特開2015-99042(P2015-99042A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ローム株式会社の特許一覧 ▶ 国立大学法人金沢大学の特許一覧

特開2015-99042電池残量推定装置およびそれを用いた電源システム、電子機器
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-99042(P2015-99042A)
(43)【公開日】2015年5月28日
(54)【発明の名称】電池残量推定装置およびそれを用いた電源システム、電子機器
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/36 20060101AFI20150501BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20150501BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20150501BHJP
【FI】
   G01R31/36 A
   H01M10/48 P
   H02J7/00 X
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2013-237934(P2013-237934)
(22)【出願日】2013年11月18日
(71)【出願人】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100133215
【弁理士】
【氏名又は名称】真家 大樹
(72)【発明者】
【氏名】河村 明展
(72)【発明者】
【氏名】小林 芳樹
(72)【発明者】
【氏名】木村 慰作
(72)【発明者】
【氏名】中山 謙二
(72)【発明者】
【氏名】平野 晃宏
【テーマコード(参考)】
2G016
5G503
5H030
【Fターム(参考)】
2G016CB00
2G016CB01
2G016CB21
2G016CB31
2G016CC01
2G016CC03
2G016CC04
2G016CC13
2G016CC16
2G016CC20
2G016CC26
2G016CF06
5G503AA01
5G503BA01
5G503BB01
5G503CA10
5G503EA05
5G503GD06
5H030AA01
5H030AA10
5H030AS03
5H030AS11
5H030FF22
5H030FF41
5H030FF42
5H030FF43
5H030FF44
(57)【要約】
【課題】高精度に電池残量を推定可能な電池残量推定装置を提供する。
【解決手段】複数N個(Nは2以上の整数)の推定器302_1〜302_Nには、異なる残量範囲が担当範囲として割り当てられており、各推定器は、同じ入力データおよび同じ手法にもとづいて二次電池の残量の推定値を示す中間推定値S1を生成するよう構成されている。出力制御部310は、N個の推定器302_1〜302_Nにより生成されたN個の中間推定値S1_1〜S1_Nのうちひとつを選択し、選択された中間推定値S1に応じた最終推定値S2を出力する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池の残量推定装置であって、
複数N個(Nは2以上の整数)の推定器であって、各推定器には異なる残量範囲が担当範囲として割り当てられており、各推定器は、同じ入力データおよび同じ手法にもとづいて前記二次電池の残量の推定値を示す中間推定値を生成するよう構成されている、複数の推定器と、
前記N個の推定器により生成されたN個の中間推定値のうちひとつを選択し、選択された前記中間推定値に応じた最終推定値を出力する出力制御部と、
を備えることを特徴とする残量推定装置。
【請求項2】
前記出力制御部は、前記N個の推定器のうち少なくともひとつを基準推定器とし、当該基準推定器により生成された中間推定値にもとづいて、前記N個の推定器により生成されたN個の中間推定値のうちひとつを選択することを特徴とする請求項1に記載の残量推定装置。
【請求項3】
前記出力制御部は、前記基準推定器が生成した前記中間推定値が、j番目(1≦j≦N)の推定器の担当範囲に含まれるとき、j番目の推定器が生成した前記中間推定値に応じた前記最終推定値を出力することを特徴とする請求項2に記載の残量推定装置。
【請求項4】
i番目(1≦i<N)と(i+1)番目の推定器は、担当範囲がオーバーラップするよう構成されることを特徴とする請求項2に記載の残量推定装置。
【請求項5】
前記残量推定装置は、
(N−1)個の平均部であって、i番目の平均部は、i番目の推定器からの中間推定値と(i+1)番目の推定器からの中間推定値の平均である平均推定値を生成するよう構成される、(N−1)個の平均部をさらに備え、
前記出力制御部は、前記基準推定器により生成された中間推定値にもとづいて、前記N個の推定器により生成されたN個の中間推定値および前記(N−1)個の平均部により生成された(N−1)個の平均推定値のうちひとつを選択し、選択された推定値に応じた最終推定値を出力することを特徴とする請求項4に記載の残量推定装置。
【請求項6】
前記出力制御部は、前記基準推定器が生成した前記中間推定値が、j番目(1≦j≦N)の推定器のみが割り当てられる単独範囲に含まれるとき、j番目の推定器が生成した前記中間推定値を、前記最終推定値として出力することを特徴とする請求項4または5に記載の残量推定装置。
【請求項7】
前記出力制御部は、前記基準推定器が生成した前記中間推定値が、j番目(1≦j<N)と(j+1)番目の推定器のオーバーラップ範囲に含まれるとき、j番目の平均部により生成された前記平均推定値を、前記最終推定値として出力することを特徴とする請求項5に記載の残量推定装置。
【請求項8】
前記出力制御部は、
(i)前記基準推定器が生成した前記中間推定値が、j番目(1≦j<N)と(j+1)番目の推定器のオーバーラップ範囲に含まれ、かつj番目の平均部により生成された前記平均推定値がそのオーバーラップ範囲に含まれるとき、j番目の平均部により生成された前記平均推定値を、前記最終推定値として出力し、
(ii)前記基準推定器が生成した前記中間推定値が、j番目(1≦j<N)と(j+1)番目の推定器のオーバーラップ範囲に含まれ、かつj番目の平均部により生成された前記平均推定値がk番目のみが割り当てられる単独範囲に含まれるとき、k番目の推定器により生成された前記中間推定値を、前記最終推定値として出力することを特徴とする請求項5に記載の残量推定装置。
【請求項9】
前記残量推定装置は、
(N−1)個の加重平均部であって、i番目の加重平均部は、i番目の推定器からの中間推定値と(i+1)番目の推定器からの中間推定値の加重平均である平均推定値を生成するよう構成される、(N−1)個の加重平均部と、
(N−1)個の単純平均部であって、i番目の単純平均部は、i番目の推定器からの中間推定値と(i+1)番目の推定器からの中間推定値の単純平均値を生成するよう構成される、(N−1)個の単純平均部と、
をさらに備え、
前記出力制御部は、前記基準推定器により生成された中間推定値および前記(N−1)個の単純平均部により生成された(N−1)個の単純平均値にもとづいて、前記N個の推定器により生成されたN個の中間推定値および前記(N−1)個の加重平均部により生成された(N−1)個の平均推定値のうちひとつを選択し、選択された推定値に応じた最終推定値を出力することを特徴とする請求項4に記載の残量推定装置。
