特開2015-98529(P2015-98529A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-98529(P2015-98529A)
(43)【公開日】2015年5月28日
(54)【発明の名称】産業車両のキャビン用窓部材
(51)【国際特許分類】
   C08L 69/00 20060101AFI20150501BHJP
   C08K 5/54 20060101ALI20150501BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20150501BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20150501BHJP
【FI】
   C08L69/00
   C08K5/54
   C08L83/04
   C08J5/18CFD
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-238714(P2013-238714)
(22)【出願日】2013年11月19日
(71)【出願人】
【識別番号】396001175
【氏名又は名称】住化スタイロンポリカーボネート株式会社
(72)【発明者】
【氏名】長尾 厚史
(72)【発明者】
【氏名】永野 圭哉
【テーマコード(参考)】
4F071
4J002
【Fターム(参考)】
4F071AA50
4F071AA67
4F071AC14
4F071AF30Y
4F071AF47Y
4F071AH07
4F071BB06
4F071BC01
4J002CG001
4J002CG002
4J002CP033
4J002EV256
4J002EV266
4J002GN00
(57)【要約】
【構成】 本願発明は、ポリカーボネート樹脂組成物を成形してなるシートからなる産業車両のキャビン用窓部材であって、該ポリカーボネート樹脂組成物が、直鎖状ポリカーボネート樹脂(A)0〜60重量%および分岐状ポリカーボネート樹脂(B)40〜100重量%からなる樹脂成分100重量部、有機金属塩(C)0.005〜0.2重量部、および特定シリコーン化合物(D)0.005〜0.5重量部を含有することを特徴とする、産業車両のキャビン用窓部材。
【効果】 本発明の産業車両のキャビン用窓部材は、透明性、熱安定性、耐衝撃性等の特性を保持し、特に、優れた透明性および難燃性を兼備することから安全面で優れ、フォークリフト、リフト付きトラック、農業用トラクタ−、パワーショベル、又はブルドーザ等のキャビン用窓部材として好適に使用することができる。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂組成物を成形してなるシートからなる産業車両のキャビン用窓部材であって、
該ポリカーボネート樹脂組成物が、直鎖状ポリカーボネート樹脂(A)0〜60重量%および分岐状ポリカーボネート樹脂(B)40〜100重量%からなる樹脂成分100重量部、有機金属塩(C)0.005〜0.2重量部、および主鎖が分岐構造でかつ含有する有機官能基が芳香族基からなるか、または芳香族基と炭化水素基(芳香族基を除く)とからなるシリコーン化合物(D)0.005〜0.5重量部を含有することを特徴とする、産業車両のキャビン用窓部材。
【請求項2】
前記有機金属塩(C)の配合量が0.04〜0.1重量部であり、かつ前記主鎖が分岐構造でかつ含有する有機官能基が芳香族基からなるか、または芳香族基と炭化水素基(芳香族基を除く)とからなるシリコーン化合物(D)の配合量が0.03〜0.3重量部(それぞれ、前記樹脂成分100重量部あたり)であることを特徴とする、請求項1記載のキャビン用窓部材。
【請求項3】
前記有機金属塩(C)が、芳香族スルホン酸の金属塩、パーフルオロアルカンスルホン酸の金属塩、およびパーフルオロアルカンスルホン酸イミドから選択される1種、もしくはそれ以上の化合物であることを特徴とする、請求項1記載のキャビン用窓部材。
【請求項4】
前記ポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる厚さ3.0mmのシート試験片を用いてJIS K7361に基づき測定した曇価率が2%以下であることを特徴とする、請求項1記載のキャビン用窓部材。
【請求項5】
前記ポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる厚さ2.0mmのシート試験片を用いてUL94試験方法に基づき測定した難燃性がV−1またはV−0等級を有することを特徴とする、請求項1に記載のキャビン用窓部材。
【請求項6】
