【解決手段】まず、デプレッション型MOSFETとエンハンスメント型MOSFETからなる基準電圧回路装置を作製する。ついで、デプレッション型MOSFETとエンハンスメント型MOSFETの、それぞれのしきい値電圧を測定する。ついで、放射線照射後に、再度、デプレッション型MOSFETとエンハンスメント型MOSFETの、それぞれのしきい値電圧を測定する。ついで、デプレッション型MOSFETおよびエンハンスメント型MOSFETの、放射線照射後のしきい値電圧の変動量を算出する。ついで、しきい値電圧の変動量に基づいて、宇宙空間で用いる好適な素子寸法を有する基準電圧回路装置を作製する。
前記算出工程では、前記デプレッション型MOSFETのチャネル長または前記エンハンスメント型MOSFETのチャネル長を算出することを特徴とする請求項1に記載の半導体回路装置の製造方法。
前記デプレッション型MOSFETおよび前記エンハンスメント型MOSFETの、それぞれのゲート酸化膜の厚さは10nm以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の半導体回路装置の製造方法。
前記作製工程では、前記デプレッション型MOSFETと前記エンハンスメント型MOSFETとを同一基板上に集積することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の半導体回路装置の製造方法。
前記デプレッション型MOSFETと前記エンハンスメント型MOSFETとの接続点および該エンハンスメント型MOSFETのソース間の電位差が、放射線が照射される前と放射線が照射されている状態のときとで等しい素子寸法を有することを特徴とする請求項6に記載の半導体回路装置。
前記素子寸法は、前記デプレッション型MOSFETのチャネル長または前記エンハンスメント型MOSFETのチャネル長であることを特徴とする請求項6または7に記載の半導体回路装置。
前記デプレッション型MOSFETおよび前記エンハンスメント型MOSFETの、それぞれのゲート酸化膜の厚さは10nm以上であることを特徴とする請求項6〜8のいずれか一つに記載の半導体回路装置。
前記デプレッション型MOSFETと前記エンハンスメント型MOSFETとは同一基板上に集積されていることを特徴とする請求項6〜9のいずれか一つに記載の半導体回路装置。
【背景技術】
【0002】
DC(Direct Current)/DCコンバータIC(Integrated Circuit)などの回路動作を安定させるために、所定の基準電圧を出力する基準電圧回路装置が用いられる。基準電圧回路装置の回路構成として、ダイオードと抵抗素子を直列に接続したバンドギャップレファレンス方式や、2つのMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)を直列に接続した方式が公知である。
【0003】
バンドギャップレファレンス方式の基準電圧回路装置は、温度変動が小さく、かつ耐放射線性のうちのトータルドーズ(TID:Total Ionising Dose)耐量が大きい等の長所を有する反面、消費電力が大きく、かつ初期特性のばらつきが大きい等の短所がある。
【0004】
一方、2つのMOSFETを直列に接続した方式の基準電圧回路装置は、消費電力や初期特性のばらつきが小さく、かつ耐放射線性のうちシングルイベント特性(SEE:Sigle Event Effect)が優れている等の長所を有する反面、温度変動が大きく、かつTID耐量が小さい等の短所がある。
【0005】
上述した基準電圧回路装置を、放射線の照射量が多い例えば宇宙空間などで用いる場合、耐放射線性のうちTID特性およびSEE特性が優れていることが重要である。ここで、TID特性とは、ゲート酸化膜に放射線が照射されている状態のときに、ゲート酸化膜内に電子・正孔対が発生し、電子または正孔がゲート酸化膜内のシリコンとの界面に固定電荷となって蓄積される現象をいう。例えば、ゲート酸化膜に正のバイアス電圧が印加された場合には、正孔がゲート酸化膜内のシリコンとの界面に移動して、正の固定電荷となって蓄積される。その結果、n型MOSFETでは、しきい値電圧が低下し、ソース電極とドレイン電極間のリーク電流が増加する。
【0006】
SEE特性とは、宇宙から飛散してくる陽子や重粒子などの高エネルギー粒子がシリコン基板に入射したときに、その飛跡に沿って高密度の電子・正孔対の集合体であるプラズマフィラメントが形成される現象をいう。例えば、半導体装置内に形成されたウェルが正電位を有する場合、導電体であるプラズマフィラメントを通じてウェルと基板が短絡する。その時間はピコ秒オーダーである。
【0007】
バンドギャップレファレンス方式の基準電圧回路装置では、シリコン基板の表面に形成された一本のダイオードと複数の熱起電力の差が正の熱起電力を示すという特性を利用し、ごくわずかな起電力の差を増幅して基準電圧として出力する。このため、基準電圧回路装置内部にSEE特性によるプラズマフィラメントが形成され、ウェルの電位が基板電位まで低下した場合、ウェルの電位が回復する時間は長くなる傾向にある。このような問題を解消する方法として、シリコン基板の厚さを薄くしてプラズマフィラメントを短縮する方法が提案されているが、コストが増大してしまう。
【0008】
一方、2つのMOSFETを直列に接続した方式の基準電圧回路装置では、TID特性によってMOSFETのしきい値電圧が変動する。放射線が照射されることによるMOSFETのしきい値電圧の変動量は、ゲート酸化膜の厚さに依存する。放射線の吸収線量が1kGy(1×10
