【実施例】
【0062】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、上記・下記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0063】
実施例で使用する配位子の略号の意味は、以下の通りである。
ppy:2−フェニルピリジナト(1価のアニオン性キレート配位子)
dfppy:2−(2,4−ジフルオロフェニル)ピリジナト(1価のアニオン性キレート配位子)
Me
2pz:3,5−ジメチルピラゾラト(1価のアニオン性配位子)
3−
tBupz:3−t−ブチルピラゾラト(1価のアニオン性配位子)
bzq:ベンゾ[h]キノリナト(1価のアニオン性キレート配位子)
【0064】
参考例1:中間原料である単核錯体[Pt(ppy)(Me
2pzH)
2]Clの合成
[Pt(ppy)(μ−Cl)]
240mg(0.052mmol)のジクロロメタン溶液(10mL)に3,5−ジメチルピラゾール(Me
2pzH)20mg(0.208mmol)を加え、空気中、3時間加熱還流した。黄土色溶液は反応後、薄黄色溶液へと変化した。薄黄色溶液を減圧下で濃縮し、得られた薄黄土色固体をメタノールに溶解した後、その溶液を濾過した。濾液を濃縮乾固し、ジクロロメタンに可溶な成分を抽出した。このジクロロメタン溶液にヘキサンを加え、析出した薄黄土色固体を集め、減圧乾燥した。収量は47.8mg(79.7%)であった。この反応は、下記の化学反応式で示すことができる。
【0065】
【化13】
【0066】
この金属錯体は、UV光照射下、固体状態で黄緑色発光を示した。また、この金属錯体は、ジクロロメタン、クロロホルム、アセトン、アセトニトリル、メタノール、エタノールに可溶であった。
【0067】
さらに、IRスペクトルおよび
1H NMRスペクトルにより、生成物の特定を行った。
IRスペクトルの測定結果は、次の通りである。
IR(KBr):3067(w),3008(w),2923(s),2854(s),2762(w),2706(w),1607(s),1582(s),1480(s),1438(w),1420(s),1384(w),1375(w),1307(s),1273(w),1234(w),1187(w),1155(w),1113(w),1069(w),1053(w),1036(w),842(w),798(s),765(s),742(w)
【0068】
また、
1H NMRスペクトルの帰属は、下記表1の通りである。ここで、表1中の各項目は、左から、δがピークの化学シフト(ppm)を示し、Shapeがピークの形状を示し、Jが結合定数(Hz)を示し、Int.がピーク強度(相対値)を示し、Assign.がピークの帰属を示す。
【0069】
【表1】
【0070】
参考例2:中間原料である単核錯体[Pt(ppy)(3−
tBupzH)
2]BF
4の合成
[Pt(ppy)(μ−Cl)]
2(40.4mg,0.05mmol)のアセトニトリル溶液(5mL)に、AgBF
4(20.4mg,0.11mmol)のアセトニトリル溶液(5mL)を加え、80℃で4時間攪拌した。溶液は、黄土色溶液から白色懸濁液に変化した。AgClの白色固体をろ別し、濾液をエバポレーターで乾固させることにより、黄色固体を得た。この固体をアセトニトリル10mLに溶解し、3−t−ブチルピラゾール(3−
tBupzH)(49.6mg,0.40mmol)を加えて40℃で2時間攪拌した。この溶液を乾固させた後、ジクロロメタンに溶解し、さらにヘキサンを加えることで、黄色固体を得た。収量は43.4mg(60.7%)であった。この反応は、下記の化学反応式で示すことができる。
【0071】
【化14】
【0072】
この金属錯体は、UV光照射下、固体状態で強い黄緑色の発光を示した。
1H NMRスペクトルにより、生成物の特定を行った。
1H NMRスペクトルの帰属は、下記表2の通りである。表2中の各項目は、表1と同様である。
【0073】
【表2】
【0074】
参考例3:中間原料である単核錯体[Pt(dfppy)(Me
2pzH)
2]Clの合成
[Pt(dfppy)(μ−Cl)]
2(90mg,0.108mmol)のジクロロメタン溶液(10mL)にMe
2pzH(40.5mg,0.42mmol)を加え、アルゴン雰囲気下で3時間加熱還流した。反応後、黄色溶液を減圧下で濃縮乾固し、メタノールに溶解した後、その溶液を濾過した。再度、濾液を濃縮乾固し、ジクロロメタンに可溶な成分を抽出した。このジクロロメタン溶液にヘキサンを加え、析出した黄色固体を集め、減圧乾燥した。収量は59.7mg(45.1%)であった。この反応は、下記の化学反応式で示すことができる。
【0075】
【化15】
【0076】
この金属錯体は、UV光照射下、固体状態で青緑色発光を示した。また、この金属錯体は、ジクロロメタン、クロロホルム、アセトン、アセトニトリル、メタノール、エタノールに可溶であった。
