(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-95729(P2015-95729A)
(43)【公開日】2015年5月18日
(54)【発明の名称】圧電薄膜共振器、フィルタおよびデュプレクサ
(51)【国際特許分類】
H03H 9/17 20060101AFI20150421BHJP
H03H 9/54 20060101ALI20150421BHJP
H03H 9/70 20060101ALI20150421BHJP
【FI】
H03H9/17 F
H03H9/54 Z
H03H9/70
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-233421(P2013-233421)
(22)【出願日】2013年11月11日
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】横山 剛
(72)【発明者】
【氏名】西原 時弘
(72)【発明者】
【氏名】坂下 武
【テーマコード(参考)】
5J108
【Fターム(参考)】
5J108AA07
5J108BB08
5J108CC04
5J108CC11
5J108EE03
5J108EE04
5J108EE07
5J108EE13
5J108FF02
5J108FF05
5J108HH03
5J108HH04
5J108HH05
5J108HH06
5J108JJ01
5J108KK01
(57)【要約】
【課題】圧電薄膜共振器のQ値を向上させること。
【解決手段】基板10と、前記基板上に設けられた圧電膜14と、前記圧電膜の少なくとも一部を挟んで対向した下部電極12および上部電極16と、前記圧電膜中に挿入され、前記圧電膜を挟み前記下部電極と前記上部電極とが対向する共振領域50内の外周領域52に設けられ、前記共振領域の中央領域54には設けられていない挿入膜28と、を具備し、前記下部電極の端面58は、前記下部電極の下面が上面に対し大きくなるようなテーパーを有し、前記上部電極が前記共振領域から引き出される側における前記共振領域内の前記挿入膜の幅W1は、前記下部電極が前記共振領域から引き出される側における前記共振領域内の前記挿入膜の幅W2より広い圧電薄膜共振器。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に設けられた圧電膜と、
前記圧電膜の少なくとも一部を挟んで対向した下部電極および上部電極と、
前記圧電膜中に挿入され、前記圧電膜を挟み前記下部電極と前記上部電極とが対向する共振領域内の外周領域に設けられ、前記共振領域の中央領域には設けられていない挿入膜と、
を具備し、
前記下部電極の端面は、前記下部電極の下面が上面に対し大きくなるようなテーパーを有し、
前記上部電極が前記共振領域から引き出される側における前記共振領域内の前記挿入膜の幅は、前記下部電極が前記共振領域から引き出される側における前記共振領域内の前記挿入膜の幅より広いことを特徴とする圧電薄膜共振器。
【請求項2】
前記下部電極の端面と下面とのなす角度は、前記上部電極の端面と下面とのなす角度より小さいことを特徴とする請求項1記載の圧電薄膜共振器。
【請求項3】
前記上部電極が前記共振領域から引き出される側における前記共振領域内の前記挿入膜の幅と、前記下部電極が前記共振領域から引き出される側における前記共振領域内の前記挿入膜の幅と、の差は、前記テーパーに対応する長さであることを特徴とする請求項1または2記載の圧電薄膜共振器。
【請求項4】
前記挿入膜のヤング率は前記圧電膜のヤング率より小さいことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項記載の圧電薄膜共振器。
【請求項5】
前記圧電膜は、窒化アルミニウムを主成分とすることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項記載の圧電薄膜共振器。
【請求項6】
前記共振領域において、前記基板と前記下部電極または前記下部電極に接する絶縁膜との間に空隙が形成されていることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項記載の圧電薄膜共振器。
【請求項7】
前記共振領域において、前記下部電極の前記圧電膜とは反対側に前記圧電膜を伝搬する弾性波を反射する音響反射膜を具備することを特徴とする請求項1から5のいずれか一項記載の圧電薄膜共振器。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項記載の圧電薄膜共振器を含むことを特徴とするフィルタ。
【請求項9】
送信フィルタと受信フィルタとを具備し、