5RAD)の場合、MOSFETのしきい値電圧の変動量は、ゲート酸化膜の厚さが例えば20nmで−100mV台、ゲート酸化膜の厚さが例えば10nmで−10mV台程度になることが報告されている(例えば、下記特許文献1(第8図)参照)。ゲート酸化膜の厚さを10nm程度にすることで、放射線が照射されている状態のときのTID特性による問題が解消される。
【0009】
基準電圧回路装置として、デプレッション型のFETと抵抗手段との直列回路に電源電圧を印加し、上記デプレッション型のFETと抵抗手段との接続点を出力端子とし、デプレッション型のFETに流れる電流がこのFETの定電流特性領域内とするように抵抗手段の値を設定してなる装置が提案されている(例えば、下記特許文献2参照。)。
【0010】
基準電圧回路装置の出力電圧のばらつきを低減した回路装置として、ディプレション型MOSFETとエンハンスメント型MOSFETとが直列接続され、ディプレション型MOSFETが高電位側端子に、エンハンスメント型MOSFETが低電位側端子にそれぞれ接続され、両MOSFETの接続点と両MOSFETのゲートとが出力端子に接続されたMOS基準電圧回路において、ディプレション型MOSFETのチャネル領域の表面濃度が、1×10
16cm
-3以上で、1×10
17cm
-3以下の範囲にある装置が提案されている(例えば、下記特許文献3参照。)。
【0011】
また、別の装置として、次のような装置が提案されている。第1のトランジスタは、n型基板のpウェル内に形成されたデプレッション型トランジスタであり、ゲートとソースが接続され、サブストレートゲートは接地電圧に接続されている。第2,3のトランジスタは、基板やチャネルドープの不純物濃度が等しく、n型基板のpウェル内にそれぞれ形成され、第2のトランジスタは高濃度n型ゲートを持ち、第3のトランジスタは高濃度p型ゲートを持つ。第2,3のトランジスタの接続部に第2,3のトランジスタの各ゲート並びに第2のトランジスタのサブストレートゲートをそれぞれ接続し、第3のトランジスタのサブストレートゲートを接地電圧に接続する(例えば、下記特許文献4参照。)。
【0012】
耐放射線性を向上した基準電圧回路装置として、次の装置が提案されている。シリコン基板上に酸化膜を介してポリシリコン層を堆積し、メサエッチングしてゲート酸化膜とゲート電極とを形成した後、シリコン基板中に不純物イオン注入し、さらに熱処理を施してソースおよびドレイン不純物拡散領域を形成して構成される絶縁ゲート型半導体装置の製造方法において、ゲート電極中に含まれる不純物がゲート酸化膜中に拡散しゲート酸化膜中の不純物濃度が上昇するのを抑制する方法として、ゲート電極中の不純物濃度を5×10
18〜5×10
20cm
-3に設定する方法、ゲート電極の表面上にシリサイド層を堆積する方法、ソースおよびドレイン不純物拡散領域を形成するための熱処理工程を900℃以下の温度で行う方法、のうち、少なくとも1つの方法を備えた方法により製造される(例えば、下記特許文献5参照。)。
【0013】
また、別の装置として、次のような装置が提案されている。支持基板と絶縁膜と複数の島状の半導体層からなるSOI基板を用い、その各半導体層上にゲート酸化膜を設け、その上にそれぞれ半導体層を横断するようにゲート電極を設けて、nチャネル型半導体装置とpチャネル型半導体装置とを構成する。そのpチャネル型半導体装置のゲート電極と半導体層との間の該半導体層の周辺領域に第1の境界領域被膜を設け、nチャネル型半導体装置のゲート電極と半導体層との間の該半導体層の周辺領域に第1の境界領域被膜より膜厚が薄い第2の境界領域被膜を設け、第1,第2の境界領域被膜の膜圧をいずれもゲート酸化膜の膜厚よりは厚くする(例えば、下記特許文献6参照。)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、発明者が鋭意研究を重ねた結果、次のような問題が発生することが判明した。基準電圧回路装置のゲート酸化膜の厚さを10nm程度とした場合、ゲート酸化膜の薄膜化によりゲート電極に印加可能なゲート電圧が低くなる。このため、基準電圧回路装置の信頼性が低下し、用途によっては基準電圧回路装置の特性を発揮することができない虞がある。
【0016】
そこで、ゲート電極近傍の電界強度を3.5MV/cm程度以下に抑えることが望ましく、基準電圧回路装置を搭載する論理回路の電圧が一般的に5Vであることから、ゲート酸化膜の厚さは20nm程度とするのが望ましい。しかしながら、ゲート酸化膜の厚さを20nm程度とした場合、上述したように、TID特性によってMOSFETのしきい値電圧が大きく変動して、基準電圧回路装置の出力電圧がばらつくという問題が生じる。
【0017】
また、従来の基準電圧回路装置(例えば特許文献2参照)は、デプレッション型MOSFET側の基板表面の不純物濃度がエンハンスメント型MOSFET側に比べて低い。このため、放射線が照射されている状態のときに、デプレッション型MOSFETのしきい値電圧の変動量と、エンハンスメント型MOSFETのしきい値電圧の変動量はそれぞれ異なってくる。これにより、放射線が照射されている状態のときに、基準電圧回路装置の出力電圧が予め設定された出力電圧よりも数%程度低下するという問題が生じる。
【0018】
