【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)試験日 平成25年11月13日、試験場所 神奈川県逗子市小坪4−12 (2)防災関連製品 2013/10 避難誘導編、平成25年10月2日発行、タキロン株式会社
【課題】暗闇の中で階段を降りて短時間で避難する場合は勿論のこと、津波発生時のように階段を昇って比較的長い時間、避難行動が継続する場合でも、りん光により階段を充分認識して安全に避難できるようにした階段被覆材と階段被覆構造を提供する。
【解決手段】階段2の踏み面2aと段鼻2bと蹴上げ2cを被覆する、踏み面被覆部1aと段鼻被覆部1bと蹴上げ被覆部1cを備えた略L形に屈曲する階段被覆材1であって、踏み面被覆部1aの段鼻被覆部側の表面に、階段被覆材の幅方向に延びる第一の蓄光領域1mが形成され、蹴上げ被覆部1cの表面に、階段被覆材の幅方向に延びる第二の蓄光領域1nが形成され、第二の蓄光領域1nに含有される蓄光顔料の単位面積当たりの含有量が、第一の蓄光領域1mに含有される蓄光顔料の単位面積当たりの含有量よりも多い階段被覆材1とする。
前記第一の蓄光領域と前記第二の蓄光領域が帯状に形成されており、前記第二の蓄光領域の幅が前記第一の蓄光領域の幅よりも広いことを特徴とする、請求項1に記載の階段被覆材。
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の階段被覆材を階段に貼着して、階段の踏み面と段鼻と蹴上げを、階段被覆材の踏み面被覆部と段鼻被覆部と蹴上げ被覆部でそれぞれ被覆したことを特徴とする階段被覆構造。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1の階段用床シートは、踏み面部の前縁部分の表面に貼着された合成樹脂テープ(以下、踏み面部貼着テープという)も、蹴上げ部の上縁部分の表面に貼着された合成樹脂テープ(以下、蹴上げ部貼着テープという)も、単位面積当たりの蓄光顔料の含有量が同じであるため、次のような問題があった。
【0006】
即ち、火災や地震の発生時には、階段を降りて屋内外の高所から低所に避難するのが普通であり、このように階段を降りて避難する場合は、主に階段用床シートのりん光を発する踏み面部貼着テープを視認することになる。この階段を降りる避難行動は、火災の煙などが充満するまでの短い時間内に終了しなければならないので、踏み面部貼着テープは、少なくとも避難が終了するまでの短い時間、りん光を発するものであればよいことになる。
これに対し、地震による津波の発生時には、階段を昇って屋内外の低所から高所に避難する必要があり、その場合は、主に階段用床シートのりん光を発する蹴上げ部貼着シートを視認することになる。この階段を昇る避難行動は、津波が到達する直前まで続くと考えられるので、蹴上げ部貼着シートは、少なくとも津波が到達するまでの比較的長い時間、りん光を発するものでなければならない。
【0007】
ところが、前記特許文献1の階段用床シートのように、踏み面部貼着テープの単位面積当たりの蓄光顔料の含有量と、蹴上げ部貼着テープの単位面積当たりの蓄光顔料の含有量が同じであるものは、踏み面部貼着テープも蹴上げ部貼着テープもりん光輝度が同等であり、比較的短い時間でりん光輝度がかなり低下して視認性が悪くなる。そのため、火災や地震の発生時のように短時間で階段を降りる避難行動をとる場合には、避難行動が完結するまでの短い時間、踏み面部貼着テープが充分な輝度のりん光を発して階段を認識させ、避難行動を助けることができるとしても、津波の発生時のように、津波が到達するまでの比較的長い時間、階段を昇る避難行動が継続する場合は、その途中で蹴上げ部貼着テープから発せられるりん光の輝度がかなり低下して視認性が悪くなり、階段を認識させ難くなるため、途中から避難行動を助ける役目を充分に果たせなくなるという問題があった。
【0008】
