【実施例1】
【0020】
図1(a)は、実施例1に係る圧電薄膜共振子の上面図、
図1(b)及び
図1(c)は、
図1(a)のA−A間の断面図である。
図1(b)は、例えばラダー型フィルタの直列共振子の断面図、
図1(c)は、例えばラダー型フィルタの並列共振子の断面図を示している。
【0021】
図1(a)及び
図1(b)のように、直列共振子Sは、例えばシリコン基板である基板10上に、下部電極12が設けられている。基板10の平坦主面と下部電極12との間に下部電極12側にドーム形状の膨らみを有する空隙30が形成されている。ドーム形状の膨らみとは、例えば空隙30の周辺では空隙30の高さが低く、空隙30の内部ほど空隙30の高さが高くなるような形状の膨らみである。下部電極12は、下層12aと上層12bとを含む。下層12aは、例えばクロム(Cr)膜であり、上層12bは、例えばルテニウム(Ru)膜である。
【0022】
下部電極12上に、(002)方向を主軸とする窒化アルミニウム(AlN)を主成分とする圧電膜14が設けられている。圧電膜14を挟み下部電極12と対向する領域(共振領域32)を有するように、圧電膜14上に上部電極16が設けられている。上部電極16は、下層16aと上層16bとを含む。下層16aは、例えばRu膜であり、上層16bは、例えばCr膜である。共振領域32は、例えば楕円形形状を有し、厚み縦振動モードの弾性波が共振する領域である。
【0023】
圧電膜14内には、共振領域32内の外周領域34を含んで空隙18が形成されている。空隙18は、共振領域32の中央領域36には形成されていない。空隙18は、共振領域32内の外周領域34の全周にわたって形成されていて、また、共振領域32内の外周領域34から共振領域32の外まで延在して形成されている。空隙18は、例えば圧電膜14の膜厚方向の中央部分に形成されているが、中央部分以外に形成されていてもよい。なお、共振領域32内の外周領域34とは、共振領域32内の領域であって、共振領域32の外周を含み外周に沿った領域である。外周領域34は、例えばリング状をしている。共振領域32の中央領域36とは、共振領域32内の領域であって、外周領域34よりも内側部分であり、共振領域32の中央を含む領域である。空隙18は、後述する導入路22及び孔部24と連通している。
【0024】
上部電極16上に、周波数調整膜20として酸化シリコン膜が設けられている。共振領域32内の積層膜は、下部電極12、圧電膜14、上部電極16、及び周波数調整膜20を含む。なお、周波数調整膜20は、パッシベーション膜として機能してもよい。
【0025】
下部電極12及び圧電膜14には、犠牲層をエッチングするための導入路22が形成されている。犠牲層は、空隙30及び空隙18を形成するための層である。導入路22の先端付近は、下部電極12及び圧電膜14で覆われておらず、孔部24が形成されている。
【0026】
図1(a)及び
図1(c)のように、並列共振子Pは、直列共振子Sと比較し、上部電極16の下層16aと上層16bとの間であって、共振領域32に、質量負荷膜26が設けられている。質量負荷膜26は、例えばチタン(Ti)膜である。したがって、共振領域32内の積層膜は、直列共振子Sの積層膜に加え、共振領域32の全面に形成された質量負荷膜26を含む。その他の構成は、直列共振子Sと同じであるため説明を省略する。
【0027】
直列共振子Sと並列共振子Pとの間の共振周波数の差は、質量負荷膜26の膜厚によって調整できる。直列共振子Sと並列共振子Pの両方の共振周波数の調整は、周波数調整膜20の膜厚によって行うことができる。
【0028】
例えば2GHzの共振周波数を有する圧電薄膜共振子の場合、下部電極12のCr膜からなる下層12aの厚さは100nm、Ru膜からなる上層12bの厚さは250nmである。AlN膜からなる圧電膜14の厚さは1100nmであり、圧電膜14内の空隙18の高さは150nmである。上部電極16のRu膜からなる下層16aの厚さは250nm、Cr膜からなる上層16bの厚さは50nmである。酸化シリコン膜からなる周波数調整層20の厚さは50nmである。Ti膜からなる質量負荷膜26の厚さは120nmである。なお、各層の厚さは、所望の共振特性を得るために適宜設計することができる。
【0029】
