特開2015-93040(P2015-93040A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-93040(P2015-93040A)
(43)【公開日】2015年5月18日
(54)【発明の名称】腕支持装置
(51)【国際特許分類】
   A61G 13/00 20060101AFI20150421BHJP
【FI】
   A61G13/00 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-233951(P2013-233951)
(22)【出願日】2013年11月12日
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(71)【出願人】
【識別番号】591173198
【氏名又は名称】学校法人東京女子医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】奥田 英樹
(72)【発明者】
【氏名】高橋 稔
(72)【発明者】
【氏名】後藤 哲哉
(72)【発明者】
【氏名】原 洋助
(72)【発明者】
【氏名】本郷 一博
(72)【発明者】
【氏名】岡本 淳
【テーマコード(参考)】
4C341
【Fターム(参考)】
4C341MM06
4C341MN13
4C341MN17
4C341MP03
4C341MR02
4C341MR12
4C341MR20
4C341MS05
4C341MS16
(57)【要約】
【課題】載置部と腕との間の摩擦係数が低い状態であっても、ベルト部材等の固定手段で腕を載置部に固定することなく、腕の移動に対して載置部を軽やかにかつ安定的に追従させる。
【解決手段】腕と釣合う程度の上方への付勢力がアームホルダ11に付与されることにより、アームホルダ11に載置された腕の上方及び下方への移動に対してアームホルダ11が追従する。また、水平方向における左右両側及び肘側への移動がアームホルダ11における左右の壁111,112及び肘位置規制部材113により制限される。さらに、アームホルダ11に載置された腕側の掌で把持されるグリップ15が、アームホルダ11と連結ワイヤ14を介して連結されている。このため、グリップ15が把持された状態では、水平方向における腕軸方向先端側への移動に伴いアームホルダ11が引っ張られ、水平方向における腕軸方向先端側への移動に対してもアームホルダ11が追従する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業者の腕を支持する腕支持装置(1,2,3)であって、
前記腕が載置される載置部(11)と、
複数の関節(31,32,33,34,35)を有し、前記載置部を移動可能に支持する支持部(12)と、
前記複数の関節のうち少なくとも1つの機能を制限して前記載置部の移動を制限する動作モードである制限モードと、前記関節の機能の制限を解除して前記載置部の移動の制限を解除する動作モードである解除モードと、を実現するためのブレーキ(31A,32A,33A)と、
前記解除モードにおいて、上方への付勢力を前記載置部に付与するバランス機構(46,47,48)と、
前記載置部と連結部材(14)を介して連結され、前記載置部に載置された前記腕側の掌で把持される把持部(15)と、
を備え、
前記載置部は、当該載置部に対する前記腕の水平方向における左右両側及び肘側への移動を制限する制限部(111,112,113)を備える
ことを特徴とする腕支持装置。
【請求項2】
請求項1に記載の腕支持装置であって、
前記連結部材は、外力により変形することで前記載置部に対して当該把持部を変位可能に支持し、前記腕の長手方向先端側となる方向へ伸張しないように構成されている
ことを特徴とする腕支持装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の腕支持装置であって、
前記連結部材は、前記把持部への外力により弾性変形する弾性変形部(141)を有する
ことを特徴とする腕支持装置。
【請求項4】
請求項3に記載の腕支持装置であって、
前記弾性変形部には、超弾性合金が用いられている
ことを特徴とする腕支持装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の腕支持装置であって、
前記連結部材は、外力により変形し、変形後の形状を維持する変形維持部(142)を有する
ことを特徴とする腕支持装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の腕支持装置であって、
前記制限部による前記肘側への移動制限位置と、前記把持部と、の前記腕の長手方向に沿った相対位置を調整するための調整機構(16)を更に備える
