特開2015-954(P2015-954A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-954(P2015-954A)
(43)【公開日】2015年1月5日
(54)【発明の名称】インクジェット用インク
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/00 20140101AFI20141202BHJP
【FI】
   C09D11/00
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-126802(P2013-126802)
(22)【出願日】2013年6月17日
(71)【出願人】
【識別番号】000003562
【氏名又は名称】東芝テック株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】513152126
【氏名又は名称】株式会社システム・トート
(74)【代理人】
【識別番号】110000235
【氏名又は名称】特許業務法人 天城国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菊地 恵一
(72)【発明者】
【氏名】望月 良晃
(72)【発明者】
【氏名】正岡 弘
【テーマコード(参考)】
4J039
【Fターム(参考)】
4J039AB02
4J039AD05
4J039AD08
4J039AD09
4J039AE02
4J039AE04
4J039AE06
4J039AE09
4J039BA07
4J039BA32
4J039BC57
4J039BE01
4J039BE12
4J039CA06
4J039EA33
4J039EA43
4J039EA46
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】輝度に優れ、耐水性、耐薬品性、耐候性等にも優れ、高温・高圧下においても変色・退色が少なく、長期の屋外使用にも耐えうる金属顔料を配合したインクを提供すると共に、インクジェットヘッドの圧力素子の電荷に影響を受けない金属顔料を含むインクジェット用インクを提供する。
【解決手段】本実施形態のインクジェット用インクは、非導電性金属顔料と、樹脂と、溶媒を含み、前記非導電性金属顔料の表面は、アルコキシシランを含むアルコキシドにより被覆され、且つ被膜が架橋構造していることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非導電性金属顔料と、樹脂と、溶媒を含み、
前記非導電性金属顔料の表面は、アルコキシシランを含むアルコキシドにより被覆され、且つ被膜が架橋構造していることを特徴とするインクジェット用インク。
【請求項2】
前記アルコキシランは、少なくとも下記一般式(1)または下記一般式(2)で示される構造を有していることを特徴する請求項1に記載のインクジェット用インク。
【化7】
(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基を、nは1〜20の数を表す。)
【化8】
(式中、Rは水素原子、アルキル基、アルケニル基、グリシドキシ基、炭素数5または6のエポキシシクロアルキル基、(メタ)アクリル基、アミノ基、メルカプト基およびイソシアネート基から選ばれる官能基を有する1価の基を、Rは、炭素数1〜4のアルキル基およびフェニル基から選ばれる基を、Rは1価の炭素数1〜4のアルキル基を、aは0、1または2を表す。)
【請求項3】
前記アルコキシドは、さらに、下記一般式(3)で示される金属アルコキシドを含むことを特徴とする請求項2に記載のインクジェット用インク。
【化9】
(式中、MはTi、ZrまたはAlの原子を、Rは炭素数1〜10のアルキル基を、bは0または1を、nは1〜20の数を表す。)
【請求項4】
前記非導電性金属顔料の導電率は、10−13(Ω・cm)−1以下であることを特徴する請求項2に記載のインクジェット用インク。
【請求項5】
前記アルコキシドの添加量は、金属顔料の表面を被覆する最少量を1とした場合に、1から3倍である請求項2に記載のインクジェット用インク。
【請求項6】
前記溶媒は、活性水素を持たない有機溶媒であって、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、ハロゲン化炭化水素、有機酸エステル、エーテル、ケトンから選択される少なくとも1種の有機溶媒である請求項2に記載のインクジェット用インク。