本発明は上記の問題に対処すべくなされたもので、その目的とするところは、火災や地震の発生時のように階段を降りて短時間で避難する場合は勿論のこと、津波の発生時のように階段を昇って比較的長い時間、避難行動が継続する場合でも、りん光により階段を充分認識して安全に避難できるようにした階段被覆材と階段被覆構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明に係る階段被覆材は、階段の踏み面と段鼻と蹴上げをそれぞれ被覆する、踏み面被覆部と段鼻被覆部と蹴上げ被覆部を備えた略L形に屈曲する階段被覆材であって、上記踏み面被覆部の段鼻被覆部側の表面には、階段被覆材の幅方向に延びる第一の蓄光領域が形成されており、上記蹴上げ被覆部の表面には、階段被覆材の幅方向に延びる第二の蓄光領域が形成されており、上記第二の蓄光領域に含有される蓄光顔料の単位面積当たりの含有量が、上記第一の蓄光領域に含有される蓄光顔料の単位面積当たりの含有量よりも多いことを特徴とするものである。
【0010】
本発明の階段被覆材においては、前記第一の蓄光領域と前記第二の蓄光領域が帯状に形成され、前記第二の蓄光領域の幅が前記第一の蓄光領域の幅よりも広いことが望ましい。
そして、キセノンランプで400μW/m
2の光を60分間照射したときの12時間後の前記第一の蓄光領域のりん光輝度が1mcd/m
2以上、4mcd/m
2未満であり、同じく12時間後の前記第二の蓄光領域のりん光輝度が4mcd/m
2以上、15mcd/m
2以下であることが望ましい。
【0011】
また、本発明に係る階段被覆構造は、上記の本発明に係る階段被覆材を階段に貼着して、階段の踏み面と段鼻と蹴上げを、階段被覆材の踏み面被覆部と段鼻被覆部と蹴上げ被覆部でそれぞれ被覆したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の階段被覆材を階段に貼着して、階段の踏み面、段鼻、蹴上げをそれぞれ階段被覆材の踏み面被覆部、段鼻被覆部、蹴上げ被覆部で被覆すると、踏み面被覆部の段鼻被覆部側の表面に形成された第一の蓄光領域、及び、蹴上げ被覆部の表面に形成された第二の蓄光領域にそれぞれ含有されている蓄光顔料が、太陽光や屋内の照明光を受けて励起され、夜間や災害時の停電により周囲が暗くなったとき、段鼻被覆部に沿って階段被覆材の幅方向に延びる第一と第二の蓄光領域から発せられるりん光を視認できるので、周囲が暗くても階段(特に段鼻部分)を認識しながら安全に階段を昇り降りして避難することができる。
その場合、本発明の階段被覆材のように、蹴上げ被覆部の表面に形成された第二の蓄光領域に含有される蓄光顔料の単位面積当たりの含有量が、踏み面被覆部の段鼻被覆部側の表面に形成された第一の蓄光領域に含有される蓄光顔料の単位面積当たりの含有量よりも多いと、第二の蓄光領域の方が第一の蓄光領域よりも光の蓄積量が多くなり、初期のりん光輝度が高く、発光時間が長くなるため、第二の蓄光領域の方が第一の蓄光領域よりも、視認可能な一定の輝度以上で発光を持続できる時間が長くなる。
従って、火災や地震の発生時には、踏み面被覆部に形成された第一の蓄光領域の発光持続時間(一定輝度以上の発光持続時間)が短くても、主にこの第一の蓄光領域から発せられる一定輝度以上のりん光を視認しながら階段を見下ろして短時間で階段を降りる避難行動をとることができ、一方、地震による津波の発生時には、蹴上げ被覆部に形成された一定輝度以上の発光持続時間が長い第二の蓄光領域から発せられる一定輝度以上のりん光を主に視認しながら階段を見上げて、津波が到達するまでの比較的長い時間、階段を昇る避難行動をとることができる。
このように、本発明の階段被覆材は、災害発生時、特に地震による津波発生時の避難行動に極めて有効なものであるため、避難先となる高台や高層建物の階段を被覆する階段被覆材として好適に使用される。
なお、第一の蓄光領域に含有される蓄光顔料の単位面積当たりの含有量を増やして、第二の蓄光領域に含有される蓄光顔料の単位面積当たりの含有量と同等にすると、高価な蓄光顔料の使用量が増えて階段被覆材の製造コストが高くなるので好ましくない。
【0013】
