【実施例】
【0022】
次に、本発明のコーティング材を、船舶や海洋構造物に塗布する生物忌避防汚コーティングとして、海洋生物付着抑制のために用いる場合の実施例について説明する。
【0023】
この実施例は、船舶及び海洋構造物の海洋生物忌避性を有する光触媒塗料により、海洋生物の付着を抑制するものである。
【0024】
この海洋生物忌避塗料(コーティング材)は、多層CNTと、過酸化亜鉛及び酸化亜鉛の少なくとも一方と、基材となる合成樹脂と、を含んで構成されている。
【0025】
コーティング材の組成は、過酸化亜鉛及び酸化亜鉛の少なくとも一方が0.5〜50重量%、CNTは1〜10重量%とされている。
【0026】
<試験例>
主として海洋生物忌避効果を確認するために、塗料の種類(水系塗料、溶剤系塗料)、CNTと過酸化亜鉛のベース塗料に対する配合が異なるようにした12種類の塗料を塗布した試験鋼板及び溶剤系塗料のブランク、水系塗料のブランク、ケミカルコートされたもの及びケミカルコートのブランクの4種類の比較試験鋼板、合計16枚を作成して、
図1に示されるように、東京都大田区の東京湾で海水中に約2ヶ月浸漬し、浸漬後の表面性状などについて測定する海水浸漬試験を行った。
【0027】
用いた鋼板は、亜鉛引き鋼板であって、各々には、亜鉛引き鋼板用水生下塗り塗料(スイセイメタプラ;太洋塗料(株)製)で下塗り(1回塗り)をし、更に上記12種類の試験塗料を各々上塗りとして2回塗りをした。
【0028】
又、比較試験鋼板としては、防汚塗料(ケミコート(商品名) ブルー;太洋塗料(株)製)を塗布したもの、3種類のブランク塗料として、水系、溶剤系のCNT・ZnO
2無添加塗料を塗布したものを用意した。
【0029】
表1に示されるように、水系塗料を塗布した試験鋼板は、鋼板A、B、C、D、E、Fの6種類であり、又、溶剤系塗料を塗布した鋼板は、鋼板G、H、I、J、N、Oの6種類である。表1において配合は、重量比で示され、水系塗料の場合は、ベース塗料とC液との重量比、又、溶剤系塗料の場合はベース塗料とA液とB液との重量比を示している。
【表1】
【0030】
ベース塗料は、表2及び3に示されるように、艶有水系塗料と艶消水系塗料の2種類であり、溶剤系塗料は、シリコーンラバー塗料からなっている。
【表2】
【表3】
【0031】
ここで、水系塗料においてベース塗料に加えられるC液及び溶剤系塗料に加えられるA液及びB液は、表4に示されるようになっている。
【表4】
【0032】
なお、表5及び6に、塗料中の樹脂分40部に対するCNT及びZnO
2の配合量を明確にするために配合比を示す。ベース塗料の数値中の樹脂分は40部となる。
【表5】
【表6】
【0033】
上記塗料に配合されるCNTは、大別して単層CNTと多層CNTとがあるが、本発明に用いるのは単層と多層のいずれでも良い。ただし、単層CNTは多層CNTと比べて非常に高価(約20倍)であるので、多層CNTを用いた。
【0034】
具体的には、ナノシル社(ベルギー)製のNC7000(直径9.5nm、長さ(平均)1.5μm、炭素純度90%の水・溶剤分散液(超音波処理))を使用した。
図2にこのカーボンナノチューブの電子顕微鏡写真を示す。又、表7に、上記NC7000についてのデータを示す。
【表7】
【0035】
図3に、試験鋼板A〜Gの、又、
図4に試験鋼板H、I、J、N、O及びブランク鋼板、ケミコート鋼板のそれぞれの浸漬試験結果を示す。又、
図3及び4には、浸漬後の鋼板の表面を示す写真、評価、塗膜表面電気抵抗値をそれぞれ示している。
【0036】
塗膜表面電気抵抗値の測定は、試験鋼板を室温で一週間放置し、十分乾燥させ、且つ、裏面の汚れをできるだけ除去して行った。測定器はシムコ表面抵抗器(ST−4)を用いた。
【0037】
上記浸漬試験結果の状態は、
図3及び
図4に示すとおりであるが、塗膜表面電気抵抗値と生物付着率の関係を、
図5に示す。
図5からは、塗膜表面電気抵抗値が10
4.3Ω/cm(n=4.3)以下の場合に生物付着率が0%となることがわかる。
【0038】
浸漬試験結果の塗膜表面電気抵抗の最小値は、試験鋼板Dでの10
3.3Ω/cm(n=3.3)であるが、
図5から塗膜表面電気抵抗値が小さい程、生物付着率を確実に0%とすることができることが推定されるので、塗膜表面電気抵抗値がn=3.3未満であっても生物付着率が0%となりえる。ここでは、塗膜表面電気抵抗値の最小値は、通常のこの種の塗膜についての経験則から10
2Ω/cmと設定できる。
【0039】