前記送信フィルタおよび前記受信フィルタの少なくとも一方が請求項8記載のフィルタであることを特徴とするデュプレクサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電薄膜共振器、フィルタおよびデュプレクサに関し、例えば圧電膜内に挿入膜を備える圧電薄膜共振器、フィルタおよびデュプレクサに関する。
【背景技術】
【0002】
圧電薄膜共振器を用いた弾性波デバイスは、例えば携帯電話等の無線機器のフィルタおよびデュプレクサとして用いられている。圧電薄膜共振器は、圧電膜を挟み下部電極と上部電極が対向する構造を有している。
【0003】
無線システムの急速な普及にともない、多くの周波数帯が使用されている。その結果、フィルタやデュプレクサのスカート特性を急峻化する要求が強まっている。スカート特性を急峻化する対策の一つに圧電薄膜共振器のQ値を高めることがある。圧電薄膜共振器のQ値が劣化する要因の一つに、弾性波エネルギーが共振領域から外部へ漏洩することが挙げられる。
【0004】
特許文献1には、下部電極または上部電極の表面に環帯を設けることにより、Q値を向上させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−109472号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の構造では、共振領域から外部に漏洩する弾性波エネルギーを十分に抑制することができない。よって、Q値の向上が不十分である。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、圧電薄膜共振器のQ値を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、基板と、前記基板上に設けられた圧電膜と、前記圧電膜の少なくとも一部を挟んで対向した下部電極および上部電極と、前記圧電膜中に挿入され、前記圧電膜を挟み前記下部電極と前記上部電極とが対向する共振領域内の外周領域に設けられ、前記共振領域の中央領域には設けられていない挿入膜と、を具備し、前記下部電極の端面は、前記下部電極の下面が上面に対し大きくなるようなテーパーを有し、前記上部電極が前記共振領域から引き出される側における前記共振領域内の前記挿入膜の幅は、前記下部電極が前記共振領域から引き出される側における前記共振領域内の前記挿入膜の幅より広いことを特徴とする圧電薄膜共振器である。
【0009】
上記構成において、前記下部電極の端面と下面とのなす角度は、前記上部電極の端面と下面とのなす角度より小さい構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記上部電極が前記共振領域から引き出される側における前記共振領域内の前記挿入膜の幅と、前記下部電極が前記共振領域から引き出される側における前記共振領域内の前記挿入膜の幅と、の差は、前記テーパーに対応する長さである構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記挿入膜のヤング率は前記圧電膜のヤング率より小さい構成とすることができる。
【0012】
上記構成において、前記圧電膜は、窒化アルミニウムを主成分とする構成とすることができる。
【0013】
上記構成において、前記共振領域において、前記基板と前記下部電極または前記下部電極に接する絶縁膜との間に空隙が形成されている構成とすることができる。
【0014】
上記構成において、前記共振領域において、前記下部電極の前記圧電膜とは反対側に前記圧電膜を伝搬する弾性波を反射する音響反射膜を具備する構成とすることができる。
【0015】
本発明は、上記圧電薄膜共振器を含むことを特徴とするフィルタである。
【0016】
本発明は、送信フィルタと受信フィルタとを具備し、前記送信フィルタおよび前記受信フィルタの少なくとも一方が上記フィルタであることを特徴とするデュプレクサである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、圧電薄膜共振器のQ値を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1(a)は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の平面図、
図1(b)は、挿入膜の平面図、
図1(c)および
図1(d)は、
図1(a)のA−A断面図である。
【
図2】
図2(a)および
図2(b)は、共振領域の端付近の拡大断面図である。
【
図3】
図3(a)から
図3(c)は、実施例1に係る直列共振器の製造方法を示す断面図である。
【
図4】
図4(a)は、比較例1に係る圧電薄膜共振器の平面図、