この発明は、上述した従来技術による問題点を解消するため、基準電圧のばらつきを低減することができる半導体回路装置の製造方法および半導体回路装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上述した課題を解決し、本発明の目的を達成するため、この発明にかかる半導体回路装置の製造方法は、デプレッション型MOSFETとエンハンスメント型MOSFETとが直列に接続された半導体回路装置の製造方法であって、前記デプレッション型MOSFETおよび前記エンハンスメント型MOSFETの、それぞれのしきい値電圧を測定する第1の測定工程と、前記デプレッション型MOSFETおよび前記エンハンスメント型MOSFETに放射線を照射する照射工程と、放射線照射後の前記デプレッション型MOSFETおよび前記エンハンスメント型MOSFETの、それぞれのしきい値電圧を測定する第2の測定工程と、前記第1の測定工程および第2の測定工程によって測定された複数のしきい値電圧に基づいて、前記デプレッション型MOSFETと前記エンハンスメント型MOSFETとの接続点および該エンハンスメント型MOSFETのソース間の電位差が、放射線が照射される前と放射線が照射されている状態のときとで等しくなる素子寸法を算出する算出工程と、前記算出工程によって算出された前記素子寸法に調整した前記デプレッション型MOSFETおよび前記エンハンスメント型MOSFETを作製する作製工程と、を含むことを特徴とする。
【0020】
また、この発明にかかる半導体回路装置の製造方法は、上述した発明において、前記算出工程では、前記デプレッション型MOSFETのチャネル長または前記エンハンスメント型MOSFETのチャネル長を算出することを特徴とする。
【0021】
また、この発明にかかる半導体回路装置の製造方法は、上述した発明において、前記デプレッション型MOSFETおよび前記エンハンスメント型MOSFETの、それぞれのゲート酸化膜の厚さは10nm以上であることを特徴とする。
【0022】
また、この発明にかかる半導体回路装置の製造方法は、上述した発明において、前記作製工程では、前記デプレッション型MOSFETと前記エンハンスメント型MOSFETとを同一基板上に集積することを特徴とする。
【0023】
また、この発明にかかる半導体回路装置の製造方法は、上述した発明において、前記デプレッション型MOSFETのソースおよびゲートは、前記エンハンスメント型MOSFETのドレインおよびゲートに接続されており、前記デプレッション型MOSFETのドレインは高電位側端子に接続されており、前記エンハンスメント型MOSFETのソースは低電位側端子に接続されていることを特徴とする。
【0024】
また、上述した課題を解決し、本発明の目的を達成するため、この発明にかかる半導体回路装置は、デプレッション型MOSFETとエンハンスメント型MOSFETとが直列に接続された半導体回路装置であって、前記デプレッション型MOSFETと前記エンハンスメント型MOSFETとの接続点および該エンハンスメント型MOSFETのソース間の電位差を、放射線が照射されている状態のときに、放射線が照射される前の電位差に近づけた素子寸法とされ、前記素子寸法は、放射線が照射されている状態の前記デプレッション型MOSFETおよび前記エンハンスメント型MOSFETの、それぞれのしきい値電圧の変動量に基づいた寸法であることを特徴とする。
【0025】
また、この発明にかかる半導体回路装置は、上述した発明において、前記デプレッション型MOSFETと前記エンハンスメント型MOSFETとの接続点および該エンハンスメント型MOSFETのソース間の電位差が、放射線が照射される前と放射線が照射されている状態のときとで等しい素子寸法を有することを特徴とする。
【0026】
また、この発明にかかる半導体回路装置は、上述した発明において、前記素子寸法は、前記デプレッション型MOSFETのチャネル長または前記エンハンスメント型MOSFETチャネル長であることを特徴とする。
【0027】
また、この発明にかかる半導体回路装置は、上述した発明において、前記デプレッション型MOSFETおよび前記エンハンスメント型MOSFETの、それぞれのゲート酸化膜の厚さは10nm以上であることを特徴とする。
【0028】
また、この発明にかかる半導体回路装置は、上述した発明において、前記デプレッション型MOSFETと前記エンハンスメント型MOSFETとは同一基板上に集積されていることを特徴とする。
【0029】
また、この発明にかかる半導体回路装置は、上述した発明において、前記デプレッション型MOSFETのソースおよびゲートは、前記エンハンスメント型MOSFETのドレインおよびゲートに接続されており、前記デプレッション型MOSFETのドレインは高電位側端子に接続されており、前記エンハンスメント型MOSFETのソースは低電位側端子に接続されていることを特徴とする。
【0030】
上述した発明によれば、デプレッション型MOSFETおよびエンハンスメント型MOSFETのそれぞれの、放射線照射前後のしきい値電圧の変動量に基づいて、基準電圧回路装置を再度作製する。このとき、デプレッション型MOSFETとエンハンスメント型MOSFETとの接続点および該エンハンスメント型MOSFETのソース間の電位差が、放射線が照射される前と放射線が照射されている状態のときとでほぼ等しくなる基準電圧回路装置を作製する。これにより、放射線の吸収線量が任意の吸収線量に至るまで、出力電圧がほぼ変動しない基準電圧回路装置を作製することができる。
【0031】
また、上述した発明によれば、放射線が照射されている状態のときの基準電圧回路装置の出力電圧は、放射線が照射される前の出力電圧とほぼ等しい。つまり、放射線の吸収線量が任意の吸収線量に至るまで、基準電圧回路装置の出力電圧はほぼ変動しない。
【発明の効果】
【0032】
