【実施例】
【0054】
以下の例において、モノマー化合物またはその前駆体の同定は、核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance:NMR)法、質量分析(Mass Spectrometry:MS)、元素分析または赤外分光法(Infrared Spectroscopy:IR)によりおこなった。
【0055】
また、以下の例において、ポリマーの分子量は、以下の装置および条件にておこなった。
装置:島津製作所社製Class-Vp system
カラム:Shodex KD-804、Shodex KD-805(以上、昭和電工社製)
溶媒:THF
標準:ポリスチレン標準物質
検出:屈折率計
【0056】
(実施例1)
本実施例では、スキーム1および2の手順に従い、以下に示すポリマー:Poly(2-(4-ethyl-3-sulfobenzoyl)-1,4-phenylene)(S-PEtBP)を合成した。
【0057】
【化8】
【0058】
(2,5-Dichlorophenyl)(4-ethyl-3-(neopentylsulfonyl)phenyl)methanone(NS-EtDBP)の合成
まず、スキーム1に従い、モノマーであるNS-EtDBPを合成した。
【0059】
【化9】
【0060】
ジクロロベンゼンクロライド(DCBC)の合成
500mlの三口丸底フラスコに、2,5-ジクロロ安息香酸(DCBA)50.4g(0.264mol)と1,2-ジクロロエタン200mlを入れ、ジムロート冷却管、窒素導入管、及び滴下漏斗を取り付けた。さらに冷却管にアルカリトラップと塩化カルシウム管を取り付けて、系内を窒素で置換した。溶液を攪拌しながら、オイルバス中で85℃に加熱した。フラスコ内の固体が完全に溶解した後、塩化チオニル29.0mlを滴下漏斗より徐々に滴下した。滴下終了後、2時間加熱還流を続けた。エバポレーターを用いて溶液中の1,2-ジクロロエタンを留去した。黄褐色の残渣を、減圧蒸留により精製し、淡黄色透明液体のDCBCを得た(14mmHg、110℃、収量47.7g、収率86%)。
【0061】
(2,5-Dichlorophenyl)(4-ethylphenyl)methanone(EtDBP)の合成
表1に示す仕込み組成にて、以下の手順でEtDBPを合成した。
三口丸底フラスコに還流冷却管、塩化カルシウム管、窒素導入管、およびアルカリトラップを取り付け、DCBC、エチルベンゼンを入れた。窒素雰囲気下、塩化アルミニウムを数回に分けて加え、オイルバスで75℃に加熱し3時間攪拌した。得られた褐色の粘性液体を氷水に展開し、その後ジクロロメタン100mLを加え、室温でしばらく撹拌した。白濁した上層(水層)と黄色透明の下層(有機層)に分離し、残った水層を1,2-ジクロロメタンで抽出した。これを3回繰り返した後、先に回収した有機層と合わせた。得られた有機層を10質量%塩酸、炭酸水素ナトリウム水溶液および精製水の順で三回ずつ洗浄し、硫酸マグネシウム上で乾燥させた。ジクロロメタンをエパポレーターにより留去し、エチルベンゼンを真空エバポレーターにより留去し、黄色透明固体の粗生成物を得た。メタノールで二回再結晶を行った。その後、吸引ろ過(メンブランフィルター、親水、ポアサイズ1.0μm)により回収し、45℃で24時間減圧乾燥することにより、白色結晶を得た。生成物の収量および収率を表1にあわせて示した。また、生成物のMSによる同定結果を
図2に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
5-(2,5-Dichlorobenzoyl)-2-ethylbenzene-1-sulfonyl chloride(SC-EtDBP)の合成
表2に示す仕込み組成にて、以下の手順でSC-EtDBPを合成した。
200ml三口フラスコに滴下漏斗、還流冷却管、窒素導入管、塩化カルシウム管、およびアルカリトラップを取り付け、EtDBPを入れた。そこに滴下漏斗からクロロスルホン酸を滴下し、窒素雰囲気下、オイルバス中で、80℃にて3時間攪拌した。
