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特開2015-96492分子性混合金属錯体およびこれを利用した有機電界発光素子
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-96492(P2015-96492A)
(43)【公開日】2015年5月21日
(54)【発明の名称】分子性混合金属錯体およびこれを利用した有機電界発光素子
(51)【国際特許分類】
   C07F 19/00 20060101AFI20150424BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20150424BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20150424BHJP
   C07D 231/12 20060101ALI20150424BHJP
   C07F 15/00 20060101ALN20150424BHJP
   C07F 1/10 20060101ALN20150424BHJP
   C07F 1/12 20060101ALN20150424BHJP
【FI】
   C07F19/00CSP
   H05B33/14 B
   C09K11/06 660
   C07D231/12 Z
   C07F15/00 F
   C07F1/10
   C07F1/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】40
(21)【出願番号】特願2014-205445(P2014-205445)
(22)【出願日】2014年10月6日
(31)【優先権主張番号】特願2013-212760(P2013-212760)
(32)【優先日】2013年10月10日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504205521
【氏名又は名称】国立大学法人 長崎大学
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100117743
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 美由紀
(74)【代理人】
【識別番号】100163658
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 順造
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(72)【発明者】
【氏名】馬越 啓介
(72)【発明者】
【氏名】西原 一樹
【テーマコード(参考)】
3K107
4H048
4H050
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107BB01
3K107CC04
3K107CC45
3K107DD64
3K107DD67
3K107GG04
3K107GG06
4H048AA01
4H048AB78
4H048AB92
4H048VA32
4H048VA57
4H048VA58
4H048VB10
4H050AA01
4H050AB78
4H050AB92
4H050WB11
4H050WB14
4H050WB21
4H050WB22
(57)【要約】      (修正有)
【課題】可視部に光吸収帯を有し、有機EL素子を作製する際に昇華法を採用することが可能な分子性混合金属錯体の提供。
【解決手段】Pt(M)(L(L(1)又は、Pt(M)(L)(L(2)で表される分子性混合金属錯体。[Mは、Ag、Au又はCu;L、Lは、それぞれ(L−1)、(L−2)で代表される配位子]


【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1):
Pt(M)(L(L (1)
または、式(2):
Pt(M)(L)(L (2)
[式中、
Mは、Ag、AuまたはCuを示し;
は、式(L−1):
【化1】

または式(L−1’):
【化2】

{式中、R〜R、R4’およびR5’は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよいヘテロアリール基を示すか、或いはRおよびRまたはRおよびRが結合して、ベンゼン環と共に、置換基を有していてもよい縮合芳香族炭化水素環を形成する。}で表される1価のアニオン性キレート配位子を示し;
は、式(L−2):
【化3】

{式中、R〜R11は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよいヘテロアリール基を示す。}で表される1価のアニオン性配位子を示す。]
で表される分子性混合金属錯体。
【請求項2】
式(1)においてMがAgである請求項1記載の分子性混合金属錯体。
【請求項3】
式(2)においてMがAuである請求項1記載の分子性混合金属錯体。
【請求項4】
式(L−1)においてR〜Rが水素原子であり、かつ式(L−2)においてR10が水素原子であり、RおよびR11が置換基を有していてもよいアルキル基である請求項1〜3のいずれか1項に記載の分子性混合金属錯体。
【請求項5】
式(L−1)においてR〜R、RおよびRが水素原子であり、RおよびRがハロゲン原子であり、かつ式(L−2)においてR10が水素原子であり、RおよびR11が置換基を有していてもよいアルキル基である請求項1〜3のいずれか1項に記載の分子性混合金属錯体。
【請求項6】
式(L−1’)においてR〜R、R4’、R5’およびR〜Rが水素原子であり、かつ式(L−2)においてR10が水素原子であり、RおよびR11が置換基を有していてもよいアルキル基である請求項1〜3のいずれか1項に記載の分子性混合金属錯体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の分子性混合金属錯体を含む発光層を有する発光素子。
【請求項8】
請求項7記載の発光素子を有する表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子性混合金属錯体およびこれを利用した有機電界発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
表示装置用の有機電界発光(EL:エレクトロルミネッセンス)素子において、従来は、一重項励起状態からの発光(即ち、蛍光)が利用されていた(非特許文献1)。この場合、25%の発光効率が最大であり、非常に発光効率が悪かった。そこで、発光効率を上げる方法として、三重項励起状態からの発光(即ち、リン光)を利用することが提案されている。リン光を利用する場合、原理的には100%の発光効率が可能となる。
【0003】
そして、イリジウムにフェニルピリジンがシクロメタル化した金属錯体が、室温でも高い効率でリン光を生じることが報告されている(非特許文献2)。それ以来、リン光発光材料の研究の多くはイリジウム錯体を対象として行われているため、それ以外の金属錯体の発光素子としての可能性の評価は、まだ十分にはなされていない。
【0004】
本発明者らは、3,5−ジメチルピラゾールを用いて混合金属錯体の合成を試みて、紫外光を照射すると非常に強い発光を示す金属錯体の単離に成功した。この金属錯体の発光測定の結果、白金および銀を含む混合金属錯体[PtAg(μ−Mepz)](Mepz=3,5−ジメチルピラゾラト)は、リン光性の青色発光を示し、しかも固体状態および溶液中の発光量子収率がそれぞれ0.85および0.51と、フェニルピリジン−イリジウム錯体[Ir(ppy)]より高いことがわかった(特許文献1)。また、銀イオンの代わりに銅イオンを用いると、オレンジ色に発光する混合金属錯体[PtCu(Mepz)]が生成することも分かった(特許文献2)。このように、Pt型混合金属錯体は、導入する11族元素の違いにより、発光エネルギーを制御できることが特徴である。しかし、Pt型混合金属錯体は分子性であるにも関わらず、分子量が大きいために昇華性が低く、また、HOMO−LUMOギャップが大きいため、三重項励起状態を発光層内部に閉じ込めにくいという問題点があった。
そこで我々は、この問題を克服するために、混合金属錯体の吸収帯を長波長化し、可視部にシフトさせることを目的として、白金ユニットに2,2’−ビピリジン(bpy)およびその誘導体を導入することを試みた。その結果、[Pt(L)(3−Bupz)](X)(M=Ag,Au,Cu;L=bpy,5,5’−dmbpy,4,4’−dmbpy;X=PF,BF)(5,5’−dmbpy=5,5’−ジメチル−2,2’−ビピリジン、4,4’−dmbpy=4,4’−ジメチル−2,2’−ビピリジン、3−Bupz=3−tert−ブチルピラゾラト)の合成に成功し、吸収帯の長波長化を達成した。しかし、このPt型混合金属錯体はイオン性であるため、有機EL素子を作製する際には、昇華法を採用できない(特許文献3)。そのため、汎用性の観点からは、必ずしも満足のいく化合物群ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5200226号公報