図6に、試験鋼板の塗膜表面電気抵抗値と塗膜中のCNT含有量の関係を示す。
図6は、塗膜中のCNT含有量が6重量%を超えた場合は、CNT含有量を増大しても塗膜表面電気抵抗値が低下しないことを示している。従って、CNT含有量は、機能的には、最大6重量%であればよいが、含有量を増大して塗膜の強度を大きくすることもあり、コストも考慮して、塗膜中のCNT含有量を最大10重量%とする。
【0040】
又、CNT含有量が0.5%以下の試験鋼板Z、Oは、塗膜表面電気抵抗値がn>10となるのに対して、CNT含有量が2.2%、2.4%、2.7%の試験鋼板N、I、Jの場合は、塗膜表面電気抵抗はn=6.0未満となり、且つ、100%ではないが生物の付着を抑制していたので、CNT含有量の最小値は、1重量%とする。
【0041】
次に、表面観察により塗膜の防汚機能を確認するために撮影した走査型電子顕微鏡(SEM)写真について説明する。
【0042】
図7〜
図26は、水系及び溶剤系それぞれの浸漬後の塗膜において、最も生物忌避効果のあった試験鋼板A及びGと効果が少なかった試験鋼板B及びHの、1000倍、3000倍、10000倍の拡大写真である。
【0043】
図7〜
図26のいずれの写真においても、CNTや過酸化亜鉛の配列状態は不明であったが、生物忌避効果の少なかった試験鋼板Bには、1000倍の
図12に(B−7−SE)で示される箇所に海洋生物の種らしきものが確認された。その3000倍画像は
図15に示される。
【0044】
次に、上記コーティング剤の安定性、特に、CNTの配合による貯蔵中の塗料のケーキィングの有無は水系塗料及び溶剤系塗料のそれぞれについて確認した。テストに係る水系塗料及び溶剤系塗料の成分は表8に示されるようにした。
【表8】
【0045】
上記2種類の塗料を、450gずつ作成して、水系塗料は500mlのポリ容器に、溶剤系塗料は500ml缶に入れて、試験室内で、室温で50日間放置したが、ケーキィング等の異常は無かった。
【0046】
更に、上記浸漬試験用に作成した、CNT及びZnO
2の添加量の多い試験鋼板A及びHのコーティング剤について、室温にて貯蔵安定性試験を2ヶ月半実行したが、共に異常は無く、過酸化亜鉛の添加によってもケーキィングは発生しなかった。又、沈殿物も生じなかった。
【0047】
次に、光照射によって、塗膜において発生するヒドロキシルラジカル及び一重項酸素の発生の有無及び発生の場合の強度の測定試験について説明する。
【0048】
図27に、活性酸素の測定試験の概略を示す。試験方法は電子スピン共鳴法であり、測定方法はストラッピング法、用いた電子スピン共鳴装置はJES−RE1X、測定機関は神奈川歯科大学電子スピン共鳴研究室である。測定試験は4回実行された。
【0049】
1回目は、可視光を想定したハロゲン光照射によるものであり、表9に示されるように、CNT、過酸化亜鉛、CNT+過酸化亜鉛の有無の条件、これらと純水又は海水の組合せの条件、ハロゲン光照射又は照射無しの条件を組合せた試料1〜18について、ヒドロキシルラジカル及び一重項酸素の測定試験を行なった。
【表9】
【0050】
その結果、いずれの組合せの場合でも、ヒドロキシルラジカル及び活性酸素は検出されなかった。
【0051】
照射条件は、150wのハロゲン光光源を用いて1分間の照射をした。又、試料1〜12の測定では、トラップ材として、1mM CYPMPOを用いた。又、試料13〜18の測定では、トラップ材として、一重項酸素を検出するために、40mM 4−OH−TENPを用いた。
【0052】
ここで、用いられたCNT(stock)は5重量%、ZnO
2(stock)は25重量%であった。
【0053】
2回目の活性酸素測定試験は、表10、11に示されるように、純水、海水又はこれらの組合せ、CNTの有無、過酸化亜鉛の有無、UV光照射の有無の条件を組合せて、試料19〜48について測定試験を行なった。なお、試料37〜48においては、過酸化亜鉛に代えて酸化亜鉛を用いた。
【表10】
【表11】
【0054】
その結果、試料19〜30については、
図28に示されるように、海水なし及び海水浸漬の両方において、ヒドロキシルラジカルの弱いシグナルを検出した。又、試料31〜36については、
図29に示されるように、一重項酸素の強いシグナルを検出した。
【0055】
表11に示されるように、試料37〜44については、
図30に示されるように、試料19〜30と同様に、一部でヒドロキシルラジカルの弱いシグナルを検出した。これに対して、試料45〜48では、全てにおいて、一重項酸素の強いシグナルを検出した(