図4(b)は、挿入膜の平面図、
図4(c)および
図4(d)は、
図4(a)のA−A断面図である。
【
図5】
図5(a)は、ヤング率に対する反共振点のQ値、
図5(b)は、ヤング率に対する実効的電気機械結合係数k
2effを示す図である。
【
図6】
図6(a)はおよび
図6(b)は、それぞれ挿入膜の幅W2およびW1に対する反共振点のQ値を示す図である。
【
図7】
図7(a)および
図7(b)は、実施例1における挿入膜の形状の一例を示す挿入膜付近の平面図(その1)である。
【
図8】
図8(a)および
図8(b)は、実施例1における挿入膜の形状の一例を示す挿入膜付近の平面図(その2)である。
【
図9】
図9(a)および
図9(b)は、実施例1における挿入膜の形状の一例を示す挿入膜付近の平面図(その3)である。
【
図12】
図12(a)は、実施例4に係る圧電薄膜共振器の断面図、
図12(b)は、実施例4の変形例に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
【
図13】
図13は、実施例5に係るデュプレクサの回路図である。
【0019】
以下図面を参照し、本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0020】
図1(a)は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の平面図、
図1(b)は、挿入膜の平面図、
図1(c)および
図1(d)は、
図1(a)のA−A断面図である。
図1(c)は、例えばラダー型フィルタの直列共振器、
図1(d)は例えばラダー型フィルタの並列共振器の断面図を示している。
【0021】
図1(a)および
図1(c)を参照し、直列共振器Sの構造について説明する。シリコン(Si)基板である基板10上に、下部電極12が設けられている。基板10の平坦主面と下部電極12との間にドーム状の膨らみを有する空隙30が形成されている。ドーム状の膨らみとは、例えば空隙30の周辺では空隙30の高さが小さく、空隙30の内部ほど空隙30の高さが大きくなるような形状の膨らみである。下部電極12は下層12aと上層12bとを含んでいる。下層12aは例えばCr(クロム)膜であり、上層12bは例えばRu(ルテニウム)膜である。下部電極12の端面58は、下部電極12の下面が上面より大きくなるようなテーパーを有している。
【0022】
下部電極12上に、(002)方向を主軸とする窒化アルミニウム(AlN)を主成分とする圧電膜14が設けられている。圧電膜14内に挿入膜28が設けられている。挿入膜28は、圧電膜14の膜厚方向のほぼ中央に設けられている。挿入膜28が設けられるのは、膜厚方向の中央でなくともよいが、中央に設けることにより、挿入膜としての機能をより発揮する。圧電膜14を挟み下部電極12と対向する領域(共振領域50)を有するように圧電膜14上に上部電極16が設けられている。共振領域50は、楕円形状を有し、厚み縦振動モードの弾性波が共振する領域である。上部電極16は下層16aおよび上層16bを含んでいる。下層16aは例えばRu膜であり、上層16bは例えばCr膜である。
【0023】
上部電極16上には周波数調整膜24として酸化シリコン膜が形成されている。共振領域50内の積層膜18は、下部電極12、圧電膜14、挿入膜28、上部電極16および周波数調整膜24を含む。周波数調整膜24はパッシベーション膜として機能してもよい。
【0024】
図1(a)のように、下部電極12には犠牲層をエッチングするための導入路33が形成されている。犠牲層は空隙30を形成するための層である。導入路33の先端付近は圧電膜14で覆われておらず、下部電極12は導入路33の先端に孔部35を有する。
【0025】
図1(a)および
図1(d)を参照し、並列共振器Pの構造について説明する。並列共振器Pは直列共振器Sと比較し、上部電極16aの下層16aと上層16bとの間に質量負荷膜20が設けられている。質量負荷膜20は例えばTi(チタン)膜である。よって、積層膜18は直列共振器Sの積層膜に加え、共振領域50内の全面に形成された質量負荷膜20を含む。その他の構成は直列共振器Sの
図1(c)と同じであり説明を省略する。
【0026】
直列共振器Sと並列共振器Pとの共振周波数の差は、質量負荷膜20の膜厚を用い調整する。直列共振器Sと並列共振器Pとの両方の共振周波数の調整は、周波数調整膜24の膜厚を調整することにより行なう。
【0027】
2GHzの共振周波数を有する圧電薄膜共振器の場合、下部電極12の下層12aはCr膜であり、下層12aの膜厚は100nmである。下部電極12の上層12bはRu膜であり、上層12bの膜厚は250nmである。圧電膜14はAlN膜であり、圧電膜14の膜厚は1100nmである。挿入膜28は酸化シリコン(SiO