ことを特徴とする腕支持装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の腕支持装置であって、
前記把持部の把持の有無を検出する把持検出手段と、
前記把持検出手段による検出状態に基づいて前記動作モードを切り替える切替手段(23)と、
を更に備えることを特徴とする腕支持装置。
【請求項8】
請求項7に記載の腕支持装置であって、
前記支持部の移動を検出する支持検出手段(31B,32B,33B)と、
前記載置部の腕の有無を検出する載置検出手段(45)と、
を更に備え、
前記切替手段は、
前記支持検出手段による検出状態に基づいて前記載置部が静止していると判定した場合に、前記動作モードを前記制限モードに切り替え、
前記把持検出手段による検出状態に基づいて前記把持部が把持されていると判定した場合に、前記載置検出手段による検出状態に基づいて前記動作モードを前記解除モードに切り替える
ことを特徴とする腕支持装置。
【請求項9】
請求項1から請求項8までのいずれか1項に記載の腕支持装置であって、
前記制限部は、当該載置部に対する前記腕の水平方向における肘側への移動を紐状部材により制限する
ことを特徴とする腕支持装置。
【請求項10】
請求項9に記載の腕支持装置であって、
前記紐状部材は、外力により変形し、前記腕の水平方向における肘側となる方向へ伸張しないように構成されている
ことを特徴とする腕支持装置。
【請求項11】
請求項9又は請求項10に記載の腕支持装置であって、
前記紐状部材は、前記載置部と少なくとも一点が固定され、外力により弾性変形するように構成されている
ことを特徴とする腕支持装置。
【請求項12】
請求項9から請求項11までのいずれか1項に記載の腕支持装置であって、
前記紐状部材には、超弾性合金が用いられている
ことを特徴とする腕支持装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業者の腕を支持する腕支持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば脳神経外科手術等のように緻密な手作業が要求される作業では、作業者(例えば手術を行う医師)の腕を支持する腕支持装置が用いられる場合がある。このような腕支持装置では、作業者が腕を動かしたいときには、腕を載置する載置部が当該腕に追従移動し、作業者が腕を固定したいときには、載置部の位置が固定される必要がある。
【0003】
そこで、可動の関節式保持アームにおける先端に設けられた支持部(載置部)にベルト部材を介して医師の腕を固定することで支持部を腕に追従移動させ、フットスイッチの操作時には関節式保持アームを固定して支持部の移動を禁止する構成が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の構成では、例えばピンセット等の器具を作業台に置く場合など、支持部から腕を外す都度、ベルト部材の着脱が必要となり、使い勝手が悪い。これに対し、腕台(載置部)を支持する多関節アームに、腕台を上方へ付勢する力を付与することで、腕台を腕の下方から圧接し、圧接による摩擦抵抗で腕台を腕に追従移動させる構成も提案されている(特許文献2参照)。この場合、多関節アームを固定して腕台の移動を禁止すれば、腕台に腕を載置して手術を行うことも、腕台から腕を外すことも容易となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−272163号公報
【特許文献2】特開2009−291363号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、例えば実際の手術においては、載置部を覆うプラスティック薄膜や、不織布製の滅菌ドレープや、医師の着用する不織布製のガウンなどが、載置部と腕との間に介在するため、摩擦係数が低い状態となる。加えて、生理的食塩水や血液など、摩擦係数が低下する要因も存在する。したがって、前述した特許文献2に記載の構成のように、上方への付勢力による摩擦抵抗で腕台を腕に安定的に追従移動させるには、極めて大きな上方への付勢力が必要となり、円滑な手術の妨げとなってしまう。
【0007】
本発明は、載置部と腕との間の摩擦係数が低い状態であっても、ベルト部材等の固定手段で腕を載置部に固定することなく、腕の移動に対して載置部を軽やかにかつ安定的に追従させるための技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面は、作業者の腕を支持する腕支持装置(1,2,3)であって、載置部(11)と、支持部(12)と、ブレーキ(31A,32A,33A)と、バランス機構(46,47,48)と、把持部(15)と、を備える。
【0009】