【0077】
さらに、IRスペクトルおよび
1H NMRスペクトルにより、生成物の特定を行った。
IRスペクトルの測定結果は、次の通りである。
IR(KBr):3121(w),3066(w),2920(w),2857(w),2758(w),2708(w),1605(s),1580(s),1484(s),1428(s),1409(s),1375(w),1300(s),1269(w),1248(w),1157(w),1112(w),1070(w),1048(w),987(s),902(w),856(w),843(s),792(s),763(w),738(w),713(w)
【0078】
1H NMRスペクトルの帰属は、下記表3の通りである。表3中の各項目は、表1と同様である。
【0079】
【表3】
【0080】
参考例4:中間原料である単核錯体[Pt(bzq)(Me
2pzH)
2]Clの合成
[Pt(bzq)(μ−Cl)]
2(60mg,0.073mmol)のジクロロメタン溶液(5mL)にMe
2pzH(28.2mg,0.29mmol)のジクロロメタン溶液(5mL)を加え、空気中、3時間加熱還流した。濃緑色懸濁液は反応後、黒褐色溶液へと変化した。黒褐色溶液を減圧下で濃縮乾固し、得られた茶色固体をメタノールに溶解した後、その溶液を濾過した。濾液を濃縮乾固し、ジクロロメタンに可溶な成分を抽出した。このジクロロメタン溶液にヘキサンを加え、析出した黄色固体を集め、減圧乾燥した。収量は64.0mg(72.9%)であった。この反応式は、以下の化学反応式で示すことができる。
【0081】
【化16】
【0082】
この金属錯体は、UV光照射下、固体状態で黄色発光を示した。また、この金属錯体は、ジクロロメタン、クロロホルム、アセトン、アセトニトリル、メタノール、エタノールに可溶であった。
【0083】
さらに、IRスペクトルおよび
1H NMRスペクトルにより、生成物の特定を行った。
IRスペクトルの測定結果は、次の通りである。
IR(KBr):3453(b),3018(w),2921(w),2856(w),2762(w),2710(w),1623(w),1580(s),1482(w),1452(w),1427(w),1407(w),1376(w),1331(w),1305(w),1146(w),1052(w),852(w),798(w),719(w),667(w)
【0084】
また、
1H NMRスペクトルの帰属は、下記表4の通りである。表4中の各項目は、表1と同様である。
【0085】
【表4】
【0086】
実施例1:分子性混合金属錯体[Pt
2Ag
2(ppy)
2(Me
2pz)
4]の合成および特性評価
(1)錯体の合成
参考例1で合成した[Pt(ppy)(Me
2pzH)
2]Cl(60mg,0.104mmol)のメタノール溶液(5mL)にAgPF
6(26.4mg,0.104mmol)のメタノール溶液(5mL)を加え、遮光下、室温で1時間撹拌した。反応後、生成したAgClをろ別し、ろ液にAgBF
4(20.2mg,0.104mmol)のメタノール溶液(5mL)とEt
3N(67.8μl,0.416mmol)を加えて、遮光下、室温で3時間撹拌した。黄色溶液は反応後、黄色懸濁液へと変化した。生じた黄色固体を集め、メタノールで洗浄後、減圧乾燥した。収量は24.9mg(37.0%)であった。この反応は、下記の化学反応式で示すことができる。
【0087】
【化17】
【0088】
【化18】
【0089】
再結晶は、錯体のジクロロメタン溶液にヘキサンの蒸気を気相拡散することにより行った。この金属錯体は、UV光照射下、固体状態およびジクロロメタン溶液状態のいずれにおいても黄緑色に発光した。また、この金属錯体は、ジクロロメタン、クロロホルムに可溶であった。
【0090】
さらに、IRスペクトルおよび
1H NMRスペクトルにより、生成物の特定を行った。
IRスペクトルの測定結果は、次の通りである。
IR(KBr):3442(b),3047(w),2918(w),1607(s),1584(w),1559(w),1524(s),1482(s),1438(w),1419(s),1375(w),1349(w),1310(w),1264(w),1162(w),1066(w),1036(w),753(s),735(s),669(w),652(w),631(w)
【0091】
また、
1H NMRスペクトルの帰属は、下記表5の通りである。表5中の各項目は、表1と同様である。
【0092】
【表5】
【0093】
さらに、FABMS法により質量分析を行った。結果は、次の通りである。
FABMS:m/z=1294.2[M]
+
【0094】
(2)錯体の特性評価
得られた金属錯体[Pt
2Ag
2(ppy)
2(Me
2pz)
