特開2015-96832(P2015-96832A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本電産エレシス株式会社の特許一覧 ▶ 国立大学法人静岡大学の特許一覧

特開2015-96832物体方位検出装置、レーダ装置、物体方位検出方法および物体方位検出プログラム
<>
  • 特開2015096832-物体方位検出装置、レーダ装置、物体方位検出方法および物体方位検出プログラム 図000015
  • 特開2015096832-物体方位検出装置、レーダ装置、物体方位検出方法および物体方位検出プログラム 図000016
  • 特開2015096832-物体方位検出装置、レーダ装置、物体方位検出方法および物体方位検出プログラム 図000017
  • 特開2015096832-物体方位検出装置、レーダ装置、物体方位検出方法および物体方位検出プログラム 図000018
  • 特開2015096832-物体方位検出装置、レーダ装置、物体方位検出方法および物体方位検出プログラム 図000019
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-96832(P2015-96832A)
(43)【公開日】2015年5月21日
(54)【発明の名称】物体方位検出装置、レーダ装置、物体方位検出方法および物体方位検出プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/41 20060101AFI20150424BHJP
   G01S 7/02 20060101ALI20150424BHJP
   G01S 13/42 20060101ALI20150424BHJP
   G01S 13/93 20060101ALI20150424BHJP
   G01S 7/34 20060101ALI20150424BHJP
   G01S 3/46 20060101ALI20150424BHJP
【FI】
   G01S7/41
   G01S7/02 F
   G01S13/42
   G01S13/93 Z
   G01S7/34
   G01S3/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2013-236924(P2013-236924)
(22)【出願日】2013年11月15日
(71)【出願人】
【識別番号】300052246
【氏名又は名称】日本電産エレシス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(72)【発明者】
【氏名】加茂 宏幸
(72)【発明者】
【氏名】桑原 義彦
【テーマコード(参考)】
5J070
【Fターム(参考)】
5J070AB17
5J070AB24
5J070AC02
5J070AC06
5J070AC13
5J070AD10
5J070AF03
5J070AH04
5J070AH31
5J070AH39
5J070AJ13
5J070AK22
(57)【要約】
【課題】独立マルチビームアンテナ方式において、物体の方位を効果的に検出する物体方位検出装置などを提供する。
【解決手段】物体方位検出装置(例えば、レーダ装置101に備えられる物体方位検出の機能を有する装置)は、独立したマルチビームを形成するアンテナ部(例えば、誘電体レンズ1と複数のビーム素子2−1〜2−Mから構成されるアンテナ部)と、物体により反射されて前記アンテナ部により受信されたマルチビームの信号に基づいて、最尤推定法により、前記物体の方位を検出する方位検出部(例えば、信号処理部8に備えられる機能部)と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
独立したマルチビームを形成するアンテナ部と、
物体により反射されて前記アンテナ部により受信されたマルチビームの信号に基づいて、最尤推定法により、前記物体の方位を検出する方位検出部と、
を備える物体方位検出装置。
【請求項2】
前記方位検出部は、前記マルチビームの信号に基づく複素振幅データを使用して、前記最尤推定法の演算を実行することにより、前記物体の方位を検出する、
請求項1に記載の物体方位検出装置。
【請求項3】
前記アンテナ部は、レンズまたは反射鏡と、複数のアンテナ素子を用いて構成される、
請求項1または請求項2に記載の物体方位検出装置。
【請求項4】
前記アンテナ部は、1個以上のアンテナ素子を備え、一部または全部のアンテナ素子を機械的に切り替えて、前記アンテナ素子の数より多い複数のビームを形成する、
請求項1または請求項2に記載の物体方位検出装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の物体方位検出装置を備える、
レーダ装置。
【請求項6】
方位検出部が、物体により反射されて独立したマルチビームを形成するアンテナ部により受信されたマルチビームの信号に基づいて、最尤推定法により、前記物体の方位を検出する、
物体方位検出方法。
【請求項7】
方位検出部が、物体により反射されて独立したマルチビームを形成するアンテナ部により受信されたマルチビームの信号に基づいて、最尤推定法により、前記物体の方位を検出するステップ、
をコンピュータに実行させるための物体方位検出プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体方位検出装置、レーダ装置、物体方位検出方法および物体方位検出プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
<用語の説明>
本願では、独立した複数のビームを形成するアンテナの方式を「独立マルチビームアンテナ方式」と呼ぶ。「独立マルチビームアンテナ方式」としては、例えば、以下で説明されるように、レンズ又は反射鏡と複数のアンテナ素子を備えるアンテナの方式や、1個のアンテナ素子(または、2個以上のアンテナ素子でもよい。)を機械的に切り替えて複数のアンテナ素子(実際のアンテナ素子の数より多いアンテナ素子)と同様な信号処理を実現するアンテナの方式がある。複数のアンテナ素子のそれぞれは、例えば、給電系(給電系自体は共通でもよい。)から給電される信号が互いに独立し、このため、複数のビームは互いに相関性が低く(相関性がゼロでなくてもよい。)、アンテナ素子間の位相には全く連続性がない(アレーアンテナ方式であれば、如何なる配列でも連続性が存在する。)。また、複数のビームは、例えば、互いに異なる方向に指向され、それぞれのビームの到達領域の相関性が低い。本願で「独立マルチビームアンテナ方式」と呼ぶ方式は、一般的には「マルチビームアンテナ方式」と呼ばれるが、他の方式(例えば、受信素子が別々のアレーアンテナ方式で、信号処理によるマルチビームを生成する方式)に関してもマルチビームなどという語句が記載される場合があるため、本願では、アレーアンテナ方式とは異なる方式であることを明確にするために「独立マルチビームアンテナ方式」と呼ぶ。
