが、前記プローブの近傍で前記組織の最も熱い領域を特定することによって前記モデルを推定するように、かつ前記最も熱い領域の前記蒸気圧の前記進展を評価するように、構成される、実施態様10に記載の装置。
(19) 前記プロセッサが、前記プローブの近傍の有限要素熱移動モデルをリアルタイムに評価することによって前記モデルを推定するように構成される、実施態様10に記載の装置。
(20) コンピュータソフトウェアプロダクトであって、内部にプログラム命令が記憶されている非一時的なコンピュータ読み取り可能な媒体を含み、その命令が、侵襲性のプローブが結合されている臓器内の組織にアブレーションエネルギーを適用するための前記プローブに結合されているプロセッサにより読み取られるとき、前記プロセッサに、時間の関数として、前記アブレーションエネルギーよりもたらされる前記組織内の蒸気圧の進展のモデルを推定させ、前記蒸気圧によりもたらされたスチームポップ現象の発生時間を、前記モデルに基づいて、予測させ、かつオペレータに対して前記スチームポップ現象の前記予測された発生時間を指示させる、コンピュータソフトウェアプロダクト。