【実施例1】
【0022】
図1(a)は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の平面図、
図1(b)は、挿入膜の平面図、
図1(c)および
図1(d)は、
図1(a)のA−A断面図である。
図1(c)は、例えばラダー型フィルタの直列共振器、
図1(d)は例えばラダー型フィルタの並列共振器の断面図を示している。
【0023】
図1(a)および
図1(c)を参照し、直列共振器Sの構造について説明する。シリコン(Si)基板である基板10上に、下部電極12が設けられている。基板10の平坦主面と下部電極12との間にドーム状の膨らみを有する空隙30が形成されている。ドーム状の膨らみとは、例えば空隙30の周辺では空隙30の高さが小さく、空隙30の内部ほど空隙30の高さが大きくなるような形状の膨らみである。下部電極12は下層12aと上層12bとを含んでいる。下層12aは例えばCr(クロム)膜であり、上層12bは例えばRu(ルテニウム)膜である。
【0024】
下部電極12上に、(002)方向を主軸とする窒化アルミニウム(AlN)を主成分とする圧電膜14が設けられている。圧電膜14内に挿入膜28が設けられている。挿入膜28は、圧電膜14の膜厚方向のほぼ中央に設けられている。挿入膜28が設けられるのは、膜厚方向の中央でなくともよいが、中央に設けることにより、挿入膜としての機能をより発揮する。圧電膜14を挟み下部電極12と対向する領域(共振領域50)を有するように圧電膜14上に上部電極16が設けられている。共振領域50は、楕円形状を有し、厚み縦振動モードの弾性波が共振する領域である。上部電極16は下層16aおよび上層16bを含んでいる。下層16aは例えばRu膜であり、上層16bは例えばCr膜である。
【0025】
上部電極16上には周波数調整膜24として酸化シリコン膜が形成されている。共振領域50内の積層膜18は、下部電極12、圧電膜14、挿入膜28、上部電極16および周波数調整膜24を含む。周波数調整膜24はパッシベーション膜として機能してもよい。
【0026】
図1(a)のように、下部電極12には犠牲層をエッチングするための導入路33が形成されている。犠牲層は空隙30を形成するための層である。導入路33の先端付近は圧電膜14で覆われておらず、下部電極12は導入路33の先端に孔部35を有する。
【0027】
図1(a)および
図1(d)を参照し、並列共振器Pの構造について説明する。並列共振器Pは直列共振器Sと比較し、上部電極16の下層16aと上層16bとの間に質量負荷膜20が設けられている。質量負荷膜20は、例えばTi(チタン)膜である。よって、積層膜18は直列共振器Sの積層膜に加え、共振領域50内の全面に形成された質量負荷膜20を含む。その他の構成は直列共振器Sの
図1(c)と同じであり説明を省略する。
【0028】
直列共振器Sと並列共振器Pとの共振周波数の差は、質量負荷膜20の膜厚を用い調整する。直列共振器Sと並列共振器Pとの両方の共振周波数の調整は、周波数調整膜24の膜厚を調整することにより行なう。
【0029】
2GHzの共振周波数を有する圧電薄膜共振器の場合、下部電極12の下層12aはCr膜であり、下層12aの膜厚は100nmである。下部電極12の上層12bはRu膜であり、上層12bの膜厚は250nmである。圧電膜14はAlN膜であり、圧電膜14の膜厚は1100nmである。挿入膜28は酸化シリコン(SiO
2)膜であり、挿入膜28の膜厚は150nmである。上部電極16の下層16aはRu膜であり、下層16aの膜厚は250nm、上部電極16の上層16bはCr膜であり、上層16bの膜厚は50nmである。周波数調整膜24は酸化シリコン膜であり、周波数調整膜24の膜厚は50nmである。質量負荷膜20はTi膜であり、質量負荷膜20の膜厚は120nmである。各層の膜厚は、所望の共振特性を得るため適宜設定することができる。
【0030】
図1(b)に示すように、挿入膜28は、共振領域50内の外周領域52に設けられ中央領域54に設けられていない。外周領域52は、共振領域50内の領域であって、共振領域50の外周を含み外周に沿った領域である。外周領域52は、例えば帯状およびリング状である。中央領域54は、共振領域50内の領域であって、共振領域50の中央を含む領域である。中央は幾何学的な中心でなくてもよい。挿入膜28は、外周領域52に加え共振領域50を囲む領域56に設けられている。挿入膜28は、外周領域52から共振領域50外まで連続して設けられている。挿入膜28には、切欠き58(凹部)が形成されている。切欠き58は、中央領域54から外側に向けて形成されている。
【0031】