【請求項10】
前記出力制御部は、
(i)前記基準推定器が生成した前記中間推定値が、j番目(1≦j≦N)の推定器のみが割り当てられた単独範囲に含まれるとき、j番目の推定器が生成した前記中間推定値を、前記最終推定値として出力し、
(ii)前記基準推定器が生成した前記中間推定値が、j番目(1≦j<N)と(j+1)番目の推定器のオーバーラップ範囲に含まれ、かつj番目の単純平均部により生成された前記単純平均値がそのオーバーラップ範囲に含まれるとき、j番目の加重平均部により生成された前記平均推定値を、前記最終推定値として出力し、
(iii)前記基準推定器が生成した前記中間推定値が、j番目(1≦j<N)と(j+1)番目の推定器のオーバーラップ範囲に含まれ、かつj番目の単純平均部により生成された前記単純平均値がk番目の推定器のみが割り当てられた単独範囲に含まれるとき、k番目の推定器により生成された前記中間推定値を、前記最終推定値として出力することを特徴とする請求項9に記載の残量推定装置。
【請求項11】
前記N個の推定器には、前記入力データが同時に入力されることを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載の残量推定装置。
【請求項12】
前記N個の推定器の前段に設けられ、前記入力データを受け、前記N個の推定器に選択的に出力するゲート回路をさらに備えることを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載の残量推定装置。
【請求項13】
N=3であり、2番目の推定器が、前記基準推定器であることを特徴とする請求項2から10のいずれかに記載の残量推定装置。
【請求項14】
前記基準推定器は、予め定められていることを特徴とする請求項2から10のいずれかに記載の残量推定装置。
【請求項15】
前記基準推定器は、前記N個の推定器の中から動的に選択されることを特徴とする請求項2から10のいずれかに記載の残量推定装置。
【請求項16】
前記N個の推定器は、ニューラルネットワークを用いて構成されることを特徴とする請求項1から15のいずれかに記載の残量推定装置。
【請求項17】
前記N個の推定器はそれぞれ、それぞれの担当範囲において、所望の精度が得られるように、内部のパラメータが個別にチューニングされていることを特徴とする請求項1から16のいずれかに記載の残量推定装置。
【請求項18】
前記入力データは、少なくとも、電池電圧、電池の電流、温度および、異なる時刻における前記電池電圧の差分を含むことを特徴とする請求項1から17のいずれかに記載の残量推定装置。
【請求項19】
前記二次電池の残量を、前記N個の推定器よりも低い精度で推定可能な補助推定器をさらに備え、
前記出力制御部は、前記補助推定器により生成された推定値にもとづいて、前記N個の推定器により生成されたN個の中間推定値のうちひとつを選択することを特徴とする請求項1に記載の残量推定装置。
【請求項20】
二次電池パックと、
請求項1から19のいずれかに記載の残量推定装置と、
を備えることを特徴とする電源システム。
【請求項21】
二次電池パックと、
請求項1から19のいずれかに記載の残量推定装置と、
を備えることを特徴とする電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池の残量推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話端末、デジタルカメラ、タブレット端末、ノート型パーソナルコンピュータをはじめとするさまざまな電池駆動型の電子機器において、システム制御や信号処理を行うCPU(Central Processing Unit)、液晶パネル、無線通信モジュール、その他のアナログ、デジタル回路などの各電子回路は、二次電池からの電力供給を受けて動作する。
【0003】
電池駆動型の電子機器では、電池残存容量(以下、単に残量ともいう)の検出が欠かせない機能となっている。電池の残存容量の検出方法としては、電荷積算による手法と、電池状態からの推定による手法と、の2つが知られている。
【0004】
電荷積算による手法は、電池の充放電電流を検出し、充放電電流を積算(時間積分)することにより、電池に流入し、電池から流出する電荷量を計算する。
電池状態からの推定による手法では、たとえば電池電圧などの情報と、電池の相対残量の対応関係をあらかじめ取得しておき、取得された情報から、相対残量を推定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2012−533759号公報
【特許文献2】特開2011−064471号公報
【特許文献3】特開2010−019758号公報
【特許文献4】特開平5−323001号公報
【特許文献5】特開2011−123033号公報
【特許文献6】特開2012−32267号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電池の相対残量を推定する方法としては、具体的には、電池の等価回路をモデリングし、等価回路から電池の開放電圧(Open Circuit Voltage:OCVともいう)を計算し、OCVから電池残量を推定する手法などが知られている。しかしながら従来では、0〜100%の広範な範囲にわたり、高精度に電池残量を推定することは困難であった。
【0007】
本発明はかかる課題に鑑みてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、高精度に電池残量を推定可能な電池残量推定装置の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある態様は、二次電池の残量推定装置に関する。電池残量推定装置は、複数N個(Nは2以上の整数)の推定器と、出力制御部と、を備える。N個の推定器は異なる残量範囲が担当範囲として割り当てられており、各推定器は、同じ入力データおよび同じ手法にもとづいて二次電池の残量の推定値を示す中間推定値を生成するよう構成されている。出力制御部は、N個の推定器により生成されたN個の中間推定値のうちひとつを選択し、選択された中間推定値に応じた最終推定値を出力する出力制御部と、を備える。
【0009】
この態様によると、2次電池の残量を複数の範囲に分割し、それらを複数の推定器に割り当て、各推定器を、対応する担当範囲において高精度となるよう構成することにより、幅広い範囲において高精度で電池残量を推定できる。
【0010】
出力制御部は、N個の推定器のうち少なくともひとつを基準推定器とし、当該基準推定器により生成された中間推定値にもとづいて、N個の推定器により生成されたN個の中間推定値のうちひとつを選択してもよい。
この態様によると、高精度な中間推定値にもとづいて、使用する推定器を選択することができるため、高精度で電池残量を推定できる。
【0011】
出力制御部は、基準推定器が生成した中間推定値が、j番目(1≦j≦N)の推定器の担当範囲に含まれるとき、j番目の推定器が生成した中間推定値に応じた最終推定値を出力してもよい。
【0012】
i番目(1≦i<N)と(i+1)番目の推定器は、担当範囲がオーバーラップするよう構成されてもよい。
【0013】