【0003】
<背景技術>
近年、市販の自動車における衝突の軽減および防止のために、電波レーダが急速に普及している。このような用途における電波レーダによる物体の方位(角度)計測方法は、概ね、2種類のアンテナ方式のものに大別される。
【0004】
一つ目のアンテナ方式として、同一の指向性となる複数のアンテナ素子から構成されるアレーアンテナを適用したシステムのアレーアンテナ方式がある。アレーアンテナ方式では、隣接するアンテナ素子間における位相差の情報が得られることから、フーリエ変換に基づく基本的な到来波推定法であるビームフォーミング法やアダプティブアレーのヌルステアリングの概念を用いたCAPON法を適用することができる。また、入力信号の相関行列の固有値の展開に基づいて信号部分空間と雑音部分空間に分離してその特徴を利用する部分空間法であるMUSIC法やESPRIT法についても、アレーアンテナ方式においては、複数のアンテナ素子により同時に複数の受信信号を取得することができて、すべてのアンテナ素子の相関関係が強いことから、適用条件が揃っているといえる。また、アレーアンテナ方式では、ビームフォーミング法から得られたアレーアンテナの指向性の情報に基づいて、演算負荷が軽いモノパルス方式などを運用することもできる。
以上のように、アレーアンテナ方式は、多くの到来波推定法を適用することが可能であることから、様々な条件下においても高分解能の解析を実現することができ、非常に利便性が高い方式であるといえる。
【0005】
二つ目のアンテナ方式として、独立したマルチビームを形成するアンテナを適用したシステムの独立マルチビームアンテナ方式がある。このようなアンテナとして、例えば、光学的に複数の方向へ同時にまたは高速に切り替えてビームを指向することができる、レンズまたは反射鏡によって収束されるマルチビームを形成するマルチビームアンテナがある。独立マルチビームアンテナ方式では、概ね与えられたすべてのアンテナの開口面積を用いて各ビームを形成することから、アレーアンテナ方式と比べると、高い利得が得られる。さらに、独立マルチビームアンテナ方式では、あらかじめビームが絞られていることから、マルチパスの影響を抑制する効果を期待することができる。一方、独立マルチビームアンテナ方式では、各アンテナ素子から同時にまたはそれと等価な時間間隔で得られる位相の情報に連続性がないため、一般的な到来波推定法を適用することができなかった。このため、独立マルチビームアンテナ方式では、振幅モノパルス方式や重心計算レベル応答方式といった限られた到来波推定法のみが適用されていた。
なお、独立マルチビームアンテナ方式におけるアンテナ素子(例えば、焦点素子として使用される1次放射器)としては、一例として、複数のアンテナ素子を備えて同時に使用する構成を用いることができ、他の一例として、1個のアンテナ素子を移動させて時分割で切り替えて使用する構成を用いることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−54344号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】山田寛喜、「高分解能到来波推定法の基礎と実際」、電子情報通信学会 アンテナ・伝播研究専門委員会、2006年10月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年における自動車安全技術では、歩行者を保護する機能の重要性が飛躍的に高まっている。これを実現するための電波レーダの性能として、次のものが必要とされる。すなわち、電波レーダの性能として、車両よりもはるかに狭い反射断面積および低い反射係数を有する歩行者を確実に検出することができるシステム利得が必要とされる。また、電波レーダの性能として、歩行者の位置や数を正確に計測する精度が必要とされる。また、電波レーダの性能として、迅速な制御レスポンスを実現するために、信号処理負荷の低減や、信号サイクルの高速化が必要とされる。
【0009】
ところで、アレーアンテナ方式では、アンテナ素子の間隔やアレーウエイトの変更によるアンテナ特性の調整や、到来波推定法の選択において、利便性が高いが、近年における歩行者検知等の高度な機能の追加によって必要とされる電波レーダの性能に関し、次のような問題があった。
すなわち、アレーアンテナ方式では、システム利得の向上という点で、一般的な車載用の電波レーダで与えられているアンテナの開口面積では十分なシステム利得が得られないという問題があった。また、アレーアンテナ方式では、マルチパスという点で、必要な視野角に相当する指向性を有することから、マルチパスの影響を受けやすいという問題があった。また、アレーアンテナ方式では、配列間隔の条件や角度スキャニング範囲によって、視野角内にグレーティングローブが発生してしまい、誤測定を誘発させる主な原因となってしまう。また、アレーアンテナ方式における合成ビームを走査するタイプの到来波推定法では、信号処理の負荷という点で、前処理として、複数のアンテナ素子における複素振幅データを得る場合には、各アンテナ素子の信号を用いて定められた処理を実行しなければならないという問題があった。
以上のように、アレーアンテナ方式では、実際の車両への搭載を考慮すると、多くの問題が存在する。
【0010】
一方、独立マルチビームアンテナ方式では、概ねアレーアンテナ方式で想定される問題は発生しないが、連続的な位相の情報が得られないため、適用される到来波推定法が振幅モノパルス方式などに限定されていた。このため、独立マルチビームアンテナ方式では、同一のビーム内に距離計測分解能以下の間隔で存在する複数のターゲット(反射物体)を分離や検出することができないといった問題があった。
【0011】
なお、特許文献1では、誘電体レンズを用いた独立マルチビームアンテナ方式において、マルチビームの受信信号に対して空間方向(開口空間方向)のフーリエ変換を実行することで、仮想のアレーアンテナの信号を生成し、部分空間法(MUSIC法やESPRIT法)の適用を可能にすることで、上記の問題の解決を図っている(特許文献1参照。)。