本発明にかかる半導体回路装置の製造方法および半導体回路装置によれば、基準電圧のばらつきを低減することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる半導体回路装置の製造方法および半導体回路装置の好適な実施の形態を詳細に説明する。本明細書および添付図面においては、nまたはpを冠記した層や領域では、それぞれ電子または正孔が多数キャリアであることを意味する。また、nやpに付す+および−は、それぞれそれが付されていない層や領域よりも高不純物濃度および低不純物濃度であることを意味する。なお、以下の実施の形態の説明および添付図面において、同様の構成には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0035】
(実施の形態)
図1は、実施の形態にかかる半導体回路装置の構成を示す回路図である。
図1に示す半導体回路装置は、デプレッション型MOSFET1とエンハンスメント型MOSFET2を直列に接続し、これらのしきい値電圧Vthの差を基準電圧として出力する基準電圧回路装置である。デプレッション型MOSFET1とエンハンスメント型MOSFET2は、高電位側端子Vsと低電位側端子Gndとの間に直列に接続されている。高電位側端子Vsは、例えば電源電位を有する。低電位側端子Gndは、例えば接地電位を有する。また、デプレッション型MOSFET1は、定電流源として形成されている。
【0036】
具体的には、高電位側端子Vsは、デプレッション型MOSFET1のドレインに電気的に接続される。低電位側端子Gndは、エンハンスメント型MOSFET2のソースに電気的に接続される。また、低電位側端子Gndは、デプレッション型MOSFET1とエンハンスメント型MOSFET2が設けられた基板に電気的に接続される。出力端子Vrefは、デプレッション型MOSFET1のソースおよびゲートと、エンハンスメント型MOSFET2のドレインおよびゲートと、に電気的に接続される。
【0037】
デプレッション型MOSFET1は、定電流源として動作し、デプレッション型MOSFET1とエンハンスメント型MOSFET2の接続部である出力端子Vrefとエンハンスメント型MOSFET2のソースとの電位差が出力電圧Voutとして出力される。例えば、高電位側端子Vsに印加される電源電圧が3V以上の場合、基準電圧回路装置の出力電圧Voutは1Vとなる。
【0038】
図2は、実施の形態にかかる半導体回路装置の構造を示す断面図である。
図2に示すように、実施の形態にかかる半導体回路装置は、p基板11の表面層にpウェル領域12が設けられている。p基板11とpウェル領域12の不純物濃度は等しくてもよい。pウェル領域12の表面濃度は、例えば1×10
15cm
-3台であってもよい。pウェル領域12の表面層には、デプレッション型MOSFET1およびエンハンスメント型MOSFET2が設けられている。pウェル領域12の表面層の一部には、第1〜第3のn
+領域13〜15が互いに離れて設けられている。
【0039】
デプレッション型MOSFET1において、第1のn
+領域13がn
+ドレイン領域であり、第2のn
+領域14がn
+ソース領域である。nデプレッション領域16は、pウェル領域12の表面層の一部に、第1のn
+領域13および第2のn
+領域14と接するように設けられている。nデプレッション領域16の表面濃度は、1×10
16cm
-3以上1×10
17cm
-3以下であってもよい。nデプレッション領域16が設けられていることより、デプレッション型MOSFET1のしきい値電圧は、エンハンスメント型MOSFET2のしきい値電圧よりも低く設定されている。
【0040】
nデプレッション領域16の上には、ゲート酸化膜17を介してゲート電極18が設けられている。ゲート酸化膜17の厚さは、例えば10nm以上であるのが好ましい。その理由は、ゲート電極に印加可能なゲート電圧を高くすることができ、基準電圧回路装置の信頼性を向上することができるからである。
【0041】
エンハンスメント型MOSFET2において、第2のn
+領域14がn
+ドレイン領域であり、第3のn
+領域15がn
+ソース領域である。pウェル領域12の上には、第2のn
+領域14から第3のn
+領域15に跨って、ゲート酸化膜19を介してゲート電極20が設けられている。ゲート酸化膜19の厚さは、例えば10nm以上であるのが好ましい。その理由は、デプレッション型MOSFET1のゲート酸化膜17と同様である。
【0042】
デプレッション型MOSFET1およびエンハンスメント型MOSFET2において、pウェル領域12および第2のn
+領域14は共通する領域である。出力端子Vrefは、第2のn
+領域14(デプレッション型MOSFET1のn
+ソース領域およびエンハンスメント型MOSFET2のn
+ドレイン領域)と、デプレッション型MOSFET1のゲート電極18と、エンハンスメント型MOSFET2のゲート電極20と、に電気的に接続される。
【0043】
高電位側端子Vsは、第1のn
+領域13(デプレッション型MOSFET1のn
+ドレイン領域)に電気的に接続される。また、低電位側端子Gndは、第3のn
+領域15(エンハンスメント型MOSFET2のn
+ソース領域)に電気的に接続される。フィールド酸化膜21は、pウェル領域12の表面層の一部に設けられており、デプレッション型MOSFET1およびエンハンスメント型MOSFET2を、図示しない他の素子から分離している。
【0044】