支持部は、複数の関節(31,32,33,34,35)を有し、腕が載置される載置部を移動可能に支持する。ブレーキは、複数の関節のうち少なくとも1つの機能を制限して載置部の移動を制限する動作モードである制限モードと、関節の機能の制限を解除して載置部の移動の制限を解除する動作モードである解除モードと、を実現する。バランス機構は、解除モードにおいて、腕の重さと釣合う程度に上方への付勢力を載置部に付与する。把持部は、載置部と連結部材(14)を介して連結され、載置部に載置された腕側の掌で把持される。載置部は、当該載置部に対する腕の水平方向における左右両側及び肘側への移動を制限する制限部(111,112,113)を備える。
【0010】
この腕支持装置では、解除モードにおいて、腕の重さと釣合う程度に上方への付勢力が載置部に付与されるため、作業者の腕の上方及び下方への移動に対して載置部が軽やかに追従し、載置部に腕が載置された状態が維持される。また、この腕支持装置では、載置部に対する腕の水平方向における左右両側及び肘側への移動が制限部により制限されるため、水平方向における左右両側及び肘側への腕の移動に対しても載置部が追従する。さらに、この腕支持装置では、載置部に載置された腕側の掌で把持される把持部が、載置部と連結部材を介して連結されているため、把持部が把持された状態では、水平方向における腕の長手方向先端側への移動に伴い、把持部及び連結部材により載置部が引っ張られる。その結果、この腕支持装置では、水平方向における腕の長手方向先端側への移動に対しても載置部が追従する。
【0011】
つまり、作業者は、解除モードにおいて、把持部を把持して前方へ引っ張ることで、腕の長手方向先端側へ載置部を追従させることができ、他の方向へは把持部を把持しなくても追従させることができる。したがって、この腕支持装置によれば、載置部と腕との間の摩擦係数が低い状態であっても、ベルト部材等の固定手段で腕を載置部に固定することなく、腕の移動に対して載置部を軽やかにかつ安定的に追従させることができる。
【0012】
なお、この欄及び特許請求の範囲に記載した括弧内の符号は、一つの態様として後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第1実施形態の腕支持装置の構成を模式的に示す図である。
図2】実施形態のアームホルダの斜視図である。
図3】連結ワイヤの構成を模式的に示す図である。
図4】第2実施形態の腕支持装置の構成を模式的に示す図である。
図5】第2実施形態のモード切替処理のフローチャートである。
図6】第2実施形態の動作モードの遷移を示す図である。
図7】第3実施形態の腕支持装置の構成を模式的に示す図である。
図8】第3実施形態のモード切替処理のフローチャートである。
図9】第3実施形態の動作モードの遷移を示す図である。
図10】変形例のアームホルダの部分斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明が適用された実施形態について、図面を用いて説明する。
[1.第1実施形態]
[1−1.構成]
図1に示す第1実施形態の腕支持装置1は、手術を行う作業者としての医師の腕を支持する装置である。腕支持装置1は、医師の腕(具体的には前腕)が載置されるアームホルダ11と、複数の関節を有し(換言すれば多自由度を有し)、アームホルダ11を移動可能に支持する多関節アーム12と、電気的な制御を行うための制御装置13と、を備える。
【0015】
図2に示すように、アームホルダ11は、上方が開いた形状(断面U字形)に構成され、載置面(底面)114に載置された腕を左右両側から挟む壁111,112を備える。また、アームホルダ11は、載置される腕の長手方向(以下「腕軸方向」という。)における肘側に、肘位置規制部材113を備える。左右の壁111,112及び肘位置規制部材113は、剛性の高い材料で形成されており、アームホルダ11に載置された腕の水平方向における左右両側及び肘側への移動(アームホルダ11に対する相対移動)を制限する。なお、左右の壁111,112と肘位置規制部材113とは、異なる材料で形成されてもよい。
【0016】
アームホルダ11に対する腕軸方向先端側(腕の長手方向先端側、つまり掌側)には、アームホルダ11と連結ワイヤ14を介して連結され、アームホルダ11に載置された腕側の掌で把持するためのグリップ15が設けられている。本実施形態では、グリップ15は、小指で握ることができるように、比較的小さな概略円柱状に形成されており、例えばゴムを用いて形成されている。
【0017】
連結ワイヤ14は、外力により変形することで、アームホルダ11に対するグリップ15の位置を変位可能に支持する。具体的には、図3に示すように、連結ワイヤ14は、超弾性合金線材141と軟鋼線材(いわゆる針金)142とが結合部材(カシメ部材)143により一体にされた部材である。なお、超弾性合金とは、変態点が常温以下の形状記憶合金(例えばチタンとニッケルとの合金)であり、大きな歪みで変形しても、変形力が除かれると元に戻る性質を有する。