4]の構造について説明する。得られた金属錯体について、単結晶X線構造解析により分子構造を決定した。その結晶学的データを表6に示す。ここで、表6中の各項目は、上から、組成、式量、測定温度、測定波長(MoKα線=0.71070上)、晶系、空間群、格子定数(a,b,c,α,β,γ)、格子体積、Z値、密度、線吸収係数、独立な反射の数、最終R値、R
1値、GOF値である。
【0095】
【表6】
【0096】
この金属錯体の分子構造を、
図2のORTEP図に示す。
図2に示すように、[Pt
2Ag
2(ppy)
2(Me
2pz)
4]には二つのPt原子、二つのAg原子、Pt原子
にシクロメタル化した二つの2−フェニルピリジナト配位子(ppy)、および架橋配位子として作用している四つの3,5−ジメチルピラゾラト配位子(Me
2pz)が含まれている。Ag・・・Ag間の中点に、結晶学的な対称中心が存在し、結晶中の半分の原子が独立である。各Pt原子には2−フェニルピリジナト配位子がN原子とC原子でキレート配位しているが、N原子とC原子は互いにディスオーダーしている。また、残りの配位座には二つの3,5−ジメチルピラゾラト配位子がN原子で配位している。各Pt原子は{(ppy)Pt(Me
2pz)
2}ユニットを形成しており、各ユニットの二つのMe
2pz配位子がそれぞれ異なるAg原子に配位することで、二つのPt原子と二つのAg原子を含む12員環を形成している。[Pt
2Ag
2(ppy)
2(Me
2pz)
4]において、Pt・・・Pt距離は5.9137(15)Å、Pt・・・Ag距離は3.2815(7)Åおよび3.4301(8)Åであり、Ag・・・Ag距離は3.1772(7)Åである。また、シクロメタル化した2−フェニルピリジナト配位子に関するPt−N(C)距離は1.998(4)Åおよび2.003(3)Åである。さらに、架橋した3,5−ジメチルピラゾラト配位子に関するPt−N距離は2.043(3)Åおよび2.053(3)Åであり、Ag−N距離は2.0926(19)Åおよび2.0971(18)Åである。
【0097】
次に、金属錯体[Pt
2Ag
2(ppy)
2(Me
2pz)
4]の光物理的性質について説明する。この金属錯体のジクロロメタン溶液の紫外可視吸収スペクトルおよび発光スペクトル、ならびに固体状態の発光スペクトルを測定した。
ジクロロメタン溶液の紫外可視吸収スペクトルを
図3に示す。この金属錯体[Pt
2Ag
2(ppy)
2(Me
2pz)
4]は、期待通り波長430nm付近まで幅広い吸収帯を有する。次に、固体状態(励起光の波長:350nm、測定温度:298K)の発光スペクトルを
図4に示し、ジクロロメタン溶液の発光スペクトルを
図5に示す。
上記(1)で得られた金属錯体[Pt
2Ag
2(ppy)
2(Me
2pz)
4]は、固体状態および溶液状態のいずれにおいても、黄緑色に発光し、その発光スペクトルは振動構造を伴っていた。
また、固体状態であるこの金属錯体の発光減衰曲線の測定を行い、二成分指数関数(I(t)=A
1exp(−t/τ
1)+A
2exp(−t/τ
2))を用いて解析を行うことにより発光寿命τとして、τ
1=0.689μs(A
1=0.517)およびτ
2=3.930μs(A
2=0.483)の値を得た。また、溶液状態におけるこの金属錯体の発光減衰曲線の測定を行い、単一指数関数で解析を行うことにより、τ=0.433μsの値を得た。これらの発光寿命は比較的長いことから、励起三重項状態からの発光(即ち、リン光)であると考えられる。
さらに、絶対PL量子収率測定装置により求めた、固体状態および溶液状態の発光量子収率Φemは、それぞれ0.34および0.035であった。
なお、溶液状態の発光寿命および発光量子収率は、吸光度が0.1である濃度で測定した。
【0098】
次に、上記(1)で得られた金属錯体[Pt
2Ag
2(ppy)
2(Me
2pz)
4]の熱重量分析(TG)を行った。その結果を
図6に示す。
上記(1)で得られた金属錯体の質量は、約115℃まで安定しており、115〜135℃にかけて最初の減少が見られ、290〜310℃にかけて2度目の減少が見られた後、310℃からゆるやかに減少した。
計算により、115〜135℃にかけての最初の減少は、結晶中に含まれる溶媒(ジクロロメタン)の減少であることが分かった。
【0099】
実施例2:分子性混合金属錯体[Pt
2Ag
2(ppy)
2(3−
tBupz)
4]の合成および特性評価
(1)錯体の合成
参考例2で合成した[Pt(ppy)(3−
tBupz)
2](BF
4)(40.3mg,0.0589mmol)のアセトニトリル溶液(5mL)に、AgBF
4(5.7mg,0.029mmol)のアセトニトリル溶液(5mL)およびEt
3N(15μL,0.11mmol)を加えて、遮光下、室温で3時間攪拌した。このとき黄色溶液は黄色懸濁液へと変化した。黄色固体を集め、アセトニトリルで洗浄後、乾燥した。収量は13.7mg(67.2%)であった。この反応は、下記の化学反応式で示すことができる。
【0100】
【化19】
【0101】