残量推定装置は、(N−1)個の平均部をさらに備えてもよい。i番目の平均部は、i番目の推定器からの中間推定値と(i+1)番目の推定器からの中間推定値の平均である平均推定値を生成するよう構成されてもよい。出力制御部は、基準推定器により生成された中間推定値にもとづいて、N個の推定器により生成されたN個の中間推定値および(N−1)個の平均部により生成された(N−1)個の平均推定値のうちひとつを選択し、選択された中間推定値に応じた最終推定値を出力してもよい。
【0014】
出力制御部は、基準推定器が生成した中間推定値が、j番目(1≦j≦N)の推定器の担当範囲に含まれるとき、j番目の推定器が生成した中間推定値を、最終推定値として出力してもよい。
【0015】
出力制御部は、基準推定器が生成した中間推定値が、j番目(1≦j<N)と(j+1)番目の推定器のオーバーラップ範囲に含まれるとき、j番目の平均部により生成された平均推定値を、最終推定値として出力してもよい。
各推定器は、それぞれに割り当てられた範囲の中央において精度が高く、範囲の境界付近、すなわちオーバーラップ範囲において精度が悪化する場合がある。この場合に、オーバーラップ範囲については、2つの推定器の推定値の平均値を用いることにより、精度を高めることができる。また推定器の切りかえにともなう不連続変化を緩和できる。
【0016】
出力制御部は、(i)基準推定器が生成した中間推定値が、j番目(1≦j<N)と(j+1)番目の推定器のオーバーラップ範囲に含まれ、かつj番目の平均部により生成された平均推定値がそのオーバーラップ範囲に含まれるとき、j番目の平均部により生成された平均推定値を、最終推定値として出力してもよい。また出力制御部は、(ii)基準推定器が生成した中間推定値が、j番目(1≦j<N)と(j+1)番目の推定器のオーバーラップ範囲に含まれ、かつj番目の平均部により生成された平均推定値がk番目の推定器のみが割り当てられる単独範囲に含まれるとき、k番目の推定器により生成された中間推定値を、最終推定値として出力してもよい。
【0017】
残量推定装置は、(N−1)個の加重平均部と、(N−1)個の単純平均部と、をさらに備えてもよい。i番目の加重平均部は、i番目の推定器からの中間推定値と(i+1)番目の推定器からの中間推定値の加重平均である平均推定値を生成するよう構成される。i番目の単純平均部は、i番目の推定器からの中間推定値と(i+1)番目の推定器からの中間推定値の単純平均値を生成するよう構成される。
出力制御部は、基準推定器により生成された中間推定値および(N−1)個の単純平均部により生成された(N−1)個の単純平均値にもとづいて、N個の推定器により生成されたN個の中間推定値および(N−1)個の加重平均部により生成された(N−1)個の平均推定値のうちひとつを選択し、選択された推定値に応じた最終推定値を出力してもよい。
【0018】
出力制御部は、(i)基準推定器が生成した中間推定値が、j番目(1≦j≦N)の推定器のみが割り当てられる単独範囲に含まれるとき、j番目の推定器が生成した中間推定値を、最終推定値として出力してもよい。また出力制御部は、(ii)基準推定器が生成した中間推定値が、j番目(1≦j<N)と(j+1)番目の推定器のオーバーラップ範囲に含まれ、かつj番目の単純平均部により生成された単純平均値がそのオーバーラップ範囲に含まれるとき、j番目の加重平均部により生成された平均推定値を、最終推定値として出力してもよい。また出力制御部は、(iii)基準推定器が生成した中間推定値が、j番目(1≦j<N)と(j+1)番目の推定器のオーバーラップ範囲に含まれ、かつj番目の単純平均部により生成された単純平均値がk番目の推定器のみが割り当てられた単独範囲に含まれるとき、k番目の推定器により生成された中間推定値を、最終推定値として出力してもよい。
【0019】
N個の推定器には、入力データが同時に入力されてもよい。
【0020】
ある態様の電池残量推定装置は、N個の推定器の前段に設けられ、入力データを受け、N個の推定器に選択的に出力するゲート回路をさらに備えてもよい。
この場合、電池残量に応じて、必要最低限の推定器のみを使用することにより、演算コスト、消費電力を低減できる。
【0021】
N=3であり、2番目の推定器が、基準推定器であってもよい。
【0022】
基準推定器は、予め定められていてもよい。
【0023】
基準推定器は、N個の推定器の中から動的に選択されてもよい。
【0024】
N個の推定器は、ニューラルネットワークを用いて構成されてもよい。
【0025】
N個の推定器はそれぞれ、それぞれの担当範囲において、所望の精度が得られるように、内部のパラメータが個別にチューニングされていてもよい。
【0026】
入力データは、少なくとも、電池電圧、電池の電流、温度および、異なる時刻における電池電圧の差分を含んでもよい。
異なる時刻における電池電圧を考慮することにより、電池の劣化を反映させることができる。
【0027】
ある態様の残量推定装置は、二次電池の残量を、N個の推定器よりも低い精度で推定可能な補助推定器をさらに備えてもよい。出力制御部は、補助推定器により生成された推定値にもとづいて、N個の推定器により生成されたN個の中間推定値のうちひとつを選択してもよい。
【0028】
本発明の別の態様は、電源システムに関する。電源システムは、二次電池パックと、上述のいずれかの電池残量推定装置と、を備えてもよい。
【0029】
本発明の別の態様は、電子機器に関する。電子機器は、二次電池パックと、上述のいずれかの電池残量推定装置と、を備えてもよい。
【0030】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0031】
本発明のある態様によれば、高精度に電池残量を推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】実施の形態に係る残量推定装置を備える電源システムのブロック図である。
図2】第1の実施例に係る残量推定装置の構成を示すブロック図である。
図3】2番目の推定器の残量推定値(中間推定値)を示す図である。
図4】第1の実施例の残量推定のアルゴリズムを示すフローチャートである。
図5】第3の実施例に係る残量推定装置の構成を示すブロック図である。
図6】第3の実施例の残量推定のアルゴリズムを示すフローチャートである。
図7】第4の実施例の残量推定のアルゴリズムの一部を示すフローチャートである。
図8】第5の実施例に係る残量推定装置の構成を示すブロック図である。
図9】第5の実施例の残量推定のアルゴリズムの一部を示すフローチャートである。
図10】第6の実施例に係る残量推定装置の構成を示すブロック図である。
図11図11(a)、(b)は、第6の実施例の残量推定のアルゴリズムの一部を示すフローチャートである。
図12】第7の実施例に係る残量推定装置の構成を示すブロック図である。
図13】電源システムを備える電子機器の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0034】
本明細書において、「部材Aが、部材Bと接続された状態」とは、部材Aと部材Bが物理的に直接的に接続される場合や、部材Aと部材Bが、それらの電気的な接続状態に実質的な影響を及ぼさない、あるいはそれらの結合により奏される機能や効果を損なわせない、その他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