しかしながら、特許文献1の技術を実際の電波レーダの使用条件で考慮すると、次のような問題が想定される。すなわち、通常、独立マルチビームアンテナ方式のアンテナでは、所望の方向(方位)に鋭い指向性を有するために、各ビームから得られる受信信号の相関関係が極めて低いが、部分空間法においては、アンテナ素子間に強い相関関係(各アンテナ素子が同一の指向性を有する状態)を必要とするため、良好な結果が得られないという問題があった。また、マルチビームの受信信号から仮想のアレーアンテナの信号へ変換するために、各焦点で得られた信号を空間方向へフーリエ変換する必要があるという問題があった。また、仮想のアレーアンテナにおけるアレー配列(複数のアンテナ素子の配列)が不均等な間隔になってしまい、適用することが可能な到来波推定法が例えば任意のアレーに適用できるMUSIC法やCAPON法などに限られるという問題があった。また、空間平均処理などのような高精度化・演算軽減法などの適用が制限されるという問題があった。
【0012】
本発明は、このような事情を考慮してなされたもので、独立マルチビームアンテナ方式において、物体の方位を効果的に検出することができる物体方位検出装置、レーダ装置、物体方位検出方法および物体方位検出プログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(1)上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る物体方位検出装置は、独立したマルチビームを形成するアンテナ部と、物体により反射されて前記アンテナ部により受信されたマルチビームの信号に基づいて、最尤推定法により、前記物体の方位を検出する方位検出部と、を備える。
【0014】
(2)本発明の一態様は、上記した(1)に記載の物体方位検出装置において、前記方位検出部は、前記マルチビームの信号に基づく複素振幅データを使用して、前記最尤推定法の演算を実行することにより、前記物体の方位を検出する、構成としてもよい。
【0015】
(3)本発明の一態様は、上記した(1)または上記した(2)に記載の物体方位検出装置において、前記アンテナ部は、レンズまたは反射鏡と、複数のアンテナ素子を用いて構成される、ようにしてもよい。
【0016】
(4)本発明の一態様は、上記した(1)または上記した(2)に記載の物体方位検出装置において、前記アンテナ部は、1個以上のアンテナ素子を備え、一部または全部のアンテナ素子を機械的に切り替えて、前記アンテナ素子の数より多い複数のビームを形成する、構成としてもよい。
【0017】
(5)上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るレーダ装置は、上記した(1)から上記した(4)のいずれか1つに記載の物体方位検出装置を備える。
【0018】
(6)上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る物体方位検出方法は、方位検出部が、物体により反射されて独立したマルチビームを形成するアンテナ部により受信されたマルチビームの信号に基づいて、最尤推定法により、前記物体の方位を検出する。
【0019】
(7)上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る物体方位検出プログラムは、方位検出部が、物体により反射されて独立したマルチビームを形成するアンテナ部により受信されたマルチビームの信号に基づいて、最尤推定法により、前記物体の方位を検出するステップ、をコンピュータに実行させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、独立マルチビームアンテナ方式において、物体の方位を効果的に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態に係る独立マルチビームアンテナ方式のレーダ装置の構成を示すブロック図である。
図2】本発明の一実施形態に係るFMCW(Frequency Modulated Continuous Wave)方式の信号処理部の第1の構成例を示すブロック図である。
図3】本発明の一実施形態に係るFMCW方式の信号処理部の第2の構成例を示すブロック図である。
図4】本発明の一実施形態に係る独立マルチビームの指向性の一例を示すグラフの図である。
図5】本発明の一実施形態に係る方位検出部において行われる処理の手順の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照し、本発明の実施形態について説明する。
[本実施形態に係る独立マルチビームアンテナ方式のレーダ装置]
<本実施形態に係るレーダ装置の全体的な構成>
図1は、本発明の一実施形態に係る独立マルチビームアンテナ方式のレーダ装置101の構成を示すブロック図である。
本実施形態では、独立マルチビームアンテナ方式のレーダ装置として、車両に搭載される車載用であり、かつ、誘電体レンズアンテナを用いたミリ波の電波レーダ装置を示す。
【0023】
本実施形態に係るレーダ装置101は、誘電体レンズ1と、複数の1次フィードであるM個のビーム素子(アンテナ素子)2−1〜2−Mと、M個の方向性結合器3−1〜3−Mと、M個のミキサ4−1〜4−Mと、M個のフィルタ5−1〜5−Mと、スイッチ(SW)6と、ADC(A/D(Analog to Digital)コンバータ)7と、信号処理部8と、制御部11と、電圧制御発振器(VCO:Voltage Controlled Oscillator)12と、分配器13を備える。ここで、Mは、ビーム素子2−1〜2−Mの素子数である。
【0024】
また、本実施形態に係るレーダ装置101は、M個の方向性結合器3−1〜3−MとM個のミキサ4−1〜4−Mとの間にM個のアンプ(増幅器)21−1〜21−Mを備えており、SW6とADC7との間にアンプ22を備えており、制御部11とVCO12との間にアンプ23を備えており、分配器13とM個のミキサ4−1〜4−Mとの間にM個のアンプ24−1〜24−Mを備えており、分配器13とM個の方向性結合器3−1〜3−Mとの間にM個のアンプ25−1〜25−Mを備える。
【0025】
ここで、本実施形態では、誘電体レンズ1と複数のビーム素子2−1〜2−Mによってアンテナ部が構成されている。
また、誘電体レンズ1は、例えば、遺伝的アルゴリズムにより設計され、複数の方向へ同時に鋭いビームを指向することができる複数の焦点を有する。これにより、各ビームを独立して配置することが可能であり、また、鋭い指向性であるほど、各焦点間の受信信号の相関性が弱まる。
また、本実施形態では、ビーム素子2−1〜2−Mごとに接続された方向性結合器3−1〜3−Mにより送信と受信を同時に行うことができる。
【0026】
<第1の構成例に係る信号処理部>
