【課題】トンネル内ではディーゼルエンジンの駆動を停止してバッテリの電力で走行することができて、変速機が不要で全体としてコンパクトに構成できる保守用車両を提供すること。
【解決手段】保守用車両1は、ディーゼルエンジン10に一体的に接続されてディーゼルエンジン10の駆動により交流電力を発生する発電機20と、交流電力を直流電力に変換可能なコンバータ装置30と、直流電力を交流電力に変換可能なインバータ装置40と、インバータ装置40に直流電力を供給可能なバッテリ50と、インバータ装置40が変換した交流電力により回転駆動して車輪5を回転させる走行用モータ3と、発電機20が発生した交流電力で走行用モータ3を駆動可能な通常走行状態と、ディーゼルエンジン10の駆動を停止しバッテリ50が蓄電している直流電力で走行用モータ3を駆動可能なクリーン走行状態を切り換える制御装置70とを備える。
【背景技術】
【0002】
保守用車両は、作業員がレール又は枕木の交換及び点検、バラストの突き固め作業、架線の点検及び張替え作業等の保線作業、及びトンネルの点検や補修等の保守作業(以下、保線作業を含めて「保守作業」と呼ぶ)を行うための車両である。このような保守用車両は、例えば下記特許文献1に記載されていて、
図15に示すように、機関室107内に設置されたディーゼルエンジン110と、このディーゼルエンジン110の出力軸110aのトルクを車輪105の回転駆動に必要なトルクに増大させる変速機120と、この変速機120の下側からレール方向(
図15の左右方向)に延びる推進軸104とを備えている。こうして、ディーゼルエンジン110からの駆動力が変速機120と推進軸104を介して車輪105に伝達されるようになっている。
【0003】
しかしながら、ディーゼルエンジン110を備えた従来の保守用車両101は、閉鎖された空間であるトンネル内を走行する際に、ディーゼルエンジン110から排出される排気ガスがトンネル内に充満することになる。このため、トンネル内で保守作業を行う作業員にとって、ディーゼルエンジン110から排出される排気ガスによって作業環境及び視界が悪いという問題点があった。
【0004】
ここで、下記特許文献2には、上記した問題点に対処できるような鉄道作業車が提案されている。この鉄道作業車は、
図16に示すように、モータ230を回転駆動させるためのバッテリ250が搭載されていて、駆動源がエンジン210とバッテリ250の二つであるハイブリッド車両になっている。これにより、通常走行時には、エンジン210からの駆動力がトルクコンバータ付パワーシフトトランスミッション220によって変速され、推進軸204を介して車輪205に伝達される。
【0005】
一方、トンネル内を走行する際には、モータ230がバッテリ250から供給される電力によって回転し、この回転力によってトルクコンバータ付パワーシフトトランスミッション220の出力軸(図示省略)を回転させる。そして、この出力軸の回転が推進軸204を介して車輪205に伝達されることで、走行することができる。こうして、トンネル内では、エンジン210の駆動を停止してバッテリ250の電力で走行することができ、排気ガスがトンネル内に充満することを防止できるようになっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献2に記載された鉄道作業車201には、以下の問題点がある。この鉄道作業車201は、ハイブリッド車両のうち主にエンジン210からの駆動力で走行する所謂「パラレル方式」になっている。このため、大きな駆動力を発生させるために比較的大きなエンジンを搭載していて、このエンジン210に大きいトルクコンバータ付パワーシフトトランスミッション220が一体的に接続されている。従って、その他の各機器の配置の自由度が小さく、全体としてコンパクトに構成し難い。
【0008】
更に、この鉄道作業車201では、エンジン210とモータ230とを機械的に連結する特殊な変速機(トルクコンバータ付パワーシフトトランスミッション220)が必要になり、この特殊な変速機を製作できる機器メーカが限定され、製作車両数の少ない保守用車両においてはコストが高くなる。
【0009】