【請求項7】
前記樹脂は、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ポリアミド、ポリビニルブチラール、セルロースアセテートブチレート、ニトロセルロース樹脂、ポリウレタン、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、及びそれらの樹脂エマルジョンから選択される少なくとも1種である請求項2に記載のインクジェット用インク。
【請求項8】
前記非導電性金属顔料は、アルミニウムを主体とする金属であることを特徴とする請求項2に記載のインクジェット用インク。
【請求項9】
前記非導電性金属顔料の平均粒径は、0.4から1.3μmであることを特徴とする請求項2に記載のインクジェット用インク。
【請求項10】
前記非導電性金属顔料は、鱗片状であることを特徴する請求項2に記載のインクジェット用インク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、インクジェット記録装置に用いられるインク、特にピエゾ方式を採用する装置に好適に用いることができる金属顔料を含むインクに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置のインクジェットヘッドには、種々な吐出方式を採用したものが知られている。例えばピエゾ方式のインクジェットヘッドでは、インク室内における圧電素子の電気的振動によりインクを吐出している。
ピエゾ方式では、圧電素子にインク吐出に必要な電荷が与えられるため、メタリック調インクに代表される金属粉のような導電性の高い顔料を含むインクは、その電荷の影響を受けインクが正常に吐出できないことや、インクを通電することによる圧電素子自体の破壊が生じる場合がある。
【0003】
他方、メタリック調インク等に配合される金属からなる顔料には輝度が要求される。しかしながら、例えばアルミニウムを主体とする金属からなる顔料などは、大気中の水分などと容易に反応してしまい金属光沢の低下、変色、水素ガスの発生が起こるといった欠点がある。この欠点を解決したものとして、アルミニウム表面にアルコキシシランを主たる成分とする被膜により被覆することで輝度の保持しつつ、耐水性等を備えた表面被覆アルミニウム顔料が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4358897号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上述した従来技術の問題点に鑑み、輝度に優れ、耐水性、耐薬品性、耐候性等にも優れ、高温・高圧下においても変色・退色が少なく、長期の屋外使用にも耐えうる金属顔料を配合したインクを提供すると共に、インクジェットヘッドの圧力素子の電荷に影響を受けない金属顔料を含むインクジェット用インクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、金属からなる顔料(以下、「金属顔料」という。)の表面にSiを含むアルコキシドを主たる成分とする緻密な連続被膜により被覆することで、金属光沢を保持しつつ金属顔料の導電率を大幅に低下させることが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本実施形態のインクジェット用インクは、非導電性金属顔料と、樹脂と、溶媒を含み、上記非導電性金属顔料の表面は、アルコキシシランを含むアルコキシドにより被覆され、且つ被膜が架橋構造していることを特徴としている。
【0008】
また、本実施形態のインクジェット用インクは、上記アルコキシシランが少なくとも下記一般式(1)または下記一般式(2)の何れかの構造を有していることを特徴としている。
【化1】
(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基を、nは1〜20の数を表す。)
【0009】
【化2】
(式中、Rは水素原子、アルキル基、アルケニル基、グリシドキシ基、炭素数5または6のエポキシシクロアルキル基、(メタ)アクリル基、アミノ基、メルカプト基およびイソシアネート基から選ばれる官能基を有する1価の基を、Rは、炭素数1〜4のアルキル基およびフェニル基から選ばれる基を、Rは1価の炭素数1〜4のアルキル基を、aは0、1または2を表す。)