【特許文献2】特許第5142118号公報
【特許文献3】WO2012/039347
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】C.W.Tang,S.A.VanSlyke,C.H.Chen.,J.Appl.Phys.,65,3610(1989)
【非特許文献2】M.A.Baldo,S.Lamansky,P.E.Burrows,M.E.Thompson,S.R.Forrest,Appl.Phys.Lett.,75,4(1999)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
有機EL素子の分野では、低エネルギーで励起させることができる青色発光材料が求められている。本発明はこのような事情に着目してなされたものであって、その目的は、可視部に光吸収帯を有し、有機EL素子を作製する際に昇華法を採用することが可能な分子性混合金属錯体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、シクロメタル化により下式(L−1)または(L−1’)で表される1価のアニオン性配位子がキレート配位した白金ユニットを用いることにより、下式(1)および(2)で表される分子性混合金属錯体を得ることに成功し、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は以下の通りである。
[1] 式(1):
Pt(M)(L(L(1)
または、式(2):
Pt(M)(L)(L (2)
[式中、
Mは、Ag、AuまたはCuを示し;
は、式(L−1):
【0009】
【化1】
【0010】
または式(L−1’):
【0011】
【化2】
【0012】
{式中、R〜R、R4’およびR5’は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよいヘテロアリール基を示すか、或いはRおよびRまたはRおよびRが結合して、ベンゼン環と共に、置換基を有していてもよい縮合芳香族炭化水素環を形成する。}で表される1価のアニオン性キレート配位子を示し;
は、式(L−2):
【0013】
【化3】
【0014】
{式中、R〜R11は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよいヘテロアリール基を示す。}で表される1価のアニオン性配位子を示す。]
で表される分子性混合金属錯体(以下、分子性混合金属錯体(1)および(2)と略記することがある。)。
[2] 式(1)においてMがAgである[1]記載の分子性混合金属錯体。
[3] 式(2)においてMがAuである[1]記載の分子性混合金属錯体。
[4] 式(L−1)においてR〜Rが水素原子であり、かつ式(L−2)においてR10が水素原子であり、RおよびR11が置換基を有していてもよいアルキル基である[1]〜[3]のいずれか1に記載の分子性混合金属錯体。
[5] 式(L−1)においてR〜R、RおよびRが水素原子であり、RおよびRがハロゲン原子であり、かつ式(L−2)においてR10が水素原子であり、RおよびR11が置換基を有していてもよいアルキル基である[1]〜[3]のいずれか1に記載の分子性混合金属錯体。
[6] 式(L−1’)においてR〜R、R4’、R5’およびR〜Rが水素原子であり、かつ式(L−2)においてR10が水素原子であり、RおよびR11が置換基を有していてもよいアルキル基である[1]〜[3]のいずれか1に記載の分子性混合金属錯体。
[7] [1]〜[6]のいずれか1に記載の分子性混合金属錯体を含む発光層を有する発光素子。
[8] [7]記載の発光素子を有する表示装置。
【0015】
また、本発明は、以下に関する。
[1A] 式(1):
Pt(M)(L(L(1)
または、式(2):
Pt(M)(L)(L (2)
[式中、
Mは、Ag、AuまたはCuを示し;
は、式(L−1):
【0016】
【化4】
【0017】
{式中、R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよいヘテロアリール基を示すか、或いはRおよびRまたはRおよびRが結合して、ベンゼン環と共に、置換基を有していてもよい縮合芳香族炭化水素環を形成する。}で表される1価のアニオン性キレート配位子を示し;
は、式(L−2):
【0018】
【化5】
【0019】
{式中、R〜R11は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよいヘテロアリール基を示す。}で表される1価のアニオン性配位子を示す。]
で表される分子性混合金属錯体(以下、分子性混合金属錯体(1)および(2)と略記することがある。)。
[2A] 式(1)においてMがAgである[1A]記載の分子性混合金属錯体。
[3A] 式(2)においてMがAuである[1A]記載の分子性混合金属錯体。
[4A] R〜RおよびR10が水素原子であり、かつRおよびR11が置換基を有していてもよいアルキル基である[1A]〜[3A]のいずれか1に記載の分子性混合金属錯体。
[5A] R〜R、R、RおよびR10が水素原子であり、RおよびRがハロゲン原子であり、かつRおよびR11が置換基を有していてもよいアルキル基である[1A]〜[3A]のいずれか1に記載の分子性混合金属錯体。
[6A] [1A]〜[5A]のいずれか1に記載の分子性混合金属錯体を含む発光層を有する発光素子。
[7A] [6A]記載の発光素子を有する表示装置。
【発明の効果】
【0020】
本発明の分子性混合金属錯体は、可視部に光吸収帯を有し、有機EL素子を作製する際に昇華法およびスピンコート法の両方を採用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の発光素子の一例を示す模式断面図である。
図2】実施例1の分子性混合金属錯体[PtAg(ppy)(Mepz)]の分子構造を示すORTEP図である。
図3】実施例1の分子性混合金属錯体[PtAg(ppy)(Mepz)]のジクロロメタン溶液の紫外可視吸収スペクトルである(錯体濃度:5.00×10−5M、2.00×10−5M、1.50×10−5M、1.00×10−5Mおよび5.00×10−6M)。
図4】実施例1の分子性混合金属錯体[PtAg(ppy)(Mepz)]の固体状態の発光スペクトルである(励起光の波長:350nm、測定温度:298K)。
図5】実施例1の分子性混合金属錯体[PtAg(ppy)(Mepz)]の溶液状態(ジクロロメタン溶液)の発光スペクトルである(励起光の波長:350nm、測定温度:298K)。
図6】実施例1の分子性混合金属錯体[PtAg(ppy)(Mepz)]の熱重量分析(TG)の測定結果である。
図7】実施例2の分子性混合金属錯体[PtAg(ppy)(3−Bupz)]の固体状態の発光スペクトルである(励起光の波長:350nm、測定温度:298K)。
図8】実施例3の分子性混合金属錯体[PtAg(dfppy)(Mepz)]の分子構造を示すORTEP図である。
図9】実施例3の分子性混合金属錯体[PtAg(dfppy)(Mepz)]のジクロロメタン溶液の紫外可視吸収スペクトルである(錯体濃度:5.00×10−5M、2.00×10−5M、1.50×10−5M、1.00×10−5Mおよび5.00×10−6M)。
図10】実施例3の分子性混合金属錯体[PtAg(dfppy)(Mepz)]の固体状態の発光スペクトルである(励起光の波長:350nm、測定温度:298K)。
図11】実施例3の分子性混合金属錯体[PtAg(dfppy)(Mepz)]の溶液状態(ジクロロメタン溶液)の発光スペクトルである(励起光の波長:350nm、測定温度:298K)。
図12】実施例3の分子性混合金属錯体[PtAg(dfppy)(Mepz)]の熱重量分析(TG)の測定結果である。
図13】実施例4の分子性混合金属錯体[PtAu(ppy)(Mepz)]の固体状態の発光スペクトルである(励起光の波長:350nm、測定温度:298K)。
図14】実施例5の分子性混合金属錯体[PtAu(dfppy)(Mepz)]の分子構造を示すORTEP図である。
図15】実施例5の分子性混合金属錯体[PtAu(dfppy)(Mepz)]の固体状態の発光スペクトルである(励起光の波長:350nm、測定温度:298K)。
図16】実施例6の分子性混合金属錯体[PtAg(bzq)(Mepz)]の分子構造を示すORTEP図である。
図17】実施例6の分子性混合金属錯体[PtAg(bzq)(Mepz)]のジクロロメタン溶液の紫外可視吸収スペクトルである(錯体濃度:5.00×10−5M、2.00×10−5M、1.50×10−5M、1.00×10−5Mおよび5.00×10−6M)。
図18】実施例6の分子性混合金属錯体[PtAg(bzq)(Mepz)]の固体状態の発光スペクトルである(励起光の波長:350nm、測定温度:298K)。