デプレッション型MOSFET1およびエンハンスメント型MOSFET2は、デプレッション型MOSFET1とエンハンスメント型MOSFET2との接続点およびエンハンスメント型MOSFET2のソース間の電位差を、放射線が照射されている状態のときに、放射線が照射される前の電位差に近づけた素子寸法を有する。具体的には、デプレッション型MOSFET1とエンハンスメント型MOSFET2との接続点およびエンハンスメント型MOSFET2のソース間の電位差は、放射線が照射されている状態のときに、放射線が照射される前の電位差とほぼ等しい。放射線が照射される前の電位差と放射線が照射されている状態のときの電位差との変動量は例えば1%未満である。この素子寸法は、放射線が照射されている状態のデプレッション型MOSFET1およびエンハンスメント型MOSFET2の、それぞれのしきい値電圧の変動量に基づいて設定される。
【0045】
具体的には、デプレッション型MOSFET1およびエンハンスメント型MOSFET2の素子寸法は、デプレッション型MOSFET1の放射線照射前後のしきい値電圧の変動量ΔV
thDと、エンハンスメント型MOSFET2の放射線照射前後のしきい値電圧の変動量Δ
VthEと、に基づいて設定される。
【0046】
ここで、素子寸法とは、デプレッション型MOSFET1のチャネル長Ldおよびチャネル幅Wdと、エンハンスメント型MOSFET2のチャネル長Leおよびチャネル幅Weである。
【0047】
図3は、
図1に示すMOSFETのチャネル長およびチャネル幅を示す説明図である。チャネル長Ldは、デプレッション型MOSFET1のソース領域(第2のn
+領域14)とドレイン領域(第1のn
+領域13)間に形成されるチャネル領域の、ドレイン・ソース電流の流れる方向の幅である。チャネル幅Wdは、デプレッション型MOSFET1のチャネル領域の、チャネル長Ldに直行する方向の幅である。同様に、チャネル長Leは、エンハンスメント型MOSFET2のチャネル領域の、ドレイン・ソース電流の流れる方向の幅である。チャネル幅Weは、エンハンスメント型MOSFET2のチャネル領域の、チャネル長Leに直行する方向の幅である(不図示)。
【0048】
詳細には、例えば、デプレッション型MOSFET1のチャネル長Ldは、次の(1)式および(2)式を満たす寸法を有する。ここで、ΔV
thDは、放射線照射後のデプレッション型MOSFET1のしきい値電圧の変動量である。ΔV
thEは、放射線照射後のエンハンスメント型MOSFET2のしきい値電圧の変動量である。
【0051】
同様に、デプレッション型MOSFET1のチャネル幅Wd、エンハンスメント型MOSFET2のチャネル長Leおよびチャネル幅Weは、上記(2)式の左辺が、デプレッション型MOSFET1のチャネル幅Wdや、エンハンスメント型MOSFET2のチャネル長Leおよびチャネル幅Weとなるように展開された式を満たすように設定される。
【0052】
このように、上記(1)式および(2)式を満たす素子寸法で基準電圧回路装置を作製することで、放射線が照射されている状態のときに出力電圧がばらつくことを抑制することができる。その理由については後述する。
【0053】
次に、
図1に示す半導体回路装置の製造方法について説明する。
図4は、実施の形態にかかる半導体回路装置の製造方法を示すフローチャートである。まず、基板上に、デプレッション型MOSFET1およびエンハンスメント型MOSFET2を形成する。ついで、デプレッション型MOSFET1のソースおよびゲートと、エンハンスメント型MOSFET2のドレインおよびゲートを接続する。また、デプレッション型MOSFET1のドレインを高電位側端子Vsに接続し、エンハンスメント型MOSFET2のソースは低電位側端子Gndに接続する。つまり、デプレッション型MOSFET1とエンハンスメント型MOSFET2とが直列に接続された基準電圧回路装置を作製する(ステップS1)。
【0054】
ここで、デプレッション型MOSFET1のチャネル長Ldおよびチャネル幅Wdを、それぞれ130μmおよび10μmとしてもよい。エンハンスメント型MOSFET2のチャネル長Leおよびチャネル幅Weを、それぞれ160μmおよび12μmとしてもよい。また、デプレッション型MOSFET1およびエンハンスメント型MOSFET2を、同一基板上に集積してもよいし(
図2参照)、異なる基板上に形成してもよい。また、基準電圧回路装置の作製は、一般的な工程および条件で行う。
【0055】
ついで、ステップS1で作製したデプレッション型MOSFET1およびエンハンスメント型MOSFET2の、それぞれのしきい値電圧を、一般的なパラメータアナライザを用いて測定する(第1の測定工程:ステップS2)。
【0056】
具体的には、ステップS2では、デプレッション型MOSFET1のソース・ドレイン間の電位差を5Vとした後、デプレッション型MOSFET1のゲートに電圧を印加する。そして、デプレッション型MOSFET1のゲート電圧を上昇させて、ドレイン・ソース間電流Idsが100μAとなったときのゲート電圧を、デプレッション型MOSFET1のしきい値電圧として測定する。エンハンスメント型MOSFET2のしきい値電圧についても、同様の方法で測定する。
【0057】
また、ステップS2では、出力端子Vrefおよび低電位側端子Gnd間の電位差を出力電圧Voutとして測定する。具体的には、高電位側端子Vsを例えば電源電圧電位5Vとし、低電位側端子Gndを例えば接地電位とする。そして、デプレッション型MOSFET1とエンハンスメント型MOSFET2との接続点(出力端子Vref)およびエンハンスメント型MOSFET2のソース(低電位側端子Gnd)間の電位差を測定する。