図2は、本発明の一実施形態に係るFMCW方式の信号処理部8の第1の構成例を示すブロック図である。
第1の構成例に係る信号処理部8は、メモリ51と、周波数分解処理部52と、ピーク検知部53と、ピーク組合せ部54と、距離/速度検出部55と、ペア確定部56と、方位検出部57と、ターゲット確定部58を備える。
【0027】
<本実施形態に係るレーダ装置における動作例>
本実施形態に係るレーダ装置101において行われる動作の例を示す。
制御部11は、FMCW方式を採用しており、アンプ23を介して、VCO12に信号を出力する。
VCO12は、制御部11から入力された信号に基づいて、周波数変調を施したCW信号(FMCW信号)を分配器13に出力する。
分配器13は、VCO12から入力されたFMCW信号を2つに分配して、一方の分配信号を各アンプ25−1〜25−Mを介して各方向性結合器3−1〜3−Mに出力し、他方の分配信号を各アンプ24−1〜24−Mを介して各ミキサ4−1〜4−Mに出力する。
【0028】
分配器13から各方向性結合器3−1〜3−Mに送られたFMCW信号は、当該各方向性結合器3−1〜3−Mを介して各ビーム素子2−1〜2−Mに送られ、当該各ビーム素子2−1〜2−Mから誘電体レンズ1を介して送信(無線で送信)される。
この送信波は、ターゲット(反射物体)によって反射された場合に、反射波として戻ってくる。この場合、この反射波は、誘電体レンズ1を介して、各ビーム素子2−1〜2−Mにより受信され、各方向性結合器3−1〜3−Mに入力される。この受信波(受信された反射波)は、各方向性結合器3−1〜3−Mから各アンプ21−1〜21−Mを介して各ミキサ4−1〜4−Mに入力される。
【0029】
各ミキサ4−1〜4−Mは、各方向性結合器3−1〜3−Mから入力された受信波(受信信号)と分配器13から入力されたFMCW信号(送信信号)とをミキシングし、その結果の信号であるビート信号を各フィルタ5−1〜5−Mに出力する。ここでは、素子数(M個)のビート信号が生成される。
各フィルタ5−1〜5−Mは、各ミキサ4−1〜4−Mから入力されたビート信号をフィルタリング(帯域制限)して、当該帯域制限されたビート信号をSW6に出力する。ここで、各ミキサ4−1〜4−Mから各フィルタ5−1〜5−Mに入力されるビート信号は、各ミキサ4−1〜4−Mにおいて生成された各ビーム素子2−1〜2−Mに対応したチャンネル(CH)1〜Mのビート信号に相当する。
【0030】
SW6は、制御部11により制御されてスイッチング動作を行い、M個のフィルタ5−1〜5−Mから入力されるビート信号を、アンプ22を介してADC7に出力する。具体的には、SW6は、制御部11から入力されるサンプリング信号に対応して、各フィルタ5−1〜5−Mを通過した各ビーム素子2−1〜2−Mに対応したCH1〜CHMのビート信号を、順次切り替えて、アンプ22を介してADC7に出力する。
【0031】
ADC7は、制御部11により制御されて、SW6から入力されたビート信号をA/D変換して、信号処理部8に出力する。具体的には、ADC7は、SW6からサンプリング信号に同期して入力される、各ビーム素子2−1〜2−Mに対応したCH1〜CHMのビート信号を、サンプリング信号に同期してA/D変換することで、アナログ信号からデジタル信号へ変換し、このデジタル信号を信号処理部8におけるメモリ(本実施形態では、図2または図3に示されるメモリ51)の波形記憶領域に順次記憶させる。これにより、ビーム素子2−1〜2−Mごと(素子CHごと)の受信データ(ビート信号のデータ)が信号処理部8に送られる。
【0032】
制御部11は、SW6のスイッチング動作を制御する。また、制御部11は、ADC7を制御する。具体的には、制御部11は、例えば、SW6およびADC7にサンプリング信号を出力する。ここで、制御部11は、例えば、マイクロコンピュータなどにより構成されており、図示しないROM(Read Only Memory)などに格納された制御プログラムに基づいて、レーダ装置101全体の制御を行う。
【0033】
ここで、本実施形態では、誘電体レンズ1を備えたが、他の構成例として、誘電体レンズ以外のレンズを備えることも可能である。
また、本実施形態では、誘電体レンズ1と複数のビーム素子2−1〜2−Mによって構成されるアンテナ部を備えたが、他の構成例として、誘電体レンズ1の代わりに、信号波を反射させる反射鏡を用いてアンテナ部を構成することもできる。
さらに、他の構成例として、1個のビーム素子を備え、当該ビーム素子の位置や方向などの1つ以上の状態を機械的に複数種類に切り替えることで、当該ビーム素子により、実質的に、独立した複数のビーム(独立マルチビーム)を形成することも可能である。同様に、2個以上(M−1)個以下のビーム素子を備え、そのうちの1個以上のビーム素子について、前記した機械的な切り替えを行うことも可能である。
【0034】
<第1の構成例に係る信号処理部における動作例>
続いて、第1の構成例に係る信号処理部8において行われる動作の例を示す。
メモリ51は、ADC7からのデータにより、波形記憶領域に対して、受信信号(ビート信号)がA/D変換された時系列データ(上昇部分および下降部分)を、ビーム素子2−1〜2−Mごとに対応させて記憶する。例えば、上昇部分および下降部分のそれぞれにおいて256個をサンプリングした場合、2×256個×素子数のデータが、波形記憶領域に記憶される。このように、各ビーム素子2−1〜2−MのCHごとのビート信号が、メモリ51に格納される。
【0035】
周波数分解処理部52は、例えばフーリエ変換などにより、各CH1〜CHM(各ビーム素子2−1〜2−M)に対応するビート信号のそれぞれを、あらかじめ設定された分解能に応じて周波数成分に変換することにより、ビート周波数を示す周波数ポイントと、そのビート周波数の複素数データを出力する。例えば、ビーム素子2−1〜2−Mごとに上昇部分および下降部分のそれぞれについて256個のサンプリングが為されたデータを有する場合、ビーム素子2−1〜2−Mごとの複素数の周波数領域データとしてビート周波数に変換され、上昇部分および下降部分のそれぞれにおいて128個の複素数データ(2×128個×素子数のデータ)となる。また、ビート周波数は周波数ポイントにて示される。
このように、周波数分解処理部52は、各ビーム素子2−1〜2−MのCHごとに、ビート信号をフーリエ変換などして、ビート周波数のレンジに変換する。
【0036】
ピーク検知部53は、周波数変換されたビート周波数の三角波の上昇領域および下降領域のそれぞれの強度のピーク値に関し、複素数データを用いて信号強度(または、振幅など)におけるピークから、あらかじめ設定された数値(ピーク検知閾値)を超えるピーク値を有するビート周波数を検出することにより、ビート周波数ごとのターゲットの存在を検出して、ターゲット周波数を選択する。
