【実施例】
【0100】
次に、本発明を具体的に説明するが、本発明は以下に限定されるものではない。
【0101】
実施例1:野生型G6PDH遺伝子の取得
(1−1)野生型G6PDHのDNA塩基配列情報の取得
National Center for Biotechnology Information(以下NCBIとも示す、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)の遺伝子配列データベースより、配列番号1に示すロイコノストック・メセントロイデス(Leuconostoc mesenteroides)由来G6PDHの塩基配列情報を入手した。なお、配列番号1の3’末端には終止コドン(taa)が含まれる。
【0102】
(1−2)野生型G6PDHの人工合成DNAの取得
配列番号1に示す塩基配列情報を材料に、人工遺伝子合成の受託サービス(オペロンバイオテクノロジー株式会社製)を利用して、配列番号2に示す人工合成した野生型G6PDHのDNAを入手した。
【0103】
具体的には、配列番号1に示す野生型G6PDHの塩基配列を大腸菌(Escherichia coli)K12株系のコドン利用頻度に最適化し、該DNAから合成されるRNAの二次構造を回避し、該DNAの塩基配列中のGC含量を最適化し、該DNAの塩基配列中の5’端に制限酵素NcoI認識配列(ccatgg)及び3’端の終止コドン下流に制限酵素HindIII認識配列(aagctt)を含み、且つ該DNAのその他の塩基配列中にNcoI認識配列及びHindIII認識配列を含まないように設計し、配列番号2に示す人工合成した野生型G6PDHのDNAを含むプラスミドDNAを約2μg入手した。なお、配列番号2の3’末端には終止コドン(taa)が含まれる。
【0104】
図1及び
図2に配列番号1及び2に示す塩基配列のClustalW2.0(http://clustalw.ddbj.nig.ac.jp/)による比較結果を示す。上述した設計思想により人工合成した野生型G6PDHのDNA塩基配列は、もとのロイコノストック・メセントロイデス由来G6PDHの塩基配列に比べ22.2%(1,461塩基中324塩基)異なる結果となった。配列番号2に示す塩基配列は、配列番号1に示す塩基配列に比べコドン利用頻度を宿主の大腸菌に最適化し、RNAの二次構造を回避する等することにより、当該G6PDHの組換え大腸菌における発現量の増加が期待できる。
【0105】
一方、配列番号1及び2に示す塩基配列がコードするアミノ酸配列を、Open Reading Frame Finder(ORF Finder、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/projects/gorf/)により調べた結果、いずれも配列番号3に示すアミノ酸配列をコードすることが示された。
図3に配列番号1及び2に示される塩基配列がコードするアミノ酸配列のClustalW2.0による比較結果を示す。
図3が示す通り、それぞれのアミノ酸配列は互いに100%完全に一致することから、該人工合成DNAにより、ロイコノストック・メセントロイデス由来野生型G6PDHが発現されることが示され、且つ該塩基配列を最適化させる等したことにより該野生型G6PDHの組換え大腸菌における発現量の増加が期待できる。
【0106】
実施例2:人工合成した野生型G6PDHの発現用組換えベクターの取得
(2−1)発現用組換えベクターの合成
発現ベクターにはpTrc99A(Pharmacia Biotech製)を選択した。pTrc99Aは、マルチクローニング部位(MCS)の上流にtrcプロモーター配列、MCSの下流に転写終了シグナル配列を含有する。MCS内には制限酵素NcoI認識配列(ccatgg)及び制限酵素HindIII認識配列(aagctt)が含まれ、NcoI認識配列はtrcプロモーター配列に並列しているため、翻訳開始コドンのATGをもつDNA断片を結合させることにより、直接発現させることができる。
【0107】
pTrc99A及び実施例1に記載の人工合成した野生型G6PDHのDNAを含むプラスミドDNAをそれぞれ1μgずつとり、制限酵素NcoI及びHindIII(タカラバイオ株式会社製)により以下の条件で処理した。
【0108】
DNAを1μg、10×Kバッファーを10μL、NcoIを3μL、HindIIIを2μL、0.1%BSAを10μL及び滅菌水で総量100μLとなるように混合して制限酵素処理液とし、それぞれ37℃で2時間インキュベートした。
【0109】
次いで、制限酵素処理液に10×Loading Bufferを12μL添加して混合し、分子量マーカー(500bp DNA Ladder:タカラバイオ株式会社製)とともに、0.5μg/mLの臭化エチジウムを含む1%アガロールゲル電気泳動に供してDNA断片をその分子量に従って分離した。電気泳動終了後のゲルを青色LEDトランスイルミネーター(オプトコード株式会社製)上に設置し、オレンジフィルタープレートを通して観察することにより二本鎖DNA特異的な臭化エチジウムの蛍光を観察した。その結果、分離された約4,100bpのpTrc99A断片、約1,500bpの人工合成した野生型G6PDHのDNA断片が観察された。それぞれの断片をサージカルナイフ(フェザー安全剃刀株式会社製)で切り出し、プラスチックチューブに回収してそれぞれの重量を測定した。
【0110】
切り出したゲルから、Wizard(商標) SV Gel and PCR Clean−Up System及びVac−Man(商標) Laboratory Vacuum Manifold(プロメガ株式会社製)を使用してそれぞれのDNA断片を抽出した。即ち、切り出したゲルに等量のMembrane Binding Solutionを添加し、60℃で10分間インキュベートしてゲルを溶解させてシリカカラムにアプライし、吸引濾過により不要な溶媒を除去しつつDNA断片をシリカに吸着させた。0.7mLと0.5mLのMembrane Wash Solutionで2回カラムを洗浄し、吸引濾過により除去した。次いで0.8mLの80%エタノール水溶液で2回カラムを洗浄し、吸引濾過により除去した。当該カラムをそれぞれプラスチックチューブにセットして15,000rpmで5分間、遠心し、カラム内の余分なエタノールを完全に除去した。当該カラムをそれぞれ新しいプラスチックチューブにセットしてNuclease−Free水を25μL添加し、1分間放置してシリカに吸収させた後、15,000rpmで1分間、遠心し、DNA溶液を回収した。それぞれのDNA溶液を2μLずつ、上記の方法により電気泳動し、pTrc99Aは約4,100bp、人工合成した野生型G6PDHは約1,500bpの単一なバンドに精製されていることを確認した。
【0111】
