【実施例】
【0034】
以下、本発明の実施例について、比較例とともに説明する。被処理土として、下の表1に示す粘土と山砂とを使用した。
【0035】
【表1】
【0036】
この粘土と山砂に、下の表2に示すとおり、水と固化材とアルカリ刺激剤(試料9,18,23を除く)とを、種々の配合量で配合及び混合して、流動化処理土の試料1〜23を作製した。試料1〜8,10〜17,19〜22は本発明の実施例である。試料9,18,23は比較例であり、表2の試料No.に*印を付した。
【0037】
【表2】
【0038】
水として、水道水を使用した。
固化材として、試料1〜8,10〜15,23では水砕スラグを使用し、試料9では高炉セメントを使用し、試料16,18では製鋼スラグを使用し、試料17では徐冷スラグを使用し、試料19〜21では水砕スラグと高炉スラグ微粉末との混合を使用し、試料22では高炉スラグ微粉末を使用した。
アルカリ刺激剤として、試料1〜8,10〜17では消石灰を使用し、試料19〜22ではトリエタノールアミンを使用し、試料9,18,23では特に使用しなかった。トリエタノールアミンは、固化材として使用した高炉スラグ微粉末に、高炉スラグ(水砕スラグ)1トンに対して80グラムの割合で、既に含まれていたものである。すなわち、前述のとおり高炉スラグ微粉末は高炉スラグ(水砕スラグ)を粉砕加工したものであるが、この粉砕の際の粉砕助剤として同割合で加えられたものがトリエタノールアミンである。
【0039】
上記の混合は、まず粘土と水とを混合して泥水とし(その密度を表2に示す)、その泥水に他の成分を加えさらに混合して(その湿潤密度を表2に示す)行った。配合条件は、混合直後において次の3条件を満たすことであったが、表2に示すとおり、いずれの試料1〜23もこの配合条件を満たした。
・湿潤密度が1.5g/cm
3 以上
・日本道路公団基準JHS A 313−1992に準拠して測定した20℃におけるフロー値が80〜280mm
・土木学会基準「プレパックトコンクリートの注入モルタルのブリージング率及び膨張試験法」(JSCE−1986)に準拠して測定したブリージング率が3%未満
【0040】
そして、混合後の試料1〜23について凝結試験を行った。すなわち、混合直後(σ0)と、混合後に20℃の環境下に静置(養生)して1日経過時(σ1)〜51日経過時(σ51)に、一軸圧縮強度を測定して経時的な凝結状況を調べた。その一軸圧縮強度の結果を、下の表3とそれをグラフ化した
図1〜
図3に示す。
【0041】
【表3】
【0042】
上述したとおり、一軸圧縮強度は、0.02N/mm
2 以上である場合には、JIS A 1216(土の一軸圧縮試験)に準拠して測定した。供試体の寸法は、直径50mm×高さ100mmとした。
【0043】
また、一軸圧縮強度は、0.02N/mm
2 未満である場合は、同方法によらず、次に述べる貫入試験の結果から一軸圧縮強度を換算して求めた。貫入試験は、
図4に示すように、ビーカー11に試料Sを2リットル入れ、プッシュプルゲージ13(型番:KN3105344、シャフト断面積3.14mm
2 、最大秤量1.1N)のシャフトを、試料Sに貫入させた時のケージ目盛を読み取った。このプッシュプルゲージの1目盛(最小目盛)は0.02Nであるから、一軸圧縮強度が0.02N/mm
2 未満の場合を測定するということは、1目盛内における表示針の振れを貫入抵抗値として読み取り、それを一軸圧縮強度に換算するということである。貫入抵抗値(1目盛内における表示針の振れの百分率)と一軸圧縮強度との関係を、下の表4とそれをグラフ化した
図5に示す。
【0044】
【表4】
【0045】
貫入抵抗値が50〜90%のとき、ビーカー11の試料Sは固体(但し外部からエネルギーを加えると流動する)であり、表5で換算される一軸圧縮強度は実験値ということができる。貫入抵抗値が10〜40%のとき、ビーカー11の試料Sはゲル状であり、表5で換算される一軸圧縮強度は推定値である。上の表3における0.02N/mm
2 未満の一軸圧縮強度は、こうして貫入試験から表4で換算したものであり、それが推定値である場合には太字で示している。
【0046】
固化材として高炉セメントを使用した試料9(比較例)は、一軸圧縮強度が1日経過時に0.0416N/mm
2 となり、流動性がほぼなくなった。
これに対し、固化材として鉄鋼スラグを使用した試料1〜8,10〜23は、一軸圧縮強度が1日経過時にも2日経過時にも0.02N/mm
2 以下であり、流動性があった。さらに、試料1〜4,10,11,17〜23は、一軸圧縮強度が5日経過時に0.02N/mm
2 以下であり、流動性があった。
【0047】
次に、固化材として鉄鋼スラグを使用しながらもアルカリ刺激剤を加えなかった試料18,23(比較例)は、一軸圧縮強度が51日経過時に0.038N/mm
2 に達せず、凝結(固化)しなかった。
これに対し、固化材として鉄鋼スラグを使用してアルカリ刺激剤を加えた試料1〜8,10〜17,19〜22(実施例)は、一軸圧縮強度が遅くとも51日経過時に0.038N/mm