この金属錯体は、UV光照射下、固体状態で強い黄緑色発光を示した。また、この金属錯体は、ジクロロメタン、クロロホルムに易溶、アセトンに微溶、ヘキサンに難溶であった。
さらに、IRスペクトルにより、生成物の特定を行った。IRスペクトルの測定結果は、次の通りである。
IR(KBr):3445(b),2959(w),2358(w),1607(s),1584(s),1483(s),1420(s),1246(s),1069(s),733(s)
さらに、FABMS法により質量分析を行った。結果は、次の通りである。
FABMS:m/z=1407.3[M]
+
【0102】
(2)錯体の特性評価
上記(1)で得られた金属錯体[Pt
2Ag
2(ppy)
2(3−
tBupz)
4]の光物理的性質について説明する。この金属錯体[Pt
2Ag
2(ppy)
2(3−
tBupz)
4]の固体状態(励起光の波長:350nm、測定温度:298K)の発光スペクトルを
図7に示す。この金属錯体は、固体状態で黄緑色に発光し、525nmに発光極大を持つブロードなスペクトルを与えた。
【0103】
実施例3:分子性混合金属錯体[Pt
2Ag
2(dfppy)
2(Me
2pz)
4]の合成および特性評価
(1)錯体の合成
参考例3で合成した[Pt(dfppy)(Me
2pzH)
2]Cl(40mg,0.065mmol)のメタノール溶液(5mL)にAgPF
6(16.5mg,0.065mmol)のメタノール溶液(5mL)を加え、遮光下、室温で1時間撹拌した。反応後、生成したAgClをろ別し、ろ液にAgBF
4(12.65mg,0.065mmol)のメタノール溶液(5mL)とEt
3N(42.4μl,0.26mmol)を加えて、遮光下、室温で3時間撹拌した。黄色溶液は反応後、黄色懸濁溶液へと変化した。薄黄色固体を集め、メタノールで洗浄後、減圧乾燥した。収量は29.5mg(66.4%)であった。この反応は、下記の化学反応式で示すことができる。
【0104】
【化20】
【0105】
【化21】
【0106】
再結晶は、錯体のジクロロメタン溶液にヘキサンの蒸気を気相拡散することにより行った。この金属錯体は、UV光照射下、固体状態およびジクロロメタン溶液状態のいずれにおいても青緑色に発光した。また、この金属錯体は、ジクロロメタン、クロロホルム、アセトンに可溶であった。
【0107】
さらに、IRスペクトルおよび
1H NMRスペクトルにより、生成物の特定を行った。
IRスペクトルの測定結果は、次の通りである。
IR(KBr):3448(b),2918(w),1605(s),1574(w),1526(w),1481(w),1428(w),1407(w),1349(w),1297(w),1246(w),1165(w),1104(w),1045(w),985(w),866(w),841(w),752(w),710(s),571(w),527(w)
【0108】
また、
1H NMRスペクトルの帰属は、下記表7の通りである。表7中の各項目は、表1と同様である。
【0109】
【表7】
【0110】
さらに、FABMS法により質量分析を行った。結果は、次の通りである。
FABMS:m/z=1366.2[M]
+
【0111】
(2)錯体の特性評価
得られた金属錯体[Pt
2Ag
2(dfppy)
2(Me
2pz)
4]の構造について説明する。得られた金属錯体について、単結晶X線構造解析により分子構造を決定した。その結晶学的データを表8に示す。ここで、表8中の各項目は、表6と同様である。
【0112】
【表8】
【0113】
また、この金属錯体の分子構造を、
図8のORTEP図に示す。
図8に示すように、[Pt
2Ag
2(dfppy)
2(Me
2pz)
4]には二つのPt原子、二つのAg原子、Pt原子にシクロメタル化した二つの2−(2,4−ジフルオロフェニル)ピリジナト配位子(dfppy)、および架橋配位子として作用している四つの3,5−ジメチルピラゾラト配位子(Me
2pz)が含まれている。Ag・・・Ag間の中点に、結晶学的な対称中心が存在し、結晶中の半分の原子が独立である。各Pt原子には2−(2,4−ジフルオロフェニル)ピリジナト配位子がN原子とC原子でキレート配位しているが、N原子とC原子は互いにディスオーダーしており、これに伴って2つのF原子もそれぞれ2箇所にディスオーダーしている。また、残りの配位座には二つの3,5−ジメチルピラゾラト配位子がN原子で配位している。各Pt原子は{(dfppy)Pt(Me
2pz)
2}ユニットを形成しており、各ユニットの二つのMe
2pz配位子がそれぞれ異なるAg原子に配位することで、二つのPt原子と二つのAg原子を含む12員環を形成している。[Pt
2Ag
2(dfppy)
2(Me
2pz)