精製したpTrc99A断片の水溶液0.5μLと人工合成した野生型G6PDHのDNA断片の水溶液1.5μL及びLigation high(東洋紡株式会社製)を2μL混合し、16℃で1時間インキュベートし、T4 DNAリガーゼの作用によりpTrc99Aと人工合成した野生型G6PDHのDNA断片のNcoI、HindIII突出末端同士を結合させた。
【0112】
(2−2)発現用組換えベクターの単離精製及び形質転換体の取得
16℃で1時間インキュベートした上記反応溶液1μLを大腸菌DH5αコンピテントセル(タカラバイオ株式会社製)10μLに添加して混合し、氷上で10分間インキュベートした。次いで、42℃で30秒間インキュベートし、氷上で1分間インキュベートした後、SOC培地を100μL添加した。予めオートクレーブ滅菌して調整した100μg/mLのアンピシリンを含むLB寒天培地(1.0%Tryptone:日本ベクトン・ディッキンソン株式会社製、0.5%酵母エキス:極東製薬工業株式会社製、1.0%塩化ナトリウム:ナカライテスク株式会社製、1.5%寒天:和光純薬工業株式会社製)に、上記のSOC培養液110μLを添加して滅菌処理したガラス製コーンラージ棒で播種した。
【0113】
上記LB寒天培地を37℃で22時間培養することにより、組換え大腸菌の複数のコロニーを確認した。
【0114】
低い確率で制限酵素NcoI、HindIIIで切断されずに残ったpTrc99Aが混入している可能性が考えられたので、どのコロニーにG6PDHを結合したpTrc99Aが含まれるか調べるために、該コロニーをコロニーPCRに供した。
【0115】
即ち、表1に示す組成に調整したPCR反応溶液を調整して8連マイクロチューブに10μLずつ分注した。新しいLB寒天培地(100μg/mLのアンピシリンを含む)を準備し、上記の単一コロニーを白金針で回収してLB寒天培地に植菌し、直後にPCR反応溶液を分注したチューブにも懸濁した。計8個の単一コロニーについてそれぞれ同じ操作を行った。LB寒天培地は37℃で8時間インキュベートし、PCR反応溶液はPCR反応{98℃(10秒)、46℃(30秒)、68℃(90秒)を30サイクル}に供した。PCR反応溶液にLoading Bufferを添加して電気泳動し、8コロニー中全てに約1,500bpのバンドが観察された。
【0116】
【表1】
【0117】
新しくLB寒天培地に植菌した8クローンのうち1クローンを、予めオートクレーブ滅菌して調整した100μg/mLのアンピシリンを含むLB培地4mLに植菌し、37℃で16時間、振とう培養した。
【0118】
次いで、培養液を2mLのプラスチックチューブに回収し、15,000rpmで1分間、遠心して培養上清を廃棄し、同じ操作を2回繰り返して組換え大腸菌体を回収し、該菌体からGenElute
TM Plasmid Miniprep Kit(SIGMA−ALDRICH製)を用い、取扱説明書の手順に従って発現用組換えベクターを精製した。
【0119】
(2−3)発現用組換えベクターの塩基配列の確認
単離精製された発現用組換えベクターをシーケンシングの受託サービス(オペロンバイオテクノロジー株式会社)に供した。シーケンシングには、pTrc99Aのtrcプロモーター上流域に設定した配列番号6に示された塩基配列のオリゴヌクレオチド、人工合成した野生型G6PDHのDNA上に設定した配列番号7及び配列番号8に示される塩基配列のオリゴヌクレオチドをそれぞれ使用した。シーケンシングの結果、当該組換えベクターはpTrc99AのNcoIとHindIII認識配列間に、配列番号2に示す人工合成した野生型G6PDHを結合した、設計の通りの構造であることが明らかになった。
【0120】
以下、上記の人工合成した野生型G6PDHを結合したpTrc99Aを発現用組換えベクターpTrcG6PDHと記述する。また、以下、発現用組換えベクターpTrcG6PDHにより大腸菌DH5αを形質転換した形質転換体を、実施例4の野生型G6PDHの発現に使用した。
【0121】
実施例3:G6PDH変異体の発現用組換えベクターの取得
(3−1)G6PDH変異体の設計
耐熱性の変化したG6PDH変異体を取得するために、表2に示す38種類の変異体を設計した。
【0122】
即ち、配列番号3に示す野生型G6PDHのアミノ酸配列に対し、変異体1はG14A/T15Sの変異、変異体2はY24Iの変異、変異体3はS26A/V27L/F28Yの変異、変異体4はT45Fの変異、変異体5はS118A/V119T/A120Pの変異、変異体6はL145I/M146I/I147V/T153H/S154D/Y155Lの変異、変異体7はD156E/T157Sの変異、変異体8はA159Rの変異、変異体9はL174I/F175Yの変異、変異体10はM185Tの変異、変異体11はA190Lの変異、変異体12はD200E/A201P/A202Lの変異、変異体13はD200Eの変異、変異体14はA201Pの変異、変異体15はA202Lの変異、変異体16はK205R/D206Qの変異、変異体17はK209D/N210Hの変異、変異体18はK209Dの変異、変異体19はN210Hの変異、変異体20はD229E/T230Eの変異、変異体21はL234Rの変異、変異体22はI238Vの変異、変異体23はT242M/M243Lの変異、変異体24はK253Pの変異、変異体25はA288Gの変異、変異体26はE329Aの変異、変異体27はV335Lの変異、変異体28はS371Vの変異、変異体29はI373R、変異体30はD375Qの変異、変異体31はP415Aの変異、変異体32はM419L/I420L/H421Lの変異、変異体33はM419Lの変異、変異体34はI420Lの変異、変異体35はH421Lの変異、変異体36はS438E/I439Aの変異、変異体37はM466Wの変異、変異体38はA477R/N478Dの変異を導入することを決定した。
【0123】
本明細書におけるY24I等の表現は、アミノ酸置換の表記法である。例えばY24Iとは、配列番号3に示すアミノ酸配列におけるN末端のメチオニン(M)から数えて24番目のチロシン(Y)をイソロイシン(I)に置換することを意味する。また、本明細書におけるG14A/T15S等の表現は、G14A及びT15Sのアミノ酸置換を同時に導入していることを意味する。
【0124】
【表2】
【0125】
(3−2)pTrcG6PDHへの部位特異的変異導入
上記の計38種類のG6PDH変異体の変異は、pTrcG6PDHのG6PDH DNAの塩基配列中に、それぞれ専用に設計した部位特異的変異導入用プライマーとQuickChange Lightning Site−Directed Mutagenesis Kit(アジレント・テクノロジー株式会社製)を用いた部位特異的変異導入法により導入した。該キットを用いた部位特異的変異導入は付属の取扱説明書に従って実施した。それに先立ち、部位特異的変異導入用オリゴヌクレオチドを受託合成サービス(オペロンバイオテクノロジー株式会社)により入手した。
【0126】
表2に、計38種類のG6PDH変異体の変異と部位特異的変異導入用オリゴヌクレオチドの組合せについて示す。