得られた赤褐色溶液を100mlの精製中に展開し、その後ジクロロメタン100mlを加え、室温でしばらく撹拌した。白濁した上層(水層)と肌色の下層(有機層)に分離し、残った水層を1,2-ジクロロメタンで抽出した。これら操作を3回繰り返した後、先に回収した有機層と合わせた。得られた有機層を5%水酸化ナトリウム水、精製水の順で洗浄した。エバポレーターによりジクロロメタンを留去し、40℃で24時間減圧乾燥することで、SC-EtDBPを得た。生成物の収量および収率を表2にあわせて示した。
【0064】
【表2】
【0065】
(2,5-Dichlorophenyl)(4-ethyl-3-(neopentylsulfonyl)phenyl)methanone(NS-EtDBP)の合成
200 ml三口フラスコに滴下漏斗、塩化カルシウム管、および窒素導入管を取り付け、クロロホルムに溶解させたSC-EtDBP(5.79g、15.3mmol)を入れた。窒素雰囲気下で、この溶液にピリジン、次いで2,2-ジメチル-1-プロパノール(2.03g、23.0mmol)のクロロホルム溶液を加え、室温(25℃、以下同じ。)にて20時間撹拌した。得られた褐色の粘性液体を硫酸アンモニウム水溶液で洗浄した後、精製水で洗浄し、クロロホルムをエバポレーターにより留去した。得られた淡黄色透明粘性液体を精製エタノールで2回再結晶し、60℃で24時間減圧乾燥することで、白色針状結晶のNS-EtDBP(3.12g、7.27mmol)を得た(収率48%)。また、生成物のMSによる同定結果を
図3に示す。
【0066】
以上により得られたNS-EtDBPをモノマーとして、スキーム2に示す手順で重合をおこない、S-PEtBPを得た。
【0067】
【化10】
【0068】
Poly(2-(4-ethyl-3-(neopentylsulfonyl)benzoyl)-1,4-phenylene(NS-PEtBP)の合成
表3に示す仕込み組成にて以下の手順で重合反応をおこない、NS-PEtBPを得た。
アルゴン雰囲気下のグローブボックス内で、50 ml三口フラスコにNaI、PPh
3、Zn、NMPおよびニッケルビス(トリフェニルホスフィン)ジクロリドNi(PPh
3)
2Cl
2を入れ、触媒を調製した。また、NS-EtDBPをNMPに溶解し、滴下漏斗に入れ、三口フラスコに取り付けた。グローブボックスから取り出し、アルゴン雰囲気下、40℃にてスリーインワンモーターで攪拌した。触媒溶液が深紅色に変化後、15分経過したところでオイルバスを65℃に上げると同時に滴下漏斗よりモノマー溶液を加え、24時間高速撹拌した。
反応終了後、得られた暗赤色固体をメタノール300ml(含HCl30ml)中で24時間攪拌し、固体を吸引ろ過(メンブランフィルター、疎水、ポアサイズ3.0μm)し、50℃で24時間減圧乾燥した。得られた固体をクロロホルム(5質量%)に溶解し、吸引ろ過(桐山ろ紙5A)後、約10倍量のメタノールに再沈澱した。沈殿を回収後、50℃で減圧乾燥させた。引き続き50℃で24時間減圧乾燥することで白色固体のNS-PEtBPを得た。生成物の収量および収率を表3にあわせて示した。
【0069】
【表3】
【0070】
Poly(2-(4-ethyl-3-sulfobenzolyl)-1,4-phenylene)(S-PEtBP)の合成
表4に示す仕込み組成にて以下の手順で脱保護をおこない、S-PEtBPを得た。
100mlの三口フラスコに還流冷却管、塩化カルシウム管、滴下漏斗を取り付け、NS-PEtBPと精製したNMPを入れ、窒素雰囲気下、80℃で攪拌した。固体が完全に溶解した後、滴下漏斗からジエチルアミン臭化水素酸のNMP溶液を滴下し、反応溶液を120℃に上昇させ24時間攪拌した。反応終了後、得られた茶褐色粘性溶液をメタノール300ml(含HCl 30ml)中で24時間攪拌した。得られた白色固体を吸引ろ過(メンブランフィルター、親水、ポアサイズ1.0μm)し、1 mol dm
-3 HCl水溶液中で24時間攪拌した。
【0071】