そこで、本発明は上記した課題を解決するためになされたものであり、トンネル内ではディーゼルエンジンの駆動を停止してバッテリの電力で走行することができて、変速機が不要で全体としてコンパクトに構成できる保守用車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る保守用車両は、ディーゼルエンジンを備え、鉄道車両が走行する線路を移動して保守作業を行うためのものであって、前記ディーゼルエンジンに一体的に接続されて前記ディーゼルエンジンの駆動により交流電力を発電する発電機と、前記発電機が発電した交流電力を直流電力に変換可能なコンバータ装置と、前記コンバータ装置が変換した直流電力を交流電力に変換可能なインバータ装置と、前記コンバータ装置が変換した直流電力を蓄電可能且つ前記インバータ装置に直流電力を供給可能なバッテリと、前記インバータ装置が変換した交流電力により回転駆動して車輪を回転させる走行用モータと、前記発電機が発電した交流電力で前記走行用モータを駆動可能な通常走行状態と、前記ディーゼルエンジンの駆動を停止し且つ前記バッテリが蓄電している直流電力で前記走行用モータを駆動可能なクリーン走行状態とを切り換える制御装置とを備えることを特徴とする。ここで、「保守作業」とは、トンネルの点検や補修等の保守作業の他に、レール又は枕木の交換及び点検、バラストの突き固め作業、架線の点検及び張替え作業等の保線作業も含む意味である。
【0011】
本発明に係る保守用車両によれば、トンネル内を走行する場合や、民家等の周辺で騒音に対する対策が必要な区間を夜間走行する場合、クリーン走行状態に切り換えることで、ディーゼルエンジンの駆動が停止してバッテリが蓄電する電力のみで走行用モータを回転駆動させることができる。これにより、ディーゼルエンジンから排出される排気ガスがトンネル内に充満することを防止できる。また、民家等の周辺を走行する場合、ディーゼルエンジンの駆動による騒音を防止できる。
更に、変速機が不要な構造であり、ディーゼルエンジンと発電機とが一体的に接続されて走行用モータで走行する所謂「シリーズ方式」になっている。このため、各機器の配置の自由度が大きく、全体としてコンパクトに構成することができる。
【0012】
また、上記した本発明に係る保守用車両において、車両のGPS位置情報を取得する接近警報装置を備えていて、前記制御装置は、トンネルの位置情報を記憶しているデータベースと、前記車両のGPS位置情報と前記トンネルの位置情報とを照合してトンネル内に位置するか否かを判断するトンネル内判断部とを有し、トンネル内に位置すると判断したときに前記クリーン走行状態に自動的に切り換えるように構成しても良い。
【0013】
又は、手動操作によって走行位置を入力するための入力部が設けられていて、前記制御装置は、前記入力された走行位置からの走行距離を演算する走行距離演算部と、トンネルの位置情報を記憶しているデータベースと、前記走行位置からの走行距離と前記トンネルの位置情報とを照合してトンネル内に位置するか否かを判断するトンネル内判断部とを有し、トンネル内に位置すると判断したときに前記クリーン走行状態に自動的に切り換えるように構成しても良い。
【0014】
或いは、トンネル付近に設置された地上子から地点信号を受信する地点検出装置を設け、前記制御装置は、前記受信された地点信号からの走行距離を演算する走行距離演算部と、トンネルの位置情報を予め記憶しているデータベースと、前記地点信号からの走行距離と前記トンネルの位置情報とを照合してトンネル内に位置するか否かを判断するトンネル内判断部とを有し、トンネル内に位置すると判断したときに前記クリーン走行状態に自動的に切り換えるように構成しても良い。
【0015】
これらの場合には、保守用車両がトンネル内に位置する間、自動的にクリーン走行状態に切り換わってディーゼルエンジンの駆動を停止することができる。従って、保守用車両に乗っている作業員がディーゼルエンジンの駆動を停止するタイミングを意識することが無く、その他の作業に集中することができる。
【0016】
また、上記した本発明に係る保守用車両において、運転操作を行う運転台には、手動操作によって前記制御装置に前記通常走行状態又は前記クリーン走行状態を切り換えさせる選択切換手段が設けられていると良い。
この場合には、運転操作を行っている作業員が、例えば、バッテリの蓄電量が少ない場合には通常走行状態に切り換え、閉鎖された空間になっている駅のホーム等を走行する場合にはクリーン走行状態に切り換える。こうして、状況に応じて最適な状態を人為的に選択することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の保守用車両によれば、トンネル内ではディーゼルエンジンの駆動を停止してバッテリの電力で走行することができて、保守作業を行う作業員にとって作業環境及び視界を良くすることができる。更に、変速機が不要で各機器の配置の自由度が大きく、全体としてコンパクトに構成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<第1実施形態>