【0058】
ついで、ステップS1で作製したデプレッション型MOSFET1およびエンハンスメント型MOSFET2に放射線を照射する(照射工程:ステップS3)。ステップS3では、例えば、コバルトの人工放射性同位体のうち質量数60のもの(コバルト60)を放射線源とし、γ線を吸収線量1kGy/Hrで1時間照射してもよい。
【0059】
また、ステップS3では、放射線照射中に、例えば、次の電圧印加条件で基準電圧回路装置を動作させる。基準電圧回路装置の高電位側端子Vsを電源電圧電位5Vとし、低電位側端子Gndを例えば接地電位とする。つまり、基準電圧回路装置の動作開始直後におけるデプレッション型MOSFET1のドレインに5Vの電圧を印加し、エンハンスメント型MOSFET2のソースを接地する。デプレッション型MOSFET1は、ゲートに電圧が印加されていない状態のときには、ソース・ドレイン間が導通状態(以下、ノーマリオンとする)となっているため、エンハンスメント型MOSFET2のドレインには5Vの電圧が印加される。その後、エンハンスメント型MOSFET2のゲートの電位が1Vとなるまで動作させる。
【0060】
ついで、照射工程後のデプレッション型MOSFET1およびエンハンスメント型MOSFET2の、それぞれのしきい値電圧を、一般的なパラメータアナライザを用いて測定する(第2の測定工程:ステップS4)。測定方法および測定条件は、ステップS2と同様である。
【0061】
ついで、上記(1)式および(2)式を用いて、放射線が照射される空間で使用するための、基準電圧回路装置の最適な素子寸法を算出する(算出工程:ステップS5)。例えば、デプレッション型MOSFET1のチャネル長Ldおよびチャネル幅Wdと、エンハンスメント型MOSFET2のチャネル長Leおよびチャネル幅Weのうち、後の工程で作製する基準電圧回路装置で調整する部分の寸法を算出する。好ましくは、デプレッション型MOSFET1のチャネル長Ldまたはエンハンスメント型MOSFET2のチャネル長Leの寸法を算出するのがよい。その理由は、素子設計を容易に行うことができるからである。ここで、基準電圧回路装置の最適な素子寸法とは、デプレッション型MOSFET1とエンハンスメント型MOSFET2との接続点およびエンハンスメント型MOSFET2のソース間の電位差が、放射線が照射される前と放射線が照射されている状態のときとで等しくなる素子寸法である。具体的な算出方法については後述する。
【0062】
ついで、ステップS5において算出した基準電圧回路装置の素子寸法に基づいて、デプレッション型MOSFET1とエンハンスメント型MOSFET2からなる基準電圧回路装置を再度作製する(作製工程:ステップS6)。つまり、上記ステップS1で作製した基準電圧回路装置とは素子寸法の異なる基準電圧回路装置を作製する。基準電圧回路装置の作製は、一般的な工程および条件で行う。
【0063】
ついで、ステップS6において作製した基準電圧回路装置の電気的特性を確認する(ステップS7)。具体的には、ステップS2において測定した最適化前の基準電圧回路装置の出力電圧と、ステップS7において測定した最適化後の基準電圧回路装置の出力電圧とを比較する。測定方法は、ステップS2と同様である。これにより、放射線照射によって出力電圧が変動しない基準電圧回路装置が完成する。
【0064】
以上、説明したように、実施の形態によれば、デプレッション型MOSFET1およびエンハンスメント型MOSFET2のそれぞれの、放射線照射前後のしきい値電圧の変動量に基づいて、基準電圧回路装置を再度作製する。このとき、デプレッション型MOSFET1とエンハンスメント型MOSFET2との接続点および該エンハンスメント型MOSFET2のソース間の電位差が、放射線が照射される前と放射線が照射されている状態のときとでほぼ等しくなる基準電圧回路装置を作製する。これにより、放射線の吸収線量が任意の吸収線量に至るまで、出力電圧がほぼ変動しない基準電圧回路装置を作製することができる。したがって、基準電圧のばらつきを低減することができる。
【0065】
また、基準電圧回路装置は、デプレッション型MOSFET1とエンハンスメント型MOSFET2との接続点および該エンハンスメント型MOSFET2のソース間の電位差が、放射線が照射される前と放射線が照射されている状態のときとで等しくなる素子寸法を有する。この素子寸法は、デプレッション型MOSFET1およびエンハンスメント型MOSFET2の、それぞれのしきい値電圧に基づいて算出される。このため、放射線が照射されている状態の基準電圧回路装置の出力電圧は、放射線が照射される前の出力電圧とほぼ等しい。つまり、放射線の吸収線量が任意の吸収線量に至るまで、基準電圧回路装置の出力電圧はほぼ変動しない。したがって、基準電圧のばらつきを低減することができる。
【0066】
また、放射線が照射されている状態のときに、ゲート酸化膜17,19に固定電荷が蓄積されても、上述したように基準電圧のばらつきを低減することができる。このため、トータルドーズ(TID)耐量を大きくすることができる。
【0067】
また、ゲート酸化膜17,19を10nm以上とすることができる。このため、従来の製造装置や製造方法を用いて、実施の形態にかかる基準電圧回路装置を作製することができる。これにより、製造コストを低減することができる。また、基準電圧回路装置の強度を向上することができる。
【0068】
また、ゲート酸化膜17,19を10nm以上とすることで、ゲート酸化膜17,19を他の絶縁膜とともに作製することができ、製造工程数を低減することができる。これにより、製造コストを低減することができる。