図31参照)。
【0056】
ここで、CNT(stock)は5重量%のものを用い、測定には128ml使用した。ZnO
2(stock)は5重量%のものを用い、測定には32ml使用した。ZnO(stock)は5重量%のものを用い、測定には32ml用いた。
【0057】
UV光(波長、UV−A+UV−B、150mW/cm
2]にて1分間の照射をした。
【0058】
CNT及び過酸化亜鉛は、重量比で4対1とし、また、それぞれ単体での測定を行う場合は、添加しない材料に代わり超純水を用い、サンプルの総量を同等にした。また、過酸化亜鉛に代えて酸化亜鉛(和光純薬製)でも同様に測定を行った。
【0059】
試料19〜30及び37〜44の測定では、トラップ材として、ヒドロキシルラジカル及びスーパーオキシドを検出する目的で1mM CYPMPOを使用した。または、試料31〜36及び45〜48の測定では、トラップ材として、一重項酸素を検出する目的で40mM 4−OH−TEMPを使用した。
【0060】
次に、3回目のUV光照射による活性酸素測定試験について説明する。この3回目の試験は、表12に示されるように、試験鋼板G、H、A、Bの浸漬後の塗膜へのUV光を照射して、ヒドロキシルラジカル及び一重項酸素の測定を行なった。
【表12】
【0061】
いずれの場合も、ヒドロキシルラジカルのシグナルは検出することができず、又、一重項酸素については、海水あり及び海水なしの場合のいずれでも、活性酸素の強いシグナルを検出することができた(
図32、33参照)。
【0062】
なお、一重項酸素は各条件で測定が可能であったが、海水を添加することで発生量が減少した。ヒドロキシルラジカルは検出されなかったため、海水添加の測定は行わなかった。
【0063】
上記試験鋼板G、H、A、Bの浸漬後の塗膜における活性酸素シグナル強度と塗膜表面電気抵抗値10
nΩ/cmとの関係を
図34及び
図35に示す。
図34からは、塗膜表面電気抵抗値が小さい程、活性酸素シグナル強度が大きくなることが分かる。
【0064】
次に、4回目のUV光照射による活性酸素測定試験について説明する。この試験は、表13に示されるように、上記試験鋼板A、Gの、海水への浸漬前の塗膜へのUV光照射によるものであり、この場合でも、
図36、37に示されるように、一重項酸素は強いシグナル強度で検出されたが、ヒドロキシルラジカルの場合はこれを検出することができなかった。
【表13】
【0065】
水系塗料の試験鋼板Aについて3回目の浸漬後の鋼板Aと比較して、浸漬前は海水なしでシグナル強度が大きくなったが、海水ありの場合は3回目よりもシグナル強度が小さくなった。
【0066】
これは、塗料表面にスピントラップ材をのせ一重項酸素を発生させている実験から考えると、塗料表面における各成分にむらがあるのではないかと推定できる。
【0067】
このため、成分が表面に均一に分布するならば、海水に浸漬しても材料からの一重項酸素発生能にはほとんど変化がないと思われる。
【0068】
以上より、試験鋼板において、生物付着を抑制しているのは、ほとんど活性酸素(一重項酸素)の作用によるものと判断できる。
【0069】
上記実験例からは明確ではないが、過酸化亜鉛及び又は酸化亜鉛とCNTとの組合せによって光触媒機能が得られ、これにより活性酸素が発生したものと推定される。
【0070】
既述のように、活性酸素はヒドロキシルラジカルに比較して有機物分解能が弱いので、コーティング材に含まれる合成樹脂の分解が少ない。
【0071】
上記実験例は、船舶の船底や海洋構造物への生物付着を抑制する海洋生物忌避効果の試験をしたものであるが、本発明はこれに限定されるものでなく、海水に接触しない地上の構造物等において、カビなどの生物が発生しやすい箇所に塗布して、生物の付着抑制を図ることができる。
【0072】
さらに、このコーティング材は、活性酸素によって生物付着を抑制し、光触媒としての例えば酸化チタンのように、ヒドロキシルラジカルを利用するものではないので、コーティング材中に有色の顔料を混ぜてもこれが分解されることがない。したがって、各種の色の顔料をコーティング材中に添加することができる。
【0073】
また、陸上の構造物に本発明のコーティング材を塗布して生物の付着を抑制できるが、例えば、実験例のように、海水に接触する船の船底や、海洋構造物に用いる場合は、まず、対象物に防錆塗料と塗布した後に、その上塗りとして、本発明のコーティング材を塗布するとよい。