攪拌後の液を精製水中に投与し、pH試験紙でろ液がほぼ中性になるまで攪拌し、吸引ろ過(メンブランフィルター、親水、ポアサイズ1.0μm)後、80℃で24時間減圧乾燥した。得られた茶色固体をNMP (10質量%)に溶解し、吸引ろ過(桐山ろ紙5A)後、約10倍量のジエチルエーテルに再沈澱した。沈殿物を吸引ろ過(メンブランフィルター、疎水、ポアサイズ3.0μm)し、80℃で24時間減圧乾燥することで、茶色固体のS-PEtBPを得た。生成物の収量および収率を表4にあわせて示した。
また、得られたポリマーの分子量はMn=57,400、Mw=155,000であった。
【0072】
【表4】
【0073】
(実施例2)
本実施例では、スキーム3および4の手順に従い、以下に示すポリマー:Poly(2-(4-butyl-3-sulfobenzoyl)-1,4-phenylene)(S-PBuBP)の合成をおこなった。
【0074】
【化11】
【0075】
(4-Butyl-3-(neopentylsulfonyl)phenyl)(2,5-dichlorophenyl)methanone(NS-BuDBP)の合成)
まず、スキーム3に従い、モノマーであるNS-BuDBPを合成した。
【0076】
【化12】
【0077】
(4-Butylphenyl)(2,5-dichlorophenyl)methanone(BuDBP)の合成
300mlの三口丸底フラスコに還流冷却管、塩化カルシウム管、窒素導入管、およびアルカリトラップを取り付け、実施例1に記載の方法で合成したDCBC(48.8g、233mmol)、n-ブチルベンゼン(32.2g、240mmol)を入れた。窒素雰囲気下、塩化アルミニウム(40.1g、301mmol)を数回に分けて加え、オイルバスで75℃に加熱し3時間攪拌した。得られた褐色の粘性液体を氷水に展開し、その後クロロホルムを加え、室温でしばらく撹拌した。白濁した上層(水層)と黄色透明の下層(有機層)に分離し、残った水層を100mlのクロロホルムで抽出した。これを3回繰り返した後、先に回収した有機層と合わせた。得られた有機層を10質量%塩酸、炭酸水素ナトリウム水溶液、および精製水の順で三回ずつ洗浄し、塩化カルシウムで24時間乾燥させた。クロロホルムをエバポレーターにより留去し、ブチルベンゼンを真空エバポレーターにより留去した。得られた黄色固を体精製メタノールで2回再結晶し、40℃で24時間減圧乾燥することで、白色固体のBuDBP(38.2g、124mmol)を得た(収率53%)。また、生成物のMSによる同定結果を
図4に示す。
【0078】
2-Butyl-5-(2,5-dichlorobenzoyl)benzene-1-sulfonyl chloride(SC-BuDBP)の合成
表5に示す仕込み組成にて、以下の手順でSC-BuDBPを合成した。
100ml三口フラスコに滴下漏斗、還流冷却管、窒素導入管、塩化カルシウム管、およびアルカリトラップを取り付け、BuDBPを入れた。そこに滴下漏斗からクロロスルホン酸を滴下し、窒素雰囲気下、オイルバスで攪拌した。反応終了後、得られた黄褐色の粘性液体を100mlの氷水中に展開し、氷浴上で攪拌した。
得られた白色沈殿物と水槽を分離し、水層をジクロロエタンで3回抽出した。得られた有機層と白色沈殿物を合わせ、炭酸水素ナトリウム水溶液、精製水の順で洗浄した後、エバポレーターによりジクロロエタンを留去した。得られた白色固体を吸引ろ過(メンブランフィルター、疎水、ポアサイズ1.0μm)後、ろ紙上の結晶を冷却したn-ヘキサンで洗浄した。これを40℃で24時間減圧乾燥することで、SC-BuDBPを得た。生成物の収量および収率を表5にあわせて示した。
【0079】
【表5】
【0080】
(4-Butyl-3-(neopentylsulfonyl)phenyl)(2,5-dichlorophenyl)methanone(NS-BuDBP)の合成
表6に示す仕込み組成にて、以下の手順でNS-BuDBPを合成した。