【0018】
連結ワイヤ14において、超弾性合金線材141は、外力により弾性変形する弾性変形部として機能し、軟鋼線材142は、外力により変形して変形後の形状を維持する変形維持部として機能する。本実施形態では、図3に示すように、先端側(グリップ15側)の一部が変形維持部、残りが弾性変形部とされており、外力が加えられていない状態でのグリップ15の位置(初期位置)を、掌付近で調整可能とされている。また、連結ワイヤ14は、腕軸方向における先端側(掌側)へ伸張しない(連結ワイヤ14自体の長さが硬度の柔らかいゴム等のように伸びない)ように構成されている。
【0019】
また、図2に示すように、アームホルダ11には、肘位置規制部材113による肘側への移動制限位置に対する、腕軸方向に沿ったグリップ15の相対位置を調整するための調整機構16が設けられている。調整機構16の構成は特に限定されないが、図2では一例として、連結ワイヤ14が、腕軸方向に沿って設けられた挿入孔161に挿入された状態で、図示しないバネの付勢力により固定された構成を示している。この構成では、連結ワイヤ14は、ボタン162が押されている状態でバネの付勢力が抑制されて固定状態が解除され、腕軸方向における位置を調整可能な状態となる。
【0020】
一方、図1に示すように、多関節アーム12は、5つの関節31,32,33,34,35を有して5自由度に構成されている。本実施形態では、関節31〜35はいずれも回転関節である。具体的には、多関節アーム12は、手術室の床Fに固定されたベース部41を備え、ベース部41によって次のように全体が支持されている。すなわち、ベース部41の上端には、関節31を介して肩部42が鉛直軸回りに回転可能に接続されている。なお、ベース部41は、図示しないキャスタによって床Fの上を容易に移動可能に構成されている。キャスタには、周知のストッパが設けられ、ベース部41は床Fの上における所望の位置に固定的に配置可能となっている。
【0021】
肩部42の上端には、関節32を介して第1腕部43の一端が水平軸回りに揺動可能に接続されている。第1腕部43は、2本の棒材の両端が上下方向に一定間隔に維持された平行リンク機構として構成され、上側の棒材の一端が関節32に接続されている。第1腕部43の他端には、同様の平行リンク機構として構成された第2腕部44の一端が、関節33を介して水平軸回りに揺動可能に接続されている。第2腕部44の他端には、水平軸回りに回転可能な関節34とその関節34とは回転軸が直交する関節35とを介して、アームホルダ11が接続されている。
【0022】
関節33と第1腕部43及び第2腕部44との間には、バネ46,47がそれぞれ設けられている。また、第1腕部43は、関節32を突き抜けて延びており、その先端部にカウンタウェイト48が設けられている。バネ46,47及びカウンタウェイト48は、後述するフリーモードにおいて、鉛直方向上方への付勢力をアームホルダ11に付与し、アームホルダ11に医師の腕が載置されたとき、アームホルダ11及び多関節アーム12に加わる力のバランスをとるためのものである。
【0023】
すなわち、バネ46,47とカウンタウェイト48とから加わる付勢力が、多関節アーム12の自重、アームホルダ11の自重及び腕の自重の和と釣り合うことにより、アームホルダ11が支持される。ここで、自重による下方への力と上方への付勢力とは完全に釣り合うのが理想的であるが、医師の手が患者の患部の上方から作業を行うことを考慮して、安全方向である上方へ、アームホルダ11を極めて弱い力で付勢するように設定されている。なお、カウンタウェイト48だけでバランスが取れる場合は、バネ46,47は省略してもよい。
【0024】
各関節31,32,33には、当該関節31,32,33の機能(本実施形態では回転機能)を制限する(本実施形態ではロックする)ブレーキ31A,32A,33Aが設けられている。本実施形態では、ブレーキ31A,32A,33Aとして、電磁ブレーキが用いられている。これにより、腕支持装置1において、アームホルダ11の移動を制限(本実施形態ではロック)する動作モードであるロックモードと、アームホルダ11の移動の制限(ロック)を解除した動作モードであるフリーモードと、が実現される。
【0025】
ロックモードは、固定されたアームホルダ11の上に医師が腕を載置する状態を想定した動作モードである。ロックモードでは、ブレーキ31A,32A,33Aにより関節31,32,33が固定され、アームホルダ11の移動が禁止(位置が固定)される。ロックモードにおいては、医師がアームホルダ11から腕を外しても、アームホルダ11の位置が固定されている。ただし、関節34,35にはブレーキがないため、アームホルダ11の角度は自由に調整することができる。