前記産業車両が、フォークリフト、リフト付きトラック、農業用トラクタ−、パワーショベル、又はブルドーザであることを特徴とする、請求項1〜5の何れか一項に記載のキャビン用窓部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、輸送作業に用いられるフォークリフトやリフト付きトラック、土木作業、建設作業に用いられる油圧ショベルやブルドーザ等の産業車両における運転席キャビンの採光や視認の役割を担うフロント窓や天窓等の窓部材に関する。より詳しくは、ポリカーボネート樹脂が本来備える透明性、耐衝撃性等の特性を保持し、特に、塩素又は臭素系難燃剤を使用することなく高度な難燃性付与した産業車両のキャビン用窓部材を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
従来からフォークリフト、リフト付きトラック等の産業車両は、多くの場合、運転者又は操作者(以下、運転者という。)を落下物又は車両の転倒による怪我から保護するため、頭上保護構造すなわち、ヘッドガードによる運転席キャビン(以下、キャビンという。)を備えて製造される。キャビンを保護するための窓部材としては、運転席のフロント窓、天窓、リア窓、サイド窓などに視認性を確保するために透明な強化ガラス製の窓部材が使用されてきた。しかしながら、輸送車両では、重量物を輸送するものであるが故に車両自体のさらなる軽量化が望まれており、解体作業、ブレーカー作業等を行う建設車両では、破砕された比較的小さな岩石など破砕片が飛び散って運転室の窓が割れる危険性があることなどから、キャビン用窓部材として高強度のオール樹脂材への代替が強く望まれてきた。
【0003】
他方、樹脂代替として、例えば、透明性、耐衝撃性等に優れたポリカーボネート樹脂が注目されている(特許文献1)。ポリカーボネート樹脂は、自己消火性を備えた難燃性の高い樹脂材料であるが、産業車両のキャビン用窓部材の用途においては産業車両の不測の衝突時等に火災が発生する可能性が高いため、万が一の火災予防・火災対策の観点からアンダーライターズ・ラボラトリーズが定めているUL94試験(機器の部品用プラスチック材料の燃焼性試験)に準拠した難燃性の評価において、少なくともV―1等級が望まれているところである。
【0004】
ポリカーボネート樹脂に難燃性を付与させる手法として、従来、難燃剤として塩素や臭素系化合物、あるいはリン系化合物を配合する方法が採用されている。しかし、塩素や臭素系難燃剤は、優れた難燃効果を示すものの、射出成形時に成形機スクリューや製品金型を腐食させる問題があった。また、リン系難燃材は縮合リン酸エステル系難燃剤を中心に使用されているが、耐熱性あるいは衝撃強度の極端な低下が発生するという問題があった。これら著しい物性低下や環境面への配慮から、臭素や塩素等のハロゲン系化合物およびリン系化合物を含有しない難燃剤の使用が望まれている。
【0005】
上記難燃剤を使用せず難燃化する方法として、ポリカーボネート樹脂に芳香族スルホン酸金属塩を添加する方法(特許文献2)やパーフルオロアルカンスルホン酸カリウムを添加する方法(特許文献3)および分岐状ポリカーボネート樹脂に有機アルカリ金属塩を添加する方法(特許文献4)などの提案がなされてきた。これらの手法を用いることにより、UL94試験に準拠した難燃性の評価において、燃焼時間の減少効果および燃焼時における樹脂の滴下(ドリッピング)抑制効果はある程度認められるものの、製品安全上の規格を満たすには十分ではなく、より一層優れた難燃性を有する材料の開発が求められている。
【0006】
一方、分岐状ポリカーボネート樹脂に重量平均分子量が400〜1500のポリオルガノシロキサンと有機スルホン酸金属塩をブレンドした樹脂組成物(特許文献5)が開示されている。しかしながら、当該分子量範囲のシロキサンを用いるとシロキサン自体の耐熱性が低下し、さらに溶融粘度が低すぎて、成形加工時にポリカーボネート樹脂の成形体表面にシロキサン化合物がブリードアウトして成形体表面の外観を損ねるなど成形性を低下させる場合があるため、難燃性のみならず優れた成形性を有する材料の開発が望まれていた。
【0007】
さらに、燃焼時のドリッピングを抑制する方法として、ポリカーボネート樹脂にフッ素化ポリオレフィンを添加した樹脂組成物(特許文献6)が開示されている。このような組成物においては、燃焼時のドリッピングが抑制され難燃性は向上するものの、射出成形時にフッ素化ポリオレフィンが樹脂の流動方向に配向したり、フッ素化ポリオレフィンの凝集物が製品表面の外観不良を引き起こし、製品としての価値が著しく低下するという問題があり、従来からその改善が望まれてきた。また、フッ素化ポリオレフィンをポリカーボネート樹脂に添加すると、ポリカーボネート樹脂が本来有する優れた透明性を損なうという問題があり、特に透明性が求められる用途においては根本的な問題があった。