同様に、「部材Cが、部材Aと部材Bの間に設けられた状態」とは、部材Aと部材C、あるいは部材Bと部材Cが直接的に接続される場合のほか、それらの電気的な接続状態に実質的な影響を及ぼさない、あるいはそれらの結合により奏される機能や効果を損なわせない、その他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0035】
また本明細書において、電圧信号、電流信号、あるいは抵抗に付された符号は、必要に応じてそれぞれの電圧値、電流値、あるいは抵抗値を表すものとする。
【0036】
図1は、実施の形態に係る電源管理システム100を備える電子機器500のブロック図である。
電源システム100は、電池駆動型の電子機器500に搭載される。電源システム100は、二次電池パック200、充電回路104、電流検知抵抗器106、抵抗108、バッテリマネージメント回路110、パワーマネージメント回路120、残量推定装置300を備える。
【0037】
二次電池パック200は、たとえばリチウムイオン電池であり、電池セル(単電池)202と、保護回路204と、サーミスタ206を含み、電池セル202の電力出力を外部に取り出すため、正極端子208と、負極端子210を有する。
【0038】
サーミスタ206の一端は電池セルの負極端子210に接続され、他方は温度検知端子212に接続されている。このようにサーミスタ206を二次電池パック200に内蔵するのは一例であり、電池セル202の温度を計測するために、機器の電池ホルダ側にサーミスタまたは他の種類の温度センサ等を、電池パックに接触するように取り付けることも可能である。
【0039】
直流(DC)電力入力端子102には、外部電源(電源アダプタともいう、不図示)が着脱可能となっている。外部電源が接続された状態において、DC電力入力端子102には外部DC電圧VEXTが供給される。
【0040】
パワーマネージメント回路120は、二次電池パック200からの電池電圧VBATおよび外部電源からのDC電圧VEXTを受け、図示しないメインプロセッサやその他の周辺回路に電源電圧を供給する。
【0041】
パワーマネージメント回路120は、ひとつ、あるいは複数チャンネルCH1〜CHNの電源回路を含む。各チャンネルの電源回路は、負荷ごとに設けられており、電池電圧VBATおよびDC電圧VEXTの一方をシステム電圧VSYSとして選択し、それを所定レベルに安定化し、対応する負荷にDC電源電圧を供給する。たとえば、第1チャンネルCH1の電源回路は、メインプロセッサに対して電源電圧VDDを供給する。別のチャンネルの電源回路は、図示しない液晶ドライバに電源電圧を供給する。電源回路は、リニアレギュレータ、DC/DCコンバータ、チャージポンプ回路などでありえる。
【0042】
またパワーマネージメント回路120は、複数のチャンネルCH1〜CHNそれぞれの電圧出力の起動・停止タイミングや供給電力の管理を行う。
【0043】
充電回路104は、DC電力入力端子102に有効な外部DC電圧VEXTが供給された状態において、電池セル202の残存容量が減少した場合には、BAT+端子を介して電池セル202に充電電流ICHGを供給することにより、二次電池パック200を充電する。
【0044】
充電回路104は、充電電流ICHGを一定に安定化する定電流(CC:Constant Current)モードと、電池電圧VBATを一定値に安定化させる定電圧(CV:Constant Voltage)モードと、が切りかえ可能となっている。充電回路104はリニア電源で構成してもよいし、スイッチング電源で構成してもよく、その構成は限定されない。
【0045】
バッテリマネージメント回路110は、電池セル202の出力電圧(電池電圧)VBAT、電池セル202への充電・放電電流(以下、充放電電流ともいう)IBAT、電池セル202の温度Tを計測し、デジタルデータに変換する。これらのデータは、残量推定装置300に入力される。
【0046】
バッテリマネージメント回路110は、その内部のA/D変換器(不図示)を使用して、BAT+端子とBAT−端子の間に生ずる電池電圧VBATを、デジタル値に変換する。バッテリマネージメント回路110は、このデジタル値を、電池電圧VBATを示す電池電圧値DVとして取得する。
【0047】
電流検知抵抗器106は、電池セル202の充放電電流IBATの経路上に、電池セル202と直列に挿入される。本実施の形態において電流検知抵抗器106は、負極端子210と接地ラインの間に設けられるが、その場所は特に限定されない。たとえば電流検知抵抗器106は、正極端子208側に設けられてもよい。
【0048】
電池セル202の充放電電流IBATは、電流検知抵抗器106を流れる。その結果、電流検知抵抗器106の両端には、充放電電流IBATに比例した電圧降下(電流検出電圧という)VIが発生する。バッテリマネージメント回路110は、電圧降下VIをデジタル値に変換する。
【0049】
電流検知抵抗器106の抵抗値は既知である。そこで二次電池パック200は、電流検出電圧VIに応じたデジタル値と電流検知抵抗器106の抵抗値にもとづいて、充放電電流IBATを示す電流検出値DIを生成する。電流検出値DIの大きさは充放電電流IBATの大きさを、電流検出値DIの符号は充放電電流IBATの向きを表す。
【0050】
二次電池パック200の温度検知端子212は、外部の抵抗108を介して一定電圧にプルアップされる。この抵抗108を介して、二次電池パック200に内蔵されるサーミスタ206に電流が流れることにより、サーミスタ206の両端間、つまり温度検知端子212と負極端子210の間には、サーミスタ206の抵抗値に応じた温度検出電圧VTが発生する。サーミスタ206の抵抗値は、電池セル202の温度変化に応じて変化するため、温度検出電圧VTは、電池セル202の温度と1対1で対応づけられる。バッテリマネージメント回路110は、TH端子とBAT−端子の間の温度検出電圧VTを、電池セル202の温度を示すデジタルの温度値DTに変換する。
【0051】
バッテリマネージメント回路110は、電池電圧VBAT、電流検出電圧VI、温度検出電圧VTごとにA/Dコンバータを含んでもよいし、単一のA/D変換器を3つの電圧に対して時分割で共用してもよい。また、電力損失を低減するために電流検知抵抗器106の抵抗値は極力小さく設計されることが好ましい。したがって充放電電流IBATが小さいとき、電流検知抵抗器106の両端間に生ずる電流検出電圧VIは微少となる。そこでA/Dコンバータの前段には、電流検出電圧VIを増幅するアンプを挿入してもよい。
【0052】
バッテリマネージメント回路110により測定された計測値、すなわち電池セルの出力電圧値DV、充放電電流値DI、電池セルの温度値DTは、充電回路104に出力され、充電動作制御に利用される。またこれらのデータは、残量推定装置300に入力され、二次電池パック200の残量の推定に利用される。
【0053】
そのほか、バッテリマネージメント回路110は、(i)二次電池パック200を着脱したときの装着検出および脱離検出、(ii)電池セル202の出力である電池電圧VBATの過剰な低電圧検出、(iii)電池セル202の使用可・不可検出(デッドバッテリ検出)などを行い、検出した電池セル202の状態を、充電回路104などに伝達する。充電回路104は、この電池セル202の状態情報をもとに、充電動作を制御してもよい。