4]において、Pt・・・Pt距離は5.9228(15)Å、Pt・・・Ag距離は3.3606(11)Åおよび3.3683(8)Åであり、Ag・・・Ag距離は3.1936(11)Åである。また、シクロメタル化した2−(2,4−ジフルオロフェニル)ピリジナト配位子に関するPt−N(C)距離は2.015(5)Åおよび2.005(4)Åである。さらに、架橋した3,5−ジメチルピラゾラト配位子に関するPt−N距離は2.051(4)Åおよび2.041(5)Åであり、Ag−N距離は2.090(4)Åおよび2.095(4)Åである。
【0114】
次に、金属錯体[Pt
2Ag
2(dfppy)
2(Me
2pz)
4]の光物理的性質について説明する。この金属錯体のジクロロメタン溶液の紫外可視吸収スペクトルおよび発光スペクトル、ならびに固体状態の発光スペクトルを測定した。
ジクロロメタン溶液の紫外可視吸収スペクトルを
図9に示す。この金属錯体[Pt
2Ag
2(dfppy)
2(Me
2pz)
4]は、波長410nm付近まで幅広い吸収帯を有する。次に、固体状態(励起光の波長:350nm、測定温度:298K)の発光スペクトルを
図10に示し、ジクロロメタン溶液の発光スペクトルを
図11に示す。
【0115】
上記(1)で得られた金属錯体[Pt
2Ag
2(dfppy)
2(Me
2pz)
4]は、固体状態および溶液状態のいずれにおいても、青緑色に発光し、発光スペクトルは振動構造を伴っていた。
また、固体状態および溶液状態におけるこの金属錯体の発光減衰曲線の測定を行い、それぞれ二成分指数関数(I(t)=A
1exp(−t/τ
1)+A
2exp(−t/τ
2))を用いて解析を行うことにより発光寿命τとして、それぞれ、τ
1=0.689μs
(A
1=0.54)およびτ
2=4.068μs(A
2=0.46)、ならびにτ
1=0.079μs(A
1=0.808)およびτ
2=0.215μs(A
2=0.192)の値を得た。これらの発光寿命は比較的長いことから、励起三重項状態からの発光(即ち、リン光)であると考えられる。
さらに、絶対PL量子収率測定装置により求めた、固体状態および溶液状態の発光量子収率Φemは、それぞれ0.688および0.014であった。
なお、溶液状態の発光寿命および発光量子収率は、吸光度が0.1である濃度で測定した。
【0116】
上記(1)で得られた金属錯体[Pt
2Ag
2(dfppy)
2(Me
2pz)
4]の熱重量分析(TG)を行った。その結果を
図12に示す。
上記(1)で得られた金属錯体の質量は、約65℃まで安定しており、65〜100℃にかけて最初の減少が見られ、270〜295℃にかけて2度目の減少が見られた後、295℃からゆるやかに減少した。
計算により、65〜100℃にかけての最初の減少は、結晶中に含まれる溶媒(ジクロロメタン)の減少であることが分かった。
【0117】
実施例4:分子性混合金属錯体[PtAu
2(ppy)(Me
2pz)
3]の合成および特性評価
(1)錯体の合成
参考例1で合成した[Pt(ppy)(Me
2pzH)
2]Cl(60mg,0.1mmol)のジクロロメタン溶液(5mL)にMe
2pzH(9.6mg,0.1mmol)のジクロロメタン溶液(5mL)と[AuCl(SC
4H
8)](64.1mg,0.2mmol)のジクロロメタン溶液(5mL)を撹拌しながら加え、さらにEt
3N(50μL,0.3mmol)を加えて、アルゴン雰囲気下、室温で1時間撹拌した。反応後、黄色懸濁液を自然濾過し、青白色固体を取り除いた。ろ液の黄色溶液を乾固させ、得られた黄色固体を集め、メタノールで洗浄し、減圧乾燥した。収量は39.9mg(38.8%)であった。この反応は、下記の化学反応式で示すことができる。
【0118】
【化22】
【0119】
再結晶は、錯体のクロロホルム溶液にn−ペンタンの蒸気を気相拡散することにより行った。この金属錯体は、UV光照射下、固体状態およびジクロロメタン溶液状態のいずれにおいても黄緑色に発光した。また、この金属錯体は、ジクロロメタン、クロロホルムに可溶であった。
【0120】
さらに、
1H NMRスペクトルにより、生成物の特定を行った。
1H NMRスペクトルの帰属は、下記表9の通りである。表9中の各項目は、表1と同様である。
【0121】
【表9】
【0122】
さらに、FABMS法により質量分析を行った。結果は、次の通りである。
FABMS:m/z=1028.2[M]
+
【0123】
次に、上記(1)で得られた金属錯体[PtAu
2(ppy)(Me
2pz)
3]の固体状態(励起光の波長:350nm、測定温度:298K)の発光スペクトルを測定した。得られた発光スペクトルを
図13に示す。
金属錯体[PtAu
2(ppy)(Me
2pz)
3]は、固体状態で黄緑色に発光し、発光スペクトルは振動構造を伴っていた。発光極大波長は、489nmおよび524nmであった。
【0124】
実施例5:分子性混合金属錯体[PtAu
2(dfppy)(Me
2pz)
3]の合成および特性評価
(1)錯体の合成
参考例3で合成した[Pt(dfppy)(Me
2pzH)
2]Cl(40mg,0.065mmol)のメタノール溶液(5mL)にAgPF