【0008】
【特許文献1】特開平2001−97250公報
【特許文献2】特開昭50―98546号公報
【特許文献3】特公昭47―40445号公報
【特許文献4】特開平7―258532号公報
【特許文献5】特開2001―26704号公報
【特許文献6】特公昭60―38418号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記課題を改善し、ポリカーボネート樹脂が本来有する透明性、耐衝撃性等の特性を保持しつつ、臭素や塩素等のハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤あるいはフッ素化ポリオレフィン使用することなく、優れた透明性と難燃性を両立できる産業車両のキャビン用窓部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意研究を行った結果、ポリカーボネート樹脂組成物を成形してなるシートからなり、当該樹脂組成物として分岐状ポリカーボネート樹脂を必須成分として特定量配合し、更に有機金属塩、および特定のシリコーン化合物を併用配合したポリカーボネート樹脂組成物を用いることで、キャビン用窓部材に必要とされる透明性と難燃性等とを同時に満足できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、ポリカーボネート樹脂組成物を成形してなるシートからなる産業車両のキャビン用窓部材であって、該ポリカーボネート樹脂組成物が、直鎖状ポリカーボネート樹脂(A)0〜60重量%および分岐状ポリカーボネート樹脂(B)40〜100重量%からなる樹脂成分100重量部、有機金属塩(C)0.005〜0.2重量部、および主鎖が分岐構造でかつ含有する有機官能基が芳香族基からなるか、または芳香族基と炭化水素基(芳香族基を除く)とからなるシリコーン化合物(D)0.005〜0.5重量部を含有することを特徴とする、産業車両のキャビン用窓部材、を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ガラスを用いないため軽量であり、ポリカーボネート樹脂が本来備える、透明性、耐衝撃性等の特性を保持し、特に、優れた透明性および難燃性を同時に満足することから、安全面で優れた産業車両のキャビン用窓部材を提供できる。また、塩素、臭素等の難燃剤およびリン系難燃剤を使用しないことから、成形時に成形機スクリューや製品金型を腐食させることがなく、しかも、環境面においても優れている。本発明の産業車両のキャビン用窓部材は、フォークリフト、リフト付きトラック、農業用トラクタ−、パワーショベル、又はブルドーザ等の産業車両のキャビン用窓部材として好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の産業車両のキャビン用窓部材とは、輸送作業に用いられるフォークリフト、リフト付きトラック等の輸送車両、土木作業、建設作業に用いられる、パワーショベル、ブルドーザ、油圧ショベルなどの建設車両における運転席キャビンの採光や視認の役割を担う正面窓や天窓等のキャビン用窓部材を意味する。
【0014】
本発明にて使用される直鎖状ポリカーボネート樹脂(A)とは、種々のジヒドロキシジアリール化合物とホスゲンとを反応させるホスゲン法、またはジヒドロキシアリール化合物とジフェニルカーボネートなどの炭酸エステルとを反応させるエステル交換法によって得られる重合体であり、代表的なものとしては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)から製造された直鎖状ポリカーボネート樹脂が挙げられる。
【0015】
上記ジヒドロキシジアリール化合物としては、ビスフェノールAの他に、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−第三ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−ブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)プロパンのようなビス(ヒドロキシアリール)アルカン類、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンのようなビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルエーテルのようなジヒドロキシジアリールエーテル類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルフィドのようなジヒドロキシジアリールスルフィド類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルスルホキシドのようなジヒドロキシジアリールスルホキシド類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルスルホンのようなジヒドロキシジアリールスルホン類等が挙げられる。しかしながら、ハロゲンで置換されていないジヒドロキシジアリール化合物を使用することが環境面から好ましい。