【0054】
残量推定装置300は、バッテリマネージメント回路110により取得されたデータ、すなわち、電池電圧VBAT、電池電流IBAT、温度Tにもとづいて、電池残量を推定する。
【0055】
以上が電源システム100の全体構成である。続いて残量推定装置300の構成について、いくつかの実施例をもとに説明する。
【0056】
(第1の実施例)
図2は、第1の実施例に係る残量推定装置300の構成を示すブロック図である。
残量推定装置300は、入力データDV、DI、DTにもとづいて、二次電池パック200の残量を推定する。残量推定装置300は、複数N個(Nは2以上の整数)の推定器302_1〜302_Nと、出力制御部310と、を備える。本実施の形態では、N=3の場合を説明する。
【0057】
推定器302_1〜302_Nはそれぞれ、異なる残量範囲が、担当範囲として割り当てられる。言い換えれば、N個の推定器302_1〜302_Nはそれぞれ、それぞれの担当範囲において、所望の精度が得られるように設計されている。たとえば所望の精度は2%程度としてもよい。
【0058】
本実施例において、N個の推定器302_1〜302_Nそれぞれの担当範囲は、オーバーラップせずに定められる。たとえば、1番目の推定器302_1の担当範囲RNG1は0〜25%であり、2番目の推定器302_2の担当範囲RNG2は25〜75%であり、3番目の推定器302_3の担当範囲RNG3は75〜100%となるよう設計される。
【0059】
推定器302_1〜302_Nは、同じ入力データおよび同じ手法にもとづいて、二次電池200の残量の推定値を示す中間推定値S1_1〜S1_Nを生成するよう構成されている。推定器302の構成、アルゴリズムは特に限定されないが、たとえばニューラルネットワークを用いて構成してもよい。
「同じ手法」とは、具体的な回路構成や、計算式中のパラメータが同一であることを要求するものではなく、たとえばニューラルネットワークを用いた手法が共通していれば、隠れユニットの個数が推定器ごとに異なっていてもよいし、ユニット間の結合係数や内部関数が異なっていてもよい。
【0060】
この場合、i番目の推定器302_iの内部のパラメータは、i番目の残量範囲RNGiにおいて誤差が設計値(たとえば2%)より小さくなるようにチューニングされることとなる。
【0061】
推定器302は、入力データとして、DV、DI、DTすなわち、電池電圧VBAT、電池に流れる充放電電流IBAT、温度Tを受ける。推定器302は、その内部において、異なる時刻における電池電圧VBATの差分deltaDV=DVk-DVk-1(=VBATk-VBATk-1)を演算する。DVkは、離散的な時間系列におけるk番目の時刻t = k * dTにおけるDVの値を表す。たとえばdTはサンプリング周期である。deltaDVは、電池電圧VBATの時間変動を表しており、以下、電圧降下とも称する。なおdeltaDVは、推定器302の内部ではなく、図1のバッテリマネージメント回路110において計算してもよい。
【0062】
推定器302は、DV,DI,DT,deltaDVを入力、相対残量S1を出力とするニューラルネットワークを用いて構成される。そして、i番目の推定器302_iは、i番目の残量範囲RNGiにおいて誤差が設計値以下となるように、結合係数や内部関数が、事前の学習によりチューニングされる。具体的には、電池のサンプルを用いて、DV,DI,DT,deltaDVの異なる組み合わせと、それに対応する相対残量を多数測定し、測定結果を用いてチューニングが行われる。
【0063】
図3は、2番目の推定器302_2の残量推定値(中間推定値)を示す図である。横軸は、電池の正しい正規化残量(相対残量)を、縦軸は、電流量が0.8C以下における、推定器302_iにより生成される中間推定値S1_2を示す。図に示されるプロットは、DV,DT,DI,deltaDVの組み合わせを示す。推定誤差がゼロのとき、中間推定値S1と正規化残量の関係は、傾き1の直線となるが、現実的には、有限の誤差が発生することが理解される。図3の例では、推定器302_2の担当範囲RNG2において、中間推定値S1_2は、±1.8%の精度を有している。担当範囲RNG2の外側(すなわち別の推定器302_1、302_3の担当範囲)において、推定器302_2の精度は悪化する。
【0064】
出力制御部310は、N個の推定器302_1〜302_Nにより生成されたN個の中間推定値S1_1〜S1_Nのうちひとつを選択し、選択された中間推定値に応じた最終推定値S2を出力する。
【0065】
出力制御部310は、N個の推定器302のうち少なくともひとつを基準推定器とし、当該基準推定器により生成された中間推定値にもとづいて、N個の推定器により生成されたN個の中間推定値S1_1〜S1_Nのうちひとつを選択する。
【0066】
基準推定器は、あらかじめ定められてもよい。本実施の形態では、N=3個の推定器302のうち、中央すなわち2番目の推定器302_2が基準推定器(302_Rとも記す)として使用される。
【0067】
出力制御部310は、基準推定器302_2が生成した中間推定値S1_2(基準推定値S1_Rともいう)が、j番目(1≦j≦N)の推定器302_jの担当範囲RNGjに含まれるとき、j番目の推定器302_jが生成した中間推定値S1_jに応じた最終推定値S2を出力する。
【0068】
最終推定値S2は、選択された中間推定値S1_jそのものでもあってもよいし、中間推定値S1_jに対して所定の演算処理を施した値であってもよい。以下では、説明の簡潔化と理解の容易化のため、S2=S1_jとする。
【0069】
以上が残量推定装置300の構成である。続いてその動作を説明する。
【0070】
図4は、第1の実施例の残量推定のアルゴリズムを示すフローチャートである。フローチャートの処理の順序は、信号処理に支障をきたさない範囲において入れ替え可能である。
【0071】
はじめに、入力データDV,DI,DTおよびdeltaDVが取得される(S100)。続いて、推定器302_1〜302_Nそれぞれにおいて中間推定値S1_1〜S1_Nが生成される(S102)。
【0072】
そして、基準推定器302_2が生成した基準推定値S1_2が、それ自身の担当範囲RNG2に含まれるとき(S104のY)、中間推定値S1_2が選択され、最終推定値S2とされる(S106)。
【0073】
基準推定値S1_2が、担当範囲RNG1に含まれるとき(S104のN、S108のY)、推定器302_1が生成した中間推定値S1_1が選択され、最終推定値S2とされる(S110)。また基準推定値S1_2が、担当範囲RNG3に含まれるとき(S108のN)、推定器302_3が生成した中間推定値S1_3が選択され、最終推定値S2とされる(S112)。
【0074】
以上が残量推定装置300の動作である。
この残量推定装置300によれば、2次電池の残量を複数の範囲に分割し、それらを複数の推定器に割り当て、各推定器を、対応の担当範囲において高精度となるよう構成することにより、幅広い範囲において高精度で電池残量を推定できる。
【0075】
加えて本実施例では、使用すべき推定器の選択に、高精度な推定器により生成される中間推定値を利用する点にも留意すべきである。つまり、仮に各推定器が生成する中間推定値が高精度であったとしても、中間推定器の選択を誤ると、最終推定値の誤差は大きくなってしまう。この観点に関して本実施例では、推定器の選択に、高精度な中間推定値を使用しているため、最適な推定器、つまり最適な中間推定値を正確に選択することができる。