200ml三口フラスコに滴下漏斗、塩化カルシウム管、および窒素導入管を取り付け、クロロホルムに溶解させたSC-BuDBPを入れた。窒素雰囲気下で、この溶液にピリジン、次いで2,2-ジメチル-1-プロパノールのクロロホルム溶液を加え、室温にて20時間撹拌した。得られた褐色の粘性液体を硫酸アンモニウム水溶液、次いで精製水で洗浄し、クロロホルムをエバポレーターにより留去した。得られた白色固体を精製メタノールで2回再結晶し、45℃で24時間減圧乾燥することで、針状結晶のNS-BuDBPを得た。生成物の収量および収率を表6にあわせて示した。また、生成物のMSによる同定結果を
図5に示す。
【0081】
【表6】
【0082】
以上により得られたNS-BuDBPをモノマーとして、スキーム4に示す手順で重合をおこない、S-PBuBPを得た。
【0083】
【化13】
【0084】
Poly(2-(4-butyl-3-(neopentylsulfonyl)benzoyl)-1,4-phenylene(NS-PBuBP)の合成
アルゴン雰囲気下のグローブボックス内で、100ml三口フラスコにNaI 0.037g(0.25mmol)、PPh
3 0.209g(0.798mmol)、Zn 0.193g(2.96mmol)、およびNi(PPh
3)
2Cl
2 0.039g(0.060mmol)を入れ、触媒を調整した。また、NS-BuDBP 0.913g(1.99mmol)をNMP 1mlに溶解し、滴下漏斗に入れ、三口フラスコに取り付けた。NMP 2mlを触媒に加えた後、グローブボックスから取り出し、アルゴン雰囲気下、40℃にてスリーインワンモーターで攪拌した。触媒溶液が深紅色に変化後、15分経過したところでオイルバスを65℃に上げると同時に滴下漏斗よりモノマー溶液を加え、24時間高速撹拌した。
反応終了後、得られた暗赤色固体をメタノール300ml(含HCl30ml)中で24時間攪拌し、固体を吸引ろ過(メンブランフィルター、疎水、ポアサイズ3.0μm)し、50℃で24時間減圧乾燥した。得られた固体をクロロホルム(5質量%)に溶解し、吸引ろ過(桐山ろ紙 5A)後、約10倍量のメタノールに再沈澱した。沈殿を回収後、50℃で減圧乾燥させた。再沈殿および減圧乾燥について同様な操作を行い、50℃で24時間減圧乾燥することで白色固体のNS-PBuBPを得た(収量0.342g、収率92%)。
【0085】
Poly(2-(4-butyl-3-sulfobenzoyl)-1,4-phenylene)(S-PBuBP)の合成
100mlの三口フラスコに還流冷却管、塩化カルシウム管、滴下漏斗を取り付け、NS-PBuBP 1.40gと精製したNMP 7mlを入れ、窒素雰囲気下、80℃で攪拌した。固体が完全に溶解した後、滴下漏斗からジエチルアミン臭化水素酸のNMP溶液を滴下し、反応溶液を120℃に上昇させ24時間攪拌した。反応終了後、得られた茶褐色粘性溶液をメタノール300ml(含HCl30ml)中で24時間攪拌した。得られた白色固体を吸引ろ過(メンブランフィルター、親水、ポアサイズ1.0μm)し、1 mol dm
-3 HCl水溶液中で、室温にて24時間攪拌した。
攪拌後の液を精製水中に投与し、pH試験紙でろ液がほぼ中性になるまで攪拌し、吸引ろ過(メンブランフィルター、親水、ポアサイズ1.0μm)後、80℃で24時間減圧乾燥した。得られた茶色固体をNMP(10質量%)に溶解し、吸引ろ過(桐山ろ紙 5A)後、約10倍量のジエチルエーテルに再沈澱した。沈殿物を吸引ろ過(メンブランフィルター、疎水、ポアサイズ3.0μm)し、80℃で24時間減圧乾燥することで、茶色固体のS-PBuBPを得た(収量0.75g、収率54%)。
また、得られたポリマーの分子量はMn=42,400、Mw=121,000であった。
【0086】
(実施例3)
本実施例では、以下の手順により、以下に示すポリマー:Poly(2-(4-(3-sulfopropyl)benzoyl-1,4-phenylene)(S-PrPBP)を合成した。
【0087】
【化14】
【0088】
(4-(3-Bromopropyl)phenyl)(2,5-dichlorophenyl)methanone(BDCM)の合成
スキーム5に示す手順でBDCMを合成した。
【0089】
【化15】
【0090】