また、本発明の階段被覆材において、第一の蓄光領域と第二の蓄光領域が帯状に形成されていると、これらの帯状の蓄光領域の視認性が良いため、これらの蓄光領域の間に存在する階段の段鼻(階段被覆材の段鼻被覆部)の確認がし易くなり、且つ、第二の蓄光領域の幅が第一の蓄光領域の幅よりも広くなっていると、第二の蓄光領域の視認性が更に向上し、時間が経過してりん光輝度が低下しても第二の蓄光領域を容易に視認できるため、津波発生時に階段を昇る避難行動をとるときに極めて有効に機能することになる。
【0014】
そして、キセノンランプで400μW/m
2の光を60分間照射したときの12時間後の前記第一の蓄光領域のりん光輝度が1mcd/m
2以上、4mcd/m
2未満であり、同じく12時間後の前記第二の蓄光領域のりん光輝度が4mcd/m
2以上、15mcd/m
2以下であると、周囲が暗くなっても第二の蓄光領域が12時間にわたって(換言すれば一晩中)視認可能であるため、地震による津波が発生した場合に、津波が到達するまでの比較的長い間、第二の蓄光領域から発せられるりん光を充分に視認しながら階段を見上げて安全に階段を昇る避難行動をとることができる。
【0015】
また、本発明に係る階段被覆構造は、本発明の上記階段被覆材を階段に貼着して、階段の踏み面と段鼻と蹴上げを、階段被覆材の踏み面被覆部と段鼻被覆部と蹴上げ被覆部でそれぞれ被覆したものであるから、上述したように、火災や地震の発生時には、主に階段被覆材の踏み面被覆部の段鼻被覆部側の表面に形成された第一の蓄光領域から発せられるりん光を視認しながら階段を見下ろして安全に階段を降りる避難行動を速やかにとることができ、一方、地震による津波発生時には、主に階段被覆材の蹴上げ被覆部の表面に形成された第二の蓄光領域から発せられるりん光を視認しながら階段を見上げて安全に階段を昇る避難行動を、津波が到達するまでの間とることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明に係る階段被覆材と階段被覆構造の実施形態を詳細に説明する。
【0018】
図1は本発明の一実施形態に係る階段被覆材の平面図、
図2は同階段被覆材の正面図、
図3は同階段被覆材の断面図、
図4は同階段被覆材を貼着した本発明の階段被覆構造を示す断面図であって、
図3,
図4に示すように、この階段被覆材1は、階段2の踏み面2aを被覆する踏み面被覆部1aと、階段2の段鼻2bを被覆する段鼻被覆部1bと、階段2の蹴上げを2cを被覆する蹴上げ被覆部1cとを備えた、略L形に屈曲する階段被覆材である。
【0019】
この実施形態の階段被覆材1は、塩化ビニル樹脂やオレフィン系樹脂などの熱可塑性樹脂で成形されたものであって、
図3に示すように、表面層1dと裏面層1eを備えた二層構造の略L形に屈曲するシート状積層体とされており、裏面層1eは後述するように白色に着色されている。
階段被覆材1の材質は熱可塑性樹脂に限定されるものではなく、熱硬化性樹脂、ゴム、金属、木材などで製造してもよい。また、階段被覆材1は表面層と中間層と裏面層を備えた三層構造のシート状積層体としてもよいし、単層体としてもよい。
【0020】
図1〜
図3に示すように、階段被覆材1の段鼻被覆部1bの表面層1dには、L形に屈曲する厚肉部1fが段差被覆材1の幅方向に間隔をあけて複数形成されており、これらの厚肉部1fの相互間は、踏み面被覆部1aから蹴上げ被覆部1cに水を流下、排水させる凹溝1gとなっている。そして、それぞれの厚肉部1fの水平部上面には、段差被覆材1の幅方向に延びる複数の細い防滑用凸条1hが平行に形成されている。
【0021】
また、踏み面被覆部1aの表面層1dの段鼻被覆部1b側の表面、つまり、厚肉部1fの背後の表面層1dの表面には、
図1,
図3に示すように、厚肉部1fの幅寸法にほぼ等しい長さを有する防滑用の矩形凸部1iが、階段被覆材1の幅方向に半ピッチづつ位置をずらせて階段被覆材1の前後方向(奥行き方向)に間隔をあけて二列に並んで形成されており、それぞれの矩形凸部1iの上面には、前記防滑用凸条1hよりも細い複数の防滑用凸条が形成されている。そして、矩形凸部1iより後側の踏み面被覆部1aの表面層1dの表面には、正方形の多数の防滑用小突起1jと、これよりも一回り小さい多数の防滑用小突起1kが、それぞれ縦横に配列して形成されている。