2)膜であり、挿入膜28の膜厚は150nmである。上部電極16の下層16aはRu膜であり、下層16aの膜厚は250nm、上部電極16の上層16bはCr膜であり、上層16bの膜厚は50nmである。周波数調整膜24は酸化シリコン膜であり、周波数調整膜24の膜厚は50nmである。質量負荷膜20はTi膜であり、質量負荷膜20の膜厚は120nmである。各層の膜厚は、所望の共振特性を得るため適宜設定することができる。
【0028】
図1(b)に示すように、挿入膜28は、共振領域50内の外周領域52に設けられ中央領域54に設けられていない。外周領域52は、共振領域50内の領域であって、共振領域50の外周を含み外周に沿った領域である。外周領域52は、例えば帯状およびリング状である。中央領域54は、共振領域50内の領域であって、共振領域50の中央を含む領域である。中央は幾何学的な中心でなくてもよい。挿入膜28は、外周領域52に加え共振領域50を囲む領域56に設けられている。挿入膜28は、外周領域52から共振領域50外まで連続して設けられている。
【0029】
図2(a)および
図2(b)は、共振領域の端付近の拡大断面図である。上部電極16は、共振領域50から左側に引き出されており、下部電極12は、共振領域50から右側に引き出されている。
図2(a)は、上部電極16が引き出される側の共振領域50の端の拡大図であり、
図2(b)は、下部電極12が引き出される側の共振領域50の端の拡大図である。
【0030】
図2(a)に示すように、下部電極12の端面58は、端面58と下部電極12の下面とのなす角度θ1が鋭角となるテーパー形状を有している。これは、角度θ1が、90°以上の場合、下部電極12および基板10上に圧電膜14を形成すると、端面58上の圧電膜14の膜質が劣化するためである。圧電膜14の膜質を劣化させないため、角度θ1は、例えば60°以下であり、例えば45°以下である。端面58は平面でなくともよい。下部電極12の端面58の領域も共振領域50として寄与する。すなわち、下部電極12が薄い領域においても、弾性波が振動する共振領域50となる。共振領域50内の挿入膜28の幅を幅W1とする。
【0031】
図2(b)に示すように、上部電極16の端面は基板10に対しほぼ垂直である。すなわち、上部電極16の端面と下面とのなす角度θ2は90°である。角度θ2は、90°より小さくてもよい。上部電極16の角度θ2が大きくても圧電膜14には影響しない。このため、上部電極16の端面の角度θ2は、加工しやすいように大きくする。よって、角度θ2は角度θ1より大きくなる。共振領域50内の挿入膜28の幅を幅W2とする。
【0032】
基板10としては、Si基板以外に、石英基板、ガラス基板、セラミック基板またはGaAs基板等を用いることができる。下部電極12および上部電極16としては、RuおよびCr以外にもAl(アルミニウム)、Ti、Cu(銅)、Mo(モリブデン)、W(タングステン)、Ta(タンタル)、Pt(白金)、Rh(ロジウム)またはIr(イリジウム)等の単層膜またはこれらの積層膜を用いることができる。例えば、上部電極16の下層16aをRu、上層16bをMoとしてもよい。圧電膜14は、窒化アルミニウム以外にも、ZnO(酸化亜鉛)、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)、PbTiO
3(チタン酸鉛)等を用いることができる。また、例えば、圧電膜14は、窒化アルミニウムを主成分とし、共振特性の向上または圧電性の向上のため他の元素を含んでもよい。例えば、添加元素としてSc(スカンジウム)を用いることにより、圧電膜14の圧電性が向上するため、圧電薄膜共振器の実効的電気機械結合係数を向上できる。
【0033】
挿入膜28としては、Al、Au、Cu、Ti、Pt、Ta、Cr、またはSiO
2等の圧電膜14よりヤング率の小さい材料を用いることが好ましい。これにより、Q値を向上できる。また、挿入膜28として金属膜を用いることにより、実効的電気機械結合係数を向上できる。詳細は後述する。
【0034】
周波数調整膜24としては、酸化シリコン膜以外にも窒化シリコン膜または窒化アルミニウム等を用いることができる。質量負荷膜20としては、Ti以外にも、Ru、Cr、Al、Cu、Mo、W、Ta、Pt、RhもしくはIr等の単層膜を用いることができる。また、例えば窒化シリコンまたは酸化シリコン等の窒化金属または酸化金属からなる絶縁膜を用いることもできる。質量負荷膜20は、上部電極16の層間以外にも、下部電極12の下、下部電極12の層間、上部電極16の上、下部電極12と圧電膜14との間または圧電膜14と上部電極16との間に形成することができる。質量負荷膜20は、共振領域50を含むように形成されていれば、共振領域50より大きくてもよい。
