【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来から地盤改良材として石灰系固化材や上記特許文献1、2に示されるようなセメントと多量の生石灰を併用したセメント系固化材がある。
【0012】
しかし、特許文献1に記載されるように、生石灰は水和活性が高く水和に際して水蒸気の発生や発熱を伴うため大量に使用する場合は取扱い難い。また、生石灰は第三類危険物として法的規制があるため、使用や管理において制約がある。
【0013】
また、生石灰は焼成度等により軟焼生石灰から硬焼生石灰まで水和活性の異なるものとなるとともに、空気中の水分や二酸化炭素との反応により風化して水和活性が低下するので品質が安定した状態で使用するのが難しい。
【0014】
更に、火山灰質粘性土の地盤を対象とした場合は、水和により生じるカルシウムイオンが粘土表面に吸着し土粒子の凝集を促進するので土との大量混合が難しく、再混合が必要となるなど施工が煩雑となることがある。また、生石灰をセメントや石膏と併用しセメント系固化材にすれば施工性や強度発現の改善は図れるものの、安定した品質の確保が難しく六価クロムの溶出を十分防止できない。
【0015】
一方、特許文献3に示される硫化物硫黄含有カルシウムアルミネート系クリンカ鉱物、普通ポルトランドセメント、二水石膏等を併用したものは、火山灰質粘性土を地盤改良する場合であっても、六価クロムの溶出防止効果や強度増進効果が期待できるものの、硫化物硫黄含有カルシウムアルミネート系クリンカ鉱物といった特殊な材料を用いるため汎用性が低くコスト高となる。また、カルシウムアルミネート系クリンカ鉱物は急硬性や急結性を有するため、夏場等の高温下では、水和遅延剤を用いないと施工性が悪くなる虞がある。
【0016】
上記のように、火山灰質粘性土の地盤を対象とした地盤改良材は幾つかあるものの、品質が安定した取扱い易い材料を用いて施工性良く六価クロムの溶出防止効果や良好な固化強度が得られる火山灰質粘性土の地盤改良に好適なセメント系地盤改良材はない。
【0017】
本願発明は、上述のような課題を鑑みてなしたものであり、火山灰質粘性土の地盤を対象とした地盤改良においても強度発現性が良く、効果的に六価クロムの溶出を防止できる安定した品質の地盤改良材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本願発明者等は、特開2012−91992に開示されるように、早強型セメント系固化材にも使用可能な高活性セメントを先に開発したが、この高活性セメントに着目し、上記目的を達成できる該高活性セメントを用いた地盤改良材について鋭意検討した結果、基本材料として該高活性セメントのうちの特定のもの(本願では高C
3Sセメントと称す)と単体硫黄粉末とを組み合わせて用いれば良いことを見出し本願発明を完成させた。
【0019】
本願の請求項1に係る発明は、「ボーグ式による計算値の鉱物組成がC
3S>70%かつC
2S<5%の高C
3SセメントクリンカにSO
3分換算で1.5〜4.0重量%の石膏を添加してなり、セメント中の遊離石灰量が2.0〜4.0重量%である高C
3Sセメント97.0〜99.9重量%と単体硫黄粉末0.1〜3.0重量%とを含むことを特徴とする地盤改良材」である。
【0020】
この地盤改良材は、特に十分な固化強度が得難く六価クロムの溶出を防止し難い関東ローム等の火山灰質粘性土の地盤改良に好適な地盤改良材である。
【0021】
この地盤改良材は、ボーグ式による計算値の鉱物組成がC
3S>70%かつC
2S<5%の高C
3SセメントクリンカにSO
3分換算で1.5〜4.0重量%の石膏を添加してなり、セメント中の遊離石灰量が2.0〜4.0重量%である高C
3Sセメントを主体とし、地盤改良材中に該高C
3Sセメントを97.0〜99.9重量%含む。
【0022】
上記高C
3SセメントクリンカはC
3S>70%と従来の早強ポルトランドセメントクリンカより多いC
3Sを含む。また、C
2S<5%とC
2S量が従来のポルトランドセメントクリンカに比べ少ない。残りは、カルシウムアルミネート系の鉱物や非晶質物等からなる間隙相である。
【0023】
上記のようにクリンカを高C
3Sの鉱物組成にすることによって極めて高い強度発現が得られるので、十分な固化強度が得難い火山灰質粘性土でも固化強度を高くすることができる。
【0024】
また、上記の通り、C
2S量を著しく少なくすることによって上記間隙相を増やすことができる。カルシウムアルミネート系の間隙相を多くすることによりエトリンガイト等のカルシウムアルミネート系の水和物が増えるので初期強度発現が良くなるとともに六価クロムの溶出を防止し易くなる。したがって、十分な固化強度が得難く六価クロムの溶出を防止し難い関東ローム等の火山灰質粘性土の地盤改良に好適な地盤改良材とすることができる。
【0025】
上記高C
3Sセメントは遊離石灰を2.0〜4.0重量%を含む。遊離石灰は強度発現や六価クロムの溶出防止に寄与するので、このような高C
3Sセメントにすることによって、より本願発明の目的が達成し易くなる。また、品質安定性に問題となる生石灰の使用量を著しく減らすことができる。
【0026】