【0022】
上記のように、段鼻被覆部1bに厚肉部1fが形成されていると、階段昇降時に踏圧が段鼻被覆部1bに繰り返し作用しても、段鼻被覆部1bの早期の磨滅や破断を防止することができ、また、厚肉部1fの上面や踏み面被覆部1aの表面層1dの表面に、細い防滑用凸条1hや、防滑用の矩形凸部1i、小突起1j,1kなどが形成されていると、充分な滑り止め効果が発揮され、安全に階段を昇降して避難することができる。
【0023】
図1,
図3に示すように、踏み面被覆部1aの段鼻被覆部1b側の表面層1dには、段鼻被覆部1bに沿って階段被覆材1の幅方向に延びる帯状の第一の蓄光領域1m(以下、第一蓄光領域1mと記す)が、厚肉部1fと一列目の矩形凸部1iとの間、一列目の矩形凸部1iと二列目の矩形凸部1iとの間、二列目の矩形凸部1iと防滑用小突起1jとの間にそれぞれ一つずつ、合計三つ平行に形成されている。また、
図2,
図3に示すように、蹴上げ被覆部1cの下部の裏面層1eの表面にも、段鼻被覆部1bに沿って階段被覆材1の幅方向に延びる帯状の第二の蓄光領域1n(以下、第二蓄光領域1nと記す)が形成されており、この第二蓄光領域1nの幅は、視認性を向上させるために、第一蓄光領域1mの幅よりも広くなっている。
【0024】
第一蓄光領域1mを形成する数、及び、第二蓄光領域1nを形成する数は、一つでもよいし複数(二つ以上)でもよいが、この実施形態の階段被覆材1のように、第二蓄光領域1nを一つ形成し、第一蓄光領域1mを複数形成する場合は、上記のように第二蓄光領域1nの幅を第一蓄光領域1mの幅よりも広くするだけでなく、第二蓄光領域1nの幅を複数の第一蓄光領域1mの合計幅よりも広くして、第二蓄光領域1nの視認性を更に向上させることも望ましい。また、第二蓄光領域1nを複数形成し、第一蓄光領域1mを一つ又は複数形成する場合は、一つの第二蓄光領域1nの幅又は複数の第二蓄光領域1nの合計幅を、一つの第一蓄光領域1mの幅又は複数の第一蓄光領域1mの合計幅よりも広くして、第二蓄光領域1nの視認性を向上させることが望ましい。
【0025】
第一蓄光領域1m及び第二蓄光領域1nは、透光性の熱可塑性樹脂基材中に蓄光顔料を含有させたものであって、蓄光顔料としては、残光時間が長く、残光輝度が高く、耐光性及び耐候性が良好なアルミン酸塩系蓄光蛍光体(例えば、根本特殊化学株式会社製の商品名「N−夜光」など)が好適に使用される。
このアルミン酸塩系蓄光蛍光体は、下記の一般式で表される物質である。
一般式:MAl
2O
4・XK・YL・ZP
(式中、Mはカルシウム、バリウム、ストロンチウム、マグネシウム及びこれらの混合物からなる群から選ばれた一種の金属、Xはユーロピウムからなる賦活剤、Y及びZはランタン系列元素並びにマンガン、スズ及びビスマスからなる群から選ばれた賦活助剤、KはMに対するモル%で0.001〜10、LはMに対するモル%で0〜10、PはMに対するモル%で0〜10である。)
なお、蓄光顔料には、青色っぽい光で発色する青色蓄光顔料と黄緑色で発光する黄緑色蓄光顔料とが知られており、それらの何れの蓄光顔料をもちいてもよい。ただ、青色蓄光顔料は耐水性に優れるとともに、青色の光が人を落ち着かせる効果があることから、第一の蓄光領域1mに黄緑色蓄光顔料を用い、第二蓄光領域1nに青色蓄光顔料を用いることで、屋外の高台に続く階段に本発明の階段被覆材を敷設すると、長期間蓄光機能を維持できるとともに、地震後に津波の襲来を懸念して避難してくる人々に対して青色の光で安心感を与えることができる。
【0026】
この階段被覆材1の大きい特徴は、蹴上げ被覆部1cの表面に形成され、階段を昇るときに主に視認される第二蓄光領域1nの方が、踏み面被覆部1aの段鼻被覆部1b側の表面に形成され、階段を降りるときに主に視認される第一蓄光領域1mよりも、りん光輝度(残光輝度)が高く長い時間視認できるように、第二蓄光領域1nに含有される蓄光顔料の単位面積当たりの含有量を、第一蓄光領域1mに含有される蓄光顔料の単位面積当たりの含有量よりも多くした点にある。