基板10としては、Si基板以外に、例えば石英基板、ガラス基板、セラミック基板、又はGaAs基板等を用いることができる。下部電極12及び上部電極16としては、Cr及びRu以外にも、例えばアルミニウム(Al)、チタン(Ti)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、又はイリジウム(Ir)等の金属単層膜又はこれらの積層膜を用いることができる。圧電膜14は、窒化アルミニウム以外にも、例えば酸化亜鉛(ZnO)、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、又はチタン酸鉛(PbTiO
3)等を用いることができる。また、圧電膜14は、窒化アルミニウムを主成分とし、共振特性の向上又は圧電性の向上のために、他の元素を含んでもよい。例えば、添加元素としてスカンジウム(Sc)を用いることにより、圧電膜14の圧電性を向上でき、圧電薄膜共振子の実効的電気機械結合係数を向上できる。
【0030】
周波数調整膜20としては、酸化シリコン膜以外にも、例えば窒化シリコン膜又は窒化アルミニウム膜等を用いることができる。質量負荷膜26としては、Ti以外にも、例えばRu、Cr、Al、Cu、Mo、W、Ta、Pt、Rh、又はIr等の金属単層膜又はこれらの積層膜を用いることができる。また、例えば窒化シリコン又は酸化シリコン等の窒化金属又は酸化金属からなる絶縁膜を用いることもできる。質量負荷膜26は、上部電極16の層間以外にも、例えば下部電極12の下、下部電極12の層間、上部電極16の上、下部電極12と圧電膜14との間、又は圧電膜14と上部電極16との間に形成することができる。質量負荷膜26は、共振領域32を含むように形成されていれば、共振領域32より大きくてもよい。
【0031】
次に、実施例1の圧電薄膜共振子の製造方法を、直列共振子Sの場合を例に説明する。
図2(a)から
図2(c)は、実施例1に係る圧電薄膜共振子の製造方法を示す断面図である。
図2(a)のように、基板10の平坦主面上に空隙30を形成するための犠牲層38を形成する。犠牲層38は、例えばスパッタリング法、真空蒸着法、又はCVD(Chemical Vapor Deposition)法を用い成膜される。犠牲層38は、例えば酸化マグネシウム(MgO)、酸化亜鉛(ZnO)、ゲルマニウム(Ge)、又は二酸化シリコン(SiO
2)等のエッチング液又はエッチングガスに容易に溶解する材料を用いることができる。犠牲層38の厚さは、例えば10nm〜100nmである。その後、犠牲層38を、フォトリソグラフィ技術及びエッチング技術を用いて所望の形状にパターニングする。犠牲層38の形状は、空隙30の平面形状に相当する形状であり、例えば共振領域32となる領域を含む。
【0032】
次に、犠牲層38及び基板10上に、下部電極12として下層12a及び上層12bを形成する。下部電極12は、例えばスパッタリング法、真空蒸着法、又はCVD法を用い成膜される。その後、下部電極12を、フォトリソグラフィ技術及びエッチング技術を用いて所望の形状にパターニングする。なお、下部電極12をリフトオフ法によって形成してもよい。
【0033】
図2(b)のように、下部電極12及び基板10上に、圧電膜14aを形成する。圧電膜14aは、例えばスパッタリング法、真空蒸着法、又はCVD法を用い成膜される。圧電膜14a上に、空隙18を形成するための犠牲層40を形成する。犠牲層40は、例えばスパッタリング法、真空蒸着法、又はCVD法を用い成膜される。犠牲層40は、犠牲層38と同じ材料を用いることができる。犠牲層40の厚さは、例えば150nm程度である。その後、犠牲層40を、フォトリソグラフィ技術及びエッチング技術を用いて所望の形状にパターニングする。犠牲層40の形状は、空隙18の平面形状に相当する形状である。なお、犠牲層40をリフトオフ法によって形成してもよい。
【0034】
図2(c)のように、犠牲層40及び圧電膜14a上に、圧電膜14bを形成する。圧電膜14bは、例えばスパッタリング法、真空蒸着法、又はCVD法を用い成膜される。圧電膜14a及び14bから圧電膜14が形成される。圧電膜14上に、上部電極16として下層16a及び上層16bを形成する。上部電極16は、例えばスパッタリング法、真空蒸着法、又はCVD法を用い成膜される。その後、上部電極16を、フォトリソグラフィ技術及びエッチング技術を用いて所望の形状にパターニングする。なお、上部電極16をリフトオフ法によって形成してもよい。上部電極16上に、例えばスパッタリング法又はCVD法を用いて周波数調整膜20を成膜する。
【0035】
なお、