【0035】
図3(a)から
図3(c)は、実施例1に係る直列共振器の製造方法を示す断面図である。
図3(a)に示すように、平坦主面を有する基板10上に空隙を形成するための犠牲層38を形成する。犠牲層38の膜厚は、例えば10〜100nmであり、MgO、ZnO、GeまたはSiO
2等のエッチング液またはエッチングガスに容易に溶解できる材料から選択される。その後、犠牲層38を、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用い所望の形状にパターニングする。犠牲層38の形状は、空隙30の平面形状に相当する形状であり、例えば共振領域50となる領域を含む。次に、犠牲層38および基板10上に下部電極12として下層12aおよび上層12bを形成する。犠牲層38および下部電極12は、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法またはCVD(Chemical Vapor Deposition)法を用い成膜される。その後、下部電極12を、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用い所望の形状にパターニングする。下部電極12は、リフトオフ法により形成してもよい。このとき、下部電極12の端面58がテーパーとなるような条件でパターニングする。
【0036】
図3(b)に示すように、下部電極12および基板10上に圧電膜14aおよび挿入膜28を、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法を用い成膜する。挿入膜28を、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用い所望の形状にパターニングする。挿入膜28は、リフトオフ法により形成してもよい。
【0037】
図3(c)に示すように、圧電膜14b、上部電極16の下層16aおよび上層16bを、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法を用い成膜する。圧電膜14aおよび14bから圧電膜14が形成される。上部電極16を、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用い所望の形状にパターニングする。上部電極16は、リフトオフ法により形成してもよい。
【0038】
なお、
図1(d)に示す並列共振器においては、下層16aを形成した後に、質量負荷膜20を、例えばスパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法を用い成膜する。質量負荷膜20をフォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用い所望の形状にパターニングする。その後、上層16bを形成する。
【0039】
周波数調整膜24を例えばスパッタリング法またはCVD法を用い形成する。フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用い周波数調整膜24を所望の形状にパターニングする。
【0040】
その後、孔部35および導入路33(
図1(a)参照)を介し、犠牲層38のエッチング液を下部電極12の下の犠牲層38に導入する。これにより、犠牲層38が除去される。犠牲層38をエッチングする媒体としては、犠牲層38以外の共振器を構成する材料をエッチングしない媒体であることが好ましい。特に、エッチング媒体は、エッチング媒体が接触する下部電極12がエッチングされない媒体であることが好ましい。積層膜18(
図1(c)、
図1(d)参照)の応力を圧縮応力となるように設定しておく。これにより、犠牲層38が除去されると、積層膜18が基板10の反対側に基板10から離れるように膨れる。下部電極12と基板10との間にドーム状の膨らみを有する空隙30が形成される。以上により、
図1(a)および
図1(c)に示した直列共振器S、および
図1(a)および1(d)に示した並列共振器Pが作製される。
【0041】
下部電極12の端面が下面に対しほぼ直角であり、共振領域50内の挿入膜28の幅がほぼ一定の比較例1について、挿入膜28の効果を調べた。
図4(a)は、比較例1に係る圧電薄膜共振器の平面図、
図4(b)は、挿入膜の平面図、
図4(c)および
図4(d)は、
図4(a)のA−A断面図である。
【0042】
図4(a)から
図4(d)に示すように、挿入膜28の端面は、挿入膜28の下面に対し直角である。挿入膜28が、共振領域50の外側に連続して形成されている。共振領域50内の挿入膜28の幅Wは一定である。その他の構成は、実施例1の