このように、ピーク検知部53は、ビーム素子2−1〜2−Mにおける複素数データのそれぞれを周波数スペクトル化することにより、それぞれのスペクトルの各ピーク値を、ビート周波数、すなわち距離に依存したターゲットの存在として検出する。
【0037】
ピーク組合せ部54は、ビーム素子ごとでピーク検知部53が出力するビート周波数とそのピーク値について、上昇領域および下降領域のそれぞれのビート周波数とそのピーク値をマトリクス状に総当たりにて組み合わせ、これにより上昇領域および下降領域のそれぞれのビート周波数をすべて組み合わせて、順次、距離/速度検出部55に出力する。
なお、本実施形態では、このような組み合わせが、ビーム素子2−1〜2−MのCHごとに行われるので、それぞれのビーム方位でターゲットの存在を検出することができる。
【0038】
距離/速度検出部55は、順次入力される上昇領域および下降領域のそれぞれの組み合わせのビート周波数を加算した数値によりターゲットとの距離rを演算する。また、距離/速度検出部55は、順次入力される上昇領域および下降領域のそれぞれの組み合わせのビート周波数の差分によりターゲットとの相対速度vを演算する。
なお、本実施形態では、このような距離rおよび相対速度vの演算が、ビーム素子2−1〜2−MのCHごとに行われる。
【0039】
ペア確定部56は、CHごとに、入力される距離r、相対速度vおよび上昇、下降のピーク値レベルp、pにより、第1のペアテーブルを生成し、ターゲットごとに対応した上昇領域および下降領域のそれぞれのピークの適切な組み合わせを判定し、第2のペアテーブルとして上昇領域および下降領域のそれぞれのピークのペアを確定し、確定した距離rおよび相対速度vを示すターゲット群番号をターゲット確定部58に出力する。
【0040】
第1のペアテーブルは、ピーク組合せ部54における上昇領域および下降領域のビート周波数のマトリクスと、そのマトリクスの交点、すなわち上昇領域および下降領域のビート周波数の組み合わせにおける距離および相対速度を示すテーブルである。
第2のペアテーブルは、ターゲット群ごとの距離および相対速度と周波数ポイントを示すテーブルである。一例として、第2のペアテーブルには、ターゲット群番号に対応して、距離、相対速度および周波数ポイント(上昇領域および/または下降領域)が記憶される。なお、第1のペアテーブルおよび第2のペアテーブルは、例えば、ペア確定部56の内部記憶部に記憶される。
【0041】
ペア確定部56では、例えば、前回の検知サイクルにて最終的に確定した各ターゲットとの距離rおよび相対速度vから今回の検知サイクルにて予測される値を優先してターゲット群の組み合わせの選択を行う等の手法を用いることもできる。
【0042】
また、ペア確定部56は、CHごとにペアが確定した周波数を周波数分解処理部52に通知する。これを受けて、周波数分解処理部52は、方位検出(方位推定)を行うためのビーム素子2−1〜2−M(CH)の特定周波数ポイントデータ(複素数データ)を方位検出部57に出力する。つまり、あるCHの特定周波数ポイントにペアがあれば、他のCHの同一周波数ポイントのデータとセットで方位検出する複素数データとすることになる。ここで、この複素数データとしては、上りと下りのいずれか一方が用いられてもよく、あるいは、上りと下りの両方が用いられてもよい。
【0043】
方位検出部57は、ターゲットの方位を検出し、その検出結果の情報をターゲット確定部58に出力する。本実施形態では、方位検出部57は、ビーム素子2−1〜2−Mに係る複素振幅データに基づいて、高分解能アルゴリズムの最尤推定法によってターゲットの方位を検出する。
ターゲット確定部58は、ペア確定部56が出力する距離r、相対速度v、周波数ポイントと、方位検出部57によって検出されたターゲットの方位とを用いて、ターゲットを確定する。
【0044】
<第2の構成例に係る信号処理部>
図3は、本発明の一実施形態に係るFMCW方式の信号処理部8の第2の構成例(説明の便宜上、信号処理部8aという。)を示すブロック図である。
第2の構成例に係る信号処理部8aは、メモリ51と、周波数分解処理部52aと、ピーク検知部53aと、方位検出部57aと、ピーク組合せ部54aと、距離/速度検出部55aと、ターゲット確定部58aを備える。
ここで、メモリ51は、図2に示されるものと同様なものであり、図2と同じ符号を付してある。
第2の構成例に係る信号処理部8aは、FMCW方式における三角波の上り(上昇)と下り(下降)の両方で方位検知してからペア確定する構成を有する。
【0045】
<第2の構成例に係る信号処理部の動作例>
第2の構成例に係る信号処理部8aにおいて行われる動作の例について、主に、図2に示される第1の構成例との相違点を説明する。
周波数分解処理部52aは、アンテナ素子ごとの上昇領域と下降領域のビート信号を複素数データに変換し、そのビート周波数を示す周波数ポイントと、複素数データをピーク検知部53aに出力する。
また、周波数分解処理部52aは、上昇領域および下降領域のそれぞれについて該当する複素数データを、方位検出部57aに出力する。この複素数データが、上昇領域および下降領域のそれぞれのターゲット群(上昇領域および下降領域においてピークを有するビート周波数)となる。
【0046】
ピーク検知部53aは、上昇領域および下降領域のそれぞれのピーク値と、そのピーク値が存在する周波数ポイントを検出し、その周波数ポイントを周波数分解処理部52aに出力する。
【0047】
方位検出部57aは、ターゲットの方位を検出し、その検出結果の情報をターゲット確定部58aに出力する。本実施形態では、方位検出部57aは、ビーム素子2−1〜2−Mに係る複素振幅データに基づいて、高分解能アルゴリズムの最尤推定法によってターゲットの方位を検出する。
また、方位検出部57aは、上昇領域および下降領域の各々について角度θを検出し、方位テーブルとしてピーク組合せ部54aに出力する。ここで、方位テーブルは、上昇領域および下降領域のそれぞれのピークを組み合わせるためのテーブルである。
【0048】
具体例として、上昇領域の方位テーブルは、ターゲット群ごとに角度1、角度2、・・・、および周波数ポイントfが関連付けられている。例えば、ターゲット群1は、角度1のt_ang、角度2のt_ang、周波数ポイントのfが関連付けられている。また、ターゲット群2は、角度1のt_ang、角度2のt_ang、周波数ポイントのfが関連付けられている。また、以降のターゲット群についても同様である。