窒素雰囲気下、三口フラスコに、ジムロート冷却管、塩化カルシウム管、及びアルカリトラップを取り付けた。三口フラスコの側管に、窒素導入管、滴下漏斗を取り付け、実施例1に記載の方法で合成したDCBC 47.7g(0.227mol)、ジクロロメタン170mlを入れ、塩化アルミニウム35.0g(0.263mol)を加えて、氷水中で10分間攪拌した。滴下漏斗より(3-bromopropyl)benzene(3-PPB)45.2 g(0.227mol)をゆっくりと滴下し、4時間攪拌した。溶液は茶褐色溶液となった。反応溶液を、体積分率で塩酸10%を含む氷水中に展開し、1時間攪拌した。溶液は白黄色の不透明溶液となった。反応溶液を含む氷水を分液漏斗に入れ、下層の桃色有機層を抽出し、10 %水酸化ナトリウム水溶液で1回、水で4回繰り返し洗浄し、抽出した有機層を無水硫酸マグネシウムを加えて24時間乾燥させた。溶液は橙色となった。その後エバポレーターで、ジクロロメタンを留去し、得られた固体を再結晶により2回精製し、白色透明固体のBDCMを得た(収量36.7g、収率43%)。また、生成物のMSによる同定結果を
図6に示す。
【0091】
Sodium 3-(4-(2,5-dichlorobenzoyl)phenyl)propane-1-sulfonate(DPS-Na)の合成
スキーム6に示す手順でDPS-Naを合成した。
【0092】
【化16】
【0093】
500ml三口フラスコに、BDCM 18.9g(50.8 mmol)、エタノール180ml、水75mlを加え入れた。フラスコにスターラーチップを入れ、その上に窒素導入管を付けたジムロート冷却管を付け、攪拌しながらオイルバスで加熱した。そこに亜硫酸ナトリウム18.9g(150mmol)を加え入れ、系内を窒素雰囲気下で、48時間、100℃で加熱還流を続けた。溶液は次第に白く懸濁した。反応溶液からエバポレーターにより水とエタノールを留去した。得られた白色固体をフラスコに移し、熱水を加えてオイルバスで加熱し、白色固体を完全に溶解させた。その後桐山ろ紙(5A)を用いて熱ろ過を行い、冷却させ、白色固体を得た。得られた白色固体を、メンブランフィルター(親水、ポアサイズ1.0μm)でろ過後、水で洗浄し、白色板状固体を得た。その後メタノール・アセトンを用いて再結晶した(収量12.8g、収率72%)。また、生成物のMSによる同定結果を
図7に示す。
【0094】
3-(4-(2,5-Dichlorobenzoyl)phenyl)propane-1-sulfonyl chloride(SC-PrDBP)の合成
スキーム7に示す手順でSC-PrDBPを合成した。
【0095】
【化17】
【0096】
100ml三口フラスコに、スターラーチップを入れ、側管に窒素導入管と滴下漏斗、上側に塩化カルシウム管とアルカリトラップを付けたジムロート冷却管を付け、窒素雰囲気下、DPS-Na 9.03g(22.9mmol)とDMF 15mlを加えた。氷浴で冷却してから、塩化チオニル9.01g(75.5mmol)を滴下漏斗から加え入れ、室温で3時間撹拌を続けた。溶液は次第に黄色く懸濁した。反応溶液をジクロロメタン150mlと水100mlの混合溶媒に展開し、有機層を抽出後、炭酸水素ナトリウム水溶液、水で洗浄した後、エバポレーターにより溶媒を留去した。残渣の透明淡黄色液体を真空乾燥することにより、白色板状固体を得た(収量:8.48g、収率:94%)。また、生成物のMSによる同定結果を
図8に示す。
【0097】
(2,5-Dichlorophenyl)(4-(3-(neopentylsulfonyl)propyl)phenyl)methanone(NS-PrDBP)の合成
スキーム8に示す手順でNS-PrDBPを合成した。
【0098】
【化18】
【0099】