【0026】
一方、フリーモードは、医師がアームホルダ11を腕に追従移動させる状態を想定した動作モードである。フリーモードでは、ブレーキ31A,32A,33Aによる関節31,32,33の固定が解除され、アームホルダ11を自由に動かすことができる。フリーモードにおいて、アームホルダ11から腕に加わる力は極めて小さく、ブレーキ31A,32A,33Aの摺動抵抗も小さいので、医師は腕にそれ程力を加えなくてもその腕にアームホルダ11を追従移動させることができる。
【0027】
制御装置13は、CPU131、ROM132及びRAM133を備えた電子制御回路を内蔵する。制御装置13は、ブレーキ31A,32A,33Aを制御することにより、動作モードをフリーモード及びロックモードのうちのいずれかに切り替える。第1実施形態において、動作モードを切り替える条件は特に限定されない。図1では一例として、制御装置13に足踏み式のモード切替ボタン134が接続された構成を示している。この構成では、モード切替ボタン134の操作に基づいて動作モードを切り替えることができる。
【0028】
[1−2.効果]
以上詳述した第1実施形態によれば、以下の効果が得られる。
[1A]腕支持装置1では、フリーモードにおいて、腕の重さと釣合う程度に上方への付勢力がアームホルダ11に付与されるため、医師の腕の上方及び下方への移動に対してアームホルダ11が軽やかに追従し、アームホルダ11に腕が載置された状態が維持される。また、腕支持装置1では、アームホルダ11に対する腕の水平方向における左右両側及び肘側への移動がアームホルダ11における左右の壁111,112及び肘位置規制部材113により制限される。このため、水平方向における左右両側及び肘側への腕の移動に対してもアームホルダ11が追従する。さらに、腕支持装置1では、アームホルダ11に載置された腕側の掌で把持されるグリップ15が、アームホルダ11と連結ワイヤ14を介して連結されている。このため、グリップ15が把持された状態では、水平方向における腕軸方向先端側への移動に伴い、グリップ15及び連結ワイヤ14によりアームホルダ11が引っ張られる。その結果、この腕支持装置1では、水平方向における腕軸方向先端側への移動に対してもアームホルダ11が追従する。
【0029】
つまり、フリーモードにおいて、医師は、グリップ15を把持して前方へ引っ張ることで、腕軸方向先端側へアームホルダ11を追従させることができ、他の方向へはグリップ15を把持しなくても追従させることができる。したがって、この腕支持装置1によれば、アームホルダ11と腕との間の摩擦係数が低い状態であっても、ベルト部材等の固定手段で腕をアームホルダ11に固定することなく、腕の移動に対してアームホルダ11を軽やかにかつ安定的に追従させることができる。
【0030】
[1B]連結ワイヤ14は、外力により変形することでアームホルダ11に対して当該グリップ15を変位可能に支持し、腕軸方向先端側となる方向へ伸張しないように構成されている。したがって、アームホルダ11に対するグリップ15の位置が固定されている場合と比較して、追従性が高く、手首の動きの自由度を高くすることができる。しかも、グリップ15が腕軸方向先端側へ伸張しないため、グリップ15でアームホルダ11を引っ張る際のダイレクト性を高くすることができる。
【0031】
[1C]連結ワイヤ14は、グリップ15への外力により弾性変形する弾性変形部を有する。したがって、外力が加えられていない状態ではグリップ15が元の位置(初期位置)に復帰するため、グリップ15の位置を直感的に把握しやすくすることができる。
【0032】
[1D]弾性変形部には、経年劣化がほとんどなく、塑性変形も生じにくい超弾性合金が用いられているため、耐久性及び信頼性を向上させることができる。
[1E]連結ワイヤ14は、外力により変形し、変形後の形状を維持する変形維持部を有するため、外力が加えられていない状態でのグリップ15の位置(初期位置)を、例えば医師の好み等に応じて掌の近くにおいて容易に変更することができる。
【0033】
[1F]肘位置規制部材113による肘側への移動制限位置と、グリップ15と、の腕軸方向に沿った相対位置を調整するための調整機構を備えるため、医師の腕の長さ等に応じた調整を行うことができる。その結果、無駄な遊びを少なくすることができ、グリップ15でアームホルダ11を引っ張る際のダイレクト性を高くすることができる。
【0034】
なお、第1実施形態では、腕支持装置1が腕支持装置の一例に相当し、アームホルダ11が載置部の一例に相当し、アームホルダ11における左右の壁111,112及び肘位置規制部材113が制限部の一例に相当する。また、多関節アーム12が支持部の一例に相当し、連結ワイヤ14が連結部材の一例に相当し、グリップ15が把持部の一例に相当し、調整機構16が調整機構の一例に相当し、バネ46,47及びカウンタウェイト48がバランス機構の一例に相当する。また、ロックモードが制限モードの一例に相当し、フリーモードが解除モードの一例に相当する。