基板10としては、Si基板以外に、石英基板、ガラス基板、セラミック基板またはGaAs基板等を用いることができる。下部電極12および上部電極16としては、RuおよびCr以外にもAl(アルミニウム)、Ti、Cu(銅)、Mo(モリブデン)、W(タングステン)、Ta(タンタル)、Pt(白金)、Rh(ロジウム)またはIr(イリジウム)等の単層膜またはこれらの積層膜を用いることができる。例えば、上部電極16の下層16aをRu膜、上層16bをMo膜としてもよい。圧電膜14は、窒化アルミニウム以外にも、ZnO(酸化亜鉛)、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)、PbTiO
3(チタン酸鉛)等を用いることができる。また、例えば、圧電膜14は、窒化アルミニウムを主成分とし、共振特性の向上または圧電性の向上のため他の元素を含んでもよい。例えば、添加元素としてSc(スカンジウム)を用いることにより、圧電膜14の圧電性が向上するため、圧電薄膜共振器の実効的電気機械結合係数を向上できる。
【0032】
挿入膜28としては、Al、Au、Cu、Ti、Pt、Ta、Cr、またはSiO
2等の圧電膜14よりヤング率の小さい材料を用いることが好ましい。これにより、Q値を向上できる。また、挿入膜28として金属膜を用いることにより、実効的電気機械結合係数を向上できる。詳細は後述する。
【0033】
周波数調整膜24としては、酸化シリコン膜以外にも窒化シリコン膜または窒化アルミニウム等を用いることができる。質量負荷膜20としては、Ti以外にも、Ru、Cr、Al、Cu、Mo、W、Ta、Pt、RhもしくはIr等の単層膜を用いることができる。また、例えば窒化シリコンまたは酸化シリコン等の窒化金属または酸化金属からなる絶縁膜を用いることもできる。質量負荷膜20は、上部電極16の層間以外にも、下部電極12の下、下部電極12の層間、上部電極16の上、下部電極12と圧電膜14との間または圧電膜14と上部電極16との間に形成することができる。質量負荷膜20は、共振領域50を含むように形成されていれば、共振領域50より大きくてもよい。
【0034】
図2(a)から
図2(c)は、実施例1に係る直列共振器の製造方法を示す断面図である。
図2(a)に示すように、平坦主面を有する基板10上に空隙を形成するための犠牲層38を形成する。犠牲層38の膜厚は、例えば10〜100nmであり、MgO、ZnO、GeまたはSiO
2等のエッチング液またはエッチングガスに容易に溶解できる材料から選択される。その後、犠牲層38を、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用い所望の形状にパターニングする。犠牲層38の形状は、空隙30の平面形状に相当する形状であり、例えば共振領域50となる領域を含む。次に、犠牲層38および基板10上に下部電極12として下層12aおよび上層12bを形成する。犠牲層38および下部電極12は、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法またはCVD(Chemical Vapor Deposition)法を用い成膜される。その後、下部電極12を、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用い所望の形状にパターニングする。下部電極12は、リフトオフ法により形成してもよい。
【0035】
図2(b)に示すように、下部電極12および基板10上に圧電膜14aおよび挿入膜28を、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法を用い成膜する。挿入膜28を、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用い所望の形状にパターニングする。挿入膜28は、リフトオフ法により形成してもよい。挿入膜28には、切欠き58が形成される。
【0036】
図2(c)に示すように、圧電膜14b、上部電極16の下層16aおよび上層16bを、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法を用い成膜する。圧電膜14aおよび14bから圧電膜14が形成される。上部電極16を、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用い所望の形状にパターニングする。上部電極16は、リフトオフ法により形成してもよい。
【0037】
なお、
図1(d)に示す並列共振器においては、下層16aを形成した後に、質量負荷膜20を、例えばスパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法を用い成膜する。質量負荷膜20をフォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用い所望の形状にパターニングする。その後、上層16bを形成する。
【0038】