【0016】
これらは、単独または2種類以上混合して使用することができる。これらの他に、ピペラジン、ジピペリジルハイドロキノン、レゾルシン、4,4′−ジヒドロキシジフェニル等を混合して使用してもよい。
【0017】
直鎖状ポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量は、特に制限はないが、成形加工性、強度の面より通常10000〜100000、より好ましくは15000〜40000、さらに好ましくは、17000〜28000の範囲である。
【0018】
また、直鎖状ポリカーボネート樹脂(A)の配合比率は後述の分岐状ポリカーボネート樹脂(B)との配合において、0〜60重量%である。((A)+(B)=100重量%とする。)直鎖状ポリカーボネート樹脂(A)の配合比率が60重量%を超えると難燃性が低下するので好ましくない。
【0019】
本発明に使用される分岐状ポリカーボネート樹脂(B)とは、種々のジヒドロキシジアリール化合物、分岐剤およびホスゲンとを反応させるホスゲン法、またはジヒドロキシジアリール化合物、分岐剤およびジフェニルカーボネートなどの炭酸エステルとを反応させるエステル交換によって得られる重合体であり、代表的なものとしては、2,2―ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、分岐剤およびホスゲンから製造された分岐状ポリカーボネート樹脂が挙げられる。
【0020】
上記ジヒドロキシジアリール化合物としては、ビスフェノールAの他に、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−第三ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−ブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3、5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)プロパンのようなビス(ヒドロキシアリール)アルカン類、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンのようなビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルエーテルのようなジヒドロキシジアリールエーテル類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルフィドのようなジヒドロキシジアリールスルフィド類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルスルホキシドのようなジヒドロキシジアリールスルホキシド類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルスルホンのようなジヒドロキシジアリールスルホン類等が挙げられる。
【0021】
これらは単独または2種類以上混合して使用されるが、これらの他に、ピペラジン、ジピペリジルハイドロキノン、レゾルシン、4,4’−ジヒドロキシジフェニル等を混合して使用してもよい。
【0022】
分岐剤として使用される3価以上のフェノールとしては、フロログルシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ヘプテン−2、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ヘプタン、1,3,5−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ベンゾール、1,1,1−トリス−(4−ヒドロキシフェニル)−エタンおよび2,2−ビス−〔4,4−(4,4’−ジヒドロキシジフェニル)−シクロヘキシル〕−プロパンなどが挙げられる。
【0023】
これら分岐剤の含有量には特に制限はないが、成形加工性の面より、分岐状ポリカーボネート樹脂あたり0.01〜5.0重量%であることが好ましい。
【0024】