【0035】
[2.第2実施形態]
[2−1.構成]
図4に示す第2実施形態の腕支持装置2は、基本的な構成は第1実施形態の腕支持装置1と同様であるため、共通する構成については説明を省略し、相違点を中心に説明する。
【0036】
第2実施形態の腕支持装置2は、第1実施形態のモード切替ボタン134に代えて、グリップ15に加えられる外力(把持の有無)を検出する把持センサ151を備える。把持センサ151は、グリップ15の内部に設けられる。本実施形態では、把持センサ151として、外部からの加圧を検出する加圧センサが用いられる。ただし、把持センサ151は加圧センサに限定されるものではなく、例えば、接触、歪み、圧力など、グリップ15が把持されたことを何らかの形で検出できるセンサ(ボタン等のスイッチも含む)であればよい。
【0037】
また、腕支持装置2は、第1実施形態の制御装置13に代えて、把持センサ151による検出状態に基づいて動作モードを切り替える制御装置23を備える。制御装置23は、第1実施形態の制御装置13と同様、CPU231、ROM232及びRAM233を備えた電子制御回路を内蔵する。制御装置23は、把持センサ151による検出状態に基づいてブレーキ31A,32A,33Aを制御することにより、動作モードをフリーモード及びロックモードのうちのいずれかに切り替える。
【0038】
[2−2.処理]
次に、制御装置23(具体的にはCPU231)が、ROM232に記憶されたプログラムに基づいて実行するモード切替処理について、図5のフローチャートを用いて説明する。なお、図5のモード切替処理は、腕支持装置1の電源がオンの状態において周期的に実行される。
【0039】
まず、制御装置23は、把持センサ151による検出状態に基づいて、グリップ15が把持されているか否かを判定する(S11)。例えば、把持センサによる検出値が、把持されていることの判定基準となるしきい値以上である場合に、グリップ15が把持されていると判定される。
【0040】
制御装置23は、グリップ15が把持されていると判定した場合には(S11:YES)、動作モードをフリーモードに設定し(S12)、処理をS11へ戻す。具体的には、制御装置23は、ブレーキ31A,32A,33Aをすべてオフにする(関節31,32,33の機能を制限しない状態にする)ことで、フリーモードを実現する。
【0041】
一方、制御装置23は、グリップ15が把持されていないと判定した場合には(S11:NO)、動作モードをロックモードに設定し(S13)、処理をS11へ戻す。具体的には、制御装置23は、ブレーキ31A,32A,33Aをすべてオンにする(関節31,32,33の機能を制限した状態にする)ことで、ロックモードを実現する。
【0042】
つまり、第2実施形態では、図6に示すように、グリップ15が把持されると動作モードがフリーモードへ遷移し、把持状態が継続されている間はフリーモードが維持される。その後、グリップ15が把持されなくなると、動作モードがロックモードへ遷移する。
【0043】
[2−3.効果]
以上詳述した第2実施形態によれば、前述した第1実施形態の効果に加え、以下の効果が得られる。
【0044】
[2A]グリップ15に加えられる外力(把持の有無)を把持センサ151により検出し、把持センサ151による検出状態に基づいて動作モードを切り替える。したがって、腕支持装置2によれば、アームホルダ11に載置された側の掌を用いて、最小限の動き(例えば小指による力の入れ方等)で動作モードを切り替えることができる。
【0045】
[2B]グリップ15が把持されている状態で動作モードがフリーモードに設定されるため、アームホルダ11をより安全に移動させることができる。ただし、第2実施形態で説明した動作モードの切替条件は一例であり、これに限定されるものではない。例えば、把持操作が1回行われるごとに、動作モードが切り替わるようにしてもよい。なお、第2実施形態では、腕支持装置2が腕支持装置の一例に相当し、把持センサ151が把持検出手段の一例に相当し、制御装置23が切替手段の一例に相当する。
【0046】
[3.第3実施形態]
[3−1.構成]
図7に示す第3実施形態の腕支持装置3は、基本的な構成は第2実施形態の腕支持装置2と同様であるため、共通する構成については説明を省略し、相違点を中心に説明する。
【0047】
第3実施形態の腕支持装置3において、各関節31,32,33には、当該関節31,32,33の機能(回転機能)による回転量を検出するエンコーダ31B,32B,33Bが設けられている。
【0048】