本発明に係る保守用車両の各実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、第1実施形態の保守用車両1を示した正面図であり、
図2は、
図1に示した保守用車両1の平面図である。なお、
図1及び
図2では、保守用車両1が備える各機器を主に示している。また、
図3は、保守用車両1が備える各機器の機能ブロック図である。
【0020】
保守用車両1は、鉄道車両が走行する線路SRを移動して、作業員が線路のレール又は枕木の交換及び点検、バラストの突き固め作業、架線の点検及び張替え作業等の保線作業、及びトンネルの点検や補修等の保守作業(以下、保線作業を含めて「保守作業」と呼ぶ)を行うための車両である。この保守用車両1は、
図1及び
図3に示すように、車体床2の下側に吊り下げられた各走行用モータ3,3(以下、単に「走行用モータ3」と呼ぶ)が各推進軸4,4を介して各車輪5,5を回転させることで、線路SRを走行するようになっている。そして、他の車両を前から牽引又は後ろから推進できるように、車体床2のレール方向(
図1の左右方向)の両端に連結器6が設けられている。
【0021】
また、保守用車両1は、車体床2の上側で車両の後位側(
図1の左側)に機関室7を備え、車両の前位側(
図1の右側)に運転室8を備えている。機関室7の中には、ディーゼルエンジン10と、発電機20と、コンバータ装置30と、インバータ装置40,40(以下、単に「インバータ装置40」と呼ぶ)と、バッテリ50とが主に設けられている。運転室8の中には、
図3に示すように、作業員が運転操作するための運転台60と、機関室7の中の各機器を制御する制御装置70とが設けられている。
【0022】
ディーゼルエンジン10は、発電機20(ディーゼル発電機)を駆動させるものであり、車輪5を回転駆動させる駆動力を発生させるものではない。従って、ディーゼルエンジン10は、比較的小さいものであり、予め定められた定格回転数で駆動して発電機20を発電させるようになっている。ディーゼルエンジン10の駆動によって発生する排気ガスは、排気管10aから排出される。
【0023】
発電機20は、走行用モータ3を回転駆動させるための交流電力を発電するものである。この発電機20は、ディーゼルエンジン10に一体的に接続されていて、制御装置70がディーゼルエンジン10を駆動させることで発電するようになっている。発電機20が発電した交流電力は、コンバータ装置30に供給される。
【0024】
コンバータ装置30は、発電機20が発電した交流電力を直流電力に変換するものであり、制御装置70の制御指令によって所定の電力及び所定の電圧を出力する。コンバータ装置30が変換した直流電力は、インバータ装置40に供給される。また、制御装置70が図示しない電気回路を制御することで、コンバータ装置30が変換した直流電力をバッテリ50に供給できるようになっている。
【0025】
インバータ装置40は、コンバータ装置30が変換した直流電力、及びバッテリ50から供給される直流電力を交流電力に変換するものである。変換された交流電力は走行用モータ3に供給されて、走行用モータ3が回転駆動する。そして、走行用モータ3が発生した回転トルクは各推進軸4,4を介して各減速機9,9に伝達され、増幅された回転トルクが各車輪5,5に伝達される。また、インバータ装置40は、走行用モータ3が適切な回転トルクを発生できるように、制御装置70の制御指令によって交流電力の電圧及び周波数を可変制御する。
【0026】
バッテリ50は、走行用モータ3が回転駆動するための電力を蓄電及び供給できる二次電池であり、制御装置70の制御指令によって、蓄電する直流電力をインバータ装置40に供給することができる。こうして、本実施形態の保守用車両1では、発電機20から走行用モータ3に電力を供給するラインと、バッテリ50から走行用モータ3に電力を供給するラインの2系統が設けられている。バッテリ50の蓄電量は運転室8の中に設けられたモニタ(図示省略)に表示されていて、運転操作を行う作業員がバッテリ50の蓄電量を確認することができる。なお、バッテリ50の他に、補機を作動させる電圧を生成するための制御電源51が設けられている。
【0027】
