【課題】 長時間の印刷において、地汚れの発生がなく、湿し水との乳化にかかわる問題を防止して、濃度・光沢不足、転写不良や汚れ等の印刷不良を軽減すること。
【解決手段】 顔料、ロジン変性フェノール樹脂等のバインダ樹脂、植物油、溶剤およびトリデカノール、2−ヘキシルオクタノール、2−ヘキシルデカノール、2−オクチルデカノール、又はヘキシルジグリコール等の炭素原子数8〜18の脂肪族アルコールを含有することを特徴とする印刷インキ。
前記炭素原子数8〜18の脂肪族アルコールが、トリデカノール、2−ヘキシルオクタノール、2−ヘキシルデカノール、2−オクチルデカノール、およびヘキシルジグリコールからなる群から選ばれる1種以上の化合物である請求項1記載の印刷インキ。
【背景技術】
【0002】
商業印刷で使用されている紙は、紙表面の塗工層の有無で、塗工紙と非塗工紙に大別され、更に塗工紙は塗布されているコーティング剤の量によってアート紙、コート紙、軽量コート紙、微塗工紙に分類される。一方、非塗工紙の場合、化学パルプだけで製造された上質系とメカニカルパルプを一部併用した中質パルプに分類される。近年、微塗工紙やの非塗工紙の中でも中質系のざら紙等の低下級紙の使用比率が増加傾向にある。低下級紙の場合、水を過剰に供給しながら印刷をするため、従来のインキでは過乳化し、版面上の非画線部へのインキの付着による地汚れ、ブランケットへのインキの堆積、ローラーへのインキの堆積、インキのローラーからの飛散、等の現象が発生し、印刷作業の効率を著しく劣化させる事があった。また、これらの印刷適性上の問題は印刷物品質にも影響し、紙へのインキの着肉性の低下に起因するベタ部分の着肉性の劣化、網点再現性の低下をもたらし満足な印刷物を得る事が出来ない。
これらの不具合を改善するために、脂肪族ジオールを配合した技術が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
しかし、該技術は、長時間の印刷において、地汚れの発生を低減する点は改善したものの、依然として、湿し水との乳化にかかわる問題の発生を改善するまでには至っていない。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明に用いる顔料としては有機顔料が多く用いられジスアゾイエロー、ブリリアントカーミン6B、フタロシアニンブルーが代表的なものであり、墨インキ用としてのカーボンブラック、そのほかの無機顔料などが挙げられる。
【0009】
本発明に用いるバインダー樹脂としては、一般的なロジン変性フェノール樹脂、石油樹脂、アルキッド樹脂、エステルガム、ロジンアルキッド等があげられる。中でも特にロジン、アルキルフェノール、ホルムアルデヒド、ポリオールから合成されたロジン変性フェノール樹脂が好ましく、アルキルフェノール成分としてパラノニルフェノール(PNP)、パラブチルフェノール(PTBP)を用いたもの、もしくはPNP、PTBP、およびパラオクチルフェノール(POP)からなる群から選ばれる2種以上のフェノールを併用したロジン変性フェノール樹脂を主成分とするものが挙げられる。更に、フェノール類としてこれらのフェノールに加えてビスフェノールAを加えてもよい。
【0010】
前記ロジン変性フェノール樹脂の製造法としては、例えばロジン類100重量部にレゾール型フェノール樹脂40〜130重量部を100〜250℃で反応させた後にロジン類のカルボン酸の1当量に対してポリオール類の水酸基が0.5〜1.2当量になるようにポリオール類を添加し250〜260℃でエステル化して製造したものや、ロジン類をポリオール類でエステル化した後にレゾール型フェノール樹脂を反応させて製造したものなどがあり、種々のものが使用できる。
【0011】
また石油樹脂等も用いることができ、芳香族系石油樹脂、DCPD(ジシクロペンタジエン)系石油樹脂のどれでも用いる事ができる。芳香族系石油樹脂はクマロン、インデン、ビニルトルエンなどを主成分としてこれらのモノマーをカチオン重合した樹脂であり、フェノール変性やマレイン酸変性なども行う事ができ重量平均分子量が1000〜6000程度のものが一般的である。