【0076】
また、推定器302の入力データとして、電池電圧VBATの時間変動成分deltaDVを含めることにより、電池の劣化を、推定値に反映させることができる。
(第2の実施例)
第2の実施例では、隣接する2個の推定器の担当範囲はオーバーラップ(重複)している。一般化すれば、i番目(1≦i<N)と(i+1)番目の推定器それぞれの担当範囲RNGiとRNG(i+1)は、オーバーラップしている。
【0077】
たとえば、1番目の推定器302_1の担当範囲RNG1は、0〜30%、2番目の推定器302_2の担当範囲RNG2は25〜75%、3番目の推定器302_3の担当範囲RNG3は70〜100%としてもよい。
【0078】
担当範囲をオーバーラップさせることにより、より高精度な残量推定が可能となる。
【0079】
(第3の実施例)
図5は、第3の実施例に係る残量推定装置300aの構成を示すブロック図である。残量推定装置300aは、図2の残量推定装置300に加えて、(N−1)個の平均部304_1〜304_N−1を備える。本実施例ではN=3であるから、2個の平均部304が設けられる。
i番目の平均部304_iは、i番目の推定器302からの中間推定値S1_iと(i+1)番目の推定器302_(i+1)からの中間推定値S1_(i+1)の平均である平均推定値S3_iを生成するよう構成される。
【0080】
平均部304は、単純平均を計算してもよい。
【0081】
あるいはより精度を高めるために、重み付け平均(加重平均)を計算してもよい。
【0082】
出力制御部310aは、基準推定器302_Rにより生成された中間推定値S1_2にもとづいて、N個の推定器302_1〜302_Nにより生成されたN個の中間推定値S1_1〜S1_Nおよび(N−1)個の平均部304_1〜304_(N−1)により生成された(N−1)個の平均推定値S3_1〜S3_(N−1)のうちひとつを選択し、選択された中間推定値に応じた最終推定値S2を出力する。
【0083】
より具体的には、出力制御部310aは、基準推定器302_Rが生成した中間推定値S1_2が、j番目(1≦j≦N)の推定器302_jのみが割り当てられる担当範囲(単独範囲ともいう)に含まれるとき、j番目の推定器302_jが生成した中間推定値S1_jを、最終推定値S2として出力する。
【0084】
また出力制御部310aは、基準推定器302_Rが生成した中間推定値S1_2が、j番目(1≦j<N)と(j+1)番目の推定器302_j、302_(j+1)のオーバーラップ範囲に含まれるとき、j番目の平均部304_jにより生成された平均推定値S3_jを、最終推定値S2として出力する。
【0085】
以上が残量推定装置300aの構成である。続いてその動作を説明する。図6は、第3の実施例の残量推定のアルゴリズムを示すフローチャートである。
【0086】
処理S200、S202は、図4のS100、S102と同様である。
【0087】
基準推定値S1_2が、2番目の範囲RNG2に含まれ(S204のY)、かつ1番目の範囲RNG1にも含まれるとき(S206のY)、平均推定値S3_1が計算され(S208)、その値が最終推定値S2となる(S210)。
【0088】
基準推定値S1_2が、2番目の範囲RNG2に含まれ(S204のY)、かつ3番目の範囲RNG3にも含まれるとき(S206のN、S212のY)、平均推定値S3_2が計算され(S214)、その値が最終推定値S2となる(S216)。
【0089】
基準推定値S1_2が、2番目の推定器302_2の単独範囲に含まれるとき(S204のY、S206のY、S212のN)、基準推定値S1_2が、最終推定値S2となる(S218)。
【0090】
基準推定値S1_2が、1番目の推定器302_1の単独範囲に含まれるとき(S204のN、S220のY)、中間推定値S1_1が最終推定値S2となる(S222)。
【0091】
基準推定値S1_2が、3番目の推定器302_3の単独範囲に含まれるとき(S204のN、S220のN)、中間推定値S1_3が最終推定値S2となる(S224)。
【0092】
以上が残量推定装置300aの動作である。
各推定器により生成される中間推定値は、その担当範囲の両端において精度が低下する場合がある。この場合には、隣接する推定器の担当範囲をオーバーラップさせ、オーバーラップ範囲において、2つの推定器により生成された中間推定値の平均値を使用することにより、さらに精度を高めることができる。
【0093】
(第4の実施例)
第4の実施例に係る残量推定装置300は、第3の実施例に係る残量推定装置300aと同様に構成され、出力制御部310による最終推定値の生成アルゴリズムが異なっている。
【0094】
第4の実施例において、出力制御部310は、基準推定器302_2が生成した中間推定値S1_2が、j番目(1≦j<N)と(j+1)番目の推定器302_j、302_(j+1)のオーバーラップ範囲に含まれ、かつj番目の平均部304_jにより生成された平均推定値S3_jが、k番目の推定器302_kのみが割り当てられた単独範囲に含まれるとき、k番目の推定器により生成された中間推定値S1_kを、最終推定値S2として出力する。
【0095】
図7は、第4の実施例の残量推定のアルゴリズムの一部を示すフローチャートである。
【0096】
ステップS208において、平均推定値S3_1が計算される。そして、平均推定値S3_1が、第1推定器302_1と第2推定器302_2のオーバーラップ範囲に含まれる場合(S300のY)、S2=S3_1とされる(S210)。
平均推定値S3_1が、第1推定器302_1と第2推定器302_2のオーバーラップ範囲に含まれない場合(S300のN)、言い換えれば、平均推定値S3_1が、第1推定器302_1の単独範囲に含まれる場合、中間推定値S1_1が最終推定値S2となる(S222)。図7には図示しないが、平均推定値S3_1が、第2推定器302_2の単独範囲に含まれる場合、中間推定値S1_2を最終推定値S2としてもよい(図6のS218)。
【0097】
同様に、ステップS214において、平均推定値S3_2が計算される。そして平均推定値S3_2が、第2推定器302_2と第3推定器302_3のオーバーラップ範囲に含まれる場合(S302のY)、S2=S3_2とされる(S216)。
【0098】
平均推定値S3_2が、第2推定器302_2と第3推定器302_3のオーバーラップ範囲に含まれない場合(S302のN)、言い換えれば、平均推定値S3_2が、第3推定器302_3の単独範囲に含まれる場合、中間推定値S1_3が最終推定値S2となる(S224)。図7には図示しないが、平均推定値S3_2が、第2推定器302_2の単独担当に含まれる場合、中間推定値S1_2を、最終推定値S2としてもよい(図6のS218)。
【0099】
基準推定器302_2の基準推定値S1_2が、隣接する推定器とのオーバーラップ範囲に含まれるとき、基準推定値S1_2の精度がそれほど高くない場合がある。この場合には、基準推定値S1_2が、オーバーラップ範囲に含まれていたとしても、残量の真の値が、必ずしもオーバーラップ範囲に含まれているとは限らない。そこで、第4の実施例のように、平均推定値がオーバーラップ範囲から逸脱する場合には、平均推定値が含まれる単独範囲に対応する推定器302が生成した中間推定値を使用することにより、さらに精度を高めることができる。