運転台60には、運転室8内の作業員が運転操作を行うために、マスコンハンドルやブレーキハンドル等が設けられている。更に、本実施形態の運転台60には、手動操作によって走行用モータ3への電力供給手段を3段階に切り換える切換スイッチ61(選択切換手段)が設けられている。この切換スイッチ61では、発電機20の電力のみで走行する「通常走行モード」を選択すると制御装置70に第1制御信号を出力し、バッテリ50の電力のみで走行する「クリーン走行モード」を選択すると制御装置70に第2制御信号を出力し、発電機20及びバッテリ50の電力で走行する「併用走行モード」を選択すると制御装置70に第3制御信号を出力するようになっている。選択切換手段の構成は、スイッチに限定されるものではなく、ボタンやレバーであっても良く適宜変更可能である。
【0028】
制御装置70は、機関室7内の各機器及び電気回路を制御して、走行用モータ3への電力供給手段を切り換えるものである。この制御装置70は、「通常走行モード」によって第1制御信号が入力されると、発電機20が発電した交流電力で走行用モータ3を駆動可能な「通常走行状態」に切り換える。ここで、
図4は、「通常走行状態」の電力供給状態を示した図である。
図4に示すように、ディーゼルエンジン10の駆動によって発電機20が発生した電力を、コンバータ装置30及びインバータ装置40を介して走行用モータ3に供給する。一方、バッテリ50が蓄電する電力は走行用モータ3に供給されない。こうして、「通常走行状態」では、バッテリ50を遮断して発電機20を用いて走行する。
【0029】
これに対して、制御装置70は、「クリーン走行モード」によって第2制御信号が入力されると、バッテリ50が蓄電している直流電力で走行用モータ3を駆動可能な「クリーン走行状態」に切り換える。ここで、
図5は、「クリーン走行状態」の電力供給状態を示した図である。
図5に示すように、ディーゼルエンジン10の駆動を停止して発電機20が交流電力を発電しなくても、バッテリ50が蓄電している電力をインバータ装置40を介して走行用モータ3に供給することができる。こうして、「クリーン走行状態」では、発電機20を遮断してバッテリ50を用いて走行する。この結果、ディーゼルエンジン10から排気ガスが排出されなくなると共に、ディーゼルエンジン10の駆動音を無くすことができる。更に、ディーゼルエンジン10の燃料消費量を減らすことができる。
【0030】
更に、制御装置70は、「併用走行モード」によって第3制御信号が入力されると、発電機20が発電した交流電力及びバッテリ50が蓄電した直流電力で走行用モータ3を駆動可能な「併用走行状態」に切り換える。ここで、
図6は、「併用走行状態」の電力供給状態を示した図である。
図6に示すように、発電機20が発電した電力を走行用モータ3に供給することができると共に、バッテリ50が蓄電した電力を走行用モータ3に供給することができる。こうして、「併用走行状態」では、発電機20及びバッテリ50の両方を使用して走行し、走行用モータ3は大きな供給電力によって大きなトルクを発生できる。
【0031】
ここで、バッテリ50を蓄電する状況について、
図7又は
図8を参照しながら説明する。
図7は、発電機20が発電した電力をバッテリ50に供給するときの電力供給状態を示した図である。発電機20及びバッテリ50の両方を使用する状況においては、
図7に示すように、発電機20が発生した電力をコンバータ装置30を介してバッテリ50に供給することができる。このため、例えば、走行用モータ3の回転駆動力が必要ない状況で慣性力を用いて走行する場合等には、バッテリ50を蓄電することができる。
【0032】
更に、本実施形態の保守用車両1は、バッテリ50がブレーキ時に生じる回生電力を蓄電できるように構成されている。
図8は、ブレーキ時の回生電力をバッテリ50に供給するときの電力供給状態を示した図である。
図8に示すように、ブレーキ時には制御装置70の制御指令によって、走行用モータ3が発電機として機能して回生電力を発電し、この回生電力がインバータ装置40を介してバッテリ50に供給することができる。このため、回生ブレーキが作用すると、バッテリ50を蓄電することができる。
【0033】
次に、第1実施形態の保守用車両1の作用効果について場面を分けて説明する。
排気ガスが充満しない開放された場所を走行する場合や、民家等から遠く離れて騒音に対する対策が必要ない区間を走行する場合、運転台60で運転操作する作業員は、切換スイッチ61を「通常走行モード」に選択する。これにより、