また、下降領域の方位テーブルは、ターゲット群ごとに角度1、角度2、・・・、および周波数ポイントfが関連付けられている。例えば、ターゲット群1は、角度1のt_ang、角度2のt_ang、周波数ポイントのfが関連付けられている。また、ターゲット群2は、角度1のt_ang、角度2のt_ang、周波数ポイントのfが関連付けられている。また、以降のターゲット群についても同様である。
【0049】
ピーク組合せ部54aは、方位検出部57aが出力する方位テーブルの情報を用いて、同様の角度を有する組み合わせを検出し、上昇領域と下降領域とのビート周波数の組み合わせの情報(ここでは、ビート周波数の情報)を距離/速度検出部55aに出力する。
【0050】
距離/速度検出部55aは、順次入力される上昇領域および下降領域のそれぞれの組み合わせのビート周波数を加算した数値によりターゲットとの距離rを所定の式(例えば、一般的なものを用いることができ、ここでは省略する。)により演算する。
また、距離/速度検出部55aは、順次入力される上昇領域および下降領域のそれぞれの組み合わせのビート周波数の差分によりターゲットとの相対速度vを、所定の式(例えば、一般的なものを用いることができ、ここでは省略する。)により演算する。
ここで、距離/速度検出部55aは、距離と相対速度の値を、それぞれ、ビート周波数の上昇領域および下降領域の組み合わせにて計算する。
【0051】
ターゲット確定部58aは、上昇領域および下降領域のそれぞれのピークのペアを決め、ターゲットを確定する。
【0052】
なお、第2の構成例に係る信号処理部8aでは、上昇領域および下降領域のそれぞれのピーク値に基づいてターゲットの方位を検出した後に、上昇領域および下降領域のそれぞれのピーク値を組み合わせる手順を示したが、他の構成例として、上昇領域および下降領域のそれぞれのピーク値を組み合わせた後に、組み合わせられたピーク値に基づいてターゲットの方位を検出することもできる。
【0053】
図4は、本発明の一実施形態に係る独立マルチビームの指向性の一例を示すグラフの図である。
図4に示されるグラフにおいて、横軸は放射角を表し、縦軸は利得(ゲイン)を表す。本例では、ビームが5本であるマルチビームの放射角と利得(ゲイン)との関係、すなわちビームの指向性を示している。具体的には、第1のビームの信号1001、第2のビームの信号1002、第3のビームの信号1003、第4のビームの信号1004、第5のビームの信号1005を示してある。
【0054】
ここで、図4の例では、5素子ビームについて説明したが、FOV(視野角)、ビーム幅、ビーム素子数などについては、レーダのアプリケーションや仕様によって、任意に設定することができる。特に、レンズアンテナによる独立マルチビームアンテナ方式では、レンズの形状と1次フィード(ビーム素子)の位置によって柔軟な設定を行うことができ、組み合わせとして好適である。
なお、送受信を行うアンテナを構成する複数のビーム素子2−1〜2−Mの数(M)について、マルチターゲットに関する検知を行う場合には、例えば最尤推定法の場合は複数のビーム素子2−1〜2−Mの数より1つ少ない数(M−1)だけのターゲットに関する検知を行うことができる。
【0055】
<本実施形態に係る最尤推定法の概要>
図5は、本発明の一実施形態に係る方位検出部(ここでは、図2に示される第1の構成例に係る方位検出部57)において行われる処理の手順の一例を示す図である。
なお、ここでは、図2に示される第1の構成例に係る方位検出部57について説明するが、図3に示される第2の構成例に係る方位検出部57aについても同様である。
【0056】
方位検出部57は、ターゲットからの反射波による受信信号に基づいてステアリングベクトルを生成し、反射波の到来方向の尤度を算出することにより、最も尤度が大きく(高く)なる到来方向をターゲットの方向として算出する。
具体的には、方位検出部57は、周波数分解処理部52で抽出されたターゲットが存在するビート周波数のうちの1つについて、複数のビーム素子2−1〜2−MのCHの複素数データを読み込む(ステップS1)。
【0057】
ステップS2〜ステップS6の処理では、ステップS1の処理で読み込んだ複素数データを最尤推定法により処理する。
なお、最尤推定法そのものについては、一般的に用いられており、様々な公知の技術を利用することが可能である(例えば、非特許文献1参照。)
【0058】
概略的には、方位検出部57は、相関行列(共分散行列)を作成する(ステップS2)。
次に、方位検出部57は、固有値の分解を行うことで、複数の固有値および複数の固有ベクトルを算出する(ステップS3)。
次に、方位検出部57は、次数を推定する(ステップS4)。
次に、方位検出部57は、尤度が最も大きくなる(最尤度となる)角度を算出する(ステップS5)。
そして、方位検出部57は、ターゲット数および角度を検知する(ステップS6)。
【0059】
このように、方位検出部57は、最尤推定法により、ターゲットの数およびターゲットの方位(角度)を検出する。
以下で、さらに詳しく説明する。
【0060】
<本実施形態に係る独立マルチビームアンテナ方式における最尤推定法の演算>
本実施形態では、独立マルチビームアンテナ方式において、最尤推定法を適用することで、ビームの信号を反射した物体(反射対象物)の方位を計測(検出)する。
本実施形態では、非特許文献1に記載された最尤推定法の演算を利用する(非特許文献1参照。)。
以下で具体的に説明する。
【0061】
なお、式(1)〜式(12)に関する説明において、x(t)、x(l)(t)、a(θ)、a(θ(l))、a(θ)、s(t)、s(0)(t)、s(l)(t)、Θ(0)は、それぞれベクトルを表す。また、a(z)のzに式(9)の左辺(=θ(l)に上側の線を引いたもの)を代入したものも、ベクトルを表す。
また、式(1)〜式(12)に関する説明において、A、A(0)、A(l)、C、C(l)は、それぞれ行列を表す。
【0062】
本実施形態に係る信号処理において、パラメータ(受信信号や到来方向)を推定する問題は、式(1)に示される尤度関数FMLを最小化する問題と等価である。
【0063】
【数1】
【0064】
ここで、x(t)は、マルチビームで受信した信号のベクトルであり、式(2)で表される。tは時刻を表しており、x(t)は時刻tにおけるi番目のビームの受信信号を表わしており、iは1以上M以下の整数であり、Mはマルチビームにおけるビームの総数(2以上の整数)を表わしている。
ベクトルや行列に付された上付きのTは、転置を表している。
nは、1以上N以下の整数である。
は、スナップショットの数であり、2以上の整数である。
【0065】
【数2】
【0066】