【0100】
(第5の実施例)
図8は、第5の実施例に係る残量推定装置300bの構成を示すブロック図である。残量推定装置300bにおいて、平均部304_jは、中間推定値S1_jとS1_(j+1)の単純平均値S4_jを計算する単純平均部306と、中間推定値S1_jとS1_(j+1)の加重平均である平均推定値S3_jを計算する加重平均部308を含む。
【0101】
出力制御部310bは、基準推定器302_2により生成された中間推定値S1_2および(N−1)個の単純平均部306_1〜306_(N−1)により生成された(N−1)個の単純平均値S4_1〜S4_(N−1)にもとづいて、N個の推定器302_1〜302_Nにより生成されたN個の中間推定値S1_1〜S1_Nおよび(N−1)個の加重平均部308_1〜308_(N−1)により生成された(N−1)個の平均推定値S3_1〜S3_(N−1)のうちひとつを選択し、選択された推定値に応じた最終推定値を出力する。
【0102】
出力制御部310bは、セレクタ312およびコントローラ314を含む。セレクタ312には、N個の中間推定値S1_1〜S1_Nおよび(N−1)個の平均推定値S3_1〜S3_(N−1)が入力され、コントローラ314により指示されたひとつを選択する。コントローラ314には、基準推定値S1_2および(N−1)個の単純平均値S4_1〜S4_(N−1)が入力され、それらの値にもとづいて、セレクタ312を制御する。
【0103】
具体的には出力制御部310bのコントローラ314は、(i)基準推定器302_2が生成した基準推定値S1_2が、j番目(1≦j≦N)の推定器302_jの単独範囲に含まれるとき、j番目の推定器302_jが生成した中間推定値S1_jを、最終推定値S2として出力する。
【0104】
また出力制御部310bは、(ii)基準推定値S1_2が、j番目(1≦j<N)と(j+1)番目の推定器302_j、302_(j+1)のオーバーラップ範囲に含まれ、かつj番目の単純平均部306_jにより生成された単純平均値S4_jがそのオーバーラップ範囲に含まれるとき、j番目の加重平均部308_jにより生成された平均推定値S3_jを、最終推定値として出力する。
【0105】
また出力制御部310bは、(iii)基準推定値S1_2が、j番目(1≦j<N)と(j+1)番目の推定器302_j、302_(j+1)のオーバーラップ範囲に含まれ、かつj番目の単純平均部306_jにより生成された単純平均値S4_jがk番目の推定器302_kの単独範囲に含まれるとき、k番目の推定器302_kにより生成された中間推定値S1_kを、最終推定値S2として出力する。
【0106】
この実施例によれば、最終推定値の候補としては、加重平均値を利用し、最終推定値の選択情報として単純加算を利用することにより、高精度な残量推定が可能となる。
【0107】
図9は、第5の実施例の残量推定のアルゴリズムの一部を示すフローチャートである。
処理S208bにおいて、単純平均部306_1により単純平均値S4_1が計算される。そして、単純平均値S4_1が、第1推定器302_1と第2推定器302_2のオーバーラップ範囲に含まれる場合(S300bのY)、加重平均部308_1により加重平均を用いて平均推定値S3_1が計算され(S209)、S2=S3_1とされる(S210)。
単純平均値S4_1が、第1推定器302_1と第2推定器302_2のオーバーラップ範囲に含まれない場合(S300bのN)、言い換えれば、単純平均値S4_1が、第1推定器302_1の単独範囲に含まれる場合、中間推定値S1_1が最終推定値S2となる(S222)。図9には図示しないが、単純平均値S4_1が、第2推定器302_2の単独範囲に含まれる場合、中間推定値S1_2を最終推定値S2としてもよい(図6のS218)。
【0108】
同様に、ステップS214bにおいて、単純平均部306_2により単純平均値S4_2が計算される。そして単純平均値S4_2が、第2推定器302_2と第3推定器302_3のオーバーラップ範囲に含まれる場合(S302bのY)、加重平均部308_2により加重平均を用いて平均推定値S3_2が計算され(S215)、S2=S3_2とされる(S216)。
【0109】
単純平均値S4_2が、第2推定器302_2と第3推定器302_3のオーバーラップ範囲に含まれない場合(S302bのN)、言い換えれば、単純平均値S4_2が、第3推定器302_3の単独範囲に含まれる場合、中間推定値S1_3が最終推定値S2となる(S224)。図9には図示しないが、単純平均値S4_2が、第2推定器302_2の単独担当に含まれる場合、中間推定値S1_2を、最終推定値S2としてもよい(図6のS218)。
【0110】
基準推定器302_2の基準推定値S1_2が、隣接する推定器とのオーバーラップ範囲に含まれるとき、基準推定値S1_2の精度がそれほど高くない場合がある。この場合には、基準推定値S1_2が、オーバーラップ範囲に含まれていたとしても、残量の真の値が、必ずしもオーバーラップ範囲に含まれているとは限らない。そこで、第4の実施例のように、平均推定値がオーバーラップ範囲から逸脱する場合には、平均推定値が含まれる単独範囲に対応する推定器302が生成した中間推定値を使用することにより、さらに精度を高めることができる。
【0111】
(第6の実施例)
図10は、第6の実施例に係る残量推定装置300cの構成を示すブロック図である。残量推定装置300cは、図8の残量推定装置300bに加えてゲート回路320をさらに備える。
【0112】
ゲート回路320は、N個の推定器302_1〜302_Nの前段に設けられ、入力データDV,DI,DTを受け、N個の推定器302_1〜302_Nに選択的に出力する。ゲート回路320による出力先の選択は、出力制御部310cのコントローラ314cにより制御される。
【0113】
続いて残量推定装置300cの動作を説明する。図11(a)、(b)は、第6の実施例の残量推定のアルゴリズムの一部を示すフローチャートである。
はじめに入力データDV,DI,DTおよびdeltaDVが取得される(S400)。初期状態においてコントローラ314cは、ゲート回路320の出力先を基準推定器302_2とする。この状態において、基準推定器302_2が、中間推定値S1_2を生成する(S402)。この時点では、推定器302_1、302_3による演算は行われない。
【0114】
そして基準推定値S1_2が第2推定器302_2の単独範囲に含まれるとき(S404のY)、基準推定値S1_2が最終推定値S2とされる(S405)。
【0115】
基準推定値S1_2が第1推定器302_1と第2推定器302_2のオーバーラップ範囲に含まれるとき(S404のN、S406のY)、コントローラ314cは、ゲート回路320の出力先を第1推定器302_1に切りかえ、推定器302_1により推定値S1_1を計算させる(S408)。続いて単純平均部306_1によって単純平均値S4_1を計算させる(S410)。
【0116】
そしてコントローラ314cは、単純平均値S4_1が第1推定器302_1と第2推定器302_2のオーバーラップ範囲に含まれるとき(S412のY)、加重平均部308_1により加重平均値S3_1を計算させ(S414)、その値を最終推定値S2とする(S416)。
【0117】