即ち、変異体1については配列番号9及び配列番号10で示される塩基配列のオリゴヌクレオチドを利用した。
変異体2については配列番号11及び配列番号12で示される塩基配列のオリゴヌクレオチドを利用した。
変異体3については配列番号13及び配列番号14で示される塩基配列のオリゴヌクレオチドを利用した。
変異体4については配列番号15及び配列番号16で示される塩基配列のオリゴヌクレオチドを利用した。
変異体5については配列番号17及び配列番号18で示される塩基配列のオリゴヌクレオチドを利用した。
変異体6については配列番号19及び配列番号20で示される塩基配列のオリゴヌクレオチドを利用した。
変異体7については配列番号21及び配列番号22で示される塩基配列のオリゴヌクレオチドを利用した。
変異体8については配列番号23及び配列番号24で示される塩基配列のオリゴヌクレオチドを利用した。
変異体9については配列番号25及び配列番号26で示される塩基配列のオリゴヌクレオチドを利用した。
変異体10については配列番号27及び配列番号28で示される塩基配列のオリゴヌクレオチドを利用した。
変異体11については配列番号29及び配列番号30で示される塩基配列のオリゴヌクレオチドを利用した。
変異体12については配列番号31及び配列番号32で示される塩基配列のオリゴヌクレオチドを利用した。
変異体13については配列番号33及び配列番号34で示される塩基配列のオリゴヌクレオチドを利用した。
変異体14については配列番号35及び配列番号36で示される塩基配列のオリゴヌクレオチドを利用した。
変異体15については配列番号37及び配列番号38で示される塩基配列のオリゴヌクレオチドを利用した。
変異体16については配列番号39及び配列番号40で示される塩基配列のオリゴヌクレオチドを利用した。
変異体17については配列番号41及び配列番号42で示される塩基配列のオリゴヌクレオチドを利用した。
変異体18については配列番号43及び配列番号44で示される塩基配列のオリゴヌクレオチドを利用した。
変異体19については配列番号45及び配列番号46で示される塩基配列のオリゴヌクレオチドを利用した。
変異体20については配列番号47及び配列番号48で示される塩基配列のオリゴヌクレオチドを利用した。
変異体21については配列番号49及び配列番号50で示される塩基配列のオリゴヌクレオチドを利用した。
変異体22については配列番号51及び配列番号52で示される塩基配列のオリゴヌクレオチドを利用した。
変異体23については配列番号53及び配列番号54で示される塩基配列のオリゴヌクレオチドを利用した。
変異体24については配列番号55及び配列番号56で示される塩基配列のオリゴヌクレオチドを利用した。
変異体25については配列番号57及び配列番号58で示される塩基配列のオリゴヌクレオチドを利用した。
変異体26については配列番号59及び配列番号60で示される塩基配列のオリゴヌクレオチドを利用した。
変異体27については配列番号61及び配列番号62で示される塩基配列のオリゴヌクレオチドを利用した。
変異体28については配列番号63及び配列番号64で示される塩基配列のオリゴヌクレオチドを利用した。
変異体29については配列番号65及び配列番号66で示される塩基配列のオリゴヌクレオチドを利用した。
変異体30については配列番号67及び配列番号68で示される塩基配列のオリゴヌクレオチドを利用した。
変異体31については配列番号69及び配列番号70で示される塩基配列のオリゴヌクレオチドを利用した。
変異体32については配列番号71及び配列番号72で示される塩基配列のオリゴヌクレオチドを利用した。
変異体33については配列番号73及び配列番号74で示される塩基配列のオリゴヌクレオチドを利用した。
変異体34については配列番号75及び配列番号76で示される塩基配列のオリゴヌクレオチドを利用した。
変異体35については配列番号77及び配列番号78で示される塩基配列のオリゴヌクレオチドを利用した。
変異体36については配列番号79及び配列番号80で示される塩基配列のオリゴヌクレオチドを利用した。
変異体37については配列番号81及び配列番号82で示される塩基配列のオリゴヌクレオチドを利用した。
変異体38については配列番号83及び配列番号84で示される塩基配列のオリゴヌクレオチドを利用した。
【0127】
上記の材料と方法で部位特異的変異導入操作を行なった38種類の各反応溶液を1μLずつとり、それぞれ大腸菌DH5αコンピテントセル10μLに添加して混合し、氷上で10分間インキュベートした。次いで42℃で30秒間インキュベートし、氷上で1分間インキュベートした後、100μLのSOC培地をそれぞれ添加した。あらかじめオートクレーブ滅菌して調整した100μg/mLのアンピシリンを含むLB寒天培地に、上記のSOC培養液50μLをそれぞれ播種した。
【0128】
上記LB寒天培地をそれぞれ37℃で22時間培養することにより、組換え大腸菌の複数のコロニーを確認した。
【0129】
(3−3)部位特異的変異導入を施したpTrcG6PDHの単離精製
上述の38種類の組換え大腸菌から単一なコロニーをそれぞれとり、予めオートクレーブ滅菌して調整した100μg/mLのアンピシリンを含むLB培地4mLに植菌し、37℃で16時間、振とう培養した。培養液から実施例2に記載の方法により38種類の部位特異的変異導入を施した発現用組換えベクターをそれぞれ単離精製した。
【0130】
(3−4)部位特異的変異導入を施したpTrcG6PDHの塩基配列の確認
38種類の部位特異的変異導入を施したpTrcG6PDHのシーケンシングを実施例2に記載の方法により実施した。シーケンシングには、配列番号6、配列番号7及び配列番号8に示される塩基配列のオリゴヌクレオチドをそれぞれ使用した。
【0131】
シーケンシングの結果、配列番号2に示される塩基配列中に、表2に示す38種類の変異のみがそれぞれ導入され、予期しない別の突然変異が導入されていないことを確認した。
【0132】