図4に示す「通常走行状態」に設定される。この結果、バッテリ50が蓄電する電力を消費せずに、ディーゼルエンジン10及び発電機20を駆動させて走行することができる。
【0034】
また、急な上り坂を走行する場合、運転台60で運転操作する作業員は、切換スイッチ61を「併用走行モード」に選択する。これにより、
図6に示す「併用走行状態」に設定される。この結果、走行用モータ3は、発電機20が発生した電力及びバッテリ50が蓄電した電力によって大きなトルクを発生することができ、急な上り坂であっても円滑に走行することができる。
【0035】
これらに対して、トンネル内を走行する場合や、民家等の周辺で騒音に対する対策が必要な区間を夜間走行する場合、運転台60で運転操作する作業員は、切換スイッチ61を「クリーン走行モード」に選択する。これにより、
図5に示す「クリーン走行状態」に設定される。この結果、ディーゼルエンジン10の駆動を停止させて、バッテリ50が蓄電する電力のみで走行することができる。こうして、ディーゼルエンジン10から排出される排気ガスがトンネル内に充満することを防止できる。また、民家等の周辺を走行する場合であっても、ディーゼルエンジン10の駆動による騒音を防止できる。
【0036】
ここで、従来の保守用車両では、作業員がトンネル内で保守作業を行っている間、走行せずに待機していても、ディーゼルエンジン10が再稼働できなくなる事態を確実に防止するために、ディーゼルエンジン10を稼働し続けていた。これに対して、本実施形態の保守用車両1では、バッテリ50が蓄電する電力のみで走行できるため、走行せずに待機しているときに「クリーン走行モード」を選択してディーゼルエンジン10の駆動を完全に停止することができる。これにより、待機している保守用車両1から排気ガスが排出されなくて、トンネル内の作業環境及び視界を良くすることができる。
【0037】
ところで、本実施形態の保守用車両1は、駆動源が発電機20(ディーゼルエンジン10)とバッテリ50の二つであるハイブリッド車両のうち、ディーゼルエンジン10に発電機20が一体的に接続されて走行用モータ3で走行する所謂「シリーズ方式」である。このため、比較的小さいディーゼルエンジン10を搭載していて、上記の特許文献2に記載された「パラレル式」の鉄道作業車201(
図16参照)のような特殊な変速機(トルクコンバータ付パワーシフトトランスミッション220)が無い。この結果、各機器の配置の自由度が大きく、全体としてコンパクトに構成することができる。
【0038】
更に、この「シリーズ方式」であれば、発電機20、インバータ装置40、バッテリ50、走行用モータ3は、各機器メーカの標準品を用いることができ、制御装置70以外に新たに開発すべき装置がない。従って、本実施形態の保守用車両1は、特殊な機器がほとんど無いため、鉄道車両の中でも特に製作車両数が少ない保守用車両においてコストを抑えて製作することができる。更に、変速機が無いため、変速機を定期的にオーバーホールする手間が無いというメリットもある。
【0039】
<第2実施形態>
次に、第2実施形態の保守用車両1Aについて、
図9及び
図10を参照しながら説明する。第2実施形態では、GPS位置情報とデータベースとを利用して、トンネル内に位置すると判断したときに自動的に「クリーン走行状態」に切り換えることを特徴としている。
図9は、第2実施形態の保守用車両1Aが備える各機器の機能ブロック図であり、
図10は、第2実施形態の制御装置70Aの機能ブロック図である。
【0040】
図9に示すように、保守用車両1Aには、GPS衛星ESからの電波を受信する接近警報装置80が設けられている。第2実施形態では、この接近警報装置80を利用することで、現地点での位置を取得するための装置を新たに設けていない。接近警報装置80は、GPS衛星ESから受信した電波に基づいて保守用車両1Aの現地点でのGPS位置情報(以下、単に「GPS位置情報」と呼ぶ)を取得して、取得したGPS位置情報を制御装置70Aに逐次送信する。ここで、制御装置70Aは、
図10に示すように、データベース71とトンネル内判断部72Aを有していて、データベース71は、各線路上に存在する全てのトンネルの位置情報(緯度・経度・高度、長さ等)を記憶している。
【0041】
トンネル内判断部72Aは、接近警報装置80からGPS位置情報を逐次入力されると共に、データベース71からトンネルの位置情報を逐次入力されている。これにより、GPS位置情報とトンネルの位置情報とを照合して、保守用車両1Aが現時点でトンネル内に位置するか否かを判断することができる。こうして、トンネル内に位置すると判断したとき、制御装置70Aは