【0027】
即ち、この階段被覆材1の第一蓄光領域1mは、励起光の条件としてキセノンランプで400μW/m
2の光を60分間照射した以外はJIS Z 9107(2008)と同様にしてりん光輝度を測定したときの12時間後のりん光輝度が1mcd/m
2以上、4mcd/m
2未満となるように、単位面積(m
2)当たりの蓄光顔料の含有量が200g/m
2以上、400g/m
2未満に設定されている。
これに対し、第二蓄光領域1nは、同じく12時間後のりん光輝度が第一蓄光領域1mのりん光輝度より高い4mcd/m
2以上、15mcd/m
2以下となるように、単位面積(m
2)当たりの蓄光顔料の含有量が第一蓄光領域1mの含有量より多い400g/m
2以上、1000g/m
2以下に設定されている。
なお、12時間後のりん光輝度を判断基準としたのは、日没から夜明けまでの残光輝度を考慮したためである。
【0028】
第二蓄光領域1nの12時間後のりん光輝度が上記の範囲内であると、日没後の地震による停電で周囲が暗くなっても、第二蓄光領域1nが一晩中、高輝度のりん光を発するので、地震により津波が発生した場合でも、津波が到達するまでの比較的長い間、第二蓄光領域1nから発せられる高輝度のりん光を視認しながら階段を昇って安全に避難することができる。また、第一蓄光領域1mの12時間後のりん光輝度は上記のように第二蓄光領域1nよりも低いが、初期のりん光輝度は高いので、日没後の火災や地震の発生時には、第一蓄光領域1mから発せられるりん光を視認しながら短時間で階段を降りて避難することができる。
【0029】
第一蓄光領域1mや第二蓄光領域1nの裏面(入出光面と反対面)には、白色の層が存在していることが望ましい。白色層が裏面に存在していると、これらの蓄光領域1m,1nに入光した光のうち蓄光顔料の励起に使われなかった光が白色の層で反射されて再度、蓄光顔料の励起に使われるので、蓄光効率が高くなるという利点があり、また、裏面から出光しようとするりん光も白色の層で反射されて、ほぼ全てのりん光が蓄光領域1m,1nの表面から出光するので、出光効率も向上するという利点がある。なお、白色の層は熱可塑性樹脂に酸化チタンを配合して形成したものが用いられる。
【0030】
そこで、この階段被覆材1では、帯状の第二蓄光領域1nを蹴上げ被覆部1cの白色の裏面層1eの表面に重ねて設ける一方、踏み面被覆部1aの段鼻被覆部1b側の有色の表面層1d(白色ではない)に対しては、裏面に白色の層(不図示)を一体に積層した帯状の第一蓄光領域1mを重ねて設け、これらの蓄光領域1m,1nの蓄光効率及び出光効率を向上させてりん光輝度を高めている。
なお、蹴上げ被覆部1cの裏面層1eが白色でない場合は、裏面に白色の層を一体に積層した帯状の第二蓄光領域1nを重ねて設けるようにすればよい。
【0031】
裏面に白色の層を有する帯状の第一蓄光領域1mは、例えば、蓄光顔料を混合した透光性の熱可塑性樹脂と白色の熱可塑性樹脂を帯状に二層押出成形し、これを踏み面被覆部1aの段鼻被覆部1bの表面層1dに熱圧着又は貼着する等の手段で設ければよい。ここで貼着とは、接着、粘着、溶着、熔着等を意味する。
また、第二蓄光領域1nは、例えば、透光性の熱可塑性樹脂と蓄光顔料との混合物を含む粉体又はペレットを蹴上げ被覆部1cの白色の裏面層1eの表面に堆積して帯状に熱圧成形する手段や、合成樹脂と蓄光顔料を溶剤に溶解混合した溶液を型枠に注入、乾燥させて帯状に成形したものを、蹴上げ被覆部1cの白色の裏面層1eの表面に熱圧着又は貼着する手段等で設ければよい。
なお、第一蓄光領域1mや第二蓄光領域1nは、上記以外の公知の手段で設けても良いことは言うまでもない。
【0032】