単純平均値S4_1が第1推定器302_1の単独範囲に含まれるとき(S412のN1)、中間推定値S1_1が、最終推定値S2とされる(S422)。また単純平均値S4_1が第2推定器302_2の単独範囲に含まれるとき(S412のN2)、中間推定値S1_2が、最終推定値S2とされる(S405)。
【0118】
また基準推定値S1_2が第1推定器302_1の単独範囲に含まれるとき(S404のN、S406のN、S418のY)、コントローラ314cは、ゲート回路320の出力先を第1推定器302_1に切りかえる。そして、推定器302_1により推定値S1_1を計算させ(S420)、その値を最終推定値S2とする(S422)。
【0119】
また基準推定値S1_2が第2推定器302_2と第3推定器302_3のオーバーラップ範囲に含まれるとき(S404のN、S406のN、S418のN、S424のY)、コントローラ314cは、ゲート回路320の出力先を第3推定器302_3に切りかえ、推定器302_3により推定値S1_3を計算させる(S426)。続いて単純平均部306_2によって単純平均値S4_2を計算させる(S428)。
【0120】
そして単純平均値S4_2が第2推定器302_2と第3推定器302_3のオーバーラップ範囲に含まれるとき(S430のY)、加重平均部308_2により加重平均値S3_2を計算させ(S432)、その値を最終推定値S2とする(S434)。
【0121】
単純平均値S4_2が第3推定器302_3の単独範囲に含まれるとき(S430のN1)、中間推定値S1_3が、最終推定値S2とされる(S438)。また単純平均値S4_2が第2推定器302_2の単独範囲に含まれるとき(S430のN2)、中間推定値S1_2が、最終推定値S2とされる(図11(a)のS405)。
【0122】
また基準推定値S1_2が第3推定器302_3の単独範囲に含まれるとき(S404のN、S406のN、S418のN、S424のN)、コントローラ314cは、ゲート回路320の出力先を第3推定器302_3に切りかえる。そして、推定器303_1により推定値S1_3を計算させ(S436)、その値を最終推定値S2とする(S438)。
【0123】
このように、推定器302_1〜302_Nの前段にゲート回路320を設け、コントローラ314cによって、入力データの出力先を切りかえ、また推定器302、単純平均部306、加重平均部308による演算シーケンスを制御することにより、無駄な演算を省略でき、消費電力の低減および/または演算時間の短縮を図ることができる。
【0124】
(第7の実施例)
図12は、第7の実施例に係る残量推定装置300dの構成を示すブロック図である。
残量推定装置300dは、補助推定器330を備える。補助推定器330は、二次電池の残量の全範囲にわたる残量を推定可能に構成される。ただし補助推定器330の精度は、N個の推定器302_1〜302_Nよりも劣る。
【0125】
出力制御部310dは、補助推定器330により生成された補助推定値S5にもとづいて、N個の推定器302_1〜302_Nにより生成されたN個の中間推定値S1_1〜S1_Nのうちひとつを選択する。たとえば出力制御部310dは、中間推定値S1_1〜S1_Nを受けるセレクタ312dと、補助推定値S5にもとづいてセレクタ312dを制御するコントローラ314dを含む。
【0126】
この実施例によれば、推定器302の個数Nが多い場合にあっても、補助推定器330の出力にもとづいて、素早く最適な推定器330を選択できる。
【0127】
以上、本発明について、実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセス、それらの組み合わせには、さまざまな変形例が存在しうる。以下、こうした変形例について説明する。
【0128】
(第1の変形例)
第1〜第6の実施例では、基準推定器が固定されていたが、本発明はそれには限定されない。基準推定器302_Rは、N個の推定器302_1〜302_Nの中から動的に選択されてもよい。
たとえば、前回の最終推定値S2が、j番目の担当範囲に含まれるとき、次回の基準推定器302_Rを、j番目の推定器302_jとしてもよい。Nが4以上の場合、2番目〜N−1番目の推定器302_2〜302_N−1を、基準推定器302_Rとして選択的に利用してもよい。
【0129】
(第2の変形例)
第1〜第7の実施例では、入力データは、電池電圧VBAT、電池の電流IBAT、温度Tおよび、異なる時刻における電池電圧の差分(=VBATk-VBATk-1)を含む場合を説明したが本発明はそれには限定されない。入力データは、これらに加えてさらに別のパラメータを含んでもよいし、および/または、電池電圧VBAT、電池の電流IBAT、温度T、異なる時刻における電池電圧の差分(=VBATk-VBATk-1)の中からいくつかを省略したものであってもよい。
【0130】
(第3の変形例)
第1〜第7の実施例では、推定器302を、ニューラルネットワークを用いて構成する場合を説明したが本発明はそれには限定されない。たとえば推定器302は、演算処理、テーブル参照、それらの組み合わせの信号処理を実行可能に構成してもよい。
【0131】
(第4の変形例)
残量推定装置300は、専用設計されたハードウェアで構成してもよいし、汎用的な演算処理装置と専用設計された残量推定用のプログラムの組み合わせで構成してもよい。
【0132】
最後に、電源システム100の用途を説明する。
図13は、電源システム100を備える電子機器500の斜視図である。電子機器500は、スマートホンであり、二次電池パック200を含む電源システム100に加えて、液晶ディスプレイ502、ベースバンドプロセッサ504、アプリケーションプロセッサ(不図示)、無線(RF)部508、オーディオプロセッサ(不図示)等を含む。電子機器500の筐体の側面には、USB(Universal Serial Bus)端子などのDC電力入力端子102が設けられる。電源システム100のパワーマネージメント回路は、液晶ディスプレイ502、ベースバンドプロセッサ504等に電源電圧を供給する。また電源システム100の充電回路104は、DC電力入力端子102からの外部電圧VEXTを利用して二次電池パック200を充電する。
【0133】
電子機器500は、タブレットPC、ノート型パーソナルコンピュータ、デジタルカメラなどであってもよい。
【0134】
実施の形態にもとづき、具体的な用語を用いて本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。
【符号の説明】
【0135】
100…電源システム、102…DC電力入力端子、104…充電回路、106…検出抵抗、108…抵抗、110…バッテリマネージメント回路、120…パワーマネージメント回路、200…二次電池パック、202…2次電池セル、204…保護回路、206…サーミスタ、208…正極端子、210…負極端子、212…温度検知端子、300…残量推定装置、302…推定器、304…平均部、306…単純平均部、308…加重平均部、310…出力制御部、312…セレクタ、314…コントローラ、320…ゲート回路、330…補助推定器、S1…中間推定値、S2…最終推定値、S3…平均推定値、S4…単純平均値、S5…補助推定値。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11(a)】
図11(b)】
図12
図13