【0010】
また、本実施形態のインクジェット用インクは、上記アルコキシドが下記一般式(3)で示される金属アルコキシドを含むことを特徴としている。
【0011】
【化3】
(式中、MはTi、ZrまたはAlの原子を、Rは炭素数1〜10のアルキル基を、bは0または1を、nは1〜20の数を表す。)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本実施形態にかかるインクジェット用インクの構成について詳細に説明する。
本実施形態に係るインクジェット用インクは、非導電性金属顔料と、樹脂と、溶媒を含むインクであり、上記非導電性金属顔料の表面は、アルコキシシランを含むアルコキシドによる架橋構造の被膜が形成されている。本実施形態に係るインクに適用する金属顔料としては、耐水性等の耐環境性能に乏しく、容易に金属光沢が低下する金属顔料に対して特に有用である。
【0013】
一般に、アルコキシシランは、活性水素を持つ化合物と化学反応して変性する。活性水素を持たない溶液中ではアルコキシシランは安定に存在するため、アルコキシシランが金属表面に選択的に吸着し、金属表面の金属原子に直接結合した水酸基および吸着水を起点とし、穏やかな脱アルコール反応が進み、アルコキシシランが金属表面と反応し、且つ反応生成物が三次元架橋を繰り返し、得られた三次元架橋物が金属顔料表面に緻密で均一な被膜を形成するものと考えられる。
従って、上記被膜が形成された金属顔料は、金属顔料本来の輝度の低下が少なく、且つ表面活性を低下させることが可能であると考えられる。
【0014】
[非導電性金属顔料]
本実施形態に係る非導電性金属顔料は、金属顔料の表面を、少なくとも一般式(1)で示されるアルコキシシラン、又は一般式(2)で示されるオルガノアルコキシシランと、活性水素を持たない有機溶媒と、脱アルコール触媒とを必須成分とする処理溶液中で処理することにより得ることができる。
【0015】
本実施形態では、金属顔料としてアルミニウムを主体とするアルミニウム顔料を使用する。使用するアルミニウム顔料は、特に限定されないが、アルミニウム微粉末を公知の方法で展伸し鱗片(フレーク)状としたもの、及び蒸着アルミニウム箔を粉砕して鱗片(フレーク)状にしたものなどは被覆後の顔料を微粉化のため粉体等する場合に厚さの薄い方向に割れることから被覆率の低下を極力抑えることができるため好ましい。特に、蒸着アルミニウム箔フレークは表面が平滑で高輝度が得られ、また、厚さが0.1μm以下と非常に薄いため好ましい。
【0016】
このようなアルミニウム顔料としては、例えばミネラルスピリット、キシレンなどの炭化水素系溶媒や、酢酸エチル、酢酸イソプロピルなどのエステル系溶媒などにより固形分10〜80質量%のペースト状とされているものを使用することができる。市販品としては、例えばアルミニウムペースト5660NS(東洋アルミニウム社製;商品名)、METASHEEN71−0010(チバ・ジャパン社製;商品名)、SILVERSHINE P−4100(ビックケミージャパン社製;商品名)を挙げることができる。
なお、金属顔料を含んだインクとする場合、金属顔料の平均粒径を0.4μm以下に粉砕することは難しい。本実施形態では、金属顔料の平均粒径は0.4μmから1.5μmの範囲が好ましい。
【0017】
(一般式(1)で示される化合物)
本実施形態に使用される下記一般式(1)で示されるアルコキシシランとしては、例えばテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン及びこれらの縮合体(nが2以上)を挙げることができる。これらは、単独で、又は2種以上を混合しても使用することができる。なお、一般式(1)においてアルキル基(R)の炭素数が5以上の化合物も公知であるが、炭素数5以上の化合物は、金属顔料表面での縮合反応速度が遅く実用的でない。
【0018】
【化4】
(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基を、nは1〜20の数を表す。)
【0019】
(一般式(2)で示される化合物)
本実施形態に使用される下記一般式(2)で示されるオルガノアルコキシシランは、金属顔料の表面において一般式(1)で示されるアルコキシシランと共縮合し、被覆層の構成成分となるとともに、インクとして各種樹脂(バインダー)を配合した場合、含まれる有機官能基により、樹脂(バインダー)との密着性を向上させることができる。また、一般式(2)で示されるオルガノアルコキシシランは単独で使用してもよい。