100ml三口フラスコに、スターラーチップを入れ、側管に窒素導入管と滴下漏斗、上側に塩化カルシウム管を付け、窒素雰囲気下で、SC-PrDBP 8.48g(21.6mmol)を入れ、ピリジン3.41g(43.1mmol)、ジクロロメタン15mlを加えた。そこにネオペンチルアルコール1.90g(21.6 mmol)をジクロロメタン10mlに溶解させ滴下漏斗から加え入れ、室温下で20時間撹拌を続けた。溶液は次第に透明粘性液体となった。反応溶液をクロロホルムに展開し、有機層を抽出後、塩酸水溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液、水で洗浄した後、エバポレーターにより溶媒を留去した。得られた固体を、メンブランフィルター(疎水、ポアサイズ1.0μm)でろ過後、ヘキサンで洗浄し、40℃で減圧乾燥を行うことで、白色板状固体を得た。その後、2-プロパノール/ヘキサンを用いて再結晶を三回行い、透明針状結晶のNS-PrDBPを得た(収量:5.40g、収率:56%)。また、生成物のMSによる同定結果を
図9に示す。
【0100】
Poly(2-(4-(3-neopentylsulfonyl)propyl)benzoyl-1,4-phenylene)(NS-PrPBP)の合成
以上により得られたNS-PrDBPを用いて重合をおこない、スキーム9に示す手順でNS-PrPBPを合成した。
【0101】
【化19】
【0102】
アルゴン雰囲気のグローブボックス内で、100ml三口フラスコに、ニッケルビス(トリフェニルホスフィン)ジクロリドとトリフェニルホスフィン、活性化させた亜鉛粉末とヨウ化ナトリウムを表7に示した分量で入れ、NMPを加え、触媒溶液を調製した。
次に、NS-PrDBPのNMP溶液を50mlサンプル瓶内で調製して、フラスコの側管に取り付けた滴下漏斗内に加えた。
上部に、テフロン(登録商標)フィンを付けた撹拌棒を挿入したバキュームシーラーを取り付けた後、グローブボックスから取り出し、アルゴン雰囲気下、40℃で15分間、スリーインワンモーターを用いて撹拌した。触媒溶液の色は次第に赤褐色に変化し、その後NS-PrDBPのNMP溶液を滴下漏斗から素早く滴下して、65℃で24時間撹拌した。
反応終了後、得られた暗黒色粘性体をメタノール・塩酸溶液中に加え、24時間撹拌して触媒を取り除いた。沈殿物をメンブランフィルター(疎水、ポアサイズ1.0μm)でろ過し、50℃で減圧乾燥して、淡黄色固体の粗NS-PrPBPを得た。さらに良溶媒のクロロホルムに溶解して貧溶媒であるメタノールに再沈殿し、沈殿物をろ過し、減圧乾燥した。この操作を2度繰り返し、白色綿状固体のNS-PrPBPを得た。
仕込み量、収量・収率は表7に示した通りである。
【0103】
【表7】
【0104】
Poly(2-(4-(3-sulfopropyl)benzoyl-1,4-phenylene)(S-PrPBP)の合成
スキーム10に示す手順でS-PrDBPを合成した。
【0105】
【化20】
【0106】
300ml三口フラスコにNS-PrPBPを量り入れ、側管にそれぞれ窒素導入管とジムロート冷却管を接続し、そこにNMPを加え入れ窒素雰囲気にした後、バキュームシーラーを取り付け、スリーインワンモーターを用い300rpmで撹拌しながら、80℃で加熱して固体を完全に溶解させた。そこに、ジエチルアミン臭化水素酸塩をNMPに溶解させ、パスツールで加え入れ、120℃で24時間加熱撹拌した。溶液は次第に茶褐色となった。その後、反応溶液を、撹拌中の10%塩酸を含むメタノール溶液にゆっくり滴下し、室温にて24時間撹拌を続けた。沈殿物をメンブランフィルター(疎水、ポアサイズ1.0μm)で回収し、50℃で減圧乾燥することで、赤褐色固体の粗精製S-PrPBPを得た。さらに粗精製固体をNMPに加熱溶解させて、THFに再沈殿させることにより精製した。得られた沈殿物をメンブランフィルター(疎水、ポアサイズ3.0μm)で回収し、S-PrPBPを得た。
仕込み量、収量・収率は表8に示した通りである。なお、表8において、収率は、脱保護が100%行われているとして、ポリマー重量から算出した。
また、得られたポリマーの分子量はMn=65,000、Mw=213,000であった。
【0107】
【表8】
【0108】
(実施例4)
本実施例においては、以下の手順でランダムコポリマーH-r-SPr(本明細書中、「SPr-r-H」ともいう。)の合成をおこなった。
【0109】
GrignardモノマーM1およびM3の調製