【0069】
(基準電圧回路装置の基準電圧について)
上記(1)式および(2)式を満たす素子寸法で基準電圧回路装置を作製することで、放射線が照射されている状態のときに、基準電圧のばらつきを低減することができる理由について説明する。基準電圧回路装置(
図1参照)の、放射線照射前の出力電圧V
out1は、次の(3)式で表わされる。
【0071】
ここで、V
thD1は、放射線照射前のデプレッション型MOSFET1のしきい値電圧である。V
thE1は、放射線照射前のエンハンスメント型MOSFET2のしきい値電圧である。また、βd=Ld/Wdとし、βe=Le/Weとする。
【0072】
上記(3)式右辺第2項の、放射線照射前のデプレッション型MOSFET1のしきい値電圧V
thD1以外の係数を、次の(4)式に示すように係数Kと置き換えると、上記(3)式は、次の(5)式で表される。
【数4】
【0074】
同様に、基準電圧回路装置の、放射線照射後の出力電圧V
out2は、次の(6)式で表わされる。
【0076】
ここで、V
thD2は、放射線照射後のデプレッション型MOSFET1のしきい値電圧である。V
thE2は、放射線照射後のエンハンスメント型MOSFET2のしきい値電圧である。
【0077】
従来の基準電圧回路装置は、放射線が照射されている状態のときに、デプレッション型MOSFET1のしきい値電圧およびエンハンスメント型MOSFET2のしきい値電圧が低下し、出力電圧が変動する。出力電圧の変動量ΔV
outは、放射線照射前の出力電圧V
out1と放射線照射後の出力電圧V
out2との差分となる。したがって、上記(5)式および(6)式より、出力電圧の変動量ΔV
outは、次の(7)式で表される。
【0079】
上記(7)式では、放射線照射後のデプレッション型MOSFET1のしきい値電圧の変動量(V
thD1−V
thD2)をΔV
thDとし、放射線照射後のエンハンスメント型MOSFET2のしきい値電圧の変動量(V
thE1−V
thE2)をΔV
thEとしている。
【0080】
本実施の形態では、放射線が照射されている状態のときの出力電力V
outが放射線照射前の出力電圧と等しくなるように、上記(7)式における係数Kを調整する。具体的には、上記(7)式における出力電圧の変動量ΔV
out=0となるように、係数Kを調整する。つまり、係数Kは上記(1)式を満たす必要があることがわかる。
【0081】
また、上記(4)式は、βd=Ld/Wd,βe=Le/Weであることより、デプレッション型MOSFET1のチャネル長Ldおよびチャネル幅Wdと、エンハンスメント型MOSFET2のチャネル長Leおよびチャネル幅Weのいずれか一つを解とし、係数Kを含む式に変換することができる。デプレッション型MOSFET1のチャネル長Ldを解とする場合、上記(2)式となる。
【0082】
このように、デプレッション型MOSFET1のチャネル長Ldおよびチャネル幅Wdと、エンハンスメント型MOSFET2のチャネル長Leおよびチャネル幅Weを上記(1)式および(2)式を満たすように設定することで、上記(7)式における出力電圧の変動量ΔV
out=0とすることができる。
【0083】
(蓄積電荷量としきい値電圧の関係)
放射線によりゲート酸化膜内に蓄積される蓄積電荷量と、基準電圧回路装置のしきい値電圧の関係について説明する。MOSFETのしきい値電圧Vtは一般的に、次の(8)式で表される。
【0085】
ここで、Q
Bは、シリコン基板表面の空乏層中のアクセプタ電荷の総量である。C
oxは、ゲート酸化膜容量である。φsは、シリコン基板表面の導電型が反転するときのシリコンの表面電位である。φsは、約0.8V程度である。
【0086】
放射線照射によってゲート酸化膜とシリコン基板の界面に発生する固定電荷をQ
Radとした場合、上記(8)式より、放射線による蓄積電荷量とMOSFETのしきい値電圧の関係は、次の(9)式で表される。
【0088】
つまり、MOSFETのしきい値電圧Vtは、放射線照射量に比例する。基準電圧回路装置の出力電圧は、デプレッション型MOSFET1のしきい値電圧とエンハンスメント型MOSFET2のしきい値電圧との差分である。このため、基準電圧回路装置の出力電圧も同様に、放射線照射量に比例すると推測される。
【0089】
したがって、例えば、上述した実施の形態に従い、上述した照射工程(
図4のステップS3参照)において、γ線を吸収線量1kGy/Hrで1時間照射した後に、この放射線照射前後のしきい値電圧に基づいて算出された素子寸法で、デプレッション型MOSFET1とエンハンスメント型MOSFET2の素子寸法を作製したとする。この場合、吸収線量1kGyで、基準電圧回路装置の出力電圧がほぼ変動しない設定とするため(出力電圧の変動量ΔV
out=0)、実使用時に基準電圧回路装置に照射される放射線の吸収線量が1kGyに至るまで、出力電圧の変動量ΔV
out=0となる比例関係が成立すると推測される。したがって、実使用時において、基準電圧回路装置に照射される放射線の吸収線量が1kGyに至るまで、基準電圧回路装置の出力電圧がほぼ変動しないことがわかる。
【0090】
また、上記(8)式および(9)式より、例えば2kGyや3kGyなどの任意の吸収線量においても、上述したように放射線照射量と基準電圧回路装置の出力電圧との比例関係が成り立つ。このため、任意の吸収線量において、本実施の形態を適用することができる。したがって、基準電圧回路装置に照射される放射線の吸収線量によらず、出力電力V
outをほぼ変化させないようにすることができる。