図19】実施例6の分子性混合金属錯体[PtAg(bzq)(Mepz)]の溶液状態(ジクロロメタン溶液)の発光スペクトルである(励起光の波長:350nm、測定温度:298K)。
図20】実施例7の分子性混合金属錯体[PtAu(bzq)(Mepz)]の分子構造を示すORTEP図である。
図21】実施例7の分子性混合金属錯体[PtAu(bzq)(Mepz)]のジクロロメタン溶液の紫外可視吸収スペクトルである(錯体濃度:5.02×10−5M、2.01×10−5M、1.50×10−5M、1.00×10−5Mおよび5.02×10−6M)。
図22】実施例7の分子性混合金属錯体[PtAu(bzq)(Mepz)]の固体状態の発光スペクトルである(励起光の波長:350nm、測定温度:298K)。
図23】実施例7の分子性混合金属錯体[PtAu(bzq)(Mepz)]の溶液状態(ジクロロメタン溶液)の発光スペクトルである(励起光の波長:350nm、測定温度:298K)。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明の分子性混合金属錯体は、シクロメタル化によりL(式(L−1)または(L−1’)で表される1価のアニオン性配位子)が、その窒素原子およびベンゼン環の炭素原子で白金(Pt)にキレート配位したPtユニットを形成している。この白金ユニットをシクロメタル化したPtユニットと呼ぶが、シクロメタル化したPtユニットは、少なくとも一つの白金−炭素結合を含む環状構造を有しており、以下の式(3)または(3’
)で表される。
【0023】
【化6】
【0024】
本発明の分子性混合金属錯体は、シクロメタル化したPtユニットを有することを特徴とする。フェニルピリジン誘導体またはベンゾ[h]キノリン誘導体がシクロメタル化することによってHOMO−LUMOギャップが小さくなるため、本発明の分子性混合金属錯体は、低いエネルギーで励起させることができる。金属錯体がシクロメタル化したPtユニットを有するか否かは、X線結晶構造解析によって確認することができる。また、H NMRと13C NMRを用いて白金とベンゼン環の炭素原子との結合の有無を確認することによっても、シクロメタル化したPtユニットを有するか否かを確認することができる。
【0025】
さらに、本発明の分子性混合金属錯体は、PF等のカウンターアニオンを有さないことを特徴とし、カウンターアニオンを有するイオン性金属錯体と比べて昇華しやすいため、蒸着しやすいという利点を有する。
【0026】
本発明の分子性混合金属錯体は、式(1):
Pt(M)(L(L (1)
または、式(2):
Pt(M)(L)(L (2)
で表される。
【0027】
Mは、Ag、AuまたはCuを示す。
Mは、好ましくはAgまたはAuであり、より好ましくは、式(1)においてMがAgであるかまたは式(2)においてMがAuである。
【0028】
は、式(L−1):
【0029】
【化7】
【0030】
または式(L−1’):
【0031】
【化8】
【0032】
{式中、R〜R、R4’およびR5’は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよいヘテロアリール基を示すか、或いはRおよびRまたはRおよびRが結合して、ベンゼン環と共に、置換基を有していてもよい縮合芳香族炭化水素環を形成する。}で表される1価のアニオン性キレート配位子を示す。
【0033】
「ハロゲン原子」としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられる。
【0034】
「置換基を有していてもよいアルキル基」の「アルキル基」としては、直鎖状、分枝鎖状または環状のいずれでもよく、その炭素数は、好ましくは1〜8、より好ましくは1〜4である。「置換基を有していてもよいアルキル基」の置換基としては、例えば、上述のハロゲン原子などが挙げられる。「置換基を有していてもよいアルキル基」としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、i−プロピル基、ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、エチルヘキシル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロヘキシル基などが挙げられる。
【0035】
「置換基を有していてもよいアリール基」の「アリール基」としては、好ましくは6〜14員、より好ましくは6〜10員のアリール基、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントリル基などが挙げられる。「置換基を有していてもよいヘテロアリール基」の「ヘテロアリール基」としては、好ましくは6〜14員、より好ましくは6〜10員のヘテロアリール基、例えば、ピリジル基などが挙げられる。「置換基を有していてもよいアリール基」および「置換基を有していてもよいヘテロアリール基」の置換基としては、例えば、上述のハロゲン原子、上述の置換基を有していてもよいアルキル基などが挙げられる。
【0036】
およびRまたはRおよびRが結合して、好ましくはRおよびRが結合して、ベンゼン環と共に形成してもよい「置換基を有していてもよい縮合芳香族炭化水素環」の「縮合芳香族炭化水素環」としては、例えば、ナフタレン環、フェナントレン環、アントラセン環などが挙げられる。「置換基を有していてもよい縮合芳香族炭化水素環」の置換基としては、例えば、上述のハロゲン原子、上述の置換基を有していてもよいアルキル基などが挙げられる。
【0037】
式(L−1)において:
〜Rとしては、水素原子が好ましい。
およびRとしては、水素原子またはハロゲン原子(特に、フッ素原子)が好ましい。
としては、水素原子が好ましい。
としては、シクロメタル化したPtユニットを形成するために立体障害が小さいことが好ましく、従って、水素原子またはハロゲン原子が好ましく、水素原子がより好ましい。
【0038】
また、式(L−1’)において:
〜R、R4’、R5’およびR〜Rとしては、水素原子が好ましい。
【0039】
は、式(L−2):
【0040】
【化9】
【0041】
{式中、R〜R11は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよいヘテロアリール基を示す。}で表される1価のアニオン性配位子を示す。
〜R11で示される「ハロゲン原子」、「置換基を有していてもよいアルキル基」、「置換基を有していてもよいアリール基」および「置換基を有していてもよいヘテロアリール基」は、上記式(L−1)または(L−1’)で表される1価のアニオン性キレート配位子について説明した通りである。
【0042】
およびR11としては、両方が置換基を有していてもよいアルキル基の組み合わせ、または、Rが置換基を有していてもよいアルキル基でR11が水素原子の組み合わせが好ましく、アルキル基としては(特に、メチルおよびt−ブチル)が好ましい。
10としては、水素原子が好ましい。
【0043】
次に、本発明の分子性混合金属錯体の製造方法について説明する。
本発明の分子性混合金属錯体(1)および(2)は、例えば以下の反応式で示される方法またはこれに準じた方法等により得られる。
【0044】
【化10】
【0045】
(式中、Xはハロゲン化物イオン(例、Cl、Br、I)を示し、Xは、カウンターアニオン(例、BF、PF、CFSO、NO)を示し、その他の記号は前記と同義である。また、Mは、Ag、AuまたはCuのいずれかを含む化合物を示し、AgX、[AuCl(SC)](SC=テトラヒドロチオフェン)、[Cu(CHCN)]BFなどが挙げられる。)
分子性混合金属錯体(1)は、単核錯体(ii)とMとを、塩基存在下、溶媒中で反応させることにより、得ることができる。
の使用量は、単核錯体(ii)1モルに対し、通常0.5〜1.5モル、好ましくは0.8〜1.2モルである。
塩基としては、トリエチルアミンおよびその類似アミンなどが挙げられ、その使用量は、単核錯体(ii)1モルに対し、通常2〜6モルである。
溶媒としては、アルコール系溶媒(例、メタノール、エタノール)、ニトリル系溶媒(例、アセトニトリル、プロピオニトリル)などが挙げられる。
反応温度は、室温(通常約20〜30℃)であり、反応時間は、錯体の種類、反応温度などによって異なるが、例えば、約1〜3時間が好ましい。
【0046】
単核錯体(ii)は、単核錯体(i)とAgXとを、溶媒中で反応させることにより、得ることができる。
AgXの使用量は、単核錯体(i)1モルに対し、通常0.5〜1.5モル、好ましくは0.8〜1.2モルである。
溶媒としては、アルコール系溶媒(例、メタノール、エタノール)、ハロゲン化炭化水
素系溶媒(例、ジクロロメタン、クロロホルム)などが挙げられる。
反応温度は、室温(通常約20〜30℃)であり、反応時間は、錯体の種類、反応温度などによって異なるが、例えば、約1〜3時間が好ましい。