【0020】
【化5】
(式中、Rは水素原子、アルキル基、アルケニル基、グリシドキシ基、炭素数5または6のエポキシシクロアルキル基、(メタ)アクリル基、アミノ基、メルカプト基およびイソシアネート基から選ばれる官能基を有する1価の基を、Rは、炭素数1〜4のアルキル基およびフェニル基から選ばれる基を、Rは1価の炭素数1〜4のアルキル基を、aは0、1または2を表す。)
【0021】
このため、上記一般式(2)で示されるオルガノアルコキシシランは、使用する樹脂(バインダー)によって適宜選択すればよく、特に限定されるものではないが、具体的には、例えばトリメトキシシラン、トリエトキシシラン、トリプロポキシシラン、メチルジメトキシシラン、メチルジエトキシシラン、ジメチルメトキシシラン、ジメチルエトキシシラン、ジメチルプロポキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、ヘキシルトリプロポキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルジメチルメトキシシラン、ビニルジメチルエトキシシラン、メチルビニルジメトキシシラン、メチルビニルジエトキシシラン、アリルジメチルメトキシシラン、アリルジメチルエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、5,6−エポキシヘキシルトリメトキシシラン、5,6−エポキシヘキシルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2―アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジエトキシシランなどを挙げることができる。これらは、単独で、又は2種以上を混合して使用することができる。
【0022】
(一般式(3)の化合物)
本実施形態に使用される下記一般式(3)で示される金属アルコキシドは、一般式(1)で示されるアルコキシシラン、又は一般式(2)で示されるオルガノアルコキシシランと共重合し、或いは一般式(1)で示されるアルコキシシランおよび一般式(2)で示されるオルガノアルコキシシランと3元共縮合し、得られる金属顔料の耐候性、耐酸性、耐アルカリ性、耐塩水性などの耐環境性能向上を目的として添加する。
【化6】
(式中、MはTi、ZrまたはAlの原子を、Rは炭素数1〜10のアルキル基を、bは0または1を、nは1〜20の数を表す。)
【0023】
一般式(3)で示される金属アルコキシドの使用量によっては金属顔料の色相変化を伴う。従って、一般式(3)で示される金属アルコキシドは、金属顔料の被覆と同時に着色を目的としても使用することができる。さらに、一般式(3)で示される金属アルコキシドは活性が高く、一般式(1)で示されるアルコキシシラン、一般式(2)で示されるオルガノアルコキシシランの縮合触媒(脱アルコール触媒)としても作用する。縮合触媒(脱アルコール触媒)については後述する。
【0024】
一般式(3)で示される金属アルコキシドとしては、具体的には、例えばアルミニウムトリイソプロピレート、アルミニウムトリエチレート、アルミニウムトリブチレート、モノブトキシアルミニウムジイソプロピレート、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラブトキシド、チタンブトキシドダイマー、チタンテトラ−2−エチルヘキソキシド、ジルコニウムテトラプロポキシド、ジルコニウムテトラブトキシドなどを挙げることができる。
【0025】
(活性水素を持たない有機溶媒)
本実施形態における表面被覆は、金属顔料を有機溶媒で希釈し、攪拌し、金属顔料を分散した状態で行うのが好ましい。希釈する溶剤として、水、アルコール類、1級アミン類、2級アミン類、チオール類、およびカルボン酸類のような活性水素を持つ有機溶剤を使用した場合、金属顔料の表面腐食や、被覆成分となる上記一般式(1)、(2)、(3)で示されるアルコキシドと反応するため、脱アルコール縮合反応を阻害し、反応速度を著しく低下させる。
【0026】