第一蓄光領域1mと第二蓄光領域1nは、階段被覆材1の幅方向、即ち、階段の幅方向に延びていればよく、それらが連続的に形成されていてもよいし、断続的に形成されていてもよいが、階段2の段鼻2b(階段被覆材1の段鼻被覆部1b)の存在を確認するためには、この実施形態のように、段鼻被覆部1bに沿って階段被覆材1の全幅に亘って直線状に連続して延びていることが望ましい。ただし、これらの蓄光領域1m,1nは、踏み面被覆部1aの段鼻被覆部1b側の表面、及び、蹴上げ被覆部1cの表面において、階段被覆材1の幅方向中央部のみ、又は、幅方向両端部のみに形成されていてもよく、その場合でも段鼻被覆部1bの存在をある程度認識することが可能である。
【0033】
第一蓄光領域1mと第二蓄光領域1nは、この実施形態のように帯状に形成されていることが望ましいが、その他の形状、例えば波形状に形成されていてもよい。また、これらの蓄光領域1m,1nに、例えば矢印や文字などをかたどった蓄光性のない領域を形成しておけば、その周囲の蓄光領域が光り、矢印や文字などが暗くなって避難者に指示やメッセージを伝えることもできる。
【0034】
このような階段被覆材1は、例えば熱可塑性樹脂を使用し、押出成形してロールで賦形する方法、粉体やペレットを積層した後に加熱・プレスする熱圧成形、射出成形など、様々な公知の手段で成形すると共に、第一蓄光領域1mと第二蓄光領域1nを前述の手段で踏み面被覆部1aの段鼻被覆部1b側の表面と蹴上げ被覆部1cの表面に設けることによって製造することができる。
【0035】
本発明の階段被覆構造は、上記の階段被覆材1を用いて、
図4に示すように、その段鼻被覆部1bを階段2の各段の段鼻2bに位置合わせし、接着剤や粘着剤や両面テープなどの貼着剤(不図示)で階段被覆材1を階段2に貼着し、階段2の踏み面2aと段鼻2bと蹴上げ2cを、階段被覆材1の踏み面被覆部1aと段鼻被覆部1bと蹴上げ被覆部1cでそれぞれ被覆したものである。
【0036】
この階段被覆構造のように、階段被覆材1を階段2に貼着して被覆すると、第一蓄光領域1mと第二蓄光領域1nにそれぞれ含有されている蓄光顔料が、太陽光や屋内の照明光を受けて励起され、夜間や災害時の停電により周囲が暗くなったとき、段鼻被覆部1bに沿って階段被覆材1の幅方向に延びる第一蓄光領域1mと第二蓄光領域1nからりん光が発せられるので、第一蓄光領域1mと第二蓄光領域1nを視認して、階段の段鼻(階段被覆材1の段鼻被覆部1b)を主に確認しながら階段を昇り降りして避難することができる。特に、これらの蓄光領域1m,1nは帯状に形成されて視認性が良好であるため、これらの蓄光領域1m,1nの間に位置する段鼻被覆部1bの確認を容易に行うことができる。
【0037】
しかも、本発明の階段被覆材1は、踏み面被覆部1aの段鼻被覆部側1bの表面に形成された第一蓄光領域1mに含有される蓄光顔料の単位面積当たりの含有量よりも、蹴上げ被覆部1cの表面に形成された第二蓄光領域1nに含有される蓄光顔料の単位面積当たりの含有量を多くすることによって、キセノンランプで400μW/m
2の光を60分間照射したときの12時間後の第二蓄光領域1nのりん光輝度が4mcd/m
2以上、15mcd/m
2以下となるようにしているため、第二蓄光領域1nから発せられる高輝度のりん光を12時間にわたって(換言すれば一晩中)視認することが可能であり、そのため、日没後に地震による津波が発生した場合でも、津波が到達するまでの比較的長い間、第二蓄光領域1nから発せられる高輝度のりん光を主に視認しながら階段2を確認し、安全に階段2を昇って避難することができる。特に、第二蓄光領域1nは第一蓄光領域1mよりも幅が広く、視認性が良いため、階段2の確認が容易である。一方、第一蓄光領域1mは、12時間後のりん光輝度が1mcd/m
2以上、4mcd/m
2未満と高くはないが、初期のりん光輝度は高いので、日没後に火災や地震が発生した時には、第一蓄光領域1mから発せられるりん光を主に視認しながら階段2を見下ろして短時間で階段2を降りて避難することができる。
【0038】
上記のように、本発明の階段被覆材及び階段被覆構造は、災害発生時、特に地震による津波発生時に階段を昇って避難する場合に極めて有効であるため、避難先となる高台や高層建物の階段を被覆する階段被覆材及び階段被覆構造として最適なものである。