Aは、角度θから到来する信号のマルチビームの複素応答a(θ)を並べた方向行列であり、式(3)で表される。
dは1以上D以下の整数である。
Dは、到来波数を表わしており、2以上の整数である。到来波数Dは、例えば、AIC(Akaike Information Criteria)やMDL(Minimum Description Length)などの手法(例えば、公知の手法)を使用して推定しておく。
ここで、θが既知であれば、計算や測定でa(θ)が既知となる。
【0067】
【数3】
【0068】
s(t)は、到来信号ベクトルであり、式(4)で表される。s(t)は時刻tにおけるd番目の角度θの到来信号を表わしている。
例えば、SAGE(Serial Analysis of Gene Expressinon)法により、x(t)からθとs(t)が求められる。
【0069】
【数4】
【0070】
最初に、到来方向の初期値Θ(0)を適当に定める。この初期値Θ(0)は、式(5)で表される。
各記号に付された上付きの(0)は初期値であることを示す。
【0071】
【数5】
【0072】
設定した初期値Θ(0)に対応する到来信号s(0)(t)は、式(6)によって推定する。
行列に付された上付きのHは、エルミート転置を表している。
【0073】
【数6】
【0074】
初期値Θ(0)および到来信号s(0)(t)を元にして、x(t)の最尤推定値を計算する。
第d波についての第l繰り返しでの最尤推定値は、式(7)で表される。
各記号に付された上付きの(l)は第l繰り返しであることを示す。
βは、雑音項の非負の係数である。このβの値により収束特性が変化する。
【0075】
【数7】
【0076】
最尤推定値を使用して、式(8)により、x(l)(t)の相関行列C(l)を推定する。
【0077】
【数8】
【0078】
次の探索によって、式(9)および式(10)により、到来波パラメータを更新する。
【0079】
【数9】
【0080】
【数10】
【0081】
式(11)および式(12)により、更新パラメータを方向行列と信号ベクトルに適用して更新する。
【0082】
【数11】
【0083】
【数12】
【0084】
ここで、d<Dである場合には、d=d+1として(つまり、dに1を加えて)、式(7)に戻る。
また、d=Dである場合には、l=l+1として(つまり、lに1を加えて)、式(6)に戻る。
この操作をパラメータが収束するまで繰り返す。
【0085】
<本実施形態のまとめ>
本実施形態では、一構成例として、光学的に設計された複焦点(複数の焦点)を有するレンズや反射鏡を備え、それぞれの所望方向の焦点にそれぞれのアンテナ素子(受信アンテナとして機能するアンテナ素子)を配置して、同時に独立したマルチビームを生成して、各指向方向の受信信号を取得することができる独立マルチビームアンテナ方式において、超高分解能な到来波推定法である最尤推定法を適用した。そして、同時に得られる各指向方向の受信信号を用いて、最尤推定法により、ターゲット(反射対象物)の方位(方向)を検出する。
また、本実施形態では、他の構成例として、機械的に指向方向を切り替えることができるアンテナ素子を備え、当該アンテナ素子(受信アンテナとして機能するアンテナ素子)を機械的にそれぞれの所望方向に応じた位置に動かすことなどで、同時に準じる時間(例えば、高速)で独立したマルチビームを生成して、各指向方向の受信信号を取得することができる独立マルチビームアンテナ方式において、超高分解能な到来波推定法である最尤推定法を適用した。そして、同時に準じる時間で得られる各指向方向の受信信号を用いて、最尤推定法により、ターゲット(反射対象物)の方位(方向)を検出する。
これらの構成により、本実施形態では、到来波推定に関し、例えば、従来技術に係る電波レーダの問題点を解決することができ、独立したマルチビームのアンテナの利点を十分に活かして、高性能、高機能を兼ね備えた電波レーダを実現することができる。
【0086】
本実施形態では、独立マルチビームアンテナ方式に最尤推定法を適用することで、例えば、同一のビーム内に距離計測分解能以下の間隔で存在する複数のターゲット(反射物体)を分離や検出することが可能である。
【0087】
例えば、特許文献1に係る技術では、到来波の推定を実行する前の処理(前処理)として、受信信号に対する開口空間方向へのフーリエ変換により仮想のアレーアンテナの信号を生成する処理が必要であった。これに対して、本実施形態では、各指向方向で受信された信号をそのまま使用して到来波推定処理(本実施形態では、最尤推定法の演算の処理)を実行することができ、信号処理に要する負荷を軽減することができる。
また、特許文献1に係る技術では、前記した仮想のアレーアンテナの信号が不等配列のものとなるため、空間平均法を適用することができず、距離分解能以下の間隔に存在するコヒーレント性の高い複数のターゲットを分離することができなかった。これに対して、本実施形態では、このような複数のターゲットを分離することが可能である。
【0088】
例えば、特許文献1に係る技術では、アレーアンテナ方式に適用される到来波推定法を独立マルチビームアンテナ方式に適用することを前提としており、この場合、各受信チャンネルの信号の間に強い相関関係がないと到来波推定処理が成立しないことから、それぞれの指向のビームが空間上で十分に重複するような設定が必要になり、このため、開口面積を十分に活かした設計をすることが困難であった。これに対して、本実施形態では、各指向方向の信号間の相関関係を必要としないため、高い開口効率でのアンテナの設計が可能となる。
【0089】
例えば、アレーアンテナ方式に最尤推定法を適用する場合には、一つ一つのアンテナ素子の開口面積が狭いため、特に、車載用の電波レーダのアンテナ面積条件において、歩行者検知等の機能を十分に満たすためのアンテナ利得を達成することが困難であった。これに対して、本実施形態では、与えられたアンテナのほぼすべての面積を効率良く使用することができる独立マルチビームアンテナ方式を用いていることから、比較的高いアンテナ利得を得ることができる。
【0090】
例えば、アレーアンテナ方式に最尤推定法を適用する場合には、複数のアンテナ素子の配列の条件(例えば、コストの制限により、受信器が少数に制限された条件など)によっては、誤測定やマルチパスの原因となるグレーティングローブが発生してしまう。これに対して、本実施形態では、グレーティングローブが発生することはない。
【0091】
例えば、アレーアンテナ方式に最尤推定法を適用する場合には、すべてのアンテナ素子は概して同一の指向性を有しており、その特性は視野角のすべてに分布する広角な指向特性を有するため、全域からマルチパスの影響を受けやすい。これに対して、本実施形態では、あらかじめビームを絞り込むことによって、マルチパスの影響を受けづらくすることができる。