あるいは、単核錯体(ii)は、後述する反応式3で示される方法またはこれに準じた方法等により、得ることができる。
【0047】
【化11】
【0048】
(式中、各記号は前記と同義である。)
分子性混合金属錯体(2)は、単核錯体(ii)とMとを、塩基存在下、溶媒中で反応させることにより、得ることができる。
の使用量は、単核錯体(ii)1モルに対し、通常0.5〜4モル、好ましくは0.8〜2.5モルである。
塩基としては、トリエチルアミンおよびその類似アミンなどが挙げられ、その使用量は、単核錯体(ii)1モルに対し、通常2〜6モルである。
溶媒としては、ハロゲン化炭化水素系溶媒(例、ジクロロメタン、クロロホルムなど)が挙げられる。
反応温度は、室温(通常約20〜30℃)であり、反応時間は、錯体の種類、反応温度などによって異なるが、例えば、約1〜3時間が好ましい。
単核錯体(ii)は、反応式1と同様の反応により得ることができる。
【0049】
分子性混合金属錯体(2)はまた、単核錯体(i)とMとを、塩基存在下、溶媒中で反応させることにより、得ることができる。
の使用量は、単核錯体(i)1モルに対し、通常0.5〜4モル、好ましくは0.8〜2.5モルである。
塩基としては、トリエチルアミンおよびその類似アミンなどが挙げられ、その使用量は、単核錯体(ii)1モルに対し、通常2〜6モルである。
溶媒としては、ハロゲン化炭化水素系溶媒(例、ジクロロメタン、クロロホルム)が挙げられる。
反応温度は、室温(通常約20〜30℃)であり、反応時間は、錯体の種類、反応温度などによって異なるが、例えば、約1〜3時間が好ましい。
【0050】
単核錯体(i)および(ii)は、例えば以下の反応式で示される方法またはこれに準じた方法等により得られる。
【0051】
【化12】
【0052】
(式中、各記号は前記と同義である。)
単核錯体(i)は、二核錯体(iii)とLHとを、溶媒中で反応させることにより、得ることができる。
Hの使用量は、二核錯体(iii)1モルに対し、通常2〜10モル、好ましくは4〜8モルである。
溶媒としては、ハロゲン化炭化水素系溶媒(例、ジクロロメタン、クロロホルム)、ニトリル系溶媒(例、アセトニトリル、プロピオニトリル)などが挙げられる。
反応温度は、通常約40〜100℃であり、反応時間は、錯体の種類、反応温度などによって異なるが、例えば、約1〜3時間が好ましい。
【0053】
単核錯体(ii)は、単核錯体(i)とAgXとを、溶媒中で反応させることにより、得ることができる。
AgXの使用量は、単核錯体(i)1モルに対し、通常0.5〜1.5モル、好ましくは0.8〜1.2モルである。
溶媒としては、ハロゲン化炭化水素系溶媒(例、ジクロロメタン、クロロホルム)、ニトリル系溶媒(例、アセトニトリル、プロピオニトリル)などが挙げられる。
反応温度は、室温(通常約20〜30℃)であり、反応時間は、錯体の種類、反応温度などによって異なるが、例えば、約1〜3時間が好ましい。
【0054】
単核錯体(ii)はまた、溶媒中、二核錯体(iii)とAgXとを反応させ、次いで、LHと反応させることによっても、得ることができる。
AgXの使用量は、二核錯体(iii)1モルに対し、通常1〜3モル、好ましくは1.5〜2.5モルである。
Hの使用量は、二核錯体(iii)1モルに対し、通常2〜10モル、好ましくは4〜8モルである。
溶媒としては、ニトリル系溶媒(例、アセトニトリル、プロピオニトリル)が挙げられる。
反応温度は、通常約40〜100℃であり、反応時間は、錯体の種類、反応温度などによって異なるが、例えば、約1〜3時間が好ましい。
【0055】
二核錯体(iii)は、例えば、(学術文献:N.Ghavale,A.Wadawale,S.Dey,V.K.Jain,J.Organomet.Chem.,695,1237(2010))に記載の方法またはこれに準じた方法等に従って製造することができる。
【0056】
次に、本発明の分子性混合金属錯体の用途について説明する。本発明の分子性混合金属錯体は、有機EL素子等の発光素子の発光層に含有させる発光剤として使用することができる。この他、本発明の分子性混合金属錯体は、発光塗料等の材料として使用することができる。
【0057】
次に、上述の分子性混合金属錯体を発光層に含む、本発明の発光素子について説明する。本発明の発光素子の一例の断面図を、図1に示す。図1に示す発光素子は、ガラス等の透明な基板1の上に、陽極2が形成され、この陽極2の上に、正孔注入層3、正孔輸送層4、発光層5、電子輸送層6、および電子注入層7が積層形成され、さらに電子注入層7の上に陰極8が形成された構成である。即ち、陽極2と陰極8との間に、正孔注入層3、正孔輸送層4、発光層5、電子輸送層6、電子注入層7の5層が積層形成された、5層型の発光素子となっている。
【0058】
本発明の発光素子は、上述の5層型の発光素子に限定されない。この他、5層型の発光
素子から電子輸送層を省略した4層型の発光素子であってもよい。また、5層型の発光素子から正孔注入層と電子注入層を省略した3層型の発光素子であってもよい。また、3層型の発光素子の発光層と電子輸送層を兼用して一つの層とする2層型の発光素子であってもよい。また、陽極と陰極の間に発光層のみが形成される単層型であってもよい。
【0059】
本発明の発光素子の発光層は、本発明の分子性混合金属錯体を、ゲスト発光剤として含んでいてもよく、ホスト発光剤として含んでいてもよい。本発明の分子性混合金属錯体をゲスト発光剤として使用する場合、これと組み合わせるホスト発光剤としては、例えば、トリス(8−ヒドロキシキノリナト)アルミニウムのような8−キノリノール類を配位子とする金属錯体;CBP(4,4’−N,N’−ジカルバゾールビフェニル)のようなカルバゾール誘導体;ジシアノメチレン(DCM)類;クマリン類;ペリレン類;ルブレン類などが挙げられる。
【0060】
本発明の発光素子の動作は、本質的に、電子および正孔を電極から注入する過程、電子および正孔が固体中を移動する過程、電子および正孔が再結合し、励起子を生成する過程、そして、その励起子が発光する過程からなり、これらの過程は単層型発光素子および積層型発光素子のいずれにおいても本質的に異なるところがない。ただし、単層型発光素子においては、発光剤の分子構造を変えることによってのみ上記4過程の特性を改良し得るのに対して、積層型発光素子においては、各過程において要求される機能を複数の材料に分担させると共に、それぞれの材料を独立して最適化することができることから、一般的には、単層型に構成するより積層型に構成する方が所期の性能を達成し易い。
【0061】
本発明の発光素子は、表示装置に用いることができる。そのため、本発明は、上述の発光素子を有する表示装置も提供する。本発明の表示装置は、発光素子の発光層に本発明の分子性の混合金属錯体を含有する。
【実施例】
【0062】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、上記・下記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0063】
実施例で使用する配位子の略号の意味は、以下の通りである。
ppy:2−フェニルピリジナト(1価のアニオン性キレート配位子)
dfppy:2−(2,4−ジフルオロフェニル)ピリジナト(1価のアニオン性キレート配位子)
Mepz:3,5−ジメチルピラゾラト(1価のアニオン性配位子)
3−Bupz:3−t−ブチルピラゾラト(1価のアニオン性配位子)
bzq:ベンゾ[h]キノリナト(1価のアニオン性キレート配位子)
【0064】
参考例1:中間原料である単核錯体[Pt(ppy)(MepzH)]Clの合成
[Pt(ppy)(μ−Cl)]40mg(0.052mmol)のジクロロメタン溶液(10mL)に3,5−ジメチルピラゾール(MepzH)20mg(0.208mmol)を加え、空気中、3時間加熱還流した。黄土色溶液は反応後、薄黄色溶液へと変化した。薄黄色溶液を減圧下で濃縮し、得られた薄黄土色固体をメタノールに溶解した後、その溶液を濾過した。濾液を濃縮乾固し、ジクロロメタンに可溶な成分を抽出した。このジクロロメタン溶液にヘキサンを加え、析出した薄黄土色固体を集め、減圧乾燥した。収量は47.8mg(79.7%)であった。この反応は、下記の化学反応式で示すことができる。
【0065】
【化13】
【0066】
この金属錯体は、UV光照射下、固体状態で黄緑色発光を示した。また、この金属錯体は、ジクロロメタン、クロロホルム、アセトン、アセトニトリル、メタノール、エタノールに可溶であった。
【0067】
さらに、IRスペクトルおよびH NMRスペクトルにより、生成物の特定を行った。
IRスペクトルの測定結果は、次の通りである。
IR(KBr):3067(w),3008(w),2923(s),2854(s),2762(w),2706(w),1607(s),1582(s),1480(s),1438(w),1420(s),1384(w),1375(w),1307(s),1273(w),1234(w),1187(w),1155(w),1113(w),1069(w),1053(w),1036(w),842(w),798(s),765(s),742(w)