従って、本実施形態で使用する有機溶媒としては、活性水素を持たない有機溶媒を使用する必要がある。具体的には、例えば脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、ハロゲン化炭化水素、有機酸エステル、エーテル、ケトン等を挙げることができるが、安全性およびアルコキシシランなどの溶解性から、有機酸エステル類が好ましい。
【0027】
有機酸エステル類としては、例えば酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチル−3−エトキシプロピオネート、3−メトキシブチルアセテート、3−メチル−3−メトキシブチルアセテートなどの酢酸エステル類が入手しやすく好適である。これらの中でも、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテートなどの水溶性エステル類は、反応混合物が直ちに油性インクおよび水性インクの何れにも使用可能とすることができるため好ましい。
【0028】
(脱アルコール触媒)
一般式(1)で示されるアルコキシシラン、又は一般式(2)で示されるオルガノアルコキシシランの脱アルコール縮合反応は、無触媒であっても進行するが通常反応が遅く実用的ではない。本実施形態に使用される脱アルコール触媒は、一般式(1)で示されるアルコキシシラン、又は一般式(2)で示されるオルガノアルコキシシランの脱アルコール縮合反応を促進するために添加するものである。
【0029】
脱アルコール触媒としては、例えばアルキルチタン酸塩やオクチル酸錫などのカルボン酸の金属塩、ジメチルアミンアセテートなどのアミン塩、酢酸テトラアミンアンモニウムなどのカルボン酸第四級アンモニウム塩、テトラメチルペンタミンなどのアミン類、N−β−アミノエチル−γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミン系シランカップリング剤、p−トルエンスルホン酸などの酸類、アルミニウムエトキシドなどのアルミニウムアルコキシド、アルミニウムエチルアセトアセテートジイソプロピレートなどのアルミニウムキレート、チタンテトラプロポキシドのようなチタンアルコキシド、チタンジイソプロポキシビス(アセチルアセトネート)のようなチタンキレート、ジルコニウムテトラプロポキシドのようなジルコニウムアルコキシド、ジルコニウムテトラアセチルアセトネートのようなジルコニウムキレートなどを挙げることができる。
【0030】
これらの中でも、反応終了後に触媒自体が金属顔料の被覆層(被膜)の構成成分となるという点から、アルミニウムエトキシドなどのアルミニウムアルコキシド、アルミニウムエチルアセトアセテートジイソプロピレートなどのアルミニウムキレート、チタンテトラプロポキシドのようなチタンアルコキシド、チタンジイソプロポキシビス(アセチルアセトネート)のようなチタンキレート、ジルコニウムテトラプロポキシドのようなジルコニウムアルコキシド、ジルコニウムテトラアセチルアセトネートのようなジルコニウムキレートなどの金属化合物が好ましい。特に、一般式(3)で示される金属アルコキシドであるアルミニウムアルコキシド、チタンアルコキシド、ジルコニウムアルコキシドが、縮合触媒として作用する他、被膜に耐酸性、耐アルカリ性等を付与できるため好ましい。
【0031】
[表面被覆処理]
表面被覆処理としては、上記した成分、即ち、金属顔料と、一般式(1)で示されるアルコキシシランや一般式(2)で示されるオルガノアルコキシシランと、活性水素を持たない有機溶媒と、脱アルコール触媒とを混合する。混合する方法は特に限定されず、例えば、処理溶液を先ず作成しておき、この中に金属顔料を加えて攪拌混合して反応混合物として反応を行うことができる。
【0032】
反応混合物中における金属顔料の濃度は、通常1〜40質量%であることが好ましい。濃度が低すぎると不経済であり、濃度が高すぎると反応の均一性が低下する虞がある。一般式(1)で示されるアルコキシシラン又は一般式(2)で示されるオルガノアルコキシシランの使用量は金属顔料の100質量部当たり、5〜50質量部が好ましい。一般式(1)で示されるアルコキシシラン又は一般式(2)で示されるオルガノアルコキシシランの使用量が少なすぎると、金属顔料の被覆が不十分となる虞がある。一方、使用量が多すぎると、不経済であると共に、得られる製品の輝度が低下する虞がある。
【0033】