以下、表2に示す通り、変異1を導入した発現用組換えベクターの名称をpTrcG6PDHM1と記述する。変異2を導入した発現用組換えベクターの名称をpTrcG6PDHM2と記述する。変異3を導入した発現用組換えベクターの名称をpTrcG6PDHM3と記述する。変異4を導入した発現用組換えベクターの名称をpTrcG6PDHM4と記述する。変異5を導入した発現用組換えベクターの名称をpTrcG6PDHM5と記述する。変異6を導入した発現用組換えベクターの名称をpTrcG6PDHM6と記述する。変異7を導入した発現用組換えベクターの名称をpTrcG6PDHM7と記述する。変異8を導入した発現用組換えベクターの名称をpTrcG6PDHM8と記述する。変異9を導入した発現用組換えベクターの名称をpTrcG6PDHM9と記述する。変異10を導入した発現用組換えベクターの名称をpTrcG6PDHM10と記述する。変異11を導入した発現用組換えベクターの名称をpTrcG6PDHM11と記述する。変異12を導入した発現用組換えベクターの名称をpTrcG6PDHM12と記述する。変異13を導入した発現用組換えベクターの名称をpTrcG6PDHM13と記述する。変異14を導入した発現用組換えベクターの名称をpTrcG6PDHM14と記述する。変異15を導入した発現用組換えベクターの名称をpTrcG6PDHM15と記述する。変異16を導入した発現用組換えベクターの名称をpTrcG6PDHM16と記述する。変異17を導入した発現用組換えベクターの名称をpTrcG6PDHM17と記述する。変異18を導入した発現用組換えベクターの名称をpTrcG6PDHM18と記述する。変異19を導入した発現用組換えベクターの名称をpTrcG6PDHM19と記述する。変異20を導入した発現用組換えベクターの名称をpTrcG6PDHM20と記述する。変異21を導入した発現用組換えベクターの名称をpTrcG6PDHM21と記述する。変異22を導入した発現用組換えベクターの名称をpTrcG6PDHM22と記述する。変異23を導入した発現用組換えベクターの名称をpTrcG6PDHM23と記述する。変異24を導入した発現用組換えベクターの名称をpTrcG6PDHM24と記述する。変異25を導入した発現用組換えベクターの名称をpTrcG6PDHM25と記述する。変異26を導入した発現用組換えベクターの名称をpTrcG6PDHM26と記述する。変異27を導入した発現用組換えベクターの名称をpTrcG6PDHM27と記述する。変異28を導入した発現用組換えベクターの名称をpTrcG6PDHM28と記述する。変異29を導入した発現用組換えベクターの名称をpTrcG6PDHM29と記述する。変異30を導入した発現用組換えベクターの名称をpTrcG6PDHM30と記述する。変異31を導入した発現用組換えベクターの名称をpTrcG6PDHM31と記述する。変異32を導入した発現用組換えベクターの名称をpTrcG6PDHM32と記述する。変異33を導入した発現用組換えベクターの名称をpTrcG6PDHM33と記述する。変異34を導入した発現用組換えベクターの名称をpTrcG6PDHM34と記述する。変異35を導入した発現用組換えベクターの名称をpTrcG6PDHM35と記述する。変異36を導入した発現用組換えベクターの名称をpTrcG6PDHM36と記述する。変異37を導入した発現用組換えベクターの名称をpTrcG6PDHM37と記述する。変異38を導入した発現用組換えベクターの名称をpTrcG6PDHM38と記述する。
【0133】
以下、発現用組換えベクターpTrcG6PDH1〜38により大腸菌DH5αを形質転換した形質転換体を、実施例4のG6PDH変異体の発現に使用した。
【0134】
実施例4:野生型G6PDH及びG6PDH変異体の耐熱性の評価
(4−1)野生型G6PDH及びG6PDH変異体の発現解析
実施例2に記載のpTrcG6PDH及び実施例3に記載のpTrcG6PDHM1〜pTrcG6PDHM38により大腸菌DH5αを形質転換した形質転換体を培養することにより、野生型G6PDH及びG6PDH変異体を発現させた。
【0135】
即ち、それぞれの形質転換体の単一コロニーを2mLの100μg/mLのアンピシリンを含むLB培地に植菌して37℃で16時間振とう培養し、該LB培養液0.2mLをあらかじめオートクレーブ滅菌して調整した100μg/mLのアンピシリン及び0.1mMのイソプロピル−β−チオガラクトピラノシド(和光純薬工業株式会社製)を含む5mLのTerrific培地(1.2%Tryptone:日本ベクトン・ディッキンソン株式会社製、2.4%酵母エキス:極東製薬工業株式会社製、0.4%グリセリン:ナカライテスク株式会社製、0.231%リン酸二水素カリウム:ナカライテスク株式会社製、1.254%リン酸水素二カリウム:ナカライテスク株式会社製)に植菌した。該培養液はそれぞれ37℃で8時間培養した。
【0136】
培養後に培養液を1mLずつ分取して15,000rpmで5分間、遠心し、培養上清を除去して組換え大腸菌の菌体をそれぞれ得た。それぞれの菌体は、以下の活性測定使用時まで−30℃のフリーザー内に保存した。
【0137】
凍結保存した菌体に1mLの20mMリン酸緩衝液(pH8.0)を添加し、超音波破砕機UD−21P(株式会社トミー精工製)により菌体を破砕し、15,000rpmで5分間、遠心し、上清を菌体破砕液として以下のG6PDH変異体の耐熱性の評価に使用した。
【0138】
(4−2)G6PDH変異体の耐熱性の評価
上述した方法、計算式に従って、野生型G6PDH及び38種類のG6PDH変異体の酵素活性(U/mL)を求めた。結果を表3の熱処理前活性の欄に示す。例えば変異体12、変異体14、変異体17、変異体19、変異体21の結果のように、変異が導入されたことにより、野生型に比べて著しく活性が低下した変異体が見出された。
【0139】
一方で、変異体3、変異体8、変異体9、変異体16、変異体22、変異体29、変異体37の結果のように、変異が導入されたことにより、野生型に比べて活性が上昇した変異体が見出された。
【0140】
次いで、調整した菌体破砕液をそれぞれ0.5mLずつ分取し、48℃に設定したウォーターバスで30分間熱処理後、氷上で急冷した。熱処理後の酵素活性を上述の方法に従ってもとめた。結果を表3の熱処理後活性の欄に示す。得られた熱処理前後の活性値から、熱処理後の残存活性を以下の式に従って計算した。結果を表3の残存活性の欄に示す。
【0141】
【数4】
【0142】
【表3】
【0143】
表3の結果より、変異体3、変異体5、変異体8、変異体9、変異体20、変異体25、変異体32、変異体33、変異体37は、野生型G6PDHに比べて高い残存活性を示した。
【0144】
従って、野生型G6PDHにおける変異S26A/V27L/F28Y(変異体3)、S118A/V119T/A120P(変異体5)、A159R(変異体8)、L174I/F175Y(変異体9)、D229E/T230E(変異体20)、A288G(変異体25)、M419L/I420L/H421L(変異体32)、M419L(変異体33)及びM466W(変異体37)は、それぞれG6PDHの耐熱化に寄与することが新たに見出された。以下、これらの変異をまとめて耐熱化変異ともいう。
【0145】
実施例5:耐熱化変異を複数導入したG6PDH多重変異体の発現用組換えベクターの取得
(5−1)多重変異体の設計
実施例4において見出された耐熱化変異を組み合わせることにより、さらなる耐熱性の向上が期待される。
【0146】
以下、野生型G6PDHにおける変異S26A/V27L/F28Y(変異体3)、S118A/V119T/A120P(変異体5)、A159R(変異体8)、L174I/F175Y(変異体9)、D229E/T230E(変異体20)、A288G(変異体25)、M419L(変異体33)及びM466W(変異体37)を組合せた多重変異体を、変異体39とする。