【0068】
また、H NMRスペクトルの帰属は、下記表1の通りである。ここで、表1中の各項目は、左から、δがピークの化学シフト(ppm)を示し、Shapeがピークの形状を示し、Jが結合定数(Hz)を示し、Int.がピーク強度(相対値)を示し、Assign.がピークの帰属を示す。
【0069】
【表1】
【0070】
参考例2:中間原料である単核錯体[Pt(ppy)(3−BupzH)]BFの合成
[Pt(ppy)(μ−Cl)](40.4mg,0.05mmol)のアセトニトリル溶液(5mL)に、AgBF(20.4mg,0.11mmol)のアセトニトリル溶液(5mL)を加え、80℃で4時間攪拌した。溶液は、黄土色溶液から白色懸濁液に変化した。AgClの白色固体をろ別し、濾液をエバポレーターで乾固させることにより、黄色固体を得た。この固体をアセトニトリル10mLに溶解し、3−t−ブチルピラゾール(3−BupzH)(49.6mg,0.40mmol)を加えて40℃で2時間攪拌した。この溶液を乾固させた後、ジクロロメタンに溶解し、さらにヘキサンを加えることで、黄色固体を得た。収量は43.4mg(60.7%)であった。この反応は、下記の化学反応式で示すことができる。
【0071】
【化14】
【0072】
この金属錯体は、UV光照射下、固体状態で強い黄緑色の発光を示した。
H NMRスペクトルにより、生成物の特定を行った。H NMRスペクトルの帰属は、下記表2の通りである。表2中の各項目は、表1と同様である。
【0073】
【表2】
【0074】
参考例3:中間原料である単核錯体[Pt(dfppy)(MepzH)]Clの合成
[Pt(dfppy)(μ−Cl)](90mg,0.108mmol)のジクロロメタン溶液(10mL)にMepzH(40.5mg,0.42mmol)を加え、アルゴン雰囲気下で3時間加熱還流した。反応後、黄色溶液を減圧下で濃縮乾固し、メタノールに溶解した後、その溶液を濾過した。再度、濾液を濃縮乾固し、ジクロロメタンに可溶な成分を抽出した。このジクロロメタン溶液にヘキサンを加え、析出した黄色固体を集め、減圧乾燥した。収量は59.7mg(45.1%)であった。この反応は、下記の化学反応式で示すことができる。
【0075】
【化15】
【0076】
この金属錯体は、UV光照射下、固体状態で青緑色発光を示した。また、この金属錯体は、ジクロロメタン、クロロホルム、アセトン、アセトニトリル、メタノール、エタノールに可溶であった。
【0077】
さらに、IRスペクトルおよびH NMRスペクトルにより、生成物の特定を行った。
IRスペクトルの測定結果は、次の通りである。
IR(KBr):3121(w),3066(w),2920(w),2857(w),2758(w),2708(w),1605(s),1580(s),1484(s),1428(s),1409(s),1375(w),1300(s),1269(w),1248(w),1157(w),1112(w),1070(w),1048(w),987(s),902(w),856(w),843(s),792(s),763(w),738(w),713(w)
【0078】
H NMRスペクトルの帰属は、下記表3の通りである。表3中の各項目は、表1と同様である。
【0079】
【表3】
【0080】
参考例4:中間原料である単核錯体[Pt(bzq)(MepzH)]Clの合成
[Pt(bzq)(μ−Cl)](60mg,0.073mmol)のジクロロメタン溶液(5mL)にMepzH(28.2mg,0.29mmol)のジクロロメタン溶液(5mL)を加え、空気中、3時間加熱還流した。濃緑色懸濁液は反応後、黒褐色溶液へと変化した。黒褐色溶液を減圧下で濃縮乾固し、得られた茶色固体をメタノールに溶解した後、その溶液を濾過した。濾液を濃縮乾固し、ジクロロメタンに可溶な成分を抽出した。このジクロロメタン溶液にヘキサンを加え、析出した黄色固体を集め、減圧乾燥した。収量は64.0mg(72.9%)であった。この反応式は、以下の化学反応式で示すことができる。
【0081】
【化16】
【0082】
この金属錯体は、UV光照射下、固体状態で黄色発光を示した。また、この金属錯体は、ジクロロメタン、クロロホルム、アセトン、アセトニトリル、メタノール、エタノールに可溶であった。
【0083】
さらに、IRスペクトルおよびH NMRスペクトルにより、生成物の特定を行った。
IRスペクトルの測定結果は、次の通りである。
IR(KBr):3453(b),3018(w),2921(w),2856(w),2762(w),2710(w),1623(w),1580(s),1482(w),1452(w),1427(w),1407(w),1376(w),1331(w),1305(w),1146(w),1052(w),852(w),798(w),719(w),667(w)
【0084】
また、H NMRスペクトルの帰属は、下記表4の通りである。表4中の各項目は、表1と同様である。
【0085】
【表4】
【0086】
実施例1:分子性混合金属錯体[PtAg(ppy)(Mepz)]の合成および特性評価
(1)錯体の合成
参考例1で合成した[Pt(ppy)(MepzH)]Cl(60mg,0.104mmol)のメタノール溶液(5mL)にAgPF(26.4mg,0.104mmol)のメタノール溶液(5mL)を加え、遮光下、室温で1時間撹拌した。反応後、生成したAgClをろ別し、ろ液にAgBF(20.2mg,0.104mmol)のメタノール溶液(5mL)とEtN(67.8μl,0.416mmol)を加えて、遮光下、室温で3時間撹拌した。黄色溶液は反応後、黄色懸濁液へと変化した。生じた黄色固体を集め、メタノールで洗浄後、減圧乾燥した。収量は24.9mg(37.0%)であった。この反応は、下記の化学反応式で示すことができる。
【0087】
【化17】
【0088】
【化18】
【0089】
再結晶は、錯体のジクロロメタン溶液にヘキサンの蒸気を気相拡散することにより行った。この金属錯体は、UV光照射下、固体状態およびジクロロメタン溶液状態のいずれにおいても黄緑色に発光した。また、この金属錯体は、ジクロロメタン、クロロホルムに可溶であった。
【0090】
さらに、IRスペクトルおよびH NMRスペクトルにより、生成物の特定を行った。
IRスペクトルの測定結果は、次の通りである。
IR(KBr):3442(b),3047(w),2918(w),1607(s),1584(w),1559(w),1524(s),1482(s),1438(w),1419(s),1375(w),1349(w),1310(w),1264(w),1162(w),1066(w),1036(w),753(s),735(s),669(w),652(w),631(w)
【0091】
また、H NMRスペクトルの帰属は、下記表5の通りである。表5中の各項目は、表1と同様である。
【0092】
【表5】
【0093】
さらに、FABMS法により質量分析を行った。結果は、次の通りである。
FABMS:m/z=1294.2[M]
【0094】
(2)錯体の特性評価
得られた金属錯体[PtAg(ppy)(Mepz)]の構造について説明する。得られた金属錯体について、単結晶X線構造解析により分子構造を決定した。その結晶学的データを表6に示す。ここで、表6中の各項目は、上から、組成、式量、測定温度、測定波長(MoKα線=0.71070上)、晶系、空間群、格子定数(a,b,c,α,β,γ)、格子体積、Z値、密度、線吸収係数、独立な反射の数、最終R値、R値、GOF値である。
【0095】
【表6】
【0096】
この金属錯体の分子構造を、図2のORTEP図に示す。図2に示すように、[PtAg(ppy)(Mepz)]には二つのPt原子、二つのAg原子、Pt原子
にシクロメタル化した二つの2−フェニルピリジナト配位子(ppy)、および架橋配位子として作用している四つの3,5−ジメチルピラゾラト配位子(Mepz)が含まれている。Ag・・・Ag間の中点に、結晶学的な対称中心が存在し、結晶中の半分の原子が独立である。各Pt原子には2−フェニルピリジナト配位子がN原子とC原子でキレート配位しているが、N原子とC原子は互いにディスオーダーしている。また、残りの配位座には二つの3,5−ジメチルピラゾラト配位子がN原子で配位している。各Pt原子は{(ppy)Pt(Mepz)}ユニットを形成しており、各ユニットの二つのMepz配位子がそれぞれ異なるAg原子に配位することで、二つのPt原子と二つのAg原子を含む12員環を形成している。[PtAg(ppy)(Mepz)]において、Pt・・・Pt距離は5.9137(15)Å、Pt・・・Ag距離は3.2815(7)Åおよび3.4301(8)Åであり、Ag・・・Ag距離は3.1772(7)Åである。また、シクロメタル化した2−フェニルピリジナト配位子に関するPt−N(C)距離は1.998(4)Åおよび2.003(3)Åである。さらに、架橋した3,5−ジメチルピラゾラト配位子に関するPt−N距離は2.043(3)Åおよび2.053(3)Åであり、Ag−N距離は2.0926(19)Åおよび2.0971(18)Åである。