一般式(1)で示されるアルコキシシランと一般式(2)で示されるアルコキシシランを併用する場合の合計使用量は、上記と同様に金属顔料の100質量部当たり、5〜50質量部である。一般式(1)で示されるアルコキシシランと一般式(2)で示されるオルガノアルコキシシランの配合割合は、一般式(1)で示されるアルコキシシラン100質量部当たり、一般式(2)で示されるオルガノアルコキシシランが5〜200質量部の範囲であり、一般式(2)で示されるオルガノアルコキシシランの使用量が少なすぎると樹脂(バインダー)との密着性が顕著でなく、一方、多すぎると被膜の強度が低下し、金属顔料の耐水性・耐薬品性が不十分となる。
【0034】
また、一般式(1)で示されるアルコキシシラン、一般式(2)で示されるオルガノアルコキシシランに加え、一般式(3)で示される金属アルコキシドを併用することで、耐薬品性、特に耐酸性、耐アルカリ性の向上効果が得られる。一般式(3)で示される金属アルコキシドを併用することにより、一般式(1)で示されるアルコキシシラン又は一般式(2)で示されるオルガノアルコキシシランとの共縮合体、或いは一般式(1)で示されるアルコキシシランおよび一般式(2)で示されるオルガノアルコキシシランとの3元共縮合体で被覆された金属顔料が得られる。
【0035】
一般式(1)で示されるアルコキシシラン又は一般式(2)で示されるオルガノアルコキシシラン、或いは一般式(1)で示されるアルコキシシランおよび一般式(2)で示されるオルガノアルコキシシランと一般式(3)で示される金属アルコキシドを併用する場合の合計使用量は、上記と同様に金属顔料の100質量部当たり、5〜50質量部である。一般式(1)で示されるアルコキシシラン又は一般式(2)で示されるオルガノアルコキシシランと一般式(3)で示される金属アルコキシドの配合割合は、一般式(1)で示されるアルコキシシラン又は一般式(2)で示されるオルガノアルコキシシラン100質量部当たり1〜50質量部の範囲であり、一般式(3)で示される金属アルコキシドの使用量が少なすぎると、上記効果が顕著ではなく、一方、多すぎると、被膜形成反応が不均一となる。
【0036】
脱アルコール触媒の使用量は、一般式(1)で示されるアルコキシシラン又は一般式(2)で示されるオルガノアルコキシシラン100質量部当たり、0.1〜5質量部が好ましい。脱アルコール触媒の使用量が少なすぎると反応に長時間を要することから不経済であり、一方、多すぎても特に反応が有利となることはない。反応温度は40℃〜90℃で行うことが好ましく、反応温度が低すぎると、反応に長時間を要することから不経済であり、一方、反応温度が高すぎると被膜の均一性が損なわれる虞がある。
【0037】
本実施形態の被覆反応は一般的に遅く、反応温度によっても異なるが、通常4〜8時間である。反応時間が短すぎるとアルコキシドの縮合反応が不足し、生成する被膜の耐久性が不足する場合があり、一方、反応時間が長すぎると不経済である。これらの反応は、大気雰囲気下または窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下にて常圧で行うことができる。なお、反応を完結させ、且つ緻密で均一な被膜とするために、反応終了後、任意の温度、好ましくは15〜30℃の温度、で7〜30日間熟成することが好ましい。
【0038】
また、反応終了後、好ましくは熟成後、反応混合物を濾別し、そのままのペーストの状態で保存し、インクの成分とすることが好ましいが、濾別後ペーストをメタノールなどの低級アルコールやアセトンなどの低沸点溶媒で洗浄後乾燥してもよい。
【0039】
このような被覆処理を行うことで、金属顔料は、一般式(1)で示されるアルコキシシラン又は一般(2)で示されるオルガノアルコキシシランの縮合体、一般式(1)で示されるアルコキシシランと一般式(2)で示されるオルガノアルコキシシランとの共縮合体、一般式(1)で示されるアルコキシシラン又は一般式(2)で示されるオルガノアルコキシシランと一般式(3)で示される金属アルコキシドとの共縮合体、または、一般式(1)で示されるアルコキシシランと一般式(2)で示されるオルガノアルコキシシランと一般式(3)で示される金属アルコキシドとの3元共縮合体で表面が被覆される。これら被膜は、単なるシリカ微粒子の集合体ではなく、緻密な上記化合物の透明な(共)縮合体であるため、得られる金属顔料の輝度が優れ、耐水性、耐酸性、耐アルカリ性などの耐薬品性に優れると共に、高温・高湿下においても変色・退色が少なく、長期の屋外使用にも耐えうることができ、金属光沢が要求されるメタリック調インクの原料として有用である。また、上記被膜で被覆することにより、金属顔料の導電率を大幅に低下させることができるため、ピエゾ方式のインクジェット用インクの原料として特に有用である。