【0012】
前記DCPD系石油樹脂はシクロペンタジエンを重合させて更に他のフェノールなどの極性モノマーやマレイン酸、乾性油などとの共重合を行いポリオールでのエステル化を行ったものなどが挙げられ、重量平均分子量が1万〜20万程度のものがある。
【0013】
本発明に用いる植物油としては、バージンの植物油、再生処理した植物油のいずれも使用可能である。
【0014】
前記バージンの植物油とは、グリセリンと脂肪酸とのトリグリセリライドにおいて、少なくとも1つの脂肪酸が、炭素−炭素不飽和結合を少なくとも1つ有する脂肪酸であるトリグリセリライドである。例として、アサ実油、アマニ油、エノ油、オイチシカ油、オリーブ油、カカオ油、カポック油、カヤ油、カラシ油、キョウニン油、キリ油、ククイ油、クルミ油、ケシ油、ゴマ油、サフラワー油、ダイコン種油、大豆油、大風子油、ツバキ油、トウモロコシ油、ナタネ油、ニガー油、ヌカ油、パーム油、ヒマシ油、ヒマワリ油、ブドウ種子油、ヘントウ油、松種子油、綿実油、ヤシ油、落花生油、脱水ヒマシ油等が挙げられる。本発明において、さらに好適な植物油を挙げるとすれば、そのヨウ素価が少なくとも90以上である植物油が好ましく、さらにヨウ素価が100以上の植物油がより好ましい。ヨウ素価を100以上とすることで、植物油分子中の反応点が増し、高分子量化に有利となる。
【0015】
前記再生処理された植物油は、前記の使用された植物油を類含水率を0.3重量%以下、ヨウ素価を90以上、酸価を3以下として再生処理した油が好ましく、より好ましくはヨウ素価100以上である。含水率を0.3重量%以下にすることにより水分に含まれる塩分等のインキの乳化挙動に影響を与える不純物を除去することが可能となり、ヨウ素価を90以上として再生することにより、乾燥性、すなわち酸化重合性の良いものとすることが可能となり、さらに酸価が3以下の植物油を選別して再生することにより、インキの過乳化を抑制することが可能となる。回収植物油の再生処理方法としては、濾過、静置による沈殿物の除去、および活性白土等による脱色といった方法が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0016】
前記植物油は、本発明の印刷インキのその他の成分の混合物に添加してもよいし、バインダー樹脂合成時に、その原料の一部として添加、もしくは反応させておいてもよい。
【0017】
本発明のインキには、必要に応じて有機溶剤を用いてよい。この際用いられる溶剤としては、流動性付与などの目的で、AF溶剤、ノルマルパラフィン系溶剤、イソパラフィン系溶剤、マシン油、シリンダー油などに代表される石油系溶剤を適宜選択して用いることができる。
なかでも沸点160℃以上の炭化水素系溶剤が好ましく、例えば、パラフィン系溶剤、イソパラフィン系溶剤、ナフテン系溶剤、芳香族成分含有パラフィン系溶剤等の沸点200℃以上の石油系溶剤が挙げられる。具体例としては、AFソルベント4号、AFソルベント5号、AFソルベント6号、AFソルベント7号〔以上、新日本石油(株)製〕、IPソルベント2028、IPソルベント2835〔以上、出光石油化学(株)製〕等が挙げられる。これらのうち、最近の環境、衛生面への配慮から芳香族成分の含有量は、1重量%以下のものが、好ましい。
【0018】
本発明におけるインキは、例えば、顔料0〜30重量%、樹脂10〜50重量%、植物油1〜40重量%および溶剤1〜40重量%からなっている。インキの種類としては枚葉印刷機用インキ、オフセット輪転印刷機用インキが主なものであるがこれに限定されるものではなく、また植物油の含有量としては、下記に記載された植物油含有基準値に適応するように植物油を配合することが好ましい。
・新聞オフ輪インキ;30重量%以上
・ノンヒートオフ輪インキ;30重量%以上