【0097】
次に、金属錯体[PtAg(ppy)(Mepz)]の光物理的性質について説明する。この金属錯体のジクロロメタン溶液の紫外可視吸収スペクトルおよび発光スペクトル、ならびに固体状態の発光スペクトルを測定した。
ジクロロメタン溶液の紫外可視吸収スペクトルを図3に示す。この金属錯体[PtAg(ppy)(Mepz)]は、期待通り波長430nm付近まで幅広い吸収帯を有する。次に、固体状態(励起光の波長:350nm、測定温度:298K)の発光スペクトルを図4に示し、ジクロロメタン溶液の発光スペクトルを図5に示す。
上記(1)で得られた金属錯体[PtAg(ppy)(Mepz)]は、固体状態および溶液状態のいずれにおいても、黄緑色に発光し、その発光スペクトルは振動構造を伴っていた。
また、固体状態であるこの金属錯体の発光減衰曲線の測定を行い、二成分指数関数(I(t)=Aexp(−t/τ)+Aexp(−t/τ))を用いて解析を行うことにより発光寿命τとして、τ=0.689μs(A=0.517)およびτ=3.930μs(A=0.483)の値を得た。また、溶液状態におけるこの金属錯体の発光減衰曲線の測定を行い、単一指数関数で解析を行うことにより、τ=0.433μsの値を得た。これらの発光寿命は比較的長いことから、励起三重項状態からの発光(即ち、リン光)であると考えられる。
さらに、絶対PL量子収率測定装置により求めた、固体状態および溶液状態の発光量子収率Φemは、それぞれ0.34および0.035であった。
なお、溶液状態の発光寿命および発光量子収率は、吸光度が0.1である濃度で測定した。
【0098】
次に、上記(1)で得られた金属錯体[PtAg(ppy)(Mepz)]の熱重量分析(TG)を行った。その結果を図6に示す。
上記(1)で得られた金属錯体の質量は、約115℃まで安定しており、115〜135℃にかけて最初の減少が見られ、290〜310℃にかけて2度目の減少が見られた後、310℃からゆるやかに減少した。
計算により、115〜135℃にかけての最初の減少は、結晶中に含まれる溶媒(ジクロロメタン)の減少であることが分かった。
【0099】
実施例2:分子性混合金属錯体[PtAg(ppy)(3−Bupz)]の合成および特性評価
(1)錯体の合成
参考例2で合成した[Pt(ppy)(3−Bupz)](BF)(40.3mg,0.0589mmol)のアセトニトリル溶液(5mL)に、AgBF(5.7mg,0.029mmol)のアセトニトリル溶液(5mL)およびEtN(15μL,0.11mmol)を加えて、遮光下、室温で3時間攪拌した。このとき黄色溶液は黄色懸濁液へと変化した。黄色固体を集め、アセトニトリルで洗浄後、乾燥した。収量は13.7mg(67.2%)であった。この反応は、下記の化学反応式で示すことができる。
【0100】
【化19】
【0101】
この金属錯体は、UV光照射下、固体状態で強い黄緑色発光を示した。また、この金属錯体は、ジクロロメタン、クロロホルムに易溶、アセトンに微溶、ヘキサンに難溶であった。
さらに、IRスペクトルにより、生成物の特定を行った。IRスペクトルの測定結果は、次の通りである。
IR(KBr):3445(b),2959(w),2358(w),1607(s),1584(s),1483(s),1420(s),1246(s),1069(s),733(s)
さらに、FABMS法により質量分析を行った。結果は、次の通りである。
FABMS:m/z=1407.3[M]
【0102】
(2)錯体の特性評価
上記(1)で得られた金属錯体[PtAg(ppy)(3−Bupz)]の光物理的性質について説明する。この金属錯体[PtAg(ppy)(3−Bupz)]の固体状態(励起光の波長:350nm、測定温度:298K)の発光スペクトルを図7に示す。この金属錯体は、固体状態で黄緑色に発光し、525nmに発光極大を持つブロードなスペクトルを与えた。
【0103】
実施例3:分子性混合金属錯体[PtAg(dfppy)(Mepz)]の合成および特性評価
(1)錯体の合成
参考例3で合成した[Pt(dfppy)(MepzH)]Cl(40mg,0.065mmol)のメタノール溶液(5mL)にAgPF(16.5mg,0.065mmol)のメタノール溶液(5mL)を加え、遮光下、室温で1時間撹拌した。反応後、生成したAgClをろ別し、ろ液にAgBF(12.65mg,0.065mmol)のメタノール溶液(5mL)とEtN(42.4μl,0.26mmol)を加えて、遮光下、室温で3時間撹拌した。黄色溶液は反応後、黄色懸濁溶液へと変化した。薄黄色固体を集め、メタノールで洗浄後、減圧乾燥した。収量は29.5mg(66.4%)であった。この反応は、下記の化学反応式で示すことができる。
【0104】
【化20】
【0105】
【化21】
【0106】
再結晶は、錯体のジクロロメタン溶液にヘキサンの蒸気を気相拡散することにより行った。この金属錯体は、UV光照射下、固体状態およびジクロロメタン溶液状態のいずれにおいても青緑色に発光した。また、この金属錯体は、ジクロロメタン、クロロホルム、アセトンに可溶であった。
【0107】
さらに、IRスペクトルおよびH NMRスペクトルにより、生成物の特定を行った。
IRスペクトルの測定結果は、次の通りである。
IR(KBr):3448(b),2918(w),1605(s),1574(w),1526(w),1481(w),1428(w),1407(w),1349(w),1297(w),1246(w),1165(w),1104(w),1045(w),985(w),866(w),841(w),752(w),710(s),571(w),527(w)
【0108】
また、H NMRスペクトルの帰属は、下記表7の通りである。表7中の各項目は、表1と同様である。
【0109】
【表7】
【0110】
さらに、FABMS法により質量分析を行った。結果は、次の通りである。
FABMS:m/z=1366.2[M]
【0111】
(2)錯体の特性評価
得られた金属錯体[PtAg(dfppy)(Mepz)]の構造について説明する。得られた金属錯体について、単結晶X線構造解析により分子構造を決定した。その結晶学的データを表8に示す。ここで、表8中の各項目は、表6と同様である。
【0112】
【表8】
【0113】
また、この金属錯体の分子構造を、図8のORTEP図に示す。図8に示すように、[PtAg(dfppy)(Mepz)]には二つのPt原子、二つのAg原子、Pt原子にシクロメタル化した二つの2−(2,4−ジフルオロフェニル)ピリジナト配位子(dfppy)、および架橋配位子として作用している四つの3,5−ジメチルピラゾラト配位子(Mepz)が含まれている。Ag・・・Ag間の中点に、結晶学的な対称中心が存在し、結晶中の半分の原子が独立である。各Pt原子には2−(2,4−ジフルオロフェニル)ピリジナト配位子がN原子とC原子でキレート配位しているが、N原子とC原子は互いにディスオーダーしており、これに伴って2つのF原子もそれぞれ2箇所にディスオーダーしている。また、残りの配位座には二つの3,5−ジメチルピラゾラト配位子がN原子で配位している。各Pt原子は{(dfppy)Pt(Mepz)}ユニットを形成しており、各ユニットの二つのMepz配位子がそれぞれ異なるAg原子に配位することで、二つのPt原子と二つのAg原子を含む12員環を形成している。[PtAg(dfppy)(Mepz)]において、Pt・・・Pt距離は5.9228(15)Å、Pt・・・Ag距離は3.3606(11)Åおよび3.3683(8)Åであり、Ag・・・Ag距離は3.1936(11)Åである。また、シクロメタル化した2−(2,4−ジフルオロフェニル)ピリジナト配位子に関するPt−N(C)距離は2.015(5)Åおよび2.005(4)Åである。さらに、架橋した3,5−ジメチルピラゾラト配位子に関するPt−N距離は2.051(4)Åおよび2.041(5)Åであり、Ag−N距離は2.090(4)Åおよび2.095(4)Åである。
【0114】
次に、金属錯体[PtAg(dfppy)(Mepz)]の光物理的性質について説明する。この金属錯体のジクロロメタン溶液の紫外可視吸収スペクトルおよび発光スペクトル、ならびに固体状態の発光スペクトルを測定した。
ジクロロメタン溶液の紫外可視吸収スペクトルを図9に示す。この金属錯体[PtAg(dfppy)(Mepz)]は、波長410nm付近まで幅広い吸収帯を有する。次に、固体状態(励起光の波長:350nm、測定温度:298K)の発光スペクトルを図10に示し、ジクロロメタン溶液の発光スペクトルを図11に示す。
【0115】
上記(1)で得られた金属錯体[PtAg(dfppy)(Mepz)]は、固体状態および溶液状態のいずれにおいても、青緑色に発光し、発光スペクトルは振動構造を伴っていた。
また、固体状態および溶液状態におけるこの金属錯体の発光減衰曲線の測定を行い、それぞれ二成分指数関数(I(t)=Aexp(−t/τ)+Aexp(−t/τ))を用いて解析を行うことにより発光寿命τとして、それぞれ、τ=0.689μs