図1(a)から
図1(d)と同じであり説明を省略する。
【0043】
比較例1について、挿入膜28の材料を変え、反共振点のQ値について有限要素法を用いシミュレーションした。有限要素法は、
図4(c)のような断面の2次元解析により行なった。積層膜18の各膜厚および材料は
図1(a)から
図1(d)の2GHzの共振周波数を有する圧電薄膜共振器として例示したものとした。すなわち、圧電膜14をAlNとした。挿入膜28の膜厚を150nmとし、共振領域50と挿入膜28との重なる幅Wを2μmとした。挿入膜28は、圧電膜14の膜厚方向の中間位置に設けられているとした。
【0044】
図5(a)は、ヤング率に対する反共振点のQ値、
図5(b)は、ヤング率に対する実効的電気機械結合係数k
2effを示す図である。比較例2は、挿入膜28を設けない共振器に対応する。挿入膜28の材料として、Al、SiO
2、Ti、Cr,AlN、RuおよびWについて計算した。
【0045】
図5(a)を参照し、ヤング率が小さい材料を挿入膜28とすることにより反共振点のQ値が高くなる。ヤング率がAlNより小さくなると、Q値が比較例1より高くなる。これは、以下の理由による。すなわち、外周領域52にヤング率が小さい挿入膜28が設けられることにより、共振領域50の外周領域52において弾性波の振動が小さくなる。これにより、共振領域50の外周が固定端として弾性波が固定端反射される。よって、弾性波のエネルギーが共振領域50の外に漏れることを抑制する。これにより、Q値が高くなる。挿入膜28のヤング率は、圧電膜14のヤング率より小さいことが好ましく、圧電膜14のヤング率の90%以下がより好ましく、80%以下がより好ましい。
【0046】
図5(b)を参照し、実効的電気機械結合係数k
2effは、挿入膜28を金属とすると高くなる。挿入膜28を金属とすることにより共振領域50における弾性波の電界分布が揃うためと推測される。
【0047】
次に、
図2(a)および
図2(b)の幅W1およびW2を変化させ、反共振点のQ値を有限要素法を用いシミュレーションした。有限要素法は、
図2(a)および
図2(b)のような断面の2次元解析により行なった。共振領域50は鏡面対称とした。すなわち、共振領域50の両側が
図2(a)として、幅W1を変化させQ値を算出した。同様に、共振領域50の両側が
図2(b)として、幅W2を変化させQ値を算出した。積層膜18の各膜厚および材料は
図1(a)から
図1(d)の2GHzの共振周波数を有する圧電薄膜共振器として例示したものとした。すなわち、挿入膜28は、酸化シリコン膜であり、膜厚は150nmである。角度θ1は30°であり、角度θ2は90°である。
【0048】
図6(a)はおよび
図6(b)は、それぞれ挿入膜の幅W1およびW2に対する反共振点のQ値を示す図である。破線は、挿入膜28を設けない比較例2を示す。
図6(a)および
図6(b)に示すように、挿入膜28を設けることにより、Q値が向上する。
図6(a)のように、幅W1が約2.7μmのときにQ値が最大となる。
図6(b)のように、幅W2が約2.4μmのときにQ値が最大となる。W2−W1は約0.3μmである。挿入膜28のテーパー領域の面方向の長さは、(挿入膜28の膜厚=0.15nm)×cot(θ1=30°)=0.26μmである。このように、Q値が最大となる幅W2とW1との差は、ほぼ端面58の面方向の長さに対応する。これは、下部電極12の端面がテーパー状の領域は、共振領域50としては機能するものの、挿入膜28として機能しないためと考えられる。特に、下部電極12の端面58の角度θ1が鋭角となるテーパー形状とした場合、端面58の領域の挿入膜28は弾性波を反射する機能が小さいと考えられる。
【0049】
実施例1によれば、下部電極12の端面58は、下部電極12の下面が上面に対し大きくなるようなテーパーを有する。これにより、圧電膜14の膜質を向上できる。しかし、下部電極12の端面58がテーパー状のため、挿入膜28として機能する領域が狭くなる。そこで、上部電極16が共振領域50から引き出される側における共振領域50内の挿入膜28の第1幅W1を、下部電極12が共振領域50から引き出される側における共振領域50内の挿入膜28の第2幅W2より広くする。これにより、上部電極16の引き出し側の挿入膜28の幅W1と、下部電極12の引き出し側の挿入膜28の幅W2を最適化できる。よって、弾性波の共振領域50外への漏れを抑制し、Q値を向上できる。
【0050】
角度θ1は、圧電膜14の膜質を向上させるため小さくし、角度θ2は、上部電極16の加工を容易に行うため大きくする。すなわち、下部電極12の端面と基板10の上面のなす角度θ1が、上部電極16の端面と基板10の上面のなす角度θ2より小さい。この場合、幅W1をW2より広くすることにより、Q値を向上できる。