周波数調整膜24を例えばスパッタリング法またはCVD法を用い形成する。フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用い周波数調整膜24を所望の形状にパターニングする。
【0039】
その後、孔部35および導入路33(
図1(a)参照)を介し、犠牲層38のエッチング液を下部電極12の下の犠牲層38に導入する。これにより、犠牲層38が除去される。犠牲層38をエッチングする媒体としては、犠牲層38以外の共振器を構成する材料をエッチングしない媒体であることが好ましい。特に、エッチング媒体は、エッチング媒体が接触する下部電極12がエッチングされない媒体であることが好ましい。積層膜18(
図1(c)、
図1(d)参照)の応力を圧縮応力となるように設定しておく。これにより、犠牲層38が除去されると、積層膜18が基板10の反対側に基板10から離れるように膨れる。下部電極12と基板10との間にドーム状の膨らみを有する空隙30が形成される。以上により、
図1(a)および
図1(c)に示した直列共振器S、および
図1(a)および1(d)に示した並列共振器Pが作製される。
【0040】
図3(a)および
図3(b)は、実施例1における挿入膜付近の平面図である。
図3(a)および
図3(b)では、より実際の寸法関係に近づけるため、
図1(a)および
図1(b)とは、拡大縮小関係が異なる。
図4(a)から
図6(c)においても同様である。
図3(a)に示すように、上部電極16と下部電極12が重なる領域が共振領域50である。
図3(b)に示すように、共振領域50の内側から外側に掛けての一定の幅を有する挿入膜28が設けられている。共振領域50は短軸70および長軸72を有する楕円形状を有している。切欠き58は、短軸近傍の上部電極16の引き出し側に形成されている。切欠き58は、略三角形状である。切欠き58の先端は共振領域50の外周とほぼ一致している。
【0041】
図4(a)から
図6(c)は、切欠きの例を示す平面図である。
図4(a)に示すように、切欠き58が、複数も受けられていてもよい。複数の切欠き58は、共振領域50のうち対向する箇所に設けられていてもよい。
図4(b)に示すように、切欠き58は、短軸近傍の下部電極12の引き出し側に形成されている。
【0042】
図5(a)から
図5(c)に示すように、切欠き58は、共振領域50を囲む領域56の途中まで達していてもよい。
図6(a)から
図6(c)に示すように、切欠き58は、挿入膜28を分離するように形成されていてもよい。切欠き58は、
図3(b)から
図5(c)のように、略三角形状を有していてもよいし、
図6(a)から
図6(c)のように、略長方形状でもよい。切欠き58の形状はその他の形状でもよい。
【0043】
切欠き58が形成されていない比較例1について、挿入膜28の効果を調べた。
図7(a)は、比較例1に係る圧電薄膜共振器の平面図、
図7(b)は、挿入膜の平面図、
図7(c)および
図7(d)は、
図7(a)のA−A断面図である。
【0044】
図7(a)から
図7(d)に示すように、挿入膜28には、切欠きが形成されていない。挿入膜28が、共振領域50の外側に連続して形成されている。挿入膜28に孔部35に連通する孔34が形成されている。その他の構成は、実施例1の
図1(a)から
図1(d)と同じであり説明を省略する。
【0045】
比較例1について、挿入膜28の材料を変え、反共振点のQ値について有限要素法を用いシミュレーションした。有限要素法は、
図7(c)のような断面の2次元解析により行なった。積層膜18の各膜厚および材料は
図1(a)から
図1(d)の2GHzの共振周波数を有する圧電薄膜共振器として例示したものとした。すなわち、圧電膜14をAlNとした。挿入膜28を酸化シリコン膜とし、膜厚を150nmとし、共振領域50と挿入膜28との重なる幅Wを2μmとした。挿入膜28は、圧電膜14の膜厚方向の中間位置に設けられているとした。
【0046】
図8(a)は、ヤング率に対する反共振点のQ値、
図8(b)は、ヤング率に対する実効的電気機械結合係数k
2effを示す図である。比較例1は、挿入膜28を設けない共振器に対応する。挿入膜28の材料として、Al、SiO
2、Ti、Cr,AlN、RuおよびWについて計算した。
【0047】
図8(a)を参照し、ヤング率が小さい材料を挿入膜28とすることにより反共振点のQ値が高くなる。ヤング率がAlNより小さくなると、Q値が比較例1より高くなる。これは、以下の理由による。すなわち、外周領域52にヤング率が小さい挿入膜28が設けられることにより、共振領域50の外周領域52において弾性波の振動が小さくなる。これにより、共振領域50の外周が固定端として弾性波が固定端反射される。よって、弾性波のエネルギーが共振領域50の外に漏れることを抑制する。これにより、Q値が高くなる。挿入膜28のヤング率は、圧電膜14のヤング率より小さいことが好ましく、圧電膜14のヤング率の90%以下がより好ましく、80%以下がより好ましい。