強度発現や六価クロムの溶出防止に寄与する石灰分(酸化カルシウム)の多くを従来のように生石灰単味によるものではなく本願発明のようにセメント中(実質的には、ほとんどがクリンカ中)の遊離石灰(フリーライム)とすることにより、空気中の水分や二酸化炭素による風化の影響や製造ロット間の品質のバラツキを抑制することができる。
【0027】
セメント中の遊離石灰量が2.0重量%未満では、十分な含有効果が得られない。4.0重量%を超えるとクリンカ焼成し難くなる傾向にあるとともに、生石灰と同様の品質安定性の問題が生じ易くなる。
【0028】
本願発明の高C
3Sセメントは、上記高C
3SセメントクリンカにSO
3分換算で1.5〜4.0重量%の石膏を添加してなる。1.5重量%未満では高C
3Sセメントクリンカの水和活性を十分制御できず作業性や安定性に欠ける虞がある。また、火山灰質粘性土の種類によっては石膏は4.0重量%を超える量は必ずしも必要ではないため、高C
3Sセメント中には4.0重量%あればよい。石膏量を増やした方が良い場合は、該高C
3Sセメントに無水石膏等を後添加混合すればよい。
【0029】
本願発明の地盤改良材では上記高C
3Sセメントを97.0〜99.9重量%含む。上記の通り、本願発明の高C
3Sセメントは火山灰質粘性土に対しても十分な固化強度を有し六価クロム溶出防止効果もあるので、地盤改良材のほとんどを該高C
3Sセメントで占めることができる。したがって、多数の材料を使用したり煩雑な調合をすることもなく、簡便かつ低コストで地盤改良材が得られる。
【0030】
高C
3Sセメントが97.0重量%未満では上記の高C
3Sセメントの作用効果が得られない。また、本願発明では六価クロム溶出防止効果を補強するため単体硫黄粉末を添加するが、高C
3Sセメントが99.9重量%を超えると単体硫黄粉末の添加量が少なくなりすぎて単体硫黄粉末の添加効果が得難くなる。
【0031】
本願発明の地盤改良材では、単体硫黄粉末を0.1〜3.0重量%含む。好ましくは0.1〜2.0重量%である。従来から、地盤改良における固化強度増進剤、還元による六価クロム溶出防止剤として硫酸第1鉄等の硫酸塩、チオ硫酸塩、多硫化カルシウム等の硫化物、単体硫黄粉末、ハロゲン化硫黄といった様々な硫黄系物質が知られている。本願発明では、これらの中で、比較的少量の添加で効果が得られ上記高C
3Sセメントと相性の良い単体硫黄粉末を用いる。
【0032】
単体硫黄粉末は黒色火薬の製造やゴム製品の製造等に使われる一般的なものでよい。粉末であればよく、特にその粉末度は限定されない。例えば、鶴見化学工業株式会社の金華印微粉硫黄、日本乾溜工業株式会社のセイミサルファーなどが好適に使用できる。
【0033】
単体硫黄粉末は強アルカリ性のセメントに接すると溶解してチオ硫酸塩等を生成し、生成物がセメント中の前記カルシウムアルミネートからなる間隙相と反応してエトリンガイト等のカルシウムアルミネート系複塩を生成するので、この複塩の生成により強度増進効果や六価クロム溶出防止効果が得られると考えられる。
【0034】
単体硫黄粉末の含有量は、0.1重量%未満では前記本願発明の目的を達成するための単体硫黄粉末の作用効果が得られない。3.0重量%を超えると火山灰質粘性土の種類によっては地盤改良材の強度発現性が悪くなり、十分な固化強度が得られなくなる虞がある。
【0035】
本願の請求項2に係る発明は、「ボーグ式による計算値の鉱物組成がC
3S>70%かつC
2S<5%の高C
3SセメントクリンカにSO
3分換算で1.5〜4.0重量%の石膏を添加してなり、セメント中の遊離石灰量が2.0〜4.0重量%である高C
3Sセメント82.0〜94.9重量%と、無水石膏5〜15重量%と、単体硫黄粉末0.1〜3.0重量%とを含むことを特徴とする地盤改良材」である。
【0036】
上記請求項1に係る発明では、上記高C
3Sセメントを主体とし、これに単体硫黄粉末を添加してなる地盤改良材であり、一般の火山灰粘性土を地盤改良する場合は該地盤改良材で十分であるが、高含水で軟弱な火山灰質粘性土や六価クロム溶出防止効果が十分得難い火山灰質粘性土を対象とする場合は、上記地盤改良材に更に無水石膏を添加し石膏量を多くした地盤改良材を用いるのが好ましい。
【0037】
この発明は、上記のように高C
3Sセメントと単体硫黄粉末とからなる地盤改良材に無水石膏を添加し上記請求項1に係る発明の地盤改良材に比べ石膏量を多くした地盤改良材である。石膏量を増やすことによってエトリンガイトの生成量を増やせるので、強度発現性などが高められる。
【0038】
高C
3Sセメントと単体硫黄粉末に関しては前述の通りである。但し、これらの配合量は、無水石膏が増える分、上記請求項1に係る発明の地盤改良材とは異なっている。
【0039】
無水石膏は、地盤改良材中、5〜15重量%含まれるのが好ましい。5重量%未満では無水石膏の十分な添加効果が得難くなる。また、15重量%を超えると、高C
3Sセメントの水和活性が減少傾向となる。
【0040】
上記請求項1に係る発明の地盤改良材と上記請求項2に係る発明の地盤改良材においては、前述の通り、強度発現や六価クロムの溶出防止に寄与する遊離石灰分はほとんど高C
3Sセメント中の遊離石灰でまかなわれるが、遊離石灰が不足した場合など必要に応じて生石灰を少量添加して補うことができる。用いる生石灰は、従来からセメント混和材や地盤改良材に用いられているものであれば特に限定されない。例えば、奥多摩工業株式会社のタマライムなどが好適に使用できる。