【0147】
以下、野生型G6PDHにおける変異S26A/V27L/F28Y(変異体3)、A159R(変異体8)、L174I/F175Y(変異体9)、D229E/T230E(変異体20)、A288G(変異体25)、M419L(変異体33)及びM466W(変異体37)を組合せた多重変異体を、変異体40とする。
【0148】
以下、野生型G6PDHにおける変異S26A/V27L/F28Y(変異体3)、S118A/V119T/A120P(変異体5)、A159R(変異体8)、L174I/F175Y(変異体9)、A288G(変異体25)、M419L(変異体33)及びM466W(変異体37)を組合せた多重変異体を、変異体41とする。
以下、野生型G6PDHにおける変異A159R(変異体8)、L174I/F175Y(変異体9)、M419L(変異体33)及びM466W(変異体37)を組合せた多重変異体を、変異体42とする。
【0149】
以下、野生型G6PDHにおける変異S26A/V27L/F28Y(変異体3)、S118A/V119T/A120P(変異体5)、A159R(変異体8)、L174I/F175Y(変異体9)、D229E/T230E(変異体20)、A288G(変異体25)及びM419L(変異体33)を組合せた多重変異体を、変異体43とする。
【0150】
以下、野生型G6PDHにおける変異S26A/V27L/F28Y(変異体3)、S118A/V119T/A120P(変異体5)、A159R(変異体8)、L174I/F175Y(変異体9)、D229E/T230E(変異体20)、A288G(変異体25)、及びM466W(変異体37)を組合せた多重変異体を、変異体44とする。
【0151】
以下、野生型G6PDHにおける変異S26A/V27L/F28Y(変異体3)、S118A/V119T/A120P(変異体5)、A159R(変異体8)、A288G(変異体25)及びM466W(変異体37)を組合せた多重変異体を、変異体45とする。
【0152】
以下、野生型G6PDHにおける変異M419L(変異体33)及びM466W(変異体37)を組合せた多重変異体を、変異体46とする。
【0153】
以下、野生型G6PDHにおける変異S26A/V27L/F28Y(変異体3)及びM466W(変異体37)を組合せた多重変異体を、変異体47とする。
【0154】
(5−2)PCRによる部位特異的多重変異導入
上記の9種類のG6PDH多重変異体(変異体39〜変異体47)の変異は、G6PDH DNAの塩基配列中に、実施例3で設計した部位特異的変異導入用オリゴヌクレオチドを用いたPCR反応による部位特異的変異導入法により導入した。
【0155】
9種類のG6PDH多重変異体の部位特異的変異導入用オリゴヌクレオチドの組合せについて以下に示す。
【0156】
即ち、変異体39については、配列番号13、配列番号14、配列番号17、配列番号18、配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号26、配列番号47、配列番号48、配列番号57、配列番号58、配列番号73、配列番号74、配列番号81及び配列番号82に示す塩基配列のオリゴヌクレオチドを使用した。
【0157】
変異体40については、配列番号13、配列番号14、配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号26、配列番号47、配列番号48、配列番号57、配列番号58、配列番号73、配列番号74、配列番号81及び配列番号82に示す塩基配列のオリゴヌクレオチドを使用した。
【0158】
変異体41については、配列番号13、配列番号14、配列番号17、配列番号18、配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号26、配列番号57、配列番号58、配列番号73、配列番号74、配列番号81及び配列番号82に示す塩基配列のオリゴヌクレオチドを使用した。
【0159】
変異体42については、配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号26、配列番号73、配列番号74、配列番号81及び配列番号82に示す塩基配列のオリゴヌクレオチドを使用した。
【0160】
変異体43については、配列番号13、配列番号14、配列番号17、配列番号18、配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号26、配列番号47、配列番号48、配列番号57、配列番号58、配列番号73及び配列番号74に示す塩基配列のオリゴヌクレオチドを使用した。
【0161】
変異体44については、配列番号13、配列番号14、配列番号17、配列番号18、配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号26、配列番号47、配列番号48、配列番号57、配列番号58、配列番号81及び配列番号82に示す塩基配列のオリゴヌクレオチドを使用した。
【0162】
変異体45については、配列番号13、配列番号14、配列番号17、配列番号18、配列番号23、配列番号24、配列番号57、配列番号58、配列番号81及び配列番号82に示す塩基配列のオリゴヌクレオチドを使用した。
【0163】
変異体46については、配列番号73、配列番号74、配列番号81及び配列番号82に示す塩基配列のオリゴヌクレオチドを使用した。
【0164】
変異体47については、配列番号13、配列番号14、配列番号81及び配列番号82に示す塩基配列のオリゴヌクレオチドを使用した。
【0165】
変異体39から変異体47について、それぞれ表4に示す組成に調整したPCR反応溶液を調整した。
【0166】
【表4】
【0167】
PCR反応条件を{98℃(10秒)、48℃(30秒)、68℃(90秒)を15サイクル}としてPCR反応を行い、アガロースゲル電気泳動により500bp〜2,000bp程度の濃いスメアバンドが観察された。
【0168】
前記PCR反応溶液を用いて、それぞれ表5に示す組成に調整したPCR反応溶液を調製した。
【0169】
【表5】
【0170】
PCR反応条件を{98℃(10秒)、48℃(30秒)、68℃(90秒)を12サイクル}としてPCR反応を行い、アガロースゲル電気泳動により約1,500bp程度のバンドが観察された。該PCR反応溶液をそれぞれエタノール沈殿に供し、合成されたDNAを精製した。
【0171】
(5−3)G6PDH多重変異体の発現用組換えベクターの合成
実施例2に記載した方法と同様に、G6PDH多重変異体DNAをそれぞれ制限酵素NcoI、HindIIIで処理し、予め該制限酵素により切断したpTrc99AへT4リガーゼにより結合させた。
【0172】
(5−4)G6PDH多重変異体の発現用組換えベクターの単離精製及び形質転換体の取得