【0048】
図8(b)を参照し、実効的電気機械結合係数k
2effは、挿入膜28を金属とすると高くなる。挿入膜28を金属とすることにより共振領域50における弾性波の電界分布が揃うためと推測される。
【0049】
しかしながら、比較例1のように均一な挿入膜28では、スプリアスが大きくなることがわかった。共振器のスプリアスが大きいと、共振器を用いてフィルタを形成した場合に、通過帯域にリップルが生じ、損失が大きくなってしまう。
【0050】
図9は、フィルタにおける通過特性の例を示す図である。破線は、理想的な通過特性を示している。実線は、スプリアスを有する共振器を用いたラダー型フィルタにおける通過特性を計算した例である。共振器のスプリアスに起因し、通過帯域にリップルが発生し、損失が劣化する。このように、共振器のスプリアスを抑制することが求められる。
【0051】
実施例1、比較例1および比較例2について、共振器を作製した。試作した実施例1、比較例1および比較例2は以下である。
実施例1:挿入膜28あり、切欠き58あり
比較例1:挿入膜28あり、切欠きなし
比較例2:挿入膜28なし
【0052】
積層膜18の各膜厚および材料は
図1(a)から
図1(d)の2GHzの共振周波数を有する圧電薄膜共振器として例示したものとした。圧電膜14はAlNを主成分とする。共振領域50の形状は短軸長が90μm、長軸長が140μmの楕円形状である。挿入膜28は酸化シリコンを主成分とする。挿入膜28の膜厚は約150nmである。共振領域50と挿入膜28との重なる幅(外周領域52の幅)は約3μmである。挿入膜28の共振領域50外の幅(領域56の幅)は6μmである。切欠き58の径方向(例えば短軸方向)の長さは3μmである。切欠き58の周方向(例えば長軸方向)の長さは3μmである。挿入膜28は、圧電膜14の膜厚方向の中間位置に設けられている。
【0053】
図10(a)および
図10(b)は、実施例1および比較例1に係る共振器の周波数に対する減衰量を示す図である。
図10(a)および
図10(b)は、それぞれS11およびS21を示している。共振点frは1951.5MHzである。挿入膜28および切欠き58は、
図3(b)の形状のものである。
図10(a)および
図10(b)に示すように、S11およびS21ともに、実施例1のスプリアスは比較例1より小さい。
【0054】
図11は、実施例1、比較例1および2に係る共振器の反共振点のQ値を示す図である。実施例1のQ値は比較例2より高く、比較例1と同程度である。このように、実施例1においては、Q値は比較例1と同程度と高く、スプリアスは比較例1より抑制できる。
【0055】
挿入膜28および切欠き58として、
図6(b)の形状のものの結果を示す。
図12は、実施例1に係る共振器の周波数に対する減衰量を示す図である。
図12は、S21を示している。共振点frは1881.5MHzである。
図12に示すように、
図6(b)のような切欠き58の形状においてもS21の実施例1のスプリアスは比較例1より小さい。
【0056】
図4(a)から
図6(c)の他の形状の挿入膜28および切欠き58を有する共振器についてもスプリアスは比較例1より抑制されることを確認している。
【0057】
図8(a)および
図8(b)のように、挿入膜28を設けることにより、Q値を向上できる。しかし、挿入膜28の内周で反射する弾性波により、スプリアスが発生する。実施例1によれば、挿入膜28の共振領域50内に切欠き58が形成されている。これにより、スプリアスが抑制される。
【0058】
切欠き58は、外周領域52の径方向の一部に設けられていてもよいが、切欠き58は、中央領域54から共振領域50の外周に達するように設けられることが好ましい。つまり、外周領域52を分離するように形成されていることが好ましい。これにより、スプリアスをより抑制できる。また、切欠き58は、共振領域50外まで形成されていてもよい。さらに、切欠き58は、挿入膜28を分割するように設けられていてもよい。
【0059】
共振領域50の外周と挿入膜28の内周とは、切欠き58を除き相似形であることが好ましい。これにより、Q値を向上できる。例えば、挿入膜28の内周の全体にわたり凸凹が形成されている場合、Q値が向上しない。
【0060】
共振領域50は楕円形状であり、切欠き58は、共振領域50の短軸近傍に形成されていることが好ましい。スプリアスは、短軸方向に伝搬する弾性波に影響される。よって、短軸近傍に切欠き58を形成するとスプリアスをより抑制できる。切欠き58は片側に複数形成されていてもよいが、Q値の向上の観点から、片側に5個以下が好ましい。Q値向上の観点から、切欠き58の周方向の幅は、切欠き58の径方向の長さ以下が好ましい。
【0061】
Q値向上のためには、切欠き58は長軸近傍には形成されていないことが好ましい。例えば、切欠き58は、短軸近傍にのみ形成されていることが好ましい。