GrignardモノマーM1およびM3の調製手順をスキーム11に示す。また、仕込み組成を表9に示す。
【0110】
【化21】
【0111】
グローブボックス内でアルゴン雰囲気下にしたサンボトル中で、1,4-dibromo-2,5-dihexyloxybenzene(DBHB)および1,4-di[4-(2,2-dimetylpropoxysulfonyl)phenyl]propoxylbenzene(NS-DBPrB)をそれぞれTHFに溶解し、isopropylmagnesium chloride lithiumchloride complexのTHF溶液を加え、40℃で5時間反応させることで0.455Mのモノマー溶液を調製した。
【0112】
【表9】
【0113】
得られた各モノマー溶液を用いて、スキーム12に示す手順および表10に示す条件で重合反応をおこなった。
【0114】
【化22】
【0115】
アルゴン雰囲気下にしたフラスコ中で、Ni(dppe)Cl
2をTHFに溶解し、触媒溶液を調製した。室温で触媒溶液に、調製したM1とM3モノマー溶液の混合溶液を添加し、30時間撹拌した。撹拌後、HCl aq./methanol混合溶液(1:5、v/v)に展開し撹拌した。沈殿物を吸引ろ過し、60℃で24時間減圧乾燥した。得られた固体をchloroformに溶解し、methanol/acetone溶液(1:1、v/v)への再沈澱により精製を行った。
【0116】
【表10】
【0117】
ランダムコポリマーH-r-SPrの合成
スキーム13に示す手順および表11に示す条件で脱保護反応をおこなった。
【0118】
【化23】
【0119】
還流冷却管をつけた三口フラスコにポリマーとNMPを入れ、窒素雰囲気下、80℃で攪拌した。固体が完全に溶解した後、反応溶液を120℃に上昇させdiethylaminehydrobromideのNMP溶液を滴下し48時間攪拌した。茶褐色粘性溶液をジエチルエーテル中に展開し、吸引ろ過により回収した。得られた赤褐色固体を1M HCl aq.中で48時間、次に精製水中で24時間攪拌し、吸引ろ過で回収した後、60℃で24時間減圧乾燥した。
得られたポリマーにおいて、m=134、n=314であった。
【0120】
【表11】
【0121】
(実施例5)
本実施例では、実施例1で得られたS-PEtBPおよび実施例2で得られたS-PBuBPの各種溶媒への溶解性を評価した。結果をそれぞれ表12および表13に示す。表12および表13において、「×」は溶媒に不溶であったことを示し、「○」は溶媒に可溶であったことを示す。
これまで、剛直な骨格からなるポリフェニレン構造では溶解性などの加工時の作業性の点で改善の余地があった。
これに対し、各実施例で得られたS-PEtBP、S-PBuBP骨格では、柔軟なアルキル基を側鎖に導入したことにより、表12および表13に示すように、有機溶媒に対する溶解性が向上した。
【0122】
【表12】
【0123】
【表13】
【0124】
(実施例6)
本実施例では、以上の実施例で得られたポリマーのアイオノマーとしての特性を評価した。
【0125】
(水素・酸素ガス透過係数の測定)
実施例1〜3で得られたポリマー、および、アルキル基を導入していない類似のポリマー(以下に示すS−PPBP)について、ガス透過係数を測定した。なお、以下に、用いたポリマーの構造および逆滴定法または元素分析法により求めたIECを示す。
【0126】
【化24】
【0127】
まず、各ポリマーについて、以下の方法で試料膜を形成した。
各ポリマーをDMSO等の良溶媒に溶解(5質量%)し、これをろ過した。ガラス基板上に溶液をキャストし、80℃で12時間乾燥、さらに80℃で3時間減圧乾燥した。基板からはく離後、1mol/l HCl水溶液、精製水で洗浄し、その後65℃で24時間減圧乾燥した。
【0128】
3.5 x 3.5 cmの正方形に成型した試料膜をセルに設置し、ガスクロマトグラフG2700T (Yanaco社製)を取り付けたフロー式ガス・水蒸気透過度測定装置GTR-20XFMD(GTRテック社製)装置を用いて測定を行なった。30ml min