実施例2に記載した方法と同様に、上記リガーゼ反応溶液を用いて大腸菌DH5αを形質転換し、コロニーPCRによりインサートチェックを行って陽性クローンを取得し、液体培養した該組換え大腸菌のクローンから発現用組換えベクターをそれぞれ精製した。
【0173】
(5−5)G6PDH多重変異体の塩基配列の確認
9種類のG6PDH多重変異体のシーケンシングを実施例2に記載の方法により実施した。シーケンシングには、配列番号6、配列番号7及び配列番号8に示す塩基配列のオリゴヌクレオチドをそれぞれ使用した。
【0174】
シーケンシングの結果、配列番号2に示される塩基配列中に、所望の変異のみがそれぞれ導入され、予期しない別の突然変異が導入されていないことを確認した。
【0175】
配列番号85に、変異体39の塩基配列を示す。配列番号87に、変異体40の塩基配列を示す。配列番号89に、変異体41の塩基配列を示す。配列番号91に、変異体42の塩基配列を示す。配列番号93に、変異体43の塩基配列を示す。配列番号95に、変異体44の塩基配列を示す。配列番号97に、変異体45の塩基配列を示す。配列番号99に、変異体46の塩基配列を示す。配列番号101に、変異体47の塩基配列を示す。
【0176】
また、配列番号85に示す塩基配列がコードする変異体39のアミノ酸配列を配列番号86に示す。配列番号87に示す塩基配列がコードする変異体40のアミノ酸配列を配列番号88に示す。配列番号89に示す塩基配列がコードする変異体41のアミノ酸配列を配列番号90に示す。配列番号91に示す塩基配列がコードする変異体42のアミノ酸配列を配列番号92に示す。配列番号93に示す塩基配列がコードする変異体43のアミノ酸配列を配列番号94に示す。配列番号95に示す塩基配列がコードする変異体44のアミノ酸配列を配列番号96に示す。配列番号97に示す塩基配列がコードする変異体45のアミノ酸配列を配列番号98に示す。配列番号99に示す塩基配列がコードする変異体46のアミノ酸配列を配列番号100に示す。配列番号101に示す塩基配列がコードする変異体47のアミノ酸配列を配列番号102に示す。
【0177】
以下、変異体39の発現用組換えベクターの名称をpTrcG6PDHM39と記述する。変異体40の発現用組換えベクターの名称をpTrcG6PDHM40と記述する。変異体41の発現用組換えベクターの名称をpTrcG6PDHM41と記述する。変異体42の発現用組換えベクターの名称をpTrcG6PDHM42と記述する。変異体43の発現用組換えベクターの名称をpTrcG6PDHM43と記述する。変異体44の発現用組換えベクターの名称をpTrcG6PDHM44と記述する。変異体45の発現用組換えベクターの名称をpTrcG6PDHM45と記述する。変異体46の発現用組換えベクターの名称をpTrcG6PDHM46と記述する。変異体47の発現用組換えベクターの名称をpTrcG6PDHM47と記述する。
【0178】
発現用組換えベクターpTrcG6PDH39〜47により大腸菌DH5αを形質転換した形質転換体を、実施例6のG6PDH多重変異体の耐熱性評価に使用した。
【0179】
実施例6:野生型G6PDH及びG6PDH多重変異体の耐熱性の評価
(6−1)野生型G6PDH及びG6PDH多重変異体の発現解析
実施例2に記載のpTrcG6PDH及び実施例5に記載のpTrcG6PDH39〜pTrcG6PDHM47により大腸菌DH5αを形質転換した形質転換体を培養することにより、野生型G6PDH及びG6PDH変異体を発現させた。
【0180】
形質転換体の取得及び液体培養による発現解析は、実施例4に記載した方法と同様に実施した。
【0181】
得られた形質転換体の培養液をそれぞれ1mLずつ分取して15,000rpmで5分間、遠心し、培養上清を除去して組換え大腸菌の菌体をそれぞれ得た。それぞれの菌体は以下の活性測定使用時まで−30℃のフリーザー内に保存した。
【0182】
凍結保存した菌体に1mLの20mMリン酸緩衝液(pH8.0)を添加し、超音波破砕により菌体を破砕し、15,000rpmで5分間、遠心し、上清を菌体破砕液として以下のG6PDH多重変異体の耐熱性の評価に使用した。
【0183】
多重変異体の耐熱性と単独で変異を導入した変異体の耐熱性を比較する目的で、変異体33についても同様に実験した。
【0184】
(6−2)G6PDH多重変異体の耐熱性の評価
実施例4に記載の方法に従って、野生型G6PDH、変異体33及び9種類のG6PDH多重変異体の熱処理後の残存活性を求めた。熱処理は、47℃、52℃、55℃においてそれぞれ実施した。結果を表6に示す。
【0185】
【表6】
【0186】
表6の結果より、G6PDH多重変異体39〜変異体47は、47℃の熱処理において野生型G6PDHに比べ高い耐熱性を有していることが明らかになった。
【0187】
変異体44〜変異体47は変異体33に比べて耐熱性が低いことが明らかになった。変異体44〜変異体47は変異体33を構成する「M419L」を含んでいない。従って、変異M419Lが野生型G6PDHの耐熱化に大きく寄与することが示された。
一方で、特に変異体39、変異体40、変異体41、変異体42、変異体43は52℃、55℃の熱処理において野生型G6PDH、変異体33及び他の多重変異体に比べ高い残存活性を示した。これらの変異体は上記変異「M419L」を含むが、他の耐熱化変異と同時に導入されたかという点で変異体33と異なる。
【0188】
従って、配列番号3に示される野生型G6PDHのアミノ酸配列において、変異S26A/V27L/F28Y/S118A/V119T/A120P/A159R/L174I/F175Y/D229E/T230E/A288G/M419L/M466W(変異体39)の組合せ、変異S26A/V27L/F28Y/A159R/L174I/F175Y/D229E/T230E/A288G/M419L/M466W(変異体40)の組合せ、変異S26A/V27L/F28Y/S118A/V119T/A120P/A159R/L174I/F175Y/A288G/M419L/M466W(変異体41)の組合せ、変異A159R/L174I/F175Y/M419L/M466W(変異体42)の組合せ、S26A/V27L/F28Y/S118A/V119T/A120P/A159R/L174I/F175Y/D229E/T230E/A288G/M419L(変異体43)の組合せは、それぞれを単独に導入した変異体に比べ、特段に耐熱性が優れることが明らかとなった。
【0189】
上記多重変異による更なる耐熱化への寄与は、本実施例の変異39〜変異43に限定されるものではなく、S26A/V27L/F28Y、S118A/V119T/A120P、A159R、L174I/F175Y、D229E/T230E、A288G、M419L及びM466Wの組合せにおいて、変異39〜変異43と同等の耐熱性を有する変異体が得られることは容易に推測できる。
【0190】