図1(c)の並列共振子においては、上部電極16の下層16aを形成した後に、質量負荷膜26を、例えばスパッタリング法、真空蒸着法、又はCVD法を用いて成膜する。質量負荷膜26を、フォトリソグラフィ技術及びエッチング技術を用いて所望の形状にパターニングする。そして、その後に、上部電極16の上層16bを形成する。
【0036】
周波数調整膜20を形成した後、孔部24及び導入路22(
図1(a)参照)を介し、犠牲層38及び40のエッチング液を、下部電極12下の犠牲層38及び圧電膜14内の犠牲層40に導入する。これにより、犠牲層38及び40が除去される。犠牲層38及び40をエッチングする媒体としては、犠牲層38及び40以外の共振子を構成する材料をエッチングしない媒体であることが好ましい。例えば、エッチング媒体は、エッチング媒体が接触する下部電極12及び圧電膜14がエッチングされない媒体であることが好ましい。下部電極12、圧電膜14、及び上部電極16を含む積層膜の応力を圧縮応力となるように設定しておくことにより、犠牲層38が除去されると、積層膜が基板10の反対側に基板10から離れるように膨れる。これにより、基板10と下部電極12との間にドーム状の膨らみを有する空隙30が形成される。また、空隙30と同時に、圧電膜14内に空隙18が形成される。以上の工程を含んで、実施例1の圧電薄膜共振子が形成される。
【0037】
ここで、実施例1の圧電薄膜共振子に対して発明者が行ったシミュレーションについて説明する。発明者は、
図1(a)及び
図1(b)に示す実施例1の圧電薄膜共振子に対し、共振領域32内における基板10の平坦主面に平行な方向での空隙18の長さが、反共振点のQ値及び実効的電気機械結合係数に及ぼす影響について有限要素法を用いてシミュレーションをした。シミュレーションを行った圧電薄膜共振子の積層膜の各膜厚及び材料は、上記の2GHzの共振周波数を有する圧電薄膜共振子として例示したものとした。空隙18の高さは150nmとし、共振領域32と空隙18とが重なる幅W(
図1(b)参照)を1.5μmから6.0μmの間で変化させた。また、空隙18の共振領域32外の長さL(
図1(b)参照)は3μmとした。
【0038】
図3(a)は、反共振点のQ値のシミュレーション結果、
図3(b)は、実効的電気機械結合係数k
2effのシミュレーション結果を示す図である。実施例1のシミュレーション結果を黒丸で示している。なお、比較のために、圧電膜14内に空隙18が形成されていない点以外は同じ構成をした比較例の圧電薄膜共振子のシミュレーション結果を点線で示している。
図3(a)のように、圧電膜14内に空隙18を形成することで、反共振点のQ値が向上することが分かる。これは、空隙18によって、弾性波エネルギーが共振領域32の外に漏洩することが抑制されたためと考えられる。また、
図3(b)のように、実効的電気機械結合係数k
2effについても、圧電膜14内に空隙18を形成することで向上することが分かる。空隙18が共振領域32と重なる幅Wは、1.5μm以上の場合が好ましく、2.0μm以上の場合がより好ましいことが分かる。
【0039】
次に、発明者は、共振領域32外の空隙18の長さLが、反共振点のQ値及び実効的電気機械結合係数に及ぼす影響について有限要素法を用いてシミュレーションをした。シミュレーションを行った圧電薄膜共振子の積層膜の各膜厚及び材料は、上記の2GHzの共振周波数を有する圧電薄膜共振子として例示したものとした。空隙18の高さは150nmとし、共振領域32外の空隙18の長さLを−1.0μm、0μm、3.0μmと変化させた。また、共振領域32と空隙18とが重なる幅Wは2.5μmとした。なお、共振領域32外の空隙18の長さLがマイナスの場合とは、空隙18が共振領域32の内側にのみ形成されている場合のことである。
【0040】
図4(a)は、反共振点のQ値のシミュレーション結果、
図4(b)は、実効的電気機械結合係数k
2effのシミュレーション結果を示す図である。実施例1のシミュレーション結果を黒丸で示し、上述した比較例のシミュレーション結果を点線で示している。
図4(a)のように、空隙18を共振領域32の外周と一致させるか、共振領域32の外側に延在させることで、反共振点のQ値が向上することが分かる。
図4(b)のように、実効的電気機械結合係数k
2effについても、空隙18を共振領域32の外周と一致させるか、共振領域32の外側に延在させることで、向上することが分かる。空隙18の共振領域32外の長さLは、1.0μm以上の場合が好ましく、3.0μm以上の場合がより好ましいことが分かる。