図5に示す「クリーン走行状態」に自動的に切り換え、トンネル内に位置しないと判断したとき、制御装置70Aは現在の状態を維持するようになっている。第2実施形態のその他の構成は、上記した第1実施形態の構成と同様であるため、その説明を省略する。
【0042】
第2実施形態の保守用車両1Aの作用効果について説明する。
第2実施形態によれば、保守用車両1Aがトンネル内に位置する間、自動的に「クリーン走行状態」に切り換わってディーゼルエンジン10の駆動を停止することができる。従って、保守用車両1Aに乗っている作業員がディーゼルエンジン10の駆動を停止するタイミングを意識することが無く、その他の作業に集中することができる。そして、第2実施形態では、「クリーン走行状態」に自動的に切り換えるための構成が、予め備える接近警報装置80とデータベース71とを利用し、制御装置70Aの設定を少し変更するだけであるため、比較的安価に且つ容易に実施することができる。第2実施形態のその他の作用効果は、上記した第1実施形態の作用効果と同様であるため、その説明を省略する。
【0043】
<第3実施形態>
次に、第3実施形態の保守用車両1Bについて、
図11及び
図12を参照しながら説明する。第3実施形態では、人為的に入力した走行位置からの走行距離とデータベースとを利用して、トンネル内に位置すると判断したときに自動的に「クリーン走行状態」に切り換えることを特徴としている。
図11は、第3実施形態の保守用車両1Bが備える各機器の機能ブロック図であり、
図12は、第3実施形態の制御装置70Bの機能ブロック図である。
【0044】
図11に示すように、保守用車両1Bには、走行距離を測定する検出器として速度発電機90が設けられている。この速度発電機90は、走行用モータ3のモータ軸に取付けられていて、モータ軸の回転に伴って発生するパルス状又は波形状の出力信号を制御装置70Bに逐次送信している。なお、速度発電機90は、車輪5の車軸に取付けても良い。また、走行距離を測定する検出器は速度発電機90に限定されるものではなく、例えば進行方向の加速度を検出する加速度センサであっても良く、適宜変更可能である。
【0045】
また、保守用車両1Bには、手動操作によって走行位置を入力する入力部として入力スイッチ62が設けられている。ここで、走行位置とは、走行距離を測定する際の基準になる開始地点のことである。入力スイッチ62は、運転台60のモニターにタッチパネルで手動操作できるように設けられていて、運転操作を行う作業員が入力スイッチ62を押すと、走行位置を示す信号が制御装置70Bに送信される。なお、走行位置を入力する入力部の構成は、タッチパネルに限定されるものではなく、例えばボタンやレバーであっても良く、適宜変更可能である。ここで、制御装置70Bは、
図12に示すように、データベース71とトンネル内判断部72Bと走行距離演算部73Bを有している。
【0046】
データベース71は、各線路上に存在する全てのトンネルの位置情報を記憶している。走行距離演算部73Bは、速度発電機90からの出力信号を逐次入力されてカウントし、保守用車両1Bが走行した距離を演算するものである。そして、この走行距離演算部73Bは、入力スイッチ62から走行位置を示す信号を入力されるようになっていて、その信号を入力されたときからの走行距離(走行位置からの走行距離)を演算する。
【0047】
トンネル内判断部72Bは、走行位置からの走行距離を逐次入力されると共に、データベース71からトンネルの位置情報を逐次入力されている。これにより、走行位置からの走行距離とトンネルの位置情報(走行位置からトンネルまでの距離)とを照合して、保守用車両1Bが現地点でトンネル内に位置するか否かを判断することができる。こうして、トンネル内に位置すると判断したとき、制御装置70Bは
図5に示す「クリーン走行状態」に自動的に切り換え、トンネル内に位置しないと判断したとき、制御装置70Bは現在の状態を維持するようになっている。第3実施形態のその他の構成は、上記した第1実施形態の構成と同様であるため、その説明を省略する。
【0048】
第3実施形態の保守用車両1Bの作用効果について説明する。