変異体39〜変異体43の耐熱性・比活性などの諸性質を野生型G6PDHと比較するため、実施例7に記載する大量発現と酵素精製を実施した。
【0191】
実施例7:野生型G6PDH及びG6PDH多重変異体の調整
(7−1)野生型G6PDH及びG6PDH多重変異体の大量発現
実施例2に記載のpTrcG6PDH及び実施例5に記載のpTrcG6PDHM39〜pTrcG6PDHM43により大腸菌DH5αを形質転換した形質転換体を培養することにより、野生型G6PDH及びG6PDH多重変異体を大量発現させた。
【0192】
即ち、それぞれの形質転換体の単一コロニーを2mLの100μg/mLのアンピシリンを含むLB培地に植菌して37℃で16時間振とう培養し、該LB培養液をあらかじめオートクレーブ滅菌して調整した100μg/mLのアンピシリン及び0.1mMのイソプロピル−β−チオガラクトピラノシド(和光純薬工業株式会社製)を含む50mLのTerrific培地へ植菌した。該培養液はそれぞれ37℃で16時間培養した。
【0193】
上記で得られた培養液を15,000×gで20分間、遠心し、培養上清を除去して組換え大腸菌の菌体をそれぞれ得た。それぞれの菌体は以下の精製時まで−30℃のフリーザー内に保存した。
【0194】
(7−2)野生型G6PDH及びG6PDH多重変異体の精製
該菌体に40mLの20mM リン酸緩衝液(pH7.7)を添加して菌体を懸濁し、超音波破砕機により菌体を破砕した。破砕液を15,000×gで30分間、遠心して破砕液上清を得た。
【0195】
破砕液上清に含まれるタンパク質を、あらかじめ20mM リン酸緩衝液(pH7.7)で平衡化した5mLのHiTrap
TMQ FFカラム(GEヘルスケア・ジャパン株式会社製)に吸着させ、0.0Mから0.5Mの塩化ナトリウムの濃度勾配によりG6PDH活性画分を溶出させた。
得られたG6PDH活性画分に60%飽和となるように硫酸アンモニウムを添加し、15,000×gで30分間、遠心した。上清にG6PDH活性画分が含まれることを確認して該上清を回収した。
【0196】
上記で得られた上清中のタンパク質を、60%飽和硫安とした20mM リン酸緩衝液(pH6.4)であらかじめ平衡化した6mLのRESOURCE
TM 15PHEカラム(GEヘルスケア・ジャパン株式会社製)に吸着させ、60%から0%の硫酸アンモニウムの濃度勾配によりG6PDH活性画分を溶出させた。
【0197】
上記G6PDH活性画分を20mM リン酸緩衝液(pH8.0)に対して透析し、Ultracel(商標)−30K(メルク株式会社製)を用いて濃縮した。以下、透析・濃縮されたG6PDH活性画分を精製酵素とした。
【0198】
(7−3)精製酵素の純度の確認
精製された野生型G6PDH及びG6PDH多重変異体の純度を確認するため、それぞれの精製酵素をSDS−PAGEに供した。同時に泳動した分子量マーカーにはPrecision Plus Protein
TM Dual Color Standards(Bio Rad製)を使用した。
図4に電気泳動結果を示す。
【0199】
いずれの精製酵素も夾雑タンパク質は全く観察されず、比活性等を測定するのに十分な純度を有していることが確認された。かくして得られたG6PDH多重変異体39〜43及び野生型G6PDHを以下に使用した。
【0200】
実施例8:野生型G6PDH及びG6PDH多重変異体の精製酵素を用いた各種性能評価
(8−1)比活性及びミカエリス・メンテン定数の測定
発明を実施するための形態〔G6PDHの比活性の測定〕に記載した方法に従って、野生型G6PDH、変異体39、変異体40、変異体41、変異体42、変異体43の比活性を求めた。結果を表7の比活性の欄に示す。
【0201】
基質グルコース−6−リン酸へのミカエリス・メンテン定数の測定は、以下の方法に従って実施した。
【0202】
(試薬)
・55mM トリス−塩酸緩衝液(3.3mM 塩化マグネシウム含有) pH7.8
・100mM NADP
+水溶液
・150mMから0.1mMに調整したグルコース−6−リン酸水溶液(グルコース−6−リン酸水溶液は、それぞれ150mM、125mM、100mM、75mM、50mM、25mM、12.5mM、6.25mM、3.13mM、1.56mM、0.78mM、0.39mM、0.2mM、0.1mMにあらかじめ調整した。)
・酵素活性測定試薬:上記トリス−塩酸緩衝液を0.81mL、NADP
+水溶液を0.03mL、任意の濃度のグルコース−6−リン酸水溶液を0.03mL、を混合して調整した。
酵素活性測定試薬と酵素活性測定溶液の混合液中のグルコース−6−リン酸終濃度は、それぞれ5.000mM、4.167mM、3.333mM、2.500mM、1.667mM、0.833mM、0.417mM、0.208mM、0.104mM、0.052mM、0.026mM、0.013mM、0.007mM、0.003mMである。
【0203】
(測定条件)
酵素活性測定試薬0.87mLを分光光度計用セルに入れ、30℃で5分間以上プレインキュベートした。希釈して濃度を揃えた酵素活性測定溶液0.03mLを添加してよく混合し、30℃で予めインキュベートされた分光光度計で、340nmの吸光度変化を60秒間記録し、1分間あたりの吸光度変化(ΔOD/分)を測定した。ブランクは、酵素活性測定溶液の代わりに酵素希釈液を酵素活性測定試薬に混合して上記のように吸光度変化(ΔODblank/分)を測定した。
【0204】
各グルコース−6−リン酸濃度における(ΔOD/分)の値は2回ずつ測定した。ブランク測定は、各グルコース−6−リン酸濃度に調整した酵素活性測定試薬毎に実施した。
【0205】
また、補酵素NADP
+へのミカエリス・メンテン定数の測定は、以下の方法に従って実施した。
【0206】
(試薬)
・55mM トリス−塩酸緩衝液(3.3mM 塩化マグネシウム含有) pH7.8
・150mMから0.1mMに調整したNADP
+水溶液(NADP
+水溶液は、それぞれ150mM、125mM、100mM、75mM、50mM、25mM、12.5mM、6.25mM、3.13mM、1.56mM、0.78mM、0.39mM、0.2mM、0.1mMにあらかじめ調整した。)
・150mM グルコース−6−リン酸水溶液
・酵素活性測定試薬:上記トリス−塩酸緩衝液を0.81mL、任意の濃度のNADP
+水溶液を0.03mL、グルコース−6−リン酸水溶液を0.03mL、を混合して調整した。
酵素活性測定試薬と酵素活性測定溶液の混合液中のNADP
+終濃度は、それぞれ5.000mM、4.167mM、3.333mM、2.500mM、1.667mM、0.833mM、0.417mM、0.208mM、0.104mM、0.052mM、0.026mM、0.013mM、0.007mM、0.003mMである。
【0207】
(測定条件)
基質グルコース−6−リン酸へのミカエリス・メンテン定数の測定と同様に実施した。
【0208】
(ミカエリス・メンテン定数の算出方法)