6(16.5mg,0.065mmol)のメタノール溶液(5mL)を加え、遮光下、室温で1時間撹拌した。生成したAgClをろ別した後、ろ液を乾固し、黄色固体を集めた。この黄色固体をジクロロメタン(5mL)に溶解し、Me
2pzH(6.3mg,0.065mmol)のジクロロメタン溶液(5mL)と[AuCl(SC
4H
8)](41.8mg,0.13mmol)のジクロロメタン溶液(5mL)、およびEt
3N(31.8μL,0.20mmol)を加えて、アルゴン雰囲気下、室温で1時間撹拌した。反応後、黄色懸濁液を濾過し、青白色固体をろ別した。黄色のろ液を濃縮乾固することにより得られた黄色固体を集め、メタノールで洗浄し、減圧乾燥した。収量は22.6mg(32.7%)であった。この反応は、下記の化学反応式で示すことができる。
【0125】
【化23】
【0126】
【化24】
【0127】
再結晶は、錯体のジクロロメタン溶液にヘキサンの蒸気を気相拡散することにより行った。この金属錯体は、UV光照射下、固体状態およびジクロロメタン溶液状態のいずれにおいても青緑色に発光した。
【0128】
さらに、
1H NMRスペクトルにより、生成物の特定を行った。
1H NMRスペクトルの帰属は、下記表10の通りである。表10中の各項目は、表1と同様である。
【0129】
【表10】
【0130】
さらに、FABMS法により質量分析を行った。結果は、次の通りである。
FABMS:m/z=1064.2[M]
+
【0131】
(2)錯体の特性評価
得られた金属錯体[PtAu
2(dfppy)(Me
2pz)
3]の構造について説明する。得られた金属錯体について、単結晶X線構造解析により分子構造を決定した。その結晶学的データを表11に示す。ここで、表11中の各項目は、表6と同様である。
【0132】
【表11】
【0133】
また、この金属錯体の分子構造を、
図14のORTEP図に示す。
図14に示すように、[PtAu
2(dfppy)(Me
2pz)
3]には一つのPt原子、二つのAu原子、Pt原子にシクロメタル化した一つの2−(2,4−ジフルオロフェニル)ピリジナト配位子(dfppy)、および架橋配位子として作用している三つの3,5−ジメチルピラゾラト配位子(Me
2pz)が含まれている。Pt原子には2−(2,4−ジフルオロフェニル)ピリジナト配位子がN原子とC原子でキレート配位しており、残りの配位座には二つの3,5−ジメチルピラゾラト配位子がN原子で配位している。[PtAu
2(dfppy)(Me
2pz)
3]において、Pt・・・Au距離は3.4023(7)Åお
よび3.3977(9)Åであり、Au・・・Au距離は3.0065(8)Åである。また、シクロメタル化した2−(2,4−ジフルオロフェニル)ピリジナト配位子に関するPt−N距離は2.019(9)Å、Pt−C距離は1.980(9)Åである。さらに、架橋した3,5−ジメチルピラゾラト配位子に関するPt−N距離は2.035(11)Åおよび2.092(9)Åであり、Au−N距離は1.976(9)Å〜2.012(13)Åの範囲にある。
【0134】
次に、上記(1)で得られた金属錯体[PtAu
2(dfppy)(Me
2pz)
3]の固体状態(励起光の波長:350nm、測定温度:298K)の発光スペクトルを測定した。得られた発光スペクトルを
図15に示す。
金属錯体[PtAu
2(dfppy)(Me
2pz)
3]は、固体状態で青緑色に発光し、発光スペクトルは振動構造を伴っていた。発光極大波長は、499nmであった。
【0135】
実施例6:分子性混合金属錯体[Pt
2Ag
2(bzq)
2(Me
2pz)
4]の合成および特性評価
(1)錯体の合成
参考例4で合成した[Pt(bzq)(Me
2pzH)
2]Cl(60.0mg,0.10mmol)のメタノール溶液(5mL)にAgPF
6(25.2mg,0.10mmol)のメタノール溶液(5mL)を加え、遮光下、室温で1時間撹拌した。反応後、生成したAgClを濾別し、濾液にAgBF
4(19.4mg,0.1mmol)のメタノール溶液(5mL)とEt
3N(60.0μL,0.43mmol)を加えて、遮光下、室温で3時間撹拌した。黄色溶液は反応後、黄色懸濁液へと変化した。生じた黄色固体を集め、MeOHで洗浄後、減圧乾燥した。収量は40.2mg(59.9%)であった。この反応は、下記の化学反応式で示すことができる。
【0136】
【化25】
【0137】
【化26】
【0138】
再結晶は、錯体のクロロホルム溶液にヘキサンの蒸気を気相拡散することにより行った。この金属錯体は、UV光照射下、固体状態において黄色に発光し、溶液状態において黄緑色に発光した。また、この金属錯体は、ジクロロメタン、クロロホルムに可溶であった。
【0139】
さらに、IRスペクトルおよび
1H NMRスペクトルにより、生成物の特定を行った。
IRスペクトルの測定結果は、次の通りである。