(A=0.54)およびτ=4.068μs(A=0.46)、ならびにτ=0.079μs(A=0.808)およびτ=0.215μs(A=0.192)の値を得た。これらの発光寿命は比較的長いことから、励起三重項状態からの発光(即ち、リン光)であると考えられる。
さらに、絶対PL量子収率測定装置により求めた、固体状態および溶液状態の発光量子収率Φemは、それぞれ0.688および0.014であった。
なお、溶液状態の発光寿命および発光量子収率は、吸光度が0.1である濃度で測定した。
【0116】
上記(1)で得られた金属錯体[PtAg(dfppy)(Mepz)]の熱重量分析(TG)を行った。その結果を図12に示す。
上記(1)で得られた金属錯体の質量は、約65℃まで安定しており、65〜100℃にかけて最初の減少が見られ、270〜295℃にかけて2度目の減少が見られた後、295℃からゆるやかに減少した。
計算により、65〜100℃にかけての最初の減少は、結晶中に含まれる溶媒(ジクロロメタン)の減少であることが分かった。
【0117】
実施例4:分子性混合金属錯体[PtAu(ppy)(Mepz)]の合成および特性評価
(1)錯体の合成
参考例1で合成した[Pt(ppy)(MepzH)]Cl(60mg,0.1mmol)のジクロロメタン溶液(5mL)にMepzH(9.6mg,0.1mmol)のジクロロメタン溶液(5mL)と[AuCl(SC)](64.1mg,0.2mmol)のジクロロメタン溶液(5mL)を撹拌しながら加え、さらにEtN(50μL,0.3mmol)を加えて、アルゴン雰囲気下、室温で1時間撹拌した。反応後、黄色懸濁液を自然濾過し、青白色固体を取り除いた。ろ液の黄色溶液を乾固させ、得られた黄色固体を集め、メタノールで洗浄し、減圧乾燥した。収量は39.9mg(38.8%)であった。この反応は、下記の化学反応式で示すことができる。
【0118】
【化22】
【0119】
再結晶は、錯体のクロロホルム溶液にn−ペンタンの蒸気を気相拡散することにより行った。この金属錯体は、UV光照射下、固体状態およびジクロロメタン溶液状態のいずれにおいても黄緑色に発光した。また、この金属錯体は、ジクロロメタン、クロロホルムに可溶であった。
【0120】
さらに、H NMRスペクトルにより、生成物の特定を行った。
H NMRスペクトルの帰属は、下記表9の通りである。表9中の各項目は、表1と同様である。
【0121】
【表9】
【0122】
さらに、FABMS法により質量分析を行った。結果は、次の通りである。
FABMS:m/z=1028.2[M]
【0123】
次に、上記(1)で得られた金属錯体[PtAu(ppy)(Mepz)]の固体状態(励起光の波長:350nm、測定温度:298K)の発光スペクトルを測定した。得られた発光スペクトルを図13に示す。
金属錯体[PtAu(ppy)(Mepz)]は、固体状態で黄緑色に発光し、発光スペクトルは振動構造を伴っていた。発光極大波長は、489nmおよび524nmであった。
【0124】
実施例5:分子性混合金属錯体[PtAu(dfppy)(Mepz)]の合成および特性評価
(1)錯体の合成
参考例3で合成した[Pt(dfppy)(MepzH)]Cl(40mg,0.065mmol)のメタノール溶液(5mL)にAgPF(16.5mg,0.065mmol)のメタノール溶液(5mL)を加え、遮光下、室温で1時間撹拌した。生成したAgClをろ別した後、ろ液を乾固し、黄色固体を集めた。この黄色固体をジクロロメタン(5mL)に溶解し、MepzH(6.3mg,0.065mmol)のジクロロメタン溶液(5mL)と[AuCl(SC)](41.8mg,0.13mmol)のジクロロメタン溶液(5mL)、およびEtN(31.8μL,0.20mmol)を加えて、アルゴン雰囲気下、室温で1時間撹拌した。反応後、黄色懸濁液を濾過し、青白色固体をろ別した。黄色のろ液を濃縮乾固することにより得られた黄色固体を集め、メタノールで洗浄し、減圧乾燥した。収量は22.6mg(32.7%)であった。この反応は、下記の化学反応式で示すことができる。
【0125】
【化23】
【0126】
【化24】
【0127】
再結晶は、錯体のジクロロメタン溶液にヘキサンの蒸気を気相拡散することにより行った。この金属錯体は、UV光照射下、固体状態およびジクロロメタン溶液状態のいずれにおいても青緑色に発光した。
【0128】
さらに、H NMRスペクトルにより、生成物の特定を行った。
H NMRスペクトルの帰属は、下記表10の通りである。表10中の各項目は、表1と同様である。
【0129】
【表10】
【0130】
さらに、FABMS法により質量分析を行った。結果は、次の通りである。
FABMS:m/z=1064.2[M]
【0131】
(2)錯体の特性評価
得られた金属錯体[PtAu(dfppy)(Mepz)]の構造について説明する。得られた金属錯体について、単結晶X線構造解析により分子構造を決定した。その結晶学的データを表11に示す。ここで、表11中の各項目は、表6と同様である。
【0132】
【表11】
【0133】
また、この金属錯体の分子構造を、図14のORTEP図に示す。図14に示すように、[PtAu(dfppy)(Mepz)]には一つのPt原子、二つのAu原子、Pt原子にシクロメタル化した一つの2−(2,4−ジフルオロフェニル)ピリジナト配位子(dfppy)、および架橋配位子として作用している三つの3,5−ジメチルピラゾラト配位子(Mepz)が含まれている。Pt原子には2−(2,4−ジフルオロフェニル)ピリジナト配位子がN原子とC原子でキレート配位しており、残りの配位座には二つの3,5−ジメチルピラゾラト配位子がN原子で配位している。[PtAu(dfppy)(Mepz)]において、Pt・・・Au距離は3.4023(7)Åお
よび3.3977(9)Åであり、Au・・・Au距離は3.0065(8)Åである。また、シクロメタル化した2−(2,4−ジフルオロフェニル)ピリジナト配位子に関するPt−N距離は2.019(9)Å、Pt−C距離は1.980(9)Åである。さらに、架橋した3,5−ジメチルピラゾラト配位子に関するPt−N距離は2.035(11)Åおよび2.092(9)Åであり、Au−N距離は1.976(9)Å〜2.012(13)Åの範囲にある。
【0134】
次に、上記(1)で得られた金属錯体[PtAu(dfppy)(Mepz)]の固体状態(励起光の波長:350nm、測定温度:298K)の発光スペクトルを測定した。得られた発光スペクトルを図15に示す。
金属錯体[PtAu(dfppy)(Mepz)]は、固体状態で青緑色に発光し、発光スペクトルは振動構造を伴っていた。発光極大波長は、499nmであった。
【0135】
実施例6:分子性混合金属錯体[PtAg(bzq)(Mepz)]の合成および特性評価
(1)錯体の合成
参考例4で合成した[Pt(bzq)(MepzH)]Cl(60.0mg,0.10mmol)のメタノール溶液(5mL)にAgPF(25.2mg,0.10mmol)のメタノール溶液(5mL)を加え、遮光下、室温で1時間撹拌した。反応後、生成したAgClを濾別し、濾液にAgBF(19.4mg,0.1mmol)のメタノール溶液(5mL)とEtN(60.0μL,0.43mmol)を加えて、遮光下、室温で3時間撹拌した。黄色溶液は反応後、黄色懸濁液へと変化した。生じた黄色固体を集め、MeOHで洗浄後、減圧乾燥した。収量は40.2mg(59.9%)であった。この反応は、下記の化学反応式で示すことができる。
【0136】
【化25】
【0137】
【化26】
【0138】
再結晶は、錯体のクロロホルム溶液にヘキサンの蒸気を気相拡散することにより行った。この金属錯体は、UV光照射下、固体状態において黄色に発光し、溶液状態において黄緑色に発光した。また、この金属錯体は、ジクロロメタン、クロロホルムに可溶であった。
【0139】
さらに、IRスペクトルおよびH NMRスペクトルにより、生成物の特定を行った。
IRスペクトルの測定結果は、次の通りである。
IR(KBr):3454(b),3038(w),2914(w),1621(w),1569(w),1524(s),1449(s),1415(s),1376(w),
1329(s),1140(w),1041(w),830(s),820(w),760(s),715(s),668(w),655(w)
【0140】
また、H NMRスペクトルの帰属は、下記表12の通りである。表12中の各項目は、表1と同様である。
【0141】
【表12】
【0142】
さらに、FABMS法により質量分析を行った。結果は、次の通りである。
FABMS:m/z=1343.2[M]
【0143】
(2)錯体の特性評価
得られた金属錯体[PtAg(bzq)(Mepz)]の構造について説明する。得られた金属錯体について、単結晶X線構造解析により分子構造を決定した。その結晶学的データを表13に示す。ここで、表13中の各項目は、表6と同様である。
【0144】
【表13】
【0145】