SigmaPlotソフトウェア及びそのEnzyme Kinetics Wizardプログラム(株式会社ヒューリンクス)を用いてミカエリス・メンテン定数(Km値)を算出した。計算モードは以下の通りに設定した。
Number of Substrate:1
Type of study:Single Substrate
Maximum Number of Velocity Replicates:2
Analysis:Fit to Model
Equation:Michaelis−Menten
Equation Code:Vmax*S/(Km+S)
【0209】
以上の方法により、野生型G6PDH及びG6PDH多重変異体の、基質グルコース−6−リン酸へのミカエリス・メンテン定数(Km for G6P)及び補酵素NADP
+へのミカエリス・メンテン定数(Km for NADP
+)を算出した。結果を表7のKm for G6Pの欄、及びのKm for NADP
+欄に示す。
【0210】
【表7】
【0211】
表7より、変異体40、変異体42は野生型G6PDHに比べて比活性が高いことが明らかになった。
【0212】
高い耐熱性を有しつつ比活性が高いことは、産業利用上、有用であると考えられる。一方、変異体39、変異体41、変異体43は、野生型G6PDHに比べて比活性が低下していることが判明した。基質G6PへのKm値の大幅な増加が原因と推察される。また、変異体39、変異体41、変異体43は、補酵素NADP
+へのKm値は野生型G6PDHに比べて減少していた。
【0213】
(8−2)耐熱性の評価1
精製酵素を20mM リン酸緩衝液(pH7.7)で0.1mg/mLとなるよう希釈して以下の実験を行なった。
調整した希釈精製酵素をそれぞれ0.5mLずつ分取して2.0mLプラスチックチューブに分注し、うち1本を氷上で保存、残りを任意の温度で30分間、熱処理し、すぐさま氷冷した。熱処理温度は、37℃、39℃、40.5℃、42℃、43℃、44℃、45℃、46℃、47℃、49℃、51℃、53℃、54℃、55℃、56℃、57℃、58℃及び59℃の18点とした。野生型G6PDH及び変異体39〜43について、それぞれ9点以上を測定した。
【0214】
熱処理なしのG6PDH活性を100%としたときの各熱処理温度での残存活性を求めた。結果を表8に示す。
【0215】
【表8】
【0216】
更に、表8のデータから、グラフソフトを用いて横軸に処理温度、縦軸に残存活性をプロットし、残存活性が減少するシグモイド曲線を描画した。また、残存活性が50%になるときの熱処理温度(以下、Tm
50という)を求めた。更に、変異体39〜変異体43のTm
50から野生型G6PDHのTmを差し引いた値をΔTm
50とした。結果を表9に示す。
【0217】
【表9】
【0218】
表9の結果より、ΔTm
50の値から、変異体43>変異体39>変異体41>変異体40>変異体42の順に、野生型G6PDHに比べて耐熱性が高いことが確認された。
【0219】
(8−3)耐熱性の評価2
精製酵素を20mM リン酸緩衝液(pH7.7)で0.1mg/mLとなるよう希釈して以下の実験を行なった。
調整した希釈精製酵素をそれぞれ0.5mLずつ分取して2.0mLプラスチックチューブに分注し、うち1本を氷上で保存、残りを60℃で任意の時間、熱処理し、すぐさま氷冷した。熱処理時間は2分、3分、4分、5分、10分、15分、20分、25分、30分、45分、60分、90分、120分の13点とし、野生型G6PDH及び変異体39〜43はそれぞれ4点以上測定した。
【0220】
熱処理なしの酵素活性を100%としたときの各熱処理時間でのG6PDHの残存活性を求めた。横軸に熱処理時間、縦軸に残存活性(%)の対数をプロットしてグラフを作成した(
図5)。
【0221】
また、各グラフから近似曲線を求めた。それぞれの近似曲線は以下の式によって表すことができる。
【0222】
【数5】
【0223】
ここで、yを残存活性(%)、xを熱処理時間(分)、y
max及びkの値は定数である。
【0224】
野生型G6PDH及び変異体39〜43の近似式をそれぞれ表10に示す。
【0225】
【表10】
【0226】
得られた近似式から、熱処理温度60℃において、残存活性yが50(%)になるときの時間(以下、T
1/2という)を算出した。同時に、野生型G6PDHのT
1/2を1.0としたときの変異体39〜43のT
1/2を*T
1/2として求めた。結果を表11に示す。
【0227】
【表11】
【0228】
表11の結果から、上述の表9に示したΔTm
50の結果と同様に、変異体43>変異体39>変異体41>変異体40>変異体42の順に、野生型G6PDHに比べて耐熱性が高いことが確認された。
【0229】
更に、上述した60℃の熱処理条件において、変異体39は野生型G6PDHに比べて224倍、変異体40は野生型G6PDHに比べて33倍、変異体41は野生型G6PDHに比べて95倍、変異体42は野生型G6PDHに比べて10倍、変異体43は野生型G6PDHに比べて626倍安定であることが明らかになった。
【0230】
実施例9:野生型G6PDH及びG6PDH多重変異体の基質特異性の評価
G6PDH多重変異体がグルコース−6−リン酸以外の糖リン酸に反応するように改変されていないか調べるため、以下の実験を行なった。
【0231】
補酵素にNADP
+、基質にグルコース−6−リン酸を用いたときの比活性を100%としたときの、グルコース−1−リン酸、グルコサミン−6−リン酸、6−ホスホグルコン酸、リボース−5−リン酸、フルクトース−6−リン酸、フルクトース−1、6−二リン酸、マンノース−6−リン酸を基質としたときの比活性を、野生型G6PDH及び変異体39〜変異体43について求めた。
【0232】
いずれの測定も、基質として前記糖リン酸を使用したこと以外は、発明を実施するための形態〔G6PDHの比活性の測定〕に従い、各基質の終濃度を3.333mMの条件で実施した。測定結果を表12に示す。
【0233】
【表12】
【0234】
表12の結果より、変異体39〜変異体43は、野生型G6PDHが反応しない基質に反応するような改変は起こっていないことを確認できた。一方で、野生型G6PDHはフルクトース−6−リン酸に対グルコース−6−リン酸で7.9%反応した。驚くべきことに、変異体39〜変異体43ではその値が、それぞれ0.8%、2.7%、0.8%、4.1%、1.3%と野生型の7.9%に比べて減少しており、変異体39〜変異体43は野生型G6PDHに比べて基質特異性が向上していることが確認された。
【0235】
上記の結果は、変異体39〜変異体43に導入された多重変異が基質特異性に悪影響を及ぼす可能性を調査する過程で発見された、全く予期されなかった結果である。
【0236】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更及び修正を加えることができることは、当業者にとって明らかである。