【0051】
また、第1幅W1と第2幅W2との差は、テーパーに対応する長さ(すなわち、端面58の面方向の長さ)であることが好ましい。これにより、
図6(a)および
図6(b)において説明したように、Q値を向上できる。
【0052】
図7(a)および
図7(b)は、実施例1における挿入膜の形状の一例を示す挿入膜付近の平面図である。
図7(a)および
図7(b)では、より実際の寸法関係に近づけるため、
図1(a)および
図1(b)とは、拡大縮小関係が異なる。
図8(a)から
図9(b)においても同様である。
図7(a)に示すように、上部電極16と下部電極12が重なる領域が共振領域50である。共振領域50が楕円形状となるように、下部電極12および上部電極16が設けられている。
図7(b)に示すように、挿入膜28の外周は楕円形状である。挿入膜28の内周は、上部電極16の引き出し側と下部電極12の引き出し側とで異なる楕円である。挿入膜28の幅は、上部電極16の引き出す側の幅W3が下部電極12の引き出す側の幅W4より広い。これにより、幅W1がW2より広くなる。
【0053】
図8(a)および
図8(b)は、実施例1における挿入膜の形状の一例を示す挿入膜付近の平面図である。
図8(a)に示すように、共振領域50は、楕円形状に近いが、上部電極16の引き出し側に少し突出している。
図8(b)に示すように、挿入膜28の外周および内周は楕円形状である。挿入膜の内周と外周の中心はほぼ一致している。これにより、リング状の挿入膜28の幅は、上部電極16の引き出す側の幅W3と下部電極12の引き出す側の幅W4とが同じである。しかし、共振領域50が上部電極16の引き出し側に突出しているため、幅W1がW2より広くなる。
【0054】
このように、挿入膜28を長軸に対し非対称とし幅W3とW4とを異ならせることにより、幅W1とW2とを異ならせてもよい。共振領域50の形状を長軸に対し非対称とすることで、幅W1とW2とを異ならせてもよい。挿入膜28と共振領域50の両方を非対称とすることにより、幅W1とW2とを異ならせてもよい。
【0055】
図9(a)および
図9(b)は、実施例1における挿入膜の形状の一例を示す挿入膜付近の平面図である。
図9(a)および
図9(b)に示すように、挿入膜28は複数に分割されている。挿入膜28の間にスペース55が形成されている。このように、挿入膜28が複数に分割されていてもよい。
【実施例2】
【0056】
図10(a)は、実施例2に係る圧電薄膜共振器の平面図、
図10(b)は、挿入膜の平面図、
図10(c)および
図10(d)は、
図10(a)のA−A断面図である。
図10(a)から
図10(d)に示すように、挿入膜28が共振領域50の外側に連続して形成されている。その他の構成は、実施例1の
図1(a)から
図1(d)と同じであり、説明を省略する。実施例2のように、挿入膜28は、共振領域50の中央領域54を除くほぼ全面に形成されていてもよい。
【実施例3】
【0057】
図11(a)は、実施例3に係る圧電薄膜共振器の平面図、
図11(b)は、挿入膜の平面図、
図11(c)および
図11(d)は、
図11(a)のA−A断面図である。
図11(a)から
図11(d)に示すように、挿入膜28が共振領域50の外側には設けられていない。その他の構成は、実施例1の
図1(a)から
図1(d)と同じであり、説明を省略する。実施例3のように、挿入膜28は、共振領域50以外には設けなくてもよい。
【実施例4】
【0058】
実施例4は、空隙の構成を変えた例である。
図12(a)は、実施例4に係る圧電薄膜共振器の断面図、
図12(b)は、実施例4の変形例に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
図12(a)に示すように、共振領域50の積層膜18はドーム状ではなく、平坦である。基板10の上面に窪みが形成されている。下部電極12は、基板10上に平坦に形成されている。これにより、空隙30が、基板10の窪みに形成されている。空隙30は共振領域50を含むように形成されている。その他の構成は、実施例1と同じであり説明を省略する。空隙30は、基板10を貫通するように形成されていてもよい。なお、下部電極12の下面に絶縁膜が接して形成されていてもよい。すなわち、空隙30は、基板10と下部電極12に接する絶縁膜との間に形成されていてもよい。絶縁膜としては、例えば窒化アルミニウム膜を用いることができる。
【0059】