・枚葉インキ;20重量%以上(但し、金、銀、パール、白インキは10重量%以上)
・ビジネスフォームインキ;20重量%以上
・ヒートセットオフ輪インキ;7重量%以上
・各種UVインキ;7重量%以上
・フレキソインキ;植物由来のタンパク3重量%以上
【0019】
本発明に用いる炭素原子数8〜18の脂肪族アルコールとしては、トリデカノール、2−ヘキシルオクタノール、2−ヘキシルデカノール、2−オクチルデカノール等の脂肪族アルコール、ヘキシルジグリコール等が挙げられる。
【0020】
前記炭素原子数8〜18の脂肪族アルコールの添加量は、インキ組成物100重量部あたり、0.1重量部以上であることが、過乳化を抑制することに顕著な効果を有することから好ましく、5.0重量部以下であることが、インキの適正な粘度を保持できることから好ましい。
【0021】
さらに本発明のインキにおいては、前記以外の脂肪族ジオールを含有してもよい。脂肪族ジオールを添加する事により樹脂の溶解性を向上させてインキとしてのタック、フロー、粘度、弾性率等の粘弾性特性を最適な状態に調整する事ができる。本発明にかかるジオール類の含有量は0.1〜5重量%が適当であるが、好ましくは0.2〜4重量%がよく、更に好ましくは0.3〜2重量%がよく、最も好適なのは0.4〜1重量%の範囲内での含有量である。含有量が0.1重量%に満たないときは目的とする効果が得られず、一方含有量が5重量%を超える時は平版印刷用インキとしてのフローが長くなりすぎて、粘度も低くなりすぎる為にミスチング、地汚れ、網点太り、等の問題が発生しやすくなるので好ましくない。
【0022】
前記以外の脂肪族ジオールは次の一般式で表されるものが好ましい。
(A):HO(CH
2)
hOH(B):CH
3(CH
2)
jC(CH
2OH)
2(CH
2)
kCH
3(C):CH
3(CH
2)
lC(OH)HC(R)H(CH
2)
mOH(D):HOCH
2CH(R)(CH
2)
nCH(R)CH
2OH(ただし、式中、hは2〜7の整数であり、j,k,l,m,nはそれぞれ独立に0〜3の整数であり、Rはメチル基又はエチル基を表す。)
【0023】
これらのジオールとしては、分子構造的に直鎖のものとしては1,2エタンジオール、1,2プロパンジオール、1,4ブタンジオール、1、5ペンタンジオール、1、6ヘキサンジオール、1,7ヘプタンジオール、等があげられ、一方分岐構造のものとしては2,2ジメチル1,3プロパンジオール、2,2ジエチル1,3プロパンジオール、2ブチル2エチル1,3プロパンジオール、2エチル1,3ヘキサンジオール、2エチル1,3ペンタンジオール、2メチル1,3ヘキサンジオール、2メチル1,3ヘプタンジオール、2,4ジエチル1,5ペンタンジオール、2,5ジメチル1,6ヘキサンジオール、等のジオールであり、これらのジオールを単独で使用、もしくは必要に応じて2種類以上を組み合わせて使用する事ができる。
【0024】
これらのジオールのうちで特に好ましいのは、分子構造的に直鎖構造ではなく分岐鎖構造のジオールであり、そのようなジオールは樹脂との相溶性が良くインキの流動性を良好にする事ができる。またアルキル基の分岐鎖があることにより分子が疎水的となり耐加水分解性が高く効果の安定持続性にも優れているので好ましい。
【0025】
尚、本発明にかかるジオールをインキに配合する方法としては、ワニス中に溶剤とともに配合しても良く、インキ製造中に配合しても良く適宜選択する事ができる。
【実施例】
【0026】
次に本発明を具体的にさらに詳細に説明する。尚、以下において部とは重量部、%とは重量%を表す。
【0027】
製造例1
攪拌機、温度計、縮合水分離器および窒素導入管を備えた加圧反応釜に、酸価165mgKOH/gのガムロジン1,000部、p−tert−ブチルフェノール(PTBP)220.9部を仕込み、120℃で加熱溶解し、92%パラホルムアルデヒド粉末(水分含有率8%)95.9部と酸化マグネシウム2.2部を加えて130℃まで加熱し、2時間加圧反応させた。解圧後、さらに無水マレイン酸57.7部を仕込み、昇温して温度が200℃に到達した時点でペンタエリスリトール168.2部を加え、さらに280℃に昇温した。その後280℃で酸価が20mgKOH/g以下になった時点で温度を下げてロジン変性フェノール樹脂を得た。