第3実施形態によれば、運転操作を行う作業員が例えば運転開始時に入力スイッチ62を押し、走行距離演算部73Bが、運転開始時の走行位置からの走行距離を演算する。そして、トンネル内判断部72Bが、運転開始時の走行位置からの走行距離とトンネルの位置情報とを照合する。こうして、保守用車両1Bがトンネル内に入ると、自動的に「クリーン走行状態」に切り換わってディーゼルエンジン10の駆動を停止することができる。従って、保守用車両1Bに乗っている作業員がディーゼルエンジン10の駆動を停止するタイミングを意識することが無く、その他の作業に集中することができる。そして、第3実施形態では、「クリーン走行状態」に自動的に切り換えるための構成が、入力スイッチ62を設け、予め備えるデータベース71及び走行距離を測定する検出器(速度発電機90)を利用し、制御装置70Bの設定を少し変更するだけであるため、比較的安価に且つ容易に実施することができる。第3実施形態のその他の作用効果は、上記した第1実施形態の作用効果と同様であるため、その説明を省略する。
【0049】
<第4実施形態>
次に、第4実施形態の保守用車両1Cについて、
図13及び
図14を参照しながら説明する。第4実施形態では、受信した地点信号からの走行距離とデータベースとを利用して、トンネル内に位置すると判断したときに自動的に「クリーン走行状態」に切り換えることを特徴としている。
図13は、第4実施形態の保守用車両1Cが備える各機器の機能ブロック図であり、
図14は、第4実施形態の制御装置70Cの機能ブロック図である。
【0050】
図13に示すように、保守用車両1Cには、第3実施形態の保守用車両1Bと同様に、速度発電機90が設けられている。そして、保守用車両1に地点検出装置100が新たに設けられ、トンネル付近に新たに地上子TSが設置されている。地上子TSは、保守用車両1Cが通過したときに地点検出装置100に地点信号を送信するものであり、旅客車等が地点検知を行うための地上子とは異なる。また、地点検出装置100は、地上子TSから受信した地点信号を制御装置70Cに送信するだけのものであり、旅客車等に搭載されている高価な車上子とは異なる。こうして、旅客車等で地点検知を行うための地上子を利用せずに、できるだけ安価な構成で地点信号を受信するようになっている。
【0051】
図14に示すように、データベース71は、各線路上に存在する全てのトンネルの位置情報を記憶している。走行距離演算部73Cは、速度発電機90からの出力信号を逐次入力されてカウントし、保守用車両1Cが走行した距離を演算するものである。そして、この走行距離演算部73Cは、地点検出装置100から地点信号を入力されるようになっていて、その地点信号を入力されたときからの走行距離(地点信号からの走行距離)を演算する。
【0052】
トンネル内判断部72Cは、地点信号からの走行距離を逐次入力されると共に、データベース71からトンネルの位置情報を逐次入力されている。これにより、地点信号からの走行距離とトンネルの位置情報(地点信号からトンネルまでの距離)とを照合して、保守用車両1Cが現地点でトンネル内に位置するか否かを判断することができる。こうして、トンネル内に位置すると判断したとき、制御装置70Cは
図5に示す「クリーン走行状態」に自動的に切り換え、トンネル内に位置しないと判断したとき、制御装置70Cは現在の状態を維持するようになっている。第4実施形態のその他の構成は、上記した第1実施形態の構成と同様であるため、その説明を省略する。
【0053】
第4実施形態の保守用車両1Cの作用効果について説明する。
第4実施形態によれば、保守用車両1Cがトンネル付近に近づくと、地点検出装置100が地上子TSから地点信号を受信し、走行距離演算部73Cが、地点信号からの走行距離を演算する。そして、トンネル内判断部72Cが、地点信号からの走行距離とトンネルの位置情報とを照合する。こうして、保守用車両1Cがトンネル内に入ると、自動的に「クリーン走行状態」に切り換わってディーゼルエンジン10の駆動を停止することができる。従って、保守用車両1Cに乗っている作業員がディーゼルエンジン10の駆動を停止するタイミングを意識することが無く、その他の作業に集中することができる。第4実施形態のその他の作用効果は、上記した第1実施形態の作用効果と同様であるため、その説明を省略する。
【0054】
以上、本発明に係る保守用車両の各実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
例えば、ディーゼルエンジン10を予め定められた定格回転数で駆動させて発電機20を発電させたが、変形例として、ディーゼルエンジン10の燃料が所定量以下になったときには、走行中の燃料消費量を抑えるために、ディーゼルエンジン10を自動的に停止させて発電機20の発電を停止させても良い。