IR(KBr):3454(b),3038(w),2914(w),1621(w),1569(w),1524(s),1449(s),1415(s),1376(w),
1329(s),1140(w),1041(w),830(s),820(w),760(s),715(s),668(w),655(w)
【0140】
また、
1H NMRスペクトルの帰属は、下記表12の通りである。表12中の各項目は、表1と同様である。
【0141】
【表12】
【0142】
さらに、FABMS法により質量分析を行った。結果は、次の通りである。
FABMS:m/z=1343.2[M]
+
【0143】
(2)錯体の特性評価
得られた金属錯体[Pt
2Ag
2(bzq)
2(Me
2pz)
4]の構造について説明する。得られた金属錯体について、単結晶X線構造解析により分子構造を決定した。その結晶学的データを表13に示す。ここで、表13中の各項目は、表6と同様である。
【0144】
【表13】
【0145】
また、この金属錯体の分子構造を、
図16のORTEP図に示す。
図16に示すように、[Pt
2Ag
2(bzq)
2(Me
2pz)
4]には二つのPt原子、二つのAg原子、Pt原子にシクロメタル化した、二つのベンゾ[h]キノリナト配位子(bzq)、および架橋配位子として作用している四つの3,5−ジメチルピラゾラト配位子(Me
2pz)が含まれている。各Pt原子にはベンゾ[h]キノリナト配位子がN原子とC原子でキレート配位しているが、N原子とC原子は互いにディスオーダーしている。また、残りの配位座には二つの3,5−ジメチルピラゾラト配位子がN原子で配位している。各Pt原子は{(bzq)Pt(Me
2pz)
2}ユニットを形成しており、各ユニットの二つのMe
2pz配位子がそれぞれ異なるAg原子に配位することで、二つのPt原子と二つのAg原子を含む12員環を形成している。
[Pt
2Ag
2(bzq)
2(Me
2pz)
4]において、Pt・・・Pt距離は5.9174(6)Åであり、Pt・・・Ag距離は3.3546(6)Å〜3.6814(7)Åの範囲にあり、Ag・・・Ag距離は3.1023(6)Åである。また、シクロメタル化したベンゾ[h]キノリナト配位子に関するPt−N/C距離は1.987(5)Å〜2.038(5)Åの範囲にある。さらに、架橋した3,5−ジメチルピラゾラト配位子に関するPt−N距離は2.002(5)Å〜2.097(5)Åの範囲にあり、Ag−N距離は2.072(5)Å〜2.097(5)Åの範囲にある。
【0146】
次に、金属錯体[Pt
2Ag
2(bzq)
2(Me
2pz)
4]の光物理的性質について説明する。この金属錯体のジクロロメタン溶液の紫外可視吸収スペクトルおよび発光スペクトル、ならびに固体状態の発光スペクトルを測定した。
ジクロロメタン溶液の紫外可視吸収スペクトルを
図17に示す。この金属錯体[Pt
2Ag
2(bzq)
2(Me
2pz)
4]は、波長450nm付近まで幅広い吸収帯を有する。次に、固体状態(励起光の波長:350nm、測定温度:298K)の発光スペクトルを
図18に示し、ジクロロメタン溶液の発光スペクトルを
図19に示す。
上記(1)で得られた金属錯体[Pt
2Ag
2(bzq)
2(Me
2pz)
4]は、固
体状態において黄色に発光し、溶液状態において、黄緑色に発光した。発光スペクトルは、固体状態において振動構造を伴ったブロードなスペクトルを与え、溶液状態においては、固体状態よりもシャープなスペクトルを与えた。
また、固体状態および溶液状態におけるこの金属錯体の発光減衰曲線の測定を行い、それぞれ二成分指数関数(I(t)=A
1exp(−t/τ
1)+A
2exp(−t/τ
2))を用いて解析を行うことにより発光寿命τとして、それぞれ、τ
1=0.304μs(A
1=0.789)およびτ
2=2.379μs(A
2=0.211)、ならびにτ
1=0.413μs(A
1=0.68)およびτ
2=1.431μs(A
2=0.32)の値を得た。これらの発光寿命は比較的長いことから、励起三重項状態からの発光(即ち、リン光)であると考えられる。
さらに、絶対PL量子収率測定装置により求めた、固体状態および溶液状態の発光量子収率Φemは、それぞれ0.039および0.013であった。
なお、溶液状態の発光寿命および発光量子収率は、吸光度が0.1である濃度で測定した。
【0147】
実施例7:分子性混合金属錯体[PtAu
2(bzq)(Me
2pz)
3]の合成および特性評価
(1)錯体の合成
参考例4で合成した[Pt(bzq)(Me
2pzH)
2]Cl(80.0mg,0.133mmol)のメタノール溶液(5mL)にAgPF
6(33.6mg,0.133mmol)のメタノール溶液(5mL)を加え、遮光下、室温で1時間撹拌した。生成したAgClを濾別した後、濾液を乾固し、黄色固体を集めた。この黄色固体をジクロロメタン(5mL)に溶解し、Me