【0091】
(実施例)
基準電圧回路装置の具体的な製造方法について説明する。
図5は、実施の形態にかかるデプレッション型MOSFETの電気的特性を示す特性図である。また、
図6は、実施の形態にかかるエンハンスメント型MOSFETの電気的特性を示す特性図である。
図5,6には、ドレイン・ソース間電圧Vdsとドレイン・ソース間電流Idsの関係について示す。実施の形態に従い、基準電圧回路装置の製造工程を行い、放射線が照射される空間で使用するための最適化された素子寸法を有する基準電圧回路装置を作製した。
【0092】
まず、デプレッション型MOSFET1およびエンハンスメント型MOSFET2を作製した。デプレッション型MOSFET1のチャネル長Ldおよびチャネル幅Wdを、それぞれ130μmおよび10μmとした。エンハンスメント型MOSFET2のチャネル長Leおよびチャネル幅Weを、それぞれ160μmおよび12μmとした。
【0093】
ついで、第1の測定工程を行い、デプレッション型MOSFET1およびエンハンスメント型MOSFET2の、それぞれのしきい値電圧を測定した。ドレイン・ソース間の電位差を5Vとし、ドレイン・ソース間電流Idsが100μAとなったときのゲート電圧を、しきい値電圧とした。デプレッション型MOSFET1のゲートは、ソース電位である。エンハンスメント型MOSFET2ゲートは、ドレイン電位である。
【0094】
また、このときの、デプレッション型MOSFET1およびエンハンスメント型MOSFET2の、それぞれのドレイン・ソース間電圧Vdsおよびドレイン・ソース間電流Idsを測定した(
図5,6の点線:γ線照射前)。
図5に示す結果より、デプレッション型MOSFET1では、ドレイン・ソース間電圧Vdsが0.6Vを超えると、ドレイン・ソース間電流Idsは、1.3μAで一定となり、飽和状態となることがわかる。
【0095】
また、
図6に示す結果より、エンハンスメント型MOSFET2では、1.3μAのドレイン・ソース間電流Idsが流れたときに、ドレイン・ソース間電圧Vdsが1.32Vになることがわかる。つまり、基準電圧回路装置の出力電圧Voutは1.32Vとなり、基準電圧として1.32Vが出力される。
【0096】
ついで、照射工程を行った。具体的には、基準電圧回路装置に、コバルト60を放射線源とするγ線を、吸収線量1kGy/Hrで1時間照射した。ついで、第2の測定を行った。しきい値電圧の測定方法は、第1の測定と同様である(
図5,6の実線:γ線照射後)。
図5に示すように、デプレッション型MOSFET1のドレイン・ソース間電流Idsは、1.5μAで一定となり、飽和状態となることがわかる。
【0097】
また、
図6に示す結果より、エンハンスメント型MOSFET2では、1.5μAのドレイン・ソース間電流Idsが流れたときに、ドレイン・ソース間電圧Vdsが1.32Vになることがわかる。つまり、基準電圧回路装置の出力電圧Voutは、放射線が照射されることにより、1.32Vから1.31Vに変動し、その電圧変動量は−10mVとなった。
【0098】
このとき、デプレッション型MOSFET1のしきい値電圧の変動量ΔV
thDは62mVとなった。また、エンハンスメント型MOSFET2のしきい値電圧の変動量ΔV
thEは52mVとなった。デプレッション型MOSFET1およびエンハンスメント型MOSFET2のしきい値電圧はともに低下し、電流駆動能力が増加することがわかった。
【0099】
放射線が照射量が少ない例えば地上に近い場所で用いられる一般的な基準電圧回路装置では、しきい値電圧のばらつき(ΔV
thDおよびΔV
thE)は小さいため、プロセスでの寸法ばらつきを考慮して、上記(7)式における係数Kを1近傍に調整している。このため、放射線照射後の出力電圧の変動量ΔV
outは、上記(7)式より、10mV(=−52+1×{−(−62)})となる。つまり、
図5,6に示す特性図から導き出された結果と同様に、出力電圧の変動量が10mVとなることがわかる。
【0100】
したがって、ドレイン・ソース間電流Idsが増加ことにより上昇するドレイン・ソース間電圧Vdsの上昇分を相殺するように、デプレッション型MOSFET1のチャネル長Ldおよびチャネル幅Wdの比(βd)と、エンハンスメント型MOSFET2のチャネル長Leおよびチャネル幅Weの比(βe)を調整すれば、基準電圧は変化しないことがわかる。つまり、上記(1)式および(2)式において、係数Kを調整して、デプレッション型MOSFET1およびエンハンスメント型MOSFET2の素子寸法を算出することで、基準電圧のばらつきを低減することができる。
【0101】
具体的には、上記(1)式より、係数Kは0.838(=−52/−62)となる。そして、上記(2)式より、デプレッション型MOSFET1のチャネル幅Wdを10μm、エンハンスメント型MOSFET2のチャネル長Leおよびチャネル幅Weを、それぞれ160μmおよび12μmとした場合、デプレッション型MOSFET1のチャネル長Ldは189μm(=(10/12)×160/(0.838×0.838))とするとよいことがわかる。
【0102】
以上において本発明では、デプレッション型MOSFET1のチャネル長またはエンハンスメント型MOSFET2のチャネル長を、上記(1)式および(2)式に基づいて調整した例について説明しているが、上述した実施の形態に限らず、デプレッション型MOSFET1のチャネル幅またはエンハンスメント型MOSFET2のチャネル幅を調整してもよい。また、半導体回路装置の素子寸法は、種々変更可能である。