【0040】
[インクジェット用インクの調製]
本実施形態に係るインクジェット用インクの調製は、上記した表面処理が施された金属顔料に溶媒を加え攪拌後、更に樹脂を添加し、攪拌することで得ることができる。なお、必要に応じて分散剤を加えてもよい。
【0041】
(溶媒)
本実施形態に係る非導電性金属顔料は、インク中において金属顔料表面の腐食等が起きにくく経時安定性がよいため、インクジェット用インクに使用する溶媒としては、特に制限されないが、腐食を引き起こす虞のない溶媒を使用することが好ましい。このような溶媒としては、例えば活性水素を持たない溶媒を挙げることができ、具体的には、例えば脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、ハロゲン化炭化水素、有機酸エステル、エーテル、ケトンなどを挙げることができるが、安全性およびアルコキシシランなどの溶解性から有機酸エステル類が好ましく、具体的には、例えば酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチル−3−エトキシプロピオネート、3−メトキシブチルアセテート、3−メチル−3−メトキシブチルアセテートなどの酢酸エステル類が入手しやすく好適である。さらに、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテートなどの水溶性エステル類は、反応混合物が、直ちに油性塗料やインクおよび水性塗料やインクの何れにも使用可能なため好適である。
【0042】
(樹脂(ポリマー))
本実施形態のインクジェット用インクに使用する樹脂は、インクに配合される上記溶媒に対して溶解、または分散すれば良く、特に限定されない。具体的には、例えばアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ポリアミド、ポリビニルブチラール、セルロースアセテートブチレート、ニトロセルロース樹脂、ポリウレタン、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体などを挙げることができる。これらは、単独で、または2種以上混合して使用することができる。また、樹脂の種類は媒体の種類によって選択すればよい。
【実施例】
【0043】
以下、実施例および比較例を示して本発明について具体的に説明するが、本発明が下記実施例に限定されないことは勿論である。なお、以下において「部」及び「%」とあるのは、特に断りのない限り全て質量基準である。
【0044】
[表面被覆アルミニウム顔料(非導電性金属顔料)の作成例]
スターラーおよびコンデンサーを取り付けた500ml丸底フラスコに、アルミペースト(METASHEEN 71−0010)を100部、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート100部、および3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン2部を攪拌混合後、ジルコニウムテトラブトキシド0.1部を加え、湯浴で60℃、5時間攪拌した。室温まで冷却後、ガラス瓶に移液し、密栓して20日間静置し、アルミニウム濃度5%の表面被覆アルミニウム顔料のペーストとした。得られたペーストを一部取り、150℃で2時間乾燥させ、電子顕微鏡で観察したところ、アルミニウム顔料粒子の表面は3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランの透明な縮合体で被覆され均一平坦であった。
なお、得られた顔料の平均粒径については、レーザ回折式粒度分布測定(島津製作所社製SALD−7000)により測定した。
(導電率測定試験)
上記作成例に従い表面被覆したアルミニウム顔料を用いてアルミスラリー1%のMIBK溶液を調製し、アクリル版(100×100mm)にスプレー塗布し乾燥後の表面抵抗を(三菱化学アナリテック社製;Hiresta−up MCP−HT450;測定レンジ10〜1013Ω)にて測定した。測定結果を表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