また、アームホルダ11は、力センサ45を介して関節35に接続されている。力センサ45は、アームホルダ11に加わる少なくとも上下方向の1軸方向の力を検出する。なお、力センサ45は、アームホルダ11に加えられる外力(腕の有無)を検出可能であればよく、接触の有無、圧力、歪み等を外力として検出するようにしてもよい。
【0049】
また、腕支持装置3では、制御装置23が、把持センサ151、エンコーダ31B,32B,33B及び力センサ45による検出状態に基づいてブレーキ31A,32A,33Aを制御することにより、動作モードを切り替える。
【0050】
[3−2.処理]
次に、制御装置23(具体的にはCPU231)が、第2実施形態のモード切替処理(図5)に代えて実行するモード切替処理について、図8のフローチャートを用いて説明する。なお、図8のモード切替処理も、第2実施形態と同様、腕支持装置1の電源がオンの状態において周期的に実行される。
【0051】
まず、制御装置23は、動作モードをロックモードに設定する(S21)。この設定処理は、前述した第2実施形態のS13の処理と同様である。
続いて、制御装置23は、把持センサ151による検出状態に基づいて、グリップ15が把持されているか否かを判定する(S22)。この判定処理は、前述した第2実施形態のS11の処理と同様である。制御装置23は、グリップ15が把持されるまで判定を繰り返し(S22:NO)、グリップ15が把持されていると判定した場合に(S22:YES)、処理をS23へ移行させる。
【0052】
S23で、制御装置23は、アームホルダ11(先端)に加わる力が所定のしきい値以下となったか否かを判定する。具体的には、制御装置23は、アームホルダ11に加わる力が1.0kgf以下、又は、アームホルダ11に加わるトルクが5.0kgcm以下、の状態が200ms継続したか否かを判定する。アームホルダ11に加わる力がしきい値以下となる状態とは、医師が腕を動かそうとして自身の筋肉で腕を支えた可能性の高い状態である。すなわち、医師がアームホルダ11を積極的に腕に追従移動させようとした場合、医師は、まず、腕を自身の筋肉で支え、続いて腕を介してアームホルダ11に力を加える。その際、腕を自身の筋肉で支えるため、アームホルダ11に上方から加わる力が一時的に所定値(例えば1.0kgf)以下となる。そこで、アームホルダ11に加わる力がしきい値以下となった状態と、医師が腕を動かそうとする状態として判定する。
【0053】
制御装置23は、アームホルダ11に加わる力がしきい値以下となっていないと判定した場合には(S23:NO)、処理をS22へ戻す。一方、制御装置23は、アームホルダ11に加わる力がしきい値以下となったと判定した場合には(S23:YES)、動作モードをフリーモードに設定する(S24)。この設定処理は、前述した第2実施形態のS12の処理と同様である。
【0054】
続いて、制御装置23は、アームホルダ11(先端)の移動が停止したか否かを判定する(S25)。つまり、医師が腕を動かし終えてアームホルダ11の位置を固定しようとしている状態であるか否かが判定される。具体的には、制御装置23は、アームホルダ11の速度が1mm/s以下の状態が100ms継続したか否かを判定する。アームホルダ11の速度は、各エンコーダ31B,32B,33Bによる検出状態(検出値)に基づいて算出される。つまり、各軸の回転が停止しているか否かが判定される。制御装置23は、当該状態が100ms継続するまで判定を繰り返し(S25:NO)、当該状態が100ms継続したと判定した場合に(S25:YES)、処理をS21へ戻して、動作モードをロックモードに設定する(S21)。
【0055】
つまり、第3実施形態では、図9に示すように、グリップ15が把持され、かつ、医師が腕を動かそうとする(腕による荷重がしきい値以下になる)と、動作モードがフリーモードへ遷移し、医師が腕を動かし終えると、動作モードがロックモードへ遷移する。
【0056】
[3−3.効果]
以上詳述した第3実施形態によれば、前述した第2実施形態の効果に加え、以下の効果が得られる。
【0057】
[3A]腕支持装置3は、アームホルダ11の腕の有無を検出する力センサ45と、多関節アーム12の移動を検出するエンコーダ31B,32B,33Bと、を更に備える。そして、制御装置23は、エンコーダ31B,32B,33Bによる検出状態に基づいてアームホルダ11が静止していると判定した場合に、動作モードをロックモードに切り替える。また、制御装置23は、把持センサ151による検出状態に基づいてグリップ15が把持されていると判定した場合に、力センサ45による検出状態に基づいて動作モードをフリーモードに切り替える。したがって、直感的な操作で動作モードを切り替えることができる。例えば、グリップ15を把持している状態では、腕を浮かせるような挙動だけのワンアクションで、フリーモードに移行させることができ、そのまま腕を静止すると、ロックモードに移行させることができる。また例えば、術具を交換するときなどには、グリップ15から自然に手を離すため、アームホルダ11から腕を浮かす際には、ロックモードとなってアームホルダ11の位置が固定されるようにすることができる。