分岐状ポリカーボネート樹脂(B)の分子量には特に制限はないが、成形加工性の面より、メルトフローレイト(MFR)(300℃、1.2kg荷重)が1.0〜20.0g/10分であることが好ましい。
【0025】
分岐状ポリカーボネート樹脂(B)は、従来公知の方法により製造することができる。例えば、特開昭56―55328、特開昭58―23825、特開昭59ー45318、特開昭59−133223、特開昭59−134742、特開昭62―10071、特開昭62−15223などに記載の方法が挙げられる。
【0026】
本発明にて使用される有機金属塩(C)としては、芳香族スルホン酸の金属塩、パーフルオロアルカンスルホン酸の金属塩、パーフルオロアルカンスルホン酸イミドの金属塩等があげられる。金属の種類としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属等が挙げられる。好適には、4−メチル−N−(4−メチルフェニル)スルフォニル−ベンゼンスルフォンアミドのカリウム塩、ジフェニルスルホンー−3−スルホン酸カリウム、ジフェニルスルホンー3−3‘−ジスルホン酸カリウム、パラトルエンスルホン酸ナトリウム、パーフルオロブタンスルホン酸カリウム、パーフルオロブタンジスルホン酸ナトリウム、パーフルオロプロパンジスルホン酸カリウム、パーフルオロブタンスルホン酸ナトリウム、パーフルオロプロパンジスルホンイミドカリウム塩、ビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミドカリウム等が利用できる。とりわけ、パーフルオロブタンスルホン酸カリウムが好適に使用できる。
【0027】
有機金属塩(C)の配合量は、直鎖状ポリカーボネート樹脂(A)0〜60重量%および分岐状ポリカーボネート樹脂(B)40〜100重量%からなる樹脂成分100重量部あたり、0.005〜0.2重量部である。0.005重量部未満では難燃性が低下するので好ましくない。また、0.2重量部を超える配合量では透明性に劣るため好ましくない。好ましくは、0.02〜0.15重量部、より好ましくは0.04〜0.10重量部である。
【0028】
本発明にて使用されるシリコーン化合物(D)は、主鎖が分岐構造でかつ有機官能基が芳香族基からなるか、または芳香族基と炭化水素基(芳香族基を除く)とからなり、下記一般式(1)にて示される。
一般式(1)
【0029】
【化1】
【0030】
ここで、R1、R2およびR3は主鎖の有機官能基を、Xは末端の官能基を表す。すなわち、分岐単位としてT単位(RSiO1.5)および/またはQ単位(SiO2.0)を持つことを特徴とする。これらは全体のシロキサン単位(R3〜0SiO2〜0.5)の20モル%以上含有することが望ましい。(Rは有機官能基をあらわす。)また、シリコーン化合物(D)は、含有される有機官能基のうち芳香族基が20モル%以上であることが好ましい。この含有される芳香族基としては、フェニル、ビフェニル、ナフタレンまたはこれらの誘導体であるが、フェニル基が好適に使用できる。
【0031】
シリコーン化合物(D)中の有機官能基で、主鎖や分岐した側鎖に付いたもののうち芳香族基以外の有機基としては、炭素数4以下の炭化水素基が好ましく、メチル基が好適に使用できる。さらに、末端基はメチル基、フェニル基、水酸基の内から選ばれた1種またはこれらの2種から3種までの混合物であることが好ましい。
【0032】
シリコーン化合物(D)の平均分子量(重量平均)は、好ましくは3000〜50000であり、更に好ましくは5000〜270000である。3000未満であるとシリコーン自体の耐熱性が低下して十分な難燃性効果が得られず、さらに溶融粘度が低すぎて成形体表面にシリコーン化合物がブリードアウトして外観を損ねる場合があり、一方、500000を越えると溶融年度が増加してポリカーボネート樹脂中の均一な分散ができず、難燃性及び成形性が低下するため好ましくない。さらに好ましくは10000〜27000である。この範囲では溶融粘度が最適となるため、一層良好な難燃性と成形性を達成することができる。
【0033】
シリコーン化合物(D)の配合量は、直鎖状ポリカーボネート樹脂(A)0〜60重量%および分岐状ポリカーボネート樹脂(B)40〜100重量%からなる樹脂成分100重量部あたり、0.005〜0.5重量部である。配合量が0.005重量部未満では充分な難燃効果が得られず、0.5重量部を超える配合量では透明性に劣るため好ましくない。より好ましくは0.03〜0.3重量部の範囲である。
【0034】