図12(b)に示すように、共振領域50の積層膜18はドーム状ではなく、平坦である。共振領域50の下部電極12の圧電膜14とは反対側に音響反射膜31が形成されている。音響反射膜31は、音響インピーダンスの低い膜30aと音響インピーダンスの高い膜30bとが交互に設けられている。膜30aおよび30bの膜厚は例えばそれぞれλ/4(λは弾性波の波長)である。膜30aと膜30bの積層数は任意に設定できる。その他の構成は、実施例1と同じであり説明を省略する。
【0060】
なお、実施例4およびその変形例において、実施例2と同様に共振領域50外に挿入膜28が設けられていてもよい。また、実施例3のように、挿入膜28は共振領域50外に設けられていなくてもよい。
【0061】
実施例1から4のように、圧電薄膜共振器は、共振領域50において空隙30が基板10と下部電極12との間に形成されているFBAR(Film Bulk Acoustic Resonator)でもよい。また、実施例4の変形例のように、圧電薄膜共振器は、共振領域50において下部電極12下に圧電膜14を伝搬する弾性波を反射する音響反射膜31を備えるSMR(Solidly Mounted Resonator)でもよい。
【0062】
実施例1から実施例4およびその変形例において、共振領域50が楕円形状の例を説明したが、他の形状でもよい。例えば、共振領域50は、四角形または五角形等の多角形でもよい。
【実施例5】
【0063】
実施例5はデュプレクサの例である。
図13は、実施例5に係るデュプレクサの回路図である。
図13に示すように、デュプレクサは、送信フィルタ40および受信フィルタ42を備えている。送信フィルタ40は、共通端子Antと送信端子Txとの間に接続されている。受信フィルタ42は、共通端子Antと受信端子Rxとの間に接続されている。共通端子Antとグランドとの間には、整合回路としてインダクタL1が設けられている。送信フィルタ40は、送信端子Txから入力された信号のうち送信帯域の信号を送信信号として共通端子Antに通過させ、他の周波数の信号を抑圧する。受信フィルタ42は、共通端子Antから入力された信号のうち受信帯域の信号を受信信号として受信端子Rxに通過させ、他の周波数の信号を抑圧する。インダクタL1は、送信フィルタ40を通過した送信信号が受信フィルタ42に漏れず共通端子Antから出力されるようにインピーダンスを整合させる。
【0064】
送信フィルタ40は、ラダー型フィルタである。送信端子Tx(入力端子)と共通端子Ant(出力端子)との間に1または複数の直列共振器S1からS4が直列に接続されている。送信端子Txと共通端子Antとの間に1または複数の並列共振器P1からP3が並列に接続されている。並列共振器P1からP3のグランド側は共通にインダクタL2を介し接地されている。直列共振器、並列共振器およびインダクタ等の個数や接続は所望の送信フィルタ特性を得るため適宜変更可能である。直列共振器S1からS4および並列共振器P1からP3の少なくとも1つを実施例1から4および変形例の圧電薄膜共振器とすることができる。
【0065】
図14(a)は、送信フィルタの平面図および断面図、
図14(b)は、
図14(a)のA−A断面図である。
図14(a)および
図14(b)に示すように、実施例3に係る圧電薄膜共振器を同一基板10に形成し、ラダー型フィルタとすることができる。圧電膜14に開口36が形成され、挿入膜28に開口37が設けられている。開口36および37を介し下部電極12と電気的に接続することができる。共振領域50内の挿入膜28の幅は、上部電極16を引き出す側の幅W1が下部電極12を引き出す側の幅W2より広い。その他の構成は、実施例3と同じであり説明を省略する。各共振器S1からS4およびP1からP3の共振領域50の大きさおよび形状は、適宜変更可能である。
【0066】
受信フィルタ42は、ラダー型フィルタでもよく、多重モードフィルタでもよい。送信フィルタ40および受信フィルタ42の少なくとも一方をラダー型フィルタまたはラティス型フィルタとすることができる。また、送信フィルタ40および受信フィルタ42の少なくとも一方の少なくとも1つの共振器を実施例1から4および変形例の圧電薄膜共振器とすることができる。
【0067】
フィルタが実施例1から4および変形例の圧電薄膜共振器を含む。これにより、共振器のQ値が向上し、フィルタのスカート特性を向上できる。
【0068】
また、送信フィルタ40および受信フィルタ42の少なくとも一方を実施例1から4および変形例の圧電薄膜共振器を含むフィルタとすることができる。
【0069】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0070】
10 基板
12 下部電極
14 圧電膜
16 上部電極
28 挿入膜
30 空隙
31 音響反射膜
50 共振領域
52 外周領域
54 中央領域
58 端面