表1に示すように、アルミニウム表面にアルコキシシランを含むアルコキシドを成分とする連続被膜により被覆されたアルミニウム顔料の導電率は、1×10−13(Ω・cm)−1と低いことがわかる。
【0047】
[実施例1〜20]
上記作成例に示した方法にて、アルコキシシランの添加量、種類を変えてアルミニウム顔料に被覆処理を施した後、有機溶媒および適量の分散剤を加え攪拌後、更に樹脂を添加して攪拌し、実施例1から実施例20の各インクジェット用インクを調製した。実施例1から実施例20の各成分の配合割合を下記表2から表4に示す。
[比較例1、2]
被覆処理を施さないアルミニウム顔料を用いたこと以外は実施例1と同様の方法にて比較例1、比較例2の各インクジェット用インクを調製した。比較例1、比較例2の各成分の配合割合を下記表4に示す。
【0048】
[インクジェット用インクの評価]
インクジェット記録装置での評価は、表面被覆されたアルミニウム顔料に使用されたアルコキシシランの種類と、印字して得られたメディアへの画像品質、光沢性の関係に着目し、以下のとおり実施した。
【0049】
上記調製した実施例1から実施例20、比較例1、比較例2のインクを用いて印字した印字メディア(三菱製紙社製光沢紙)に対して、光沢度、定着性、並びに印字抜け本数の評価を行った。オルガノアルコキシシランのR1官能基別による評価結果を表2から表4に示す。なお、評価試験は以下のとおりである。
(光沢度の測定)
PG−1M光沢度計(日本電色工業社製)を用いて入射角20°における光沢度を測定した。
【0050】
(定着性の測定)
摩擦堅牢度試験機(大栄化学精器社製;NR−100型 Rubbing Tester)に荷重500gをかけたものを5回往復させて印字の欠陥を観察した。なお、摩擦材にはダイタニック社製PPCパッドを用いた。判定基準は以下のとおりである。
1 ;擦った部分の印字が完全に消える
3 ;部分的に印字が消える
5 ;印字が全く消えない
【0051】
(印字抜け本数)
±2Vでの平均本数:
42plのインクを吐出する電圧(所定電圧)と、所定電圧に±2Vとした電圧と、所定電圧に±1Vとした電圧と、の5段階の電圧をそれぞれ印加したときの印字抜けを測定し、平均した本数を算出した。
0V連続10枚印字の平均本数:
42plのインクを吐出する電圧(所定電圧)を印加したときの連続10枚の印字抜けを測定し、平均した本数を算出した。
【0052】
【表2】
[備考]
*1:アルミニウム顔料表面を被覆する最小量を1とした場合の倍数値
【0053】
【表3】
[備考]
*1:アルミニウム顔料表面を被覆する最小量を1とした場合の倍数値
【0054】
【表4】
[備考]
*1:アルミニウム顔料表面を被覆する最小値を1とした場合の倍数値
【0055】
表2から表4の評価結果から、本実施形態に係る表面被覆されたアルミニウム顔料を使用した実施例1から実施例20では、インクジェット記録装置による印字が可能であるのに対し、表面被覆されていないアルミニウム顔料を使用した比較例1および比較例2では、インクジェットヘッドの圧力素子の電荷に影響を受け、インクジェット記録装置での印字が出来ないことがわかる。
【0056】
また、実施例において、顔料の平均粒径が1.5μmより大きくなると、印字抜けが多くなる傾向となり、また、光沢度も低下する傾向となるものの、インクジェット記録装置による印字に十分耐えうるものであった。
【0057】
また、溶媒にジエチレングリコールモノメチルエーテルを処方した実施例に比較して、2−[2−(2−エチルヘキシルオキシ)エトキシ]エタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチルジグリコールを処方した実施例が定着性において良好であった。また、2−[2−(2−エチルヘキシルオキシ)エトキシ]エタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチルジグリコールを処方した実施例において、ポリマーの添加量が多いほど定着性が向上した。
【0058】
また、オルガノアルコキシシランのR官能基がアクリル、エポキシ、またはアクリル・エポキシ併用とした場合、印字抜けの少ない良好な結果が得られた。さらに、オルガノアルコキシシランのR官能基がアクリル、またはアクリル・エポキシ併用するのが良くアルミニウム顔料に対するアルコキシシランの添加量は、2より1.2のほうが光沢性において良好であった。