-1の割合で酸素、水素ガスを供給し、80℃、相対湿度0から90%において、膜中を透過した酸素と水素の量からガス透過係数(P)を求めた。水素と酸素のキャリアーガスとしてそれぞれアルゴンとヘリウムを用いた。
測定条件は以下の通りである。
測定温度:80℃
測定湿度:0-90% RH
水素ガス供給量:30ml min
-1
酸素ガス供給量:30ml min
-1
結果を
図10に示す。
【0129】
また、実施例4で得られたランダム共重合体およびNafion 112(デュポン社製)についても、上記に準じた方法で膜の作製およびガス透過性を評価した。結果を
図11に示す。
【0130】
図10および
図11より、実施例1〜4で得られた高分子電解質は、いずれも、ガス透過性に優れていた。また、
図11より、実施例4で得られた高分子電解質では、Nafion 112をも上回る高いガス透過性を示した。
よって、各実施例で得られた高分子電解質は、いずれも、たとえば燃料電池の触媒電極用のアイオノマーとして好適に用いることができる。
【0131】
(発電特性の評価)
以下の手順でMEAを作製し、その発電特性を評価した。
触媒電極のアイオノマーとして、各実施例で得られた高分子電解質またはナフィオンを用い、以下の手順でMEAを作製した。触媒電極作製時の触媒およびアイオノマーの配合および用いた溶媒を表14に示す。
【0132】
【表14】
【0133】
表14に示した原料を用いて、アイオノマー溶液が5質量%となるように触媒インクを調製した。溶媒は単一溶媒またはアルコールに5質量%の水を加えた混合溶媒とした。また、MEA中の、アイオノマー材料および白金の量は、いずれも1.0 mg cm
-2程度とした。
白金担持カーボン(Pt/C、田中貴金属社製)をサンプル瓶に測りとり、水をわずかに加えた。スターラーを用いて50℃で2分間撹拌、1分間脱泡することにより触媒を水に十分になじませた。次にアイオノマー溶液をサンプル瓶に滴下し、先程と同様にスターラーを用いて3時間撹拌することにより触媒インクを作成した。作成した触媒インクをミクロスパーテルでカーボンペーパー(SGLカーボン社製)に塗布し、ヒートスターラーで乾燥した。その後、カーボンペーパーを80℃で3時間減圧乾燥し、10分間、130℃ 、100 kgcm
-2でKaptonとステンレス板で挟み、ホットプレスすることにより表面処理をした。
次に、電解質膜(Nafion211膜)を得られた触媒電極の触媒塗布面で挟み込むようにして、10分間、130℃、100 kgcm
-2でKaptonとステンレス板で挟み、ホットプレスした。
【0134】
得られたMEAについて、FUEL CELL TEST SYSTEM SERIES 890B(東洋テクニカ社製)を用いて発生した電圧を測定し、燃料電池評価装置(型式PEM-8900-18、東洋テクニカ社製)を用いて以下の条件にて評価を行った。
測定条件
セル温度:80℃
アノード・カソード温度:80℃〜53℃(100%RH〜30%RH)
アノードガス:H
2
アノードガス供給流量:0.5L min
-1
カソードガス:合成空気(酸素20%含有)
カソードガス供給流量:1.0 L min
-1
アノード・カソード供給ガス背圧:0.1 MPaG
【0135】
図12〜
図14は、それぞれ、触媒電極のアイオノマーとして実施例1で得られたS-PEtBP、実施例2で得られたS-PBuBPおよび実施例3で得られたS-PrPBPの結果を示す図である。また、
図15は、実施例4で得られたSPr-r-Hの結果を示す図である。
また、
図16は、触媒電極のアイオノマーとして実施例1〜3で得られた高分子電解質およびNafionを用いたMEAの80℃における出力密度の湿度依存性を示す図である。
【0136】
図12〜
図15より、実施例1〜4で得られた高分子電解質を触媒電極のアイオノマーとして用いたMEAは、セル電圧、出力密度およびセル抵抗の特性のバランスに優れているとともに、低湿度の条件における特性低下が効果的に抑制されていた。
また、
図16より、実施例1〜3のアイオノマーを用いることにより、低湿度の条件において、ナフィオンを上回る優れた出力特性が得られることがわかる。