本発明においては、とりわけ、前記有機金属塩(C)の配合量が0.04〜0.10重量部、かつシリコーン化合物(D)の配合量が0.03〜0.3重量部、(それぞれ、分岐状ポリカーボネート樹脂(B)40〜100重量%および直鎖状ポリカーボネート樹脂(A)0〜60重量%からなる樹脂成分100重量部あたり)で使用することにより、透明性及び難燃性の両者が顕著に向上することから、この範囲で(C)および(D)の両成分を使用することが特に好ましい。
【0035】
さらに、本発明においては、後述するように、ポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる厚さ3.0mmのシート試験片を用いてJIS K7361に基づき測定した曇価率(へーズ)が2%以下であることが好ましい。曇価率(ヘーズ)が2%を上回ると、産業車両の運転者の視認性を阻害し、産業車両の操作等に悪影響を及ぼす虞がある。
【0036】
また、本発明においては、後述するように、ポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる厚さ2.0mmのシート試験片を用いてUL94試験方法(機器の部品用プラスチック材料の燃焼試験)に基づき測定した難燃性がV−1等級またはV−0等級を有することが好ましい。難燃性が、V−1等級を下回ると、産業車両のキャビン用窓部材に必要な難燃性を十分に確保できないことがある。好ましくはV−0等級である。
【0037】
本発明にて使用されるポリカーボネート樹脂組成物においては、実用上、難燃性以外に要求される性能により、公知の各種添加剤、ポリマーなどを必要に応じて添加することができる。例えば、鮮やかな色調を得るために、ベンゾオキサゾール系の蛍光増白剤およびこれらを併用して添加してもよい。
【0038】
本発明にて使用されるポリカーボネート樹脂組成物には、上記以外の公知の添加剤、例えばフェノール系またはリン系熱安定剤[2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2−(1−メチルシクロヘキシル)−4,6−ジメチルフェノール、4,4′−チオビス−(6−t−ブチル−3−メチルフェノール)、2,2−メチレンビス−(4−エチル−6−t−メチルフェノール)、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト、4,4′−ビフェニレンジホスフィン酸テトラキス−(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)等]、滑剤[パラフィンワックス、n−ブチルステアレート、合成蜜蝋、天然蜜蝋、グリセリンモノエステル、モンタン酸ワックス、ポリエチレンワックス、ペンタエリスリトールテトラステアレート等]、着色剤[例えば酸化チタン、カーボンブラック、染料]、充填剤[炭酸カルシウム、クレー、シリカ、ガラス繊維、ガラス球、ガラスフレーク、カーボン繊維、タルク、マイカ、各種ウィスカー類等]、流動性改良剤、展着剤[エポキシ化大豆油、流動パラフィン等]、さらには他の熱可塑性樹脂や各種耐衝撃改良剤(ポリブタジエン、ポリアクリル酸エステル、エチレン・プロピレン系ゴム等のゴムに、メタアクリル酸エステル、スチレン、アクリロニトリル等の化合物をグラフト重合してなるゴム強化樹脂等が例示される。)を必要に応じて添加することができる。
【0039】
本発明にて使用されるポリカーボネート樹脂の実施の形態および順序には何ら制限はない。例えば、分岐状ポリカーボネート樹脂(B)、直鎖状ポリカーボネート樹脂(A)、有機金属塩(C)、シリコーン化合物(D)を任意の配合量で計量し、タンブラー、リボブレンダー、高速ミキサー等により一括混合した後、混合物を通常の単軸押出機または2軸押出機を用いて溶融混練し、ペレット化させる方法、あるいは、個々の成分を一部または全てを別々に計量し、複数の供給装置から押出機内へ投入し、溶融混合する方法、さらには、ポリカーボネート樹脂成分(A)、(B)、有機金属塩(C)シリコーン化合物(D)を高濃度に配合し、一旦溶融混合してペレット化し、マスターバッチとした後、当該マスターバッチとポリカーボネート樹脂を所望の比率により混合することもできる。そして、これらの成分を溶融混合する際の、押出機へ投入する位置、押出温度、スクリュウ回転数、供給量など、状況に応じて任意の条件が選択され、ペレット化することができる。
【0040】
本発明の産業車両のキャビン用窓部材は、これらペレットを用いて押出成形等することによってシートを得、必要に応じて、そのシートから熱成形や切削加工などによって所望の窓形状に加工される。
本発明の産業車両のキャビン用窓部材に使用されるシートの製造方法としては、Tダイ押出成形法、カレンダ成形法等の従来の成形法を用いることができる。
産業車両のキャビン用窓部材の形状に制限はなく、表面に印刷や各種表面加工が施されていても良い。
【0041】