また、この金属錯体の分子構造を、図16のORTEP図に示す。図16に示すように、[PtAg(bzq)(Mepz)]には二つのPt原子、二つのAg原子、Pt原子にシクロメタル化した、二つのベンゾ[h]キノリナト配位子(bzq)、および架橋配位子として作用している四つの3,5−ジメチルピラゾラト配位子(Mepz)が含まれている。各Pt原子にはベンゾ[h]キノリナト配位子がN原子とC原子でキレート配位しているが、N原子とC原子は互いにディスオーダーしている。また、残りの配位座には二つの3,5−ジメチルピラゾラト配位子がN原子で配位している。各Pt原子は{(bzq)Pt(Mepz)}ユニットを形成しており、各ユニットの二つのMepz配位子がそれぞれ異なるAg原子に配位することで、二つのPt原子と二つのAg原子を含む12員環を形成している。
[PtAg(bzq)(Mepz)]において、Pt・・・Pt距離は5.9174(6)Åであり、Pt・・・Ag距離は3.3546(6)Å〜3.6814(7)Åの範囲にあり、Ag・・・Ag距離は3.1023(6)Åである。また、シクロメタル化したベンゾ[h]キノリナト配位子に関するPt−N/C距離は1.987(5)Å〜2.038(5)Åの範囲にある。さらに、架橋した3,5−ジメチルピラゾラト配位子に関するPt−N距離は2.002(5)Å〜2.097(5)Åの範囲にあり、Ag−N距離は2.072(5)Å〜2.097(5)Åの範囲にある。
【0146】
次に、金属錯体[PtAg(bzq)(Mepz)]の光物理的性質について説明する。この金属錯体のジクロロメタン溶液の紫外可視吸収スペクトルおよび発光スペクトル、ならびに固体状態の発光スペクトルを測定した。
ジクロロメタン溶液の紫外可視吸収スペクトルを図17に示す。この金属錯体[PtAg(bzq)(Mepz)]は、波長450nm付近まで幅広い吸収帯を有する。次に、固体状態(励起光の波長:350nm、測定温度:298K)の発光スペクトルを図18に示し、ジクロロメタン溶液の発光スペクトルを図19に示す。
上記(1)で得られた金属錯体[PtAg(bzq)(Mepz)]は、固
体状態において黄色に発光し、溶液状態において、黄緑色に発光した。発光スペクトルは、固体状態において振動構造を伴ったブロードなスペクトルを与え、溶液状態においては、固体状態よりもシャープなスペクトルを与えた。
また、固体状態および溶液状態におけるこの金属錯体の発光減衰曲線の測定を行い、それぞれ二成分指数関数(I(t)=Aexp(−t/τ)+Aexp(−t/τ))を用いて解析を行うことにより発光寿命τとして、それぞれ、τ=0.304μs(A=0.789)およびτ=2.379μs(A=0.211)、ならびにτ=0.413μs(A=0.68)およびτ=1.431μs(A=0.32)の値を得た。これらの発光寿命は比較的長いことから、励起三重項状態からの発光(即ち、リン光)であると考えられる。
さらに、絶対PL量子収率測定装置により求めた、固体状態および溶液状態の発光量子収率Φemは、それぞれ0.039および0.013であった。
なお、溶液状態の発光寿命および発光量子収率は、吸光度が0.1である濃度で測定した。
【0147】
実施例7:分子性混合金属錯体[PtAu(bzq)(Mepz)]の合成および特性評価
(1)錯体の合成
参考例4で合成した[Pt(bzq)(MepzH)]Cl(80.0mg,0.133mmol)のメタノール溶液(5mL)にAgPF(33.6mg,0.133mmol)のメタノール溶液(5mL)を加え、遮光下、室温で1時間撹拌した。生成したAgClを濾別した後、濾液を乾固し、黄色固体を集めた。この黄色固体をジクロロメタン(5mL)に溶解し、MepzH(12.8mg,0.133mmol)のジクロロメタン溶液(5mL)と[AuCl(SC)](85.3mg,0.266mmol)のジクロロメタン溶液(5mL)、およびEtN(55.5μL,0.399mmol)を加えて、アルゴン雰囲気下、室温で1時間撹拌した。反応後、黄色懸濁液を濾過し、青白色固体を濾別した。黄色の濾液を濃縮乾固することにより得られた黄色固体を集め、メタノールで洗浄し、減圧乾燥した。収量は、53.2mg(38.0%)であった。この反応式は、下記の化学反応式で示すことができる。
【0148】
【化27】
【0149】
【化28】
【0150】
再結晶は、錯体のアセトン溶液にメタノールの蒸気を気相拡散することにより行った。この金属錯体は、UV光照射下、固体状態およびジクロロメタン溶液状態のいずれにおいても黄緑色に発光した。また、この金属錯体は、ジクロロメタン、クロロホルムに可溶であった。
【0151】
さらに、IRスペクトルおよびH NMRスペクトルにより、生成物の特定を行った

IRスペクトルの測定結果は、次の通りである。
IR(KBr):3430(b),2918(w),1620(w),1569(w),1533(s),1449(s),1424(s),1378(w),1329(s),1155(w),1051(w),832(s),820(w),760(s),760(s),715(s),651(w),594(w)
【0152】
また、H NMRスペクトルの帰属は、下記表14の通りである。表14中の各項目は、表1と同様である。
【0153】
【表14】
【0154】
さらに、FABMS法により質量分析を行った。結果は、次の通りである。
FABMS:m/z=1052.2[M]
【0155】
(2)錯体の特性評価
得られた金属錯体[PtAu(bzq)(Mepz)]の構造について説明する。得られた金属錯体について、単結晶X線構造解析により分子構造を決定した。その結晶学的データを表15に示す。ここで、表15中の各項目は、表6と同様である。
【0156】
【表15】
【0157】
また、この金属錯体の分子構造を、図20のORTEP図に示す。図20に示すように、[PtAu(bzq)(Mepz)]には一つのPt原子、二つのAu原子、Pt原子にシクロメタル化した、一つのベンゾ[h]キノリナト配位子(bzq)、および架橋配位子として作用している三つの3,5−ジメチルピラゾラト配位子(Mepz)が含まれている。Pt原子にはベンゾ[h]キノリナト配位子がN原子とC原子でキレート配位しているが、N原子とC原子は互いにディスオーダーしている。また、残りの配位座には二つの3,5−ジメチルピラゾラト配位子がN原子で配位している。[PtAu(dfppy)(Mepz)]において、Pt・・・Au距離は3.3712(6)Åおよび3.4630(5)Åであり、Au・・・Au距離は2.9917(5)Åである。また、シクロメタル化したベンゾ[h]キノリナト配位子に関するPt−N/C距離は2.005(4)Åおよび2.014(4)Åである。さらに、架橋した3,5−ジメチルピラゾラト配位子に関するPt−N距離は2.042(4)Åおよび2.098(4)Åであり、Au−N距離は1.985(4)Å〜2.004(4)Åの範囲にある。
【0158】
次に、金属錯体[PtAu(bzq)(Mepz)]の光物理的性質について説明する。この金属錯体のジクロロメタン溶液の紫外可視吸収スペクトルおよび発光スペクトル、ならびに固体状態の発光スペクトルを測定した。
ジクロロメタン溶液の紫外可視吸収スペクトルを図21に示す。この金属錯体[PtAu(bzq)(Mepz)]は、波長450nm付近まで幅広い吸収帯を有する。次に、固体状態(励起光の波長:350nm、測定温度:298K)の発光スペクトルを図22に示し、ジクロロメタン溶液の発光スペクトルを図23に示す。
上記(1)で得られた金属錯体[PtAu(bzq)(Mepz)]は、固体状態および溶液状態のいずれにおいても、黄緑色に発光し、発光スペクトルは両者とも振動構造を伴っていた。
固体状態であるこの金属錯体の発光減衰曲線の測定を行い、二成分指数関数(I(t)=Aexp(−t/τ)+Aexp(−t/τ))を用いて解析を行うことによ
り発光寿命τとして、τ=13.552μs(A=0.33)およびτ=53.243μs(A=0.67)の値を得た。また、溶液状態におけるこの金属錯体の発光減衰曲線の測定を行い、単一指数関数で解析を行うことにより、τ=1.539μsの値を得た。これらの発光寿命は比較的長いことから、励起三重項状態からの発光(即ち、リン光)であると考えられる。
さらに、絶対PL量子収率測定装置により求めた、固体状態および溶液状態の発光量子収率Φemは、それぞれ0.524および0.015であった。
なお、溶液状態の発光寿命および発光量子収率は、吸光度が0.1である濃度で測定した。
【産業上の利用可能性】
【0159】
本発明の分子性混合金属錯体は、可視部に光吸収帯を有し、低エネルギーで励起させることができ、また、有機EL素子を作製する際に昇華法およびスピンコート法の両方を採用することが可能であり、発光素子および表示装置の原料として有用である。
【符号の説明】
【0160】
1 基板
2 陽極
3 正孔注入層
4 正孔輸送層
5 発光層
6 電子輸送層
7 電子注入層
8 陰極
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23