2 以上となり、凝結(固化)した。
【0048】
以上の実験結果から、次のことが分かった。
(1)被処理土に水と固化材としての鉄鋼スラグ(水砕スラグ、徐冷スラグ、高炉スラグ微粉末、製鋼スラグ)とアルカリ刺激剤(消石灰、トリエタノールアミン)とを配合及び混合することにより、混合直後のフロー値が80〜280mmであり、混合後に20℃の環境下に静置したときの一軸圧縮強度が、1日経過時に0.02N/mm
2 以下であり、51日経過時に0.038〜5N/mm
2 となるものを調整できることを確認した。
(2)固化材として高炉セメントを使用すると、遅延硬化性が得られず、1日後に硬化する。なお、高炉セメントを使用した場合にさらに超遅延剤を添加することも試みたが、添加量を増やしても、本発明で狙ったような遅延硬化性は得られなかった。また、超遅延剤は高価なので、添加量が多くなると経済的にも使用が難しい。
(3)消石灰は、アルカリ刺激剤として作用するほか、増粘効果がありブリージングの抑制になる。
【0049】
以上説明した実施例の遅延硬化型流動化処理土を使用し、亜炭鉱廃坑のような大規模な地下空洞を次の方法で充填することができる。
図6及び
図7に示すように、地盤1に地下空洞2まで到達する打設孔3を形成し、打設孔3に打設機械4のパイプ5を通し、同パイプ5から地下空洞2に実施例の遅延硬化型流動化処理土6を打設する。なお、打設作業は、当日に打設し、その日の終了時に中断し、翌日に打設が再開されるものとする。すなわち、打設作業は、24時間以内の休止時間をおいて断続的に行う。
【0050】
まず、
図6に示すように、地下空洞52の空洞高さが高く、1日の打設量で流動化処理土が空洞天盤まで届かない場合には、1箇所の打設孔3のパイプ5から打設した遅延硬化型流動化処理土6は、上記の遅延硬化性を有するため、当日に打設された遅延硬化型流動化処理土6は、その日に続いて打設された遅延硬化型流動化処理土6によって、また、翌日に打設される遅延硬化型流動化処理土6によって、押し潰されて流動をし続け、
図9に示した従来の一般的な流動化処理土56に比べて、水平に近い緩い勾配で流動する。このため、遅延硬化型流動化処理土6が堆積して打設孔3の高さまで到達するまでに、広い範囲に行き渡る(堆積層に記した数字は流動順序を示している。)。よって、その打設孔3に対して遠く離れた所に次の打設孔3を形成し、その打設孔3にパイプ4を通し直して打設を再開し、これを繰り返せばよい。
【0051】
次に、
図7に示すように、地下空洞52の空洞高さが低く、1日の打設量で流動化処理土が空洞天盤まで届く場合には、1箇所の打設孔3のパイプ5から打設した遅延硬化型流動化処理土6は、上記の遅延硬化性を有するため、
図10に示した従来の一般的な流動化処理土56に比べて、当日に広く流動したうえでパイプ5に達する。そして、翌日以降に続いて打設される遅延硬化型流動化処理土6は、前日のまだ流動性のある遅延硬化型流動化処理土6を側方へ(周囲へ)押し流しながら、地下空洞52に充填される(堆積山に付した数字は打設した土の順序を示している。)。やがて何日か経って、最初に充填した遅延硬化型流動化処理土6が硬化すると、この押し流しながらの充填はできなくなる。そこで、その打設孔3に対して遠く離れた所に次の打設孔3を形成し、その打設孔3にパイプ4を通し直して打設を再開し、これを繰り返せばよい。
【0052】
この地下空洞の充填方法によれば、
図6及び
図7のいずれの場合であっても、次の効果が得られる。
(1)打設孔3の形成数が、
図9及び
図10と比べて少なくて済むため、その形成の手間、時間、コストを削減できる。
(2)打設孔3を替えて打設を再開するたびに必要な段取り替えが減り、その段取り替えの手間と時間を削減できるため、日打設量が多くなり、工期が短くなる。
(3)遅延硬化型流動化処理土6は一日経過してもパイプ内でほとんど硬化しないため、1日の作業終了時においてパイプ5の清掃が不要となり、その手間、時間、コストも削減できる。
(4)安価な鉄鋼スラグを使用するので、高価なセメント系あるいは石灰系の固化材の添加量を節減でき、大規模な地下空洞を充填する場合でも、流動化処理土のコストを小さくできる。
【0053】
なお、打設作業は、1日終了時に中断しないで、打設できなくなるまで連続的に行ってもよく、その場合にも上記と同様の効果が得られる。
【0054】
さらに、実施例の遅延硬化型流動化処理土は、亜炭鉱廃坑のような大規模な地下空洞の充填のみならず、小規模な地下空洞の充填、建設施工後の埋め戻し、構造物への裏込め等の広い用途に使用することができる。例えば、
図8に示すように、建物等の床下空洞21の充填、地中配管廻り22の埋め戻し、地下鉄の路盤下23の充填、道路下空洞24の充填、共同溝周囲25の埋め戻し、擁壁背面26の埋め戻し、山留め27の埋め戻し、さらには、図示しないが地下水路ボックス周囲の充填、新設トンネルの裏込め、廃止されたトンネルの充填等、広い用途に使用することができる。