前記産業車両のキャビン用窓部材の厚みは、得られた産業車両のキャビン用窓部材の剛性や強度および難燃性の発揮等を考慮すると、1.5mm以上の厚みが好ましい、特に好ましくは2.0mm以上である。1.5mm未満では、産業車両のキャビン用窓部材に必要な強度が不足し、また難燃性も十分(V−1以上)発揮できなる場合がある。
【実施例】
【0042】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら制限されるものではない。なお、部や%は特に断りのない限り重量基準に基づく。
【0043】
使用した配合成分の詳細は、以下のとおりである。
直鎖状ポリカーボネート樹脂(A):(以下、PC−1と略記)
住化スタイロンポリカーボネート製カリバー200−3
(粘度平均分子量:23000)
分岐状ポリカーボネート樹脂(B):(以下、PC−2と略記)
LGポリカーボネート社製1600−3
(粘度平均分子量:24000)
【0044】
有機金属塩(C):(以下、金属塩と略記)
ランクセス社製パーフルオロブタンスルホン酸カリウム
【0045】
シリコーン化合物(D):(以下、シリコーンと略記)
シリコーンは、一般的な製造方法に従って製造した。すなわち、適量のジオルガノジクロロシラン、モノオルガノトリクロロシランおよびテトラクロロシラン、あるいはそれらの部分加水分解縮合物を有機溶剤中に溶解し、水を添加して加水分解して、部分的に縮合したシリコーン化合物を形成し、さらにトリオルガノクロロシランを添加して反応させることによって重合を終了させ、その後、溶媒を蒸留等で分離した。上記方法で合成したシリコーンの構造特性は、以下のとおり:
・主鎖構造のD/T/Q単位の比率:40/60/0(モル比)
・全有機官能基中のフェニル基の比率(*):60モル%
・末端基:メチル基のみ
・重量平均分子量(**):15000
*:フェニル基は、T単位を含むシリコーン中ではT単位にまず含まれ、残った場合がD単位に含まれる。D単位にフェニル基が付く場合、1個付くものが優先し、さらにフェニル基が残余する場合に2個付く。末端基を除き、有機官能基は、フェニル基以外は全てメチル基である。
**:重量平均分子量は、有効数字2桁。
【0046】
(透明性評価)
表2〜表4に示す配合成分及び配合比率に基づき得られた各種樹脂組成物のペレットを125℃で4時間乾燥した後に、押出成形機(田辺プラスチック社製VS40単軸押出機)を用いて設定温度280℃にて透明性評価用シート試験片(150x90x3.0mm)を作成した。JIS K7361に基づき、作成したシート試験片の曇り度をヘーズメーターHM150(村上色彩技術研究所(株)製)を用い、JIS K7105に準じて曇価率の測定を行った。曇価率Hが、2.0%以下を良好とした。結果を表2〜表4に示す。
曇価率H (%) = (拡散透過率Td2/全光線透過率Tt)×100
【0047】
(難燃性評価)
得られた各種樹脂組成物のペレットを125℃で4時間乾燥した後に、押出成形機(田辺プラスチック社製VS40単軸押出機)を用いて設定温度280℃にて難燃性評価用シート試験片(125x13x2.0mm)を作成した。得られたシート試験片を用いて温度23℃、湿度50%の恒温室の中で72時間放置し、アンダーライターズ・ラボラトリーズが定めているUL94試験(機器の部品用プラスチック材料の燃焼試験)に準拠した難燃性の評価を行い、V−0またはV−1を良好とした。結果を表2〜表4に示す。なお、UL94の難燃性クラスは表1のとおり。
【0048】
【表1】
【0049】
残炎時間とは、着火源を遠ざけた後の試験片が、有炎燃焼を続ける時間の長さであり、ドリップによる綿の着火とは、試験片の下端から約300mm下にある標識用の綿が、試験片からの滴下(ドリップ)物によって着火されるかどうかによって決定される。
【0050】
【表2】
【0051】
【表3】
【0052】
【表4】
【0053】
実施例1〜9に示すように、本発明の構成要件を満足するものについては、要求性能を満たしていた。
一方、比較例1〜5に示すように、本発明の構成要件を満足しないものについては、それぞれ次のとおり欠点を有していた。
比較例1は、分岐状ポリカーボネート樹脂(PC−2)の配合比率が本発明の定める範囲よりも少ない場合であり、難燃性に劣っていた。
比較例2は、シリコーンの配合量が本発明の定める範囲よりも少ない場合であり、難燃性に劣っていた。
比較例3は、シリコーンの配合量が本発明の定める範囲よりも多い場合であり、透明性に劣っていた。
比較例4は、金属塩の配合量が本発明の定める範囲よりも少ない場合であり、難燃性に劣っていた。
比較例5は、金属塩の配合量が本発明の定める範囲よりも多い場合であり、透明性に劣っていた。