【0041】
実施例1によれば、圧電膜14内に、共振領域32内の外周領域34の少なくとも一部に設けられ、中央領域36には設けられていない空隙18が形成されている。これにより、共振領域32の外部に弾性波エネルギーが漏洩することを抑制できる。その結果、
図3(a)のように、Q値を向上させることができる。また、
図3(b)のように、実効的電気機械結合係数を向上させることもできる。
【0042】
図1(a)から
図1(c)のように、圧電膜14内の空隙18は、共振領域32内の外周領域34から共振領域32の外側に延在していることが好ましい。これにより、
図4(a)及び
図4(b)のように、Q値及び実効的電気機械結合係数をより向上させることができる。
【0043】
圧電膜14内の空隙18は、共振領域32内の外周領域34の少なくとも一部に設けられていれば、弾性波エネルギーの漏洩を抑制する効果が得られるが、漏洩をより抑制するために、共振領域32内の外周領域34の全周にわたって設けられていることが好ましい。
【実施例8】
【0058】
実施例8は、分波器の例である。
図11は、実施例8に係る分波器の回路図である。
図11のように、分波器50は、送信フィルタ52と受信フィルタ54とを備える。送信フィルタ52は、アンテナ端子Antと送信端子Txとの間に接続されている。受信フィルタ54は、送信フィルタ52と共通のアンテナ端子Antと受信端子Rxとの間に接続されている。アンテナ端子Antとグランドとの間にインダクタL1が接続されている。送信フィルタ52は、送信端子Txから入力された信号のうち送信帯域の信号を送信信号としてアンテナ端子Antに通過させ、他の周波数の信号を抑圧する。受信フィルタ54は、アンテナ端子Antから入力された信号のうち受信帯域の信号を受信信号として受信端子Rxに通過させ、他の周波数の信号を抑圧する。インダクタL1は、整合用に用いられ、送信フィルタ52を通過した送信信号が受信フィルタ54に漏れずにアンテナ端子Antから出力されるようにインピーダンスを整合させる。
【0059】
送信フィルタ52は、複数の圧電薄膜共振子が直列共振子及び並列共振子としてラダー型に接続されたラダー型フィルタである。送信端子Tx(入力端子)とアンテナ端子Ant(出力端子)との間に、複数の直列共振子S1〜S4が直列に接続され、複数の並列共振子P1〜P3が並列に接続されている。並列共振子P1〜P3のグランドは共通化されていて、並列共振子P1〜P3と共通グランドとの間にインダクタL2が接続されている。直列共振子S1〜S4及び並列共振子P1〜P3の少なくとも1つを実施例1から実施例7の圧電薄膜共振子とすることができるが、ここでは、直列共振子S1〜S4及び並列共振子P1〜P3に実施例1の圧電薄膜共振子を用いた場合を例に説明する。
【0060】
図12(a)は、送信フィルタの上面図、
図12(b)は、
図12(a)のA−A間の断面図である。なお、周波数調整膜20及び質量負荷膜26については図示を省略している。
図12(a)及び
図12(b)のように、実施例1の圧電薄膜共振子を同一の基板10に形成し、ラダー型フィルタとすることができる。圧電膜14に開口56が形成されていて、これにより下部電極12と電気的に接続することができる。その他の構成は、実施例1と同じであるため説明を省略する。なお、直列共振子及び並列共振子の個数、共振領域の形状及び大きさ、共振子を構成する材料及び膜厚等は、仕様に応じて適宜変更することができる。
【0061】
実施例8によれば、送信フィルタ52は、実施例1の圧電薄膜共振子を含んでいる。これにより、共振子のQ値が向上し、その結果、フィルタのスカート特性を向上させることができる。
【0062】
実施例8では、送信フィルタ52がラダー型フィルタの場合を例に示したが、ラティス型フィルタ等、複数の圧電薄膜共振子を含むフィルタとすることができる。また、受信フィルタ54も、ラダー型フィルタ又はラティス型フィルタ等、複数の圧電薄膜共振子を含むフィルタとすることができる。このように、送信フィルタ52及び受信フィルタ54の少なくとも一方を、ラダー型フィルタ又はラティス型フィルタ等の、複数の圧電薄膜共振子を含むフィルタとすることができる。また、送信フィルタ52及び受信フィルタ54の少なくとも一方の少なくとも1つの共振子を実施例1から実施例7の圧電薄膜共振子とすることができる。
【0063】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。