【0092】
以上のように、本実施形態では、独立マルチビームアンテナ方式において、到来波推定法として最尤推定法(例えば、SAGE法)を適用して、到来波を推定する(物体の方位を検出する)。この場合、それぞれのアンテナ素子により受信された信号から得られる複素振幅データを(特に加工せずに)アンテナ素子の並び順で最尤推定法の演算式に代入して、到来波を推定する。なお、受信信号をフーリエ変換により仮想アレーの信号へ変換する必要はなく、また、各アンテナ素子による受信信号の位相がばらばらであってもよい(位相相関が無くてもよい)。
本実施形態に係る到来波推定では、例えば、同一の距離に存在する複数のターゲットについて、分離して方位を推定することができる。また、本実施形態に係る到来波推定では、例えば、任意の配列のアンテナ素子に対して適用することが可能であり、特に、受信信号の位相情報が不要である。また、本実施形態に係る到来波推定では、例えば、アンテナ素子間の相関関係が低いアンテナに適用することが可能である。
以上のように、本実施形態では、独立マルチビームアンテナ方式において、物体の方位を効果的に検出することができる。
【0093】
ここで、本実施形態では、図1に示されるレーダ装置101を車載用として自動車などに設ける構成を示したが、他の構成例として、他の任意の移動体に設けることも可能である。
また、本実施形態では、送信と受信の両方に使用されるビーム素子(アンテナ素子)2−1〜2−Mを備えたが、他の構成例として、送信専用のアンテナ素子や、受信専用のアンテナ素子を備える構成が用いられてもよい。
【0094】
[以上の実施形態に係る構成例]
一構成例として、独立したマルチビーム(一例として、図4に示されるようなマルチビーム)を形成するアンテナ部(本実施形態では、図1に示される誘電体レンズ1とビーム素子2−1〜2−Mから構成されるアンテナ部)と、物体(本実施形態では、車両の前方などに存在する人や他の車両などの物体)により反射されて前記アンテナ部により受信されたマルチビームの信号に基づいて、最尤推定法により、前記物体の方位を検出する方位検出部(本実施形態では、図2に示される方位検出部57や、図3に示される方位検出部57a)と、を備える物体方位検出装置(本実施形態では、レーダ装置101において物体の方位を検出する機能を有する部分を含む任意の装置)である。
【0095】
一構成例として、物体方位検出装置において、前記方位検出部は、前記マルチビームの信号に基づく複素振幅データを使用して、前記最尤推定法の演算を実行することにより、前記物体の方位を検出する。
一構成例として、物体方位検出装置において、前記アンテナ部は、レンズまたは反射鏡と、複数のアンテナ素子を用いて構成される。
一構成例として、物体方位検出装置において、前記アンテナ部は、1個以上のアンテナ素子を備え、一部または全部のアンテナ素子を機械的に切り替えて、前記アンテナ素子の数より多い複数のビームを形成する。
【0096】
一構成例として、以上のような物体方位検出装置を備えるレーダ装置(本実施形態では、レーダ装置101)である。
一構成例として、方位検出部が、物体により反射されて独立したマルチビームを形成するアンテナ部により受信されたマルチビームの信号に基づいて、最尤推定法により、前記物体の方位を検出する、物体方位検出方法(物体方位検出装置において行われる方法)である。
一構成例として、方位検出部が、物体により反射されて独立したマルチビームを形成するアンテナ部により受信されたマルチビームの信号に基づいて、最尤推定法により、前記物体の方位を検出するステップ、をコンピュータに実行させるための物体方位検出プログラム(物体方位検出装置において用いられるプログラム)である。
【0097】
[以上の実施形態のまとめ]
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【0098】
また、以上に示した実施形態に係る各装置(例えば、レーダ装置101)の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより、処理を行ってもよい。
【0099】
なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、オペレーティング・システム(OS:Operating System)や周辺機器等のハードウェアを含むものであってもよい。
また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ等の書き込み可能な不揮発性メモリ、DVD(Digital Versatile Disk)等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。
【0100】
さらに、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(例えばDRAM(Dynamic Random Access Memory))のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。
また、上記のプログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)や電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。
また、上記のプログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。さらに、上記のプログラムは、前述した機能をコンピュータシステムに既に記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
【符号の説明】
【0101】
1…誘電体レンズ、2−1〜2−M…ビーム素子(アンテナ素子)、3−1〜3−M…方向性結合器、4−1〜4−M…ミキサ、5−1〜5−M…フィルタ、6…スイッチ(SW)、7…ADC、8、8a…信号処理部、11…制御部、12…電圧制御発振器(VCO)、13…分配器、21−1〜21−M、22〜23、24−1〜24−M、25−1〜25−M…アンプ(増幅器)、51…メモリ、52、52a…周波数分解処理部、53、53a…ピーク検知部、54、54a…ピーク組合せ部、55、55a…距離/速度検出部、56…ペア確定部、57、57a…方位検出部、58、58a…ターゲット確定部、101…レーダ装置、1001〜1005…ビームの信号
図1
図2
図3
図4
図5