【0028】
得られたロジン変性フェノール樹脂、酸価14.0mgKOH/g、軟化点178℃、重量平均分子量(Mw)7.1万であった。また、このロジン変性フェノール樹脂に同量のトルエンを加えた場合の25℃におけるガードナー粘度はT−Uであった。
【0029】
上記のロジン変性フェノール樹脂100部に大豆油34部を加え、温度を180℃に調整して30分間加熱混合し、次いでAFソルベント7号40部およびBHT0.2部を加え、さらに同温度で30分間攪拌混合した後に、25℃における気泡粘度が4,500〜7,000dPa・sの範囲に入る様に160℃でエチルアセトアセテートアルミニウムジノルマルブチレートを0.5〜5部の範囲で必要な量を加えて1時間加熱攪拌して、本発明の印刷インキ用ゲルワニス〔以下、ゲルワニスAと呼ぶ。〕を得た。本ワニスのタック値14、E型粘度は230Pa・s,nH−トレランスは16ml/gであった。
【0030】
実施例1
FASTOGEN Blue FA5375(DIC(株)製) 17部、ゲルワニスA72部、AFソルベント7を10.8部、炭素原子数8〜18の脂肪族アルコールとしてトリデカノール 1.0部を3本ロールミルを用いて練肉し、インキ(Ia)を調製した。
【0031】
実施例2
炭素原子数8〜18の脂肪族アルコールとしてトリデカノールを2−ヘキシルオクタノールにした以外は、実施例1と同様にして、インキ(IIa)を調製した。
【0032】
実施例3
炭素原子数8〜18の脂肪族アルコールとしてトリデカノールを2−ヘキシルデカノールとした以外は、実施例1と同様にして、インキ(IIIa)を調製した。
【0033】
実施例4
炭素原子数8〜18の脂肪族アルコールとしてトリデカノールをヘキシルジグリコールにした以外は、実施例1と同様にして、インキ(IVa)を調製した。
【0034】
比較例1
トリデカノールを用いない以外は、実施例1と同様にしてインキ(Ib)を調製した。
【0035】
乳化適性評価
ノボコントロール(novocontrol)社製のリソトロニック高速乳化試験機を用いて、以下の条件で測定を行う事で乳化適性の評価を行った。
コンディショニングタイム( 水等を加えない予備攪拌時間)300秒
攪拌速度・・・1200rpm 。
サンプル(インキまたはワニス)の量・・・25g。
温度・・・40℃±2℃ 。
水の滴下量・・・2ml/分、
プロペラ・・・プロペラ角度10°、厚み1.5mm
プロペラとカップ底面の距離・・・1mm
液体温度・・・22℃±2℃ 。
水として蒸留水を用いる。
【0036】
水を滴下する際は、水を注入するニードルをカップ壁面に接触させて静かに水がインキに入るようにし、水滴によるトルクカーブのノイズを最小限に抑える。
EC(Emulsification Capacity:単位% )を次式で定義する。
EC(%)=〔(水の滴下量)/(サンプル量)〕×100
【0037】
本試験機ではトルク(単位mN・m)は2回/秒計測される。本発明のインキでは、トルクの値は前記のコンディショニングタイム経過後はおおよそ300〜1000mN・mくらいの値になる。
カップに入れたサンプルのワニスやインキに、攪拌しながら水を滴下していくと、最初トルクが減少し最小トルク値(T
min)を示す。その後、水の滴下量の増加とともに、トルク値は増加し、最大トルク値(T
max)を示す。更に滴下を続けると、サンプルから水が一部分離し、トルクの急激な低下やトルクカーブが不安定になる。
トルクが不安定に変動し始めて、トルク値の直近10回の計測値の標準偏差が100を超えた時のECの値をEC
maxと定義する。EC
maxが60%以下のインキは過乳化しにくく、印刷適性に優れる。
【0038】
【表1】