2pzH(12.8mg,0.133mmol)のジクロロメタン溶液(5mL)と[AuCl(SC
4H
8)](85.3mg,0.266mmol)のジクロロメタン溶液(5mL)、およびEt
3N(55.5μL,0.399mmol)を加えて、アルゴン雰囲気下、室温で1時間撹拌した。反応後、黄色懸濁液を濾過し、青白色固体を濾別した。黄色の濾液を濃縮乾固することにより得られた黄色固体を集め、メタノールで洗浄し、減圧乾燥した。収量は、53.2mg(38.0%)であった。この反応式は、下記の化学反応式で示すことができる。
【0148】
【化27】
【0149】
【化28】
【0150】
再結晶は、錯体のアセトン溶液にメタノールの蒸気を気相拡散することにより行った。この金属錯体は、UV光照射下、固体状態およびジクロロメタン溶液状態のいずれにおいても黄緑色に発光した。また、この金属錯体は、ジクロロメタン、クロロホルムに可溶であった。
【0151】
さらに、IRスペクトルおよび
1H NMRスペクトルにより、生成物の特定を行った
。
IRスペクトルの測定結果は、次の通りである。
IR(KBr):3430(b),2918(w),1620(w),1569(w),1533(s),1449(s),1424(s),1378(w),1329(s),1155(w),1051(w),832(s),820(w),760(s),760(s),715(s),651(w),594(w)
【0152】
また、
1H NMRスペクトルの帰属は、下記表14の通りである。表14中の各項目は、表1と同様である。
【0153】
【表14】
【0154】
さらに、FABMS法により質量分析を行った。結果は、次の通りである。
FABMS:m/z=1052.2[M]
+
【0155】
(2)錯体の特性評価
得られた金属錯体[PtAu
2(bzq)(Me
2pz)
3]の構造について説明する。得られた金属錯体について、単結晶X線構造解析により分子構造を決定した。その結晶学的データを表15に示す。ここで、表15中の各項目は、表6と同様である。
【0156】
【表15】
【0157】
また、この金属錯体の分子構造を、
図20のORTEP図に示す。
図20に示すように、[PtAu
2(bzq)(Me
2pz)
3]には一つのPt原子、二つのAu原子、Pt原子にシクロメタル化した、一つのベンゾ[h]キノリナト配位子(bzq)、および架橋配位子として作用している三つの3,5−ジメチルピラゾラト配位子(Me
2pz)が含まれている。Pt原子にはベンゾ[h]キノリナト配位子がN原子とC原子でキレート配位しているが、N原子とC原子は互いにディスオーダーしている。また、残りの配位座には二つの3,5−ジメチルピラゾラト配位子がN原子で配位している。[PtAu
2(dfppy)(Me
2pz)
3]において、Pt・・・Au距離は3.3712(6)Åおよび3.4630(5)Åであり、Au・・・Au距離は2.9917(5)Åである。また、シクロメタル化したベンゾ[h]キノリナト配位子に関するPt−N/C距離は2.005(4)Åおよび2.014(4)Åである。さらに、架橋した3,5−ジメチルピラゾラト配位子に関するPt−N距離は2.042(4)Åおよび2.098(4)Åであり、Au−N距離は1.985(4)Å〜2.004(4)Åの範囲にある。
【0158】
次に、金属錯体[PtAu
2(bzq)(Me
2pz)
3]の光物理的性質について説明する。この金属錯体のジクロロメタン溶液の紫外可視吸収スペクトルおよび発光スペクトル、ならびに固体状態の発光スペクトルを測定した。
ジクロロメタン溶液の紫外可視吸収スペクトルを
図21に示す。この金属錯体[PtAu
2(bzq)(Me
2pz)
3]は、波長450nm付近まで幅広い吸収帯を有する。次に、固体状態(励起光の波長:350nm、測定温度:298K)の発光スペクトルを
図22に示し、ジクロロメタン溶液の発光スペクトルを
図23に示す。
上記(1)で得られた金属錯体[PtAu
2(bzq)(Me
2pz)
3]は、固体状態および溶液状態のいずれにおいても、黄緑色に発光し、発光スペクトルは両者とも振動構造を伴っていた。
固体状態であるこの金属錯体の発光減衰曲線の測定を行い、二成分指数関数(I(t)=A
1exp(−t/τ
1)+A
2exp(−t/τ
2))を用いて解析を行うことによ
り発光寿命τとして、τ
1=13.552μs(A
1=0.33)およびτ
2=53.243μs(A
2=0.67)の値を得た。また、溶液状態におけるこの金属錯体の発光減衰曲線の測定を行い、単一指数関数で解析を行うことにより、τ=1.539μsの値を得た。これらの発光寿命は比較的長いことから、励起三重項状態からの発光(即ち、リン光)であると考えられる。
さらに、絶対PL量子収率測定装置により求めた、固体状態および溶液状態の発光量子収率Φemは、それぞれ0.524および0.015であった。
なお、溶液状態の発光寿命および発光量子収率は、吸光度が0.1である濃度で測定した。