【0058】
なお、第3実施形態では、腕支持装置3が腕支持装置の一例に相当し、制御装置23が切替手段の一例に相当し、エンコーダ31B,32B,33Bが支持検出手段に相当し、力センサ45が載置検出手段の一例に相当する。
【0059】
[4.他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されることなく、種々の形態を採り得ることは言うまでもない。
【0060】
[4A]上記実施形態では、腕軸方向に沿ったグリップ15の位置を調整する調整機構16を備えた構成を例示したが、これに限定されるものではない。例えば、グリップ15の位置に代えて、又はグリップ15の位置とともに、腕軸方向に沿った肘位置規制部材113の位置を調整する調整機構を備えた構成としてもよい。
【0061】
[4B]上記実施形態では、アームホルダ11に載置された腕の水平方向における肘側への移動を、剛性の高い材料で形成された肘位置規制部材113(図2)で制限する構成を例示したが、これに限定されるものではない。例えば、図10に示すアームホルダ41のように、肘位置規制ワイヤ413(紐状部材に相当)により制限してもよい。肘位置規制ワイヤ413は、外力により変形し、腕の水平方向における肘側となる方向へ伸張しない(肘位置規制ワイヤ413自体の長さが硬度の柔らかいゴム等のように伸びない)ように構成されている。具体的には、肘位置規制ワイヤ413を少なくとも一点でアームホルダ41と回転不可能に固定し、任意の曲げ方向に弾性変形可能とし、外力が加えられていない状態では所定の初期位置へ復帰するようにしてもよい。また、肘位置規制ワイヤ413には超弾性合金が用いられてもよい。このような構成によれば、腕の曲げ状態に応じて肘位置規制ワイヤ413が変形するため、肘を伸ばした状態でも曲げた状態でも上腕にフィットしやすく、種々の姿勢において肘側への移動を制限することができる。また、左右の腕用のアームホルダ11の形状を共通化しやすくすることができる。なお、図10では、連結ワイヤ14及びグリップ15の図示を省略している。
【0062】
[4C]上記実施形態では、弾性変形部として機能する超弾性合金線材141と、変形維持部として機能する軟鋼線材142と、を結合した連結ワイヤ14を例示したが(図3)、連結ワイヤ14の構成はこれに限定されるものではない。例えば、弾性変形部の材質は、組成変形しにくく弾性変形しやすい弾性体であればよく、また、変形維持部の材質は、組成変形しやすく破損しにくい物体であればよい。また、変形維持部を有しない構成としてもよく、逆に、弾性変形部を有しない構成としてもよい。
【0063】
[4D]上記実施形態では、手術を行う作業者としての医師の腕を支持する用途を前提として説明したが、これに限定されるものではなく、例えば精密機械の製造作業を行う際に腕を支持する装置などに適用してもよい。
【0064】
[4E]上記実施形態における1つの構成要素が有する機能を複数の構成要素として分散させたり、複数の構成要素が有する機能を1つの構成要素に統合したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、同様の機能を有する公知の構成に置き換えてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を、課題を解決できる限りにおいて省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加、置換等してもよい。なお、特許請求の範囲に記載の文言から特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本発明の実施形態である。
【0065】
[4F]本発明は、前述した腕支持装置の他、当該腕支持装置を構成する制御装置、当該制御装置としてコンピュータを機能させるためのプログラム、このプログラムを記録した媒体、モード切替方法など、種々の形態で実現することができる。
【符号の説明】
【0066】
1,2,3…腕支持装置、11…アームホルダ、12…多関節アーム、13,23…制御装置、14…連結ワイヤ、15…グリップ、16…調整機構、31,32,33,34,35…関節、31A,32A,33A…ブレーキ、31B,32B,33B…エンコーダ、45…力センサ、46,47…バネ、48…カウンタウェイト、111,112…壁、113…肘位置規制部材。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10